No.736843

残された時の中を…(完結編第1話)

10年以上前に第1部が終わってから更新が途絶えてしまった、北川君と栞ちゃんのSSの続きです。
10年以上前から楽しみにしてくださった方々には、大変申し訳ない気持ちでいっぱいです…。
当時の構想そのままに書いていきますので、おかしな部分も出てくるかもしれませんが、どうぞ最後までよろしくお願いしますm(_ _)m!!
なお、これから発表する完結編は6話~7話になる予定です。

続きを表示

2014-11-13 00:43:48 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:612   閲覧ユーザー数:612

北川と栞が付き合いだしたという話が学校中に広がったのは、それから間もなくの事だった。

栞と同学年の女生徒達は、憧れだった北川への想いが叶わずに涙した者もいたが、ほとんどが栞を祝福した。

 

一方の北川と同学年の男子生徒達は、北川を冷やかしたり、あるいは羨望の眼差しを向けたりと様々だった。

中には彼をロリコン呼ばわりしたり、栞との下ネタ話を聞き出そうとする者もいたのだが、その全てが香里のメリケンサックの餌食となってしまい、

以降はその話を持ち出す者はいなくなった(余談だが、その中には祐一も含まれており、メリケンサックのみならず、秋子のオレンジ色のジャムの餌食にもなってしまった…)。

 

 

さて、当の北川は不治の病に苦しみながらも、栞とゲームセンターへ行ったり勉強を教えたりと充実した日々を過ごしていた。

栞もまた、近いうちに訪れるであろう北川との永遠の別れに不安があったものの、それでも北川の為に美味しいご飯を作ってあげたりしながら、同じく充実した日々を過ごしていた。

その中で栞は北川のアパートに泊まることもあり、その際は病苦や死に怯えて泣いていた彼を抱きしめて、出来る限りの不安を取り除いてあげるのだった。

 

そんなこんなで月日は巡り、2学期の終業式を迎えた。

「センターまで残り一月を切った。学力が足りない者も実力がある者も気を緩める事なく、最後の追い込みに励むように…、以上!!」

 

 

「北川~、お前受験どうよ?俺の成績だと佐祐理さん達と同じ鍵大に入れるか微妙なんだよな~…」

 

2学期最後のホームルームが終わり、チャイムが鳴ると同時に教室の後ろで、ある男女のグループが大学受験に関する話を始めた。

 

「まあまあ。夏休みからお前に色々と教えてあげたおかげで、合格圏内に近づいてきたじゃないか。その調子でいけば、鍵大に受かるさ」

「そうだよ。ボクも皆のおかげでここまで成績を上げることが出来たんだ。祐一君と一緒なら、どこまでも頑張っちゃうよ」

「とはいうものの、不安でさ~…」

「ふぁいと…、だよ」

「あなたはもっと頑張らなきゃダメじゃないの、名雪。相沢君と同じところに行きたかったら特に」

「う~…」

 

相沢祐一、月宮あゆ、水瀬名雪、美坂香里、そして北川潤の5人である。

 

 

北川が栞と付き合うようになってから数ヶ月が経ち、当時坊主頭だった北川の髪の毛も事故に遭う前とほぼ変わらない長さとなっていた(トレードマークのクセッ毛も復活していた)。

北川に失恋し、髪の毛をバッサリと切った香里の髪の毛も肩の辺りまで伸びており、若干ウェーブがかかる状態となっており、

退院後に短く切り過ぎてしまったあゆの髪の毛もまた、髪を切る前と変わらない長さに戻っていた。

 

 

5人は更に話を続ける。

 

「そういえば北川。お前は鍵大の医学部志望だよな?あそこは医学部の中でも相当レベル高いらしいけど、勝算のほどはどうなんだ?」

「五分五分だな。まあ、普段積み重ねてきた事を本番で生かせれば、合格は難しくないだろうさ」

「余裕だな~。で、香里も同じく鍵大で薬学部。難関の鍵大に合格確実と言われているお前らの学力が羨ましいぜ~」

「何言ってるの、確実でも最後に何があるか分からないわよ?」

「久瀬のヤローに至っちゃ、佐祐理さんと同じ鍵大の法学部を推薦でほぼ合格を確実なものにしやがった。

 センター試験がまだ残ってるってのに、あのヤロー、俺の事を鼻で笑いやがってさ~」

「まあ、久瀬もあんな態度をとっちゃいるけど、内心ではお前に期待してるんだよ。頑張れよ」

「うん、一緒に頑張ろうよ!!」

「ふぁいと、だよ!!祐一」

「ケッ、合格したら吠え面かかせてやるさ」

「フン、君こそ吠え面をかかない様にな」

「何だと!!?」

 

