No.751177

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第八話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第八話「逃げ延びた者達」

2015-01-13 16:49:19 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1395   閲覧ユーザー数:1266

「今日からよろしくお願いしますね、司馬朗さん」

 

 翌日、劉備の言葉とともに俺達は食べるものと住む場所を手に入れた。

 まずは食事だが、働かざる者食うべからず。

 劉備陣営も決して裕福というわけではない。

 俺、茉莉、諸葛亮、関羽の話し合いのもと、誰をどこに配置するか決めることになった。

 

 新兵及び既存兵の調練は恋、烈蓮、華雄、想愁。

 軍師として茉莉、莉紗、俺。

 ここまでは比較的にすんなりと決まったが残すところは後四人。

 中でも問題だったのは愛李と華煉だ

 愛李については後ほど諸葛亮が提案した模擬戦……のようなものを行うこととなった。

 内容は劉備軍所属、諸葛亮が手塩にかけた間諜部隊。

 その間諜を街の中に何人か潜り込ませ、制限時間内に見つけ無力化すること。

 この場合殺してしまっては問題になるので、捕縛することになる。

 諜報能力と隠密能力の試験だと考えてもらっていい。

 愛李は知らないが、潜り込んだ人数は十六。

 たったの十六人を人の多い昼間から夕方にかけて探しだせっていうのだから、普通に考えれば無茶だろう。

 だが、鬼役は愛李。

 俺の一撫でと茉莉から無言の圧力を貰った愛李は、三時間と掛からずに十六人全ての間諜を捕縛し諸葛亮の前まで連れてきた。

 愛李が「座ってて」と言うと、十六人が一斉に一分の乱れもなく整列し正座した。その姿はどこかの軍隊を彷彿させたがなんとなく理由は察したので、この場ではそっとしておくことにした。

 ……どうやら小さな容姿に似合わぬ手際の良さに魅せられ、尊敬の念のようなものを抱いたらしい。

 唖然としている諸葛亮を尻目に報告しに来た愛李の頭を撫でていると、いくつもの殺気に背筋が凍るった。

 気持ちはわかるんだが、間諜なら感情ぐらい隠せよと。

 

 華煉については指揮能力があることから、軍師勢に加わることになった。

 茉莉ほどじゃないにせよ文武両道な華煉は、正直どこに置いたとしても問題はなかった。

 実際にちゃんと働くかどうか見える所で監視したいという、俺のささやかな思惑は見事に通されたわけだ。

 そして、華煉がそれなりに真面目に仕事を始めてから三日目の夜、事件は起こった。

 言っておくが、仕事中はそれなり、だ。仕事が終わればあてがわれた部屋に戻り、早々に発掘(?)した専用の侍女に身の回りの世話をほぼ全て任せるという、自堕落の極みのような生活をしていた。

 そんな折に起きた事件というのが、劉備達の武具を整備している職人達に対して片っ端から文句を付け始めたらしい。

 またか、と思った。

 洛陽でも犯した過ちを忘れ、ここでもやってしまったのか……。

 やれ、ここの装飾は造りが甘いだの、磨きが甘いだの。果ては工作兵と思われる人達が作っていた攻城兵器にまで。

 そして職人達も、自分の作品が侮辱されて黙っていられなかった。

 なら同じ設備でこれ以上の物を作ってみろと、華煉を煽ってしまったのだ。

 普段やる気のない華煉でも、自分の得意分野で喧嘩を売られれば買うだけ。

 喧嘩を売ってきた職人全てに、同じ設備、ほぼ同じ工程で時間を短く、それでいて上質な武具を仕上げていった。

 全ての対決が終わるまで二ヶ月掛かることになるが、一月ほどで職人達の目は変わり、嘲る目から職人の、技を盗もうとする真剣な目つきになっていたのは語るまでもない。

 当然、この話は諸葛亮や関羽、劉備にまで伝わり、華煉の配置は最初から決まっていたかのように工作兵及び職人達の統括という位置になっていた。

 専用の工房も与えられ、そこに最初の侍女も連れ込んでいるらしい。

 仕事というか趣味だろうか。趣味を仕事として出来るならこれ以上のことはないだろうが、侍女まで巻き込んだのは申し訳無さが一杯になる。

 せめて茉莉か莉紗を数日おきに派遣しておこうと心に決めた。

 

