No.734860

『舞い踊る季節の中で』 第160話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 一刀から聞きたかった言葉と答えを得られた恋。
 彼女はその磨り減った心と魂に己がが歩む道を決める。

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2014-11-03 19:00:01 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:3586   閲覧ユーザー数:2750

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百陸拾話 ~ 傷つき魂を庇保せんとする想いに、眠りし魂は羽ばたかんとす ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

 

 

 

 

 

 

 

 

恋(呂布)視点:

 

 

 

「……すー」

 

 静かな寝息が聞こえてくる。

 おにぃ、あの後すぐに眠った。

 ……深い眠り。当分、目を覚まさない。

 ……たぶん恋といっぱい話して疲れた。

 恋、分かる。おにぃ、怪我以外の怪我が酷い。

 恋を助ける為に、おにぃ無理した。

 おにぃ、半分無い。

 おにぃの半分、アレに持っていかれた。

 ……おにぃの怪我も、……そして半分なのも恋のせい。

 おにぃの話は難しくてよく分からなかった。

 それでも恋、一生懸命理解しようとした。

 おにぃ言ってた。恋の減った部分はアレを使わなければ次第に戻って行くと。

 なら、おにぃのも戻る。

 ……でもそれは時間かかる。

 おにぃを恋のようにしちゃいけない。それは絶対。

 おにぃは、恋が守る。

 

ふわっ。

 

 強い風が吹く。

 ……ん、このままだと、おにぃ風邪ひく。

 だから恋は、おにぃに捲れ落ちた布を掛けてあげようと。

 

「風邪を引いてしまうのじゃ、全く世話の掛かる主様じゃのぉ」

 

 何かちっこいのが駆けてきて、恋の取ろうとした布を拾っておにぃに掛ける。

 別にそれはいい。 おにぃが其れで風邪を引かないなら構わない。

 ……ただ、ちょっと面白くない。

 

「なんじゃ、おぬしはまだ居ったのか?

 主様は見てのとおりお休みなのじゃ。とっとと居ぬがよい」

 

 ちっちゃい何かは……恋をおにぃの所まで案内してくれた子。

 たぶん霞が言ってた、おにぃの家族。

 なら……。

 

「……恋、おにぃの家族になった。恋、おにぃの義妹。

 ……おまえ名前?」

「………なるほどな。主様にも困ったものじゃ。

 じゃが、主様の優しさに文句は言えぬ」

 

 名前の知らない小さい子は、恋の知らない子になった。

 おにぃに言われて向こうに行った子とは別人。……同じはずなのに。

 

「……呂布よ。

 貴様は、まだ主様の家族では無いのじゃ。

 少なくとも今の貴様に、その資格は無い。

 妾の言っている意味、分からぬか?」

 

 ……冷たい瞳、

 ……冷たい声。

 ……音々と同じくらいに小さいのに、恋、気圧される。

 ……恋、知っている。これは(ゆえ)と同じ。

 ……優しい時の月じゃない月。

 ……都で、悪い人を叱っていた時の月。

 ……でも。少し違う。

 ……分かった。これは威嚇。

 目の前の子は、おにぃを守ろうと恋を威嚇している。

 この子にとって、おにぃは守らなければならない家族。

 だから、知らない恋を。……まだおにぃの家族ではない恋を威嚇するのは当然。

 おにぃの家族でいる資格…。恋、分からない。

 でも、この子にとってそれはとても重要な事。

 ううん、多分おにぃの家族にとって重要な事。

 恋、分からない。でもおにぃの家族でいたい。

 ……だから。

 

「……分かった。 また来る」

「……そうか、またくるか。

 ならば覚えておくがよい。今のまま来るのであらば、二度と主様と会う事かなわぬと言う事をな」

 