 

己を奮い立たせるべく、4人の前で鍵大合格を宣誓する祐一だったが、いつの間にか現れた久瀬からボソッと横槍を入れられ、思わず久瀬に突っかかる。

 

「相変わらずな男だな~、君は。僕が来たくらいで異常に反応するとは見っとも無い」

 

自身に突っかかる祐一を久瀬は軽くいなし、やれやれといった表情で掛けている眼鏡を直した。

 

 

「何の用だよ!?」

「落ち着きたまえ。実は倉田さんからの言伝(ことづて)があるんだ」

「言伝?」

 

 

「そうだ。昨日鍵大に行った際に倉田さんに会って、明後日クリスマスパーティーを開きたいと僕に話してくれたんだ。

 パーティーの前に遊園地にも連れて下さるそうで、入場料も食事代も出してくれるらしい。突然だが、諸君はどうするんだい?」

 

「パーティー!!?行く行く。ボクは行きたい!!ねえ、祐一君も一緒に行こうよ!!」

「あたしも行く行く!!祐一も行くよね?」

 

パーティーという単語を聞くや否や、あゆの瞳がキラキラと輝きだし、祐一の腕を掴んで駄々っ子の様に引っ張ると、続けて、名雪も同じように祐一の腕を掴むとグイグイと引っ張った。

どちらも引っ張る力が強かった為、“お前ら痛いから放せ”と、祐一は両者の手を強引に振りほどく。

 

「イテテテ…、しかしパーティーは行きたいけど、俺は成績がな~…」

「あら、勉強には気分転換も必要よ。折角だし、皆で楽しみましょうよ」

「それもそうだな。んじゃ、俺も佐祐理さんのご厚意に甘えちゃいますか」

 

続けて香里と祐一も参加の意思を示した。

 

 

「決まりだな。天野さんと沢渡さん、それに栞さんにはもう声を掛けてある。皆、是非行きたいと言っていた。しかし君が来るとなれば騒々しくなりそうだな」

「何だと?」

「最後まで聞きたまえ。騒々しくなりそうだが、それが場を和ませるのに繋がるならば、僕にとっても皆にとっても良い思い出になりそうだ。当日は楽しみにしてるよ」

「褒めてんのか貶し(けなし)てんのかどっちだよ!?」

「僕はこれでも君のことを評価してるんだよ?」

「そうは見えねえぞ!?」

「まあまあ」

「チッ」

 

久瀬の半ば挑発的な態度に、祐一はまたも久瀬に突っかかろうとしたが、北川に宥め(なだめ)られ、引き下がる事にした。

 

 

 

「と、北川。君はどうするんだ?」

 

久瀬は北川だけが参加の是非を答えてない事に気づき、北川に質問した。

 

「お、俺か…?俺はバイトとかあるし、どうしようかな~…?」

 

久瀬からの突然の質問に北川は面を喰らい、視線を天井に移す。即答しない北川にあゆと香里の表情が少し曇る。その様子を見た祐一が口を開く。

 

 

「北川。お前バイトとか受験勉強で色々と大変だろうさ。けど、栞が行くって言ったってことは、お前と楽しく思い出を作りたいってことだと思うぜ」

「そ…、そりゃそうだろうけど…」

「まあ行くにせよ行かないにせよ、決めるのはお前自身だ。けど決めるなら後悔の無いようにな」

「相沢…」

 

真顔で祐一に話しかけられ、北川は一瞬たじろいだ。祐一に自分の胸の内を見透かされている気がした為である。

 

 

迷った末、北川は参加の意思を久瀬に伝えた。

 

「分かった。では先方に伝えておくよ。明後日は楽しい思い出が出来そうだ」

 

久瀬は力強い表情で皆に微笑むと、そのまま教室を後にした。

 

 

