No.750810

【サイバ】古い電車の小さな思い出【交流…?】

古淵工機さん

思わぬ再会。

■出演(今回は自キャラのみww)
ルイーゼ:http://www.tinami.com/view/739998
明日華:http://www.tinami.com/view/742241

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2015-01-12 09:20:43 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:735   閲覧ユーザー数:701

天空電鉄。

市内を一周するように線路を広げるこの路面電車は、いつも大勢の乗客でごった返している。

そんないつもの情景…ドイツ料理店フローエ・ツァイトのオーナーの妻であるルイーゼ・フライベルクは

休日を利用してお出かけを楽しんでいた。そんなある日の出来事である。

『まもなく、電車がまいります。…Tram is approaching.』

と、停留場の自動放送が流れる。ルイーゼは次の電車で帰ろうとしているのだ。

電停にはルイーゼのほかにも電車を待つ人たち。ごくありふれた風景である。

だが次の瞬間、ルイーゼは普通ではない、少しだけ特別な時間を味わうことになる。

 

と、言っている間に電車がやってきた。ルイーゼは思わず息を呑んだ。

「これは…まさか…?」

そう、そのまさか。ルイーゼの故郷であるドイツを走っていた路面電車だったのだから。

 

「ご乗車ありがとうございます。…あれ?ルイーゼさん?」

最前部の運転席に座っていたのは雑司ヶ谷 明日華。

「どうも明日華さん。しばらく乗せていってくれないかしら」

と、ルイーゼは1乗車分の運賃150円を支払うと(ルイーゼが乗ったのは環状線なので均一運賃である)、

そのまま近くの席に座ったのだった。

…もう何分が経過しただろう。電車は風天区の本社車庫に着いた。

「ルイーゼさん、ルイーゼさんてば」

「ん…」

「もう終点ですよ。この電車は車庫に入りますので」

「…あっ!私ったらついボーっと…」

と、顔を赤らめるルイーゼを見るや、苦笑する明日華。

 

「でも珍しいですね。ルイーゼさんがボーっとするだなんて」

「うん、ちょっとね…あれはカールと付き合うずっと前。私がまだ子供だった頃の話なんだけど」

噛みしめるように思い出話を始めるルイーゼ。

 

「…ママの仕事の都合でその頃はドルトムントに住んでたのよね。その時に初めて乗った電車がこれだったの」

ルイーゼは一枚の写真を取り出した。そこにはルイーゼと、その母が電車の前に立っている。

電車の番号をよく見ると、68という数字が書かれている。

「これって、今乗ってきた68号だわ!」

「そう。子供の頃に何回か乗ってきたんだけど、ギムナジウムに進学する頃にはいつの間にかあの丸っこい電車がいなくなっててさびしい思いをしてたの」

「え、そうだったんですか…」

「で、このあと私自身もドルトムントから離れることになって、もうこの電車には乗れないんだって思ってた。そうね、ここの座席でママが民謡を歌い聴かせてくれたっけ…」

と、ルイーゼはその思い出が詰まっていたという座席に腰掛けると、『ローレライ』を口ずさんだ。

 

やがて一節歌い終わると、ルイーゼは明日華の方に向き直り告げた。

「まさか日本(ヤーパン)であの電車に乗れるなんて夢にも思わなかったわ。Vielen(フィーレン)Dank(ダンク)(本当にありがとう)」

「いえいえ、どういたしまして」

「そうねえ、今度乗るときはアンネも乗せてあげようと思うの。いい思い出を作ってあげたいしね」

「そうですか、それは楽しみですね」

「ちょっと長話になっちゃったわね。じゃあ失礼します」

と、笑顔で電車を降りていくルイーゼ。その様子を、明日華は温かい目で見つめていたのだった。

68号。第二次大戦後のドルトムントを代表する電車。…ルイーゼが初めてこの電車に乗ったのは8歳の頃、つまり1980年。

廃車になったのはその7年後。まさかこの電車が海を渡った先でルイーゼと再会することになるとは、思っても見なかっただろう。


 
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