No.728140

『舞い踊る季節の中で』 第149話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 一刀と恋が火花散らませながら舞っている頃。新興国である蜀で、修行に明け暮れる日々の蒲公英。
 彼女は以前より一層必死になって己を磨き続ける。
 それは自分のためと言うより、皆を守りたいがために。

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2014-10-05 20:00:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3722   閲覧ユーザー数:2848

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百肆拾玖話 ~咲き誇りし乙女達の宴に、野に咲く花は何を思わん~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

【最近の悩み】(蜀編)

 

「と、言う訳でこの街の賑やかな所やお勧めの店を教えて欲しいなぁと思って」

「そ、その…なんで私の所に?」

「だって一番この街について知ってそうだと思ったから」

「……え~と、ごめんなさい。いつも上から眺めていてばかりだったから、その…流行のお店とか、そう言うのは全然」

「それは勿体無いな。 上から見てたら分からない色々な事があるのに。むろん面白い事とか楽しい事とかも沢山ね」

「えっ、でも天の御使い様で・」

「北郷でいいよ。 様付禁止の方向で」

「…えーと、その北郷さんは天の御遣いであられる以上、私などに聞かなくても全てを御存じなのでは?」

「あはははっ。まさかっ。

 そりゃあ確かに、この世界の人達の知らない事を幾らか知ってはいたりするけど、所詮はそれだけの事だよ。むしろ知らない事の方が多いし、この世界の一般常識すら知らないから、いつもみんなに迷惑かけてばかりだよ。

 だから色々と知りたいと思うんだ。この世界の事もだし。たくさんの人達の事をね。なにを思い、何を怒り、何に悲しんでいるのか。多くの人が当たり前と言える人生を生きていられれるようになるには、何が必要なんだろうってね。

 でもね。それは人に聞いたり本を読んだりしただけでは決して分からない事。 人と人との触れ合い、傷つきあい。時には涙を流したり、笑ったりして初めてわかる事だと俺は思う」

 

 その後、彼女の疑問に答えるかのように、なんやかんやと半刻ほど話し込んでしまったものの、収穫らしい収穫は無い事に落胆するも、その事彼女に付かれないように出来る限りの笑顔で、部屋をそっと後にする。

 はぁ……、元王様だから、街の事を詳しく知っているかと思ったけど当てが外れちゃったなぁ。まぁ色々あったせいか、暗かった彼女の顔色が少しだけ晴れたような気がするから、全くの時間の無駄じゃなかったのは幸いか。

 さてと、次は誰に聞こうかな。……流石に蜀の皆は、戦の後処理と建国のための仕事でこんな事で時間を取らせるのは悪い。

 とりあえずせっかくのデートだと言うのに、事前情報が全く無しと言うのは極力避けたい。

 そうなったら最後、迷子になった挙句に路地裏の猫に出会った瞬間から、御猫様ツアーになるのが目に見えている。 いや、明命がそれでいなら、俺としてはそれで十分なんだけど。 やはりせっかく異国情緒……があるかはともかく、知らない街にいるんだから、普段できない事をしたいと思うわけで……、

 今度は鍵のかかって無い部屋だといいけど。

 

 

 

 

 

 

次項より本編:

蒲公英(馬岱)視点:

 

 

 かんかんかんっ!

 ひゅっ!ぎがっ!

 しゅっ!

「…っ!」

 

 棍どうしが打ちあい、または扱きあう音が初夏の空高く響き渡る中。横払いから突きへと動きを変化をした愛紗の操る棍は、まるで棍そのものが生き物かのように此方の棍を滑るようにして迫り、……次の瞬間には蒲公英の喉元へ突き出される。

 槍とは違い、幾ら穂先のついていない棍と言っても、あと指二本分程も深く突きこまれていたならば、蒲公英の命を簡単に奪う事の出来るほどの一撃。

 例え鍛錬だとしても実践とさほど変わらない手合せは、愛紗の性格からして、もしも蒲公英が鍛錬だと甘えた判断をすれば、その指二本分を容赦なく打ち込んでくるに違いない。

 愛紗曰く…。

 

『今、お主が求める強さを得ようと言うならば、命を賭けて当然であろう』

 

 らしい。それほどまでに死に物狂いで学んで、強さを身に付けろって事なんだろうけど。何百回だろうと、こんなものに慣れるわけがない。文字通り毎回が命懸けの鍛錬。

 う、う…、身が細る思いって、こういうことを言うんだろうけど。どうせなら本当に細くなってくれればいいのに……。

 

「攻撃が捌き切れなくなって来た時、腰が浮き上がる癖が出ていたぞ」

「ぷはぁーーーーっ。む、無理だよ、あんな猛攻を受け続けたら、誰だって腰を浮き上げさせられちゃうよ」

 

