No.765803

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第036話

最近忙しかったので投稿出来ませんでした。
久々に恋姫ストーリーを書きまして、恋歌さんには徹底的に悪役を演じていただきました。
話は短めですがよろしくです。

まじかるー

2015-03-20 19:06:36 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1357   閲覧ユーザー数:1287

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第036話「非情」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

荊州の山中にて響き渡る断末魔。

またや獣なのかも判らない絶叫。

その山中を覗いてみると、そこはとある川の前であり、その近くにて石で作られた釜戸の様なものがあり、またその釜戸の中では轟轟と火が焚かれており、1m程の鉄の棒が釜戸にて熱せられている。

よく見ると鉄の棒の先にはグルグルと隙間なく紐が巻きつけられており、長さはちょうど剣の手持ちの部分ぐらい。

そしてその釜戸の前にて一刀と椿がその鉄の棒を熱していた。

そんな川と釜戸と川の石の砂利しかない場所で、関雲長は腕を抑えてのたうちまわり悶えている。

「おら、立ちな。まだ訓練は終わっちゃいないよ」

腕を抑える関羽の前に、熱せられた鉄の棒を持った人物は、普段の温和な女性のイメージとかけ離れた恋歌の姿。

握られた鉄棒を関羽の足下に投げつけて催促を促す。

「し、師よ、お待ち下さい。これ以上は腕が動きませぬ。一度休ませて下さい」

「………次」

恋歌がそう言うと、一刀は恋歌に鉄棒を投げ渡し、熱された鉄棒を受け取ると恋歌は問答無用で関羽に振り下ろした。

関羽は「ひっ」っと情けない声を出しながらも、何とか恋歌の攻撃を避けた。

鉄棒が振り下ろされた先は川の中であったので、鉄棒の熱された部分が水で冷やされる様にジューっと音を点てる。

今彼女らが行っているのは、従来の稽古である打ち合い。

獲物の代わりに木剣を握り互いにそれぞれで打ち合う、基本は全く同じ。

ただ使われる獲物は木剣ではなく熱された鉄棒。

別に熱せられた鉄棒が体に当たっても、決して死ぬことはない。そう、”死ぬことはない”。

しかし勿論当たれば火傷をおう。それが証拠に関羽の体の至る所には、その熱を持った鉄棒に当たった痛々しい火傷あとが残っている。

「なんだ、まだ動くではないか。早く立って獲物を握れ。10秒待ってやる」

関羽は恐怖に震え涙目になりながらも、急ぎ先程訓練の際に自らが落とした獲物を取りに身を乗り出したが――

「ぎゃぁぁっ!!」

だが彼女の手元に鉄棒が握られることは無かった。

伸ばした右腕に恋歌によって投げられた鉄棒が当たり、彼女の腕の皮膚を焦がす。

「………次」

次は椿が恋歌に鉄棒を投げ渡し彼女は受け取るが、関羽は痛みで涙を流し声が震えながらも恋歌突っかかる。

「ど、どういうごどでずが、まだ時間(じがん)はだっでいない!!」

「ん~?”あたしの中では”十秒たっていたからな」

「う……うぞだ。だっでいない」

「そうか。どうやら数え間違いらしいな。でもお前もさっき『動けない』と言いながらも、普通にあたしの攻撃を避けたじゃないか。まぁ、所詮”箱女”だ。遠慮はいらないか」

一人称が『私』から『あたし』に変わり、鬼も涙を流す程以上のことを恋歌は関羽に押しつけ、その冷徹な顔を見るたびに、関羽は涙を流し、嗚咽を漏らしながらも恋歌の一方的な攻撃を防いでは、時に失敗して火傷を貰い。また森には絶叫が響く。

