No.759824

とある傭兵と戦闘機    IS編第14話   ”影響と二人目と”

帰還した鬼神、そして真実を知る者と身を預かった者
そしてもう一人の同じ存在が動き始める

2015-02-21 15:35:57 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2621   閲覧ユーザー数:2528

 

 「・・・・・・」

 

何の変哲もない、白い天井をただ見上げる

 

意味も無く、ただ見上げる

 

あれからどれくらい経過したかは知らない

 

だけど、この状況が変化する事は無い

 

 

 

 

 「フェイリールド。一定期間お前のFRMKを剥奪

 

  機体損失の件と大西洋での交戦情報については緘口令を敷く」

 

今回の大西洋上空での戦闘に関してはイギリス側とIS学園側での交渉により

 

無かった事にされていた

 

そして、イギリスがIS学園側に出した要求は

 

 ”フィリア・フェイリールドの情報の抹消”

 

フィリア・フェイリールドという存在をIS学園から抹消しろとの事だった

 

つまり、フィリア・フェイリールドという少女を居なかった事にしろという事だ

 

 「フェイリールド、お前の存在をイギリスは認めたくないらしい

 

  だが、イギリスからお前の名を預かった」

 

 「・・・・・・・・」

 

 「フィレイア・コルス・ノスヴァリア

 

  イギリスの、オークトレア郊外で出生した名も無き家柄の娘

 

  これからお前は以前の名を語る事は許されない

 

  そして、望むのならば・・・」

 

 「?」

 

 「もう、できるだけ戦闘機の操縦桿を握るな」

 

 「っ!?」 

 

・・・・・・嫌だ

 

 「・・・・・嫌だ」

 

 「・・・何だ?」

 

そんなの・・・・そんなのっ・・・

 

 「嫌だッ!!」

 

 「ッ!?」

 

それを取られたら・・・それを否定されたら

 

私は・・・なにもできなくなってしまう

 

何も・・・守れなくなってしまう

 

そうなれば、また私は目の前で大切なものを失ってしまう

 

そんな事になれば・・・私はーーーー

 

 

 

 

 

   stratya sistem boot online

 

搭乗者、精神レベルアラートゾーンへ

 

     フィリア・フェイリールドのメンタルシグナルマップへの異常を判定

 

     レベル・・・D  これよりストラティア・システムによる外殻形成を開始

 

     モード" Memory Sift Egg"起動

 

                   

     MSEシールド展開   

 

 

     ”搭乗者保護隔離モードに移行します”

 

 

 

 

 

 「昨日、学園よりフィリア・フェイリールドの無期限休学が決定された

 

  織斑、クラス代表補佐の再選任はしない

 

  一週間後の学園祭には気合を入れて役割を果たせ」

 

翌日、1-1の教室のSHRにて告げられる報告

 

もちろん、朝一に教室がざわめきで満たされたのは当然だった

 

 「え・・・それってどういう事ですか?」

 

 「フェイリールドさんに何かあったのかな?」

 

 「学園よりって事は学校から休学させられたって事でしょ」

 

 「何か問題行動でも・・・」

 

 「あのフェイリールドさんだよ?、きっとそんな事じゃ無いよ」

 

このクラスでのフィリア・フェイリールドという存在がいかに影響しているか

 

元々、クラス代表が織斑一夏に決定した時点でその問題が浮上していた

 

 「・・・俺一人でこのクラスを抑えきれねぇ」

 

と、文字通りの状態に陥ってなってしまっていた

 

何せ女尊男卑な世の中なのだ。自分以外の全員が女

 

オマケにこのクラスの人員のノリと勢いは間違いなく第一学年トップクラス

 

そんな騒ぎ盛りの若い女子達を抑える実力も気力も、一夏は持ち合わせてはい

 

一夏が絶望を感じていた・・・そんな時だった

 

フィリア・フェイリールドという存在がこのクラスに来たのは

 

 

 

 

 

 「フェイリールド、少し頼みがある」

 

昼休みの教室、本を嗜んでいたフィリアに千冬は話しかけた

 

昼休みは学生にとっては数少ない休みの時間

 

そんな時間に教室に残っているのは、復習や予習に勤しむ勤勉な生徒や

 

静かで穏やかな時間を求める文学少女ぐらいであろう

 

しかし他クラスに比べて比較的アクティブで行動的な女子達が集う一組の教室には

 

昼休みに勉強や小説の世界にのめり込む生徒は居なかった(ちなみにクラス担任が鬼教師である事も

 

一役買っている)

 

そんな穏やかである意味一日の中で唯一、一年一組が静かになる時間に

 

フィリアはいつも本を読んでいたり、教材資料に目を通していたりして過ごしていた

 

それを見越して、邪魔の入らない時間に千冬はフィリアの元を訪れた

 

 

 

 「どうかしましたか?」

 

 「クラスの代表補佐をしてくれないか?

