No.731889

『舞い踊る季節の中で』 第156話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 勝者が地に伏し、敗者が大地へと立ち天を仰ぎ見ん。
 どちらが本当の勝者だったのか分からないままに終結した戦は、双方共に蟠りを残す。

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2014-10-22 19:00:02 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3780   閲覧ユーザー数:2900

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百伍拾陸話 ~戦火の灰が、雪の如く舞い積もりし大地に眠る命~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

 

 

 

 

 

 

 

 

雪蓮(孫策)視点:

 

 

 呂布を巻き込んだ領主の反乱を治めてから五日。

 最後まで大地に立っていた呂布の突然の降伏宣言と言う英断のおかげで、孫呉は天の御遣いである一刀への貸しの幾らかを返すと言う体裁は守らる事が出来た。

 肝心の反乱を起こした領主はと言うと、呂布の一方的な降伏宣言がとどめとなり、一族諸共孫呉に引き渡される事となり、今日を迎えることになった。

 彼は彼で街や民の事を思っての事だったのだと思う。それが最後には周りの臣下や民に裏切られ、抵抗する気力が無くなるまで殴る蹴るの暴行され、敵対した我等に罪人として引き渡される姿に、憐憫の想いを感じえなくもないわ。

 だって、それはある意味、私達の姿でもあるのだから……。

 明日の私達の姿なのかもしれないのだから……。

 それでも私達は彼等を処断しなければならない。

 その姿に明日の自分達を重ねながら、彼等を反乱を起こした罪人として、死してなおもその姿を晒さなければならない。

 

 ………何時もの事とはいえ、欺瞞ね。

 

 何度経験しようと後味の悪い事には違いないわ。

 これに慣れる気にはなれそうもないし、慣れたいとも思わない。

 ただ、それでも毅然として見せねばならない。

 民に、そして天下に、此れが正しい事だとみせて見せねばならない。

 蓮華もきっと同じ想いなのでしょうね。

 それでも蓮華は王であらんとし、領主の血のついた剣を片手に毅然と振る舞って見せた。

 その後に続く処刑人達の斧が振り下ろされる音と断末魔の声。

 すでに領主達の一族には抵抗し、この世を恨む声を叫ぶ気力すらも無くなっていたため、只々速やかに行われるのをじっと待つしかなく。

 蓮華も、そして私もそれを黙って見届け続けた。

 自分達のやっている事をきちんと見届ける為に。

 彼等の死を無駄にしないために。

 全ての事を終え。城への帰路の中で私は蓮華に声を掛ける。

 

「これでひとまずは、片がついたわね。 城へ戻ったらお祝いに一杯やりましょう」

「姉様っ」

 

 相変わらず頭の固い蓮華に逆に窘められる。

 まったく生真面目なんだから。王になってから、余計に硬くなったんじゃないかしら?

 でも、蓮華のその気持ちが分からない訳では無いわ。だって私もかつて通った道だもの。

 両の肩に一族と民の命運が掛かっていると思えば、どうしても背筋が伸び、些細な失敗も許されないと考えてしまう。でもね、こうも考えられるの。

 私ひとりじゃないと。私が目指そうとする孫呉に、皆が力を貸してくれるし、私を支えてくれる。多少の失敗なら皆が補ってくれる。

 それよりも自分しかできない事。自分がやらなければならない事に意識を向けるべきなのだと。

 それが自分を支え、そして命運を預けてくれる仲間への報い方でもあるのだと。

 そう考えれるようになれば、貴女はもっと伸びるわ。

 私には無い資質が、確かに貴女にあるもの。

 

「と言う訳で、とっておきのお酒を開けるから付き合って」

「何が『と言う訳で』ですか。 王の座を私に譲られたとは言え、姉様は孫家の長女である事には変わりはないのです。もう少し自覚をお持ちください。

 そもそも、私にお酒を禁じたのは姉様御自身ではございませんか」

「ええ、だから蓮華は私が呑むのに付き合ってくれればいいのよ」

「つまり姉様がお酒を飲むのに、私には茶でも飲んで付き合えと」

「そうそう。あっ、美味しい料理ぐらいは御馳走するわよ。つまみも欲しいと思っていた所だし」

「巫山戯ないでくださいっ!

