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ALO~妖精郷の黄昏~ 第61話 妖精郷の戦い

本郷 刃さん

第61話です。
今回はアルヴヘイム各領地での戦闘の様子になります。

どうぞ・・・。

2015-02-15 17:51:55 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6196   閲覧ユーザー数:4761

 

 

第61話 妖精郷の戦い

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

――アルヴヘイム沖

 

第二幕が開けた午後2時、各地でボス達が現れてそれぞれがNPCやMobを率い、プレイヤー達も戦い始めた。

丁度その時、妖精郷であるアルヴヘイムを囲む海、その八方から船団が侵攻してきた。

一つ一つの船が黒色であり、闇のような霧を纏っており、腐臭のような臭いを放っている。

 

『ナグルファル』、炎の巨人族(ムスペル)が所有する巨大な船だ。

この船はロキの娘であるヘルが集めた死者の爪で造られており、巨人達や死者の軍勢を乗せている。

腐臭は死者の爪と、なにより死者達自身から放たれているのだ。

ラグナロクにおいて神々を討ち滅ぼすために進軍する彼らは、この世界(ALO)でも敵を倒すために送られてきたのである。

 

このナグルファル船団が攻めてくる八方、それはオーディン軍に属する8つの種族の領地がある遠海からだ。

ウンディーネ領、インプ領、サラマンダー領、シルフ領、

ケットシー領、プーカ領、ノーム領、レプラコーン領、以上八領地へ向けて船団が進軍している。

また、ロキ軍であるスプリガン領には船団が向かっていないものの、一際巨大なナグルファルがスプリガン領に接近している。

他の船に比べてそれだけが速く移動して、10分も経たない内にスプリガン領に接岸した。

そこから次々と巨人達と死者達が陸に上がっていき、央都アルンの方面に向けて進軍を開始した。

味方であるスプリガン領に被害を与えることはなく、ただ世界樹を落とす為にアルンへと向かっていく。

 

そんな中、徐々に各領地へ進んでいく船団の内、1隻が破壊されて沈んでいった。

大きな衝撃と共に海中からあまりにも長い巨体が現れ、攻撃を仕掛けたのだ。

 

「余を救ってくれた妖精達への恩返しだ。全てとはいかずとも、沈められるだけ沈めてくれよう」

 

Bahamūt the Behemoth Emperor(バハムート・ザ・ベヒモス・エンペラー)〉、『海と空を統べる御子』たる存在だ。

その姿はドラゴンのようであり、それでいて魚にも見える。

頭はドラゴンと同じ大きな口と鋭い牙を持ち、眼光もまた鋭さを放っている。

体は“竜”というよりかは日本の“龍”のようで、けれどドラゴンという種族とは違い、前脚も後脚も無い。

代わりに翼のような形をした鰭が左右に2枚ずつあり、強いて言うならば海蛇と言っていいかもしれない。

首の付け根から尻尾に向けて背鰭が付いていて、特に尻尾の尾鰭は刃物のように鋭い光を放っている。

その巨体はヨルムンガンドに次ぐ長さと大きさを誇り、HPゲージも9本と異常に高いのだ。

 

そんな彼はアスナ達に救われたことで正しく解き放たれ、その恩返しとして海側からの敵の侵攻を止める役目を選んだ。

バハムートによる攻撃で全てとはいかないが次々と船団が沈んでいく。

 

船の真下や真横や真上からその巨大な口で噛み付き、海から出る際に発生した津波が船を被い潰し、

鋭い尾鰭や翼のような鰭で船を切り裂き、口から放たれた水弾や水のブレスに水圧レーザーなどで船を破壊する。

生物の頂点であるベヒーモスの名を冠しているだけあり、軍団である船団でも圧倒的な攻撃の前に為す術もなく沈むしかない。

 

「海において余の上をいこうなどとは、笑止。死者は死者らしく息絶え、巨人共は大人しく沈んでいるがいい」

 

当然ながら容赦なく船を破壊するバハムートだが、

彼は一ヶ所に留まることはせずにアルヴヘイムの海を回遊して各領地の遠海で船を攻撃している。

一ヶ所の船団を攻撃している間は別の場所に赴けない為、その場所のナグルファルは突破してしまうが、

バハムートが居なかったことを想定するとオーディン軍にとっては十分有り難く、ロキ軍にとっては非常に厄介なことだ。

 