 

  このままでは学園の催し物はおろかクラスの纏めすらままならん」

 

 「何で私なんですか?」

 

本を閉じ、少し困ったような顔をするフィリア

 

露骨に嫌とは言わない。でも教師だからと態度を変える事もしない

 

千冬が驚くほど大人びた対応・・・そんなフィリアの”自由奔放でまっすぐ”な性格があるので、

 

生徒からのコミュニケーション不足で若干寂しい思いをしている千冬(自業自得だが)にとって

 

何の気兼ね無く話しかけられるフィリアは数少ない”話し相手”である

 

 「他の専用機持ちは自我が強く、デュノアは万能だが

 

  それだと織斑が成長せん。お前ならその辺りうまく立ち回れる」

 

 「はぁ・・・・」

 

呆れたような顔をするフィリア、だがすぐに大人の微笑みに変わる

 

 「わかりました。援護くらいなら任されます」

 

 「弟が不出来ですまない・・・よろしく頼まれてくれ」

 

 

 

 

それから、フィリアが一夏の補佐を勤める事に専用機持ちが反論していたが

 

臨海学校でのフィリアの交戦情報を間近で目撃する事によって納得

 

それ以降の実質的なクラスのまとめ役はフィリアになり

 

クラスの中心的役割を担うようになった

 

それだけに、クラスメイト全員が信頼を置き

 

”暴れまわる一組”をいとも簡単に収めるという、ある意味で偉業を達成した

 

そんな彼女の人間性は同学年とは思えぬ程成長している為

 

度々発生した他クラス同士のいざこざにも不本意ながら介入、仲介していった為

 

他のクラスともしっかりした信頼と繋がりを構築していた

 

 「ち・・・織斑先生、理由は何ですか?」

 

この中で、唯一手を挙げて質問をした者が居た

 

 「何だ織斑、質問を受け付けた記憶は無いが」

 

 「・・・・は、はい・・・」

 

クラス代表であり、彼女のパートナーだった織斑一夏だった

 

しかし質問はすぐに一蹴され、強引に千冬は繋いでいく

 

 「もう一度言うがクラス代表補佐の選任はしない。SHRの連絡事項は以上だ

 

  各員、勉学、実技共に気合を入れて挑め!!」

 

 「「「はいっ」」」

 

クラスの雰囲気が、いつもよりも数段か暗くなっていた

 

それから解散し、実技の時限の為に全員が移動を始める

 

 「オルコット。放課後に時間を作っておけ」

 

と、学園に到着したばかりのセシリアが千冬に呼び出しを受ける

 

 「はい」

 

 「理由は言わなくてもいいだろう」

 

 「っ!?」

 

セシリアは凍りついた

 

その時の千冬の目は、明らかに殺意を込めたものだった

 

 

 

 

 

私は間違った事をしたのでしょうか?

 

フィリアさんを強制的に本国へ連行し、その結果

 

彼女は自身を否定し、逃走

 

王妃様の望みは、彼女が生きているかどうかの確認が取れればよかった

 

ただそれだけだったのだ

 

でも、その結果・・・オークトレア国立病院の護衛発砲事件に発展し

 

王妃様の母上様が重症、フィリアさんのお母様であり前王妃様が息を引き取られた

 

・・・・・全て、フィリアさんの存在が起こした事件

 

そう考え、自分の中でフィリア・フェイリールドという存在を消した

 

 

 

 

 「フェイリールドの件についてだ。向こうで何があった?」

 

 「何の事だか理解しかねますわ」

 

 「話を変えよう。これに見覚えは無いか?」

 

と、千冬が端末にとある画像を表示させる

 

その画像を見たセシリアは、すぐに回答する

 

 「先日英国領内より離脱を図った所属不明機です・・・」

 

そう、翼の端を紺色に彩られたロールアウトしたばかりの新型戦闘機

 

記念すべき第一号機は”鬼神が乗っている”ような塗装パターン

 

