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ALO~妖精郷の黄昏~ 第64話 一時の休息~キリト編~

本郷 刃さん

第64話です。
今回はロキ軍側の休憩回、キリトとアバターの交流です。

どうぞ・・・。

2015-03-08 16:42:33 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5462   閲覧ユーザー数:4899

 

 

 

第64話 一時の休息~キリト編~

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

4時間の休憩時間はロキ軍の者達にも充てられるわけであり、

彼ら彼女らもまた休憩や次の戦闘の準備などに時間を充てている。

オーディン軍の主要人物達が報告と会議を行い始めた頃、ロキ軍でも同じく簡単な報告と会議が行われていた。

 

これは最終幕が上がる、最後の戦いのロキ軍側の一幕である。

 

 

 

――アルヴヘイム・スプリガン首都

 

スプリガンの首都、その執政府にある会議室が使われて簡単な会議が行われていた。

まずは主要なレイドやギルドなどのリーダーとギルマス、次いで各方面での責任者、

そして特定の指示を受けていた者達による報告が順次行われた。

バハムートを除くオーディン軍のボスの壊滅、アースガルズの制圧、ウンディーネ領とレプラコーン領の占領、

東部と西部の勝利、北部と南部の敗北、悲炎の発生、概ね良好な報告である。

 

とはいえ、悲炎は常にALOを焼き尽くし続けており、ロキ軍側であるこのスプリガン領でさえも燃やしているのだ。

だが、それが何を意味しているのか知らない大勢のプレイヤーはグランド・クエストが終われば全て直ると思っている。

真実を知れば困惑や混乱どころでは済まないだろうが、それ故に混乱を生まない為に知らない方が良い時もある。

 

ともあれ、それらの報告が終わり、会議は次の段階に入る。

スプリガン領主にしてロキ軍プレイヤーの表の総大将を務めるグランディが次の指示を出す。

それはロキ軍の全プレイヤーによる総攻撃であり、指定の時間になり次第、

所定の位置につき、午後9時と同時に一斉攻撃という至極単純なもの。

当然、相手もそれくらい予想しているであろうが、単純だからこそ相手の対処法も単純になるので、

そこら辺もどう動けばいいのかを伝える。

 

それを以て会議は終了し、各レイドリーダーやギルマス、

部隊長や方面責任者、幹部や有力プレイヤーにグランディは解散を伝えた。

各々が会議室から出ていく中、1人のプレイヤーだけが部屋に残った。

ロキ軍プレイヤーの参謀役にして裏の総大将であるキリトだ。

キリトに向けてグランディが微笑を浮かべながら声を掛ける。

 

「概ね順調に事が進んで、残るは仕上げだけって感じだな?」

「ああ。手を貸してくれて感謝する、お陰で事を上手く進めることが出来た」

「構わないって、こっちも色々と世話になったこともあるからな」

 

キリトは今回の一件に際し、グランディに協力を要請したが本人の意思を尊重することを優先していた。

そのため断られることも考えていたが、思いのほか彼は協力を即決してくれたわけである。

 

「それでもだ。態々恋人と別勢力になってまで協力してもらったからな」

「それはお互い様だろ? お前だって嫁さんを傍に置かなかったじゃないか」

「今回に限ってはその措置が必要だったからさ。

 俺とアスナが一緒だったら当然ながら仲間達も俺達に付いてくるが、別々に行動するとすればまた変わってくる。

 何も言わない俺に対する疑心から女性陣はアスナの傍に居るだろうし、彼女達を守る為に男性陣もアスナの側に付くはず。

 勿論、アイツらも俺の事を考えてくれるだろうし、それを踏まえたうえで俺を信頼して行動してくれる。

 ま、最後には俺の謝罪で済ますけど」

「なるほどね、それくらい深い信頼がお前達の間にはあるって訳か、納得したぜ」

 

キリトの2つの目的の内、1つは既に達成されている。

 

それは自身の外れていた枷を再び嵌め直すことであり、その枷はまさしく嵌め直された。

 