そんなことを繰り返している度に、遂に関羽は地面に倒れ動かなくなってしまう。

「……ふぅ、こんなものか。訓練を始めて数日経つが、才能があると思ったのは、あたしの見込み違いか?」

恋歌は鉄棒を放り出し、カランと音が鳴るのを聞くと、関羽に背中を見せながら肩を回す。

だが次の瞬間、気絶したと思われた関羽は死者が蘇る様に飛び起き、恋歌の背中目掛けて鉄棒を投げつけた。

恋歌も鉄棒の回転の音に気づき咄嗟に振り返るが、振り向いた時には何かが当たる鈍い音が聞こる。

命中確実と思われた関羽の攻撃だったが、次の光景にて関羽は自身の目を疑った。

熱された鉄棒の先を恋歌は素手で掴み、彼女は鉄棒によりその手を焼いているにも関わらず、彼女の最大の握力により鉄棒はグニャリと握り潰された。

「………ふふふ、いいわいいわ。先程の見込み違い発言は取り消しましょう。……あたしを騙し討ちする度胸。やっぱり貴女は才能があるわ」

先程まで一刀や椿から鉄棒を受け取っていた恋歌であるが、関羽の行動に笑みを浮かべながら自ら釜戸より鉄棒を抜き取る。

「ふふふ、楽しい。楽しいわ箱女(しょうめ)。貴女にはもっと”訓練”を付ける必要があるわね」

彼女のその黒き笑みに関羽は「ひっ」っと声を引き攣る。

関羽自身も何故先程の行動に出たのか判らなかった。しかし今ここで言えることは、『箱女』、『見込み違い』様々な恋歌による罵倒の数々が彼女の頭の中に浮かび上がった。

そこから出た感情はただ一つ。【悔しい】。ただその思いが浮かび上がり、肉体・精神的に追い込まれた彼女の体を動かした。

その彼女が目の前の化物に対して一言言い放った。

「……私にも武器を」

そこにいた関羽の顔は、恐怖に引きつった少女の顔ではなかった。

目の下は今まで流した涙で赤くなっており、未だに膝は笑っていたが、視線だけはしっかりと恋歌の瞳を捉えている。

その一言で恋歌はニヤリと笑い釜戸より鉄棒をもう一本引き抜いて関羽に投げ渡した。

彼女はその鉄棒を受け取ったが、彼女の視界を鉄棒が通り過ぎる時を見計らい恋歌は一気に間合いを詰めて強烈な脇腹への攻撃を打ち放つ。

投げ渡された鉄棒を受け取ってからでは、恋歌の攻撃は防ぐことは出来ない。

関羽は地面に転がる何時間前かも判らない、打ち捨てられた普通の鉄棒を蹴り上げて、それを手に持ち恋歌の攻撃を防いだのだ。

その行動に恋歌は「ほう」っと大感のため息を漏らす。

今までの打ち合いの際、関羽は恋歌の騙し討ち攻撃などは一度も防ぐことは出来ていない。

しかしそれでも恋歌は嫌な笑みを浮かべると、左手に持つ鉄棒を離し、勢いそのままに左足を軸にした右回し蹴りを関羽に当てた。

蹴りの勢いは今の騙し討ちの比ではない速さを持ち、恋歌の足裏が垂直に関羽の胸にめり込み、今度こそ関羽は気を失った。

 

 

「え!?恋歌様に弟子入りした!!?」

関羽の部屋に呼び出された馬超は驚きを隠さずにいたが、その驚きを表す人物はもう一人いた。

「だ、ダメだよ愛紗。殺されちゃうよ」

馬超と同じように部屋に呼び出された馬岱である。

普段のイタズラ好きの彼女の顔は珍しく真面目になり、必死に関羽を止めていた。

「どうした二人共。確かに影村夫人は只者ではなさそうだが、何故そんなに。それに、どことなく怯えているようだぞ?」

二人は何かを思い出したように顔が青くなり、自分の体を抱きしめるように震えだす。

「あ、あの方の行うのは訓練なんかじゃない。ただの暴行・暴力……恐怖だ」

 

一年と少し前、まだ重昌が馬騰の跡を継ぎ西涼平定に追われている時、西涼の精鋭達が謙信(虎)達・重昌の重臣がどんな訓練を行っているのか聞いてみたところ、恋歌に訓練をつけてもらっているという。

