No.758455

艦これファンジンSS vol.24「わたしが見つめるもの」

Ticoさん

しゅくしゅくして書いた。やっぱり反省していない。

というわけで二週間、お休みを頂いてしまいましたが、
艦これファンジンSS vol.24をお届けします。

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2015-02-14 21:23:05 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1093   閲覧ユーザー数:1070

 朝日に照らし出された海面を、一人の少女が滑るように駆けていく。

 その身に重い艤装をまとっていても、足取りに危うげな様子は微塵もない。

 潮風になびく長い黒髪、セーラー服と袴を合わせたような和洋折衷の衣装、背負った大きな格納庫。そして腕には敵を撃つための砲。

 海上を駆けるその姿が、彼女が単なる女の子ではないことを如実に示していた。

 艦娘。人類の脅威、深海棲艦に対抗しえる唯一の存在。

 彼女は、左手に書類を挟んだボードを、右手に鉛筆を持ち、何かを書きつけていた。

 時折、顔をあげては、他の艦娘の位置を確認し、自分の速度を微調整する。

 そしてまた、書類ボードに目を落として、書きつける。

 何度目か、顔をあげた時に、先頭を行く旗艦の艦娘が振り返ってこちらを見ていることに気づいた。旗艦の艦娘が肩をすくめてみせるのに、自分でも思わず、ばつの悪そうな苦笑いがこぼれてしまう。

 悪癖だとわかっていても、書類を手にしている方が落ち着くのだ。

「――そろそろ鎮守府だ。みんな、最後まで気を抜かないように」

 旗艦の艦娘がそう号令するのに、艦隊の艦娘たちが一斉に歓声をあげる。

 外洋から、ようやく家に帰ってこれた。その安堵感で皆、胸がいっぱいなのだろう。

 その感情は黒髪の彼女とて例外ではない。

 ほうっと肩の力が抜けるのを感じ――しかし、彼女は軽くかぶりを振ると、きり、と前を見据えた。彼女にとって、鎮守府は家であり日常であり、そしてまた、もうひとつの戦場でもあった。

 彼女はかけていた眼鏡をくいっと押し上げる。

 東の空から差し込む曙光がレンズに反射して、きらりときらめいた。

 軽巡洋艦、「大淀(おおよど)」。

 それが彼女の艦娘としての名前である。

 

 「深海棲艦」という存在がいつから世界の海に現れたのか、いまでは詳しく知るものはない。それは突如、人類世界に出現し、七つの海を蹂躙していった。シーレーンを寸断され、なすすべもないように見えた人類に現れた希望にして、唯一の対抗手段。

 それが「艦娘」である。かつての戦争を戦いぬいた艦の記憶を持ち、独特の艤装を身にまとい、深海棲艦を討つ少女たち。

 艦娘は戦うことが本分であり、それはすなわち深海棲艦を駆逐するための出撃任務であり、海上を行く輸送船を護衛する遠征任務であり――多くの艦娘にとって、自分の仕事というのはそれだけだと考えているものも多い。

 とはいえ、鎮守府も軍隊であり、組織である以上、深海棲艦だけを敵として考えればよいというものでもなかった。あるいは、一部の艦娘にとっては、「もうひとつの敵」の方がより厄介で、面倒で、難敵であるといえるかもしれなかった。

 

「終わった終わったー! ねえねえ、これから間宮行かない?」

 工廠での点検を終えて出てきた一同の中で、ひときわ小柄な艦娘がそう言った。

 くりっとした目に愛嬌のある顔立ち、どこかなつっこい声に、犬を思わせるような独特の髪型――駆逐艦の時津風(ときつかぜ)である。

「そうだな。今回の作戦も無事に済んだし、慰労を兼ねて甘いものはいいな」

 時津風の言葉に応えたのは、巫女装束に似た衣装を身にまとい、凪のような静かな顔立ちの艦娘――航空戦艦の日向(ひゅうが)である。大型艦に分類される艦娘は大人びた印象の者が多いが、彼女は特に落ち着いたお姉さんといった雰囲気をまとっている。

「時津風も今回はがんばっていたし、おまえの分はわたしがごちそうしよう」

「えへへ。えむぶいぴーものだったもんね!」

 日向が時津風の頭をなでると、時津風はにぱっと満面の笑みを浮かべた。

「あーっ、時津風ちゃんだけずるい」

「もう、日向さん、わたしたちにはおごってくれないんですか?」

 二人のやりとりに他の艦娘たちが不満の声をあげる。とはいえ、それも笑いさざめきながらの言葉なので、本心から妬んでいるわけではない。

 甘味処『間宮』。艦娘も女の子である以上、甘いものには目が無いのだが、間宮で出されるデザートは和洋ともに絶品もので、口にしただけで疲労が消し飛び、戦意が高揚するという。そこを利用できるチケットである間宮券は、鎮守府の艦娘の間では一種の軍票めいて使われるほどであるという。