元より、開発された理由が”有人戦闘機としての限界”を突き詰める事にあった

 

過去に開発された試作戦術戦闘機達は、確かに戦闘能力は高かったが

 

専用武装や装備、試作段階の物に置き換えた部品等々によって機体が肥大化し

 

システムが特殊なものも存在していたため、共通してピーキーで扱いにくい

 

という欠点を持っていた

 

必然、整備性も劣悪で試作機の為機体各部のパーツの予備が極めて少ない

 

故に、研究段階で試作機止まりの未完成の機体が殆どである

 

しかし、その中でも量産化・実用化の面においての完成度が非常に高かった機体があった

 

 CFA-44 通称”ノスフェラト”

 

エメリア・エストバキア戦争において初の実戦投入

 

その一機の猛威は、エメリアの戦闘機隊を壊滅状態にまで追い込んだ

 

終戦後、国営工場内に待機していた試作二号機と先行量産機を接収したオーシアは

 

戦後密かに解析し、三年後XFA-45実験機兼量産試作機・・・通称”ガルムライド”を完成させた

 

そして間も無く有人飛行に成功し、量産機の生産が開始される

 

 「この機体の所属は、日本国立特殊高等学校IS学園、特務護衛戦闘機隊一番機

 

  即ちーーーーガルムの機体なんだ」

 

 「・・・それと何の関係が」

 

 「この機体は未明、この学校の滑走路上空に帰還した

 

  しかし燃料切れによって失速、そのまま学園滑走路へ墜落」

 

 「そんな事、私に言われても困りまーーー」

 

 「機体は大破、F-45のパイロットの名はーーーーフィリア・フェイリールド」

 

 「ーーーーー・・・」

 

 「これが何を意味するか判るか小娘

 

  判らないと言うのなら教えてやろう・・・

  

  お前達は、IS学園に在籍する生徒を殺そうとした

 

 「そ、それと私に何の関係がーーー」

 

 「関係だと?見苦しいにも程がある・・・

 

  お前はあの戦闘機にフェイリールドが搭乗している事を知っていただろう」

 

 「それは・・・」

 

 「それに、彼女の正体について知った上でそれを行った

 

  回収する事を前提としたのか、お前があの空域に居た事が証拠だ」

 

 「イギリス領内で起きた領空侵犯と不法出国についての処理ですわ」

 

 「オルコット、お前は知らないだろう」

 

 「何をですか?」

 

 「領空侵犯については既に解決している

 

  我が学園と英国は”あの機体が領内に入る前に”飛行計画書を送り

 

  それは既に承認されている。ただ都合上、その基地への連絡が遅れた為

 

  当初、不審機として扱われた。確認を取ったら直ぐに解る

 

  そして不法出国についてだが、彼女は”母親”から既に許可をもらっているんだ」

 

 「ーーーその証拠はおありで?」

 

 「その時、打鉄零式からIS学園に通信があった・・・音声照合一致

 

  間違いなく彼女の母親だった。名前を出しても構わない

 

  データも残っている。そして、私は託された・・・今後の彼女の保護者は私だ」

 

セシリアに、千冬は言い放った

 

 「私の家族に手を出せばどうなるか解っているな?」

 

そうして、セシリアは理解する

 

織斑先生を・・・世界最強を、イギリスは敵に回した事を

 

そして、彼女自身の行動を思い出してみる

 

彼女の行動は・・・一夏さんが追いかける程の理想的な”正義”そのものだった

 

困っている人が居たら迷わず手助けし

 

悪さをしている悪人が居れば、その所業で傷ついた人が居れば

 

・・・我が英国の伝承のように、確固たる正義心を持って撃滅・・・そして救済を行う

 

小さな事でも、たとえそれが国全体を揺るがすものだったとしても

 

彼女は、躊躇無くその危険な場所に飛び込んでしまう

 

自身の身を省みず、たとえ自身が傷つこうと

 

それを体言したのが、学年別トーナメント

 

ラウラさんが暴走した時、その矛先が一夏さんに向いた瞬間

 

彼女はなんの躊躇いも無しにその間に割り込んだ

 

彼女の打鉄にはあの一撃を防御できるだけのシールドエネルギーは残されていなかった

 

それにも関わらず、彼女は一夏さんを庇った

 

その結果、一夏さんは軽症で済み

 

フィリアさんが、ISの保護作動する程の傷を負った・・・はずだった

 

