No.744630

紫閃の軌跡

kelvinさん

第59話 早まる時

2014-12-20 16:48:48 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2464   閲覧ユーザー数:2272

 

6月28日 05:30―――

 

~監視塔~

 

砲撃を受け、その姿は原形をとどめていない状態であった監視塔。だが、不幸中の幸いと言うべきか、怪我人はいても死者は誰一人も出ていなかった。しかし……攻撃されたという事実に、この場所の様子を見に来たゼクスは必要最低限の指示を行い、向こう側―――共和国軍基地のほうを双眼鏡で確認する。

 

「……ここまで読んでいるとはな。流石は“紫炎の剣聖”、というべきだろうな。」

「別にそこまで読んでいるわけじゃないですけれどね。」

 

ゼクスの言葉に続くように放たれた言葉の主は、ゼクスの隣にいた赤の制服を身にまとった人物―――アスベル・フォストレイトその人だった。今回の事に関しては、実際に“古代遺物”を使っているであろう人物を特定することに集中していたせいか、こちらの方を食い止めることは出来なかった。それに関してはこちらの落ち度だろう。

 

「―――向こうに知り合いがいましたので、交渉はしておきました。本日の16:00までは待ってくれるとのことです。彼等とて“隻眼”と真正面からやり合いたくはないでしょうし。」

「―――感謝する。だが、これで特別実習どころでは……」

「アイツらは、こういったことに対して協力を申し出るでしょう。無論俺もです。確かにリベールからすれば縁の遠いものかもしれませんが……この地を汚そうとする輩には“罰”を与えるべきでしょうから。」

 

軍の杓子定規からも、学生と言う身分からしてもかけ離れているものなのだが……しかし、こういった状況下においてはその枠なんて意味をなさない。それに、軍が下手に動けない以上は動ける人間がこの事態を収束できるように努めるのが筋というものだろう。

 

「率直に聞こう。今回の事に関して共和国軍側の関与は?」

「“低い”でしょうね。先の情勢からして“失点”は作りたくないでしょう……ただ、互いの対抗勢力―――テロリストが絡んでいたら話は別ですが。」

「………そうか。」

 

ゼクスと一通り話した後、流石に腹も減ったのでアスベルは馬を駆ってその場を後にした。集落に帰った頃にはリィン達も目を覚ましたので、ウォーゼル家で朝食と相成った。

 

 

6:30―――

 

~ノルドの集落 ウォーゼル家~

 

「ふう……ごちそうさまでした。」

「朝からたくさん食べてしまいましたね……」

「昨日、宴会でたくさんご馳走を頂いたんですけど…………」

「ふふっ、育ち盛りですものね、」

「馬に乗るのは体力がいる。そのくらいむしろ普通だろう。」

「アスベルなんてその最たるものよね。」

「……何で引き合いに出すんですかねぇ。」

 

リィン、ステラ、エマが自分たちの食べた量の食事を改めて多いのではないかと思ったが、ファトマは微笑んで呟き、ガイウスにとってみれば、馬に乗る以上しっかり食べておくことが大事だと述べた。それに続くようにアリサが述べ、アスベルはジト目で返していた。確かにあの馬の操縦は楽ではないにしろ、それほど難しいものでもない。ここで話のタネに上げられるのは少しばかり恥ずかしいものがあるのは確かであった。

 

「え、えっと……おかわりはいりますか?」

「いや……さすがに遠慮しておこう。」

「余った鶏飯があれば竹の皮に包んでおいてくれ。実習中に頂くとしよう。」

「うんっ!」

「リリーもてつだう~。」

「じゃあ、冷やしたお茶も竹筒に入れておきますね。」

「はは……どうもありがとう。」

「うーん、何から何までお世話になりっぱなしですね……」

 

色々と世話をしてくれるガイウスの弟達の優しさにリィンは微笑ましそうにトーマ達を見つめ、リーゼロッテは実習とはいえここまでしてくれたことには、頭が下がる思いを含ませつつ呟いた。