 恋は、おにぃに頭を下げてから、その場を去る。

 あの子、あれは怖い。でも嫌いじゃない。

 ……家族を必死に守る時は怖いもの。

 犬も、狼もそう。家族護る時、恐い。

 ……でもあの恐さは別。

 アレは、人の上に立つ人が持つ恐さ。

 月も持ってた。おにぃも持ってる。

 ……そしてあの子も。

 ……たぶん、恋が起こした。

 

「……家族、……資格」

 

 恋、よく分からない。

 でも今は、恋の家族を守る時。

 恋の仲間を守る時。

 恋、我儘言った。

 恋、いっぱい迷惑かけた。

 だから、今度は恋が皆の力になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥琳(周瑜)視点:

 

 

 

 開け放たれた窓から、流れてくるそよ風に髪を擽られる。

 その風の悪戯と言うより、手の中に在る報告書に目を通す事で流れた髪を片手で軽く戻す仕草をしながら、私の返事を待つ彼女へと目を向ける。

 黒髪に女官姿。特徴があるようでない顔立ち。彼女を表現するならば女官としか出てきそうになく。何処にでも居そうな姿故に記憶に残りにくい出立ちに身を包んだ姿は、そう在るように作り込まれたもの。

 

「御苦労だった。また頼むかもしれんと伝えておいてくれ」

 

 私の言葉に、彼女は机上に用意した報酬の金子の入った巾着を受け取るなり、静かに部屋から出て行く。

 彼女の事は記録には残らない。そもそも城への出入りたる門すら彼女は使用していないうえ、百も数えぬ内に誰の目にも止まらないようこの屋敷からも抜け出している事だろう。

 彼女はあの場で巾着の中身を確認する事すらしなかった。自分という異物が依頼主の立場を乱さぬようにと言うのもあるが、そもそもそんな事に時間を掛ける必要などないからだ。仕事に対して会わぬ報酬であれば、彼女は二度と私の前に姿を現さなくなるだけの事。

 もしそうだとしても、受けた依頼内容はもちろん、依頼主の名や所在を推測する内容すらも、彼女達の口から他者に洩れる事は無い。

 信頼こそが彼女達の掟であり、死をもってしてでも守り通すべきもの。

 それだけの報酬が、彼女達の懐に入ると共に、その報酬こそが、彼女達一族全てを養っていくことになる。

 むろん、一族全体からしたら私など雇い主の一人でしかないであろうがな。

 

「今のが、そうですか」

「いや、ただの連絡者だろうな。それ以上でもそれ以下でもない。そう言う事だ」

 

 流れるような金色の髪を緩やかに編み込み、肩から流すようして一連のやり取りを静かに見守っていた翡翠は、言葉短く訪ねてくる。むろん、あくまで確認でしかない。私が答えた内容も聞く必要すらない事だ。

 確認とは、あくまで私が抱えている情報網の一つのこと。私が北郷を見張るために雇った者達。

 翡翠とて、その事はうすうす気が付いていたはず。ただ、今回はたまたま翡翠がこの部屋にいる時に彼女が来ただけにすぎない。

 内容の事など何一つ触れる事無く、翡翠がその事を見破っただけの事。責めるべきは迂闊な行動をした彼女達では無く、翡翠の洞察力こそ驚嘆すべきなのだろう。

 そして、翡翠もただ、それを確認しただけに過ぎない。だから、知るべき事、…いや知るべき事は知れないままに終わると言う事を確認した翡翠は、用は済んだとばかりに部屋を後にしようとする。

 

「聞いて行かないのか?」

「一刀君が、私に黙っていると言う事は、私に知って欲しくないと思っているということです。

 なら、私は一刀君を信じて待つだけの事です。いえ、そもそも知る必要が無い事なのかもしれません」

 

 なるほど、たったあれだけの事で、この手にある報告書の内容すらも見破るか。

 ………相も変わらず、怖いな。

 だが、今回ばかりは外れとだけ言っておこう。

 其処まで見抜いた褒美にしてもちょうどいい。

 

