No.735973

紫閃の軌跡

kelvinさん

第34話 各々の信条

2014-11-08 21:25:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3151   閲覧ユーザー数:2903

領邦軍に捕まり、地下牢に入れられたマキアスは一人考え込んでいた。無理矢理入れられたときは流石に声を荒げたが……必要以上に反応しても無駄なものは無駄だということは聡明な頭脳を持つ彼とて理解できたので、一先ず心を落ち着けて物事を整理することとした。

 

「(はぁ……リィン達は無事なんだろうか。あの男はともかく、アスベルも公爵家の城館に行っている。何もなければいいんだが……)」

 

ユーシスに対しての感情は相変わらずだが、物事を冷静に見なければこの先は戦っていけない……その感情の爆発によって得た結果が散々たるものだったということはマキアス自身一番良く解っていることだ。そうして数時間ぐらい考えていた時、檻の向こう側に姿を見せた人物達―――リィン達に加え、ユーシスの姿もあり、更にはマキアスも知らない人物―――エステルとヨシュアの姿であった。

 

「って、リィン達!?それに……」

「フン、どうやら泣きべそをかかずに冷静に物事を見つめる……流石は学年次席の人物だな。」

「よ、余計なお世話だ!というか、どうやってここに……!?」

「話は後。ちょっと離れてて。」

 

そう言ってフィーが牢の鍵のあたりに爆弾を取り付け、それが爆発すると牢の鍵が壊れて無事に開いた。同じクラスの人間が爆弾を所持しているという事実も驚きだが、事の理解自体が既にマキアスの常識を逸脱していたためか、

 

「…………(パクパク)」

「……理解が追い付かんという表情だな。せめてそれぐらいの気概は持ってほしいものだが。」

「ユ、ユーシスさん……」

「それは幾らなんでも無理難題というものだと思うんだが……」

「非常識なんていずれは慣れるもの。」

「いや、それはおかしいわよ。」

「エステルがそれを言える資格があるの……?」

 

非常識というものに慣れろ、というユーシスの言葉だが……ユーシス自身も未だに困惑していることは事実である。そうやって色々話しているリィン達に近づいてくる気配―――敵かと思い込んで構えたリィン達であったが、其処に姿を見せたのはルドガーとレンの二人であった。

 

「お、そっちは上手くいったみたいだな。」

「というか、何で二人がそっちから……もしかして。」

「“殲滅”はしていないわよ。“無力化”はしたけれどね。」

「その点に関しては俺が断言しよう。尤も『個人的理由』バリバリだが。取り敢えずは最低でも一時間ぐらいは稼げたかな?……ともかく、この街を脱出して……南に向かおう。」

「南、ですか?確かその方角は……」

「流石に先月の実習絡みでシュバルツァー家に迷惑をかけた以上、今月も……というわけにはいかない。だが、リベール方面ならそこにいる二人の事もあるからな。」

「……そうだな。リベール王国の人には迷惑をかけてしまうことになってしまうが。」

 

遊撃士という身分と、王国軍のトップにいるカシウス・ブライトの存在……その観点からして、ここは南に向かう方が賢明だろう。下手に北方向へ逃げて、ケルディックが火の海になるよりはまだ勝算が残っている。……これには、自分の実家の領邦軍の事をよく知っているリィンも賛同した。

 

「う~ん……だとすると、追手が来る可能性がある……ともかく、急いで街を出ましょう。」

「それは賛成ね。鉄道だと足がつくから、徒歩での移動になるわね。行きましょうか!」

 

一同が頷き、地下水道を戻る一行。中央通りを通り、職人街を通って……一行は南クロイツェン街道へと抜けていく一同を見た見張りの兵士……

 

「な、何だ……一体何が……と、とりあえず報告に戻らないと!!」

 

リィン達は急いでいたために気が付いていなかったが……その兵士が詰所に戻っていた時に気付いた光景―――全員が眠っていたことであり、そのことはすぐにオーロックス砦に伝えられ、すぐさまアルバレア公爵に伝わった。

 

「―――何だとっ!?すぐさまオーロックス砦から装甲車と『アレ』を出せ!南クロイツェン街道へ逃げた『反逆者』を全員逮捕しろ!!いいな!!」

 