ヨツンヘイムでハクヤ達6人の『神霆流』と戦い、アースガルズではオーディンとトールと戦い、

ユーダリルにて“狂気”の『覇気』に目覚めたアスナと戦ったことで彼の覇気は落ち着きを取戻し、

枷を再び嵌めることが出来たのである。

よって、最初の様に威圧感が剥き出しになることもなく、精神も元の安定した状態に戻っている。

 

そして、もう1つの目的が現在も進行中の『神々の黄昏(ラグナロク)』の阻止である。

これはグランド・クエストとしての阻止ではなく、キリト一派という僅かな面子しか知らないALO崩壊の阻止なのだ。

キリトとしても仲間達に直接協力してもらうところだっただが、

ALOどころかSAOの核心に関わる事情があるため、基本単独での実行となったわけなのだ。

そういったところをアスナや仲間達に心配されているのだが、逆に信頼もされていることもあるので、

結果はキリトに任せる形になっている。

 

いずれにしても、グランディの言う通りキリトと仲間達の信頼関係あっての状況である。

 

「俺もそろそろ休憩にするわ。キリトはこれからどうするんだ?」

「装備の調整とアイテムの調達を済ませるよ。適当なところでログアウトしてリアルの方も済ますけどな」

「わかった。そんじゃ、最後の戦いで」

 

グランディは会議室から出ていき、キリトもそれに続くようにして会議室を後にすると街へ向かった。

そこでグランディに薦められた武具屋で装備の調整を終わらせ、ポーションや結晶などのアイテムの購入を済ませた。

そのまま休憩を兼ねて辺りを散策し始める。

 

古代遺跡をモチーフとされているスプリガンの首都を歩いて回るキリト。

他のプレイヤーとすれ違う度に彼らが頭を下げて挨拶をしてくるため、苦笑しながらそれに応じている。

キリト本人はあまり堅苦しいのは好きではないのだが、本人の実力や風格も相まっているからこういうことが多い。

 

 

 

 

そんなことがありながらも歩いているとやや奥まった路地裏ともいうべき場所へ到着した。

そこから荒げられた声が幾つか聞こえ、キリトは溜め息を吐いてからそこへ足を進めた。

なにやら揉めている様子であり、片やスプリガンの青年とシルフの女性、片や十数人程の柄の悪そうな男の集団だ。

 

「おい兄ちゃん、俺達はその姉ちゃんに用があるんだ。大人しくどっか行ってくれよ」

「彼女は嫌がっています。女性が嫌がることはすべきではないですし、見過ごせません」

「わ、私のことはいいですから…」

「ほら、姉ちゃんもそう言ってるじゃねぇか」

「気遣いで言っていることくらい解るでしょう?」

 

明らかに揉めていて、どちらが原因かもよく解る構図である。

呆れながらもキリトはその集団に音も無く近づき、

青年と言い争っている男の真横に立ち、その首筋に紅い刀の『アシュラ』を添えた。

いきなりのことに驚く一同だが、青年と女性はすぐにホッとした姿をみせ、男達は顔を真っ青にした。

 

「大人しく退いて次の戦いに備えるか、二度とALOをしたくなくなるくらいに潰されるか……決めろ」

「「「「「「「「「「す、すいませんでしたぁぁぁっ!?」」」」」」」」」」

 

殺意全開のあまりにも鋭い眼光で睨まれて脅され、いかにも三下っぽく男達は逃げ去っていった。

それも当然、枷が嵌め直されたとはいえ戦いの終わらない内は彼が落ち着くはずもなく、

むしろ全力全開絶好調のキリトを止めることなど嫁であるアスナでさえ不可能なのだ。

まぁ男達は自業自得と言えよう、無事で済んだのだから。

 

「2人とも大丈夫か?」

「大丈夫です、ありがとうございました。俺はクルトって言います。本当に助かりました」

「私も、大丈夫です。キリトさんもクルトさんもありがとうございました。あ、私はセインといいます」

 

スプリガンの青年はクルト、シルフの女性はセインと名乗り、キリトは微笑を浮かべつつ刀を腰の鞘に収めた。

どういった経緯でああなったのかを訊ね、セインがそれに応えた。

 