だが、ナグルファル船団は破壊されても新たに出現し、アルヴヘイムを目指して進軍する。

そしてそれをバハムートが阻止するという、堂々巡りになっている。

これを打開するにはロキ軍がバハムートを打ち倒して船団の進軍阻止を止めるか、次の時(・・・)が来るのを待つしかない。

 

「だが、幾ら沈ませられようとも向かってくるその意気やよしとしておこう」

 

巨人達や死者達に意気(AI)はないが、それでも自身らに定められた行い(システム)に従うのだ。

ただ戦い、敵を討ち滅ぼせ、それこそがこのラグナロクの表の姿なのだから。

バハムートは船を破壊し続け、船団はなおもアルヴヘイムを目指し続けた。

 

 

 

バハムートがナグルファル船団への攻撃を仕掛けてから1時間以上が経った頃、アルヴヘイムの各領地から炎が迫ってきた。

炎は海さえも燃やし、その海の水温を上げていき、沸騰させていく。

その熱さに怯むことなく、バハムートはその状況を悟る。

 

「世界を焼き尽くす炎……ムスペルの炎か、それとも戦乙女の悲炎か、どちらにせよ止める術など無いな…。

 しかし、余のやることに変わりはない、巨人と死者を乗せる船を破壊するだけよ」

 

例えこの世界ALOを炎が焼き尽くすとしても、止める術などない。また、己に課せられた為すべき事を為すだけだから。

 

「さぁ、巨人と死者達よ。時が来るまでの間、余が沈みつくしてくれる!」

 

バハムートは再び泳ぎだし、ナグルファル船団を破壊し尽くしながら回遊を続ける。

 

 

 

 

――アルヴヘイム・レプラコーン領首都

 

アルン高原でボス達が散って逝く中、このレプラコーン領でも戦いが展開されていた。

 

「くそっ、また入ってきやがった!」

「これ以上の侵入と攻撃を許すなぁっ!」

「無理だ、数が多すぎる!」

「それに、この攻撃の嵐じゃ、反撃もままならない!」

 

レプラコーンのプレイヤーを中心にオーディン軍の者達が、

侵攻してくるロキ軍の軍勢を相手に防衛戦を行っているが旗色は良くない。

ロキ軍はスプリガンが最も多いが、レネゲイドである多種多様な種族、領地に所属しないソロプレイヤーやギルド、

レネゲイドだが悪質なプレイヤー、そしてナグルファルに乗ってこの領地に攻め入ってきた巨人や死者達、

それらの攻撃によって防戦一方となるしかないのだ。

 

「気を抜くでないぞ! 隙を見せれば防壁を破壊してくるだろうからの!

 防壁に張り付く奴らや魔法を放ってくる奴に魔法や矢の雨を降らせてやるように! 大規模魔法を使っても構わん!」

「「「「「はい!」」」」」

「(とは言ったものの、これは厳しい……ボス壊滅まで保つかどうか…)」

 

翁言葉で喋る赤銀の髪のレプラコーンの男性、レプラコーン領主のコテツだ。

巨大なハンマーを両手で持ちながら指示を出す彼だが、いまの戦況を鑑みて不味いと判断した。

まずは戦力差、防衛組はプレイヤーの数で勝っているが侵攻組の方は練度が高いプレイヤーが多く、

さらにアルン高原には味方であるNPCが居るがこの場所にNPCは居らず、相手にはMobの軍勢が居る。

圧倒的大差ではないものの大差と言って差し支えないだろう。

 

だが、彼とて1種族の代表であり、彼らもまたレプラコーンという種族であると同時に鍛冶師であり、創作者である。

彼らには彼らの意地と戦い方がある。

 

「お前達、アレ(・・・)を持って来い!」

「ア、アレ(・・・)をですか!?」

「本当にアレ(・・・)が役に立つんですか?」

「役に立つかどうかは知らん。だが、このグランド・クエスト用のモノらしいからの。起死回生の一手になるか、試すのだ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

コテツの言葉に従い、数人のプレイヤーが主都の奥に移動していった。

その際に主都に入り込んで来たロキ軍のプレイヤーや死者達を相手に、コテツが応戦する。

 

「本業は武器製作だが、偶には領主らしさも見せるかの」

 

自身に活を入れるかのように大きく深呼吸をし、言葉を呟いた。

直後、一気に前進してコテツはハンマーを振りおろし、ロキ軍のプレイヤーを吹き飛ばした。

圧倒的なパワーの前にハンマーで殴られた者は一瞬でHPが0になり、ポリゴン片となって消滅した。

 

