No.744288

鬼斬り(仮)

藤堂紅さん

昔、考えてた物語ですが、少しずつ進めてアップしようと思います。

テーマというほどではないですが、ギャルゲー風な路線で考えてました。

タイトルは某漫画の必殺技っぽいですが、全く関係ないですm(__)m

2014-12-18 17:43:48 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:375   閲覧ユーザー数:372

月明かりと街灯の明かりを避けるように、脇道に二つの影が対峙していた。

うっすらとしか見えないその影が、かろうじて人のものだとわかる。さらに目が慣れてくれば、

その影の一人は女性であることがわかる。

 

「お嬢さん、夜の散歩は危ないよ・・・」

 

かすれたような震えるような男の声で、もう一つの影が女性に話しかける。男は、女性の進路を塞ぐように

立っていた。さらに、女性の背後には壁しかなく彼に退路を塞がれている。

 

「・・・」

 

女性は両腕を組み体を委縮させ、男から離れようと少しずつ後ろに下がるが、男はその歩幅に合わせるように

じわりじわりと詰め寄っている。

 

「どうしたの・・・・」

 

男の呼吸は徐々に荒くなり、目をぎょろりと見開いている。

 

雲の切れ間から月の光が差し込むと、男が灰色のスーツを着ていることがわかる。特に、乱れもなく普段から

服装に気を付けているのだろうと思えた。だが、その風体は異様でまるで飢えた獣が獲物を見るような目で

女性を見ている。

 

女性の方はというと、明らかに場違いな黒のドレスを纏っていた。胸元や足を強調するようなデザインのもので、

一般の家庭ではまず着用どころか、お目にかかることはめったにないだろうものだった。

 

第三者から見れば、女がもてない男を挑発して誘ってるようにも見えてしまうかもしれない。

 

「どうして逃げるのさ・・・」

 

彼の言葉に笑っているのか、呼吸が苦しいのかわからないような呼気が混ざる。月に照らされているはずの

体にところどころ黒い影が浮かぶ。よく見れば、黒い霧のような異様なものに包まれていた。

 

「やっぱりか」

 

それを見た女性が、ようやく小さく声を出した。体を抱きかかえ、怯えていたことが嘘のように堂々と

仁王立ちし彼を見据えている。

 

「・・・なんだよぉ・・・」

 

ぼそぼそとした、ハリのない声で女性に抗議する。

 

「あらぁ、エスコートしてくださるのではなくて?お・じ・さ・ま」

 

相手をからかうように微笑しながら、すらっとした足を見せつけるように前に出す。

男はその足を凝視するように顔を前に突き出した。瞬間、あごから鼻に突き抜けるような衝撃がはしる。

彼の体は中を舞い、アスファルトに体を打ち付けた。普通であれば、そのまま倒れたままになるか、少なくとも

まともに動けるような状態ではないはずなのだが、男は何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「・・・ひどいじゃないか・・・お嬢ちゃん」

 

目を見開き、苦悶とも怒りとも取れる表情で、女性を見据えている。

 

「大したものねぇ」

 

振り上げた足をすっとおろし、スカートの位置を確認していた。

 

「私の仕事はここまで・・・あとはよろしくね」

 

 

彼女が声をかけると同時に、背後に気配を感じて男は振り返る。

そこには、自分を蹴り飛ばした女性と同年代ぐらいの男が、腕を組んでにやにやと笑っていた。

 

「おっさん・・・赤だったよな」

 

唐突に腕組みした男が声をかける。一瞬何のことかと混乱したが、はっと気づいたような表情にかわる。

 

「ああ、赤だった」

 

嬉しそうな顔でそう答えて、男二人はがっしりと握手を交わす。それを見ていた女性は顔を真っ赤にし、

二人めがけて突進をしてきた。

 

後ろからの不意打ちに対応できず、サラリーマン風の男はあっさりと突き飛ばされる。腕組をしていた男は

さっと身をそらして、突き飛ばされた男と女性をかわした。

 

「いきなり何するんだよ。俺に任せるんじゃなかったのか?」

 

「いきなり何の話をしてるのかしらね」

 

とぼけたように声をかけた男に、怒気をはらんだ声で返す。スカートを抑え込んで、

怒りからか若干息を切らせて恨めしそうな顔で男を睨む。

 

ずるずると音を立てて、突き飛ばされた男が立ち上がってくる。それと同時に、二人は表情を一変させて

彼を見据えた。

 

「悪ふざけしてる状況じゃなさそうだな。こいつは・・・」

 

言いながら、腕組をしていた男は自分の腰に手を回す。そこには棒状のものが、括り付けられていた。

よく見れば、それが刀だということがわかる。

 

「最初から真面目にやってれば問題ないのよ」

 

女の方は文句を言いながら、立ち上がってきた男から距離を置く。サラリーマン風の男にまとわりついていた

黒い影がさらに増えていることが目に見えてはっきりとわかる。

 

 

「ぐ・・・・ぐ・・・・」

 

男はうめくような声を上げて、不気味に光る両眼で二人をじっと見つめている。

 

「手遅れになる前に、さっさと終わらせる」

 

言うと同時に、腕組をしていた男はさっと腰の刀を抜いた。同時にサラリーマン風の男にまとわりついているような

黒い物体が彼にもまとわりついてくる。

 

サラリーマン風の男と違うのは、まとわりついている物体が徐々に形を成して徐々に色を帯びている。

黒い物質は赤黒く変色し、彼の両腕で鎧武者の小手のように変化をしている。

 

「せいっ!!」

 

