No.749370

「真・恋姫無双  君の隣に」 第39話

小次郎さん

冬の最中、誰もが懸命に行動する。
その行動がどのような春を迎えるかを決める。

2015-01-06 18:43:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:14759   閲覧ユーザー数:9612

「やっぱり御遣い様は凄いよね~、夢もそうだけど漢帝国を滅ぼしたのにあんな理由があったなんて」

「はい、本当に驚きました。私達とは世の見方が異なるとは思ってましたが、想像すらした事が無かったです」

以前の夢ばかり見てた私でも考えられなかった夢のような話。

でも、聞いてみたらどうして今まで考えられなかったんだろうって思った。

本当に皆が笑顔で過ごせる世の中を創るのって、これまでの目を塞ぎたいような過去から逃げないって事だよね。

都合のいい事や綺麗な事だけじゃない。

「わ、私には御遣い様の強さが分かりません。御遣い様の目指すところにある本当の敵は、漢や諸侯ではなく大陸の在り方そのものです。・・どうしてあんなに強くいられるのでしょうか」

雛里ちゃんの声は震えてる。

そんな雛里ちゃんの手を朱里ちゃんが握って優しく話しかける。

「雛里ちゃん。私が御遣い様の所でお世話になってた時から感じてた事だけど、あの方は強いんじゃなくて強くあろうとされてると思う」

私もそう思う。

御遣い様は何時でも笑顔だったけど、本当に一生懸命だったよ。

「私達と同じで悩み苦しまれてる。だけどそれでも必死に前に進もうとされてた。御遣い様が特別なんじゃないよ、皆が出来る事で私達にも出来る事だよ」

雛里ちゃんの手を私も握って思いを伝える。

「一人じゃないよ。私も朱里ちゃんも愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも一緒だよ。一緒なら絶対に頑張れるよ」

「桃香様」

「そうなのだ。だから御遣いのお兄ちゃんだって、鈴々達が支えてあげなきゃいけないのだ」

「うん、鈴々ちゃんの言うとおりだよ。頑張ろう!」

「「はい」」

私達は一足先に并州に戻るけど、愛紗ちゃん、春になって戻ってくる頃には、きっと笑顔だよね。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第39話

 

 

劉備の投降、各方面の報告、対応を皆と相談中だ。

「ねね、風。劉備達は并州を袁紹から守りきれると思うか?」

「難しいと言わざるを得ないのです。地の利はありますが兵力差が大きすぎるのです」

「もって半年ですかねー。華琳様が青州に攻め込むとしましても、仲なら双方に充分対応出来ますよー」

そうだよな、難しいよな。

自力で守るといっても、このままじゃ盾代わりにしての見殺しだ。

涼州を短期間で制圧できれば、・・駄目だ、そんな簡単にいくもんか。

涼州騎馬兵の強さは大陸でも屈指だ、まともにぶつかるなんて論外だ。

だからこそ軍師の二人に策を考案してもらい、真桜は長安に先行して投石機を急いで増産中だ。

「一刀様、復興中ではありますが此処洛陽は大陸一の都市です。あと半年あれば経済の基盤は回復出来ます。その経済力で劉備さんへの援助を最大限に行えば、并州は防衛に専念出来るのでは無いでしょうか?」

「并州方面の兵が不要ならば涼州外征への兵は最大限お連れ下さい。洛陽は私が新たに募兵と調練を行い必ずや守ってみせます」

月と凪からの提言で決断する。

「よし、その方針で行こう。皆、力を貸してくれ」

「「「「はい」」」」

 