しかし、彼女自身は傷一つ無く無傷、気絶しただけで終っていた

 

あれだけの一撃を受けたのにも関わらず

 

それはISが、絶対防御云々ではないシステム外の要因で守ったから

 

そして、彼女が搭乗した打鉄の戦闘経験値、機体安定率共に出力測定不能

 

その機体は、現在も搭乗者を拒む機体になっていた

 

彼女以外が乗る事を拒絶するように

 

IS学園側はこの機体の凍結、及びデータ収集を行っているものの

 

アクセスを許否するこの機体は、それこそ初期の零式のようになっていた

 

その原因は、フィリアさんに間違い無い

 

それだけ・・・・全てを変えるだけの力をフィリアさんは持っていた

 

現に一組のあの和やかな空気を作っていたのも彼女だった

 

今のクラスの雰囲気を見れば直ぐに理解できる程、目に見えて彼女の影響力が大きかった

 

 「・・・イギリス政府は彼女の存在を快く思っていない人間が多いです

 

  何せ、今まで姿をくらましていて突然現れたのですから」

 

 「そうか・・・お前はどう思っている?」

 

織斑先生が試すかのように尋ねた

 

私は・・・私は・・・

 

あの、一夏さんと同じ強い意志を宿した瞳を裏切る事はーーーー

 

 「・・・私としては、フィリアさんこそ今の本国に必要な人物だと思います」

 

 「・・・・・・」

 

 「そして、私は恩人に泥を塗る行為を良しとはしません

 

  フィリアさんは、私の進むべき道を示すと共に私を救ってくれた恩人です」

 

そう、フィリアさんは私に教えてくれた

 

実力以外の、ありとあらゆる意味での力を

 

そして、人としての優しさと強かさを

 

 「・・・十分だ。それと言っておく」

 

 「なんでしょうか?」

 

 「済まない。お前なりにも悩んだだろう

 

  だが、あの人に彼女を任された以上・・・

 

  フィレイア・V・リーファフロイスという皇女としてではなく

  

  それ以外の・・・彼女の唯一たるそのものの名前で生きてもらいたい。そう私は願う」

 

 

 

 

 

 

教室の温度が、いつもよりもかなり低い

 

普段居る場所に、あいつが居ない

 

書類関係の仕事が捗らない

 

 「あの・・・織斑君・・・」

 

 「・・・ん?ああ、ごめん。少しボーッとしてた」

 

 「朝から大丈夫?保健室に行ってきた方がいいんじゃ・・・」

 

 「いや、大丈夫だ・・・心配かけた。それで、用件は何だ?」

 

 「えっと、学園祭の出し物の備品と食材関係、あと調理器具の申請書の件なんだけど」

 

 「調理器具や食材は食堂のおばちゃんから一通りは確保できるし、後は服関係だな」

 

 「・・・・・・・・」

 

どれだけ、俺はあいつに頼ってたんだろうか

 

あいつの存在はこのクラスにとってかなり大きなものだった

 

あれから皆が、休み時間あいつの席に目を一度向ける・・・それが証拠だろう

 

 「・・・・・・」

 

あいつ・・・元気にしてるかな

 

 「ね、ねえ・・・あれ・・・」

 

と、のほほんさんが窓の外、病院棟の屋上を指差す

 

その病院棟の屋上の手すり部分に、人が居た

 

白式の光学目視センサーでその人影を明瞭に拡大する

 

じいっと空を見つめる、真っ白な長髪を風になびかせている少女

 

その背中に、大きな翼を携える

 

だが、服を見て俺の中で何かが引っかかった

 

 「あれって・・・この学校のシンボルの・・・」

 

 「え?それってこれの?」

 

 「でも、ありえないよ。存在する訳が無いもん

 

  背中に翼を生やしてるなんて・・・それはもう人間じゃないよ」

 

人間じゃない?・・・いや、間違いなく人間だ

 

ただそれと似たような人を俺は知っている・・・

 

どことなく自然で、どことなく消えてしまいそうだった存在

 

そうーーーーあの、臨海学校で見たあの夢の世界の少女だ

 

 

 

 

 

 

 

 「一夏の様子がおかしい?今更だろう」

 

放課後、カフェテラスにてコーヒーを飲んでいる少女達は再び会議を始めた

 

メンバーは一組の専用機持ちと二組の鈴

 

そしてーーーー

 

 「誰よ。アンタ」

 

一人、ラウラと同じ色の髪を短く纏めた少女が居た

 