そうやって怒号が響く……アルバレア公爵はふと、扉の下に挟まったもの―――手紙を読み、その手紙を握りつぶした。その内容はいたって単純―――『貴公の無礼に、畏まる理由などありません。貴方がその気ならば……私はその話を断った上で、そのような“暴挙”を防がせていただきます。』というものだった。

 

「―――どうやら、私の恐ろしさを知る必要があるようだな。“紫炎の剣聖”……貴様がいくら剣に秀でようとも、近代兵器の前では無力だということなっ……!!」

 

そう怒気を含めながら、握りつぶされた手紙をゴミ箱に投げ捨てた。その意味を知るのは一体どちらなのか……この時は、勝利を間違いなく確信していたアルバレア公爵本人であった。

 

 

一方、街道をひたすら南進するリィン達……とはいえ、この中では一番体力のないエマが流石に音をあげてしまったようだ。

 

「はぁ、はぁ……す、すみません……」

「委員長!?って、無理もないか。」

「ただでさえ体力がないからね。それに、大きいものがついてるわけだし。」

「フ、フィーちゃん!!」

 

リィンの言葉に続くように放たれたフィーの言葉にエマが顔を赤らめて叫び、これには一同冷や汗が流れた。ここで小休憩したとしてもいずれは追いつかれる……

 

「ヨシュア、北エベル門まであとどれぐらいだ?」

「結構来れたから……あと20セルジュ(2km)ぐらいだね。」

「委員長が無理のない範囲で急ごう。追いつかれたら、その時はその時だ。」

「す、すみません……」

「だな。(……ま、アスベルのことだから完全に情報がシャットアウトにならないよう仕組んでるんだろうな。)」

 

エマの方も少しは落ち着いたようで、息切れしない様に上手く配分しながら急ぐことにした。ルドガーは裏で色々仕込んでいるであろうアスベルの事を鑑み、もしもの時はこちらも動くことで意思を固めた。

 

「それにしても、羨ましいわよね……」

「エステルのその意見には同意するわ。ねぇ、どうしたらそんなに大きくなるのかしら?」

「これは是非ご利益に与らないと、だね。」

「エ、エステルさんにレンさんまで!!」

「……顔が赤いぞ。」

「だ、黙るがいい!!」

「はは……」

「こういう時って、男というものは怖いんだよね……」

「まぁ、ある意味半分女性だからな。ヨシュアは。」

「トラウマをサラッと抉らないでくれるかな、ルドガー……」

 

その過程で女性陣のセクハラ発言に男性陣が思わず反応してしまったのは、男としての悲しき性であった。そんなこんなで国境沿いに設置された門―――北エベル門まであと10セルジュぐらいまで来たところで、リィン達の後ろから聞こえてくる駆動音や足音。

 

それは紛れもなくクロイツェン領邦軍。しかも、兵士や軍用魔獣のみならず、装甲車や最新型の戦車である『アハツェン』まで持ち出してくるあたり、その本気度がうかがえる。このまま逃げ切れる可能性は低い……リィン達は頷き、覚悟を決めて構えた。その一行を見て……その中に居るマキアスの姿を確認した隊長が剣を構え、

 

「貴様ら……レーグニッツだけでなく、全員で捕まりたいらしいな!?」

 

そう威勢よく吐き捨てた言葉であったが、ユーシスがそれに対して

 

「ああ……逮捕してもらおうか。」

「ユ、ユーシス様!?なぜ貴方がレーグニッツの脱走行動に手を貸しているのですか!?」

「フン、都合がついたので実習を再開しているだけの事だ。それよりもどうする気だ?こいつらを逮捕するのであれば、俺も同罪ということになるわけだが?」

 

この言葉には隊長はおろか、部下の兵士たちもたじろぐ。クロイツェン州のアルバレア公爵家の権威は絶大……次男とはいえ彼を逮捕すればアルバレアの名に傷をつけることとなる。それは同時に領邦軍の名誉にも傷をつけるのと同意義だ。

 

「……そ、それは……」

「さすがに若様に銃口を向けるわけには……」

「ええい、狼狽えるな!いくらユーシス様でも軍事施設への無断侵入は許されるものではありません!ましてや公爵閣下の命に背き、勝手に容疑者を逃がすなど――――」

 

完全に狼狽えてしまっている兵士らに一喝し、その上でユーシスを睨むように言い放とうとしたが、それは静かに怒っているユーシスの言葉によって遮られた。

 