 

「気にすることはない。客人には当然のもてなしだ。さて―――今日の実習だが課題を用意してある。」

 

そして、ラカンはリィンに実習内容が書かれてある封筒を渡し、リィン達は実習内容を確認した。

 

 

【二日目実習内容】

 

・高原南部の手配魔獣

 

 

「昨日よりも依頼の数は絞らせてもらった。残る1日は、ある程度君達の好きなように過ごすといいだろう。」

「……了解しました。」

「ご配慮、ありがとうございます。」

 

ラカンなりの配慮に対し、リィンとエマは礼を述べた。昨日に関しては依頼をこなすのに加えて導力車の件もあったので、それに対しての自由時間を与えたいという彼なりの親切心だろうとは思う。

 

「ふふ、何ならアリサさんはお祖父様とゆっくりしたら?昨日はあまり一緒に過ごせなかったみたいだし。」

「そ、それは…………」

 

ファトマの提案を聞いたアリサは驚いた後口ごもった。確かに数年ぶりの身内との再会だ。アリサとしても色々言い足りないところはあるだろうし、トリスタに戻るのは明日なのでそうしても罰は当たらないと思う。ただ、そうも言ってられない状況であるのは確かだろうが……それを解っているアスベルは敢えて黙っていた。

 

「そういえば、昨日グエンさんは長老さんの所に泊まったんだよな。」

「そろそろ起きてらっしゃる時間だと思いますし……」

「午前中は俺達に任せて祖父孝行でもしたらどうだ?」

「そうですね……数年ぶりに会えたのですか、それもいいかもしれませんね。」

「で、でも…………」

 

ユーシスやステラ、エマの提案に対し、それでも決めかねているアリサ……すると、そんな穏やかな空気を取り払うかのように焦燥を浮かべるような声が外から聞こえてきた。

 

「ラカン!……ラカンはおるか!」

「長老……?ええ、おりますが。」

 

ラカンがそう答えると、イヴン長老とグエン、ノートンが住居に入ってきた。その三人が揃って入って来たことには一部を除く面々が目を見開いていた。

 

「あら、皆さんおそろいで。」

「お、お祖父様?」

「ノートンさんも……」

「うむ、みんなおはよう。」

「お邪魔させてもらうよ。」

「………」

「……どうやら何かあったようですね?」

 

三人からさらけ出されている緊迫感を感じ取ったガイウスは真剣な表情で黙り込み、ラカンは気を引き締めて尋ねた。それも、単なるトラブルどころでは済まないレベルの話だということは、それとなく感じていた。

 

「うむ―――ゼンダー門から先程連絡があった。どうやら帝国軍の監視塔が何者かの攻撃を受けたらしい。」

「!?」

「なに……!?」

「えっ!?まさかその攻撃をした相手は……!」

 

長老の話を聞いたガイウスとユーシスは驚き、リィン達もそれぞれ気を引き締めていた。このような場所での軍関連施設への攻撃があったという事実。即ちこの場所で戦端が開かれる可能性が一気に高まった可能性があるということだ。

 

「今日の真夜中の話らしい。し、しかもそれだけじゃなくて…………」

「どうやら共和国軍の基地も攻撃を受けたらしくてな。これは少々……騒がしくなるかもしれん。」

 

ノートンは信じられない表情で答え、グエンは重々しい様子を纏って答えた。

 

「それと……アスベル君。ゼクス中将から“依頼”があった。この状況を打破するため、真相を究明してほしいとな。報酬に関しては、“要相談”ということらしい。」

「なっ……」

「………成程、“遊撃士”としてですか。そっちは休業中なのに、俺如きの手を借りなければいけない事態、ということですか。」

 

そして、イヴン長老からアスベルにゼクスからの伝言を伝え、アスベルは少し考えた後……自分の肩書きの一つを頼るという選択肢を彼は選んだという結論に達した。

 

