No.732717

ALO~妖精郷の黄昏~ 第45話 北方陥落

本郷 刃さん

第45話になります。
ヨツンヘイム各地の戦闘その1、北方階段での戦闘です。
ここからはみなさんが考えてくださったアバターが活躍します。

どうぞ・・・。

2014-10-26 12:45:47 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6085   閲覧ユーザー数:5466

 

 

 

第45話 北方陥落

 

 

 

 

 

 

 

 

グランド・クエスト[神々の黄昏]

『侵攻側クエスト[霜の世界の黄昏]:ミズガルズと四方の階段を攻め落とせ』

『防衛側クエスト[霜の世界の抵抗]:ミズガルズと四方の階段を守り抜け』

 

 

 

No Side

 

――ヨツンヘイム・北方階段

 

「うぅ、こっちに向かって来てるよ~…」

「ウォンッ」

「ハクは怖がってないね、羨ましいよ……でも、わたしだって怖くても頑張るもん!」

 

1人の少女が戦線よりほんの少し離れた丘の上で1匹の白い狼と共に佇んでおり、なにやら独り言を呟いている。

焦げ茶色の髪と猫耳を持つ彼女は小柄なケットシーのアバターを持つプレイヤーであり、名を『リオ』という。

その彼女の傍らに居る白い狼はMobなどではなく、彼女がテイムしたレアモンスターで相棒、名は『ハク』である。

リオもまた『アルヴヘイム・オンライン』を愛する者であり、大切な相棒の住む世界を守りたいと思い、

今回の戦いにオーディン軍として参加することにしたのだ。

 

そして彼女が配備された場所はヨツンヘイムの防衛拠点の1つである北方階段だ。

さて、その彼女がなぜ戦線から少し離れたところにある小高い丘の上に居るのか、

それはこの場所に2体のネームドMob、つまりボスモンスターが接近しているからである。

『スィアチの館』より出現した2体の巨大な狼、〈Skoll the Solvarg Lord(スコル・ザ・ソルヴェルグ・ロード)〉と〈Hati the Managarmr Lord(ハティ・ザ・マーナガルム・ロード)〉、

彼らが接近している姿を目視で確認するためにリオは丘の上に登った。

視認は容易に行うことが出来、僅かな怯えを持ちながらも彼女はそれを真っ直ぐな瞳で見ていた。

 

「もうすぐ到着しそうだよね、早く戻らなく「どうかしたの?」にゃあっ!?」

 

そうして戦線に戻ろうとした時、後ろから声を掛けられたことでケットシーらしくというべきか、

猫のような声を上げて飛び跳ねた。

 

「ご、ごめんなさい、驚かせちゃったわね。

 1人で居るのを見かけたからなにかあったのかなって思ったけど、パートナーも一緒だったみたいね」

「いえ、わたしの方こそ心配を掛けてしまったみたいで、お気遣いありがとうございます」

 

リオに声を掛けたのはアスナの亜麻色に近い明るめの色にショートヘアの髪型を持つ大人しめのスプリガンの女性だった。

(『ホロウ・フラグメント』のフィリアを参照)

 

そんな女性の気遣いにリオは微笑みながら応えた。

 

「私は『ライ』よ。貴女は?」

「リオっていいます。ここに来たのは向かってくるボスの姿を見ようと思って…」

「そういうこと……確かに、良く見えるわね…」

 

ライは『スィアチの館』の方を見て納得した、スコルとハティが自分達へ向けて疾走しているのだから。

それに距離は徐々に近づき、もう間もなく最前線組と接触する頃だろうとライは思い至った。

一体どれほどのプレイヤーがやられるのか、例え現実世界では無事でも彼女はそれが気がかりであるが、

いまは考えても仕方が無いと思うことにした。

 

「私達も行きましょ。最前線が敵と接触する前に戦線に合流した方がいいわ」

「そうですね。ハク、お願い」

「ウォンッ!」

 

