No.747212

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第六話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第六話「きょういのかくさ」

2014-12-31 09:17:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1365   閲覧ユーザー数:1235

 徐州州牧、劉玄徳。

 黄巾党討伐の際には曹孟徳の下で数々の戦功を上げた。

 反董卓連合に参加したときには最前線を任されるも、董卓軍の先手を読んだ巧みな戦術により汜水関から敵将をおびき出すことに成功。あわや討ち取るというところまで追いやった。

 その時の功と懇意にしていた公孫賛の強い推薦により、黄巾の乱より長らく空いていた徐州の州牧に命じられた。

 それから一月ほどで内政に関わる情報を全て整え終えていた。驚異的な期間である。

 元は平原の相だったというのに、明らかに規模の違う徐州をここまで短期間で纏め上げたのは彼女の手腕か配下に有能な者が多く揃っているからか。

 民達の感情も概ね良好。

 商人からも過ごしやすいと評価されるほどで、今の乱世において平和とは徐州のことではないかと言われるほどであった。

 

 

 徐州の首都と云われる下邳城。

 俺達はその城下町とも呼べる街にやってきた。

 といっても到着したのは昨日の夜遅く。

 ギリギリ空いていた宿に滑り込んだ状態だが。

 

 ここに近付くにつれて人々の間では笑顔が増え、まるでこの地だけが戦乱とはかけ離れた場所なのではないかと錯覚を受けたほどだ。

 ……時間は掛かったが路銀も十分に確保できている。例え劉備が拒絶したとしても当分は飢えに苦しむことはない。抜かりはないはずだ。

 

 満月が頂点に達し、ちょうど日をまたいだ頃。

 音々を除いた軍師勢が宿の一室に集合したところで今一度情報の整理を行うことにした。

 

「劉備のところには昼前に訪れるとして、現状どういう状況なのか把握しよう」

 

 何を今更と思えるだろう。

 だが時間が過ぎているのに何も変化がないものなどほとんど無いのだ。

 仲間と連絡を密に取ることが悪いことではないのは皆が知っていること。

 俺の一言に反論がないことを確認した茉莉が頷き返し、続けた。

 

「民の声も概ね良好かと。太守である劉備も劉備様、玄徳様と慕われている模様で、税についても異様な率ではなく平均的。少し土地の割合的には人が多く見えるのは、ここが首都として機能しているからでしょうか……」

 

 まさに史実通りという感じか。

 額面通りに受け止めるなら、だが。

 ……うん? それはそうとしても一つ変だな。

 

「割合的に人口が多いなら、その分税は高くするよな? でないと金欠とまでは言わないが国庫は潤わないだろう?」

 

 茉莉がさっき言ったように徐州の税率は低い。

 洛陽は例外としても幽州、冀州、青州とは比べるまでもないほどに。

 

「そこは私にも分かりません。何か私達には分からない強行な政策を執っているのか、はたまた国庫を潤す必要がないほどの財源を確保しているのか……」

 

 おそらく前者はあり得ないだろう。

 そうでなければ民からこれほど慕われていることもないはずだ。

 残す後者は、徐州は海に面していることもあるから塩を取ることも出来る。

 海に面していない内陸の地域にとって塩とは大変貴重なものとして扱われている。

 ただ、それだけで徐州全体を賄えるかといわれると首を傾げるところでもある。

 

「……たぶん、どっちも違うと思いますよ?」

 

「ん? なんでそう思うんだ?」

 

 おずおずと茉莉の言葉に口を挟んだのは莉紗だ。

 普段茉莉の言葉にはイエスマンな彼女からしたら珍しい光景でもある。

 詠もちょっと驚いた表情で見てるし。

 

「劉備のところには私と同じ私塾に通っていた朱里ちゃん……諸葛亮がいるはずです。彼女はその……優しすぎますので、強行な政策なんて執れないと思います。それにそんな政策を執っているならば住民の皆さんがここまで笑顔を浮かべることもないはずです」

 

「確か水鏡塾だっけ。でもさ、諸葛亮なんて人物の名前が劉備の下にいるっていう報告は挙がってないと思うんだけど」

 

「……私も確信があるわけじゃないですけど、反董卓連合の劉備軍の動きを見た感じ、あまりうまく表現できませんが彼女らしさ、みたいなものを感じたんです。……私塾を卒業して以来連絡を取れていなかったんですが、彼女達が向かった方向を考えてもあながち間違っていないように思えますので」

 

 概ね俺と同じ見解だが、諸葛亮か。

 これはまた大きな名前が出てきたもんだ。

 しかし三顧の礼を済ませるでもなく、諸葛亮のほうが劉備を訪ねるのか。

 ……いや、それよりも何か大事なことを忘れてないか?

