No.756744

真恋姫無双幻夢伝 小ネタ10『作戦名「四面美歌」』

どうしてもはさんでおきたい小話があったので、赤壁の戦いの途中ですが小ネタをやります。
時系列は少し戻ります。

2015-02-07 09:36:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1649   閲覧ユーザー数:1545

   真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ10 『作戦名「四面美歌」』

 

 

 赤壁において陣の建築を進めている時、多くの将兵は汝南城に留まっていた。彼らは船の建材や食料、そして後から来る兵士たちを待っているのだ。その間、十万以上の兵士がこの汝南城やその郊外に駐留している。その多さにつられて、各地から数えきれないほどの商人が商機を求めてやってくる。ここまで人が多い街の風景は、長い中国の歴史でも珍しい。宮殿内まで届く活気あふれる街の喧騒を、廊下を散歩している華琳は心地よく聞いていた。

 彼女が曲がり角まで歩いて来ると、右の奥から話し声が聞こえてきた。

 

「アキラがね、どうも様子が変なのよ」

 

 彼女は興味をそそられて角に隠れて聞き耳を立てる。声を聴くと、どうやら詠と秋蘭の二人だった。

 

「どう変なのだ?」

「落ち込んでいるというか、ボーとしているというか」

 

 詠が心配そうにため息を漏らす。秋蘭はその言葉に首を傾げた。

 

「落ち込んでいる?私には普段と変わらないように見えたが」

「長く一緒にいたボクたちにはわかるのよ。空をずっと眺めていたり、とにかく心ここに有らずって感じ。一番変なのは、あいつ最近遊郭に行かないのよ。本当におかしい」

 

 それが彼の心情判断基準なのか、と秋蘭は呆れる中、詠の話は続く。

 

「こんなことは初めてだから、ボク達でもどうしようもなくてね。それで秋蘭に相談してみたのよ。こういう機敏には疎い奴らばっかりだから」

「こういう機敏、とは?」

 

 詠は秋蘭に少し近寄ると、ボソボソと小声で話し始めた。

 

「どうも失恋なのよ」

「失恋?!アキラが!?」

「声が大きいわよ!……それでねあいつ、孫策と特別な仲だったらしいのよ。それで死んじゃったでしょ。しかもその暗殺者の疑いをかけられている。私はそれが原因だと思うのよ」

「ほう」

「孫策との恋愛に対して複雑な感情を抱いている子も多いし、元気づけようにもなかなかね、乗り気じゃないというかなんというか……」

 

 だんだん声が小さくなる。彼女もその“複雑な感情”を抱く一人であることが丸わかりであり、秋蘭は小さく笑った。

 

「要するに、失恋したアキラを元気づけたいのね」

 

 急に聞こえてきた声に驚いた二人が振り向くと、得意顔で微笑む華琳がそこにいた。

 

「華琳さま!」

「聞いていたの!?」

「聞かれたくないのなら、部屋の中でしなさい。聞いてほしいのかと思ったわ」

 

 苦々しい顔の詠に対して、華琳はゆっくりと歩み寄っていく。そしておもむろに提案した。

 

「……策はあるわ」

「えっ?!」

「何かお考えがあるのですか、華琳さま?」

「ええ。簡単に言うと、失恋を癒すには新しい恋が一番の処方箋よ。戴聖曰く『一人を失ったからといって嘆くことはない。男と女は半分ずついるのだから』。アキラにまた恋をさせたら解決するわ」

 

 顔を見合わせる詠と秋蘭に、華琳は指さして命令を下した。

 

「武将たちを集めなさい。作戦名は『四面美歌』よ」

 

 

 

 

 

 

 翌朝まだ薄暗い中、「コケコッコー!」と鶏の鳴き声が聞こえ、アキラは目を覚ました。欠伸をしながらゆっくりと体を起こす。窓の向こうに白み始めた空を見て、今日も良い天気になることを確認した。

 彼はまだ寝台に座りながら身体を伸ばす。すると、布団がもう一人分膨らんでいることに気が付いた。

 