「なるほど、北郷を信じていると言う訳か。

 どちらかと言うと信じたいといったように感じるが、……まぁ、それはどちらであろうとも私には関係ない事だ。翡翠に限ってそんな事は無いだろうが、この事で色々考え込んだ挙句に政務に支障が出ても困る。

 包み隠さず話そうと思うが。……生憎と、報告書の中身はほぼ白紙でな」

「…?」

 

 私の言葉に、翡翠は眉を寄せる。少なくとも私の言葉の真意に興味を持たすことができた。

 彼女達。正確には実際に北郷を見張っていた者には、この手記用の手帳と鉛筆、そして望遠鏡を渡してある。

 今回は急遽の依頼だったとはいえ、あれだけの報酬を渡した以上、それ相応の内容と翡翠は考えていたのだろうな。

 だが報酬とは、その内容が濃ければ高いと言うものでもない。 報酬とは、その難易度にも大きく左右されるもの。 そして彼女等は私の依頼した通りの事を、自分達の持てる能力を全て突き込んで行っただけに過ぎず。 それでも情報を得られなかったのは私の責任でしかない。

 北郷と呂布の会見を本人達にも知られることなく探れ。と言うのは、それだけ無理な内容だったと言うだけに過ぎない。

 

「……望遠鏡による監視ですか」

「あの二人を相手では、それも仕方あるまい」

 

 あの二人に知られる事なく見張るには、それ程離れねば気付かれると判断したのだろう。

 翡翠がこの事で危惧している中には、正確な地図の作成のために測量に使っている物を除けば、まだこの世界に五個も存在しない最重要機密である望遠鏡の事もあるだろうが、その辺りは信頼できる。

 調査に必要な物資の返還と機密保持を依頼内容に含めてある以上。たとえ彼女達の一族内だとしても、あの望遠鏡の存在や構造が知れる事は無い。そう言う掟に絶対な一族だからこそ利用価値があり。今迄、一族ごと潰される事なく生き残って来たとも言える。

 

「唇を読み取るのも限界な距離だったのだろうな、片言にしか書かれていない上、其処から内容を読み取ろうにも想像しがたい。おそらく我等に無い概念の話をしているのだろうとしか理解できぬな」

「概念…細菌とか化学式とか言う物でしょうか」

「分からぬな。だが、その可能性は薄いだろうな。

 あの(・・)呂布を相手にそんな話をしたところで意味が無い。それは分かっているだろう」

 

 会話らしい会話はさしてしていないが、呂布自身は無害だと言う事は直ぐに理解できた。

 例え、天下無双の武を持とうが、そんなものは関係が無い。

 ウチにもいるが、ごく一般的に虎と言うものは凶暴で恐ろしい。だが、その生息域に足を踏みいれたり、ましてや虎の巣を突つかなけば、そう恐れるものでも無い。そして彼女達の頭脳である陳宮も此方で抑えている以上。煩い老人達が恐れている事態は、万が一にもないと言える。

 

「……だが、全く無駄金だった訳ではない。

 何とか読み取れる内容から、北郷の目的……と言うかこの戦に拘った理由が推測できた」

「……」

 

 たいしたものだ。彼女自身、公人としても私人としても、もっとも興味ある内容の一つ。

 そして同時に先程翡翠自身が述べたように、北郷自身の口から聞きたいであろう内容。

 その事を目の前にぶら下がれようとも、髪の毛一筋として表情を崩さない。仮面のような硬い表情でもなく、ごく普通に見える自然な表情。しかも当たり前のような表情の変化をしてみせる。

 

 それが、なにか?