ライは翅を展開すると飛行して、リオはハクの背に乗って移動を開始した。

 

 

 

2人が戦線に合流した時、既に最前線はスコルとハティと交戦していた。

 

「すみません、遅れました」

「確かライだったな、アイテム補給は済んだのか?」

「はい。初手はどうなったんですか?」

 

ライが話しかけたのはパーティーリーダーを務める1人であり、情報を持つから彼女は彼に話し掛けたのだ。

 

「接触直前にエクストラアタックと大規模魔法で先制してやったよ。

 Mob共はそれで大半が吹き飛んで、あの2体もゲージ1つずつならやれた……が、良くはないぜ」

「なっ、あんな動き…!?」

 

フルレイドで四方から囲んで2体に攻撃を仕掛けるオーディン軍のプレイヤー達。

ソロプレイヤー達も各々の戦術で応戦しているが、2体の動きは異常である。

基本、大型のボスモンスターの動きは速いとはいえないものが多い。

速くとも翼があるものや水棲だからというのがほとんどだが、それでなくともスコルとハティの速さは別格である。

範囲系の魔法を放っても全てが当たることはなく、単体系の魔法に至っては命中しない始末。

デパフも効かないため、支援系や補助系の魔法で近接戦闘を行うプレイヤーを援護する形が多くなる。

しかし、その近接戦闘も思うようには進まないのである。

 

「合流早々すまないが、アンタ達も行ってくれるか? 俺もメイジ隊を指揮して援護する」

「分かりました。リオちゃん、行ける?」

「はい! ハクは中級の回復魔法も使えますから」

「ウォォンッ!」

 

ライは短剣の一種であるソードブレイカーの『ギルティー・レイ』を装備し、リオに問いかけた。

リオもまた小柄な体型には不釣り合いにも見える愛用の斧槍を装備し、相棒のハクも吠えて応える。

そして2人と1匹はスコルとハティを相手に戦闘を開始した。

 

 

 

 

赤い体毛を持つスコルは高速で移動し、プレイヤー達の放った魔法攻撃を回避する。

 

「くそ、なんて身のこなしだよ!」

「あまり攻撃魔法は使うなよ、使うのなら確実に当たる時か誘導する時だ! それ以外は味方へのパフや回復に徹しろ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

スコルに最も近いメイジ部隊は機動力に苦労しながらも味方への援護を行っていた。

そして近接武器を持って戦闘している部隊もまたスコルの機動力に苦戦を強いられていた。

 

「野郎、なんて速さだ!」

「待ち伏せても構わず突っ込んできやがるからな、こっちはそのまま吹き飛ぶし、とはいえ飛行でも中々追いつけねぇ。

 弓部隊は移動先を狙って撃てよ! 俺達も出来るだけ近づいてダメージ削るぞ!」

 

苦戦しているとは言ってもそれはボスに対してだけであり、リポップするMobは出現したとしてもすぐに倒される。

また、スコルとハティは分断されているので被害もいまのところは大きくない。

当たり難いだけならば問題は無く、攻撃が命中することもあるので数で圧倒しているため、ダメージを確実に与えている。

 

「追いついた!」

「ウォォォンッ!」

 

そこにハクに乗ったリオがスコルへと追いついてきた。

ハクが走る速度はなんとスコルと同等であり、並行走行を出来るほどだった。

 

「白き狼、“白狼族”の者か! なるほど、それならば我に追いすがれるはずだ! 面白い!」

「ウォォォォォンッ!」

 

スコルはハクのことをそう呼び、ハク自身はいままでにないほどの咆哮を上げた。

ハクはスコルの背の高さまで飛び上がり、リオはスコルの背に飛び移った。

 

「せぇやぁっ!」

「ぐぅおっ!? やるな、妖精よ! ふんっ!」

「きゃあっ!?」

 

