No.736228

紫閃の軌跡

kelvinさん

第36話 『戦』の燻り(第二章 END)

2014-11-09 23:03:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3168   閲覧ユーザー数:2908

リィン達の戦闘が起こっている場所より南側―――北エベル門の屋上部より双眼鏡にてそれを静かに見つめる一人の男性。その風格はもはや並の人間ではない……双眼鏡を下ろすと、ため息を吐いた。

 

「流石に心配だったが……悩みの種は尽きんな。」

「フフ……流石はカシウス殿の子たち。見事なまでの腕でしょう。」

「親離れしてくれたことにはありがたいが……ヨシュアとは、一度酒を交えて語りたいものだ。仮にも将来俺の娘を娶るのだからな。」

 

そして、隣にいる男性……その人もまた、並ならぬ風格を持つ者。そこにいる二人はリベール王国軍中将“剣聖”カシウス・ブライト。そして、レグラム自治州の当主である“光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイド侯爵であった。

 

「何はともあれ、緊急出撃も想定していたが……最悪の事態は回避できたようだ。それに、並ならぬ覇気を持つ人間が一人いたようだが。」

「彼は恐らく私の親友。先月の詫びも込めて……でしょう。」

「……どの道、アイツらには相当の役割を担ってもらわねばなるまい。大人の都合に子どもを巻き込む……その意味では、ヴィクター殿も無関係とは言えないでしょうな。」

「薄々は感じていることです。力持つ者ゆえの宿命、なのやもしれません。」

 

この先に待ちうる『激動の時代』……そして、今でも強大な存在だが、更に強大な力を得る可能性がある『例の人物』のこと。これにはカシウスも頭を悩ませるほどであった。すると、ヴィクターが何かを考え込んでおり、カシウスがそれに気づいた。

 

「ヴィクター殿?」

「……この時の流れ、祖先より伝わりしアルゼイドの伝承……『獅子戦役』に近いものを感じると思ったもので。」

「『獅子戦役』……約250年前にエレボニア帝国で起こった後継者争いのことか。」

「ええ。彼が就任した当時は微塵にも思っていなかったが……最近の流れはどうも、その伝承になぞりつつある状態。流石に250年前と今を比べるのは可笑しい話ですが……一昨年の事を考えれば、あり得ない話ではないかと。」

 

リベールでの<百日事変>……古代ゼムリア文明の遺産―――<輝く環>の顕現。それに近い代物はあるのかとカシウスが尋ねると……ヴィクターは一つの可能性を示した。

 

「実は先月皇帝陛下から賜ったものの一つに史書があって……その中の一節に、『煌魔城(こうまじょう)』の文言が存在していたのです。我が祖先もその場所に獅子心皇帝や殲滅者、槍の聖女と共に挑んだというものが……」

「いずれにせよ、リベールのように人々に“衝撃”を与えるものということで捉えるしかなさそうだな……その言葉だけでも、エステル達から聞いた“幻影城”と似たようなもの……それと、帝国の伝承に残る『巨いなる騎士』……『騎神』とよばれる機動兵器。頭が痛くなりそうなことばかりだ。」

 

隣国の情勢とはいえ、旧帝国領を持つリベールも他人事ではない。仮に内戦が勃発した場合、帝国から流入してくる難民や領土奪還と称して攻め込んでくることなども考えなければならない……もしもの時は、不退転の覚悟を以て厳正に対処することも含めて。今回の事態に関してはエレボニア大使館に質問状を送り、帝国政府の回答を待つという方針で一致……事態の推移に関してはエレボニア帝国側に一任することで決着を見た。

 

 

その夜……ホテルのベランダで呑気に星を眺めるカレン。すると、其処に姿を見せたのは寝間着姿のエマであった。

 

「あら……貴方はエマちゃんだったかしら?」

「ええ。えと、カレンさん……」

「聞きたい事、当ててあげましょうか?……私が『眷属』なんじゃないか?ってことかしら?」

「っ!?……やはり……」

 

エマの考えていることをズバリ当てるとともに、自らの事をそうであると言わんばかりのカレンの口調に、エマは驚きつつも納得した。あの術は既存の導力魔法では再現できない……しかも、戦車の砲撃を防ぐことから最高位の術者であることは確かであった。

 

「……私は貴女が持っている『使命』に対して問わないし、別の目的もありそうだけれどそれも聞くことはしない。でもね、エマちゃん……貴女自身が心から望んでいること、それはないのかしら?」

「私自身が望むこと、ですか?」

「今は解らなくてもいい……でも、眷属として生きるということは、そういうことにいずれはぶつかることになる。それだけは忘れないで。」

 

そう言ってその場を去っていったカレン。残されたエマは静かに星空を見上げた。彼女には何もかもお見通しであった。無理もない……カレンは、エマが“姉”と慕っていた人物よりも更に高位の魔女……『長』が問題児と言いつつも、その教えの全てを習得した……魔女を目指す者にとって、もう一つの憧れとも言える存在。