 

「……茉莉。そろそろ莉紗を睨むの止めなさいよ。いくら報告が漏れてたからってそこまで睨むんじゃないわよ。それでもあんたの弟子でしょ? 滅茶苦茶冷や汗かいてるじゃないの」

 

 隼が目を閉じ何かを考え始めた。

 こうなると自慢の聴力も大して役に立たなくなるというのは周知の事だった。

 そのタイミングを見計らって、詠は先ほどから蛇に睨まれた蛙の如く固まっている莉紗に助け舟を出していた。

 

「詠、兄さんへの報告は何事よりも優先されると言ったはずです」

 

 悪即斬も真っ青なほどの即答だった。

 この場合の悪は、茉莉にとって、という言葉が前に入るが。

 

「……例えあんたと隼がイチャイチャしてる時でも?」

 

「………………時と場合によります、ね。……今回は詠に免じて特別に許してあげましょう」

 

 なんとも的確な痛撃に流石の茉莉も完敗だったようだ。

 相変わらず兄には弱い。

 

「お姉様!」

 

「でも、今日は抱きつくのはダメですからね」

 

 許しを得たところで即座に抱きつこうとした莉紗に足を掛けて転倒させる茉莉。

 その動作に全く容赦がなく見えたのは気のせいだろうか。

 軍師らしからぬ機敏な動きで辛うじて地面へのダイレクトキスを避けた莉紗は、代わりに強かに打ちつけた肘をさすりながら若干涙を浮かべていた。

 痛みなのかべそをかいているのかは分からないが、これには流石の詠も同情を隠せないでいた。

 

「……おねえさま~」

 

「はぁ……。これで涙を拭きなさい」

 

 溜め息とともに小さな手拭いを渡す詠。

 

「ありがとう、詠ちゃん」

 

「詠ちゃん言うな!」

 

 思い出した!

 諸葛亮だけだと思ってたけど、莉紗は確かに彼女達って言ったな。

 確かに軍師一人が旅に出るっていうのも考えられないか。

 なら誰と旅に出た?

 

「なぁ莉紗……ってなんだこの状況」

 

 そっぽを向く茉莉に、詠に抱きついている莉紗。莉紗を必至に引き剥がそうともがいている詠。

 あ、諦めた。

 ま、そうだろうな。莉紗は茉莉直伝で色々と教えこまれてるからな。

 って、そうじゃなくて。

 

「あー、莉紗? 今は大丈夫か?」

 

「……だいじょーぶじゃありませんけど、たいじょうぶです」

 

 どっちだ。

 本人が大丈夫って言ってるなら大丈夫なんだよな?

 詠もそんなに睨むな。後で莉紗を下ろしてやるから。

 

「……諸葛亮の事を彼女達って言ったよな。なら、諸葛亮は誰と一緒に行動していたんだ?」

 

「あー、それは雛里ちゃ……鳳統ですよ。……ひっ! お姉様ごめんなさいー!」

 

 ……そりゃあ一月で内政も整うわな。

 直後、莉紗を睨んだ茉莉を引き止めるので多少時間を食われたのは何故だったのか。

 

 

 

 下邳城城門。

 万が一のことを考えつつも全員で門までやってきた。

 門番をしていた兵に話しかけ、物凄く驚かれながらも報告を受け走っていった伝令を待つこと数分。

 所持している武器を待機していた兵に預けたところで開かれた門をくぐり、玉座の間の前の廊下で待たされることこれまた数分。

 俺は初めて劉備と対面した。

 

「お初にお目にかかります。司馬朗と申します」

 

 まずは皆よりも一歩前に出て、目上の人物を扱うように恭しく挨拶をする。

 この場合皆の紹介は相手から求められた際に行うのが通常であるから、自己紹介は俺だけだ。

 ちなみに劉備は以前の俺の官職から考えても目上だ。

 たかだか洛陽全体を警備を任された者と、徐州全てを任された太守。

 目上なのは当然。

 俺達の正体を伝令から聞いただろうに、それでも面会を許可したのだから恩さえも感じなければならない。

 ……そんな面持ちでここに来た。

 

(あなたが……)

 

(桃香、先に自己紹介したほうが)

 

(あ! そうだね)

 

 だから、こんなひそひそ話が聞こえてきても顔を振り上げることはしなかった。

 とりあえず、劉備への評価が少し変わったのは確かだがな。

 

「司馬朗さん。顔を上げて下さい」

 