 そのような席に私は付き合っていられませんし、付き合いたくもありませんっ!」

 

 あらら、怒らせちゃった。

 どすっどすっ。と足音が聞こえてきそうな勢いで歩く蓮華の後ろ姿に、流石にからかい過ぎたかしらと反省。

 でも必要以上に張っていた背筋が、程よく解れている所を観ると、怒鳴られた甲斐が少しはあったみたいね。

 うん、良い傾向ね。でも流石にこのままだと悪いから、お詫びに後で美味しいお菓子でも手配しておこうかしら。たしか城の厨士の一人が、一刀の作ったお菓子を幾つか再現できるようになってきたとか言っていたし。

 本当に美味しいようなら、点心専門の厨士としてお抱え直してあげても良いわよね。

 後で冥琳にでも相談してみようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、某達がそのような事をせねばならぬのです」

 

 城へ戻るなり、侍女の娘に言われて向かった冥琳の部屋で私と蓮華を迎えたのは、不満を隠そうともしない空気と怒鳴り声。

 もっとも怒鳴られたのは私と蓮華では無く、部屋の主である冥琳なんだけどね。

 冥琳は私達が部屋に入って来た事に気が付くなり、視線で状況を促しながらも、それ以上私達に構わずに話を続ける。もっとも、本音は私に掻き回されたくないと言う所なんでしょうけど、此処は親友の冥琳のためですもの、大人しくその意向に従っておくことにするわ。 だって、こんなくだらない事であとでお説教されたら堪らないもの。

 そして怒鳴り声の主である高順に対して冥琳は。

 

「それは貴様等が敗軍の将兵だからだ。他に理由が必要か?」

「某達は決して敗軍では無い。恋殿は確かに勝っていた」

「ああ、そうだな。我等の将は北郷を含め五人とも呂布の武の前には届かず。

 王である孫権様も貴公等の将の一人である張楊と勝負がつかなかった。むしろ内容だけを見るならば、孫権様が一方的に押されていたことは認めよう。

 ……だが、それでも、貴公等は敗者側である事に違いは無い」

 

 冥琳の言葉に、蓮華が悔しげに歯を噛むけど、それは仕方ないこと。

 少なくとも蓮華にとって、あの戦いは敗北にも等しいと感じている筈。

 でもそれで私は構わないと思っている。少なくとも各上の張楊を相手に生き残り、こうして自分に何が足りないかを自覚する事ができた。 蓮華ならこの敗北を糧にする事が出来るはずだもの。

 

「それもこれも呂布殿の深きお考えがあったゆえの事。

 我等は敗者では無く、勝利を貴様等に譲っただけの事だ。敗軍扱いを受けるいわれはない。

 いや、某は構わぬ。某があの女に届かなかったのは確かな事実。それ故に敗者としての扱いを受けるのは必定。

 だが、そうでない者達が半分近くはいる。某は某の仲間達のために、その命令を聞けぬと言っているのだ」

 

 なるほど、そう言う事。

 部屋にいるのは、陳宮を始めとする武威五将軍達。

 武装を解かれ平服姿とは言え、流石はあの呂布の鍛えた娘達と言った所ね。

 負けん気も強いし、武人としてはもちろん、将としての誇りも一流と言った所かしら。

 高順の言葉には少しも嘘を感じられない。おそらく、あの戦いの中で負けたと感じた者だけと言われれば、冥琳の言葉にも素直に頷いたでしょうね。自分達の武と呂布の臣下でいる事に誇りを持つが故にね。

 でも、そう言う訳にはいかないのも事実。

 

「貴公等の意見は理解した。だが此方の返事は変えられぬ。

 どういう形であれ、呂布は自ら旗を降ろし、貴公等もそれに従った事実に変わりはないし、我等もその誇りある行動に感謝しているからこそ、この程度の労働で済ませてやろうと言っているのだ」

 

 冥琳の言う事も当然ながら正論。

 共に間違った事を言っているつもりはないでしょうし、双方共にお互いの言い分を理解しているからこそ、こうして必要以上に熱くならずに冷静に話し合っている。まぁ……平行線ね。