レプラコーン、工匠妖精族の特徴と言えばその字の通りの物を作る者、鍛冶や製作にある。

その最もたる特性と言えば『古代級武器(エンシェント・ウェポン)』を作ることが出来ることだ。

確かに他の種族でも《鍛冶》スキルを手に入れることはでき、鍛冶師となって武器や防具、装飾品などを作ることは可能だ。

だが、古代級武器を製作できるのはレプラコーン以外にはいない。

その反面、戦闘能力は他の種族に比べると低い。

 

だが、戦闘能力が他の種族に劣るとはいえ、コテツが、強いては総じてレプラコーンが弱いというわけではない。

レプラコーンのプレイヤー、その多くの武器は棍系統かその派生であるハンマーだ。

鍛冶を行う者はみな鍛冶用のハンマーを使う為、武器もそちらの系統が多く、パワー主体となることがほとんどだ。

SAOからのデータ引き継ぎとはいえ、ルナリオやリズもその一角であり、コテツもまたレプラコーンの筆頭であるパワービルドだ。

その力は並みやそれ以下の者では間違いなく一撃、それ以上でも大きなダメージを負うことになる。

 

「ほれ、まだ行くぞ!」

 

一撃の振りが大きいから避けられる可能性も高く、連撃もままならない。

しかし、コテツは腕と手を器用に動かすことで珍しいハンマーによる連撃を行う。

パワーでありながら連撃を行う、これは相当に厄介なものである。

コテツ自身の力もあり、次々とロキ軍のプレイヤーやMobは倒されていく。

 

そんな中、先程主都の奥に向かっていったオーディン軍のプレイヤー達が戻ってきた。

何やら大きな物を幾つも引っ張って。

 

「準備を整えろ!」

 

コテツの指示によって運ばれてきた物、それは昔の戦争などで使われた投石器に似た物である。

それを使用するために準備が行われていく。

 

「大型魔法瓶、1番から6番まで設置完了!」

「斜角調整良し、目標地点設定完了!」

「味方への回避と敵誘導後の撤退指示完了!」

「弓部隊の配置完了!」

「いつでも撃てます!」

「よし!3、2、1、撃てぇっ! 続けて弓部隊、撃てぇっ!」

 

コテツの号令と共に主都の外にいるロキ軍の中心に向かって弧を描きながら飛ばされていく大型の魔法瓶。

ある位置に到達するとそれを狙っていたかの如く、弓部隊が放った矢が魔法瓶に突き刺さり、破壊した。

 

次の瞬間、破壊された大型魔法瓶から雷の奔流が辺りを電撃が焼き尽くし、

別の魔法瓶が破壊されるとそちらでは炎の奔流が辺りを燃やし尽くし、また別の魔法瓶からは水の奔流が辺りに溢れ出し、

さらに別の魔法瓶の破壊によって土の奔流が辺りをのみ込み、それに別の魔法瓶の破壊に伴い風の奔流が辺りに吹き荒れ、

そして最後の魔法瓶が破壊された事によって氷の奔流が辺りを凍え尽くした。

 

「どうだ、これがグランド・クエスト限定生産アイテム『アイテムスロー』と魔法保存アイテムの『チャージ・マジックポット』、

 この2つによるコンボで離れた所からでも敵の中心に大規模魔法を発動させることができるわけだわい」

「コテツ翁、誰に言っているんですか?」

「いや、なんとなく言っておいた方がいい気がしただけだ」

 

コテツ翁とは彼のレプラコーン達からの呼び名であり、翁言葉を喋ることからつけられた。

 

彼が言った通り、投石器のようなアイテムはその名前から察せられるようにアイテムを投げ、相手にぶつける物である。

アイテムスローによって放られたアイテムはぶつかったプレイヤー、もしくはモンスターなどにそのアイテムの効果を齎す。

ポーションや回復結晶であれば回復させ、武器類であればその攻撃力に応じてダメージを与え、

それ以外の道具(防具類、家具、鉱石、木片、モンスター素材、等々)であれば軽微なダメージを与えることになる。

今後も使用は可能だがグラント・クエスト発生時、レプラコーンのみ生産が可能。

 

それにもう1つのアイテム、1種類だけ魔法を保存しておくことが可能な魔法瓶『チャージ・マジックポット』という。

サイズは小さい物からS、普通サイズのM、大き目のLサイズとなっており、見た目としては普通の洒落た透明な魔法瓶だ。

魔法を保存するとその魔法の種類に応じて色が付き、火属性魔法なら赤、水属性魔法なら青、氷属性魔法なら水色、

風属性魔法なら緑、雷属性魔法なら黄色、土属性魔法なら茶色、幻影魔法なら黒、回復系魔法なら白である。

また、Sサイズには下位の魔法、Mサイズには中位の魔法、Lサイズには上位の魔法を保存できる。

魔法矢と似た物であり、これもレプラコーンのみが生成可能。

 

「敵軍の損害は?」

「目測ですが3割ってところかと。まぁ6つの大規模魔法が中心地で発動しましたから、十分だと思います」

「よし、それなら続けてアイテム投擲連続で使用だ! 要らないアイテムを片っ端から投げ、叩き落としてやれい!