 任務に従事した艦娘に間宮券は支給されるので、皆、自分の食べるぶんは手持ちがあるはずだが、そこは上役にたかるのがお約束である。なにより、戦艦として出番が多く、今回、旗艦を務めた日向はじゅうぶんに余裕があるはずなのだ。

「まあ、そうなるか。わかった、わたしからおごらせてもらおう」

 日向はいやな顔ひとつせず、といって、にこりともせず、相変わらず凪のような表情のままで請合った。日向の言葉を聞いて、艦娘たちが一斉に歓声をあげ、それを見て時津風がさらに笑みをうかべてうれしそうにぴょんぴょんと跳ねた。

 一同の様子を、大淀は少し離れた場所でなごやかな笑みを浮かべて見ていたのだが、

「――どうだ? お前も今回はつきあってみないか」

 そう、日向に言葉をかけられ、大淀は目をしばたたかせると、かぶりを振った。

「いえ、お誘い申し訳ありませんが、私には所用がありますので」

 大淀のきっぱりした断り文句に、日向がやれやれという顔をしてみせる。

 時津風はというと、大淀をじいっと見つめると、ぷうと頬をふくらませ、

「もーう、大淀さん、作戦から帰ってきたらいつもどこか行っちゃう。ねえ、一緒に間宮行こうよ。満艦飾あんみつがリニューアルされたんだよ」

 そうおねだりをしてくる時津風に、大淀は眼鏡をくいっと直して答えた。

「ごめんなさい。どうしても済ませておかなきゃいけない用事なんです」

「えーっ、なに? なにをしてるのぉ?」

「そのへんにしておけ。大淀はいそがしいんだ、色々とな」

 問い詰めようとする時津風の頭をぽんぽんとたたき、日向が言った。大淀の方に顔を向け、ふっと目を細めてみせる。そのかすかな表情が、ここは引き受けるからまかせておけという日向の無言の合図であることを大淀は知っていた。

「それでは皆さん、失礼します。次の機会には、ぜひに」

 大淀はそう言ってぺこりと頭を下げると、足早にその場を後にした。

 そんな大淀を、日向たちは穏やかに笑みを浮かべて、手を振って見送るのだった。

 

 鎮守府でもっとも敷居の高い部屋といえば、提督執務室である。

 艦娘たちの司令官が詰めるその部屋のマホガニーの扉に招かれるときは、決まって艦娘にとって何か重大ごとが起きたときがある。真面目な話であれば、危険な作戦を任されることになって提督じきじきに言葉をもらうときであり、不真面目な話であれば、食料庫から菓子パンをちょろまかしたのがバレてお小言をもらうときである。

 そんな提督執務室の脇に、もうひとつ部屋があることに気づいている艦娘は意外と少ない。一部の者以外にはマホガニーの扉までに通り過ぎるだけの部屋だからだが――実のところ、こちらの部屋の方は提督執務室に負けず劣らず重要な部屋なのだ。

 部屋の扉の上には「作戦事務室」と小さく掲げられている。工廠を後にした大淀は、寄り道することもなく、まっすぐこの部屋にやってきていた。

 扉の前で、軽くひと呼吸し、大淀はそれで頭の中を瞬時に切り替えた。

 束の間の平時から、もうひとつの戦時へ。気を締めて、扉を軽くノックする。

 すぐに「どうぞ」と部屋の中から温和そうな声がして、大淀は扉を開けた。

 真っ先に出迎えられたのは、部屋に充満する紙とインクのにおいであった。

 壁を埋め尽くす書棚と、そこにぎっしりと詰められたファイルが視界を埋め尽くし、そして、デスクとテーブルには書類がいくつもの山となって詰まれていて、ひと山脈をなして見える。その山脈の向こうに、本日の秘書艦がいて、目下、書類と格闘中であった。

「おかえりなさい、大淀さん。待っていたわ」

 待っていたわ、の声にわずかながら疲労と喜びの色がにじむ。

 弓道着に似た衣装を身に着け、赤い袴型のスカートがトレードマークの、航空母艦の赤城(あかぎ)であった。空母陣のまとめ役であり、自身もエース級の戦力と自他共に認める誉れ高き、通称「一航戦」である。

 そんな赤城も、いまはというと、指先をインクに汚して奮戦中であった。

「ずいぶん早かったのね。さっき出撃から戻ってきたとは聞いていたけれど」

 赤城の言葉に、大淀はうなずきながら、彼女に歩み寄った。

「ええ、いましがたリランカ沖から帰ったところです」

 そう答えて歩きつつ、大淀の目はあちこちの書類の山に向けられる。

 書類の種類、山の高さから推測される枚数、一枚あたりの処理に要する時間、そしてそこから割り出される総作業時間。それらが大淀の頭の中でカチカチと音を立ててカウントされていく。