 

 とな。まるで無関心のように振る舞って見せれる事に、驚きもすると同時に、同僚としては頼もしく感じる。 ……そして親友としては悲しくもあるがな。

 翡翠は相手を想うあまり、自らの想いを縛る事に馴れ過ぎたのかも知れん。

 それは我等のせいでもあると同時に、北郷のせいとも言える。

 だから、私は少しでも彼女の心を軽くしたいと願う。

 

「なに、翡翠も聞いておいた方がいいと判断しただけの事だ。

 煩さ方への対応もある」

 

 あくまで、公人として聞けと。

 我ながら職権乱用も良い所だが、公人としても知っておいた方が色々此方も助かるのも事実。

 この報告書だけでは、推測の域を出ない話を彼女に聞かせる。だがそれは北郷の性格。そしてこの戦に掛ける北郷の言動を重ねれば、限りなく真実に近いであろう話をな…。

 

 

 

 

 

「……そうですか、一刀君の妹」

「ああ、あやつは、そんな私情のために我等を巻き込み、そして軍を動かした」

「……冥琳様。 いえ冥琳。その割には顔がそうは言ってませんよ」

 

 翡翠の言葉に驚く。

 どれだけ振りだろうか、翡翠が私を呼び捨てにするのは……。

 まだまだ私も翡翠も、青臭かった時以来かもしれない。

 もっとも、祭殿辺りに言わせれば、今の我等とて穴の青い小娘って所なのでしょうな。

 だが、嬉しくもある。少なくとも翡翠には私の想いは伝わった。…いや、そんな事はどうでもいい事。肝心なのは、翡翠の心の重みが一つ降りたと言う事だ。

 

「ほう、ちなみに聞くが、どう言う顔をしているように見える」

「そうですね。邪悪な笑み。……は流石に言い過ぎですので、悪女の微笑みに留めておきますか」

「酷い言われようだ。これでも喜んでいるつもりだが」

「ええ、其処は否定しません。ただ、冥琳の場合、両方で(・・・)】でしょ」

「ああ、そうだな。そこは否定はしない。

 天の御遣いは、我等孫呉に強い負い目が出来た。これは政治的にも意味が大きい」

 

 そうですねと。翡翠は笑みを崩さぬまま答える。

 やはり辛そうではあるが、別に私の応えに対してでは無い。

 私が言った事は嘘でも何でもないが、それはあくまで口実に出来ると言うだけの事だし、北郷自身に使うとは限らない。北郷自身に使うかどうかは話は全く別の話だと言う事だ。

 少なくとも翡翠には、その事だけは誤解無く伝えたい。

 

「私、個人としては、今回の一件は嬉しいと言える。

 彼奴は色々と背負い込み過ぎた。我等がそうさせたと言うのもあるが、どうしても気になる事があった」

「……一刀君自身の事ですね」

「ああ…」

 

 あやつは、自分を顧みなさすぎる。

 我欲が無いと言えば聞こえは良いが、彼奴のそれは、そう言った域の問題では無い。

 むろん、全くない訳では無いが、それとこれとはまた話の意味も域も違う。

 北郷は戦い方にしろ、策に練るにしろ、少しでも多くの人が助かるように考える。それはいい。だが、問題はその助ける側の天秤に北郷自身が乗っていない事だ。かと言って反対側、…犠牲にする側にいるわけでもない。もしも犠牲側の天秤に乗っていたとしたら。そんなものは、ただの自己満足の似非博愛主義者にしか過ぎん。そんな者などに、我等は此処まで頼りにしたりしない。そんなものは破滅しか生まんからな。

 北郷はあくまで天秤を見るだけ。其処に自分を助けようとか、そう言ったものは含まれていない。おそらく北郷にとっては、そんな余分なモノを天秤に掛けてしまっては天秤が傾くとしか思っていないのだろう

 

「あやつは自分を助ける気などなかった」

「今回の事も、そう言えるのでは?」

 

 ふっ、分かっていて聞くな。

 その事に人が悪いと思いつつも、普段自分が散々やっている事だから、突っ込みはしない。どうせ突っ込み返されるだけだからな。

 

「呂布の中に妹の影を見たのならば同じ事だ。

 それは北郷自身の中に在る妹を救う事。 彼奴自身の心を守ろうとした結果だと言い返る事も出来る」

 