「って、気付いていたのか?」

「お前たちが起きる前に、ちょっと馬を走らせていたら……監視塔が襲撃されていた跡が見受けられたからな。ちゃんとした調査はしていないけれど………さて、どうする?」

「どうするって……?」

「ここから先、俺は“遊撃士”という形で捜査をすることになるだろう。その為にも一度ゼンダー門に行く必要があるが……行動に強制はしないってことだよ。」

 

アスベルはともかく、リィン達は“学生”の身分。同じ立場としては強制はしないが、ここから先は生半可な覚悟では命を落としかねない。この事態を招いた犯人たちの素性が知れない以上、どのようなことが起きても不思議ではない。アスベルのその問いに対して、先陣を切る様に答えたのはアリサであった。

 

「それなら、私はついていくわよ。ここの人達には何かとお世話になったからね。それに……お祖父様も気に入っているこの場所を戦渦に巻き込ませたくないもの。」

「アリサさん……」

 

芯の通った彼女のその言葉に、エマが少し驚いていた。そこに続くように、

 

「はは……俺も協力させてもらうよ。こういったことには経験があるからな。」

「そういうことならば、俺も協力しよう。元々はノルドの問題……だが、アスベルが協力してくれるのならばこれほど心強いことはない。」

「フン、ならば俺も協力せねばなるまい。ここで逃げてはアルバレアの名が泣くというものだし、何よりお前には借りがあるからな。ここらで返させてもらうとしよう。」

 

リィン、ガイウス、ユーシスらの男子メンバーも協力すると名乗りを上げた。そして、

 

「全員で無事に帰るという約束がありますから、私も協力いたしましょう。」

「この場所だと私ができることは少ないかもしれないけれど、手伝いますよ。」

「私も協力させてもらいます。」

 

ステラ、リーゼロッテ、エマもその申し出に対して協力することに名乗りを上げることとなった。これには流石のアスベルもちょっと意外そうな表情を浮かべた。

 

「何か、この流れだと俺がリーダーみたいじゃないか………まぁ、いざとなったらリィンに丸投げするけど。」

「いや、それは勘弁してくれ……」

「冗談だよ冗談………三割ぐらい。」

「フフ……」

「カシウス殿も大層な後継者を見つけられたようだな……」

「流石はワシの見込んだ人物じゃな。」

 

自分はリーダーの柄じゃない……そういうのは、そういう資質がある奴がやってほしいと思うのだが、自然とその流れを作っていることにファトマは微笑み、ラカンも笑みを零し、グエンは生暖かい目でⅦ組のメンバーを見ていた。

 

「となると、早めに動いた方がいいな。時間は待ってくれないから……7:00までにはここを出よう。」

 

そうすれば、7:30までにはゼンダー門に到着できる。念のため、集落の方は避難の準備を始めるということだった。それに関しては人手が足りているので問題は無いという言葉に甘えるような形にはなってしまったが……今回の状況を知りたいというノートンが同行する形でリィン達は手早く準備を済ませ、ゼンダー門へと急ぐこととなった。

 

 

リアル仕事が残業続きで中々更新できていません。おのれブルブラン(何

 

手配魔獣の出現域が変わったのは、北部の方を既に倒してしまったからです。アスベルが。

後で原作を見直すと、『あっ……』となってしまいましたがw(素で出しておいて、忘れていたパターン)

 

外伝の方は第四章前の幕間にてちょっとやります。リノアをマクダエル議長秘書にしたのは、碧の原作をやっている人は気付くことですが……あれ、碧の時間軸でやると6月と7月が『なかったこと』になってしまうからです。その時間軸補完のための外伝の予定……なのですが、違った視点から本筋を書くので殆どオリ設定満載です。おのれファルコム(何故に

 

……ふと思ったのですが、マリクとレヴァイスが協力するって、考えて見るとオリビエの考えていることの体現者になるんですよね。別に狙ったわけではないのですがw

 


 
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