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真恋姫無双幻夢伝 第八章3話『夷陵の戦い 第一幕』

アキラと一刀の最終決戦。第一回戦です。

2015-03-21 19:38:27 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1682   閲覧ユーザー数:1574

   真恋姫無双 幻夢伝 第八章 3話 『夷陵の戦い 第一幕』

 

 

 夷陵。現在の宜昌市に当たる地域である。西の山岳部とは変わって、長江に沿って大きな平野が広がっている。中国四大美人の王昭君や楚の詩人、屈原の出身地であり、その歴史は古い。荊州と蜀を結ぶ要衝であり、秦代は南郡と呼ばれ、赤壁の戦いの後に曹仁が守ったことでも知られている。

 冬の冷えた青空が広がるこの大地に、鎧姿の兵士たちが整然と並んでいた。農民たちは逃げてしまった。これほどの大軍同士が戦う中で、どこに逃げればいいのか、分からずに悲鳴を上げている。

 魏軍の左側、蜀軍にとっては右側に長江が流れている。上流側に蜀軍が位置する形で、睨み合う。そして魏軍の右側の小高い丘の上に、汝南軍が陣取っている。

 蜀軍は紫苑の水軍を抜いて14万人。魏軍は江陵城への対策と襄陽城の守りに5万人の人員を割いて15万人。汝南軍を入れると18万人となる。兵力こそ劣るが、愛紗の奪還に意気込む蜀軍の士気は高い。

 雑踏が鳴りやまない中で、魏軍側から騎兵が2人、蜀からも3人が、馬に乗って出てくる。彼らは、両軍の前で、離れた場所で対峙した。華琳は相手の顔を見てにやりと笑う。

 

「劉備玄徳!久しぶりね!」

 

 遠くから聞こえてきた声に、桃香は視線を送る。その彼女に向かって、華琳は語りかけた。

 

「とうとうここまで来たわね、劉備!あなたの恵まれた運と人望は認めてあげる。でも、ここまでよ。我が軍門に下りなさい!」

「曹操さん!」

 

 桃香の目に迷いはない。

 

「私たちは勝ちます!みんなが笑って暮らせる世界をつくるために!」

「やってみなさい!私がその夢を打ち砕いてあげるわ!」

 

 アキラと、一刀と朱里も、口上を言い合う。

 

「李靖さん!あなたは漢に反抗しつづけ、皇帝陛下を苦しめ、我利我欲のために国を乱してきました。私たちはあなたをゆ…」

「諸葛孔明!」

 

 アキラは、はっきりと言った。

 

「歴史は勝者が作る!くだらない講釈は後にしろ!」

 

 朱里は口をつぐんだ。その代わりに、一刀が言い放った。

 

「李靖!愛紗を返してもらう!お前もここでおしまいだ!」

 

 激昂する一刀。しかしアキラは、微笑みさえ浮かべていた。

 

「北郷一刀、いよいよ最後の戦いだ。お前と、お前の後ろにいるやつら、全てを倒させてもらう」

「後ろにいるやつら、だと……?」

 

 彼は空に向かって、高らかと宣言する。

 

「聞こえるか?!どうせ見ているのだろう、貂蝉!お前が書いたこの悲劇、俺が幕を下ろしてみせよう!特等席に座って、この結末を味わうといい!」

 

 話は終わった。両者は自軍へ帰っていく。これから数十万の人間が、この大地で、殺し合うのだ。

 

 

 

 

 

 

 蜀軍の先鋒は星。第二陣の右側に鈴々、左側に焔耶といった重厚な陣を敷いている。

 だが、春蘭は躊躇しない。彼女は大きく槍を振るうと、彼女は兵士達と駆け始めた。『魏』と『夏』の旗印が動く。

 

「怯むな!蜀の山猿どもに、魏の武を思い知らせてやれ!」

 

 矢の雨が降る。それをくぐり抜けた春蘭の槍が、蜀の兵士を貫いた。

 汝南軍も攻撃を開始した。先鋒は華雄。蜀軍の左翼に兵を進める。

 丘から駆け下ってくる汝南軍に対して、桔梗は平然と床几に座って、その姿を眺めている。隣で立っていた焔耶は、体がうずうずして仕方がなかった。

 

