No.739549

すみません、こいつの兄です。92

妄想劇場92話目。予告どおり一週間であげました。ここまで書きため分。久しぶりの三島由香里。ヴェロキラプトルちゃんには幸せになって欲しいなぁ(ステマ)

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(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2014-11-25 21:35:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:819   閲覧ユーザー数:731

 数週間があっという間に流れて、八月十四日。朝五時に家を出て、五時二十五分に三島の家に到着する。

「由香里、本当に一緒に行かなくていいの?キシシ」

「……行くわけないでしょ」

玄関先で、朝の五時三十分から早くも消えたいレベルで気まずい。夏休みで当然三島も実家に帰ってきているわけで、朝の五時三十分に訪れたら当然在宅である。

 玄関先でそれなりに大荷物の三島(姉)が、レイヤードスカートにレース襟のブラウスを着た三島を挑発する。三島先生やめてくれ。三島とは色々あって微妙な罪悪感と気まずさがあって、だからと言って三島に愛想悪くしたら申し訳ないんだ。

「その割には、おしゃれしてるじゃん。二宮くんにかわいいって褒めて欲しいんだろ?ん?」

本当にやめてくれ。本当に制服を着ていた去年までと比べると、少し大人びてシャープな三島の印象がフェミニンな服装で和らげられていて、ちょっといいなと思えるくらいに可愛いんだ。こっちだってじっと見ていると照れるんだよ。

「今すぐ黙って出ていかないと、蹴り飛ばすわよ」

「ふーん」

三島の殺人眼光に曝されても三島(姉)は余裕だ。さすがに慣れたのだろうか。そのまましばし空気が固まる。

「三島、大人になったな」

「え?なにが?」

しまった。つい口をついて出てしまった。だが聞き返された時点でもう引っ込みがつかない。

「いや。以前の三島なら『蹴り飛ばす』という言葉は、脅迫じゃなかった」

「は?二宮、あんた、なに言ってんの?」

「以前の三島なら『蹴り飛ばすわ』は、五秒以内に蹴るという宣言だった」

「うるさいっ」

水色の縞々と太もものホクロが久々に見えて、玄関からけり出された。連続ワザで三島(姉)も玄関から転がり出てくる。追い出すものを追い出して玄関が閉じる。

「二宮くん」

「はい」

真面目な顔で起き上がりながら三島(姉)がこっちを指差す。

「ひとつ命令」

「はい?」

人差し指が玄関のドアを指差す。

「今すぐ、ドアを開けて由香里に可愛いって言って来い」

「は?」

「今すぐっ!」

「はいっ」

わけのわからない迫力に押されて、返事をしてしまった。もういいや。ヤケクソだ。反射的に玄関のドアを開ける。二階に上がろうとしている三島の背中に声をかける。

「三島。そ、その服。似合っててかわいいぞ!」

それだけ言って、けられる前にドアを閉める。

 ドアの向こうで盛大に何かの衝突音がする。やばい。逃げよう。

「行くよ!」

俺が言うまでもなく、荷物を俺に渡した三島(姉)と並んでダッシュで逃げる。三島が本気で追いかけてきたら逃げ切れないが、あの服装でスニーカーで追いかけてくることもあるまい。

 

「よくやった!えらい!」

肩で息をしながら駅のホームで、背中を三島(姉)にバンバン叩かれる。

「よくやった、じゃないですよ。三島に悪いことしちゃいましたよ」

俺は、三島に冗談でああいうことを言っちゃいけない人間ナンバーワンなはずだ。反射的に命令に従っただけとはいえ、言い訳のしようのないからかい方だった。

「なんで?本当に可愛かったでしょ。うちのゆかりん」

三島はゆかりんって感じではないが、今そこを突っ込んでも仕方ない。三島はゆかりんではなく、ヴェロキラプトルンだと訂正するのは後回しにする。

「まぁ……ほとんど制服姿しか見たことなかったし」

「可愛かったでしょ。うちのゆかりん」

これ、可愛かったと言うまでリピートするのか?昔のRPGか?