「えっと、スプリガンの首都は初めてだったんです。

 それで見物がてら歩いて回っていたらこの路地裏に来ちゃいまして、そしたらあの男の人達に絡まれて…」

「俺はホームタウンだから近道を通っていたら彼女がああなってて、放っておけないから割り込んだものの人数が多くて…。

 隙を突いて逃げようとか誰かを呼ぼうかと考えていたら…」

「俺が来たってわけか」

 

クルトが一緒に居た経緯も解り、キリトは納得した様子をみせた。

 

「次からは初めていく場所は執政府に依頼して案内を頼むといい、それなら安全だ。今後は注意するように」

「はい、解りました。お手数をおかけしました」

「俺が人通りの多い場所まで案内しておきます」

 

キリトの注意にセインはしっかりと答え、クルトの提案に任せることにした。

2人にそのまま頑張るように言い、キリトは見回りも兼ねようと考え、移動を再開する。

 

 

 

人通りのある場所へ戻ってきたキリトだが、先程の路地裏に繋がる道からは出ずに建物に背中を預けて腕を組んだ。

なにかを考え込むようにも見えるため、通り過ぎていく者達は特に気にせず歩き去っていく。

その時、建物の上から1人のプレイヤーがキリトの傍に着地し、彼に話し掛けた。

 

「いきなり呼び出してすまないな、コウシ」

「なんの問題も無いでゴザルよ」

 

現れたのはキリトと同じスプリガンのコウシであり、同じく『SAO生還者』でギルド『風魔忍軍』を束ねる頭領(ギルマス)だ。

 

「では、まずは報告から。

 占領したウンディーネ領とレプラコーン領の隣であるノーム領とインプ領、

 どちらの領の境界線も防衛は手薄の状態となっている一方、

 アルン高原へと続く洞窟の出口は防衛が強固となっているとのことでゴザル」

「アルンと世界樹に戦力が集結されている、だろうな。報告ありがとう」

 

風魔忍軍の情報収集能力を用いて相手方の状況を把握していく。

まぁ、いまの戦況からすればそれもある程度の予測は出来ており、あくまでも確認のようなものである。

だが、キリトがコウシをここに呼んだ理由はそれだけではなかった。

 

「して、依頼とはなんでゴザルかな?」

「空いている時間とメンバーだけでいい、路地裏周辺の見回りを頼みたい。

 ついさっき、ちょっとした揉め事があったからな。迷惑なプレイヤーが少し多いから、その注意が必要だと思った」

「なるほど…承知した、任せるでゴザル。依頼料は要らないから安心するでゴザル、楽しくプレイする為でゴザルからな」

「はは、助かるよ」

「それでは、早速動かせてもらうでゴザル」

 

コウシは早々にその場から離れ、行動に移ったようだ。キリトはようやく小道から表通りに出る。

すると、あやうく他のプレイヤーとぶつかってしまいそうになったが、キリトも相手も当たらないように自然に避けた。

 

「っと、すまない。大丈夫、だな」

「こっちこそすまん…って、キリトさんじゃないっすか」

「俺を知っているのか……まぁ自分で言うのもアレだけど、有名なせいか…」

「そうそう、アンタを知らないプレイヤーはVRMMOビギナーか他人を気にしない奴さ。

 そう言えば名乗って無かったな。俺はトーフ、武器はこの背中の棒『如意棒』だ」

 

キリトは見ただけでそれが古代級武器(エンシェントウェポン)であることを察した。

ルナリオの持つ古代級武器の棒『神珍鉄』は如意棒と同一の存在と言われていることから、それを理解したのである。

 

「先の戦い、何処に配属されていたんだ?」

「アルン高原北方戦部隊だ。一番深い事情は知らないけど、スコルとハティの見届けはさせてもらったよ」

「そうか、アイツらの……礼を言わせてもらう、ありがとう。他の人達にもそう伝えてくれないか?」

「OK。俺の方で知り合った奴らに言っておく」

 

キリトはトーフに他の者達への礼の言葉を頼み、次の場所へと向かった。

 

