No.757156

浅き夢見し月の後先 〜 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 〜 19章

DACAENESISさん

No.756885の続きです。ほむらの前に立ちふさがったのは…。まどマギ名物、白い奴の御託開陳シーンです。…まあ、白いやつには違いない。

2015-02-08 20:52:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:740   閲覧ユーザー数:740

 

19.千人の魔女と一人の悪魔の場合

 

 異様な感覚に後ろを振り向きつつ回避行動をとるが、私に迫る三本の鉤爪はそれを許さなかった。羽根の一部が無残にも傷つき、痛みに顔が歪む。

 「あーあ、恩人のお陰で正義を執行しそこなったよ」

 そこには、赤く染まった鉤爪の黒い魔法少女と白いドレスの魔法少女が立っていた。

 「美国織莉子、呉キリカ! なぜ貴方達がここに?!」

 「何をおっしゃっているの、悪魔さん。お忘れになった? 『円環の理達の前でまたお会いしましょう』って言いましたわ、私」 美国織莉子が微笑する。

 「悪魔は取り込み中で忘れたんだよ。忙しそうじゃないか」と呉キリカ。

 後ろからは美樹さやかと巴マミの声も聞こえる。

 「マミさん、なんで大声上げたのさ」 非難というよりは質問と言った感じの美樹さやかに対して、巴マミは幾分涙声で答える。「だって、だって危ないじゃないの」 呆れた。声など上げねばまた違った展開もあったかもしれないのに。…まあ、小匙一杯ほどには嬉しさが無いとは言わないけど。

 そして呉キリカは、ふと鉤爪に付いた私の血を見て、言葉を続けた。

 「悪魔の血も赤いんだねっ」

 「だって、自称ですもの。こんな優しい悪魔なんていないわ」 美国織莉子が笑った。

 

 「黙りなさい」 命令の言葉を発する。が、反応が無い。「口づけ」が効果を発揮しない?

 「悪魔さん、『悪魔の口づけ』なら、円環の理に消去してもらいましたよ。貴方に出来ることなら、円環の理に消してもらうことも出来る。…まあ、脅しと分かっていてやってらっしゃったみたいですけども」

 「悪魔の口づけ」は、「お前は私に負けたんだ」程度の意味の、罰ゲームのシールのようなものと最初から考えていたので、確かに美国織莉子の言う通りだ。しかし、その意図を明言される事そのものはいい気がしない。

 …そして、美国織莉子の背後にいる多数の気配に気がついた。会話の直後にはいなかったのに、今はで百人前後の人数が美国織莉子の後ろにいる。

 「円環の理…達?」

 「そう。そこの壁際に追いつめられてる私設秘書二人と私達だけではなくて、ね」

 緑をパーソナルカラーに持つ、見覚えのある魔法少女がぴょこぴょこと飛び上がって声を上げる。

 「きょーこだ! 久しぶりなのになにその格好! …って私のことは覚えてないんだっけ」

 「ゆ…ま?」

 「チャオ! マミさーん! Da quanto tempo!」「「「キャー!」」」「助けてあげるから待っててねー!」

 「プレイア…デ…ス?」

 時空を違えたとはいえ、何らかの記憶は皆に残るのだろう。まどかが円環の理になったときの「初対面」の対話を思いだしながらふと思う。しかし、今、目の前にいる「魔女」達は心許せる懐かしい友人などでは断じてない。私とまどかを引き裂くためにやって来た、敵だ。

 

 「雁首揃えて来てくれたのは歓迎するわ。…ただ、今度は帰さない。全員纏めて見滝原に封じてあげる。まあ、私に勝った所で、どうせ帰る術はないけれど」

 「あら、そう」 美国織莉子が天空を指さす。結界を透かして見える現実世界の天空に張り巡らされた干渉遮断フィールド、彼岸と此岸を分かつそのフィールドに見える、大きな、空虚! 何故?! 解放を命じてもいないのに?!

 「インキュベーター! アレはどういうこと?!」

 暫くの沈黙の後、姿を見せず、インキュベーターの声だけが響いた。

 「我々は君の命令を拒否するよ、暁美ほむら。我々は円環の理の名代との協約に基づき、フィールドを開放した。君の排除完了をもって、僕たちは本来の作業に復帰する」

 「…なんですって?」 インキュベーターが裏切った、いや、それそのものはお馴染のことだ。それよりも、いつ、なぜ? …もしや、今朝の一連の戦闘? 思いだす、あの呉キリカの不自然な攻撃、美国織莉子の無様な姿…あれか!

 「やっとお気づきのようね、悪魔さん。その通り、今朝私たちがここに来た本当の目的は、キュゥべえと交渉するためです。私たちの対話は少しの接触で済むごく短い物。『6時をもってフィールドを開放しなさい、そうすれば私たちが悪魔を排除し、貴方達は本来の仕事に戻れるわ』とね。

 「私達は貴方に勝って、円環の理の御下に帰らなきゃならない。そして、フィールドを開放することが出来るのは、貴方に虐げられているキュゥべえだけ。だとしたら、解放を条件に開けてもらうことも出来るでしょう?」

 あまりに、あまりの事に一瞬意識を失いかけた。インキュベーターに力を借りる、ですって? そして、その言葉の意味を咀嚼した瞬間、猛烈な怒りが湧き上がった。

 「…なんてことを! よりにもよって、インキュベーターと共闘するなんて! 許せない!」

 「円環の理を私的に拘束している貴方の方が、よっぽど罪深いわ。折角だから教えてあげましょう。今回の計画は、円環の理が戻ろうとした一月前から始まっていたのよ」

 見下すように、傲然と美国織莉子は語る。

 「貴方に複数回に渡って単独で戦いを挑んだ魔法少女達、彼女達はね、負けて戻されるフィールドの解放そのものを目的としていたの。フィールドが開く短時間ごとに、円環の理に覚醒を促す力を少しずつ送り込むためにね。…さっきも私、言いましたけれど、あなたは悪魔を自称するには優しすぎるの。

 「そして今日、円環の理の意識は覚醒しました。最後に私自らがキュゥべえと交渉するために出向き、そして、今ここに円環の理をお迎えするために、改めて最後の障害である貴方を排除しに来たのです。貴方は確かに私の予知能力を外す力を持っています。けれど、予知そのものを知らなければ外すことは出来ません。面と向かって対峙さえしなければ、私の方が有利なんですよ」

 私は怒りのあまり、言葉すら出てこない。まさか、インキュベーターと共闘しようとする魔法少女が存在するだなんて! そもそものまどかの願いを踏みにじる行為だわ!

 「大将抜きでの総力戦ですわ、悪魔さん。ここに集結した皆、個々の因果の糸は細いですけれど、束ねれば貴方にも負けません。私が流した円環の理の血の代償において、円環の理の御身柄を復し、その上で私達が貴方を御下まで引きずって裁きを受けさせるわ。覚悟なさい、悪魔」

 私の怒りが炸裂した。怒りのあまり、結界が歪む。

 「インキュベーターと共闘するのみならず、私からまどかを奪うつもりね!」

 美国織莉子が負けじと叫ぶ。

 「皆、かかりなさい!」

 

 


 
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