 それに、バリスタも使ってやるといいぞ!」

「「「「「アイアイサー!」」」」」

 

ケットシー領から派遣されてきたプレイヤーの報告を満足そうに聞いたコテツ。

次の指示を出してそれに返答が来ると自身も再びハンマーを掲げて戦いだす。

新たに引っ張ってきた迎撃兵装『バリスタ』と専用の矢を使い、巨人や空中のプレイヤーへの反撃に出る。

 

 

 

 

レプラコーン自慢の迎撃兵装により、戦況は盛り返したと思われた。

だが、いよいよ士気が上がってきた時、オーディン軍にとって最悪の状況が訪れた。

 

「コテツ翁、緊急報告です! アルン高原を北部から侵攻していた部隊がこちらへ向かって来ました!

 また、南部から侵攻していたと考えられる部隊もスプリガン領方面から…!」

「なんじゃと!?転移結晶の類で領地へ戻り、そこからこちらへ再侵攻してきたというわけか…」

 

各領地にはアルン高原へと続く道や谷、洞窟があり、当然だがレプラコーン領にも洞窟がある。

アルン高原北部を侵攻していた部隊はソールとマーニ、スコルとハティが死んだ後、

ノーム領へ続く洞窟とレプラコーン領へ続く洞窟を通り抜け、レプラコーン領の西部と洞窟のある南西部から侵攻してきたのだ。

 

「さ、さらに報告です!」

「えぇい、今度はどうした!」

「スプリガン領からの侵攻部隊に、スプリガン領主、グランディの姿を確認しました!」

「っ、グランディが自ら前に出てきたか…!」

 

唯一ロキ軍に所属することになったスプリガン領その領主であるグランディが、

レプラコーン領を落とすべく動き出したことに相違無いのだから。

 

「最悪の場合は主都を放棄することも考えなければならんな」

 

コテツは領主達の中で最も長く中立の立場にいる者であり、他の種族達の様子を第三者視点で見ることが出来る。

その為か他の領主のよく観察し、判断してきた。それ故にグランディの危険性も知っている。

 

コテツが知る中でグランディはトリックスターに近い一面を感じている。

グランディは他者に悪意ある迷惑こそ掛けないが、面白がって周囲を巻き込むイベントを行い、楽しむ気概がある。

他者も楽しんでしまうが、終わってしまえば苦労は彼とキリト以外が受ける羽目になるのだ。

 

自身は苦労をせずに楽しむ、それはグランディの自然な言葉遊びや雰囲気がそうさせるのかもしれない。

相手に気取られないほど自然に悪意なき策略に嵌める、悪意あるトリックスターよりも厄介なのだろう。

そんなグランディがこの場にやってきた。

 

「よぉ、コテツ。楽しんでいるかい?」

「楽しいかと聞かれたらこの状況じゃ、頷くことは出来んよ。

 だが、追い詰められているとはいえ、遣り甲斐はあるとは感じておる」

「十分だよ。1つ言えるのは、この戦争はゲームであってゲームじゃない、それだけだ」

「その言葉、SAOの茅場晶彦のもの……どういう意味かの…?」

「そっちにとっては大仰なクエストかもしれないし、こっちの何も知らない奴にとっても似たようなものさ。

 だが、キリトや俺を含めた奴にとっては、真面目な戦争ってだけ」

「お前がそのような表情をするとは、只事ではないようだの…」

 

話し方だけを感じ取ればいつも通りのグランディなのだが、その表情と雰囲気は軽い物ではない。

普段の彼を知るコテツはアスナとキリトの様子も踏まえ、さすがに異常事態なのではないかと思う。

 

「ま、気に留めてくれるだけで良いんだよ。キリトが解決してくれるらしいし、俺達は手伝うだけさ。

 それよりも、防壁の外を確認した方がいいぞ」

「なに? なっ、これは…!」

 