 突きつけられた棍を引きながら放つ愛紗の言葉に、蒲公英は緊張を解き放つかのように息を一気に吐き出してから、愛紗の指摘に反論して見せるけど。

 

「耐えられなければ、今のように攻撃の変化について行けなくなるだけだ」

「うぅ……、で、でも」

「今の蒲公英に先程度の攻撃を捌けきれと言うのは無理だとは分かっている。

 お主は翠や焔耶ほど恵まれた身体では無いこともな。ならばお主なりに今の様な窮地を凌ぎきり、尚且つ攻撃に出る事の出来る方法を見つけるしかあるまい」

 

 そう言って、愛紗は再び数歩下がって棍を構えてみせる姿は、言葉通り実戦の中で見つけて見せよと言わんばかり。

 のんびり考えている時間は無い。もし此処でのろのろしていたら、愛紗は此方の準備が整っていようがいまいが関係なく棍を振るってくる。

 自分にも厳しい愛紗は、当然ながら他人にも厳しい。

 でも、決して冷たい訳ではない。

 何度も何度も同じ事であろうとも、こちらが納得いくまで付き合ってくれる。

 愛紗の出す課題や、蒲公英の悪い所が無くなるまで、何日でも根気よく付き合ってくれる。

 妥協も甘えも許さない厳しさ。だけどそれは愛紗の誠実さからくる厳しさであり。不器用だけど愛紗なりの優しさ。

 

ふぉんっ!

「ちょ、まってまって!」

 

 まだ、棍を構えきらないうちに振り下ろされる愛紗の棍に、蒲公英は慌てて棍を構え直す。

 うん、きっと蒲公英の表情から、心の中で考えてたことを見抜かれたんだと思う。

 これが照れ隠しでもあることは分かっている。分かってはいるんだけど、もう少し分かりやすい優しさがあっても良いと思うんだよね。こう蒲公英に優しい分かり易さが欲しいかなぁと。

 そこに……。

 

「よー、二人ともやってるな」

「あっ、お姉様。……と、みんな」

「なんなんだっ。そのおまけみたいな言い方はっ!」

「そんなの唯の邪推だよ。これだけの名前をいちいち言うなんて面倒じゃない」

 

 とりあえずなんか言ってくる焔耶は適当に流してやる。だって、せっかく一休みできる機会が向こうから来たんだもん。焔耶とくだらない言い争いでその機会を潰したくないもんね。

 星や鈴々辺りも一緒と言う所を見ると、街から帰って来た所なんだと思う。何より……。

 

「街で粽を貰ったのでな、皆でと思うてな」

「桃香様達は?」

「ふむ、手はともかく、場を離れるわけにはいかなさそうだったのでな。侍女に預けてきた」

「そうか。民の心尽くしを無碍にするのも申し訳ない。熱い内にいただくのが礼儀と言うもの。蒲公英、一休憩とするか」

「やった~♪」

 

 星の言葉に、仕方なしと溜息を吐きながらも、ほんの少しだけ嬉しそうに言う愛紗の言葉に、蒲公英は真っ直ぐとお姉様の下に駆け寄り、庭の隅にある東屋へと引っ張って行く。

 お仕事の他にも、西涼からついて来てくれた一族の事など、なにかと忙しいお姉様と久しぶりにゆっくり過ごす事の出来るんだもん。少しでも一緒に過ごしたいと思うじゃない。

 そんな蒲公英にお姉様は苦笑を浮かべながらも、お姉様は『そんなにあわてなくても粽は逃げたりしないってば』とか言って蒲公英に付き合ってくれる。

 もうお姉様ったら、なんでそんな頓珍漢な事を言うのかなぁと思いながらも、それもまたお姉様らしさなので、このさい問題なし。

 

「ひ~、ふ~、み~……、言っとくけど、一人二個だからね。

 早く食べ終わったからって、残りは皆が食べ終わるまでお預けだよ」

「ぬなっ、そうなのかっ!?」

 

 さっそく両手に一つずつ粽を手にした鈴々は、蒲公英の言葉に驚くなり愛紗を見て。愛紗が鈴々の意図に応えるかのように小さく頷くと。鈴々はその手の内の一つを愛紗にそっと渡す。

 鈴々の食いしん坊はどうしようもないとは思うけど。鈴々自体は決して悪い娘じゃない。

 こうやって人の話を聞く事が出来るし、愛紗に粽を取ってあげるだけの優しさを持っている。

 普段は鈴々の食いしん坊さや天真爛漫さが目立つけど、こうやって食いしん坊さんな所を抑えてやれば、鈴々の本来の良さが出てくる。

 子供を大人しくさせるのは、叱ったり、頭を押さえつけてやるんじゃなくて、そう仕向けてあげれば良いだけのこと。

 鈴々は自分の粽が確約され、尚且つ皆が自分の分を食べ終わるまで、おかわりは御預けと分かれば、早く食べ終えてもその分御預けの時間が増えるだけと理解して、皆が食べ終わるのに合わせるように、ゆっくりと粽を味わいはじめる。