「恋か?」

 

 彼はまた恋が潜り込んできたと予想して、布団を大きく捲った。が、彼の予想は外れることになる。

 

「残念ながら私だ」

「なんだ、秋蘭か………………秋蘭?」

 

 段々と覚醒して来る頭で考える彼はようやくこの状況を理解すると、バッと寝台から飛び退いた。その身のこなしに、秋蘭は感嘆する。

 

「さすがはアキラだ。寝起きとは思えん」

「そんなことより、お、お前!?」

 

 隣で寝ていたことよりも、指摘すべきことがあった。

 

「なんで裸なんだよ!?」

 

 布団は捲れており、股の茂みまで見えそうだ。しかし彼女は平然と寝そべり、動くたびに乳房が形を変える。

 

「どうだ?姉上には劣るかもしれんが、私も良い体だと自負しているのだが」

「知るか!」

 

 戦略的撤退。彼女の意図が読めなかったアキラは、寝間着のまま寝室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 彼が再び寝室に来たのは、夜遅くになってからだ。

 彼は部屋に入って扉を閉めると、大きくため息をついた。そしてため込んできた心労を吐き出す。

 

「どうなっているんだ、今日は?!」

 

 秋蘭の一件以来、彼は休む暇もなく彼女たちの猛攻を受けた。

 まず朝食では、恋が膝の上に堂々と座ってきてそのまま食べる羽目になった。寝起きの彼女の高い体温が直に伝わってきて、朝食の味が分からなかった。

 さらに午前の仕事では、汝南まで出張に来た風や稟と一緒に仕事をすることになったのだが、報告を受ける度、頬に接吻された。その後アキラから書類を渡そうとすると、風がたしなめる。

 

「お兄さん、ちゃんとほっぺにチュッとしてからですよー。口でもいいですけど」

「く、口にですか?!まさかその後、あんなことや、こんなことを……」

 

と言った途端に、稟が鼻血を噴き出した。結局うやむやになってしまったが、その様子を見ていた桂花と音々音の凍えるぐらい冷たい目が、彼にとって強く印象に残った。

 そして昼が近づくと、季衣と流琉に連れられて街中で昼食をとることになった。その間、ベタベタしてくる2人を持て余しつつ、彼は町の人々の生暖かい視線にさらされることになった。

 二人の元気さに付き合ってフラフラになって帰ってきた彼は、すぐさま春蘭と華雄と霞に捕まった。

 

「アキラ、久々に勝負しよう」

「うちらが勝ったら酒でも奢ってもらうわ。でもアキラが勝ったら、うちらの身体を好きにしてもええよ」

「その通りだ!……待て、何を言っているのだ?」

 

 アキラは訳も分からず訓練場に連れて行かれ、延々と戦うことになった。やっと霞が言った罰を理解した春蘭は、心理不安定のままに負けてしまい「わ、わたしに何をする気なんだ!?」と涙を目に浮かべてアキラに訴えていた。

 ようやく3人をあしらって疲れ果てたアキラは、汗を流そうと風呂に入る。そこには案の定、彼を待っている人影があった。

 

「隊長!お背中流すの!」

「うちらのボインで全身を洗ったるで!」

「隊長……優しくしてください」

 

 薄い布きれ一枚を体に巻いた沙和と真桜と凪が、逃げ出そうとするアキラを捕まえて洗い場へと引き込む。そして色々なところが当たり、余計に疲れることになった。

 ギリギリのところで理性を保ったアキラは食堂に向かうと、今度は月と詠が待ち構えていた。2人は彼の分の夕食を持ってくると、彼に箸を持たせず、彼女たちが彼の口に運んだ。

 

「アキラさん、あーんですよ。ほら、詠ちゃんも」

「分かっているわよ!ほ、ほら!早く食べなさいよ!」

 

 そうして夕食を終えたアキラは、やっと寝室に戻ってきたのだった。

 そして蝋燭の光に照らされる寝台の上の人影を見て、もう一回ため息をつく。

 

「最後は華琳か」

「そうよ、不満?」

 