 間接的とはいえ、北郷が自分自身を守ろうとした。

 北郷がこの世界に来て、そう思えるようになってきた。とも言える。

 そう考えたら、幾ら私が冷血女だと云われようとも素直に喜べもしよう。

 

「少なくとも我等孫呉は、大恩ある天の御遣いの心を救う事に手を貸す事が出来た」

 

 あの独立時の戦を知る多くの将兵は、此れで納得するだろう。

 あの戦を知らぬ者や納得できぬ者達も、北郷の用意した天の知識と、北郷に孫呉へ負い目を背負わせれたと思わせておけば、とりあえずは納得はする。 …いや、納得させてみせるだけの事。

 今回の戦、犠牲が無かったわけではないが、まともに呂布や領主達と戦をする事を思えば無いに等しい。

 それもこれも北郷が彼等の武人としての誇りを利用し、戦闘では無く喧嘩にしてみせたからこそだ。

 一人一人が、あそこまで誇りある将兵だからこそ成し得れた策。

 そして呂布達を取り囲む特殊な状況が、策とも言えない策を策たらしめた。

 

「それもこれも全て、お前()が北郷の心を守り、そして慈しみながら育ててきたからこそ。違うか?」

「……ええ、そうならば、こんなに嬉しい事は無いです」

 

 嬉しくない訳がない。

 心から喜びたいであろう。

 でも、素直になれないものが翡翠には在る。

 彼女は、自ら望んで北郷と結ばれた。

 煩い事を言う遠縁や、老人達を黙らせてまで選んだ道。

 彼女に、幸せかと聞けば、間違いなくそう答えるだろうし、それは真実なのだろう。

 だが、辛くは無いかと聞かれ、辛くは無いと言えば、それは嘘になる。

 少なくとも翡翠にとって、今回の北郷の一件は、負担が一つ軽くなった一方、別の重みを背負った事に違いは無い。

 

『一刀君が呂布に妹の影を見たのなら、そう言ってくれればいいんです。

 家族が家族を助けたいと思うのは当然の事。一刀君の家族なら私にとっても家族も同じ。遠慮なんて少しもする必要なんてないんです】

 

 おそらくはこう北郷に叫びたいはず。

 北郷にこの程度の事を打ち明けてもらえない辛さを……、相談してもらえない悲しさを……、北郷自信に感情ごとぶつけたいのだろう。

 だが、それが出来るのならば、そもそもここまで貯め込まないし、彼女自身、そう言った感情をぶつける事で、北郷の重しになるのを嫌っているのだろう。北郷が今回の一件で自分自身を許せないでいるうちは特にな。

 私も翡翠も、感情のままに動くには、少しばかり齢を重ねすぎたのかも知れん。

 祭殿や深月殿ぐらいになれば、また話は別になるのかもしれぬが、私もまた翡翠同様に可愛げのない女を自覚しているうちはその日が来る事は無いのかもしれないな。

 

「ちょっと冥琳。アレ、何とかしてよ。もう診なくてもいいと言うのに、無理やり診るのよ」

 

 ………何事にも例外と言うものはあるがな。

 年齢など欠片もお構いなしに、心の赴くままに行動、……と言うか暴走をする例外が、突然部屋に入ってくるや否や馬鹿な事を言いだしてくる。

 まぁ、……コレは大人の女と言うよりも、子供のまま大人になったと言った方がいいかもしれんがな。

 

「華佗が定期的に診断が必要だ。そう判断したのならば当然だろう。

 それに私も蓮華様も、その判断は正しいと考えている以上、其処に雪蓮の意見を聞く必要はあるまい」

「必要あるわよっ! だいたい、こんなうら若き美女の肌を男の目に晒すのをなんとも思わないの? 冥琳それでも私の愛人なの? 最近冷たいんじゃない?」

 

 どこまでも自分勝手な言い訳に頭痛を覚えるも、雪蓮の傍若無人さも、雪蓮なりの甘え方だと知ってはいるし、その事を可愛いとも思うのだが、さすがに用件が用件だけに甘い顔は出来ん。