「可愛かったです」

嘘じゃないにしても恥ずかしい。顔の血管がぶわって開くのを実感する。

「ぐひひ……。ゆかりん、よかったねぇ。昨夜、すっげー悩んでたかいがあったねー」

電車がホームに滑り込んでくる。乗り込む。さすがに始発列車。がらがらだ。並んで席に座る。

「ゆかりん、あのあときっとこうだよ」

三島(姉)はカバンから、小さめのスケッチブックを取り出すと四分割して、すらすらと絵を描き始める。ひとコマ目では、ドアが閉まったとたんに、後ろを向いて階段を昇ってた三島が振り返って「はぁっ!?」と目を吊り上げている。二コマ目で階段から転げ落ちて、三コマ目で、パンツ丸出しのまま廊下に女の子座りをして顔を真っ赤にしている。四コマ目では、顔を両手で覆って『ににに…二宮に』『かかか……かわいいって…』って言っている。

「んなわけあるか」

「いや、ぜったいこうだって!昨日、二宮君が来るって教えたときのゆかりんの動揺っぷりとか可愛すぎて、二次元かと思ったもん!」

二次元と現実を一緒にしてはいけない。現実の三島由香里がこんなことするか。バカか、この人。親バカならぬ姉バカである。それにしても揺れる電車の中で下書きも何もなしに描いたとは思えないクオリティだ。技術の無駄遣いである。

 あと、朝六時前からテンションが高すぎ。俺は眠いぞ。

 

 そのまま、都内のターミナル駅に到着するまで電車に揺られながら意識を失った。

 

 電車を乗り継いで、朝からお前らみんな元気だなと言いたくなる国際展示場正門駅を出る。リュックサックにタオル。今まではつばめちゃんについてきたことしかなかったから、全体的にムサくるしい行列のイメージがあったが、今日は女性向けジャンルが多いからか、並んでいる人たちもお洒落感が漂う。別にナメた格好をしているわけじゃないのだが、服装がけっこうちゃんとお洒落だ。女性はオタクでも女性ということだな……。それでも、若干街中で見かけるファッションとは違う方向に向いている気もする。なんだろう、この微妙なバイアスは……。

 サークル入場口を通って三島(姉)のスペースにたどり着く。

 することはつばめちゃんの手伝いのときと同じで、まずは山盛りのチラシをそろえる。折りたたみ椅子を二つ開いて並べる。三島(姉)がテーブルクロスを広げている間に机の下に積みあがっているダンボールを開封する。

「おお。慣れてるね」

「ええ……ちょっと手伝ったことがあって」

つばめ先生の教えがあっという間に実生活で役に立っている。

 汗拭きタオルをもってきていてよかった。

 開場前から、そう思い始めていた。

 汗拭きタオルの用途は汗を拭くだけじゃない。汗を拭いているフリをして顔を隠すこともできるのだ。さっきから、ひっきりなしに三島先生のところに訪れる女子の皆様が、ちらりと俺の顔を見て「あ。ひょっとしてー」と言うのだ。

 どうやら、三島先生が「二宮直人フィーチャリングジャンボフランク」の写真をモデルにして、生み出したキャラクターはこともあろうか人気BL漫画シリーズの受けキャラだった。ヒロインと言いたいポジションだが、残念ながら両方男だ。本当に残念ながら……。

 あと三島先生の画力がありすぎる。

 漫画の登場人物の絵を見て、モデルになった本人がわかっちゃうのは問題だろう。俺の人権が侵害されているよ……。

 そろそろおなじみになった開場時間を知らせるアナウンスと拍手があって、コミケ一日目がスタートする。

 

 忙しいな。

 

 一日目の第一印象はソレだった。つばめちゃんのスペースを手伝っていたときはヒマと言ってもいいほどで、パイプ椅子着席のエンターテイメント性への考察などをする余裕もあったのだが、三島先生のスペースはわりとひっきりなしに人が訪れる。

 おかげさまで、みるみる在庫が減って段ボール箱がバンバン潰れて行く。これが人気の差かと、つばめちゃんの在庫量を思いだしながら思う。

 差し入れと称していただくお菓子の量もすごい。どれもこれも、凝ったラッピングがされているのは女性ならではだろうか。つばめちゃんの出ている男性向け創作ジャンルではコンビニ袋が行きかっていたことを思うと、これも女子力である。腐女子力である。