 まぁ、お茶よりも先に粽を口にする辺りは仕方ないよね。

 って、姉様まで鈴々みたいに残念そうな顔をしないでよぉ。もう恥ずかしいなぁ。

 そう思いつつも、侍女さんが用意したお湯と茶器を受け取ってお茶を入れて行く。

 まずはお姉様の分をと言いたい所だけど。一応、今日の師役である愛紗に最初に出してから、お姉様に……、そして星や鈴々、一応おまけで焔耶の奴にも出しあげてから自分の分を淹れて、ゆっくりと椅子に腰かける。むろんお姉様の横にだよ。

 そうして一働きしてから、ゆっくりとお茶を一口飲んでさっきまでの鍛錬で渇いた喉を潤し。その心地良さが体にいきわたったのを見計らい、蒸された熊笹の皮を丁寧にむいてから一口。

 うん、蒸された餅米と具材とが程好く絡み合ってて美味しい♪

 えーと人参と筍に木の実に干し茸と川海老、……これは棗かな。うん、この組み合わせは蒲公英初めてかな。 今度、皆に作ってあげようっと。

 そんな様子を何処か嬉しそうに見ていた星に気が付き、何か用なのかと視線を向けると…。

 

「いやなに、蒲公英は良い母親になるだろうなと思ってな」

「えーーーっ!やめてよぉ。蒲公英、まだそんなに年取ってないもん。

 どうせなら、可愛くて素敵なお嫁さんになるとか言ってよっ」

「ぶはっ! げほげほっ!」

 

 星の言葉というより蒲公英の言葉に、いきなり茶を噴出して咽始める焔耶。

 うん、何を考えたかなんて考えなくても分かるけど、今回は相手なんてしてやんない。

 せいぜい粽でも喉に詰まらせて苦しめばいいんだ。

 とうの焔耶も蒲公英の冷たい視線に、さすがにバツが悪かったのか大人しく咽た呼吸を抑える事に意識を向ける。

 どうせ、今、蒲公英と言い合っても間違いなく焔耶に分が悪いもんね。なにせ咽て何も言えないだろうしね。にひひっ。

 

「ふむ、確かに失言だったな。悪気はない。許せ」

「別にいいけど。……でも母親になるよりも先に、まずは相手だよね。

 誰か良い人いないかなぁ。格好良いとか優しいとか言うのも大切だけど、肝心なのはお姉様を受け止めてくれるくらい包容力のある人って事で」

「はははっ、それではせっかくの理想の相手がいたとしても、翠に取られてしまうのではないのか?」

「蒲公英が気にいるような良い人がお姉様の相手になるなら、それはそれで本望だもん。

 それに、その時はその時で手が無いわけじゃないし。…ん~。例えば、お姉様と一緒にその人のお嫁さんになる。とか?」

「ぶぅぅーーーっ! げほっ!けほっ!」

 

 蒲公英の言葉に、今度はお姉様が盛大に茶を噴き出し咽始める。 もうお姉様ったら世話が掛かるんだからぁ。

 予想してはいたけどお姉様の大げさな反応に、今度は蒲公英が苦笑を浮かべながらお姉様の吹き出したお茶を手拭いで拭いて行く。

 ちなみに他の皆は、しっかりと自分の粽を持ってお姉様の吹き出した茶の飛沫から避難させていた。むろんまだ手を付けていない粽も、鈴々がしっかりと乗っかっているお盆ごと避難させている。

 うん、今の鈴々の動きは本気で凄かった。早いとか素早いとか言う以前に、気が付いたら御盆を鈴々が持っていたんだもん。

 

「なななななななっ、ななななっ!! おおおおおお、おまおまおま、お前はいきなり何を馬鹿な事を言い出すんだぁぁーーーーっ!」

 

 うん、此れも予想どうり。お姉様ったら、もう、可愛いいぐらい顔を真っ赤にして狼狽えながら怒り出す。

 えへへへっ、お姉様ってば其処まで狼狽しちゃっていいのかなぁ? だって。

 

「はははは、破廉恥だ。不謹慎だ。

 だいたいおかしいだろっ! い、一緒にだなんて!

 そ、そんなのエロエロすぎた。おおおお、お前は一体何を考えているんだっ!」

 

 そんな事、口走っちゃうん事になるんだよ。

 

「うふふふっ♪ お姉様ったら、いったい何を考えたのかなぁ~?

 もしかしてエッチな事まで考えちゃったとかぁ~?