スコルの背に乗る事に成功したリオはその手に持つ斧槍を自在に動かし、スコルの背を無尽に斬りつけた。

ダメージの蓄積によって7本あったHPゲージが残り5本となったことでその身を空中回転させるという新たなモーションが加わり、

リオは背中から弾かれたがすぐさまハクが彼女の落下地点へ辿り着き、そのまま彼女を背中に乗せて再び走り始めた。

 

「ハク、もう一度接近お願い! 今度は振り落とされないから!」

「ウォンッ!」

「良いだろう、来い! 若き“白狼族”の者と妖精よ! オオオォォォォォッ!」

 

ハクの背に乗って斧槍を構えるリオの様は『山犬に育てられた少女』を連想させるがそれはこの際置いておくとしよう。

スコルは愉快そうに大きな口を歪めて咆哮を放ち、その衝撃波は囲んでいたレイドパーティーまでにも及び、態勢を崩された。

 

「お前ら、あの嬢ちゃんに良いとこ持ってかれてるぞ! 俺達も続くぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

「メイジ部隊はパフで近接部隊を底上げしたあと、範囲魔法で少しずつでもダメージを与えよう!」

「「「「「はい!」」」」」

「弓部隊、移動先を狙って一斉に仕掛けるわよ! 針鼠にしてやりなさい!」

「「「「「了解!」」」」」

 

各部隊もリオの動きに触発されていく。

崩された態勢を即座に立て直すと近接部隊は配信された飛行アイテムを装備して一斉に飛び掛かり、

メイジ部隊は支援魔法(パフ)による強化や範囲魔法によるダメージを与え、弓部隊は弓から放った矢で波状攻撃を行っていく。

 

「ハク! 1、2、3で行くよ……1、2、3!」

「ウォォォンッ!」

 

そこでリオがハクと共に再びスコルへと接敵し、ハクが飛び上がったことでリオはもう一度スコルの背に乗ることに成功した。

 

「てぇいっ!」

 

リオはスコルの背で斧槍による縦横無尽の攻撃を行った。

彼女はパワー型であり、主な戦闘でのスピード戦はハクに任せている。

そんなリオの斧槍による攻撃は確実にスコルにダメージを与えていき、さらにソードスキルも発動する。

また彼女だけに任せていないのが相棒のハクであり、彼は近くの凍りついた木々を身軽に飛び上がっていき、スコルの眼前に躍り出た。

 

「ウォォォォォンッ!」

「ガァァァァァッ!」

 

互いに高く雄叫びを上げると両者共に攻撃を行った。

スコルはその巨大な咢を開いて噛み殺そうかという勢いでそれを閉じたが、

ハクは持ち前の速度で回避して直後にスコルの顔に牙と爪を使いダメージを与えた。

大きいとは言えないダメージであっても、それがスコルを怯ませるには十分なダメージであった。

 

「いまだ! 一斉攻撃!」

 

フルレイドのリーダーがそう叫ぶとプレイヤー達は一斉に攻撃を行った。

弓部隊は矢をスキルなどで放ち、メイジ部隊は単発魔法や連射魔法を放ち、近接部隊は武器でスコルの各所に攻撃を行った。

それによりスコルのHPゲージは残り4本となった。

 

「これで、あとは4本!」

「ウォンッ!」

 

リオは新たなモーションを警戒して一度スコルの背から離脱してハクと合流した。

他のプレイヤー達も警戒しているが良い戦果に士気が上がる。

しかし、そんな彼らを嘲笑うかのように、スコルは行動を起こした。

 

「面白いぞ、妖精共よ! その力に応じ、我もまた力を示そうではないか! 我が前に屍を晒せぇっ!」

 

その瞬間、スコルは巨大な口を開くとその中に熱が溜まり、凄まじい火炎のブレスを放出した。

さらに自身の体から熱を放つと僅かな空白のあとに突然に周囲が円形に爆炎が起こった。

 