 冥琳に視線で黙っていろと言われていたけど、やっぱり口を出す事にする。

 だって、このまま放っておいても冥琳が、上手くまとめるでしょうけど、私としても誇りある降伏を選んだ将兵達をなるべく納得いく形で済ませたいと思うもの。

 ……もっとも、私としてはそれだけじゃないんだけどね。

 

「一応確認したいんだけど、六人ともが同じ考えなのかしら」

「…雪蓮」

 

 私の口出しに冥琳が止めようとして来るけど無視。だって、此処で大人しく引き下がるくらいなら、最初から口出ししたりしないわ。だから私は視線と顎で勝手に話を進めさせてもらう。

 そして陳宮、…張楊、…眭涸、…侯成、…宋憲。

 

「音々は、呂布殿に従う。それだけなのです」

「私は構いません。其方の言い分は理解できますから」

「愛様が仰るのなら、白は構わないのです」

「我等の(あるじ)は呂布殿。聞く必要のない命令に従ういわれはない」

「勝負に負けた私に対してならともかく、部下のためにも従う訳にはいかぬ」

 

 陳宮は此処に呂布がいない今、事実上意見の保留。張楊と眭固は納得しても構わない。そして高順を始めとする三人が自分はともかく勝っていた戦を譲った以上、敗軍としての労役には従えないと。

 ふーん、結局はそう言う事ね。なら話は単純じゃない。

 

「高順、ようは貴女は呂布が一刀に勝ったから、敗軍としての扱いを受け入れられない。そう言う事ね。

 実際、あの後、私も含めて三人の将が、呂布の足元にも及ばないと事を証明させたんですもの」

「……そうだ」

 

 やっぱりね。確かにそういう事ならば高順達のかたくなな態度も理解できるわ。そしてそれ故に、信頼できる娘達だと言う事も。 あの戦い、事実はどうあれ、多くの兵士達は確かに見ていたのよ。 呂布が一刀を含む私達を退け、大地に立つ姿をね。 ……つまり、そう言う事よ。

 

「陳宮。貴女は主である呂布の降伏をどう考えているの? いいえ、言葉を変えさせてもらうわ。

 だって貴女の場合。呂布殿に従うだけの事と言い出しそうだもの。

 だから、こう聞くわ。貴女は呂布が自ら負けを認めた根拠。それは何だと思うの?」

 

 幼い姿はしてはいても、その姿に騙されてはいけないわ。

 短い期間とは言え、漢王朝に置いてあの第一師団の軍師を務めたほどの娘。

 しかもこと戦術級に置いて、間接的とはいえ冥琳と七乃が操る朱然達の部隊と互角以上に渡り合えた娘よ。とてもなめられないわ。

 陳宮は静かに目を瞑り熟考した上で、その想いを言葉にして紡ぎだす。

 

「呂布殿が、自ら負けを認めたのならば音々としてはそれを認めねばならぬのです。

 ですが、音々個人の意見を言えと言うのであるならば、あの戦い、やはり呂布殿の負けなのでしょうな」

「陳宮、貴様呂布殿を敗者にするつもりかっ!」

「黙るのですっ! 音々とて、そのような事など認めたくはないのですっ!。

 ですが呂布殿が自ら負けを御認めになった。そして音々達に謝罪の言葉を口にした。更紗はその呂布殿の想いが分からぬのですかっ!」

「……くっ!」

「ならば、その上で音々が見るにあの男。天の御遣いを名乗るあの男が最後に振るった一振り。

 剣を握らぬその手で振るった一振りこそが勝敗を決したと音々は見るのです。

 その後に呂布殿の揉み合う様に地面に押し倒し、その喉元に鉄扇を突きつけた時では無くですぞ」

 

 陳宮の小さな身体から発せられる言葉に、…いいえ、気迫に高順は気圧される。

 なるほど、此れが陳宮ね。ふふっ、面白い娘だわ。

 さすがはあの戦で、一刀が最も警戒していただけの事はあるわね。

 事実、あの戦においては、この娘を如何に封じ込めておくかにかかっていたもの。そしてそのために、一刀は自分達の部隊だけでは無く、冥琳と七乃までを投入したほど。

 呂布が率いる軍はこの娘を起点にして群が軍と成す。 でも一刀は軍を郡と成し、あえて個々の戦いへと持っていかせた。まったく正反対の事をして見せたのよね。全てはこの娘を抑え、呂布と一騎打ちに持ち込むために。