 例えば初夜とか? それとも、もっとその先とか?」

「んなっ! いや、だって一緒に嫁になるって事は・」

「蒲公英は其処まで考えてないよ。

 ただ、そう言うのもアリかもって言ってみただけ。

 お姉様ったら、其処まで考えちゃったんだぁ。さすがはお姉様♪」

「ぬぁぁぁっ! ちがうっ! 違うぞ、そんなことなんて考えていない!

 絶対に考えてなんていないんだからなっ!」

「え~~~~~、本当かなぁ~?」

「だぁーーーーーっ!やめっ!やめっ!

 こんな意味の無い話なんてやめっ!」

 

 顔どころか、耳や首まで恥ずかしさで真っ赤にして必死に否定するお姉様の姿は、もうぎゅう~と抱きしめたくなるくらい可愛いんだよねぇ。こういう姿をもっと見せてくれれば、お姉様を誤解している人なんていなくなると思うんだけどなぁ。

 でもこれ以上からかうと、さすがに可哀相だし、頃合いかな。

 星はともかく、鈴々はこういう事に興味が無いお子様だし。

 焔耶も胸と体は大きくても、こう言う事に関しては鈴々と負けないくらいお子様。

 愛紗もお姉様並みに初心な上に、こういう会話が苦手だもんね。

 蒲公英の攻撃の手の緩めたのを幸いに、お姉様は無理矢理変えれた事に安堵の息を吐くんだけど、愛紗もお姉様同様勿体無いよね。せっかく可愛いくて綺麗なのに、それを活かそうとしないんだもん。

 でもお姉様にしろ愛紗にしろ、もし好きな人が出来たら、きっと顔を真っ赤にしながらも可愛くなろうと必死になるんだろうなぁ。うん、そういった行動やいじらしさが、ものすごく可愛いく見える事に気がつかずにね。

 

「で愛紗、どうなんだ? 蒲公英の方は」

「ふむ、幾ら鍛錬したところで、いきなり強くなれるものでは無い。蒲公英の此れからの地道な鍛錬次第って所だ」

「へぇ~、愛紗がそう言うなら、強くなる見込みは十分あるって事だな。安心した」

「ぶぅ、お姉様ったら蒲公英を信用してなかったの?」

「そう言う訳じゃないって。ただ、蒲公英にしては無理しているように見えたから、どうなのかなって心配しただけさ。昔はよく隙を見て逃げ出してたじゃないか」

「いったい幾つの頃の話をしてるのよ。蒲公英、此処数年はそんな事した覚えはないもん。

 どうせ逃げたって、後でもっと酷い扱きうけるだけって学習したし、どちらかと言うとお姉様をからかって時間を潰した方が有効だって覚えたんだもん」

「はぁ~……」

 

 蒲公英の冗談交じりの言葉に、お姉様は呆れたような諦めたような深い溜息を吐きながらも、軽く蒲公英の頭をこついてくる。程々にしてくれよと言わんばかりの、親愛なる拳骨を。

 そんな蒲公英とお姉様の様子を優しげに見守っていた星と愛紗が、珍しく蒲公英を援護…と言うより、心配してくれているお姉様を安心させるためなんだろうなぁ。

 

「技にしろ、力にしろ、確かに愛紗の言うとおりまだまだだが、短期間の割りに戦い方や技の組み立てに幅がで出てきている。まぁ、それでも我等に通用するものではないが、良い傾向と私は見ている」

「確かにな。蒲公英にはああいう戦い方が合うのだろう。

 そもそも一般兵達やそこらの将程度の腕ならともかく、蒲公英くらいの強さとなれば、あとは自分で見つけて行くしかあるまい。

 だがその戦い方にしろ、普段の積み重ねがあってこそ始めて活きるというもの。我等が鍛えてやれるのはそれくらいだ」

 

 う~、一応は蒲公英を褒めてくれてはいるんだけど。その褒め方が微妙と言うか、背中がこそばゆいと言うか。とにかく自分でもまだまだこれからの鍛錬次第だって分かっているだけに、今の段階でこう言う会話は、蒲公英のいない所ならともかく目の前でされるのは勘弁してもらいたい。

 とにかくせっかくお姉様が必死になって会話を変えたけど、此方の会話も蒲公英としては嬉しくない。だいたいこのままでは、せっかくの休憩時間もあっという間に終わってしまう。

 

「あ~~っ、もうっ。今は蒲公英の事はいいよ。

 それよりも愛紗って、桃香様と出会う前は鈴々と大陸中を廻ってたんでしょ?

 だったら、色々な人達とも戦ったと思うんだけど。愛紗にとって一番強かったのって誰かな? どんな感じに強かったの?」

 

 蒲公英の強引な話の切換え方と言うより、いろいろな人達と戦ったと言う所に苦笑を浮かべた辺りは、愛紗にとってあまり面白い話では無いみたい。 それでも愛紗は蒲公英の愛紗が強いと言う人が、どんな戦い方をするんだろうと言う軽い気持ちの質問に答えてくれる。

 

「ふむ、やはり呂布だろうな。

 あの時は顔を合わせる事は無かったが、蒲公英とてあの場にいたのであろう?