 彼の疲れ切った顔を見て、髪を下ろした寝間着姿の華琳はくすくすと笑う。その様子に彼は勘を働かせた。

 

「この騒動はお前の策略だな」

「ええ、よく分かったわね」

 

 気づかれたにも関わらず平然と笑っている。アキラは寝台の端に座ると、華琳を軽く睨み付けた。

 

「どういうことか説明してくれ」

「皆、あなたに惚れられようとしたのよ。春蘭たちには言っていないけどね」

「なぜだ?」

「新しい恋をさせて元気づけるためよ。孫策を失って失恋したあなたに」

 

 その言葉に驚く彼を、華琳は確認する。

 

「彼女のこと、好きだったのでしょ?」

「……まあな」

 

 アキラは自分からその心情を吐露し始めた。

 

「抱いたのは一回だけ。でも前世からずっと一緒にいたように感じられた。何回生まれ変わっても隣で生きていたい。心の底からそう思っていた」

 

 彼の告白を彼女は黙って聞く。彼は彼女の方を見ることなく、しみじみと語っていく。

 

「汝南の復讐。以前、お前にも言ったよな、それが俺の生きる意味だって。でもそれも済んだ。そんな中で生きる目標をくれたのが、雪蓮だった。天下を平定したら一緒に旅に行こうって布団の中で冗談のように語った話を、俺も、多分彼女も、それを叶えようと決意した。俺は彼女も生きがいも失ったんだ」

「ねえ」

 

 華琳は聞く。

 

「今、死にたいと思っている?」

 

 彼は静かな目をしながら答える。

 

「……分からない。俺には守るべきものがある。それを残しては行けない。でもな、それを守り切った後、俺はどうしたらいいのか分からない。俺はまた、一人ぼっちになっちまった」

 

 彼は遠い目をして小さく息を吐いた。華琳は黙って近寄って彼の顔を正面から見つめると、思いっきりその頬を打った。

 目を大きく開いて驚く彼に、彼女は叱りつける。

 

「アキラ、気が付かなかったの?今日みんな、あなたを元気づけようと頑張っていたのよ。好きでもない人にあんなことが出来ると思っているの?人を避けようとするのもいい加減にしなさい!あなたは人に心の底を覗かれることを怖がっているだけよ!」

 

 そう言った華琳は自分が打った頬に手を当てて、今度は優しく語りかける。

 

「あなたを慕う人は沢山いるわ。周りを見なさい。一人にならないで」

「……ああ」

「それでも生きる意味が分からないのなら、私が与えるわ。私のために生きなさい。私の天下を作ることを助けなさい。いいわね」

 

 アキラはにやりと笑った。いつもの彼の姿だ。華琳も笑い返す。

 

「相変わらずわがままな性格だ」

「それが私よ。悪い?」

「まったく、悩んでいるのがバカバカしくなってきた」

 

と言った彼は、おもむろに彼女の背中に腕を回した。そして彼女を力強く抱き寄せる。

 

「ちょ、ちょっと?!」

 

 驚く彼女をよそに、彼は彼女の口を吸った。

 長い接吻が続く。彼女の口の中は彼の舌に良いように蹂躙されてしまっている。最初は離そうともがいていた彼女の腕は、段々と力が抜けてゆき、ついにはダランと下ろしてしまった。

 ようやく口が離れ、彼女はぷはっと息継ぎをする。お互いの口や舌の間に、唾液の糸が光った。

 荒い息づかいの彼女が彼の瞳を見つめ、そして弱々しく尋ねる。

 

「な、何するのよ……」

 

 彼は答えることなく、グルリと体を回して彼女を布団の上に組み伏せた。そしてようやくこう言うのだった。

 

「お前の策略のおかげで、こっちはムラムラしているんだ。責任を取ってもらうぞ」

「ま、待って!」

「待たない」

 

 彼は蝋燭の火を吹き消した。月の光に照らされた2人の影が重なる。華琳は自分の作戦の成果を、身をもって知ることになるのだった。

 

 

 

 

 


 
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