「ぐっ、くそっ! 被害はどうなった!?」

「スコルと戦闘中のプレイヤー、半数以上がやられました! そのほとんどがメイジ部隊と弓部隊です!」

「ハク、大丈夫…?」

「ウォン……オォンッ!」

「うん、回復ありがとう」

 

ブレスと爆炎の攻撃によって幾つもあったフルレイドは半壊滅状態になり、ここで戦線が崩壊した。

幸いにもリオとハクは無事だった、ハクがスコルの攻撃の瞬間に一気に距離を取り、

ダメージを負いながらも吹き飛ばされただけに済んだのだ。

だが戦線の崩壊はさらなる追撃への序章に過ぎなかった。

 

それは、僅かに離れたハティとの戦いに繋がる…。

 

 

 

 

リオとハクがスコルと戦闘を始めた同じタイミングでライもハティとの戦闘を始めていた。

戦闘の様子はスコルの側と変わりなく、ハティの行動パターンも同じものだがこの場に居る者達はまだ気付いていない。

それはスコルと戦っている者達もだが…。

 

「(戦況は悪くもないけど良くもない……私は、どうするべきかな…)」

 

ライは飛行しつつ思考する、どうすれば高速で移動するハティの動きを捉えられるのか。

 

「(このままなにも出来ない、なにもしないなんてお断りよ……かといって、

 ALOで死んでも大丈夫だとしても、それは私自身の矜持が許さないし、許そうとも思わない。

 だから特攻なんてまっぴらごめん……『SAO生還者』なんて言っても、英雄さん達みたいに大業なことができるわけでもないし…)」

 

ライの考えている通り、彼女は『SAO生還者』の1人であり、その実力は上層で活動していたためかなりのものである。

とはいえ、積極的に攻略組と共に攻略するのではなく、サポートをするようにMAPの提供やレアアイテムの流通を主としていたのだ。

よって彼女にとって英雄と呼ばれるキリトはまた自分とは別の次元の存在だと考えている。

だがそんな彼女にもキリト達と似た思いがある、それが例えゲームでも可能な限りの“死”は避けるである。

 

「(あの時のことは絶対に忘れちゃいけない…私は、私が奪ったあの娘の命の分まで生きるって、決めたから)」

 

ライにはキリト達とはまた違った意味で相当な過去がある。

 

彼女は『ソードアート・オンライン』に囚われていた時、1人の友人が居た。

あの厳しい世界において心を許せる友というのは心強い存在である。

生還を夢見ながら最前線で戦う覚悟はないながらもライと友人の少女は攻略組を支えるべく、コンビを組んでいた。

しかし、それもSAOが攻略される半年ほど前に脆くも崩れ去った。

 

ほんの少し、ほんの小さな出来事が2人を永遠の別れへと導いた。

ライと友人の少女はいつも通りに迷宮区へと探索に出たが、そこでモンスターに囲まれているコンビのプレイヤーが居た。

そのコンビは2人とも自分達と同じ女性であったため、即座に助けに入ったが、それが命運を分けることになった。

そのコンビはMPKをされ、モンスター達に囲まれ、しかもその数は10体を軽く超えていた。

助けに入ったライと少女も奮戦するが、その迷宮区は彼女達にとって簡単に行くものではなく、

先にコンビのプレイヤー2人がその命を散らすことになった。

危機の中でも2人はなんとか数を減らし、最後の1体を倒したと思った時、不意に新たな敵が襲い掛かってきた。

明確には2人の視界の外に居た敵が2体襲ってきたのだ。

咄嗟に応戦しようとソードスキルを発動したライだが、そこに友人の少女が吹き飛ばされてきた。

ソードスキルは少女に直撃し、彼女の胸を貫いてしまった。

さらにモンスターの攻撃が2人を襲い、揃って飛ばされた……そして少女のHPは0になった。

その時に少女が遺した言葉が……、

 