グランディに言われてコテツは外の様子を確認した。

そこには炎が山や大地を侵食し、果ては離れた海でさえも燃えている光景だった。

 

「キリトから聞いたんだが、なんでも『ブリュンヒルデの悲炎』、『ローグの炎』って言われるものらしいぜ。

 この炎はプレイヤーとムスペル、ボスに影響はないがそれ以外にダメージを与えるものらしい、建物でさえもだ。

 この意味解るよな? 陥落寸前の拠点を守るよりも、世界樹の方に行った方がいいと思うぜ。

 あ、ウンディーネ領も落ちたからな」

「お前は嘘を吐くことはないが人を乗せるのが上手く、だがそこに相手へのデメリットもない。

 それならば乗るのが妥当だろう、しかしそれで良いのか?」

 

撤退を勧めてくるグランディにコテツは怪訝な表情を浮かべて訊ねる。

可能な限り敵は倒した方が良い、なのにそれをせずに撤退勧告を行う、

これもやはり彼とキリトの考えなのだろうかと、コテツは推測する。

 

「別に問題は無いさ。むしろ世界樹に集まった方が良いぜ、俺達の目的はあくまでそこだからな」

「なるほど。では、有り難く撤退させてもらおう」

「コ、コテツ翁!? どうして…!」

 

グランディの言葉にコテツは同意して撤退を決めたが、やはりこのまま戦うことを考える者も居る。

けれどコテツは言葉を確かにしてそれを諌めた。

 

「奴はワシよりも強い。それにあの炎が世界樹を焼くというのなら、世界樹の防衛を優先しなければならん。

 敗北を招くわけにはいかんからの。なぁに、戦いが終われば領地は戻るはず。

 この場での敗北よりも最終的な勝利をもぎ取ればよい。さぁ、世界樹まで撤退するぞ!」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

レプラコーン領の者達はコテツの言葉をしっかりと受け止め、すぐさま撤退を開始した。

 

その際に長距離を運ぶ事の出来ない迎撃兵装を破壊しておき、さらに撤退間際に魔法と矢の遠距離攻撃、

大規模魔法やエクストラアタックによる範囲攻撃も忘れておかない。

結果、ロキ軍はレプラコーン領の主都を占領することは出来たが、NPCは壊滅し、

プレイヤーも少なくは無い数がやられて損害を負ったのは言うまでもない。

 

「コテツの奴、ちゃっかりとしてやがる。ま、こっちも無法者の始末が楽に終わったから有り難いけどな」

 

やられたという少なくないロキ軍のプレイヤーの多くは悪質な者達を中心に構成されており、

グランディはキリトと画策して制裁であることを隠して先兵として放り込み、実行出来たのである。

勿論、巻き込まれた普通のプレイヤー達は優先して復活させられ、

その悪質なプレイヤー達は復活させられずにリメインライトになった後、拠点へ強制的に飛んだ。

 

だが、レプラコーン領を占領できたのも確かであり、領地2ヶ所が落ちたのはオーディン軍にとって大きな損害になった。

 

 

 

 

――アルヴヘイム・ノーム領首都

 

レプラコーン領の西部に位置するノーム領。

ニブルヘイムほどの極寒地帯ではないが、氷雪地帯であることから地下に首都がある。

そのことから首都の防御力は各種族随一であり、

巨人達に至っては侵入が出来ずに立ち往生するかアルンへ向かうかになっている。

アンデッド型Mob達は侵入してくるが、攻撃力が高くは無いMob達は容易にやられる。

ロキ軍のプレイヤー達も攻めはするもののほぼ手が出せない状況な為、小競り合い程度の戦いになっている。

 

「長、レプラコーン作のバリスタのお陰で相当な防衛が行えています。

 メイジ部隊と弓部隊も頑張ってくれていますし、このまま守り切れるかと!」

「うむ、ロキ軍の奴らもさすがに手が出し難いようだからな。

 可能であれば、オレはここを離れて世界樹の防衛に向かう。炎の出現によって混乱が生じているからな」

「その時は俺らがしっかりと守ります! 耐久力はノームが一番ですから!」

 

長と呼ばれた者はノーム領の領主であるガイアース、筋骨隆々とした肉体に薄めの茶髪で斧槍を担いでいる。

彼の指揮するノーム達や派遣部隊は的確にロキ軍を迎撃し、徹底的な防衛を成功させている。

 