「なあ、桔梗様。もう攻撃しても良いだろ?」

「ばか者、よく見よ。やつらは丘から下ってきておる。あんなのに突っ込んだら逆落としを食らうぞ。下り終わってから、迎撃するのじゃ」

 

 どんどん足音と敵の雄叫びが近づいてくる。桔梗はポンと膝を叩いて立ち上がった。

 

「そろそろ頃合いじゃろう。ほれ、暴れてこい」

「よっしゃ!行くぞ!」

 

 焔耶がはしゃぐように駆け出していく。桔梗も楽しそうに満面の笑みをこぼしていた。彼女は豪天砲を構えた。

 

「さあ!祭りじゃ!」

 

 豪天砲が火を噴き、蜀軍が汝南軍と衝突した。

 最初に攻め込んだのは魏軍と汝南軍の方だったが、蜀軍も強固に反撃してくる。正面と左翼の二方面から圧力を受けてはいるが、蜀の猛将たちは全く動じてはいなかった。

 硬直状態が続いて半刻(一時間)が過ぎる。魏軍は第二陣の秋蘭、汝南軍は霞と凪を投入した。

 ところが、朱里と雛里はそれを穴とみた。彼女たちの指示が飛ぶ。

 

「星!」

「鈴々か!」

 

 最前線で槍を振るっていた星の元に、鈴々が馬でやってくる。鈴々は朱里たちからの指示を伝えた。

 

「夏候惇は鈴々に任せるのだ。星はその隙に魏軍の右から攻め込むのだ」

「承知した!」

 

 星の軍勢が一気に転回する。春蘭は当然その動きを察知した。

 

「待て!」

「夏候惇!」

 

 駆け出そうとした春蘭の前に、鈴々が立ちふさがる。

 

「ここから先は行かせないのだ!この張益徳が相手なのだ!」

「邪魔するな!」

 

 2人の馬が駆け出し、互いの槍が火花を散らした。

 その頃、鈴々が移動したことで蜀軍に大きな空隙が生じた。秋蘭は星を抑えるよりも、そこから攻め入ることが重要と考え、自分の部隊を率いて進軍した。

 ところが、彼女たちは今まで“見たことがない”ものと遭遇することになる。

 

「なんだ…これは?!」

 

 秋蘭が目を点にする。灰色の巨大な動物が、群れを成してこちらに襲いかかってきた。その動物が太い足で地面を踏み鳴らすたびに、魏軍の馬が騒ぐ。

 その動物の背中の上には、奇妙な格好をした少女たちが陽気に騒いでいる。

 

「行くのにゃー!」

「「「にゃー!」」」

 

 魏軍の兵士たちは恐怖におののいて、逃げ出してしまっていた。少女たちが笑うたびに、魏の兵士が悲鳴を上げる。何とも奇妙な光景だ。

 これが、魏軍が南蛮王と象に初めて会った時であった。

 

「おい!こんなに突っ走るなよ!ちゃんと後ろを見ろ!」

 

 白蓮が馬を走らせながら、象の上にいる美以を見上げて忠告する。だが、調子に乗った美以は言うことを聞かない。

 

「でも、いっぱい敵をたおしたら、いっぱいおかしをくれるって、にいが言っていたのにゃ?」

「それは、そうだけどよ」

「だったら、もっとたおすのにゃ!」

「「「にゃー!」」」

「お、おい!…くそう、なんだって私はこいつらの子守り役なんだよ!?」

 

 白蓮の叫びもむなしく、美以の快進撃は続いていく。

 右翼に星、左翼に美以と、魏軍の両翼から崩れてきていた。華琳の命を受けた風は、その乱れを立て直そうと、第二陣まで出張ってきていた。馬車の上から次々と指示を出していく。

 

「落ち着いて対処するのですよー!疲れてきたら、後ろに下がって…」

「風」

 

 呼びかけられた声に振り向く。星が、彼女の目の前にいた。

 

「久しぶりだな。はてさて、いつぶりだろうか?」

「……お久しぶりですね、星さん」

 