そして、その2日後…。

「うぐぅ~~!!目が回るよ~~」

「そらそら♪まだまだ回すぞ~~」

 

街の遊園地にあるコーヒーカップのアトラクションにて悲鳴を上げるあゆと、そんなあゆの反応を楽しむかの様にカップをグルグル回す祐一の姿があった。

 

祐一とあゆだけではない。

 

 

ジェットコースターには“あははは~♪”と楽しそうに絶叫する佐祐理と、“助けて~!!”と涙目で悲鳴を上げる久瀬、

そして終わったら久瀬の背中をさすってあげようと思いながら、ジェットコースターを楽しむ舞の姿があった。

レストランには“イチゴ美味しいよ~♪”とイチゴパフェに舌鼓を打つ名雪と、既に空になった2つのパフェの器を見て“まだ食べるの?”と呆れた様子の香里の姿が、

メリーゴーランドでは子供の様にはしゃぐ真琴と、そんな彼女を母親のように穏やかな表情で見守る美汐の姿があった

 

 

「わあ~!!街の景色がすごく綺麗です!!」

「ああ、昼間の景色も悪くないもんだな」

 

そして観覧車には目をキラキラさせて喜ぶ栞と、そんな彼女を優しく見守る北川の姿があった。2人の乗るゴンドラは間もなく最高地点に達しようとしている。

 

「けど夜だったら、イルミネーションやら街灯やらで、もっと良い景色が見られるんだろうな~。それに雪も降ってるから、視界も悪いし…」

「そうですね~、晴れて星空なんかも出てたら、もっとロマンティックなんでしょうね~。けど、潤さんと2人きりで綺麗な景色が見られただけでも、私は十分です」

「栞ちゃん…。ごめんな…」

「何を言ってるんですか!?私は大丈夫ですよ!!そんな事を言う人は嫌いです!!」

 

そう遠くない未来に起こるであろう事を憂い、申し訳なさそうに謝る北側に栞は毅然とした表情で北川を叱った。

 

 

「けど…、この1年、私にとっても潤さんにとっても色々な事がありましたよね…」

「そうだな…」

 

最高地点に達し、下降を始めたゴンドラの中で2人はこの1年の事を思い返していた。

 

 

病気の影響で今年の誕生日まで生きられないという死刑宣告を受け、更に姉の香里とも疎遠になっていた栞は、祐一との出会いにより姉と仲直りし、そして奇跡的に病に打ち勝った。

そして北川は誕生日前に交通事故に遭い、一時は意識不明の重体となっていたが、奇跡的に目を覚ました。

しかし既に不治の病に侵され、ケガの治療と同時に病の治療も行った影響で、長期間の入院を余儀なくされた。

退院直後、ヤケになっていた自分を叱り、そんな自分を好きになってくれた栞と恋人となり、以降は彼女から支えられて過ごして生きてきたのだった。

 

 

「って、こんな辛気臭いこと考えてちゃダメだよな!!?こういう時くらい、もっと楽しまなきゃ…!!」

「そ…、そうですよ!!どんな時でも私は潤さんの支えになりますから…」

 

場の雰囲気が沈みそうになっていた中、北川と栞は互いに頭をブンブン横に振って、明るく振る舞うのだった。

「と…、そうだ。栞ちゃんにクリスマスプレゼントがあったんだ」

「えう…。そ…、そうだ、私も潤さんにプレゼントが…」

 

急に思い出したように、北川が背負っていたリュックの中をゴソゴソと探り、栞もスカートのポケットの中をゴソゴソと探る。

やがてお互い同時にプレゼントを見つけると、

 

「「メリークリスマス♪栞ちゃん(潤さん)!!」」

 

と、同時にプレゼントの包みを相手に差し出した。

 

「開けて良いですか?」

「ああ…」

「何でしょう?」

 

ガサガサと包みを開けていくと、北川には栞が今羽織っているストールと同じ色のチェックの柄のマフラー、栞にはあゆが着けているミトンの手袋だった。

 

「わあ~、あゆさんと同じ手袋!!これ欲しかったんです」

「栞ちゃんもありがとう。これ温かいよ」

 

プレゼントされたものをお互いに身に纏う(まとう)と、2人はそのままキスをした。

 

10秒ほどして2人の唇が離れる。

 