より高みを目指す西涼精鋭は”本気”の恋歌の訓練を所望したが、その殆どが致命傷こそ負わなかったものの、いくつもの傷を体に負うハメになった。

気絶しようとも捻挫しようとも、彼女が課す常識を逸脱した訓練は、その全てを完遂するまで終わりは無く、以降恋歌に訓練を所望するものはいなくなった。

「殺されそうになった母さんを救ってくれたのは義叔父(おじ)だ。あたしは義叔父程人を率いる際も無けりゃ頭も良く無い。厳しいところもあるが、義叔父の人柄もあたしの中では納得はいっているんだ。しかし今まで西涼の奴を引っ張ってきた尊厳もある。あたしらは絶対にくらいついていってやろうとしたさ」

しかしとある事件が起き、その訓練は終わりを告げることとなる。

西涼の一部族が反乱を起こし、恋歌はその反乱軍の鎮圧に馬超と馬岱を連れて向かった。

日頃の訓練の成果を出せる機会と思い、二人は暴れまわり恋歌の出番無く反乱は鎮圧された。

土地の住民は反乱に加担した罪で捉えられたが、一部の民は「反乱に加担したつもりは無く、我らは無実」と主張し、馬超と馬岱はそれらの民だけでも助けられないかと恋歌に懇願したが、恋歌は民の前に立つとその一人の首を斬り飛ばした。

あまりの速さに何が起こったか判らない状況。

静寂な周りが少し続いた後、恋歌は民に背を向けて兵士に言った。

「続けろ」

それを聞くと恋歌が連れてきた兵士達は女・子供関係なく残った民を切り伏せていく。

あまりの光景に馬超はわけもわからなくなり立ち尽くすだけであったが、それよりもはやく馬岱が動き兵士達を殴り飛ばしにかかった。

勿論同じ西涼の兵であるから気絶程度に加減してある。

一武将と一兵士の力量の差は明らかであり、馬岱は次々と兵を殴り飛ばすのだが、その行動に恋歌が待ったをかけるように馬岱の首を後ろより握り掴む。

小柄の馬岱は宙に浮かばされる状態に陥り、さらに骨が軋みかねない力で握られているために、彼女は自らの武器である槍を落として両手で恋歌の拘束を解こうとするが、馬岱は大きく投げられ民家の壁めり込む。