 

 

 

散策に見回りも兼ねているキリトは先程も訪れた武具屋の辺りに来ていた。

一度は来た場所だが、念の為ということである。その武具屋の前に着いた時、2人組のプレイヤーが出てきた。

1人はインプ、もう1人はサラマンダーだ。

 

「あれま、ギルド『アウトロード』のギルマスで【漆黒の覇王】のキリトさんじゃないか」

「はは、やっぱりそういうリアクションなんだな。

 しかし、そういうアンタは『魔法撃抜(スペルショット)』の使い手である【幻影の射手】ゼウスじゃないか。

 それにサラマンダーで最近台頭してきたシラタキだろ?

 ここに居るってことはモーティマーが選抜したロキ軍側の部隊のようだな」

「やはり貴方の眼は誤魔化せないか…」

 

インプの男性はゼウス、サラマンダーの男性はシラタキである。

なにかと縁があったこの2人は共に行動しており、武器の調整とアイテムの補充の為に武具屋に訪れたわけだ。

そして、その2つが終わったことで武具屋から出てきたところをキリトに遭遇したという。

 

「ん、やっぱサラマンダー側の派遣部隊の1人だったのか」

「話しても話さなくとも、別段支障が出るわけでもない。ロキ軍側としての役目を果たすことが俺の役目なのでな。

 ただ、志願してこちら側に付き、貴方の成すべき事を手伝いたいと思っていますが…」

「それに関しては同感ってハナシ。

 ラグナロクに関して知り過ぎているし、運営側だったとしても行動が遠回しだからな。

 なにか理由があって【黒白の覇王妃】や仲間と別行動だって言うのも納得できるってハナシだ」

 

ゼウスはシラタキの正体になんとなく気が付いていた。

二つ名持ちというのは自然と強いプレイヤーの情報が集まり、

しかもソロやレネゲイドでないことも確定していたので彼が領地としてのサラマンダー側の者だと感じていたわけである。

 

そして、そのシラタキはモーティマーやユージーンからなにかを命じられているわけでもない。

それは他の派遣部隊の者も同じであり、あくまでもグランド・クエスト中の侵攻側クエストの報酬や利益が目的なのだ。

ゼウスに関してはキリトの行動に興味を抱き、折角なら面白い方が良いと考え、ロキ軍への参加を決定した。

 

「その気持ちはありがたいが、話すことは出来ないな。

 ただ、俺を信じてくれると言うのなら、最後の戦いも全力を出してほしい」

「いいぜ。話す必要も無いことか、話すべきじゃないにしても、アンタの頼みなら聞くのは吝かじゃないってハナシだ」

「無論、俺はロキ軍の者として戦うだけだ。全力を尽くす」

 

ゼウスが拳をだし、それにシラタキも合わせ、最後にキリトも笑みを浮かべて拳を軽くぶつけた。

キリトは2人と別れて場を変えた。

 

 

 

次いでキリトはスプリガンで美味しいと言われる食事処にやってきた。

小さな店であり、隠れた名店でもあるので客の数は多いとは言えないが、みながみな中級から上級のプレイヤーである。

空いている席の1つに座り、グランディに教えてもらった美味しいという料理を注文し、僅かの時間を待つ。

すると、扉が開いて新たに2人の青年プレイヤーが入店してきた。1人はシルフ、もう1人はプーカだ。

 

「はぁ~、俺を助けてくれた女性は一体どこにいっちまったんだよ~。折角お近づきになれると思ったのに…」

「そう落ち込むなよ、フカヒレ」

「レオ…「いつものことじゃないか(笑)」チクショウ!?」

 

コント紛いのやり取りを交わしているのはシルフのレオとプーカのフカヒレことシャークだった。

そのやり取りを見ていたキリトは微笑を浮かべてから2人に声を掛ける。

 

「レオ、フカヒレ、こっちだ」

「お、キリトじゃないか。隣座るぜ」

「うう、キリトさん…「気にするなよ、お前はいつものことなんだろ?」もういや!?」

 