 

「なあ、栞ちゃん…」

「何ですか?」

 

ゴンドラが残り4分の1の地点に差し掛かった時、北川が真顔で栞に話しかける。

 

「さっき観覧車で夜景を見られたらロマンティックだろうなって言ってただろ?」

「ええ、言いましたけど」

「栞ちゃんの誕生日に、もう一度観覧車に乗らないか?今度は夜に…」

「え…、でも…」

「大丈夫。受験真っ盛りの時だけど、このペースでいけば合格は出来るだろうし、受験前のちょっとした息抜きのつもりさ。

 美坂は栞ちゃんと誕生日を過ごしたいかもしれないけど、俺も出来ればその日は栞ちゃんと一緒に食事したりして過ごしたいんだよな。良いかな?栞ちゃん」

「分かりました。お姉ちゃんもお母さんも潤さんの事は分かってますから、きっと許してくれると思います。でも…、約束ですよ?」

「ああ…」

 

北川の提案に栞は頷く(うなずく)と、右手の小指を差し出した。北川も右手小指を差し出すと、栞の小指に絡ませる。

 

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます!指切った!!」」

 

指切りのおまじないを唱えると、互いの小指が離れた。ゴンドラがいよいよ出口に差し掛かった。

 

 

「さて…、次はどんなアトラクションを楽しもうか…?

 

 ぐっ………!!?」

「だ…、大丈夫ですか、潤さん!?」

 

突如、北川の表情が苦痛に歪み、蹲る(うずくまる)。その様子に栞が北川の背中をさすってやりながら不安そうに見つめる。

 

「だ…、大丈夫…。ちょっと苦しくなっただけだから…、心配しないで…」

「でも…」

「栞ちゃん…、ゴンドラから降りたら悪いけど、しばらく1人にしてくれないか…?」

「え…、でも…」

「大丈夫…、その間、栞ちゃんは相沢や美坂達と楽しんできてくれ…、俺はその間、休んでるよ…」

「……、分かりました。でも、無理はしないでくださいね…?」

 

 

やがてゴンドラのドアが開き、乗り場の階段を降りると、北川は栞と別れてベンチへと向かい、腰掛ける。しばらくして体の痛みも和らいだ。

 

“こりゃ…、もしかしたら今日は最後までいられないかも…”

 

自身の体調に不安を覚えた北川は、佐祐理に言って遊園地の後のパーティーを辞退させてもらおうと、ベンチから立ち上がる。

「うぐぅ~…。祐一君のおかげで目がまだ回るよ~…」

 

一方、祐一と一緒に乗ったコーヒーカップのアトラクションにて、祐一がふざけてカップをグルグル回した影響で、あゆもまた祐一と別れてフラフラになりながら歩いていた。

 

「うぐぅ…、とりあえずたい焼きを食べて元気に…。

 あれ、北川君…?」

 

休む場所を探していたあゆの視線の先には、ベンチから立ち上がったばかりの北川がいたので北川の名前を呼ぶと、手を振って北川の元へと駆けていった。

 

 

「あゆちゃん?どうしたんだい?」

「うぐぅ…、祐一君にコーヒーカップでグルグル回されて目が回るから、どこかで休みたいんだよ~…」

「あははは…!!あいつらしーな。それで、その相沢は…?」

「分かんない…。今頃、名雪さん達とお化け屋敷で楽しんでるのかも…」

 

『KO!!』

「ああクソッ!!このゲームでまた君に負けるなんて…」

「クックック♪やり込みが足りないぜ~、久瀬君よ~…♪吠え面かかせるなんて言ってたのは、どこの誰だっけ~?」

「クソッ!!今度こそ君に…!!あ~、また…」

 

一方の祐一はというと、遊園地内にあるゲーセンの格闘ゲームで久瀬を一方的に叩きのめして楽しんでいた。

 

 

「ねえ北川君」

「何だい?」

 

話は戻り、あゆと園内で出会った北川はあゆと共に再びベンチに並んで腰掛けていた。そんな北川にあゆが声を掛ける

 

「あの時、ボクの探し物を見つけてくれてありがとうね」

「探し物…?ああ、あの天使の人形か。見つけたのは俺だけど、それは美坂や水瀬になってたかもしれないんだから、別に良いのに」

「良くないよ!北川君が見つけてくれたおかげでボクは今、こうしていられるんだよ」

 