 ならば例え遠目であったとしても、その強さを肌で感じることができたであろう」

「えっ? うん、まぁ、そうなんだけど。ちょっと意外な答えだったから。

 てっきりこの間ボロ負けしたと言う・」

「言い難い事をはっきりと言ってくれる」

「あっ、ごめんなさい」

 

 蒲公英の無神経な言葉に、愛紗はさっきとは別の意味で苦笑を浮かべたけど、それは蒲公英に対してと言うより、自分自身に対してなんだと思う。

 生真面目な愛紗の事だから、自分の力が足りなかった日の事を考えない日が無いわけ無いもの。

 悔やみ、自責の念に捉われ、在りし日の想いを二度と味わない為に……、誰かに自分と同じ想いを味あわせたくないと思っているからこそ、愛紗はあれだけ自分に厳しくできるんだと思う。

 

「言いたい事は分かるが、北郷殿の強さは蒲公英の言う強さとは違うものだ。

 蒲公英の言う武の才と言う名の強さと言う基準ならば、呂布が最強だろうと言う意味だ。

 そもそも北郷殿は、そう言う意味での強さで言うならば、おそらく白蓮殿はおろか一般兵並と言えよう」

「え? でもでも、その……、手も足も……出なかったん……だよね?」

 

 愛紗の言葉に、今度は蒲公英が驚かされる。

 だって、強さで言うならば化け物と言える愛紗が完敗したと言う相手なんだよ。

 もし戦場で敵として出会ったなら『げっ、関羽』と思わず口走り、己が不運を天に呪いたくなるほどの相手を、完封無きまでに負かしちゃうほどの相手なんだよ。そんな事を言われても信じられないよ。

 蒲公英は愛紗を傷つけると判ってはいても、愛紗に申し訳ないと思いつつも、そう思う理由をおずおずと尋ねる。

 そんな蒲公英に愛紗は、苦笑を浮かべる事も、その時の事を思い出し悔やむ表情を見せる事も無く、むしろ誇りをその表情に浮かべながら。

 

「言葉にするには難しいが敢えて言うならば、あれは良くできた罠に巧く導かれた上で、更に自ら次なる罠に突っ込みに行ったようなものだ。むろん、実際はそんな簡単なものではないが、敢えて理由を付けるとしたらそう言ったもの。

 今は我等の言う強さと、北郷殿の強さを同列視するのは危険だと言う事を理解してくれればいい」

「えー、そんなのじゃ分かんないよぉ」

 

 嘘。本当はなんとなく愛紗の言っている事が理解できる。

 あの鉄扇を突きつけられた瞬間の事は、今でも鮮明に思い出せる。

 あの理解できない異様で異常な怖さを……。

 お姉様とも叔母様とも全然違う強さを……。

 でも、それにはまだ名前が付いていない。

 如何すれば、あんな戦い方ができるのか理解できない。

 狂気としか言えない戦い方なんて理由で誤魔化してちゃ駄目だもの。

 だから蒲公英は、愛紗達を傷つけると判ってはいても、名前が付いていないそれを知るため更に踏み込む。

 

「愛紗よ。この際、分かりやすいところから一刀殿の強さを明かして見せるのも良い機会ではないか?

 我ら三人、一刀殿と実際に刃を交えたが、感じた事を検討してみる価値は十二分にあると思うが」

「ふむ…、確かに星の言う通りだな。

 鈴々、お前は、北郷殿の強さをどう感じた?」

「うにゃ? あのお兄ちゃんの事か?」

 

 どうやら鈴々は、蒲公英とお姉様とのじゃれ合いの段階で此方の会話に興味を無くしたらしく、粽をじっくりと味わう事に夢中になって話を聞いていなかったらしい。

 そんな鈴々に、愛紗は義姉らしく辛抱強く会話の流れを説明すると。

 

「あのお兄ちゃんは変なのだ。いきなり動きが変わるのだ。

 前の時こう来たから、次はこう動くと思ったら、全然違う動きをするのだ」

 

 鈴々の相も変わらず理解しにくい言葉に、蒲公英は苦笑を浮かべながら、鈴々にもう少しわかりやすい説明をお願いすると。

 

「星と戦っていたと思ったら、次の瞬間には愛紗になっていたり、翠になっていたりするのだ。

 最初から全員と戦っているならともかく、一人で全員なんて変過ぎるのだ」

 

 あ~、つまり呼吸や間合いや動きの癖が、鈴々が仕掛けようとしたり受けようとする度に、全くの別人のように変わるためやりにくいと言う事らしい。

 