 残すは月と詠なわけだが、これについてはあっさりと決まった。

 二人のことを劉備に俺と茉莉付きの侍女だと話すと、何も疑うこと無く二人にも住まいを提供してくれた。侍女ということなので二人とも同じ部屋になる。

 あまりにもすんなりと事が運んだから、何か裏があるのではとしばらくは警戒をしていのだが、二人に身の危険は無く、扱いも侍女と紹介したというのに客人に対するものと同等、もしくはそれ以上。

 仕事も俺達付きということで、身の回りでお茶を汲んだり洗濯をしたり。

 ……諸葛亮、鳳統という名に脅かされているだけなのだろうか。

 まぁ何かあってからでは遅い。もうしばらくは二人に窮屈な思いをさせるかもしれないが警戒を続けよう。

 

 

 慌ただしい日々というのはあっという間に過ぎ去り、気が付けば劉備の客将となってから一月が経とうとしていた。

 想愁、恋、莉紗、それに月と詠は劉備達に真名を教えたらしいが、俺も含め茉莉、華煉、愛李は未だ誰にも真名を告げていなかった。

 表向きはまだ真名を預けるには信頼に足り得ていないからとしている。

 そのせいか諸葛亮あたりは特に話しかけにくい雰囲気を醸し出しているように思う。

 劉備と北郷はなんともないんだが。

 

 そうしてそんな雰囲気をぶち壊す人物がここ、下邳城へとやってくる。

 

 

 今日も朝から軍議だった。

 劉備、北郷が玉座に、それ以外は玉座よりも一段下になっている広間で整列する。

 俺達の陣営からは俺、茉莉、莉紗だけ。

 いわゆる報告会のようなものだが、今朝は外がざわついていた。

 一瞬の静けさが訪れ、扉の外より声が掛けられた。

 

「申し上げます! ただいま城門にて公孫賛様がいらっしゃっています!」

 

「白蓮ちゃんが? あ! もしかしてお祝いしに来てくれたのかな?」

 

 俺達は言ってないが、劉備は噂程度も耳にしていないのか?

 それにしても生き残ったか。運が良いのか悪いのか……。

 

「い、いえ。多数の兵を引き連れ、保護を求めていらっしゃるようです!」

 

「保護!?」

 

「ちょっと詳しい状況は分かんないけど、とりあえずここまで通してもらえるかな」

 

「はっ!」

 

「……何かあったと見るしかなさそうですね」

 

「白蓮ちゃん……」

 

「とにかく白蓮に詳しい事情を聞こう。話はそれからだよ」

 

 北郷が皆の言葉を一時的に制して、公孫賛を待つことを促した。

 推察のみで物事を考えれば、大きな落とし穴に嵌る可能性もある。

 普段はかなり女性にだらしがないように思えたが、中々冷静な奴なんだな。

 

 しばらくして、兵士に先導されてきた公孫賛と思われる女性は、全身至るところに浅い傷を負っていた。

 裂傷、切り傷、打撲。表面を見ただけでも数々の傷が残っている。

 あの状況からここまで重傷を負わずに逃げ延びるとは、大したものだ。

 

「白蓮ちゃん!」

 

 劉備の悲痛な叫びが木霊する。

 真名を呼んでいること、公孫賛の推薦で徐州の州牧になったこと、汜水関で公孫賛軍が劉備軍の側に居たこと、二人はそれなり以上の関わりがあるんだろう。

 

「すまん、桃香。こんな状態でいきなり転がり込んできて……」

 

「そんなのは良いよ! それよりも一体白蓮ちゃんに何があったの?」

 

「麗羽……袁紹の奴に奇襲をかけられたんだ。遼東の城も全部落ちて……」

 

「袁紹が攻めてきた、と?」

 

「ああ、そうだ。反董卓連合の後、桃香に徐州州牧を勧めてから私は本国の内政に取り掛かっていたんだ。そんな折に宣戦布告の使者がやってきたと思ったら、国境の城が次々に落とされていった。もちろん、反撃はしたさ。けど、本腰を入れた頃にはもう手遅れだった。領土の大半は制圧されて、反撃しようにも圧倒的に兵力が足りず……」

 