「ウンディーネ領とレプラコーン領が落ちた以上、ここへの攻撃も苛烈になるかもしれん。

 だが、逆に目的である世界樹を仕留めるかもしれない。可能性が様々だから、判断した時は迅速に動こう。

 別にここを放棄して世界樹を徹底的に防衛するのも1つの手であり、敵のボスを殲滅すればいいのだからな」

「なるほど。本当の目的を攻めてくるなら、それだけを守るのも手なんですね」

「ああ。とにかく、敵が動いても対応できるように、インプの者達に警戒を強めるように伝えてくれ」

「洞窟内の暗視はインプが一番でしたね。分かりました!」

 

敗北色が濃い中でノーム領は的確に対処し、士気を下げずに戦い続ける。

不動(ゆるがず)】のガイアースは常に冷静さを保ち、山の如くどっしりと構えている。

 

 

 

――アルヴヘイム・プーカ領首都

 

ノーム領の西、アルヴヘイムの北西部に位置するプーカ領。

平原に巨大なテントを中心にテント郡やコテージ郡があるその首都。

防壁は木製や鉄製の柵で出来ているが、ここはロキ軍の侵攻が最も手薄であり、進軍してくるのは海からの船団だけと言える。

それはこの首都を攻めるのはデメリットが多いのが一番だろう。

スプリガン領から最も離れ、アルン高原を超えて態々攻めるのは手間が掛かる。

なので、ここを攻めるのは斥候目的である。

 

「う~ん、敵が攻めて来ないっていうのは良いことなんだろうけど、ちょっと寂しいかな」

「何を言っているんです。敵はちゃんと攻めてきていますよ、Mobだけですが」

 

物足りなさそうに呟くのは金髪青眼の少女、プーカ領主のフェイトである。

楽器であるトランペットを片手にし、楽団のような青い服を着ている。

そんな彼女は補佐の女性に注意されているが、補佐の女性プレイヤーもやや物足りなさそうである。

 

船団からくる巨人族と死者達、主都の周囲でポップするMobと、敵がまったくいないわけではない。

むしろ火力不足であるプーカからすれば十分に厄介とも言える。

だが、音楽を奏でる妖精達は集まることでその実力を多いに発揮する。

派遣されてきた部隊はプーカの奏でる音楽によってステータスUPし、敵はステータスDOWNする。

この戦い方で派遣部隊は被害を出す事なく迎撃出来ている。

 

「アタシ、アルンに行ったらダメかな~?」

「ダメです…と、言いたいところですが、あちらの防衛に行かなければならない可能性ももあります。

 なので、用意はしておいてください」

「ホント? よし、それじゃあ部隊の準備もしておかなくちゃ!」

 

逆に気合いの入った様子のフェイト。

【天真爛漫】な彼女は周囲に元気を与える、現実の彼女も同じであるイベント好き。

それをサポートするのが補佐の女性、幼馴染のアリシア。

この2人はコンビでプーカ領を盛り上げてきた、それはどのような場所でも発揮される。

 

 

 

――アルヴヘイム・ケットシー領首都『フリーリア』

 

プーカ領の南にあるケットシー領の首都フリーリア。海に浮かぶ島にあり、大陸とは橋1つで繋がっている。

このケットシー領もプーカ領と同じくロキ軍プレイヤーの侵攻は少ない……どころかまったくなかった。

侵攻してくるのはナグルファル船団の巨人と死者達のみである。

 

「接岸する前にドラグーン部隊のファイアブレスで仕留めるヨ……撃テェッ!」

 

ケットシー領主、アリシャ・ルーの指示の下、ケットシー達が乗る飛竜達のブレスにより船は木端微塵になった。

バハムートが沖の船団を沈めてくれるため、到達すると言っても数が知れているのだ。

 

「良い感じだネ。あとは部隊の方だけド、準備できてル?」

「はい。アルン高原への派遣部隊、準備は完了しています!」

「ドラグーン部隊、ビースト部隊、インセクト部隊、準備万端ですよ!」

「騎乗弓部隊、騎乗メイジ部隊もバッチリですわ!」

「ん、みんなご苦労様だヨ」

 

アリシャは早い段階でのアルン高原部隊派遣を考えていた。

ここまでであまりにもロキ軍プレイヤーの数が少ないことから、アルン高原と世界樹侵攻、

アースガルズ侵攻とレプラコーン領とウンディーネ領への侵攻を主にしていると予想した。

現にそれらは的中している。ならば、世界樹侵攻が本格的になる前に中央に部隊を派遣した方がいい。

 

「それじゃあ行こうカ」

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

アリシャは自身の飛竜に乗り、他の者達も飛竜や自身のテイミングしたモンスターと共に央都アルンへ向かった。

 