「―――いい加減にしろ。そりが合わないとはいえ、同じクラスで学ぶ仲間――――その者があらぬ容疑を掛けられ、政争の道具に使われるなど……このユーシス・アルバレア、見過ごせると思ったか!?」

「……っ……」

「ユ、ユーシス様……」

「………」

「……ユーシス。」

 

この言葉には兵士らも黙する他なかった。先月のケルディック絡みで危うくお家取潰しになりかけた矢先で、この体たらくには流石のユーシスも怒りを覚えずにはいられなかった。これにはマキアスも茫然とし、リィンは口元に笑みを浮かべたほどだ。だが、領邦軍の隊長はそれでも引き下がろうとしなかった。

 

「ぐっ……何を言われても、我々にも使命があります!総員、ユーシス様も含めて全員武装解除を―――」

 

そう言って、指示をしようとしたその時……突如聞こえる声。

 

『―――Infinitum enim de spinis(無限の茨よ)』

 

突如地面からせり出す茨の壁。それによって、領邦軍は兵士・軍用魔獣と装甲車・戦車に分断された。これには領邦軍のみならず、リィン達も驚きを隠せなかった。

 

「な、何だとっ……!?軍が分断された……!?」

「い、一体何が……!?」

「(この術……まさか、『魔術』!?でも、『姉さん』以外にこんな術を使えるだなんて……)」

「何が何だか知らんが……エステルにリィン!一気に制圧するぞ!!」

「ああ!!」

「ええ!!」

 

状況はよく掴めないが、火力のある装甲車や戦車を分断してくれたことにはチャンスであり、こちらの戦力アドバンテージが大きい……そう判断したルドガーの呼びかけに対し、リィンとエステルは頷き、武器を構える。

 

「ユーシス・アルバレア……昨日のリベンジと行こうじゃないか。」

「いいだろう。せいぜい合わせるがいい。」

「それは僕の台詞だ!!」

 

そして、むすばれるマキアスとユーシスの戦術リンク―――ここで、リィンらはエステル達が戦術リンクを結んでいることに気付いた。

 

「そ、それは戦術リンク!?」

「ふふふ……ヨシュア、いくわよ!!」

「勿論だよ、エステル!!」

「それじゃ、私はルドガーといこうかしらね。」

「……いや、この場合はフィーとリンクさせた方がいい。」

「どゆこと?」

「ま、こういうこと……さっ!!」

 

そう言って壁の向こう側へ跳躍するルドガー……確かに、壁で遮ったとはいえいつまで持つか解らない……そう言った意味では彼が向こう側に行くことは正解だろう。それを理解したレンはフィーとリンクを結び、リィンはエマとリンクを結ぶ。

 

「みんな、いく(ぞ/わよ)!!」

 

リィンとエステルの二人の激励により、闘志を高めるⅦ組+αメンバーの一同。

 

「ええい、かかれ!!」

 

領邦軍の隊長も檄を飛ばし、軍用魔獣と兵士らが突撃し……戦闘が開始される。

 

一方、壁の向こう側にとんだルドガー……壁に向かって砲撃や銃撃を行う戦車や装甲車の姿であるが、その対象物である茨の壁はかすり傷一つすらついていない状態であった。だが、それがいつまで持つか解らない……ルドガーは自らの得物である片刃剣を構える。そして、戦車や装甲車群の背後から近づく人影。そして、跳躍してルドガーの隣に立つ青年―――それは紛れもなく、“紫炎の剣聖”アスベル・フォストレイトその人であった。

 

「お、ナイスタイミング。というか、こういう事態になるんなら言ってくれよ……」

「ある意味賭けだったからな……そもそも、助っ人がここにいること自体予想外だったんだから。」

「助っ人?」

 

アスベルの言葉にルドガーが首をかしげると……街道の脇道から姿を見せる一組の男女。それは、リィン達が出会ったユーノとカレンと呼んだ人たちの事であり、これにはルドガーが驚くものの……事の次第を理解した。

 

「成程……かつて『神速』と謳われた第七師団の元師団長……で、俺が知る“深淵”絡みの人間ってことか。」

「そういうことになるね。初めまして、ルドガー君。僕の名前はリューノレンス・ヴァンダール。奇しくもヴァンダール家当主ということだよ。」

「ふふ……私はカレン・ヴァンダール。そこの物好きな人の奥さんってところよ。」

「……世間って本当に狭いと思う。」

 