「そうして、命からがら逃げ延びてきた、という訳です」

 

 その声は公孫賛よりも後方から聞こえてきた。

 俺にとって、反董卓連合での忘れられない記憶。

 若干、声に疲れが乗っているように感じたが、聞き忘れるわけがない声だった。

 

「星!」

 

 北郷と関羽の声に応えるようにして、扉の側に立っていた趙雲がこちらにやってきた。

 一瞬合った目はすぐに逸らされ、公孫賛を支えるようにして側に立つ。

 

「それも星のおかげだけどな。事前に危機を知らせる使者……のような者も来たんだが、到底信じられるような内容でもなかったし、あまりにも簡潔すぎて具体的に何がどうなっているのか分からなかったしな」

 

 今一度、趙雲と目が合った。

 またすぐに逸らされることになったが、あれは確実に笑っている目だった。

 

「危機を知らせる使者のような者……ですか?」

 

「ああ。文面には袁紹に注意されたししか書いてなかった。それがまさか奇襲のことを指してるなんて誰が思うんだよ」

 

 公孫賛の話が進む度に趙雲が下を向き始めている。

 彼女も見た目には多少の怪我をしているように見えるから、痛みに呻いているようにも見えるが、あれは確実に笑いを堪えているんだろう。

 公孫賛も信頼を寄せているらしい趙雲がその書簡を見ていてもおかしくはない。

 つまり、彼女はその書簡の差出人を知っていて、それが目の前にいることも分かっている。

 汜水関で名乗り、名乗られた仲だからな。

 

「使者に心当たりはあったのかー?」

 

「いや、全く無かったんだが……ああ、あった。これを見てくれ」

 

 公孫賛が懐を弄っていると、探しものを見つけたのか取り出したものを劉備へと渡した。

 まさか所持しているとはね。

 いよいよ、趙雲は公孫賛を支えきれなくなり、膝をついてそれでも必至に笑いを堪えていた。

 

「星ちゃん!?」

 

「いや、大丈夫だよ、桃香殿。それよりもその書簡をよく見てみるといい」

 

「え? ……あれ、これ下の方に何か印が押されてる?」

 

「……司……馬……? 司馬って!?」

 

 劉備、北郷の声に皆が驚く中、ただ一人事態を理解していない公孫賛は頭上に「?」を浮かべ、趙雲は腹を抱えて笑い出した。

 

「くっ……ふふっ……はははっ!」

 

「せ、星?」

 

 突然の出来事に公孫賛は驚きっぱなしであるが、さすがに不憫に思ったのかネタばらしをすることにしたようだ。

 

「白蓮殿。その使者を送って来た人物だが、そこにいる者がそうだぞ?」

 

「え?」

 

 趙雲という支えを失い、片膝を突いた状態で劉備に支えられている公孫賛が、趙雲の視線の先、つまり俺を見た。

 どうにも居心地の悪さのようなものを感じるが、とりあえず会釈をするに留める。

 公孫賛はまだ理解が追い付いていないのか、俺と趙雲の間を目が行ったり来たりしている。

 

「そろそろ名乗ってあげてはどうですかな? 伯達殿」

 

 あえて字で呼ぶ辺り趙雲もだいぶ意地が悪いようだけどな。

 

「……初めてお目にかかります。司馬朗、と申します」

 

 

 

【あとがき】

 

 皆様こんにちは。

 九条です。

 

 長いので分割しました。続きはまだ加筆中ですので、投稿予定日はいつになるか……。

 1週間以内には上げたいところです。

 

 今回のサブタイトル、後で対になるサブタイトルを付けた場面がくるかもです(あくまでも予定です)

 ちょこっと意味深な感じに捉えておいて下さい。(ネタはバラしたくなる主義)

 

 原作だとココらへんから白蓮の影の薄さが目立って(?)来ますが、この作品だとちょくちょく弄るはず。

 白蓮(が弄られるのが)好きな方は楽しみにしておくとよいぞ!

 

 

 今日はあまり時間がないのでここらへんで。

 誤字とかあったら申し訳ないです。報告は随時お待ちしております。

 

 

 次回の白蓮!

 「ちょ、お前っ!」

 

 

 ……それでは次回も

 (#゚Д゚)ノ[再見!]


 
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