「もうちょっとゆっくりしててもいいのに。出撃からもどってきたなら、しっかり休息をとることもだいじよ?」

 赤城がそう声をかけるのに、大淀は目を細めて笑ってみせた。

「だいじょうぶです。わたしにとってはここでの仕事の方が馴染み深いですから」

 その言葉に、赤城はふうと息をついて感慨深げに言った。

「それもそうよねえ。艦娘として前線に出ることよりも、こちらの事務の方があなたにとっては長いんですものね――この鎮守府が開設されてからいるんでしたか」

 その言葉に大淀はこくりとうなずいてみせた。

 赤城の問いはいまさらながらだった。俗に「任務娘」と呼ばれていた頃から、大淀は事務方として提督の仕事ぶりを見てきたのだ。

「……隠れた艦隊最古参ですよね」

 赤城の言葉に大淀は苦笑してみせた。

「やめてください。戦力として配備されたのはつい最近ですよ」

 鎮守府に来てどれだけ長いか――古参かどうかというのは、艦娘によっては大いに気にするところであった。階級などというものが明確に定められていない関係上、やはり年季の長さが上下関係を決めるのはやむをえないところか。

 ふと、赤城がまじまじと大淀の顔をみつめると、いずまいを正してみせた。

 目をぱちくりさせる大淀に向かって、赤城が深々と頭をさげる。

「もう一人の艦隊最古参どの。作戦事務室の主どの」

「――はい?」

 いぶしかんでみせた大淀だが、続く赤城の言葉はある程度予想していた。

「助けてください。書類がかたづけてもかたづけても、なくならないんです」

 赤城の目にはじわりと涙が浮かんでいた。

「ご飯の時間を半分に切り詰めて仕事してもはかどらなくて……」

 それはそれは、と大淀は心の中で慨嘆した。鎮守府中に知られた健啖家である赤城がだいじな食事時間を削るというのは、自分が作戦に出ている間に相当な処理待ち書類がたまっているらしい――とはいえ。

「……夜の九時です」

 頭の中のカウントがはじき出した時刻を、大淀は口にした。

「えっ?」

「だいじょうぶです。夜の九時には溜まっている書類はかたづきます。私の留守中も赤城さんがちゃんと仕分けしてくださっていたから、今日中には掃除できます」

「ほんとうに?」

 いぶかしむ赤城に、大淀は自身満面の顔でうなずいてみせた。

「ええ。この大淀が請けあいます。だから頑張りましょう」

 そう言うと、大淀はおとがいに人差し指をあて、すこし考え、

「――食堂にお願いして、おにぎりの差し入れでもしてもらいましょうか」

 大淀のその提案に、涙目だった赤城の表情が、ぱあっと明るくなった。

 

 

 鎮守府が処理すべき書類は多岐に渡る。

 出撃してきた艦娘からの出撃報告書。

 補給した物資の納品書と請求書。

 各部隊からの装備の配備依頼書。

 変わりどころ、では、待遇改善の陳情書。

 それに、艦娘どうしのトラブルにまつわる始末書。

 伝達事項はすべて紙にインクで書かれた書類によって行われ、それが情報となって鎮守府の運営面をつかさどる歯車を伝って、各所に渡っていく。

 書類の山を片付けるために大淀がまず行ったのは、書類の優先順位づけである。

 早急に提督へ渡すべきもの。

 今日中に片付けるべきもの。

 明日の処理でもだいじょうぶなもの。

 今週末までにしあげればよいもの。

 書類に不備があって差し戻すもの。

 テーブルにつくや、大淀はいくつものカゴにすさまじい勢いで書類を分類していき、そのあまりにもの速さに赤城も思わず息を呑んだほどであった。

 小一時間ほどで順位づけが終わるや、

「赤城さん、こちら提督へ。今日中に決裁をお願いしますと。あとこちらは今週中に」

「こちら、補給処へ回してください。承認済みです」

「これらは伝令役の艦娘へ。不備で差し戻しです」

 と、鬼神の勢いで片付け始めた。

 まさに事務方としての歯車が全力運転を始めたようなものであり、赤城はあらためて大淀の事務能力の高さに感嘆の念を禁じえなかった。

「……なんだか、生き生きしてるわね」

 自分のデスクで演習報告書のチェックをしながら、大淀の様子を見た赤城がぼそりとつぶやく。そんな赤城に、大淀は、目は書類に落としたままで応えて、

「そう見えますか?」

「ええ……いえ、生き生きというよりは、凄みがあるかしら」

 赤城は首をかしげながら、大淀の顔を見つめて言った。

「敵中へ突撃する水雷戦隊みたいな顔をしているわ」

「状況としてはあまり変わらない気もします――こちら、工廠からの艦載機開発報告まとめです。赤城さんの決裁で構いませんね?」

「ええ、いただくわね――」

 なにかねぎらいの言葉をかけようとして、しかし、赤城は思いとどまった。

 大淀の顔は真剣そのもので、戦意に満ちていて、いままさに彼女は戦闘の真っ只中なのだと感じさせた。ここもまた、もうひとつの戦場であり、あるいは大淀にとっては、本来の戦場なのかもしれなかった。