 

「華佗が信頼できる医師であり、男と言う意味では北郷以上に無害だと雪蓮も知っている筈。

 相手を説得させたいのならば、もう少し説得力を考えた方がいいと何度忠告したと思う。

 それと面倒くさいから逃げようとした所を、華佗に抑え込まれたからと言って、私に八つ当たりをされても困る」

「うわぁ~。まるでついさっき在った事を見てきたみたいに言うわね」

「違うのか」

「いや、その通りなんだけどね。

 流石は親友ね。私の事を良く分かってる。愛しているわ冥琳。 と言う訳で・」

「ならない」

「ちょっと、最後まで言わせてよっ。どうせ言う事聞いてくれないなら、それくらいしてくれてもいいじゃないのよ」

 

 まったく雪蓮が絡むと、なかなか深刻な話も出来やしない。 もっともそのおかげで助かっている事も多いから文句は言えないがな。 ……そして、今回もその力を貸して貰うとしよう。もう一人の親友のために。

 

 

 

 

 

「……と言う訳だ」

「ふ~ん。まぁ一刀らしくないと言えばそうなんだけど、逆に一刀らしいと言えば一刀らしいわね。

 で、それがどうかしたの? 孫呉としては、別に一刀を責める気は無いんでしょう? どちらにしろ呂布とは戦わなければいけなかったのは一緒だもの。 一刀のおかげで被害と出費が抑えられたのなら文句を言う方が間違っているわよ。

 でもこうして二人が顔を突き合わせているって事は、どうせ一刀の事だから、つまんない事で自分を責めているって所なんでしょ? だとしたら一刀って頭が回るくせに本っ当~~に馬鹿よね。蓮華と一緒で一々深く考え過ぎなのよ。ああ、でもこれも祭の時みたいに、一刀に強引に分からせてしまえばいいだけよね。みんな集めて戦勝会とか言って。

 大多数が一刀の味方でしょうから、そんな場で馬鹿な事を言うやつはそうはいないわ。それだと私も楽しめて一石二鳥、あっ、呂布達も呼んで仲を深める事が出来れば一石三鳥よね」

 

 ………なんと言うか、報告書の事を話して聞かせただけだと言うのに。 相も変わらず一つ一つ筋道を立てて思考してきた事が馬鹿馬鹿しくなる雪蓮の言葉に、今まで積み重ねてきたものが、足元から崩れるような幻聴を聞きながら、頭を抱える。

 ……分かっている。雪蓮のアレはそう言う物だと言う事はな。

 翡翠に対しては、根本的な原因はどうしようもないが、半分ぐらいは雪蓮の案で何とかはなるだろう。少なくとも、我等の(おも)だったものは北郷を理解している。

 雪蓮は道を指示しただけ。ならば後は周りが何とかしてみせれば良いだけの事。

 ……もっとも、我等の今の王は蓮華様。ならば、この事は蓮華様に案の一つとして進言するだけだ。

 決めるのは蓮華様。 もしかすると雪蓮とはまた別の意味で、良い案を出されるかもしれぬ。

 性格は大きく違えど、蓮華様もまた王となるべきお方。その能力はまだまだ未熟と言わざるえないが、その魂は経験を積まれるごとに確実に一歩一歩前へと歩まれておられる。 そして今回もまた、その大切な経験となられるはず。

 

 

 

 北郷よ。所詮はこんなものだ。

 お前のその真面目な想いは尊い。

 だが、時として手放す事も必要ではないのか。

 我等とて、こうして今お前の苦しみすら利用している。

 蓮華様に経験を積ませるために……。

 雪蓮の言うとおり、孫呉の結束を強める為に……。

 また、天の御遣いと言う名を利用するために……。

 そして、お前の心を少しでも癒そうと、政をも利用している。

 互いに、利用し利用されている。

 それの、どこが悪い。

 大切なのは、そこにある想い。

 そして魂ではないのか?