静かに自己紹介をする彼女はある意味世界的な有名人である

 

だが、専用機持ち達が知る由は無い

 

 「何しに来たのよ」

 

 「人探しです。一年一組に在籍しているフィリア・フェイリールドという方を知りませんか?」

 

 「「「・・・・・」」」

 

 「どうかしたんですか?」

 

真実を知らない彼女は首を傾げるほかない

 

 「フィリアは・・・今日から休学になったんだ・・・」

 

 「・・・・何故ですか?」

 

 「理由はわからん。とにかくフィリアはここには居ない」

 

 「そうですか・・・失礼致しました」

 

そうして、彼女は去っていった

 

 

 

 

 「(退学?彼女のような人が?ありえない・・・やっぱり別人なのかな)」

 

廊下を進みながら、少女は考える

 

 「(詳しくはわからないけど・・・何か、恐ろしく空が静かだ

 

   それこそ、嵐の前の静けさみたい・・・)」

 

感覚的にそう悟った、そして風の流れが変化する

 

 

 

 

 

 

 「何?スロックケイドがパイロット?」

 

 「はい・・・それも特大級のエースパイロットで・・・」

 

職員室にて、二人の教員がコーヒー片手に秘密談義をしていた

 

一組担当の鬼教員と、三組担当の優教員である

 

 「ほう、そうか」

 

 「・・・信じてませんね」

 

 「信じられるか。こちらも弩級の爆弾抱えているもんでな」

 

 「あなたが弩級と言うと現実味を帯びませんね・・・」

 

二人は探りあい、そして牽制を掛け合う

 

 「しかし肝心のウチのエースは今は療養中なんだ」

 

 「あら?逃げるのかしら?」

 

 「言えばいいさーーーどうせ返り討ちに遭うだけだからな」

 

そうしてお互いの探りあいを終えた両者は互いに思っていた

 

もしーーークラスに紛れ込んだエースパイロット達が邂逅した時、何が起こるのか

 

記録に残る戦歴ーーーそしてその戦力は、”単機で一個航空師団”

 

それに互角に渡り合えたとして、更にその二人がISという力を手に入れた時にどうなるのか

 

ーーー身震いする

 

軍隊など話にならない

 

世界を敵に回しても勝利する事が望めるだけの圧倒的な戦術、戦略兵器になりかねない

 

抑止できるだけの力が、この世界にあるとは思えない

 

そして、それはある意味矛盾を孕んだ

 

なぜならば・・・二人が選んだ”大切なものを守る”為の力を持つという事は即ち

 

ーーーーーー世界を破壊する事ができるだけの武器としても転用が可能だという事

 

そして、その先に見える未来を回避するために

 

教員二人は、互いを”抑止力”という枷にする結論に至った

 

 

 

   皮肉にも、彼女が最も嫌うものと同じ”相互抑止”を受ける事となった

 

 

 

だが、抑止力として作用する事はまずあり得なかった

 

抑止力というものは、相手と同等かそれ以上の力を持った時にのみ作用する

 

状況的には”正面から大砲を向け合っている状態”

 

  ”撃てば自分も撃たれる”

 

  ”発射から着弾までのタイムラグの間に相手に撃たれる”

 

そうなれば無理心中と同じである

 

そんな危うい状況を保つ方法が、相手と同等の力を向ける

 

この”一組と三組の教員による妙な意地の張り合い”がまさにそれだった

 

当然・・・既にその抑止論は成立していないのだが

 

 

 

 

 

整備室に来た私は、並べられた訓練用打鉄を見回す

 

 「・・・これが、今や戦闘機の代替なんてね・・・」

 

サイファーさんは何ていうんだろう

 

私は・・・寂しい

 

F-22だったラプアはずっと寂しそうに蹲ってる

 

この時代に来た時だってそうだ

 

周りに知っている人間は誰もいない

 

だから・・・あの人の名を聞いた時

 

物凄く・・・嬉しかった

 

だけど、彼女は休学になったと言う

 

原因はわからないけど、彼女の人柄上、不祥事では間違いなく無い

 

ありえないからこそ不自然だ

 

だから、恐らく彼女も触れたであろう機体の所に来ていた

 

でも、どれが彼女が使ったものなのかは解らない

 

 「手当たり次第って事かな・・・」

 

と、手を触れようとするーーーが

 

 ーーーーこっちですーーーー

 