 そんな大淀が、書類を処理しながら、いくつかの書類を選り分けて抜き出していることに、赤城はふと気づいた。仕分けも優先順位付けも済んだはずなのに――赤城はふといぶかしく思ったが、きっと大淀なりに分かる理由があるのだろう、と思い、特にたずねることなく赤城も自分の仕事に戻った。

 艦載機の開発は空母である自分達にとっては最大の関心事だ。気を入れて見なくては――そう思い、目の前の仕事に集中しだした赤城からは、やがて、かすかに抱いた疑問がいつのまにか消えうせていた。

 

 不意に、扉をノックする音が聞こえた。

 大淀は書類に目を落としたまま、赤城は扉に顔を向けて、「どうぞ」と応える。

「――失礼する」

 部屋に入ってきたのは、凛とした武人風の面立ちの艦娘である。その声、その顔だけで誰かはすぐに分かる――この鎮守府に並ぶものとていない、艦隊総旗艦。

「まあ、長門(ながと)さん。どうされたんですか?」

 赤城がそう声をかけて立ち上がる。

 大淀は束の間、長門の方へ振り返って、頭を下げると、再び書類に相対した。

 そんな彼女の姿を見て、長門が苦笑いを浮かべてみせる。

「いままさに迎撃中、という感じだな」

「ええ。申し訳ありませんが、非礼はお許しください」

 大淀は書類に印鑑をどしどし押しながら、そう応えた。

「赤城さん、こちら大本営への提出書類になります。赤城さんも目を通した上で提督の決裁をお願いします」

「はい、いただきますね」

 現在進行形で進んでいく事務仕事を見やりながら、長門はこほんと咳払いした。

「ああ、その。大淀? すまないが、遠征部隊の報告書はまとめてあるだろうか」

 長門の問いに、大淀はこくりとうなずき、籠のひとつをむんずとつかんだ。

「こちらに入っています。まだ未処理ですが、よろしいですか?」

「ああ、構わない――すぐに出てくるとはさすがだな」

 うなずいてみせた長門が立ったまま書類の束を手に取り、ぱらぱらとめくり始めた。

 読み込んでいる様子でもなく、何かを拾い上げているようである。

 やがて、書類にひととおり目を通した長門が、ぼそりとつぶやいた。

「――やはり、やつらはトラック諸島に来るか」

 その言葉に、赤城が目を丸くして、大淀はぴくりと肩を震わせた。

 やつら、と長門が言うのではあれば、その指すものはひとつしかない。

 大淀が書類をめくっていた手を止め、長門の顔を見た。

「トラック泊地が敵の攻撃を受ける、と?」

 問いの形をした大淀の確認に、長門はうなずいてみせた。

「ああ。提督の読みでは、次の限定作戦はこちらから攻め込む形にはならないだろうとのことだった。われわれ艦娘の働きで戦線はかなり広がっている――だとすると、次の大規模な作戦は、敵の侵攻を迎え撃つ形になるだろう、と」

 長門はデスクの上に書類の束を置くと、言った。

「大本営からもその危険性は指摘されていて、前線に戦力を拡充させておくようにとの命令は出されていてな。ちょうどトラック泊地に艦娘たちを集結させておく準備を整えていたところだ。いつでも前線に戦力を出せるようにな。だが――」

 長門は腕組みして、ふうと息をついた。

「――だとすると、むしろ深海棲艦はそれを利用してくる可能性が高い」

 その言葉に、赤城が表情を強張らせた。

「トラック泊地もろとも艦娘たちを一網打尽にしようと?」

「先のMI作戦でも、渾作戦でもそうだ。深海棲艦は常にこちらの――というより、大本営の予想の一歩上を行く。トラック泊地に艦娘たちを集めたところで、うかつに出られないように潜水艦で封鎖、閉じ込められたところに有力な機動部隊で空襲をかけて泊地の施設ごとわれわれを葬ろうとしてくる可能性が高い」

 そこまで言って、長門は肩をすくめてみせた。

「と、まあ、これがわたしと提督が話し合って出した推測だ。正直、さっき報告書を見るまでは確信がもてなかったが、遠征部隊が報告してきた敵との遭遇地点から察するに、一時的に深海棲艦が各地から戦力を引き上げつつある――と、同時に、トラック泊地からの報告が静かすぎる」