アルノール家を守護するヴァンダール家……その当主であり、第一線を退いたがその強さは帝国最強であり、かの“光の剣匠”とならぶ“影の剣心”という異名を持つリューノレンス。彼の持つ宝剣『エルンストラーヴェ』はかの“槍の聖女”と謳われたリアンヌ・サンドロットより贈られし剣。リューノレンスは眼鏡を外してポケットにしまうと、その剣を構える。

 

そして、彼の妻のカレン・ヴァンダール。ミュラーとセリカの実母であり、その出生は明かされていない故に貴族からは批判の声が相次いだが……御前試合で無敗を達成したリューノレンスがその場で皇帝陛下に許しを乞い、その真摯さから彼女に対する批判の声は彼の一声によって打ち消された。その試合はラジオ放送もされていたので、つまるところ帝国中に知れ渡るほどのプロポーズ(すでに結婚していたので二度目のプロポーズ)となったそうだ。

 

実際のところは、辺境の奥地にある『魔女』の血筋を引いた人間で、本来ならば外部の人間を招き入れることすら許されない『魔女の里』に招かれたそうだ。最初は罰が下るかと思いきや、『長』と言われる人物が開口一番に放った一言は『謝罪』であった。

 

『お主のような有望な若者をこの生意気な娘が誑かした……本当に済まない。』

『ええっ?』

 

リューノレンスですら驚く他なかった。実は、カレンは元々好奇心旺盛な性格であり、里の人間にとっては『問題児』みたいなものだった。『外の世界を見てくる』と言い出した挙句、ビッテンフェルトから続くヴァンダール家の末裔であるリューノレンスのような人間を婿にしたことには、自分にも責任の一端がある……というものだった。

 

彼としては、彼女の出生についてはこのまま墓まで持っていくことを約束し、信頼できる人以外には打ち明けないということで結婚を認めるようお願いをして……何故かすんなりと上手くいった。里としては、問題児を里に戻すのは子供の教育上宜しくないという結果だったらしい。

 

関係ないことだが……この二人。魔術とかを使っているわけでもなく、見た目が若い。外見だけで言うと二十代前半にしか見えない。その実を言うと……お察しくださいというレベルだ。具体的な事を言わないのは、女性に対して年齢の話はタブーということだ。いいね?

 

閑話休題。

 

カレンは自らの武器である魔導杖を構え、リューノレンスと戦術リンクを結ぶ。そして、アスベルとルドガーも武器を構え、戦術リンクを結んだ。彼等から発せられるその覇気に、たじろぐものの……隊長を助けるべく、彼等に銃口を向けた。

 

「さて、レグラムにいる親友にこれ以上の迷惑は掛けられないからね……ヴァンダール流筆頭伝承者、リューノレンス・ヴァンダール。参ろうか。」

「カレン・ヴァンダール。私の“妹”を狙った罪、とくと知りなさい。」

「八葉一刀流が皆伝、アスベル・フォストレイト……いざ、参る。」

「ルドガー・ローゼスレイヴ。仲間を無実の罪で捕えたその報い、その身で味わうがいい。」

 

人の域を超えた者……その域の殻を垣間見た者……強くあろうと邁進する者……それぞれの戦いが幕を開ける。

 

 

適材適所、という奴です。オリキャラ(リューノレンス)ですが、実力的にはヴィクターと同等です。つまり……解りますね?(ヒント:Ⅱでのヴィクターの戦闘シーン)

 

結局のところ、

 

1:0% 2:0% 3:0% 4:現実は非情である 

 

の選択肢という訳です。誰の勝率かって?……言わないであげるのが優しさというものですよ。おお、怖い怖い。

 

で、新キャラであるカレンなんですが……ああいう設定でもアリなのかな、と(汗)エマのお姉ちゃんポジは“あの人”もいますが、静かに見守るタイプのもありかな、と。ただ、イメージ元(某魔導戦記Force)のせいでヴィータと被りそうですが、出番を食わない程度にそこら辺は自重します。ハイ。

 

あと、名前の修正の関係でリューノレンス(ユーノ)とカレン絡みの部分は修正済みです。

 

次回、戦闘回。気合、入れて、書きます。

 


 
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