そして恋歌は一つ仕事が終わったかのように、少し大きな岩に腰を下ろした。

「蒲公英!!」

馬超は慌てて馬岱の真名を呼びながら彼女の下に駆け寄る。

強く頭と背中を打ったせいか、背中は擦り切れ、後頭部からは血が出ている。

息と脈の確認を取ると、彼女の生存になんの支障はないことが分かり一抹の安心を得るが、馬超は馬岱の体を支えあげて叫んだ。

「何故だ!!何故こんなことをする!?この者たちが一体何をした!!」

足を組み、民の虐殺される光景を眺める恋歌に、馬超は吠えた。

今にも馬超の視線は明らかな恋歌に対する殺意へと変わっている。

一つ間違えば馬超は本気で恋歌を殺しにかかりかねないが、そんな馬超の理性を止めているのは、武人としての本能であった。

【行けば必ず殺される。それが分かって殺されに行く馬鹿はいない】そう思えば思うほど、自分の無力さにも殺意を覚えた。

恋歌は馬超の殺意の篭った視線をチラリと見ると、一つ溜息を吐き話しだした。

「翠。目の前には何が見える?」

その問いに改めて馬超は視線を虐殺される民へ向けた。

逃げ惑う力なき女・子供。

逃げる力も無く、ただただ兵士の槍に突かれる老人。

「………地獄だ」

「そう地獄」

馬超が恋歌に目を逸らしていた間に、いつの間にやら彼女は馬超の隣に来ていた。

恋歌は馬超の髪を鷲掴み、彼女達にしか聞こえない声で話し出す。

「大陸にはこのような光景が何十、何百とある。この光景を止めるのに手っ取り早い方法を教えてやろう」

一息の間の後、恋歌はさらに小さな声で馬超に呟いた。

「恐怖だ」

その一言で馬超は反論しようとするが、恋歌の自身の髪を掴む力がさらに強まり、馬超の反論は許されなかった。

「恐怖によって人は慄き、怯み、やがては逆らうことの愚かさを知る。逆らう者に情けは無用。徹底にやってこそ人は我らを恐れるのだ」

言い終えると恋歌は馬超の頭をぞんざいに投げ捨てるように離す。

「そ、その様な考えで……民の安寧はあるのか?」

「……その心を和らげるのは、上の統治者の責任だ。私達兵士は、ただ主君に仇名す敵を屠るだけ。情けは無用。………私達に出来ることは――」

「いやあぁぁぁっ!!やめてぇぇぇっ!!」

聞こえてきた女性の叫び声の先には、一人の兵士が村娘を強姦しようとしていた。

その叫びに応えるべく馬超は起き上がろうとするが、その馬超の行動を恋歌は手をかざして静止したと思うと、彼女はおもむろに刺さった槍を抜き取るとその兵士に向けて投擲し、槍は兵士諸共村娘の胸を貫かれた。

「私達に出来ることは、殺す時まで、せめて尊厳を少なからず減らしてやることと、自ら殺した者の顔を覚えてやることだ」

やがて村の撫で斬りが終わると、兵士達は帰還の歩に付き始め、恋歌も彼女達に背を向けて歩き出すが、馬超が見た鬼の背中は、どこか小さく見えたのは気のせいであったのだろうか。

それからというもの、馬超と馬岱は重昌に退役願いを申し出た。

西涼を収めるにあたり、葵の親類である彼女達が抜けることはこれからの大変な痛手になる。

それをわかってかわからないでか、重昌は黙って退役願いを受理し、馬超と馬岱は旅に出たのだ。

 

「それからというもの、あたしと蒲公英は各地を旅したのさ」

「義叔母さんの言うことは正しいよ。でも本当にそれしかないのかなって。もっと他にやり方があるんじゃないかなって。そして私達は桃香様と出会ったの。桃香様なら、もっと新しい時代を作れるんじゃないかなって」

 

夜。関羽は恋歌にしごかれた体にムチを打ちながら、着替えるのも忘れて寝具に倒れこみ、改めて馬超と馬岱が自らに話したことと、何故彼女たちは自らの主である劉備についていこうとしたのか改めて認識し直した。

いずれ劉備の前に大きく立ちはだかるであろう影村。

彼には力がある。多くの付き従う有能な人材もいる。

また、劉表が影村と同盟を結んでからというもの、影村は同盟者として荊州の民と触れ渡り民も彼を受け入れ始めているとも聞いている。

そうしたことを容易く出来てしまう辺りを考えてば人望もある。

そんな彼に対し、劉備はお世辞とも言えないが彼女に武の才も知の才も無い。

しかし彼女には人々を包み込む暖かさがあり、影村程でないにしろ彼女を慕い馬超や自分達の様な人材が集まってくるのも事実。

なので、何か人を惹きつける魅力に関して、劉備は影村に負けているとは関羽は思えなかった。

だがこの二人には大きな違いがある。

それは非情になりきるかなりきれないか。

例えば二つの船があるとする。

片方の船には300人、もう片方の船には200人乗船しているとする。

どちらかを沈めなければならない状況に陥った時、影村は間違いなく300人を救うだろう。

だが自らの主劉備は、悩みに悩み抜いて、結局のところどちらも見捨てる選択しを取ることできなくなり、一つの船に500人を乗せてしまう。

結果船は転覆し、500の人全てを海の藻屑にしてしまうだろう。

劉備にはこの非常さが無く、仮に彼女が非常さを無理に身に着けようとすると、彼女の心は壊れかねない。

なればどうするか。答えは決まっている。

主の足りない部分を補うのも家臣の役割でもある。

「非情……恐怖……怒り……」

そんなセリフを寝具に顔を埋めながら関羽は呟き、彼女は眠りの世界に落ちていった。

 


 
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