 その言葉に、大淀は眉をひそめた。

「罠だ、とおっしゃるんですか?」

「深海棲艦が大規模な攻勢を計画してるのは間違いないだろう」

 うなずいてみせる長門に、赤城が表情を険しくして言った。

「では、トラック泊地から退避するべきではありませんか? 敵の攻撃がわかっていて、みすみす危険にさらすべきではないと思いますけど」

「それも一案だな。万が一、空襲となれば、施設自体の被害もまぬがれないし、不測の事態も起こりかねん。トラック泊地は放棄して戦線を下げるのもひとつの方策だろう。正直な話、わたしとしては赤城の案に同意なんだがな。いたずらに艦娘の命を賭けに使うべきではない――」

 長門はそう言って、長々と息をついてみせた。

「――とはいえ、決めるのは提督だ。トラック泊地を守れと言ったらそれに従うのが艦娘の使命だし、そうなった場合は全力を挙げて任務を果たすまでだ」

「長門さんのおっしゃりようは」

 大淀が、ふっと、つぶやくように言った。

「まるで提督が自分の意見とは違う結論を出すことを確信しておられるようです」

 その言葉に、長門が目を丸くした。

 大淀が眼鏡をくいっと直して長門の顔を見つめると、長門はくすりと笑みをこぼし、

「そうだな。わたしにはもう分かっているのかもしれない。ただ、艦娘たちを危険にさらすような真似をあの人にしてほしくないと思っているだけなのかもな……そんな甘さと優しさがあるなら、あの人は提督などやっていないだろうに、な」

 ひとりごとめいた言葉を口にすると、長門は書類を手に取り、

「この報告書はわたしが預かって提督に渡しておく。いいな?」

 そう言って部屋を出て行こうとする長門の腕を、大淀がすかさずむんずとつかんだ。

「長門さん」

「な、なんだ?」

「提督へご相談に行かれるのはお急ぎですか?」

「いや、今日中に済ませれば良い話だが」

「では」

 大淀はにっこりと笑みを浮かべた。

「その遠征報告書と、ついでに出撃報告書も、決裁処理していただけますか?」

「な、なに?」

「いま鎮守府は平時体制ですから、長門さんにも決裁権ありますよね?」

「いや、まあ、たしかにそうだが」

 戸惑う長門に、顔に笑みを張り付かせたままの大淀が詰め寄る。

「申し訳ありませんが、猫の手も借りたい状況なんです。長門さんの手なら申し分ありません。心配なさらなくても、最後までつきあえなんて言いませんから」

 声音は穏やかながら有無を言わせぬ大淀の言葉に、長門は咳払いし、

「あ、あー。うむ、やはりこの件は早急に提督に報告をだな、というわけですまないがここで失礼したいのだが」

「長門さん」

「なんだ」

「『書類を主敵とし、余力を以って深海棲艦に当たる』って言葉、知りませんか?」

 窓から差し込む昼下がりの光が大淀の眼鏡に反射してきらりと光る。

 ――その迫力に、長門は、結局何も言えなかった。

 

 日がとっぷりと暮れて、窓の外はもう暗くなってきた頃。

 作戦事務室に異音が響いていた。

 かすかだが、静かな室内にはやけにはっきり響く、ぐー、ぐー、という音。

 大淀がふと見やると、はたして赤城が顔を赤くしていた。

「……もうこんな時間ですか」

 大淀が時計を確認してつぶやいてみせると、赤城がぐだっと机につっぷした。

「だめだわ……おなかすいて力が出ません……」

「差し入れのおにぎり、あんなに食べたのにですか?」

 大淀の声はいささかあきれ気味であった。差し入れてもらったおにぎりは、大淀は皿に乗る程度だったが、赤城のものはお盆に山と積んであった気がする。それを赤城がうれしそうにほおばって、見る見るうちに胃へと収めていったのを見て、大淀は、

(同じように書類も食べてもらうわけにはいかないかしら)

 と、内心ひそかに思った程である。

「もう一度差し入れしてもらいましょうか?」

「おにぎりはもういいわ……味のついたものが食べたいです」

「あのおにぎり、塩味ついていたじゃありませんか」

 大淀がこともなげに言うと、赤城はうらめしそうな目で見ながら、

「そういう意味じゃありません。もっとこう、食欲をそそるような……」

 そう言いながら、赤城はごきゅっと唾を飲み込んだ。

 宙を見つめて何か思い浮かべているようだが、はたしてどんな料理を頭に描いているのやら。そんな赤城を見ながら、大淀は肩をすくめた。自分はまだ食べなくても平気だが、赤城の方が限界に近い。もうひとふん張りがんばってもらわないことには、この書類の山は片付きそうにない。

(長門さんと赤城さん、交代してもらうべきだったかしら)