レオはキリトの隣に座り、レオの隣にシャークが座ったが、キリトでさえもシャークを弄っている。

彼が弄られるのは宿命のようなものだ、嫌な宿命だが(笑)。

キリトがレオやタクミ、シャークと現実で知り合った際にアスナもその場に居てこの2人と知り合っている。

特にレオは現実世界でキリトと手合せをしたほどなのだ。

 

「さっきは随分と活躍したみたいだな。俺もタクミに抑えられなければもうちょっと戦えたんだけどな~」

「タクミが相手なら仕方が無いさ。次の戦いでもっと力を揮えばいい」

「だな、そうさせてもらうぜ」

「俺だって、俺だって……くぅ、ここは一気に食って、次に備えてやる!」

 

キリトとレオが言葉を交わしていく中、シャークはやけ食いをするように一気に注文をした。

その様子に苦笑するキリトと呆れるレオ、どうせ食べきれないだろうからそれはレオが食べることになるだろう。

先に注文していたキリトの料理が運ばれ、それを食べ始める。

 

しばらくしてシャークが大量注文した料理が運ばれ、

やけ食いを始めたがすぐにダウンし始めたのでレオが食べていき、そのかなりの量を彼が食べきった。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

2名は丁寧に言葉にしたが、1名は完全に顔色を悪くしている。

VRMMOとはいえ、空腹感と満腹感はあるため、そうなったのも自業自得である。

 

「うぷっ……俺、ログアウトして休んでくる…」

 

そういってシャークはログアウトし、レオはお守りをさせられていたので内心ホッとしていた。

キリトはそんなレオを労わるように肩に手を置き、彼も苦笑して頷いた。

ともあれ、性格などはともかくアレで大切な友人なのでレオとしても苦には感じていないのである。

 

「俺も一旦休んでくる。丁度良い時間だからな」

「分かった、俺はまだ見て周るよ。お互い頑張ろうぜ」

「おう、最後の戦いも暴れまわろうぜ」

 

レオも一時ログアウトし、キリトはまた移動して他の場所を見に行った。

 

 

 

 

執政府周辺に戻ってきたキリト。

さすがに人通りも多く、加えて警備もあるためにここは問題無いだろうと思い、

軽く見てから離れようとした時、声を掛けられた。

 

「ようやく見つけたのですぞ、キリト殿」

「ん、あぁミケとトキヤか」

「よ、丁度探していたんだ」

 

ウンディーネの少女のミケ、同じくウンディーネの青年のトキヤだ。

キリトとグランディはこの2人をウンディーネ領侵攻の中心人物に指名しており、その時に面識を得ていた。

 

「まずは先の戦い、お疲れ様なのですぞ」

「2人こそ、ウンディーネ領の攻略お疲れ。ミケは指揮、トキヤは戦闘で活躍したそうじゃないか」

「ミケ達に掛かればどうということはないのです」

「キリトこそお疲れさん。ま、俺は割と楽しませてもらったけどな」

 

キリトに応えるように見事にウンディーネ領の占領に貢献したミケとトキヤに労いの言葉を掛け、

2人は笑みを以てそれに返答した。

それが終わるとキリトは続きを促した、自分を探していたということは次の戦いに関することだと思ったからだ。

 

「キリト殿、次のアルン侵攻でミケも指揮を執るというのは本当なのですか…?」

「ああ。俺やグランディ、他のレイドリーダーとも話し合った結果だ。補佐にはトキヤについてもらうけどな」

「俺もか? 別に構わねぇけど、俺達でいいのか?」

 

そう、最後の戦いになるとされている次の大規模戦闘、

そこでミケが指揮の一角を担い、トキヤが補佐を務めることが会議で決まっていた。

2人はウンディーネ領攻略で戦果と実力を十分に見せつけたこともあり、反対する者はいなかった。

また、指揮といっても全体に行うのではなく、一定の人数にということをキリトは伝えた。

それを聞いた2人は少しばかりホッとした様子をみせる。

 