 

「…………」

 

その投げかけられた問いに対して、今のエマに答えと言えるだけの言葉を持ち合わせていなかったのは、紛れもない事実であった。

 

 

次の日の朝、駅前でルーファスに見送られ、駅の中に入っていくリィン達に、エステル達。そして、リューノレンス達もであった。それを見送ったルーファスは駅前に付けていたリムジンに乗り込み、その車の行き先は―――“オーロックス砦”であった。

 

「やれやれ、何とか国際問題にならずには済んだが……ルーファス・アルバレア。貴族派きっての才覚を持ち、“放蕩皇子”と噂を二分するほどの人物。次期当主の呼び声も高いが……」

「―――その人物が何故、こんな朝早くに“オーロックス砦”に向かうのか?……とでも言いたげな顔だね?」

 

それを陰から見届けたトヴァルの言葉に被せるように聞こえてきた言葉―――その声の主である白いコートを纏った人物がそこにいた。

 

「アンタは……」

「フフ、しがない下級貴族さ。君と同じく、あの学院の子達を温かい目で見守らせてもらった。」

「……気のせいかもしれないが、アンタ、知り合いから聞いたある人物に似ている気がするな。その胡散臭い雰囲気、ひょっとして“気取った渾名”でも持っていたりしないか?」

「フフッ、それをどこで聞いたのか……外国の若いカップルだったりしないだろうね?」

「さてな……」

 

硬直状態の後……言葉を発したのは白いコートの人物であった。

 

「帝都行きの飛行船が出るのでそろそろ失礼させてもらうよ。それでは遊撃士殿。機会があればまた会おう。それと――――“紫電(エクレール)”殿と“神羅”殿によろしく。」

 

そう言って空港に立ち去っていく人物……明らかにトヴァルの素性を見透かした発言であったことには頭を抱えたくなったが……ここで、一つの疑問が浮かんだ。“神羅”という異名……遊撃士協会でも、『使徒』の第一柱の異名ということしか掴んでいない。その実力はかの“鋼の聖女”と並ぶ実力者という噂もあるほどだ。だが、あの人物がそう言ったということは……学院の中に“神羅”がいるという他ないだろう。

 

「ったく、この面倒な状況で厄介なヤツが現れたな……―――念のため、他の連中にも一通り連絡しておくかね……(しっかし、一体誰だ?)」

 

考えることとやることが同時に増えたことに、トヴァルはため息が出そうな表情を浮かべたのは……言うまでもない。

 

 

~帝都方面行き 列車内~

 

エステル達やリューノレンス達はこのままレグラムの方に行くということで、駅で別れた。さて、A班メンバーの表情はというと……

 

「ふわああっ……」

「……あふ……」

「やれやれ。若いのにだらしないわねぇ。一晩ちゃんと寝てるんだからもっとしゃきっとしなさい。」

「列車の中で寝る人がそう言ってもねぇ……」

「あんですって~?」

 

無理もないことだ。詰所に入り込み、其処から脱出して、領邦軍の兵士と戦闘……領邦軍全部と相手にしなかっただけマシなレベルだ。仮にそうなったら“能力”解放してでも殲滅する予定だったので、手が省けてありがたいことであった。

 

「無茶言わないでくださいよ……」

「流石に、今回ばかりは色々あり過ぎましたから。」

「そうね……B班の方もA班ほどじゃないにしろ、トラブルはあったようだけれど無事解決したそうよ。」

「そうですか……」

 

少し心配ではあったが、向こうの方も何とか無事に実習を終わらせることが出来たようだ。これにはアスベルも安堵の表情を浮かべた。

 

「そういえば……ねえ、サラ。今回の実習でオーロックス砦を見たけど、正直洒落になってなかったよ。砦というよりは“要塞”という言い方が正しいだろうけれど。」

「ええ、そうみたいね。そして領邦軍だけじゃなくて、正規軍も軍備を拡張してるわ。言うまでもなく革新派……“鉄血宰相”が掌握している20もの機甲師団を中心にね。」

 

紛れもない事実……完全な鼬ごっこ……戦争という導火線がいつ着火して爆発してもおかしくない次元の話だ。それはトールズ士官学院に在籍している自分たちも関係がないという訳ではない。正規軍と領邦軍……そのどちらにもトールズ出身者がいる。卒業生に対してどう振る舞えばいいのか……それに対してサラはこう言い放った。

 

「ま、そこらへんは今は気にする必要ないわ。君達はまだ、学ぶ立場にある。今回みたいに厄介で面倒な“現実”を少しずつ知りながら……それでも“今”しか得られない“何か”を掴むことができるはずよ。掛け替えのない仲間と一緒ならね。」

 