呼ばれるーーーその向こう側に

 

 

 

 

 

 

 

 「失礼、特務戦術教員のブロットだ」

 

 「あ、ブロット先生。何の御用ですか?」

 

 「いや、生徒の様子を見に来ただけだ」

 

 「来客が多いですね、それだけ彼女が慕われているって事でしょうけど」

 

 「来客が多い?」

 

 「ええ、彼女が休学と通達されてから計18人。

 

  そこまで詳しく説明していないにも関わらず、それだけの生徒が

 

  病気による休養中と勘ぐってここを訪れました」

 

 「勘ぐるだけじゃ来ないだろ。それ以外に何かあったって事じゃ無いのか?」

 

 「・・・・・・・」

 

押し黙る木里先生

 

そして、ぽつりと口に出した

 

 「生徒が教えてくれました」

 

 「何をだ?」

 

 「フェイリールドさんは言ったそうです

 

  ”私が居なくなる時があれば、それは帰る事ができなくなったって事だよ”

 

  って・・・私にはどういう意味かは判らないですが、

 

  その言葉がクラスの全員に伝わってしまったらしいです

 

  彼女の影響力がどれだけ大きいものなのかがよく伝わる言葉でした・・・」

 

そうか・・・

 

居なくなる時か・・・

 

俺の中で思い浮かんだ選択肢は一つしかない

 

 「それで、あいつはまだ”くるまった”ままなのか?」

 

 「ええ、まだ・・・・」

 

 「そうか・・・」

 

 「あ、そうでした。一人だけ不思議な生徒が居ましたよ」

 

 「?名前は」

 

 「名前は確か・・・ヘイト・スロックケイドさんです。三組の」

 

・・・どこかで聞いた事のある名前だな

 

どこだ・・・何かヤバイやつの名前だったような気がする

 

現在、医務室にはあいつの姿は無い

 

アイツが置いてあるのは、この学園の訓練機保管ルーム

 

全てのISが揃う場所に、あいつは運ばれている

 

 「IS委員会への通達義務の範囲外なのが救いとはいえ

 

  いくらなんでも異例すぎます。この特例、恐らく彼女以外に発令される事は

 

  無いでしょうね」

 

それから他愛もなく話しをして医務室を出た

 

 「全く、いつもあいつは特が付く程規格外だな」

 

頭を掻きながら廊下を進むポートマス

 

行く先は彼女の元、訓練機整備保管室

 

彼女はーーーそこで塞ぎこんでいる

 

 

 

 

 

 

 ーーーこっちーーー

 

打鉄に触れようとした途端、頭に直接声が流れる

 

そして、呼ばれた方向に自然と足を進める

 

 「・・・ここから?」

 

そこには、白い機体に蒼いラインの入った打鉄があった

 

ロックユニットの機体状態を表示させると

 

 「IS学園特務戦闘隊一番機・・・」

 

と、私の前に表示が現れた

 

 ”あなたに、彼女の気持ちが理解できますか?”

 

そう、表示されていた

 

彼女とは誰なのか

 

その表示はそこには無い

 

だけど・・・だけど・・・

 

記憶がーーーー彼女の全ての感情が入り乱れる

 

それを処理するだけの心を、彼女は持っていなかった

 

 「うぁ・・・あ・・・・あぁ・・・・」

 

頭に容赦なく流れ込んでくるそれを制御しきれなくなった彼女は

 

その場で座り込み、そして倒れた

 

 

 

sistem....rogon

unit...openlock "AOHAGANE"

  

stratya control....main sistem online

 

driver setup....calling "START TYPE ROOM"

 

sistem all bull..........

 

 

 

 

 

少女の目の前の打鉄が、粒子となって消え

 

小さな小鳥へと姿を変えた

 

それは小さな道標だ、世界に存在するたった一つだけの小さな航路だ

 

 「・・・連れて行って下さい」

 

あの人の所にーーー彼女の所に

 

 

 

 

 

 「打鉄蒼式、起動を確認!!」

 

 「ッ!!誰が動かしている!?」

 

管理ルームでは突然表示されたアンロックに驚く教員達がいた

 

 「搭乗者・・・コールサイン ”メビウス1”」

 

 「という事は、スロックケイドか!?」

 

 「い、いえ、スロックケイドさんかどうかは・・・」

 

と、モニターの向こう側で動きがあった

 

零式があった場所には、小さな小鳥がぽつんと機体固定アームに止まった

 