 

 なぁ北郷。

 この世界は、お前が思っている以上に懐が深い。

 辛く、厳しい事ばかりかもしれないが、それでも皆が心を寄せあって生きてゆける。

 その揺り籠に、魂をまかせてみるがよい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

 

 

「これで痛みは少しはマシになるだろう」

「ああ、助かった」

 

 目が覚めて以来、毎日来てくれている華佗に俺は心から礼を告げる。

 こうして華佗の針治療を受けてみる身になると、そのありがたさが文字通り身に染みて分かる。

 少なくとも歪んだ筋や筋肉が、整体と針治療そして氣孔術と掛け合わせてきた事で、此処まで一気に治療が進めばあとは何とかなると判断し。 ゆっくりと折れた左腕を動かすことで調子をみながら、これだけ骨がくっ付けば【傀儡の舞い・巴】の応用で、それなりに身体を動かす事が出来るから、完治するまでの筋力の低下も最低限に抑える事が出来る。

 

「前々から言おうと思っていたが、無茶をしすぎだ」

「……あははっ。 いや身体を動かすのはリハビリの一環程度で、無理はしないいようにはするからさ」

 

 考えている事が華佗にばれたと思い、つい勝手な事を言ってしまう俺。

 うん、華佗が言ったのは別の事だと言うのは、その呆れた表情を見れば分かります。

 雪蓮の時みたいに怒られた挙句に、強制的に眠らせられるのかなぁと身構えたとこへ。

 

「回復には、体力も”氣”も大量に使う。 焦る気持ちは分かるが眠る事も怪我人とって必要な事だ。

 そう言う意味でもあまり無理をするな。

 俺が今、言っているのは、怪我の方では無く、北郷流・裏舞踊とか言うやつの事だ」

「……」

「お前の場合。 怪我よりも中身の方だ。

 心の臓、胃、腸に肝の臓、…いや内臓全般がかなり弱っている。 前の時にもそう思ったが、弱り方が異常だ。

 かと言って”氣”脈に歪も溜りもない。 これは怪我や病気による弱り方じゃないな。まるで年寄りのような命そのものが弱まっている様な弱り方だ。 いや違うな。老人達は”氣”脈も弱って行くが、お前のは”氣”脈そのものは、そのままだ。 なんというか、その存在そのものが薄まっているように感じる」

 

 ……本当にたいしたものだ。

 華佗の診断に、俺は心から華佗を称賛する。

 合っているかはともかく、そう言う捉え方が出来る事に驚きを禁じ得ない。

 だから、俺は華佗に正直に言う。

 

「まだ、大丈夫だよ」

 

 そう、すぐにどうこうなる程ではない。

 回復に努めれば、数年もあれば元に戻りはするはず。

 華佗の心配する北郷流裏舞踊も、普段使う程度のことなら支障は無い。回復が遅れはするだろうけどね。

 だからと言って、そんな悠長な事を言っていられる状況でもないから、其処は何とか誤魔化しながらやっていくだけの事。

 だから、まだなんだ。

 まだ俺にはやらなければいけない事があるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう、簡単に消えてたまるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

あとがき みたいなもの

 

 こんにちは、うたまるです。

 第160話 ~ 傷つき魂を庇保せんとする想いに、眠りし魂は羽ばたかんとす ~を此処にお送りしました。

 

 こんにちは、今回は前回の話のすぐ後の恋視点と、その会談をこっそり見張らせていた冥琳のお話を描かせていただきました。 短いながらも色々と突っ込みどころのある話だと思います。

 彼女が、この後どのような成長するのかは今後の楽しみとして見守りください。(公式では恋姫全員18歳以上なので成長は無いかもしれませんが)

 ぶっちゃけ、今回は繋ぎとしてのお話なんですが、本当は、こういうお話こそ、うまく書いて見せないといけないんでしょうが執筆力追いつかない。 ほんとうに難しいですよね。

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 


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