あゆの感謝の気持ちに、オーバーだなといった様子を見せる北川をあゆは真剣な表情で見つめる。

 

「ボクね、北川君の事が大好きなんだ」

「え…、で…、でも俺には…」

「言っておくけど、ボクが世界で一番大好きなのは祐一君だよ。でも、北川君は男の子のお友達の中で一番大好きなんだ」

「そ…、そうだよな~……」

 

あゆの突然の告白に、北川が動転する。が、その続きに北川はホッとした様なガッカリした様な複雑な表情を見せた。

 

「だからね、もし辛かったり苦しかったりする事があったら、栞ちゃんだけじゃなくてボクにも言って。何か力になってあげられるかもしれないし…」

「ありがとう。……、おっと、もうこんな時間か」

 

北川とあゆのスマホが同時に鳴り響き、何かと思って見てみれば、そろそろパーティーをやるから集合しろという、祐一からのメールだった。

 

「北川君、パーティーには…」

「ああ。その事なんだけど、パーティーは……。

 

 うぐっ………!!?」

「北川君!!?」

 

 

またも北川の表情が苦痛に歪んだ。先ほどよりも強い痛みの為、たまらずに北川は降り積もる雪の上に膝をつく。

痛みだけでない。苦しさから心配そうに自身を見つめるあゆをよそに、北川は口に手を当てて咳き込み続ける。

 

「だ…、大丈夫…?」

「あ…、ああ…。何とか…?」

 

少しして咳も治まり、口から手を離したその時、掌に血がついている事に北川は気付いた。

 

 

「か…、係の人を…」

「ま…、待って…」

 

北川の只事ではない様子に、あゆは係の人間を呼びに行こうとするも、北川に血の付いていない方の手で腕を掴まれた。

 

「俺はもう帰るから…、あゆちゃんは皆でパーティーを楽しんできて…」

「でも…」

「良いから…」

「分かったよ…」

 

これで良いとは思っていなかったあゆだが、北川の嘆願に負けて、何も言わずに集合場所へと向かうことにした。

「クソ~…、相沢君。次こそは君に勝ってみせるぞ!!」

「倒せるもんなら倒してみな♪」

「はいはい、祐一も久瀬もストップ」

「「痛てっ!!?」」

 

集合場所の遊園地出口前では、悔しそうに祐一を見つめる久瀬とそんな彼に勝ち誇った様な態度をとる祐一、そしてそんな2人に“ポカッ”とチョップをかます舞の姿があった。

 

 

「さて、これで全員ですね?遊園地の後は、佐祐理の家でクリスマスパーティーを楽しみましょうね♪」

「あの…、倉田先輩…」

「どうかしました?北川さん」

「俺…、ちょっと急用ができたので…、帰ります…」

「北川さん…、そういえば顔色が…。それに息もなんか苦しそうですね…」

 

佐祐理が視線を向けた先には苦しそうに息をする北川の姿があり、その尋常ならざる様子に佐祐理も不安そうになる。

 

「久瀬さん、舞。悪いですけど皆さんを佐祐理の家まで連れてってもらえませんか?佐祐理は北川さんを…」

「だ…、大丈夫です…。気に…、しないで…」

「でも…」

「だ…、大……、

 

 うぐっ!!?」

 

 

先ほどとは比べ物にならないくらいの苦痛が北川の体に襲い掛かっていた。たまらずに雪が積もる地面の上に両膝をつくと、慌てて手で口を覆う。

 

「ゴホッゴホッ」

「き…、北川さん…」

「潤さん!!」

 

蹲って(うずくまって)激しく咳き込む北川に栞が慌てて駆け寄る。

 

「潤さん、大丈夫ですか!!?潤さん!!?」

「大…」

 

心配をかけまいと目の前の栞に顔を向けたその瞬間……、

「ゴホッ……。ゴボッ!!?」

 

 

 

 

北川の口を覆った手からは、夥しい(おびただしい)量の血が溢れ出ており、それが雪を、自分の服を、栞からもらったマフラーを、

 

更には栞の服を……、そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞が姉から貰った大切なストールを真っ赤に染めていた……。

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択