「鈴々は目が良いからな。一度見た相手の攻撃や動きは覚え、二度目にはそれなりに対処出来るようになるのだが……、それ故に余計に一刀殿のような相手はやりにくいのであろう」

 

 愛紗が鈴々の説明を更に判りやすく補足してくれる。

 うーん、確かにそれはやりにくいかも。最初から複数相手と言うなら、それなりに対処を考えれるけど、目の前の相手が突然別人のようになるんじゃ、やりにくい以前にどう対処すればいいか分からない。

 ならば、待つのではなく自分から仕掛けて行くしかなくなるんだけど。

 そんな蒲公英の考えに答えるかのように……。

 

「目が良いと言うと、別の意味でも一刀殿は戦いにくい。

 一刀殿の動きは虚実が分かりにくい上に、視線ですら平気で目を外したりするため、目から次の動きを読む事も出来ん。一瞬一瞬が命の取りあいになる中で、例え一瞬であろうとも相手から視線を完全に外すなど信じられん事をする御仁だ」

 

 更に星が言うには重心の掛け方から、踏み込む足音まで全て虚が入っており。判りやすく言うなら、右足を軸にしているかと思えば実際は左足を軸にしていたり、敢えて足音を出したり消したりすることで間合いや踏込を錯覚させたりしているらしい。しかも、それら全てをもの凄い高度な技術を連結しあって……。

 あの人は蒲公英達のような分かりやすい生まれ持った武才を磨き上げて行く強さでは無く、後天的に身に付けた技術のみでもって愛紗達を負かしたのだと。

 そして、それだけの技術を身に付けるまでの過程にこそ、武人として敬意を払える相手なのだと。

 

「確かにそれは分かりやすい部分だよな。そんな事よりあたしとしては気になったのが…、

 あっ、愛紗悪い。別に鉾を交えたって訳じゃないけど、話の流れから無理を言って一振りだけアイツに見せてもらったんだ」

「その無理が気になる処だが、それは後で聞くとして、翠は北郷殿が態々見せてくれたその一振りでもって北郷殿の恐さを知る事が出来た。そうなのだな?」

 

 お姉様は言わなくていい事を馬鹿正直に謝ってから、愛紗の言葉に小さく頷く。

 そう言えばあの時、お姉様にあれが分からないから半人前なんだって怒られたけど、もしかしてそれの事かなぁ?

 

「ああ、分からなかった」

 

 だけどお姉様の口から放たれたのは、期待していた内容とは真逆の言葉。

 愛紗の言う【恐さ】を否定する言葉。

 ……でも、それは蒲公英の大きな勘違いに過ぎなかった。

 だって、愛紗と星はお姉様の言葉を誤解する事無く受け止め大きく息を吐き出す。

 まるで、どうすればその頂に辿り着く事が出来るのかを渇望するかのように……。

 でも、分かるのはそれだけ。蒲公英も、そして焔耶もお姉様達の言葉の真意を理解できない。

 お姉様達が理解できるものが、蒲公英達では理解できない。

 力が足りないから……。これっぽっちも足りないから……。

 それほどまでに蒲公英達が立つ場所は、お姉様達が立つ場所には遥か届かない場所。

 其処までの道筋も……。どう進めば良いのかすら……。それ所か立っている場所すら見失うほどに……。

 だから蒲公英達は今お姉様達と似た眼差しをしているのかもしれない。

 重さも意味も違うと判ってはいても、きっとその根底にあるものは同じものだと信じたいから。

 

「まったく、世話のかかる……。

 なぁ蒲公英。よくあの時の事を思い出して見ろ。

 アイツが周泰の剣を借りて振るった時の事を」

「……うん、確か最初はたいした事ない一振りだと思ったけど、お姉様にやってみろと言われて気が付いたやつだよね。あれが叔母様の言っていた柔剣ってやつだって」

「違う。そこじゃない。あたしが言っているのは、あいつが【何時】剣を振るったのかと言う事だ」

「え? だって、こう普通に…」

 

 お姉様に其処まで導かれて初めて気が付く。

 そんな馬鹿なと否定しながら、それを証明しようと頭の中であの時の事を必死に細かく思い出してみる。

 でも、蒲公英にとってあの人の恐さは、鉄扇を突きつけられた時で、その時ほど印象が強くないため思い出すにも限界があった。

 焔耶との時も、どちらかと言うと焔耶の方に気がとられていて、あの人が攻撃しようとする瞬間の事は気が付かなかった。

 それでは気が付いた事を否定する材料を見つけられないどころか、むしろ見つかるのは、おぼろげだけどそれを肯定する材料ばかり。

 今、思い出しても何気ない一振り。まるで吸い込まれそうに綺麗な一振りではあったけど、ただそれだけの事に見えた。

 これといった力みも気迫も無く。それ所か何かを成そうとする気概さえも見られない。

 ただ剣と言う名の棒を、まるで草を払う様に振るって見せた一振りは、咲き乱れる花壇の花の中からたった一輪だけ斬り落とすと言う信じられない一振り。

 でも違った。そんな事は多分叔母様でも出来る事で、お姉様があの時に蒲公英を怒って見せたのは全く別の事。

 

