No.729756

紫閃の軌跡

kelvinさん

第10話 実力テスト

2014-10-13 11:36:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3972   閲覧ユーザー数:3557

自由行動日から三日後……予告されていた実力テストの時間で、一同はグラウンドに集合していた。端的に述べると“武術訓練”の定期考査みたいなものだ。単純な力押しではなく、いかにして周囲との呼吸を合わせられるか……要するに、ARCUSの戦術リンクがカギとなる。

 

「それじゃ、はじめるわよ。」

 

そう言ってサラが指を鳴らすと、現れたのは機械の人形。そのディテールは結社の人形兵器とは異なり、丸みを帯びた感じであった。それに色々な反応を示すリィン達……サラ曰く『押し付けられた代物』らしいが、その原因の一端に『結社』辺りが関わっているのは想像に難くない。サラが『結社』と繋がっているわけではないが、その押し付けた相手が関わっている程度のものだろう。

 

そういってテストが始まり、まずはリィンとエリオット、ガイウスの三人がその機械―――『戦術殻』と戦い、危なげなくクリアした。戦術リンクの方も上手く活用していたようで、これにはサラも上機嫌であった。

 

「見事な連携ね。戦術リンクもうまく使えてたみたいだし、どうやら先日の旧校舎の実戦がいい方向に働いたようね。」

「たまたまですよ。」

「むむっ……」

「そのようなことをしていたのか。」

 

その事は他のメンバーも気になるようであったが……次はラウラとエマ、ユーシス……アリサとフィー、マキアス……この二組も課題はクリアしたものの、一番初めにこなしたリィン達ほどの連携は取れず、時折苦戦が見られた。そして、

 

「ラストいきましょうか。アスベル、ルドガー、ステラ。ちなみに、レベルは2段階ほどあげてるからね。」

「あの、サラ教官?何でそんなことを?」

「理由はいろいろあるけれど……単純に言うと、貴方達3人の練度の問題よ。」

「(……どういうことだ?ステラって子、武術教練じゃへばってただろ?)」

「(何か知ってるってことか……)」

「どうかされましたか?」

「気にしないでくれ。大したことじゃないから……それじゃ、リンクをお願いできるかな?」

「は、はい!」

 

色々疑問は尽きないが、戦闘準備を整える。そして、サラの合図とともにアスベルとルドガーの二人が駆け出す。

 

「ステラ、ただ真っ直ぐ敵を狙え!銃弾はこっちで何とかする!!」

「解りました……撃ちます!!」

 

ステラの放たれる弾丸…二人はそれを掻い潜り…戦術殻はそれを躱し、接近してくるルドガーとアスベルの二人にレーザーブレードのようなものを展開し、薙ぎ払うが

 

「しっ!」

「ふっ!」

 

二人にしてみれば、単純な攻撃という他なく、それを躱し……ルドガーが先制となる攻撃―――斜め十字の斬撃を加える。あくまでも機械を壊さない程度のものだが、それでも頑丈に出来ている辺りは流石というべきだろう。それを見たルドガーはすぐに体勢を立て直し、戦術殻を蹴り飛ばす。その行く先は―――居合の構えを取るアスベルであった。

 

「四の型“空蝉”……地龍閃!!」

 

斬撃を地面に沈み込ませ、地面を隆起させることで相手の足場を崩し、時には空に打ち上げる技―――四の型の奧伝が一つ、『地龍閃』によって空高く舞い上がる戦術殻。大型の人形兵器ならいざ知らず、小型の機械には姿勢制御用のスラスターなどない……その相手に狙いをつけたのは、ステラの構えるライフル型の導力銃であった。

 

「狙い撃ちます……シュート!!」

 

誰が見ても正確無比と称賛するほどの腕前……そして、そこから落ちてきた戦術核に間髪入れず、アスベルとルドガーがすれ違いざまに斬撃を叩き込む………流石にかなりのダメージを受けたようで、戦術殻は沈黙した。

 

「そこまで!!……いや~、初めて組んだとは思えないほどいい動きしてたわよ。というか、貴方達に戦術リンクなんて必要ないんじゃないかしら?」

「何を言っているんですか。」

 

確かに、アスベルとルドガーに関してはお互いの転生前の癖が転生後も残っているからまだ連携が取りやすいが、ステラとは戦術リンクがなければ彼女の放つ弾丸の軌道をすべて読むと言った芸当は難しい。気配を察すればできなくはないが、それをこんなところで使っても真っ当な評価は貰えないという判断の上での戦術リンクであった。

 

「た、単純にはいかないものだな……」

「そ、そうみたいね。」

「やはり、戦術リンクを使いこなせるかがカギになっているようですね。」

「チッ、面倒なものを……」

 