そしておもむろに起き上がった少女は、鳥が羽ばたく方向に歩みを始める

 

打鉄蒼式・・・量産型打鉄に起きた特異なフラグメントマップ構築に対応した形態

 

本来、量産機であると同時に訓練機でもあるこの学園の打鉄は

 

通常では誰でも同じように扱えるように、打鉄のコアのマッピングシステムをロックしている

 

マッピングしないという事は、IS特有の”搭乗者に合わせた進化”が行われないという事になり

 

即ち、形態移行はもちろん武装、機動、パワーソースの割り振りなども変化しないという事である

 

しかし、この打鉄はその量産機でありながら

 

機体が自動的にマッピングシステムをアンロックし、ある搭乗者の為に最適化

 

そして、本来ではできないはずのセカンドシフトまで行っていた

 

その結果、生まれたのが打鉄特殊形態・・・教員側通称”打鉄蒼式”

 

    正式名称”蒼羽鋼”アオハガネ

 

エネルギー出力 計測不能

 

思考制御反応対応速度 ランクS以上

 

最大巡航速度  958km/時

 

戦闘機動速度  324km/時

 

スラスターリンク時の出力 通常の打鉄の2.4倍

 

防御性能  ランクE以下 

 

このように、仕様だけを見れば第三世代機に匹敵又はそれを上回る数値を叩き出している

 

・・・が、防御性能が低くシールドエネルギーの容量が通常の60%になっている為

 

オールラウンダーではなく、無駄を削ぎ落とした性能特化機と言えるだろう

 

それだけに誰でも扱える手軽な入門機では無くなり

 

限りなく”玄人向け”な機体へと大きく変わってしまったのである

 

そして、一部整備科の生徒からはこう評されていた

 

 ZEKEーーーーゼロ  

 

太平洋戦争時の日本主力艦上戦闘機・・・零式艦上戦闘機

 

その性能と類似する基本性能と特性

 

1000馬力級というレギュレーションを設けたとすれば世界最強の軽量高機動戦闘機

 

低高度での格闘戦という超近接戦闘において、同世代の戦闘機を圧倒的に優位に戦闘ができた

 

そして、この戦闘機は1000馬力弱という当時としては低出力な発動機を搭載し

 

軍の要求を満たすべく、機体の基本設計の段階で完璧なまでの軽量化を行われた

 

その一部分が、パイロットを守る為の防弾性能を廃止・・・機体の内部フレームにも多数の肉抜き

 

この結果、パイロットの負傷率増加に繋がり

 

肉抜きによる機体強度不足により、急降下性能低下に繋がった

 

発動機周りの技術不足、資材不足により高高度性能があまりよいとは言えなかった

 

だが、反映された機体性能・・・そして零式艦上戦闘機独特の空力を考えられた機体形状

 

零式艦上戦闘機は、海外でも類を見ない知名度と人気を誇っている

 

整備科の生徒は、この二つの機体を重ねてしまったのだ

 

だが、それは間違っていない

 

 

 

 

    二つの”ゼロ”は、繋がっている

 

 

    たった一人の”鬼神”の為に

 

 

 

 

 

 

 

 

   余談ですが、零式艦上戦闘機は現用機をあわせた中でも作者が二番目に好きな戦闘機でもあります

 

   一番目?二式水上戦闘機(零戦21型にフロート付けて水上機にした機体)

 

   友人「結局ゼロ戦じゃないか(呆れ)」

  

   作者「零戦だよ(半ギレ)」

 

   今の技術で零戦を履修してみても、当時の技術者や職人の人がどれだけ手をかけたかが

 

   解る気がします。現代ではコンピューター制御の旋盤や機械切削が可能ですが

 

   それをコンピューターが発達していないあの時代で、全て手作業で行っていた職人

 

   それを乗りこなしていた日本のパイロット達

 

   その人達全てを含めて、零式艦上戦闘機は”最高の”戦闘機だと自分は思います

 

   ・・・・・・・・・何よりカッコイイ(台無し)    

   

   と言うどうでもいい感想は置いておいて

 

   結構続いたなぁこの駄文も

 

   ここまで引っ張るとは・・・月イチ更新もできないドン亀更新

 

   一応、次の月で執筆を無期停止します。

 

   残り一ヶ月。やれるところまで執筆を続けようと思います

 

   意見感想募集中

 

   どうぞよろしくお願いします

 

   

 

 

 

 


 
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