 どうしても提督と打ち合わせするんだと言い張る長門を夕方に逃がしてしまったのは判断ミスだったかと大淀がひそかに悔やんだ、そのとき。

 部屋の扉を軽くノックする音がするや、遠慮なくぱたりと開かれた。

「こんばんはー。調子はどう?」

 明るい声と同時に、ふうわりとかぐわしい香りが部屋に漂う。

 それをかいで、赤城がつっぷしていたデスクから、がばりと顔をあげた。

「ごはんだわ!」

 その反応を見て、入ってきた艦娘が苦笑いを浮かべる。

「あはは、良いタイミングだったみたいね」

 日向とそっくりな衣装だが、表情はより豊かで朗らかな印象を受ける――航空戦艦の伊勢(いせ)であった。手にしたお盆には、ふっくらと焼き上げたオムライスの皿が二つ載せられていた。

「長門から言われてね。大淀はともかく、赤城は限界突破しちゃってるだろうから、って食堂にたのんで作ってきてもらったのよ――あ、ちょっと書類どかしてね」

 伊勢がそう言うや、赤城が素晴らしい速さで立ち上がり、テーブルの上の書類をささっと移動させた。瞬く間にできたスペースに、伊勢がことりとオムライスの皿を置く。

「さあ、あたたかいうちに食べてね」

 伊勢が大淀にウィンクしてみせる。大淀はこくりと頭をさげて、

「ありがとうございます」

 そう礼を言っているそばで、赤城が元気を取り戻した声で、

「ありがとうございます! いただきます!」

 そう言うや、赤城がスプーンを手に取り、もりもりと食べ始めた。

 その食べっぷりを伊勢がにこにこしながら見ていたが、大淀に顔を向けて、

「ほら、大淀も食べなよ。おなか、すいてるでしょ?」

「ええ、いただきます」

 大淀がうなずいて、オムライスをすくい、口に運ぶ。

 スプーンをふくんだ途端、口中に卵の甘さとケチャップの酸味が広がり、滋味が舌から身体中に広がっていく感覚をおぼえた。そこで大淀は、思ったよりも自分が空腹だったことに気づいた。

「……美味しい!」

 感嘆の声をあげた大淀に、伊勢が白い歯を見せて、きししと笑う。

「食堂の特別メニューだよ。卵もチキンライスもケチャップも厳選して――」

「――ごちそうさまでした!」

 赤城が高らかに宣言する声が部屋に響いて、伊勢がひゅうっと口笛を鳴らした。

「あら、もう食べたの? さすがに良い食べっぷりねえ」

「大変美味しゅうございました……」

 味の余韻にひたっている声の赤城が、じっと大淀の皿を見つめている。

 その視線に気づいた大淀が、ふと伊勢と顔を見合わせた。

 大淀が苦笑いを浮かべてみせると、伊勢が肩をすくめてみせる。

「あの、赤城さん、わたしのオムライス、半分食べますか?」

 そう申し出た大淀の言葉に、赤城が目を輝かせた。

「いいんですか!?」

「わたし、それほど食べられませんから」

 大淀がそう答えると、赤城が感極まった顔で言った。

「ありがとうございます。食べたら、もうひと頑張りしますね!」

 赤城が嬉々として自分の皿を差し出す。大淀がスプーンで切り分けたオムライスをそっと赤城の皿に移すのを見ながら、伊勢がふうっと息をついた。

「そんなに一気にかきこんだら、喉に詰まるよ。ほら、飲み物」

 そう言って、伊勢はラムネの瓶を取りだして、テーブルの上に置いた。

「伊勢印の特製ラムネ。炭酸は目覚ましにいいからね。さて、と――」

 大淀に向かってうなずいてみせて、伊勢は書類を見渡した。

「わたしで手伝えることがあるかな? あと一押し、頑張ろう」

 伊勢の言葉に大淀は目を丸くした。

「よろしいんですか?」

「こっちも今日の用事は済んだからね。早く片付けちゃおう」

「ありがとうございます……助かります」

「いいっていいって。大淀には昔から世話になってるからね」

 伊勢が大淀に微笑んでみせる。艦隊最古参の戦艦として、伊勢とのつきあいは長い。

 それだけに、伊勢の手助けの言葉が、ひときわありがたく大淀には響いた。

 

 

 時計が針を刻む音が室内に響く。

 時刻は午後九時半をすぎた頃である。

 あれだけあった書類はすっかり片付けられ、本日処理分の山はきれいに消えてなくなっていた。

 赤城と伊勢も部屋にはいない。伊勢の助けもあって前倒しで仕事は片付き、二人はそのまま食堂へ夜食を物色しに行くのだという。大淀も誘われたが、やんわりと断った。

 その大淀は、いま、険しい表情をしていた。

 目の前には、仕事中に抜き取ったいくつかの書類。

 それを見比べながら、大淀は熱心に文章を綴っていた。

『目下、艦娘たちに大本営への疑義を抱かせるような傾向はない。一部の駆逐艦にそのような兆しが見られたが、対象が行った訓練強化策が効果をあげており、練度の上昇とともに士気高揚も見受けられる』