一通りの戦闘の後、疲れた様子の四人―――マキアス、ユーシス、アリサ、エマがそれぞれ戦術リンクに対するコメントを述べていた。

 

「さて、『実力テスト』はここまでよ。これからⅦ組に関わる重要な連絡事項を話すわ。君たちに課せられた特別カリキュラム……その名もズバリ、『特別実習』よ!!」

「と、特別実習ですか?」

「何だか嫌な予感しかしないんだが……」

「……まんま?」

「だな。」

「まー、そういうベタな展開も王道ってことでしょ。」

「こらそこ、話の腰を折らないの。」

 

サラの言葉にエマ、マキアス、フィー、ルドガー、アスベルが反応し、サラがジト目でツッコミを入れつつも、説明を続ける。

 

「君たちにはA班、B班の2班に分かれてもらい、指定された実習先に行ってもらうわ。数日間、そこで用意された課題をやってもらうことになる。まさに、特別(スペシャル)な実習というわけ。」

「学院に入ったばかりなのに、いきなり他の場所に?」

「その口ぶりからすると、教官は同行されないのですね?」

「あたしが付いていったら実習にならないからね。獅子は我が子を千尋の谷に、ってね。」

 

生徒の自主性……それを尊重した上で、実習をこなしていく。そう考えると主体性があるのは理解できるが、いきなり放りこむというのは難易度高いのではないかと思う。そういった仕事をこなしてきたアスベルやルドガー、手伝い程度はこなしていたリィンを除く話であるが。

 

「はぁ……」

「ふむ。修行というのであれば望むところではあるが。」

「バレスタイン教官。結局、俺達はいつ、どこに行けというんだ?」

「オーケー。話をすすめましょう。それじゃ、一部ずつ受け取って頂戴。」

 

凄くもったいぶりな説明が続き、ユーシスからのツッコミ?でようやく本題となる実習先と班分けが発表された。

 

【4月特別実習】

 

A班:リィン、ステラ、ラウラ、アスベル、アリサ、エリオット

   (交易地ケルディック)

B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス、ルドガー

   (紡績都市パルム)

 

その感想はというと……まぁ、A班はある意味盤石だろう。その反面B班は……ルドガーが本気でキレないことを祈ろう。既にマキアスとユーシスが不満を漏らしている。そして、当のルドガーはというと、

 

「変わってくれ。」

「教官に言え。というか、進んで(無駄な)苦労はしたくない。」

「そう言うと思ったよ……」

「ま、無事に帰ってきたら茶菓子の一つでも作るよ。」

「どら焼き9個で良い。」

 

謙虚だなーあこがれちゃうなー………心の中で祈ることしかできないが、ルドガーに対してこれから来る苦労をアスベルはただ労わることしかできない。だが、気になる点が一つ。それを代弁するかのようにガイウスが言葉を発した。

 

「ケルディックとパルム……どちらも帝国の都市なのか?」

「ケルディックは東部の交易の街なんだけれど……サラ教官、これって間違いじゃないですよね?この街って確か……」

「そうよ。パルムは隣国―――リベール王国の街よ。」

「それだったら俺かラウラがそっちの班にいるべきか、あるいはA班が行くべきなんじゃ……」

「元帝国、現王国領……移り変わった場所を直に感じることも経験の一つということよ。そういった意味じゃ、アスベルやラウラを入れるとその見方が大きくなるからね。」

 

あえて王国の人間を入れないことで、偏った見方をせずに率直な印象を感じること……それも経験では必要な事なのだとサラは述べた。さて、ここで説明しておく。原作におけるサザーラント州とアルゼイド子爵領―――クロイツェン州南部はそれぞれアルトハイム自治州とレグラム自治州という形で暫くはリベールに編入され、一昨年の首脳会談を経て改めてリベール王国の領土であることを承認している。

 

帝国ではなく王国の領土も実習先に反映されているということは、常任理事と呼ばれる人の中にリベール出身者がいるということだ。その概要はアスベルとルドガーでも知らない……というか、お楽しみ的な意味で敢えて調べていない。

 

「ば、場所はともかくB班の顔ぶれは……!?」

「正直、ありえんな。」

 

その一方、マキアスとユーシスが揃って不満を漏らす。そういった所は似通っているので、ある意味同族嫌悪的ななにかも含んでいそうな対立関係だろう。これをきっかけに少しでも改善されていくことを狙ってのサラ教官の人選だろうが。

 

「日時は今週末……実習期間は二日間ぐらいになるわ。2班共に鉄道を使っての移動となるわね。各自、それまでに準備を整えて、英気を養っておきなさい。」

 


 
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