「忙しいですね……」

愚痴というわけでもない感想が口をつく。独り言に三島先生が答えてくれる。

「ん……まぁ、こんなもんだよ。どこか見てくる?東方とか今日みたいよ」

「東方?」

「東方プロジェクト。知らない?」

なんとなく知識の端っこに引っかかっている。たしか、やたらと女性キャラクターがたくさん出ている同人誌のジャンルだ。同人誌以外で見たことないなと思っていたら、元ネタも同人誌…ゲームだっけ…らしい。

「あー。知ってはいますけど、本が欲しいってほどじゃないかな」

「そっか」

「あの……三島先生」

「ん」

「先生って、けっこうな人気作家じゃないですか」

「ぜんぜん人気なんてないよ」

「いや、謙遜しなくてもいつもあれだけ仕事があれば十分」

「貧乏暇ナシってやつでね。本当に人気があったら、もっとプロダクションみたいになっているんじゃない?」

そういえば漫画家さんも人気のある人たちは、なんとかプロダクションとかにして会社みたいになってたりするよな。アシスタントの人たちだけじゃなくて、契約とかの雑務を引き受けるマネージャーもいたりするみたいだし……。

「いや、そういう話じゃなくて、聞きたいのは……えっと」

そう。

 真奈美さんから先生がコミケに出ると聞いてからずっと気になっていたのだ。

「先生の漫画って、自分で同人誌にして印刷してコミケで読んでもらわなくても、出版社が印刷して本屋さんで売ってるわけじゃないですか?なんでコミケなんです?やっぱり、仕事だと好きなものが描けないとか?」

「あー。それもあるけど、ソレを言ったら同人誌だって百パーセント好きなもの描いているわけじゃないし、私、けっこう自分が好きなもの描いても編集さんにオッケーって言ってもらえているしね」

「じゃあ、なおさら……」

「エネルギー補給」

「エネルギー?」

いまひとつ良く分からない。コミケって、早起きして、トイレにも行けないから水分を控えめにしている。俺の目から見るとエネルギーを使っている一方だ。

「うん。BLってのもあるかもしれないけど、けっこう仕事で漫画描いていても意外と読者の反応ってないもんでさ。コミケ来ると、みんな私の漫画を好き好き言ってくれるじゃん」

「あーなるほど」

「あと、真奈美ちゃんにも助かってる。紹介してくれてありがとうな」

「え?い、いえ?それは、真奈美さんに言ってください……有能なんですか?」

三島先生のところでアシスタント業をやっている真奈美さんは、わりと俺が無理を言って雇ってもらった気がしていたので、これも意外だった。

「作画も、まぁ、単純作業は粘り強くやってくれるから助かるし、あと家事が助かる」

「あー」

納得した。真奈美さんの家事はすごいからな。掃除と炊事は特に……洗濯は本人がジャージしか着ないから、注意が必要な衣類とかはダメかもしれない。

「由香里が東京で下宿を始めてから、うちの家事を手伝うのが居なくなっちゃってさー」

「あー」

これも納得した。三島先生が家事とか想像つかない。むしろ、あまりに家事をしてなくて三島由香里に叱られているところまで想像できた。

「ゆかりん、いいお嫁さんになるよ」

「えーと。まー」

なんだか、困った方向に話が流れてきた。

「真奈美ちゃんは、それ以上にいいお嫁さんになりそうだけどね」

「そうですね」

「そっちは、悩まずイエスなんだね」

しまった。かかった。

「あ、いらっしゃーい。ひさしぶりー」

丁度いい具合に、次のお客さんというか、お友達がスペースを訪れてくれて追求はうやむやになった。よかった。

「ひさしぶりですー。あれ?ひょっとして、そっちの男の子って」

よくない。

 

 コミケが終わって、知人の皆様と夕食会をかねた打ち上げにどうかと誘われたが、丁寧に辞去することにした。こっちは、明日も四時起きで始発に乗るのだ。早く寝たい。とはいえ、いちおうは三島先生の荷物もちである。そこのあたりはケジメをつけておかないといけないだろう。三島先生は真奈美さんの雇い主で社長で、別に真奈美さんを雇わなくてもやっていけるのに、いわば俺の押しに負けて雇ってくれたのだ。その恩を返すチャンスは逃してはいけない。