 ここまで入り込まれたことに、うっかり気が付かなかった。彼女では星を相手に勝ち目はなく、この距離では逃げ切れない。

 風の背中に冷や汗が伝う。頭の上の宝譿をかぶり直した。

 

「風、降伏しろ」

 

 彼女の焦りを見透かすように、星が話しかけてくる。

 

「主と桃香様の下で一緒に働こう。ともにお2人の天下を作ろうじゃないか!」

「………」

「頼む。お主を斬りたくない」

 

 彼女の願いが通じたのか、風はにっこりと笑った。星は安心してほっと息をつく。

 

「さあ、ともに…」

 

 その時、星と風の間に火炎瓶が投げ込まれた。目の前が火の海となり、星の馬が驚いて暴れ出す。

 

「風、これは!」

「星さん、油断しましたね」

 

 先ほど宝譿を直していたのは、この合図であった。去り際、星に言い残す。

 

「星さん、あなたが北郷さんたちの夢を叶えたいように、風も華琳さまとアキラさんの天下を見てみたいのですよー」

「風!」

「それではーおたっしゃでー」

 

 風の馬車が走って逃げて行き、星は火の壁に遮られて追うことが出来なかった。

 それでも風が逃げ出した意味は大きかった。指示を出していた彼女がいなくなったことで、いよいよ魏軍右翼の混乱が大きくなる。焔耶と桔梗の軍は汝南軍が抑えているが、星の軍勢が深々と魏軍を切り裂いてしまっていた。

 アキラと詠が、丘の上からその様子を眺めている。

 

「まずいわね。このままだと、華琳の本陣まで達してしまうわ……って、アキラ、どこに行くのよ?!」

 

 詠が振り向いた時には、アキラはすでに馬上の人になっていた。彼は詠に指示を出す。

 

「ここの指揮は任せた。俺がくい止めに行く」

「ちょっと!待って!」

 

 アキラは、詠の制止を聞かずに、剣を振りかざして本陣の兵に命じた。

 

「俺に続け!趙雲の首をとる!」

 

 アキラを先頭に、汝南軍が星の部隊に横やりを入れた。星の部隊はすでに疲労が蓄積されていたこともあり、たまらずにその勢いを止めて、次の瞬間には敗走を始めた。

 その一方で、魏軍の左翼でも異変が起きていた。

秋蘭が美以を敵の大将だと見破り、弓で狙いを定めた。そして放たれた彼女の矢は、美以の左肩を突き刺す。

 

「に゛ゃあああ!!」

「「「だいおーさま!!」」」

 

 象の上でうずくまった美以を心配して、象部隊全体が動きを止める。

 美以の両目からボロボロ涙がこぼれでた。左肩から腕にかけて、真っ赤に染まっていく。

 

「い、いたい、いたいのにゃ…」

「「「だいおーさま!!」」」

 

 目の前の敵よりも、美以の命が大事だ。美以を失えば、せっかく平定した南蛮の安定も危うくなる。そう判断した白蓮は、彼女に代わって命令を下した。

 

「いったん退くぞ!退け!」

 

 去っていった象の後ろ姿を見て、秋蘭はふうと息をついた。

 

 

 

 

 

 

 星と美以が敗走して、魏と汝南軍に勢いが傾くと思われた。

 ところが、ここまで孤立無援で戦ってきた春蘭の部隊が、とうとう崩れる。続いて、桔梗たちの猛攻を防いできた華雄と凪の部隊も、兵力差が仇となって疲労困憊になり、退いた。その穴を霞が必死に塞いでいる。

 象に踏み荒らされた秋蘭の部隊は立て直しが難しく、星にかき乱された魏軍中央の陣容はめちゃくちゃだ。華琳は渋い顔をして決断した。

 

「今日は引き上げるわ。撤退の準備をしなさい」

 

 蜀軍も攻め込む気力がなく、両軍は自陣へと退却していった。

 戦闘時間は二刻(四時間)。両軍合わせた死傷者は1万人を超える。

 こうして夷陵の戦いの一日目は、幕を閉じた。

 

 

 

 

 


 
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