No.75966

おにむす!⑧

オリジナルの続き物

2009-05-28 00:50:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:996   閲覧ユーザー数:949

鼻をくすぐる微かな匂いに矢崎は目を覚ました。

「やべっ!眠っちまった」

がばっと身を起こすと毛布がはらりと落ちた。

見れば、秋穂の姿がない。

「!?」

「あ、秋穂!!」

部屋を飛び出すと驚いた様子の秋穂が出迎えた。

「お父さん、どうしたの?」

黄色いエプロンを身に着け、その手にはお玉が握られていた。

「な、何してんだ?」

取り乱した事が恥ずかしかったのか、矢崎は咳払いを一つして秋穂に顔を向けた。

「朝ごはん、お父さんに食べてもらおうと思って」

にこやかに応接用テーブルの上に広げられた朝食を指す。

白いご飯、ワカメと豆腐の味噌汁、目玉焼き、漬物が綺麗に並べられていた。

「へぇ、一人で作れたのか?」

「うん」

秋穂はエプロンを外して、矢崎をソファーに座らせる。

矢崎は昨晩の事を思い出しながら、料理に箸をつける。

料理そのものは素晴らしく美味しかった、しかし、矢崎の顔は晴れなかった。

「美味しく・・・なかった?」

少し悲しそうな顔で矢崎の顔を覗き込む。

「あぁ、ごめん美味しいよ。ありがとうな」

秋穂は頬を赤らめて満足そうに微笑んだ。

 

「なぁ、秋穂」

食事を終え、食器を片付ける秋穂に矢崎は声を掛けた。

「なぁに?」

「無理してないか?昨日の事もあるんだ、辛かったら辛いって言ってもいいんだぞ?」

いつにも増して饒舌な秋穂に矢崎は違和感を覚えていた。

「・・・辛いなんて言えないよ」

秋穂の顔に影が差し込む。

「教えてくれないか?秋穂の事・・・」

秋穂の肩がビクンと跳ねる。

「悪いと思ってるが、頭の『角』にも気がついた」

秋穂の手からお皿が滑り落ちた。

「それで・・・、お父さんも私を怖がって捨てるの?」

目から涙を零し、その場に座り込む。

「『も』?」

「そうやって、自分の理解できない『モノ』を否定するの?」

秋穂の目が赤く染まった。

瞬間、秋穂の手が矢崎の首に飛び掛った。

見た目からは想像できない程の力に矢崎は耐え切れず床に倒れこんだ。

鋭利な爪が矢崎の髪をかすめると、はらはらと切れ落ちた。

(あの時、服を切ったのはこれか・・・)

「大人なんて、皆そう!!!子供に価値観を押し付けて、さも自分が正しい顔をする!!!」

「あき・・・ほ」

朦朧とする意識の中で矢崎は自身の首を絞める秋穂を抱き寄せた。

「お前・・・が、なん・・だろうと関係ない・・・、お前は・・・俺の・・娘だ・・」

予期せぬ言葉に秋穂の手が若干緩んだ。

「教えてくれ・・、お前が傷ついてるなら、その傷は俺が包んでやる。これから傷つく事があるなら俺が守ってやる。父親らしいことをさせてくれよ!」

赤い瞳が徐々に緑へと変化していく。

涙が出た、生まれて初めて、何かを許された様な気がした。

「私は・・・、うっく、ぐす」

矢崎はそんな秋穂の頭を撫でてやる、今度こそ触るなとも言われない。

まだ出会って1週間と経ってないが、2人の距離は確実に縮まっていた。

「大丈夫だから、時間はたっぷりあるんだ」

やがてある程度の落ち着きを取り戻すと、秋保はポツポツと言葉を紡ぎ始めた。

 

「とんだ見込み違いだな」

盗聴器から拾った矢崎の言葉を暗がりで聞いている男がいた。

見晴らしのいいビルの最上階に位置するオフィス、眼下に広がる夜景に目を細めながら男はつぶやいた。

「奴は他人の過去に干渉しないのではなかったのか?双波」

暗い部屋の入り口付近に立つ双波が答えた。

「はい、先日までは確かに」

「まぁ、邪魔になるようなら消すだけだ。今までのようにな」


 
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