 大淀はそう綴り、束の間、筆を止め、そしてまた、綴った。

『直近で警戒すべきは、予想されうる大規模作戦であろう。トラック泊地に艦娘の大半を集結させるのと同じくして、対象自身も前線に出るような場合、大本営の手の届かない位置で、軍閥化する恐れは充分にありうる。これはかねてより大本営が危惧していたケースと同じである』

 文章を綴る大淀の眼鏡に、部屋の照明が反射する。

 レンズを光らせながら、大淀は続きの文章を綴った。

『よって、このたび発動される限定作戦においては、艦娘の半数を鎮守府に留め置かせ、また対象自身も前線に出さないことが肝要であろう。また、万が一に備え、鎮守府近郊に武装した憲兵一個連隊を駐留させておくことも抑止策となろう』

 そこまで書ききると、大淀はふうと息をつき、最後の文を綴った。

『以上を以って今回の報告とする。なお、次回報告は限定作戦直後と思われる』

 書き上げた文章を大淀は見直し、手早く封筒に収めた。

 そしてその封筒を胸元にしまいこむ。

「やっと、終わった……」

 胸に手を当てて、大淀がほうっとため息をついたそのとき。

 

「――おつかれさん」

 男の声が、不意にかけられた。

 びくりとして大淀が振り向くと、いつのまにか提督が部屋の扉を開けて、こちらをうかがっていた。

「いつからそこにいらしたんですか……」

 大淀がよそ行きの笑みを浮かべてみせると、提督がうなずき、部屋に入ってきた。

 右手にはウィスキーの瓶と、左手にはグラスがふたつ。

「いやあ、赤城と伊勢からは、もう仕事は片付いたって聞いていたんだが、たぶん君の仕事はまだまだあるだろうと思ってね。終わりそうなタイミングを見計らっていた」

 提督の声に含むようなところはない。そのまま、自然な動作で大淀の向かいに腰掛けると、グラスをテーブルに置いた。

「君にとっては、こちらの方が気晴らしになるだろう」

 そう言って、提督は目を細めてみせた。

 大淀はというと、笑みを顔に張り付かせたまま、しかし、目は笑っていない。

「おっと、ストレートではきついか。待っててくれ、氷と水を持ってくる」

 提督はそう言い置いて、いったん部屋から出た。

 大淀は束の間、笑みを解いて、深呼吸した。

 報告書が収まった胸元を押さえると、我知らず動悸が早まっているのが分かった。

 落ち着け、落ち着け。まだ何か追求されたわけじゃない。

 しばし待って、提督が再び部屋に戻ってきたときには、大淀は自然な笑みで提督を出迎えることができた。彼は、それを見て、大きくうなずいてみせた。

「うん、その顔の方がいいな」

 そう言うと、提督は水割りを作り始めた。

 グラスに入れた氷にウィスキーを注ぎながら、彼は静かに言った。

「君にはすまないと思っている。三つも仕事を任せてしまってね」

「三つ、ですか……」

 不審な顔をしてみせる大淀に、提督は目を細めて、水割りのグラスを差し出した。

「ああ、ひとつは事務方としての仕事。もうひとつは、艦娘として前線にでる仕事」

「……残るひとつは――なんですか」

 大淀がそう訊ねると、提督は肩をすくめてみせた。

「それは、表向き、俺が知ってはいけないことになっている」

 そう言うと、提督は自分のグラスを手に取り、一口含んだ。

 大淀は、顔から笑みを消していた。

 グラスを口元に運び、ちびりと水割りを舐めながら、提督の顔をうかがう。

 大淀の目には、提督は普段どおりに見えた。

 そう、仕事で大変な思いをしている部下を慰労する上官の顔だ。

 あるいは作られた水割りになにか入っているのでは、とも疑ったが、そういう小細工を弄する人でもないことは大淀自身が充分わかっていた。

 それだけに、今夜、急にこんな話をもちかけてきた意図をはかりかねた。いっそ、自分の仕事は二つだけだと切り返そうかと思ったが、口を出たのは別の言葉だった。

「提督は……どこまでご存知なんですか」

「なにもかも知ってるわけじゃないし、推測が多分に含まれる」

 グラスを揺らしながら、提督は言葉を浮かべるように言った。

「だが、どうも“中佐”との接触からすると大本営は思った以上にこちらの内情を知っているし、そういったことを探るなら任務遂行状況をとりまとめる役の事務方はうってつけだろうからね」

「わたしは……そういう者じゃありませんよ」

 大淀がそう言ってみせると、提督はかすかに笑みをこぼしてみせた。

「そうか。それなら、そういうことにしておこう――ただ、ちょっと考えていることがあってね」

「なんでしょうか」

 心中で身構えてみせる大淀に、提督は穏やかに切り出した。

「艦娘の中から事務方の補助をつけようと思っている。阿賀野型の姉妹がちょうど練成も終わったところで、ひと段落ついている。ひとまず、彼女たちを君の下につけて、仕事を手伝わせるのはどうかと思ってね」