 俺って真面目だな。

「荷物だけ、自宅に持って行っておきますよ」

「え?いいの?」

「その大荷物持って、帰り一人じゃ大変そうですし」

「さんきゅー。すげー助かるよ。じゃあヨロシク」

三島先生から、紙袋をいくつか受け取る。中身はほとんどがお菓子。差し入れだ。

 腐ったお姉さま方の玩具にされないうちに脱出して混雑するゆりかもめに乗る。乗るまで二本ほど待つことになる。公共交通機関がパンクしている。コミケって、世界で二番目に人が集まるイベントなんだっけ?一番はメッカの巡礼だと聞いた。アッラー、アクバール。

 ごとごとと二時間弱電車を乗り継いでようやく三島家に到着する。

「いらっしゃい……」

「ああ……これ、荷物な。お姉さんの」

そうだった。

 三島先生の家には三島がいるんだった。三島家の玄関先で私服の三島由香里に迎えられる。今朝と同じレース襟のブラウスにレイヤードスカート姿だ。あのスカートでもちゃんとハイキックは出せるから気をつけろ。今朝、実験済みだ。

「お……お茶でも飲んで行く?」

「……い、いや。いいや」

「そう……だよね」

「えと……」

気まずい。三島のことは嫌いじゃないし、というか、むしろ好きな部類だし、いい思い出しかない相手だ。三島も、俺のことは嫌っていない。よく蹴り飛ばすけど嫌っていない。

 なのに気まずい。人と人との間はままならない。

「二宮……あのさ」

「うん」

「私に……されたの嫌じゃなかった?」

う……脳裏に鮮明に記憶がプレイバックされる。いや、ちがう、脳裏どころか唇にも口の中にも記憶がプレイバックされる。

 三島の唇の感触と、押し付けられた華奢な体の感触。濡れた舌の感触。鼻へ抜ける甘い香り。

「い……嫌なわけないだろ」

かすれた声で言うのがやっとである。

「よかった」

「じゃあ、俺、明日も早いから……」

臆病者は逃げ出す。

「うん。二宮。ありがとね」

三島らしくない声を背中にドアを閉じる。いけない。

 俺の中で三島由香里の記憶がヴェロキラプトルから女の子になってしまう。記憶の改ざんだ。印象操作だ。

 女の子の唇が作る嘘は、言葉だけじゃない。

 

 その夜は、九時には布団に入っていた。目覚まし時計は、明日も四時にセットされている。明日はみちる先輩か……。試練だな。三日目のつばめちゃんがこんなに楽しみになるとは思わなかった。昼間の疲れからか、早い時間にも関わらずあっさりと眠りに落ちる。

 

 そして、夢を見る。

 

 俺は少し懐かしい高校の教室にいた。教室の中はからっぽで誰もいない。外ではセミが鳴いている。

 ああ……そうだった、夏休みだ。

 俺は、真奈美さんの補習に付き合って一緒に学校に来たんだ。どこかの教室で真奈美さんがつばめちゃんから補習を受けているはずだ。終わるまではヒマだ。

 そういえば、美沙ちゃんはどこだ。制服姿の美沙ちゃんに会いたいぞ。卒業してわかったが、学校に制服を着た美沙ちゃんがいるとか、かけがえのない幸せだぞ。たぶん、美沙ちゃんが学校で過ごしている二時間を切り取ってdvdにしたらミリオンセラーになると思う。ブルーレイまである。それどころか劇場版だってありだ。

 美沙ちゃんやーい。

 美沙ちゃんに遭遇すべく、教室を出る。

 さすが夢だ。記憶がメチャクチャに入り乱れている。

 隣の教室に会議机を並べて、なぜか知らないけどミニコミケみたいなのをやっている。三島先生もいる。あと大学の漫画研究会(腐)の人たちもいる。見つからないようにスルーしよう。

そぉっと気配を消して、教室の前を通過する。

「二宮」

びくぅっ!