「……う……そ、そんな…何時、攻撃が来るか………分からな……い?」

 

 漠然とする答え。でもそのあまりにも驚愕すべき内容に、自然と言葉が毀れ出てしまう。

 誰かに否定してほしい。だってそんなことあり得る訳ないもの。

 馬鹿、そんな訳ないだろっ、そうお姉様に怒鳴って欲しい。

 そう思うのに、お姉様達は黙って蒲公英の言葉に頷いて見せる。

 そんな蒲公英の想いに、愛紗は止めを刺してくる。

 自分にも厳しい愛紗は、当然ながら相手にも厳しい。

 短い間だけのだとしても、師弟の間柄である以上は、その愛紗が蒲公英のこの甘えを許す訳がない。

 

「そう、北郷殿を武人として見た場合。最も恐ろしいのが攻撃しようとする気配どころか【意】そのものが読めない事。

 故に相手の動きに注意を向けるしかないのだが、先ほども星が言ったように、北郷殿の魅せる動きから攻撃を見極めるのは難しい。むしろ注意すればするほど、北郷殿の動きに惑わされる事になる。

 かと言って視線や瞳の濃淡などから攻撃を察するのも危険だ。私の時は此方の動きを読まれ、逆に誘導されているような錯覚を覚えたからな」

 

 愛紗は蒲公英の驚愕などお構いなしに言葉を続ける。

 あの人は身体能力も、放っている"氣"配も普通の人とさほど変わらない。

 だから、まずは其れに油断してしまう。気を抜いてしまう。それが第一の罠。

 第二の罠として、いくら身体能力が一般兵並みに低いからと言っても、攻撃をしてくる瞬間が察知しにくいため、どうしても後手に回ってしまう。かと言って相手の動きに気を付ければそれ自体が罠となり、それを起点に更なる罠に引き込まれて行く。

 ならば自分から攻めて行くしかなくなる。でも、愛紗も鈴々も星もその身でもって体験した。そんな相手に自分から一方的に攻撃をすると言うのは、おのずと自分の型にはまり込んでしまう。つまり自然と鍛錬で繰り返した動きやすい攻撃となり、次の攻撃を読みやすくしてしまう。

 あの人はそれを誘い此方の隙に自然と入ってくる。時には相手の動きをほんの少しだけ加速させ自滅に追いやる。それが第三の罠。

 

「……だが、それらは北郷殿を武人として見た場合だ。

 そして、そう見る事自体が第四の罠なのだろう。

 これは詠が見抜いた事なのだが、そもそも北郷殿のは【武】では無く【舞】。

 同じように考える事自体が間違いなの・」

「馬鹿なっ。そんなのは無理だっ」

 

 愛紗の言葉を遮ったのは、あの人の戦う姿を見た事の無い焔耶。

 この会話で語るべき言葉を持たない故に、黙って聞いていただけなんだろうけど。

 

「そう言えばアンタ、ガサツな性格に似合わずに舞いなんて嗜んでたわよね。

 どうせ舞いの動きが武術に使えるわけないって言いたいんだろうけど。実際に使って見せた人がいるんだから使えないわけじゃないでしょ」

「誰がガサツだっ!

 まあいい、ワタシが言いたいのはそんな事じゃない。

 確かに蒲公英の言うとおり、舞いの動きを武術に応用できない事は無い。でも、それは舞いの動きを武術で使っているだけで舞いとはまったくの別物だ。話を聞いている限りとてもそんな程度のものじゃないだろ」

「はぁ? いったい何が言いたいのよ」

 

 焔耶自身も考えが纏まっていないのだろう。ちぐはぐの説明をしている事の指摘に焔耶は大きく溜息を吐くように呼吸をし、結局どう説明したらいいか分からなかったらしく思案顔で顔を傾けた先に在ったのは。鈴々が愛紗から貰った三つ目の粽の丈の皮をむいている姿。その様子に何かを思いついたのか。

 

「例えばだよ。刃物を使うからって料理人が武人になれるかって話だ。確かに腕っ節の強い料理人はいるが、料理と武術は別物だろ。たんに血の気の多い奴が刃物の取り扱いに慣れているってだけだ。

 逆に聞くが蒲公英、お前は左手で料理をしながら右手で戦えるか? しかも愛紗達相手に」

「そんなの出来るわけないじゃない。アンタは出来るって言うの?」

 

 焔耶の言葉に即断してやる。

 そんなもの考えるまでも無い。例え愛紗達相手でなくても、そんなのは自殺行為でしかない。

 