「それを聞けて安心したのです。どの程度の戦力を指揮するかで精度も変化するですから、どれほどかと思っていたのですぞ。

 トキヤ殿が補佐についてくれるのなら心強いのです」

「なら俺も期待に応えられるように頑張るとしますか……キリト、俺達が指示する奴らの数ってどのくらいだ?」

「ウンディーネ領攻略の人数とほぼ同等。加えて事態の展開によっては最精鋭のみになるが、問題が起こることはないはずだ」

 

キリトの話に頷きつつ思案していたミケだが、笑顔を浮かべてから意気揚々とした表情になった。

トキヤもそれを見て笑みを浮かべ、問題無いと口にした。

 

「了解したのですぞ。早速これから情報などと照らし合わせて指揮の内容を固めるのです」

「俺も付き合うぜ」

「頼むぞ、2人共」

 

ミケとトキヤは頷いてから執政府の中へ向かっていった。

キリトはそこで一度使用している宿に戻り、そこでログアウトした。

現実世界で本当の食事や身の回りのことを済ませ、休憩を行うために。

 

 

 

現実世界での用事と休憩を済ませたキリトは再びログインし、宿を出ようとしたところで朝に知り合った男女に声を掛けた。

青年はスプリガンで女性はケットシーのようで、赤い小さな竜も共に居る。

 

「ガイとレイナも休憩が終わったところか?」

「キリトか。“も”ということはお前も休憩が終わったんだな」

「こんばんは、キリトさん」

「きゅく~!」

 

スプリガンの青年のガイと彼の恋人であるケットシーの女性のレイナ、

彼女の相棒であるテイムモンスターで〈フレイムリドラ〉のファムだ。

2人と1匹はキリトに応えながら歩み寄って話しを続ける。

 

「それにしても驚いたぞ。

 まさか、かの『八葉一刀流』の皆伝者【風焔の剣聖】がALOにいて、しかも同じ『SAO生還者』とは思わなかった」

「それは俺も同じだ。あの『神霆流』の師範代【舞撃】が生還者でALOプレイヤーだからな。

 SAOの時はレイナを守ることを優先していたから、攻略には参加できなかったし、

 それが重なったことでお互いに知り合うこともなかったわけだ」

 

キリトもガイもお互いに現実世界で別の流派を会得しており、加えてどちらも師範代と皆伝という最高クラス。

共に武術の世界に居るため話を聞いてはいたが、直接に会ったことはなく、VRMMOで朝に会ったのが初めてなのだ。

ガイはレイナと共に現実世界で高認試験を受ける為、生還者の学校には通っておらず、

前述の通りSAOではレイナを守ることを第一としていて攻略組には参加せず、それ故にキリト達と会ったことはなかった。

 

だが、両者はついに対面することになった、しかも味方同士で。

常々有名なキリトの話を聞いていたガイは彼の人間性を信頼して生還者であること、八葉の皆伝者であることを彼に伝えた。

それを聞いたキリトは思わぬ出会いに驚きながらも喜び、いずれ手合せすることを2人で話した。

 

その際にガイの恋人であるレイナと彼女の相棒のファムを紹介されたのだ。

 

「キリトさんもガイのように強いんですよね?この戦いが終わったら2人の勝負も見てみたいです」

「それは俺としても望むところさ。勿論、ハクヤ達にも伝えておくよ。

 それに、VRMMOだけじゃなくて現実でも戦えればいいけどな」

「俺達は鹿児島に住んでいるから中々難しいと思うけど、機会があれば現実でも勝負だ」

 

レイナの言葉にキリトもガイもやや獰猛な笑みを浮かべており、一瞬だがレイナも表情が引き攣りそうになった。

ファムに関してはレイナの腕の中で眠っている、ピナのようだ。

 

「そういえば、シグルズとブリュンヒルデのことに礼を言っておかないといけないな。

 ありがとう。それに、嫌な役をさせてしまってすまない」

「構わないさ。実際、俺がやらないとシグルズのHPを回復されたかもしれないし」

「そうなっていたら、悲炎の発生を防がれていたかもしれませんから」

 