 言われるがままに顔を上げた。

 玉座に居たのは男性が一人と女性が三人。

 今回は会合に口出しをしないのか、そのさらに少し後ろに張飛ととんがり帽子を目深に被ったちっこいのが一人いた。

 三人の女性……というか見た目的には女の子が正しいか。その内の二人は烈蓮に匹敵する、もしくは抜いているのではないかと思わせるほどのモノを持っていた。

 もう一人は……ああ、脅威の格差社会とでも言っておこうか。

 別にやましい気持ちがあったわけではないが、それほどまでに存在感を主張していのだから仕方がない。

 たぶん格差社会に悩まされているのが、莉紗の言っていた諸葛亮か鳳統のどちらかだろう。

 アイツも似たような……、莉紗の名誉の為にもこれ以上はやめておくか。

 

 配置的には男の左右に大小の女の子。大きいほうは関羽だな。

 そして彼らの一歩前におそらく劉備だと思われる女性がいる。

 関羽は俺が顔を上げてから一度も目を逸らさない。殺意を隠しているところは流石か。

 男のほうも何かじっと見てきているな。

 むしろここでは見たことのない服装をしている男のほうが気になるが、今は劉備だ。

 

「こうして対面するのは初めまして、になりますね。私が劉備です。そしてこっちにいるのが」

 

「関羽と申します。汜水関の時以来にですね」

 

 劉備が横にズレ、一歩前に出てきた関羽が威圧を隠そうともせずに挨拶をした。

 なんとも返答に困る。何を考えているのかは分かりやすいのが楽で助かるがね。

 

 関羽の次に出てきたのは格差社会に取り残された少女だった。

 おそらくこれが伏龍か鳳雛のどちらか。警戒するに越したことはない。

 

「わ、私の名前は諸葛亮と申しましゅ!」

 

「しゅ?」

 

 あ、いかん。つい突っ込んでしまった。

 いきなり気勢を削がれてしまった。これは演技か?

 なんだかはわわとか言って本気で焦っているように見えるが……。

 

 諸葛亮と言った少女が後ろに下がり、最後に出てきたのが妙な服装の男性だった。

 年は俺よりも少し下だろうか。

 力があるようには見えないが、優男という感じもしない。

 どうも劉備達の視線を見るに相当な信頼を得ているっぽいが、劉備が大将だと思っていたのだが本命はこっちなのか?

 

「最後が私達のご主人様の――」

 

「ちょっと桃香は黙っててね。……俺は北郷一刀。司馬朗、さんだったよね。よろしく」

 

 男は劉備の口を塞ぎながら北郷と名乗った。

 どこかで聞いた覚えのある名前だが、どこで……。

 いや、それよりもだ。聞き捨てならない単語が聞こえたぞ。

 ゴシュジンサマ?

 これはあれか。伏龍と鳳雛みたいな感じか。

 ……んなわけあるか。

 衝撃の出来事にパンクしかけた頭の中の馬鹿な住人は追放だ。

 つまりはさっきの予想は当たってたってことか。

 劉備の上に北郷がいる。

 いや、民の慕われ具合から劉備も大将の可能性があるな。

 だとしたら劉備と北郷、二人の大将で回っていると見たほうが妥当か。

 武官はおそらく関羽と張飛の二枚看板。数こそ少ないがそれぞれが一騎当千。

 そして天才軍師が二人。

 関羽を除いて悪い印象は持たれていないと思うがどうなるか。

 まだまだ波乱は続きそうだな。

 

 

 

【あとがき】

 

 皆様こんにちは。

 九条です。

 

 これで今年最後の更新となります。

 なんとか間に合った……。

 

 5月から投稿を始め、すでに7ヶ月目。

 未だに二章とか進みが遅くてすみません。

 コメントでもありましたが、まだまだオリキャラについてよく分かっていないかと思いますが

 それぞれ過去の話をどこかで盛り込んでいく予定です。

 もしくは「追憶」のような章を挟むかもしれません。

 今のところ後者が有力ですが、気分屋なので変わるかもです。ごめんなさい!

 

 1/1にも作品を投稿してやろうと密かに画策していましたが無理です、死んでしまいます。

 年始は仕事もまったりするので、ちょっとまったりゲームさせて下さい(#゚Д゚)

 PSO2のship8で待ってますよ。

 

 戦Pチャンネルで自分も応募しましたが、年賀状楽しみです。

 当たるといいなぁ……。

 

 と、あとがきはこんなところで!

 来年もどうにか1週間に1話は更新していく所存ですので、ご贔屓に!

 それでは皆様、良いお年を!

 (#゚Д゚)ノ[再見!]


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
7
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択