さて、主より時折様子を見てあげて欲しいと頼まれてはいるが、どうしたものか。

劉備殿に謝罪の一環として春まで洛陽の復興を手伝うように言われた関羽殿だが、やれやれ、あのような仏頂面では周りの者が避けて当然だな。

黙々と働いてはいるが、全身から不本意な気持ちが滲み出ている。

薪の確保の為に洛陽から逃げ出した輩の邸を解体している現場で、従事している者達は恨み辛みを多少は発散出来るので、楽しんでいる者も多いのだがな。

噂以上に石頭のようだ。

主が無理に話そうとしないのも納得だな、あれでは何を言っても無駄だろう。

・・それでも最大限の配慮をしているのだがな。

このまま主の心遣いに気付かぬような器量ならば、残念だが共には戦えぬな。

私としても信頼に値する戦友を得たいものだが。

「星、このような場所に来るとは珍しいな、巡回か?」

「華雄か。貴公こそ休む間も無く働き続けていると聞く。主や月が心配していたぞ」

「勿体無い事だ、一兵士に過ぎぬ私の事などを気にして下さるとは。なに、全然大丈夫だ。あの方達のお力になれるのなら疲れなど全く感じぬ」

本当に以前とは別人のようだ。

洛陽への進軍中に姿を現し、地に頭を打ちながら謝罪した華雄。

戦での独断行動、軍に戻らず行方を晦ましていた等の軍規違反。

極刑でも止むを得ぬところだが、将軍職の剥奪と打擲の罰を受ける事で助命された。

打擲の間、主と月は決して目を逸らさなかった。

主の握り締めた拳からは血も流れていたがな。

「華雄?」

背を向けていた関羽殿が華雄の名を聞き咎めた様だ、こちらに向いている。

「ああ、関羽殿、御紹介しよう。貴公が思い浮かべた事で正解だ。元董卓軍の将、華雄殿だ」

「華雄だ。今は将でなくて一兵士にすぎんがな」

「私は関雲長。并州を治める劉玄徳様の将だ」

「劉玄徳?初めて聞く名だが、それに関雲長といえば平原の相ではなかったか?」

私は二人に互いの現状況を説明する。

「成程、色々とあったのだな。すまぬが私は仕事があるので失礼する。関羽殿、余計なお世話なのは重々承知だが、不機嫌な態度を見せるのは劉備殿のお立場を良くはせぬぞ」

「貴女に何が分かる!貴女こそ今の立場は全て御遣いの所為ではないか。武人の矜持を理解せぬ主に悔しくはないのか!」

・・この者、斬るか。

だが華雄は気にする事無く淡々と答える。

「武人の矜持か。では関羽殿、その為にどれだけの味方を死なせた?」

「そ、それは・・」

自覚は辛うじてあるようだな。

まあ、私も偉そうな事は言えぬがな、主に出会わねば大事な事を失念して槍働きばかりにかまけていたろう。

「関羽殿、全てを否定する事は無い。ゆっくりと考えてみられよ」

華雄が持ち場に戻り、私も去ろうとすると、

「趙雲殿、申し訳ない!分かってはいるのだ。分かってはいるのだが、どうしても心の整理が出来ないのだ。申し訳ない!」

「・・・」

石頭か、純粋過ぎるのかもしれぬな。

「関羽殿、よければ今晩、一献付き合わぬか?」

 

 

華琳様のお部屋で春蘭と並び正座する私。

「春蘭、桂花。貴女達、一刀に命を救われた礼をする事も随行させた理由だったわよね」

「「・・はい」」

尋常ではない怒りの気を纏われた御声が発せられる。

「いつまで経っても礼を言わず、むしろ暴言を放つ。一刀に甘えるのも大概にしなさい、礼をするまで私の前に立つ事を許さないわ!」

「「は、はい!」」

急いで部屋を飛び出して一刀の部屋に春蘭と競うように向かうけど、どうしたらいいの、今更お礼なんてどう切り出したらいいのよ。

それに華琳様がいないと上手く話せるかも分からない。

悩んでる私を他所に、春蘭は勢いよく扉を開けて一刀に言い放つ。

「北郷、礼代わりだ。私としろ!」

率直過ぎる発言に私は呆れる。

「春蘭、お礼って?」

「虎牢関で矢を防いでくれた事に決まってるだろう。そんな事も分からんのか」

「ああ、その事か。気にしなくていいけど・・、分かった、春蘭の気持ちを有り難く受け取るよ」

「うむ、それでよい」

待ちなさい、そんな簡単な事じゃないでしょ!

あなた達、華琳様を裏切る気なの。

そんなの認めないわよ、二人とも許せないわ。

「春蘭、俺は普段早朝に訓練してるんだ。明日の朝でいいかな?」

「うむ、よいだろう。今夜はしっかり休んでおけ。明日から二日間、陳留に戻るまでしっかり鍛えてやろう」

え?

訓練?

鍛えてやろう?

「春蘭、どういう事よ?」

「はあ?お前は何を聞いていたのだ。矢を防いでくれたのは感謝してるが、北郷がもっと鍛えていれば手を傷つける事も無かったのだ。だからこそ私が鍛えてやって、今後は傷つかずに済む様にしてやろうと言ってるのだ。軍師の癖に物分りの悪い奴だな」

