第二十三話 少女と神器
みゆきが携帯の通話を切る。
10分以上話していたため、少し疲れたように溜息を吐いた。
「話はついたかしら?みゆき」
「ええ。少し驚かれちゃいましたけど…『友達の所に泊まる』って言って許してもらいました」
リアスがみゆきに話しかけ、苦笑いしながらみゆきは答える。
「そう、それは良かったわ。…それで、説明してもいいかしら?あの翼の男や私たち…それと、この世界のことを」
「…はい。教えてください」
―そうしてリアスはみゆきに伝える。
天使と悪魔、そして堕天使の三竦み。
自身や朱乃が悪魔であること。
そして人間には
「話を聞く限り、タミエルと言う堕天使はあなたに神器が宿っているから襲ったようね」
「で、でも…私、そんな不思議な道具は持ってませんよ?何かの間違いだったのでは…」
「堕天使があなたを襲ったのがその証拠よ。」
自身にそのような力は無いと否定するみゆきだが、リアスは確たる証拠を持ち出す。
「そうね…。みゆき、自分が一番強いと思う存在を思い浮かべて、集中してみて。百聞は一見にしかず、よ」
「わ、分かりました」
みゆきは目を瞑って思い浮かべる。
自身が一番強いと思う存在を。
―そう、死の危険に際し自分を助けてくれたウルの姿を。
すると次の瞬間、みゆきを中心に風が巻き起こった。
「―上出来ね」
「あら、まさか一回で出来るとは思いませんでしたわ」
「…へえ」
「みゆき凄いにゃぁ」
「…しかし、この気配は…」
「Hmm…面白そうデスねぇ」
みゆきが手を前に出すとその中に極光が生まれる。
あまりの眩しさに全員が目を細めるが、目を閉じたものは誰も居なかった。
誰もがその光に目を奪われていたからだ。
やがて光は収束し、みゆきの手の中に納まる。
光が収まったとき、手の中には一本のシンプルな槍が現れていた。
「…ほえぇ!?ななな、なんですかこれ!?」
「それが貴女の神器よ」
「それにしても、聖なる気配を放つ槍の神器…。まさかとは思いますけど…」
悪魔であるリアスと朱乃、そして仙術使いとして力に敏感な黒歌は感じ取っていた。
みゆきの持つ槍から放たれる聖なる気配に。
朱乃は聖なる槍といえば、と『
「朱乃、心配することは無いにゃ。あの槍は『
「黒歌、どうしてそう言えるんですか?」
「だってにゃぁ…あの聖槍だとオーラだけで悪魔は致命傷になりかねにゃいよ?直接攻撃されると消滅確定だけどにゃ」
それにあの槍からは聖なるオーラはそこまで感じニャいしー。と黒歌は締めくくる。
「えっと…それで私はどうすればいいんですか?」
「…そうね、良い機会だから黒歌と白音にも言っておくわ。―私の眷属になる気は無いかしら?」
困惑するみゆきをリアスは勧誘する。
黒歌と白音も誘うその姿は堂々としていて、
「そうだにゃー…。リアスのことを信用してないわけじゃにゃいのよ?だけど…まだちょっと、ね」
「私も姉さまと一緒です」
「眷属ですか…。それって…悪魔になるってこと…ですよね」
「みゆきの問いに関してはイエスよ。黒歌と白音は…そうよね。まだ時間が経っていないしね。ゆっくり考えて頂戴」
黒歌と白音は元々の主―バーナードにされた仕打ちを忘れられないのか、苦笑いしながら答えを保留する。
みゆきは若干考え込んでいる。
「…私は…マクダウェルさんの眷属になりたいです!」
「………はい!?」
考え込んでいたと思ったら、全く見当違いの方向へと着地したみゆき。
まさか自分の名前が出てくると思って居なかったウルは素っ頓狂な声を上げる。
「…あー…あのね、みゆき。ウルは悪魔ではないからウルの眷属にはなれないのよ。まあ、ウルが悪魔に転生して上級悪魔になれば別だけれど…」
と、リアスはウルにチラッと目を向ける。
恐らく、ウルが眷属になってくれれば、と考えているのだろう。
しかし―
「…僕は悪魔になる気はありませんよ。………それでなくても僕はヒトとはかけ離れてるんですから」
前半ははっきり意思表示をするように、後半は蚊の鳴くような声で。
ウルは返答した。
「まあいいわ。でもみゆき、オカルト研究部には入ってもらうわよ。一度堕天使に狙われたことは事実、もう一度狙われない保証は無いわ。近くにいれば守りやすいもの」
「あ、はい!…あの、それでマクダウェルさんって…」
「もちろんオカルト研究部員よ」
パアっと明るい笑顔を見せるみゆき。
ひまわりが咲くようなその笑顔にウルは再びドキッとしてしまう。
「分かりました!私、オカルト研究部に入部します!」
そういった後、みゆきはウルの近くにトテトテと近寄って声をかける。
「それで、あの…同じ部活に入ったんですし、ウルさんって呼んでもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。僕もみゆきさんって呼びますから」
「じゃあ私もみゆきって呼ぶにゃ!」
黒歌はウルに抱きつきながらそう言う。
まるでみゆきに見せ付けるように。
「…むぅー…」
ウルに抱きつく黒歌を、羨ましそうに見つめるみゆき。
嫉妬の表れか、その頬はプクーっと膨らんでいる。
「なんでこの流れで僕に抱きつくんですか、流れ的にはみゆきさんでしょう」
「ウルに抱きつきたくなったからニャー♪」
「…姉さまズルイです。ウル先輩撫でてください」
「白音ちゃんまで?」
「やれやれ…。これからまた騒がしくなりそうね、朱乃?」
「静かで寂しいよりは良いでしょ、リアス」
こうしてオカルト研究部の夜は更けていく。
この物語の先に何が待っているのか、そして誰が待っているのか。
それはまだ、誰も知らない。
ちなみにこの場に響がいないのは、親から『今何時だと思ってるんだ』と言う旨の電話があり、強制的に帰宅させられたためである。
次話あたりに、グレモリー眷族が増える予定です。
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