ガイはキリトにその実力を買われてシグルズを倒す役を任せられていた。

誰かが倒せばそれで良かったのだが、ファフニールが倒されて誰にも手出しが出来難くなったために実行に移したわけである。

レイナどころかガイすらもキリトが何をしたいのかを知らないが、ALOに実害があるわけではないことを2人は信じている。

だからこそ、キリトの指示に従ってシグルズを倒し、ブリュンヒルデに悲炎を発生させた。

 

「次の戦いで最後になる。いままでよりも激しくなるが、2人も頼むぞ」

「俺の本気と全力を出させてもらう」

「私も全力でお手伝いしますね」

 

3人はそう言葉を交わし、キリトは2人に先んじて宿を後にした。

 

 

 

 

宿からメインストリートに向かったキリトはそこにある喫茶店に入った。

ここも紹介された店であり、中々に評判の良いところである。

さすがに戦闘も間近に迫ってきているからか、お客の数は多くない。

2人用のテーブル席の椅子に座り、メニューを注文したあと、彼の後ろの席に客が座った。

 

「1人寂しく食後のデザートか? キリト」

「そういうお前こそ1人じゃないか、ベリル」

 

後ろの席に座った男とはプーカのベリルだった。

互いに背を向けながら周りに聞こえない程度の声音で会話を続けていく。

 

「全員じゃなくとも、数人くらい仲間を引っ張ってくれば良かったんじゃないのかい?

 そうすればもっとスムーズに事を進められただろう?」

「余計なことは知らない方が良い。アスナには事が終われば全部話すけど、アイツらには重すぎる内容だ。

 墓場まで持って行くには厳しいだろうからな」

 

指摘を受けても苦笑しながら応えたキリト。だが、次の言葉には思わず表情を引き締めた。

 

「SAOとALOの核心に関わる、茅場晶彦に関する内容だから、か?」

「っ、どこまで知っている…?」

「どこまでだろうな」

 

ベリルは自分やアスナ、ユイなどしか知らないようなことまで知っていると悟った。

初めて会った時からやけに色々な事を知っており、どれも核心に迫っているほどに。

いや、もしかしたら自分以上に様々なことを知っているのかもしれない。

 

「お前は、一体何者なんだ…?」

「さぁ、一体何者なんだろうな? 俺は俺だ、それ以上でもそれ以下でもなく、俺が何者かは俺しか知らない」

 

キリトの問いかけにまるで謎かけの如き言葉を伝えるベリル。

それで諦めが付いたのか、その言葉の意味を悟ったのか、キリトは息を吐いた。

 

「“自分が何者かは自分で決めること”か、確かにその通りだな。

 お前がどこまで知っていてどんな存在であろうと、ベリルはベリルということか」

「そういうことさ。ま、ラグナロクが終わった後にでもまた会えたとしたら、その時は…」

「なに?って、何処に消えたんだ…」

 

まるで回答に満足したかのような口調で喋ったベリルは言葉を区切らせ、

キリトは振り返ってみたが既にベリルの姿は何処にもなかった。

ただ、椅子が出ていたことからいままでそこに座っていたのは間違いない、そうキリトは判断した。

 

 

 

デザートを食べ終えたキリトはメインストリートから外れたところにある広場に来た。

少しばかりの休憩をしようと考えてのことだ……が、そこで予想外の光景を目の当たりにする。

同じ装いの服に身を包んだ集団が集会を行っていたのだ、しかも自分が公認した追っかけギルドである。

加えて神父姿の男もいる。

 

「キリアス親衛隊諸君、汝らはなんぞや!」

「我らは親衛隊、親衛隊の隊士なり」

「我らはただひたすらに(キリト)に従う者」

「我ら伏して(アスナ)に許しを請い」

「「「「「我ら伏して王の敵を打ち倒す者なり」」」」」

 

神父姿の男であるインプのサイトの問いかけに、

サラマンダーのリョウトウ、ウンディーネのコマンダー、プーカのサージが応え、最後に隊員達が一斉に言い放った。

 

「「「「「時到らば、我ら徒党を組んで地獄へ下り、王の怨敵との合戦を所望する!!」」」」」

「よろしい、ならば貴方達に戦いの祝福を! エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!」

 