普通ならば……真っ当な人間がこういったのならば、すんなり説得力があるのだが……サラの様な人間が言ったということにA班の面々の反応はというと……

 

「ははははっ……」

 

大声で笑ってしまうほどであった。

 

「ちょ、ちょっと……何でそのタイミングでみんなして爆笑するのよ!?今笑うところじゃないでしょ!?」

「す、すみません……サラ教官の仰ってることは、その、すごく感銘を受けたんですけど……」

「い、いつもの教官とのギャップがありすぎてどうにも……ダメです、笑いを抑えきれません……」

「……ちょっとクサすぎ。」

 

慌てているサラ教官の様子を見たエマとリィンは苦笑し、フィーはジト目で指摘した。いつもの生活態度からでは感じることのできない真面目さにはあまりにもギャップの落差が激しすぎて耐えられなかったようだ。

 

「「“今”しか得られない“何か”。そして……掛け替えのない仲間と一緒ならか。」」

「ちょ……やめたまえ!二人して僕を悶え苦しませるつもりか!?」

 

シンクロするように言い放たれたユーシスとルドガーの言葉にマキアスは笑みを抑えきれずにしながらもユーシスとルドガーのほうを見て訴えるように告げた。

 

「――ああもう!せっかく良い事言ったのに!アンタたち、思った以上に一筋縄じゃいかないわねぇっ!」

「何を今更、ですよ。」

 

呆れた表情を浮かべるサラに対して、ジト目で冷静にツッコミを入れるアスベル………線路の外で、その列車を見送る一人の少女。そう、アスベルとルドガーが気絶させて記憶の一部を完全に消したその対象であった。

 

「まさか、“影の剣心”も関わってきただなんてねー……冗談抜きで勝てる気がしないや。多分レクターやクレアでも無理かな。というか、戦車を壊せるなんて本当に人間なのかな?」

 

そう呟くと鳴る通信の着信音。彼女が手に取ったのは、紛れもなく“ARCUS”であった。

 

「もしもし、こちら“白兎(ホワイトラビット)”。」

『こちら“かかし男(スケアクロウ)”。仕事の方は完了したか?』

「うんうん……遊撃士の人達や“影の剣心”が介入してきたけどいちおー何とかなったよ。」

『一応ってお前なぁ……また派手にやらかしたんだろ?砦の方も一部破壊したそうじゃねぇか……後始末をする方の身にもなれよ。』

 

そう話している相手―――“かかし男”と呼ばれる人物は少女の言葉に盛大な溜息を吐いた。そのため息からして、この少女がやってきたことに対する後始末の労力が凄まじいということを物語るような様相であった。

 

「まー、細かいことはイイじゃん♪ちゃんとお仕事は終わらせたんだし。あ、でも、色々面白いのはいたけど“連中”の気配はゼンゼンなかったよ?」

『……どうやら、ダミーを掴まされちまったみてぇでな。改めて洗い出してる。ハハッ……オッサンも今回ばかりは感心したような表情だったからなァ。』

「え、キミとオジサンの裏をかいたの?あはは、すごいなぁ。結構やりがいのある相手だねっ!」

『他人事みてぇに呑気に話すんじゃねぇよ。ったく……で、そっちはこの後どうするんだ?』

 

只でさえ労力を消費する……そうとでも言いたげであったが、こらえつつ少女の今後の事を尋ねる。

 

「ボク?これからクレアと合流するけど。」

『了解。お前の事だから心配はしてねぇが、気を付けろよ?』

「りょーかい。まったねー、“レクター”……そういえば『シカンガクイン』だっけ?んー……なんだか楽しそうでいいなぁ。」

 

通信を終え、ARCUSをしまうと……リィン達を乗せた列車の方向を、興味ありげな表情で呟いた後、少女は片手を上げた。

 

「―――ガーちゃん。」

「―――――!」

「そうそう。ここでの仕事は終わりだよ。行こっか―――“アガートラム”」

 

そこに突如姿を見せた白い人形兵器―――“アガートラム”と呼ばれたものは、少女を片腕に乗せて空へと飛びあがり、先程話していた人物と合流するために、その場から去って行った。

 

 

原作ではとあるお方(+裏の人物)がその内実を知る『獅子戦役』……ですが、ある関係によりヴィクターもその事に対してある程度知識を持っているという設定にしました。あと、“白兎”と“かかし男”のやりとりは原作(Ⅰでのやりとり)を基に想像したものです……再現できているといいですけれどw

 

あと、第三章にて新キャラ二人増えます。前作で非戦闘員から戦闘メンバーに格上げとなった二人の穴を埋める感じです。本格的にリィン達と絡むのはその次の章ですが……

 

ここだけの話ですが……前作で出したある人物のSクラフトの効果が実際のⅡで完全に一致したことにはガチで飲み物噴きました。

 

次から第三章ですが……いろいろイベントてんこ盛りなので、頑張ります。

 


 
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