 私は、隣室に控えている冥琳の弟子を呼んで、一つお願いをする。

 その間に、蓮華は蓮華で考えていたらしく。高順達を諭す。

 

「貴様等の言い分は分かった。だが周瑜が言ったように、我等の意見は変わらぬし、変えられぬ。

 もしも貴様等の言い分を認めたとしても、此方の出す答えは同じ。

 貴様等が敗軍の将兵でなくとも、呂布があのような状態の今現在、貴様等は我等の臣下でもなければ客人でもない。

 貴様等に与えている寝床と食糧もタダでは無い以上、貴様等の食い扶持分を働いて返してもらう事に何が悪い。

 かと言って、放置しておくわけにもいかぬ以上。監視付きでの仕事を斡旋してやっているだけだ」

「ぐっ」

 

 うん、もっともな意見よね。それも(・・・)正論と言えば正論だわ。

 ……でも蓮華。そう言う事を言う貴女って、とっても悪人っぽく見えるから気を付けた方が良いわよ。

 とりあえず、今度その事をからかいがてら、教えてあげましょう。

 きっと、顔を真っ赤にして怒りながら否定してくるでしょうね。

 まったくそう言う態度がものすごく可愛いって事、少しは自覚した方がいいのにと思いつつも、その事を教えてからかい甲斐が無くなるのは私としては困るので、当分は教えてあげるつもりはないけど。

 そうして、蓮華の言葉に渋々ながらも、自らの糧のためと言う形ならばと納得する姿を見せ、大人しく退出しようとする高順達に冥琳は、一つだけ訂正を入れる。

 

「陳宮、貴公は労役に付く必要はない。このまま城の一室で軟禁させてもらう」

「なっ」

「っ!」

 

 冥琳の言葉に、とっさに陳宮の前に出る高順と張楊。そしてその後ろに静かに立つ眭固。

 なるほど、張楊はともかく、犬猿の中と聞いていた高順まで咄嗟に陳宮の身を守ろうとするあたりは、あの娘の重要性を一番理解しているのは彼女達自身。

 そしてその態度こそが、冥琳が陳宮だけを別にする理由でもある訳だけど。

 

「理由は貴公達が今示した通り。

 呂布と陳宮を貴公達から離して置く必要性を、今更言う必要はあるまい」

「私達が今更謀反を起こすと?

 ならば私達の誇りを馬鹿にしていると受け取らせてもらいますが」

「馬鹿になどしていないさ。

 だが、現状では警戒する者もいるのも事実。

 彼等を納得させるには労力と時間がかかる。そう言う事だと理解してほしい」

 

 張楊の深く静かな言葉に、冥琳もあえて肩を竦めてみせる事で、警戒心を取るように答える。

 疑っていない証拠だと、蓮華様の意見を汲んだ上で、少なくとも食事などに関しては此方の一般兵と同様の待遇を約束すると。

 そして呂布の処遇が決まり次第……いいえ、呂布がどの道を選ぶかは分からないけど、労役が終わり次第陳宮を含めた全員を無事にその道に就かせる事を約束すると。……呂布が選ぶ道を歩ませることを。

 そして、此処で我を通しても仕方ないと判断したのか、陳宮自ら高順と張楊の背中から黙って部屋の中へと足を進める。その小さな背中に、仲間の全てを背負うかのように。

 そしてそこへ、ちょうどいい時に頼んでいた物が届く。後ろ手でそれを受け取りながら、手の感触で間違いない事を確かめてから、高順に向けて放り投げるように渡してあげる。

 

「良いものよ」

 