あまりの光景に愕然とするキリト。

自身とアスナのファンということは理解していたが、

自分とアスナの敵を抹消しかねないのだからさすがのキリトも思わず引いている。

 

「(怖い、さすがの俺も怖い…。俺とアスナの共依存なら解るが、さすがにこれは…。

 いや、でもユイになにかあったら俺とアスナもこうなるんだよな…。それなら納得だ)」

 

現実逃避したキリトだが最善の選択だと思う。

なぜならばキリアス親衛隊は永遠に不滅だからだ……本郷 刃(書き主)が名誉顧問を務めているからである(笑)

 

「では、報告会を行いましょう」

「キリト殿とアスナ殿の戦いに横槍を入れようとした輩を排除しました!」

「アスナ殿に不埒なことをしようとした愚か者を叩き潰しました!」

「キリト殿を闇討ちしようとした間抜けなバカをPKしました!」

「(よし、あとでアスナに手を出そうとした奴の名を聞きだす)」

 

サイトが成果を訊ねるとリョウトウ、コマンダー、サージが答えていった。

報告に耳を傾けていたキリトはアスナが危なかったことにややキレ気味。

 

「自分達記録係はお二人の勇姿を結晶に記録しました!」

「0,5秒単位でシャッターを押しているのでほぼズレがないです!」

「全方位からですのでバッチリですよ!」

「(アスナの写真はコピーして貰おう)」

 

記録係達の報告を聞いて満足そうな幹部とサイト。キリトもナイスだと思っている。

そのあとも続々報告が上がり、仲間同士でその成果を称え合う声も聞こえる。

一応言っておくが、彼らは至って真面目である。

 

「さて、そろそろ本日はお開きに……おや、キリトさんではないですか!」

「キリト殿に敬礼!」

 

サイトがキリトに気が付き、隊長(ギルマス)を務めるコマンダーの敬礼に続けて全員が敬礼を行った。

引き攣った苦笑を浮かべたキリトだが、前に出ることを促されて前に出た。

 

「よろしければ、キリトさんからも何かお願いいたします」

「えっと、それじゃあ…最後の戦いは大変だと思うが、全力で励んでくれることを願う」

「「「「「「「「「「了解しました!」」」」」」」」」」

 

息一つ乱れない反応に改めて引くキリトだが、ここはノリに乗っておくべきかと思い、1つの言葉を発した。

 

「あ、ついでに1つ。俺とアスナの敵を……ツブセ」

「「「「「「「「「「Yes! Your Majesty!!」」」」」」」」」」

 

ある意味、一番怖いのはノリに乗ってしまうキリトなのかもしれない…。

 

 

 

遂に午後8時を迎え、キリトは…いや、ロキ軍の大多数が行動を開始した。

 

各レイド、部隊、ギルド、プレイヤー達が所定の位置に付き、戦闘に備えていく。

その中でも一番緊張感が増しているのはキリトの居る場所だった。

みながみな、戦闘モードに入ったキリトの姿に威圧感を覚えるが、同時に心地良い高揚感も覚えていた。

そこで、キリトが話しだす。

 

「みんな、良い緊張感だ。それを忘れずに全力を振るえ……勝つのは俺達だ」

 

その言葉にロキ軍プレイヤー達は頷き、笑みを浮かべる。そして、午後9時が迎えられた。

 

「行くぞ!」

 

キリトを筆頭に、ロキ軍が一斉に動き出した。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

はい、キリト編の休憩回終了しました~・・・ギャグも仕込めていい感じだったと思うのですがw

 

というか色々はっちゃけ過ぎですねw 反省しています、しかし後悔はしていない!

 

ともあれ、次回からついに最終幕が上がり、最後の戦いになります。

 

次回はロキ軍ボス勢VSバハムートをメインにし、サブで踏み台とある少女の戦いを書こうと思います。

 

あくまで予定ですのでメインはともかくサブはどうなるか分かりませんが。

 

それではまた~・・・。

 

 

 

 


 
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