 

 

 

――アルヴヘイム・シルフ領首都『スイルベーン』

 

ケットシー領の南にあるシルフ領の首都スイルベーン。

こちらもケットシーとプーカの両領地と同じくロキ軍プレイヤーの侵攻が少なく、斥候部隊による簡単な攻撃だけだった。

Mobの侵攻は部隊が連携して的確に動くことで容易に迎撃できている。

領主のサクヤは戦いながらも部隊指揮を行っている、彼女の指揮能力はやはり見事だ。

だが、そんな彼女を悩ませる存在が突貫してきた。

 

「久しぶりだなぁ、サクヤ!」

「驚いた、まさかお前がここに来るとは思わなかったよ…シグルド」

 

それはかつて、サラマンダーと手を組んでサクヤを罠に嵌めようとしたシルフの男、シグルドであった。

剣の腕前や政治の力もあったにも関わらずに自身の欲に溺れた結果、レネゲイドとして追放されたのだ。

サクヤが戦場に出てくるのをずっと待っていたのだろう。

 

「あの時の仕打ちの恨み、ここで晴らさせてもらうぞ!」

「やれやれ、アレは自業自得だろうに…。

 まぁ良いだろう、最近聞いていたシルフを闇討ちするシルフとはお前のことのようだし、ここで制裁させてもらう!」

 

シグルドは剣を構え、サクヤは長刀を構えて空を駆ける。

シルフでもトップクラスだった実力のシグルド、

逆恨みとも言える戦いを吹っかけてきたがその実力はかつて以上だとサクヤは感じた。

恐らくは復讐の為に腕を磨いたのだと、そう考えた。だが、それで後れを取るようなサクヤではない。

 

彼女はシグルドがレネゲイドとなった後、幾度となくキリト達と戦ってきた。

圧倒的な力量のあるギルド『アウトロード』の男性陣『黒ずくめ党(ブラッキーパーティー)』、

女性陣の『妖精の舞姫(フェアリープリマ)』の戦闘メインのアスナとカノンにリーファ、

今は亡きユウキなど、様々な強者に手合せを願った。

お陰で実力はあの時以上になり、一歩及ばずともユージーンとでさえ渡り合えるようになった。

 

「くっ、くそっ! 俺は、確かに強くなったはずだぁっ! なのに、なんで勝てない!?」

「スキルの反復にプレイヤーとMob狩り、確かに強くなるだろう。

 だが、私が戦ってきたプレイヤー達はみな、私よりも強い者達ばかりだ。

 強くなった今でさえ、私は彼らや彼女らにさえ歯が立たない。

 自身よりも弱い者達とばかり戦ったお前に、負けるつもりなど毛頭無い!」

 

サクヤの重みの篭った言葉と共に放たれた斬撃がシグルドの体を斬り裂き、大きなダメージを与えた。

 

「ぐあっ!? ちぃっ、やれ、お前ら!」

「なにっ!?」

 

その時、シグルドの声と共に魔法が放たれ、1人のプレイヤーが槍で襲いかかった。

シグルドも接近し、さすがに対応と判断に遅れるサクヤ。だが、彼女を2人のプレイヤーが救う。

 

「大丈夫ですか!?」

「ここは私達が!」

「レコン! ルクス!」

 

サクヤを魔法から庇いダメージを負ったのはレコン、槍で襲いかかってきた者を止めたのはルクスだった。

サクヤは無事であり、シグルドの攻撃を止める。

レコンはそのまま魔法が放たれてきた方向に向かい、魔法を放ったメイジを短剣で倒した。

ルクスは見事な剣捌きで槍使いを斬り倒す。

 

「これまでだ、シグルド!」

「役立たず共め! 転移!」

「待てっ! 逃げられたか…」

 

止めを刺そうとしたサクヤだが、シグルドは転移結晶を使い何処かへ転移してしまった。

そこへレコンとルクスが戻ってきた。

 

「レコン、ルクス、助かったよ」

「いえ、私は別に…」

「僕はシグルドの野郎だったから、もしかしたらと思って」

 

サクヤは2人に礼を述べ、ルクスは遠慮気味に答えたがレコンはかつてのシグルドの手管を考えて警戒していた。

これはレコンの読みが見事に当たったと言える。

 