あまりの事に血管が切れそうだわ。

「分かる訳無いでしょ!それなら最初からそう言いなさいよ。大体一刀、あんたは何で分かるのよ!」

「いや、まあ、春蘭だし」

何よ、その意思疎通は。

「ではな、私は華琳様の部屋に戻る」

止める間も無く春蘭が退出していったわ、私を置いて行かないでよ。

「それで、桂花はどうしたんだ?」

「わ、私は、・・そうよ、あんたの建国書、欠点だらけだから心優しい私が指導に来てやったのよ」

「それは有り難いな、是非頼むよ」

「フ、フン。仕方ないわね、少しだけよ」

咄嗟の思い付きだけど悪くはなかったわ。

あの建国書、私も何度か読み返して気になってた所が沢山あったのよ。

総じて悪くはないんだけど、私ならもっといいものに出来るわ。

早速取り掛かって、私も一刀も時間を忘れて互いの意見を交わし合う。

「だからそこは此処と兼ね合わせるのよ」

「それならこっちの方が良くないか?同一系統でまとめた方が」

「互いに噛み合せた方が組織の腐敗を防げるわ。相互に監視させるのよ」

「成程、流石は桂花だ」

な、何よ、褒めても何も出ないんだから。

認めるのは癪だけど、一刀も建国書も大したものだし、この時間も楽しいわ。

草案を作成中の魏国の建国書、やはり華国のと重なる部分が多くなりそうね。

・・やっぱり、一刀は魏国に必要ね。

華琳様には近づかせないけど、そうね、私の手伝い位はさせられるわ。

普段の顔も不快な程でもないし、こうして一緒に仕事に取り組むのも悪くないわ。

自分でも気付かずに一刀をじっと見つめて、改めて一刀の存在を不思議に思う。

基本はお人好しの固まりな癖に、大陸屈指の勢力を誇る華国の王。

従来の慣習を平然と破って、遂には漢帝国を小細工無しで堂々と滅ぼしたわ。

自国以外の勢力は全て滅ぼすと明言しながらも、華琳様や董卓の危機に駆けつけて孫家や劉備にも手を差し伸べてる。

結果的に大きな利を得てはいるけど、とても計算の上とは思えないのよ。

華琳様にとって最大の敵なのは間違いないわ、それなのに全然憎めない。

そう、寿春で初めて会った時から変だった。

男嫌いの私には珍しい事じゃないけど、顔を見た時は普段以上に腹が立ったわ。

それなのに別れる時には、華琳様の事とはいえ私は自ら真名を預けた。

受け取らないなんて絶対に許さないと思っていたけど、笑顔で受け取ってくれて本当に安堵した。

先の戦では命を救って貰った、私の所に来てくれた。

私だけじゃないわ、春蘭も華琳様もそう。

命を救われた、心も助けてくれた。

感謝してもしきれない事なのにアンタは平然としている、さも当たり前の事をしてるだけだという態度で。

どうしてなのよ?

アンタにそんな理由は無いじゃない。

それに私は、アンタにずっと腹が立っていた。

華琳様と仲良くしてる事が原因じゃない。

アンタには理不尽な理由だとは思う、それでも納得出来ないのよ。

どうしてアンタは私達の傍にいないの!

そもそもそこがおかしいのよ、私のこの考えは絶対に間違ってない。

私の中で燻っていた感情が爆発しようしている。

様子の変わった私に一刀が声を掛けてきた。

「桂花、疲れたのか?」

「違うわよ!」

私は立ち上がって一刀に詰め寄る。

自分でも分からない怒りが、そして寂しさが私を突き動かす。

「どうしてアンタが他国の王なんてやってるのよ!アンタの居場所はそこじゃないでしょ!」

「!!、桂花、まさかっ!?」

「まさかって、・・やっぱりアンタ何か隠してるわね、私がこんな訳の分からない気持ちになる理由を知ってるのね、言いなさい、言いなさいよ!」

駄々をこねる子供のような私。

何で涙が出るのよ、何でこんなに悲しいのよ、貴方は私の何なのよ!

一刀は泣き続ける私を強く抱き締めた。

身体の震えが私に伝わってくる、何も語らない一刀の決意と一緒に。

何時の間にか私と一刀は互いを求め合っていた。

衣服を整えて私が部屋を出る時に、一刀がようやく口を開く。 

「桂花、華琳を頼むよ」

「言われるまでもないわ。アンタはさっさと迎えに来なさいよ、この全身精液男!」

 

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あとがき

小次郎です、新年明けましておめでとうございます。

やっと休み貰えました。

温泉にでも浸かっていたい、ですが出掛けるのは億劫過ぎる、入浴剤で我慢します。

新年早々愚痴を言って申し訳ありません。

今年も頑張って作品を投稿したいと思ってます。

読んでいただけましたら大変嬉しく思います。

予想通りの展開になったら勘弁して下さい、プロットは崩せないんです、でも予想してくださるのは嬉しい。

それでは本年もどうかよろしくお願いします。


 
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