 

――生きて、あたしの分も…

 

 

これだった。

自分が殺した、殺してしまった……その思いがライの中に渦巻き、彼女は失意の底に沈みきった。

それでも死を選ばなかったのは死んだ友の遺言だからであり、幸いにもSAOを生還するに至った。

『SAO事件』から1年の間は失意に中にあったが、少しずつ現実を見ていくことが出来た。

 

いまでは甦ったアインクラッドで友が死んだ場所に再び赴こうと攻略に参加することもある。

まだ友の死した場所に辿りつけていない、それを果たすためにもこの妖精郷を守ると決めてオーディン軍に参加した。

だからこそ、こんなところでボスに負けてやるつもりはない、その強い意思が彼女を動かした。

 

「自称だけど【友殺し】のライ、本気で行かせてもらうわ!」

 

ライは翅を使い飛翔すると高速で移動を始めた。その動きはハティとは距離を取っていくが、徐々にハティへと近づいていく。

それはハティがカーブを描いて駆けていたからであり、

ライはそれを察知してハティとは反対の方向にカーブを描いて飛行したのだ。

 

「《ミストバーン》! でぇあっ!」

「くっ、目晦ましか、がぁっ!?」

「眉間に決まったわね、その右眼ももらうわよ!」

 

真正面からの接触直前、詠唱を終えて発動させた幻惑魔法の《ミストバーン》を発動し、

ハティに“怯み”を与えてそのまま愛用の『ギルティー・レイ』をハティの眉間に突きたてたのだ。

生物系のモンスターにおいて眉間や眼は共通のクリティカルポイントである。

狙うのが難しい反面、直撃すればそれ相応のダメージを与えることができる。

ライが見事に眉間と宣言したように右眼にダメージを与えたことでハティは大きく怯み、隙が出来た。

 

「続けぇっ! 全員遅れるなぁっ!」

「メイジ部隊、一斉砲撃……撃てぇぇぇっ!」

「弓部隊、メイジ部隊の砲撃終了と同時に……放てぇぇぇっ!」

「ぐおおおぉぉぉぉぉっ!?」

 

メイジ部隊と弓部隊が魔法と矢による射撃を行い、その直後に近接部隊が一斉に斬り掛かる。

当然ながら容赦の無い魔法と矢による射撃と様々な武器による近接攻撃はハティのHPゲージを6本から5本まで削り、

さらにはその半分以上まで削りきった。

 

「ソードスキル《エターナル・サイクロン》」

 

ライは魔法や矢に晒されながらも回避しきり、ハティの首の付け根で短剣の奥義技であるソードスキルを放った。

その箇所こそハティ、そしてスコルの弱点であり、まさしくクリティカルヒットとなった。

そこに追撃として他のプレイヤー達の攻撃も加わり、HPゲージはついに4本に到達した。

 

「かはっ! これこそが戦争! これこそが生命の本能! やはり戦とはこうでなくてはな! 我が前に屍を晒せぇっ!」

 

そこでハティは咢を開き、冷気を溜めると氷結のブレスを吐いた。

さらに地中からは氷の棘が幾つも生え、冷気の波動と共にプレイヤー達に襲い掛かった。

その被害は同時刻にスコルによって被害を受けたものと大差なく、半壊滅状態に陥っている。

 

「っ、寒い…」

 

ライはHPがレッドゾーンにまで追い詰められるも無事だった。

スコルとは違いハティの攻撃は背中には及ばなかったが、咆哮によって吹き飛ばされた先で氷柱に襲われ、冷気に凍らされた。

周囲でも似たような状態の者達が多い。間違いなく戦線の崩壊と言える。

 

 

 

 

そして、戦線の崩壊を起こしたスコルとハティが近づき並び立った。

そのまま北方階段のに体を向けると再び咢を開き、スコルは熱気を、ハティは冷気を口に蓄えた。

 