 提督はグラスの中の見つめながら、言った。

「君の前線勤務をなくすことも考えたが、思った以上に成果が出ている。このままはずすのは惜しい。それに、君が留守の間でも事務方が回る仕組みは整えておきたい。そこで人員を強化しようと思うんだが――」

 そう言って、提督は大淀の目をひたと見据えた。

「――ただ、鎮守府の事務は君がほぼ切り盛りしてきたと言っていい。仮にだが、みっつめの仕事がもしあったとしたら、そのことが都合によいときもあったろう。だが、第三者が入るとなると、そちらに差し障りがあるのではないかと思ってね」

 大淀は、提督から目をそらそうとして――しかし、視線をはずせなかった。

 この男は、自分自身への監視役を、そうと知って気遣っているのだ。

 そして、内偵の業務に障りがあるかもしれないことを相談してきたのだ。

(この人は……能天気なの? それとも馬鹿なの?)

 心中でそうつぶやいて、しかし、そうではない、と大淀は自分で否定した。

 楽観的かもしれないが能天気ではない。

 そして、単なる馬鹿に艦娘たちの司令官がつとまるわけもない。

 大淀は、かすかにかぶりを振ってみせると、目を閉じて水割りをあおった。

 喉を焼く酒気の熱を感じながら、大きく息をついて大淀は言った。

「……どうして、そんなにしてくださるんですか」

「君が俺にとって大事な部下であり、大事な艦娘だからだよ」

 当たり前のように、提督は答えた。

「最近、ちょっと疲れているように見えたからな。少しでも負荷を軽くする手だてを講じたいと思ったんだが、本人の意向を確認せずに進めるわけにもいかんだろう」

「それだけですか」

「まあ、みっつめの仕事を君が担っているか確認したかったのは事実だ」

 提督の言葉に、大淀はすっと目を細めてみせた。

 それを見て、提督が肩をすくめてみせる。

「君がそんなものは知らないというのなら、それでいい。ただ、もし、そっちの方で困ることがあったなら、最後の最後には俺を頼ってくれていい。君もまた艦娘なのだから」

「……お優しいんですね」

 大淀はぼそりとつぶやいた。

「もしおっしゃることが本当なら、わたしは提督の味方ではないことになります」

「それでもいいさ。そういう艦娘が一人ぐらいいたっていい」

 提督はそう言うと、グラスを手に立ち上がった。

「俺の抱いている推測は俺だけのものだ。長門あたりは身内を疑うなど微塵も考えていないし、またそんな性格でもない。また、今後の君への接し方を変えるつもりもない。隠し事を増やすつもりもないし、逆に協力的になることもない」

 その方が、自然だから。

 その方が、わたしの正体に気づいたことを大本営に察知されないから。

 自分を守るために――あるいは、わたしを守るために。

 提督の言葉の理由を、大淀は心の中でつけくわえた。

「ウィスキー、飲み終わったらそのまま置いておいてくれ。明日の朝、君が出てくる前に片付けておくよ。俺は執務室にひっこむことにする。それじゃあな」

 そう言い残して、提督は作戦事務室を後にした。

 彼の姿が見えなくなるまでの束の間、大淀はその背中をじっと見送った。

 

 グラスを傾けると、氷がからんと音を鳴らす。

 淡い琥珀色のウィスキーを口に含んで、大淀は、ほうっと熱っぽい息をはいた。

 結局、提督に聞けずじまいだったことがある。

 いつから、あなたはわたしの正体に気づいていたのですか、と。

 鎮守府の事務方として着任してから、それこそ提督が新米少佐だった頃から、彼のことはずっと見つめてきた。そして、その行動を細大もらさず大本営に報告してきた。

 提督が南西海域を突破して航路を啓開させたときも。

 長門が着任し、二人が互いに惹かれていったときも。

 鎮守府で初の轟沈を出し、悲しみと後悔に彼が暮れていたときも。

 ずっと、ずっと、見つめてきたのだ。

 それは、自分だけの立ち位置だと思っていた。

 一線を引き、必要以上に交わらず、ずっと見つめ続ける役目。

 だが――彼の方も、あるいは、わたしのことを見続けてきたのではないだろうか。

 事務方の頃から。任務娘の頃から。ずっと、ずっと。

 酒精の熱が身体を巡り、頬がかすかに火照る感触を楽しみながら。

 大淀は、不意に、口元に笑みがこぼれるのを感じていた。

 ――いいですよ、提督。

 ――これまで通り、続けましょう。あなたを見つめ続ける役を。

 ――そして、あなたと艦娘たちがどこへ行き着くのか、見届けましょう。

 大淀はそうひそかにひとりごちた。

 グラスの中の氷が溶けて、からんと音を鳴らす。

 そのかすかな音を、大淀はとても愉快な心持ちで聞いていた。

 

〔了〕


 
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