 私のその言葉と行動に、顔を燻かみながら、受け取った巾着から中の物を掌に取り出すなり、怒りを露わにしようとする。

 某を馬鹿にするなと。こんなもので某達を買収しようと言うのかと。

 と、もしも止めなければ、そんな事を言っていたでしょうね。

 何せ高順の掌には、大きめの金剛石が転がっているんですもの。そう思われても仕方ないわ。

 でも、残念。生憎と貴女にあげる訳にはいかない。私にとって、それは宝物の一つだもの。

 だから、早々に本題に入ってあげる。

 

「よく見なさい。まだ磨きが足りないわ。それでは価値は半減よ。

 私が言いたいのは、その石、角が偉く尖っていない?」

 

 金剛石と言うのは、とても硬くて、輝きを出すまでに磨くのにとても時間と手間が掛かるもの。

 問題は、普通に磨いていては角がどうしても丸みを帯びてしまうと言う事。

 そう、高順に手渡した金剛石。それは嘗て春寿の街で一刀が亞莎のために原石から加工したもの。

 手間暇をかけて研磨したのではなく、勝手に私から拝借した南海覇王でもって、文字通り切り出してね。

 だからこそ、金剛石の角が丸みを帯びずに立っているなんて言う不思議な石が生まれたのよ。

 高順の手に持つそれは、後で城の人間に手配してもらって買い入れた物。

 冥琳には無駄遣いにしては高すぎると怒られたけど、天の御遣いの威光を見せるのに使えるかもしれないと言って納得させたんだけど、まさかこういう形で使う役に立つとは思わなかったわ。

 

「一刀が、もしも呂布を斬るつもりならば、いつでも斬っていたでしょうね。

 呂布が幾ら防ごうとしても無駄なのはそれを見てのとおりよ。

 一刀の剣は金剛石すらも切断する。呂布の振るう戟ごとね」

「っ!」

「もっとも、【もしも】の話だけどね。

 私ね。【もしも】って嫌いなの。だって、夢見てしまいそうじゃない。

 まぁ…それだけなら、まだいいんだけど。責任逃れの手段として、甘えたくなりそうだもの。

 だから、【もしも】は無しにしているの。貴方もそうでしょ?」

 

 本当は【もしも】は嫌いじゃないわ。 色々な事を夢見る事が出来るもの。

 もしもあの時こうしていればとか、もしもあの時こうだったならなと、今と違う理想の今が在ったのかもしれない。そう考えたなら、無理してでも夢を見たくなるもの。一刀の事だって……。

 でもそれでは何も救えないし掴まえれない。もしもそんな手段で夢を捕まえれたとしたなら、それは夢の偽物。

 そんな物に満足できるはずもないし、満足したとしたならば、それは満足した振りをしているだけに過ぎない。結局は自分を誤魔化しているだけだもの。

 そして高順が言いたい事も分かる。でも、私達のような人間は、【もしも】に夢見ていてはいけないの。起こった現実を受け入れた上で歩んでいかねばならないからよ。

 

「ふん」

 

 小さく鼻を鳴らしながら、私がしたように石の入った巾着を投げ返す高順は、私の言いたかった事が十分につたわったのか。自ら仲間達の背を押すように部屋を後にする。

 もう心配はいらない。実際そう言う訳にはいかないけど、おそらく見張りを付ける必要すらないと思う。

 以前に冥琳が言っていたように、彼女達は彼女達の誇りから、自らの境遇を受け入れたのだから。

 そんな誇り高い彼女達を見送ってから、蓮華は冥琳に話を振る。

 

「ところで呂布は、あいも変わらず一刀の屋敷の前で居座っているの?」

「ああ、そのようだ。今は彼女の好きにさせている。

 そうしなければ動けないと言う気持ちを理解できなくもないからな」

 

 自ら降伏をした呂布は、それ相応の待遇が約束はされたものの。敗軍である事には違いなく、高順達の処遇も当然と言えば当然の事。だけどそれもこれも呂布が、頑として此方の言い分を受け入れず。全ては一刀と話をしてからと譲らないため。

 高順達がもめたように、私達にとっても、あの戦で勝ったとは言い難いのが事実だもの。

 それが呂布の我儘とも言える行動に目を瞑らざる得ない理由であり、自ら降伏した呂布に対しての謝儀でもあるの。

 