「だ・か・ら、例え話だって言ってるんだっ。いちいち噛みつくなっ」

 

 そんなの分かってる。でも実際にあの人はその無理をして見せているんだよ。まったく方法が無いわけじゃないはず。……でも、それは途方もない方法。焔耶の例えで言うならば、包丁で持って戦うのではなく、相手をまな板の上にあげて、料理人として相手を料理すると言う事。

 言葉にしたら簡単な事。でも、それを実際にしようとしたならば、どうしていいかすら分からない。だって相手だって生きているんだもん。その料理人を倒そうと向かってくるんだもん。自分が死にたくないから死に物狂いで向かってくる相手を、まな板の上に上げる。それだけでも途方もない事。

 だから焔耶は否定したんだ。あの人と同じ舞いを嗜んでいるからこそ、あの人のは武では無く、舞でもって愛紗達を敗北させたと言う事を。

 それは全く新しい戦い方を作り上げる事と同じ。しかもあくまで舞いであることを前提にするなど戯言以外の何ものでもないよ。 例えるなら、北方の敵に備えるための言って長城を築き上げ完成させる様なもの。

 そんな途方もない試みは、結局のところ中途半端な防壁じみた物や、みすぼらしい丘じみた物を作り出すだけ。

 

 …………ぁっ。

 

 だから気が付く。 ううん、あの人の言葉によって気が付かされたんだと思う。

 あの人は言っていた。

 

『天の知識と言うか、俺の知っている知識そのものと言うのは、実はそんな凄い物じゃないだ。

 凄いのは其処までに至った先人達。今よりもみんなの生活を良くしよう。困った現状を打開したい。

 そんなごくごく当たり前の事の積み重ねてきた普通の人達。

 失敗も、悲しみも、捨てる事無く抱きかかえて歩み続けた人達

 何十年、何百年、何千年。そんな気の遠くなる長い間。そんな人達が必死になって生きてきた証の一つ。

 だから尊敬し、敬意を払うべきなのはその人達なんだ。そうしてくれると俺としても嬉しいかな』

 

 多くの天の知識をこの地に置いて行くと共に、置いて行ったその言葉。

 最初は謙虚とか言うより、なんてこの人は欲の無い事を言うんだろ。勿体無いのにって感じた。

 だって凄いのはその人達だとしても、こうして知識をこの地にもたらしたんだから、もっと自慢気に誇っても良いと思う。

 でも違った。その言葉そのものこそが、あの人が本当の意味で伝えたかった【天の知識】。

 

「……そっか。あれもまた天の知識なんだ。

 ……何代も、……何十代も、……連綿と受け継ぎ、……磨き続けてきた知識と技術の一つ」

 

 どうして舞なのか?

 なんで舞であり続ける必要があるのか?

 正直そんな思いはするけど、そんな事はどうでもいい事。

 だって人は一人は一人違うもん。

 蒲公英とお姉様が考え方が違うように……。

 氏部族が違えば、仕来りや風習が違う様に……。

 部族が違えば、暮らし方所か言葉が違う様に……。

 民族が違うどころか世界が違えば、その程度の事など違って当然なのかもしれない。

 大切なのは、其処にある想い。………そして先人達への敬い。

 

「実を言うと、北郷殿自身を倒すこと自体は、そう難しい事では無い」

「え?」

 

 あの人がなんで【天の御遣い】と呼ばれているのかを理解し、その本当の意味を嚥下した時、愛紗が驚くべき言葉を発する。

 完封なく叩き伏せられてなおも、武人として手合せできた事を誇りにさえ思っている節のある愛紗が、先程までとは全く真逆の事を……。

 

「……確かに一刀殿の武を超えるのではなく、一刀殿を倒すと言う事であるならば幾つか手はあるであろう。

 武人としては些かどうかとは思うがな」

「言うな星。私とて武人としての誇りが許される場であるならば、そのような手など使う訳がなかろう。

 だが、もしこの先、北郷殿と戦う事があるとすれば、その時はそれ相応の想いを持ってでの事になる。

 私が望むは武神ではなく軍神。民のために持てる智勇の全てを賭けてこそ私の存在意義。

 それこそ北郷殿が私に残してくれたものであり。北郷殿の誠意に応えることになる。例え敵味方と分かれる事になろうともな」

 

 そう、望む望まないに関係なく、

 例え残酷だとしても、その運命を目の前に差し出された時の覚悟を、愛紗は口にする。

 それは愛紗自身が自分に言い聞かしているだけでは無いって分かる。

 愛紗は教えてくれているんだ。最悪だと思える事をたえず想像し覚悟しておくべきだと。

 そう言った事態になった時に、少しでも動けるように…。

 今を……、そして未来を、少しでも掴めるように…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 


 
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