「まさ、か…!」

「ライさん、大丈夫ですか!? ハク、ライさんの回復を…」

「ウォンッ!」

「それよりも、アレを、止めないと…!」

 

ダメージを負いながらもなんとかスコルとハティの元へ行こうとするライのところにハクに乗ったリオがやってきた。

すぐさまハクの回復魔法でライのHPを回復させていくが、ライの視線は2体に向いたままである。

リオもそちらへ視線を向けた、その瞬間。

 

「「《ダブルトレント》!」」

 

2体から発せられた言葉の直後にスコルからは巨大な炎弾が、ハティからは氷弾が放たれた。

それは地面を這うように抉りながら直進していき、目的の場所に着弾した。

 

「あ、あっあぁ…」

「そん、な…」

 

言葉にならないリオと絶句するライ。2人の視線の先では北方階段の入り口の門が粉々に砕かれていた。

巨大な穴が開き、上部であるアルヴヘイムへと続く階段が晒されている。

そこにあったはずの陣営は跡形も無く吹き飛ばされている様から、防衛拠点の部隊は全滅とみて間違いないだろう。

 

その惨状から察せられるのは……重要防衛拠点の一角である北方階段の陥落である。

 

 

 

――アースガルズ

 

「スコルが覚醒し、ヨツンヘイムの北方が落ちたようですわ、マーニ」

「ハティも覚醒し、行動を共にして落としに掛かったようだな、ソール」

 

アースガルズにて馬車に乗り2頭ずつ馬に引かせている美しい女性と男性。

2人は姉弟であり、女性の方は太陽の女神『ソール』、男性の方は月の神『マーニ』という。

馬達はそれぞれ“早起き”の意を持つ『アールヴァク』、“快速”の意を持つ『アルスヴィズ』と名付けられている。

2人の表情には憂いがあり、会話から解る通りにスコルとハティの兄弟を危惧している。

ソールとマーニが生きてこられたのはスコルとハティがニブルヘイムに封じられていたからであり、

終末の時のいま2人に逃れられる術などない。

あるとすれば、それは妖精達(プレイヤー)によってスコルとハティが倒される時だろう。

とはいえ、2人にとっては最終的に全てが終わることも織り込み済みである……ならばこれは、余興ということだろう。

 

「妖精達に協力を仰ぎましょう、これも定められた終焉への道筋なのですから」

「ああ、そうだな。我らに定められた終焉を齎してもらう為にも」

 

憂いの中には紛れもなく、楽しむ表情が混じっている。

 

 

 

――ヨツンヘイム・ウルズの泉

 

「太陽を喰らいて炎を纏う赤き狼、“嘲るもの”や“高笑い”を意味する名を持つ『スコル』。

 月を喰らいて氷を纏う青き狼、“憎しみ”や“敵”を意味する名を持つ『ハティ』。

 彼の【悪狼王】と名高いフェンリルの子らの力はやはり凄まじいようですね」

 

ウルズは戦火の中央とも言えるミズガルズの下にある『ウルズの泉』にて物憂いげに呟く。

彼女は北方階段が陥落したことを悟り心配そうな表情を浮かべるが、考えていても仕方が無い。

いまはただ、彼ら(・・・)のことを信じるしかないのだから…。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

開幕戦はヨツンヘイム北方の戦いとなりました、とはいえ陥落したのですが・・・。

 

みなさん察していただけると思いますが『リオ』と『ハク』、そして『ライ』は企画参加のアバターです。

 

大まかな設定は考えてもらったものでそこに自分なりのアレンジを加え、少し人間ドラマも加えました。

 

少しでも楽しんでいただける方が嬉しいですからw

 

次回もヨツンヘイムでの別階段での戦闘になります、そちらもお楽しみに!

 

なお、スコルとハティの使った技である《ダブルトレント》はあるアニメの技ですw

 

ではまた・・・。

 

 

 

 


 
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