「それにしても此れでもう五日。一刀はまだ目覚めないの? 華佗はなんて?」

「左腕の骨折に、左のあばら骨が四つ。浅い裂傷に擦り傷が多数と重症ではあるが、幸いな事に頭部への打撲も無い。

 眠り続けているのは精神的疲労が原因ではないか。だそうだ」

 

 私の質問に丁寧に答えてくれたものの、冥琳は溜息を吐きながら、その後に華佗に散々と嫌味を言われた事を愚痴る。

 華佗は以前から私達に一刀自ら戦わせるべきではないと警告していた。私達将と違い、普通の肉体しか保たない一刀が私達のような将と互角に戦うためには、最低でも異常とも言えるほどの集中力を費やしているはずだと。

 肉体を酷使するのではなく、心を酷使しているのだと。そして今回はその肉体も酷使しているらしい。

 その酷使した心と肉体を癒すために、一刀は眠り続けているのではないか華佗はそう診断している。

 確かに、華佗の言うとおり私達将でも、大怪我をしたりすれば一月や二月寝込む事は珍しくないわ。でもそれは長い睡眠と覚醒を繰り返しているだけ。一刀のように本当に眠りつづけることは稀だわ。

 

「あの藪医者、本当に大丈夫かしら」

「誰が藪だ」

「あら、居たの」

 

 思わずつぶやいた所に、とうの御本人がちょうど顔を出して話を聞かれてしまったため、さすがにバツが悪いと思いつつも惚けた振りをする。

 実際、華佗が藪医者だとは思わないわ。事実、華佗には助けられたし、私が此処まで回復したのも華佗のおかげだと言えるもの。

 もっとも、華佗の言うあの病人食を食べ続けていたら、今頃母様の所に行っていたに違いないと思えちゃうのも本音だと言うのは本人には言わないでおく。

 

「治療が思うようにゆかないから、苛立って口に出ただけよ」

「分かってはいるさ。こんな仕事をしているんだ。そんな事には慣れてはいる」

「そう。でも貴方に感謝しているのは本当よ」

「此方としては、もう少し医者の言う事を聞いてもらえる患者だと助かる」

「あら、藪蛇だったかしら」

 

 私の言葉に苦笑を浮かべながらも、今回は私の事では無く思春の事で城に来ていた事を話してくれる。

 高順との戦いで、やせ我慢をしてはいたけど、思春もそれ相応の怪我をしていた。

 骨の幾つかに罅と、身体の彼方此方に打撲。華佗に数日おきに治療を受けるように言われていたにも拘らず。いつもの事だと言って治療をさぼったため、華佗が態々足を運んで治療を終えたきた所らしい。

 華佗のその辺りの生真面目さに頭が下がる想いで、心の中でこっそりと感謝をしていると。

 

「ついでに報告をと思ってな。此処に来る前に北郷を診てきた。

 眠り続けているのは相変わらずだが、怪我による熱はひいて来ている。もう少し熱が引けば目覚める可能性が出てきた」

 

 華佗の言葉に、私も蓮華も、そして冥琳も小さく安堵の息を吐く。

 分かっている。あくまで目が覚める可能性が出てきただけと言う事は。

 それでも、一刀の身体は回復に向かっていると言う事実が嬉しかった。

 だって、それは確かに生きている証ですもの。

 一刀の身体が、生きようとしてもがいている証。

 なら、一刀は目覚めるわ。そう確信できる。

 ううん、私は確信していた。ただ不安に思っていただけ。

 だって、私のお腹の中に眠る一刀の”氣”が、そう言っていたもの。

 一刀が倒れた時から弱まっていた一刀の”氣”が、日に日にその強さを取り戻して行くのを。

 だから自信が持てる。毒矢で倒れた時から共にある一刀の”氣”と、大陸髄一の医者である華佗の診断。

 その二つが揃っていて自信が持てない筈が無いわ。

 ならば、私達は一刀が目覚める事を前提に話を進めてゆけばいいだけ。

 呂布がどの道を選ぶにしろ、おそらく結果は変わらない。

 一刀には私達が用意したもの力が必要になるわ。

 なにより、私の勘がそう言っているんですもの。

 一刀が、本当の意味で天の御遣いになる日は近いって。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく。

 


 
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