「シグルドを探したいところだが、もしかしたら私が居るところにまた来る可能性がある。

 私はこのままアルンへ向かい、あちらの防衛を行う。

 レコンとルクス、それから準備していた部隊は付いてきてくれ。他の部隊はここの守備を、どうか頼む」

「「わ、解りました」」

「「「「「付いていきます!」」」」」

「「「「「留守はお任せを!」」」」」

 

シグルドを退けた後、サクヤは指示を与えたあとで部隊を率いアルンへと向かっていった。

 

 

 

――アルヴヘイム・サラマンダー領首都『ガタン』

 

シルフ領の西部にあるサラマンダー領の首都ガタン。ここではノーム領と同様に戦いが繰り広げられていた。

だが、ここでもロキ軍の侵攻は上手くいかず、首都に対しては小競り合い状態と化している。

逆にサラマンダー領側はMobを苛烈な攻撃で倒していく。

 

「攻める手を緩めるな。我らサラマンダーが防衛などありえん、攻撃こそ最大の防御だ。

 首都が落とされようともグランド・クエストとしてボスを倒してしまえばいいのだから。

 ロキ軍を殲滅した後、我らもアルン高原にて残りのボスを叩き潰す」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

 

サラマンダー領主であり、将軍ユージーンの実兄でもあるモーティマー。

彼はサクヤ以上の策略を以てして的確な指示を出し、攻めてくるロキ軍のプレイヤーやMobを悉く迎撃していく。

メイジと弓部隊も苛烈な遠隔攻撃を行い、近接武器を持つ者達はそれ以上の苛烈な攻撃で立ち向かう。

 

「ほぅ、ユージーンがファフニールを倒したか、素晴らしい戦果だ。聞け、サラマンダーの諸君!

 我が弟、ユージーンがファフニールを倒した! サラマンダーが挙げた功績を高めようと思う者はより奮闘せよ!」

「「「「「「「「「「おぉ!」」」」」」」」」」

 

味方の活躍の報せを聞き、士気が高まるサラマンダー勢。モーティマーの巧みな手腕により、彼らの猛攻は続く。

 

 

 

――アルヴヘイム・インプ領首都

 

サラマンダー領の西部、ウンディーネ領の南部に位置するインプ領の首都。

山河地帯であり、高山地帯にあるこの首都は攻め難い環境にあり、ノーム領の首都に並ぶ自然の要塞だ。

ここもサラマンダーとノームの両領地と同じく戦いの最中にあるが、

暗闇に支配されているこの地域ではやはりインプ達に有利である。

 

「俺達インプの特性を活かせ。現状世界は暗闇だ、暗視に長けている俺達なら先手を取ることができる。

 不意打ちで仕留め、敵を攪乱し、速やかに殲滅しろ。俺に続け」

「「「「「「「「「「Yes Sir!」」」」」」」」」」

 

インプ領主のクラウドは両手剣を容易に振り回して先頭を突き進み、次々と敵を倒す。

守りが頑丈な防壁の首都、守りは防衛部隊に任せて自分は攻撃の方が向いているのでMobやプレイヤーを倒しまくる。

だが、そんな彼もまったく準備をしていないわけではない。

 

「クラウド! アルン派遣部隊が整ったぜ! ここはオレに任せて行ってこい!」

「ここは頼む、先輩」

 

プーカのフェイトとアリシア、サラマンダーのモーティマーとユージーンのように、この2人もまた絆のあるコンビだ。

彼らは現実で先輩後輩関係にあり、それがALOでも阿吽の呼吸を取れるほどなのだ。

守るべきものがあるこの2人、戦いの時には強い。

 

 

 

各領地での戦い、領主達も自分達の戦いを行い、戦場は再びアルンへと変わっていく。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

今日もなんとか投稿できた・・・自分でも驚きじゃ・・・。

 

さて、バハムートがどうしていたか、各領地がどんな様子だったのか、簡単にですが明らかにしました。

 

とはいえメインではないので書き流した感じです、サクヤとコテツは物語上必須なので長めですけど。

 

シグルドはどうしても出したかった、踏み台的な感じでww シグルド、まだ出ます・・・踏み台でw

 

世界樹防衛を書くとか言いましたが尺の問題で書けませんでした、次回は必ず世界樹ですのでご安心を。

 

というか世界樹防衛とアースガルズのユーダリル戦です。

 

ユーダリルに居るのはアスナ達、ということは我らが黒い覇王様も・・・(ニヤリ)

 

第二幕は次回で終了となります、その次は最終幕で最終決戦です。

 

もう少しでこの黄昏編も終わりですね・・・最後まで頑張ります!

 

 

 

 


 
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