 不意に声をかけられてびっくりするが、声の主は間違えようが無い。

「三島」

振り返ると制服姿の三島由香里がいる。

 いつもの少し不機嫌そうな表情で三島が歩み寄ってくる。

 自然と、なにかお仕置きされるようなことをしたかどうか記憶を手繰ってしまう。条件反射だな。今になって思うと、三島がやたらと俺のエロ発言とかを攻撃していたのは、実はツンデレだったんじゃないかと思う。

 もう少しデレ率を高くしてくれないと分かりづらくて困る。

 あと、もう少しツン時の攻撃力を落としてくれないと痛くて困る。

「私とキスしたい?」

夢の中の三島の攻撃は物理じゃなくて精神だった。返事に窮する。いや、窮する必要はないだろう。断るべきだ。だって俺は三島とキスをしたって、三島にしてやれることはなにもないんだから。

「私とキスするの嫌なの?」

三島がさらに一歩近づいてくる。背後は廊下の壁。三島に壁ドンされている。これ、男女逆じゃなかろうか。

「さすが、ザ・リアル受けメン二宮直人だね。壁ドンとはやるね!ゆかりんっ!」

三島の背後にいつのまにか三島(姉)が登場している。バカめ。そこは三島の後ろ回し蹴りの間合いだぞ。死んだな。こいつ。

「二宮は私とキスするのが嫌なの?」

三島が、姉をガン無視して更に二歩俺に近づいてくる。壁ドン状態からの二歩だ。背中には壁。体の前面には三島由香里の本体が押し付けられる。柔らかな圧力の胸と、脚の間に押し入ってくるヴェロキラプトルのような美脚。制服の襟元からのぞく滑らかな肌。そして、石鹸の香りに混じったなにか甘い香り。

「二宮は私とキスするのが嫌なの?」

三島がリピートする。リピートする質問は選択肢じゃない。

「いけー。ゆかりんっ!」

背後の三島(姉)がうるさい。妹をもっと大切にしてやれよ。

「ゆかりんいけー。私が許可するっ!二宮を犯すことを許可する!」

どの権限があっての許可だ。

「二宮は私とセックスするの嫌なの?」

三島由香里はそんなこと言わない。飛影もそんなこと言わない。俺の夢が頭おかしい。たぶん俺の頭がおかしい。病院行かなきゃ。

 三島の腕が俺の背中に周る。抱き寄せるように身体を押し付けながら俺の首筋に顔を押し付ける。

「どう?どう?二宮くん。うちのゆかりん、可愛いっしょ?!」

三島。お姉さんが見てるし、シスコンだし、うるさいし、こういうのやめよう。

「二宮くん、かわいいかわいいゆかりんをお嫁さんにして幸せにしよう!ゆかりん優等生だからきっとキャリアウーマンになっても、かっこかわいくて成功するし私と二宮くんとゆかりんで三人で働いて、まなみんも幸せにしよう!そういうルートもアリだ!ぐふふ、なんと私の頭のいいことよ」

牙一族か貴様。

「二宮。セックスしてよ。結婚して」

即結婚につながるあたりが、お堅い三島らしいけど、それ以外はぜんぜん三島らしくないから俺の脳しっかりしろ。あと、三島はぜったいこんな状態で制服のボタンを外したりしない。しないのにしてるのが、さすが俺の夢。マイドリーム・イズ・クレイジー。

 ドリームじゃねぇよ。

 自分の夢にセルフつっこみまでしている自分の脳みそが本格的に心配になってくる。

 いつのまにか下着姿で抱きついている三島に、服はどこに消えたと突っ込みたい。夢って整合性無いよね。とかパニックしているうちに目覚ましが鳴って現実に緩やかに引き戻される。

 惜しい。

 せっかくだから、夢の中でくらい三島の裸とか見たかった。あいつ絶対スレンダー系のいいスタイルしているはず。

 現実に戻ると、夢の中の三島と同じ体勢で布団にもぐりこんだ妹がしがみついていた。

 こいつのせいか……変な夢を見たのは。

 変な夢を見た朝で、男子の生理的必然としての状態(婉曲表現)にあるので妹に抱きつかれていると極めて具合が悪い。

 それにしてもこいつ体温高いな。暑苦しい。見た目、肉なんかどこにもついていないのに柔らかいのは、思いのほか心地よくてヤバい。

「おい……おきろ。俺、もう出かけるから」

あまり起こす気も無く声をかけて、首に巻きついた腕を引き剥がしてベッドから降りる。

 

 今日もコミケだ。二日目。創作(少女)。

 みちる先輩か……。丸一日みちる先輩と過ごすとかヘビィだな。

 ま、行くけどね。行くって言っちゃったからな。

 

(つづく)


 
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