肉眼でとらえきれないほどの速さで、サラリーマン風の男に突っ込んでいくと、一瞬で黒い物質を斬り裂いた。

 

「がぁぁぁあああっ!!」

 

一拍の静寂の後、サラリーマン風の男は大きく声を上げて、その場に両膝をついた。斬られたところからは

間欠泉が飛び出すように、液状のものが噴出していた。

 

腕を組んでいた男は、刀を空に向けて掲げてその様子をじっと見ていた。

 

噴出した液状のものが、徐々に方向を変えて刀の方へ向かって吸い寄せられていく。同時に地面にまきちらされていた

それも中空に再び舞って、同じように吸い寄せられていた。

 

小太刀程度の大きさの刀のどこに収まったのかはわからないが、液体はすべて刀に吸い尽くされていた。

 

「終わったか・・・」

 

腕を組んでいた男がつぶやくと、いつの間にか彼の腕の小手は消えていた。

 

サラリーマン風の男に目を向ければ、彼にまとわりついていた黒い物質はきれいに消え去っていた。

彼は何が起きたか理解できない様子で、あたりをきょろきょろと見回している。

 

「おっさん、大丈夫か?」

 

腕組をしていた男は彼に、声をかける。

 

「えと、なんだ・・・ここはどこだ?」

 

ゆっくりと立ち上がりながらも、あたりを見渡す。

 

「ひいいぃいいいっ」

 

彼の目が、刀をとらえると情けない悲鳴を上げながら、後ろに後ずさる。

 

「助けてください。たすけてくださいっ!」

 

拝むように手を合わせながら、がたがたと震えている。

 

「ああ、まずったな・・・」

 

刀を鞘に納めながら、ばつの悪そうな表情で女性に目線をそらす。

 

女性は女性で、目を合わせないようにさらに目線をそらせた。

 

「・・・とりあえず、これを頼む」

 

刀を女性に手渡して、命乞いの言葉をつづける男にゆっくりと近づいた。

 

「強盗や、通り魔の類じゃないんで安心してくれ・・・刀ももう持ってない」

 

やさしく、できるだけ刺激しないようにゆっくりとした口調で声をかける。

 

 

彼が、まだ高校生ぐらいで穏やかな表情であること、なにより両手に何も持っていないことを確認して、

だんだんと呼吸を整えて落ち着きを取り戻していた。

 

「と、取り乱してすまなかった・・・」

 

「いや、いいよ。よくあることだし」

 

苦笑交じりに答える。

 

「しかしなんだって、あんな物騒なものをもってこんな暗がりに・・・」

 

彼の問いに、ばつが悪そうに頭を掻いて、一旦中空に目線をそらす。

 

「ああ、それなんだけど・・・おっさん、あんたは鬼に憑かれてたんだよ」

 

言われると同時に、男の顔は青ざめてぺたりと地面に座り込んでしまった。

 

「鬼に憑かれる」、発生の原因はわからないが、瘴気と呼ばれる黒い物体にとりつかれ徐々に正気を失い

狂暴化していく現象でこの世界では、時折、鬼に憑かれた人間が暴れまわり傷害や殺人を犯す事件が蔓延していた。

 

ゆえに、自分自身が鬼に憑かれて暴れていたとなれば、何をやったかもしれない罪悪感と恐怖で彼は気が気でなかった。

 

「俺は、何をやったんだ・・・」

 

すがるように、腕組をしていた男の手をとり、悲痛な声を上げる。

 

「大丈夫だよ。憑かれてすぐに俺らが対応したんで・・・まぁ、蹴飛ばされた分あんたのが被害者っぽいかも」

 

手を振りほどくこともなく、手にかかる力を感じながら、冗談交じりに答えた。

 

「本当か・・・本当なんだなっ!!」

 

さらに、ぐっと力を込めて彼の目を見つめる。

 

「本当に大丈夫だよ」

 

痛いくらいの力にも、表情を変えずに答える。その姿を見て安心したのか、一気に力を抜いて後ろに倒れこんだ。

 

「おっさん、大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ・・・安心したら一気に力が抜けてしまって」

 

ははは、と力の無い笑い声交じりに答える。

 

「よかった。まぁ、蹴飛ばされたのも本当だし、鬼に憑かれてた影響もあるかもしれないから。念のため病院には行っといたほうがいいよ」

 

大分落ち着いた男を見ながら、声をかけつつ手を伸ばす。倒れこんだ上体を起こしながら、彼の手をつかんでゆっくりと立ち上がった。

 

「ところで、おっさん・・・赤だったよな」

 

「???」

 

手をつかんだまま、急に問われたサラリーマン風の男は何のことかわからず混乱する。その瞬間、問うた男のほうが前のめりで倒れこんできた。その背後には女性が、怒りのあまり鬼の形相で仁王立ちしていた。

 

「これで、記憶が飛んでしまえっ!!!」

 

倒れた男の首根っこを、がしっと掴む。男は頭部に走った衝撃で、意識を完全に失っていた。

 

「おじさまっ!!あとは大丈夫よね。大丈夫なんでしょう。じゃあ、これで失礼します」

 

まくしたてるように言われると、意識を失い脱離記している男の姿を見て張り子の虎のように、首を縦に何度も振った。

 

「まったく・・・いい加減にしないとただじゃすまないからねっ!!」

 

彼女は、意識を失っている男を引きずりながら、聞こえていないことにも構わず説教を続けていた。

 

残された男は、徐々に小さくなっていく背中を茫然と見守っていた。

 


 
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