No.721106

『舞い踊る季節の中で』 第145話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 一刀は悩む。
 だけど放ってはおけない。
 一刀は呂布の中に譲れない何かを見つけたのだから。

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2014-09-23 20:00:02 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4029   閲覧ユーザー数:3089

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百肆拾伍話 ~ 泥沼に蠢く舞いに、刀は自ら錆びる ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

【最近の悩み】(蜀編)

 

 ……えーと、なんでこんな事に?

 いや、原因は俺にあるのだと思う。

 明命に誤解されてしまい。つい騒いでしまったのが、どう考えても原因だろうというところまでは、俺も素直に認めれる。だから、その事で驚かせてしまった彼女達に責められるのならば仕方ないと思える。

 何が在ったかと言うと、つい数分ほど前の事。

 

「明命、落ち着こう。なっ」

「もちろん私は落ち着いてますよ。ええ、もうこれ程は無いと言うくらい落ち着いています」

「そう言う事を言う人間は、大抵落ち着いていないって相場が決まってるって知ってる?」

「なら、その相場が間違っているんですね。価格の変動です」

「それは相場違いだーーっ」

「ん? どうしたんです・あわわっ」

 

 騒いでる俺達に気が付いたのか。雛里が屋根の上からこちら振り向いた時に足を滑らかせたのか体勢を崩す。

 

「雛里殿っ」

 

 そんな雛里をとっさの判断で、馬謖が手を伸ばして雛里の手を掴んだまでは良かったのだけど、既に大きく体勢を崩していた雛里を支えるには、小柄な雛里より更に小柄な馬謖では荷が重かったのか。逆にひっぱっられる形になった馬謖の重みと勢いで、二人は空を舞う。

 

「あわわーーーっ!」

「うひゃーーーっ!」

「明命っ!」

「はいっ!」

 

 ほぼ同時に声をあげる明命と共に地を蹴る。

 身が軽く、俺なんかと比べ物にならないほど早く動ける明命は既に大きく跳び上がり、建物の壁を蹴る事で更に勢いと方向の修正を掛け、頭から落ちている馬謖を空中で受け止めてみせる。

 流石は明命。俺の事を考えて俺の動きの邪魔にならないように場所を開けてくれた。俺が間に合うと信じて。そして俺が明命なら何とかしてくれると信じている事を信じて。

 といっても俺は明命達のように、人間の頭の遥か上の高さまで平気で跳ぶような芸当は出来ない。そんな普通の肉体しか持たない俺に出来る事は、刹那でも早く身体を滑り込ませる事だけ。

 

ぽすんっ。

 

 思った以上に軽い衝撃が、両手と肩を中心に身体中を襲う。

 それでも柔らかくて温かな感触と両腕に掛かる確かな重みが、俺に間に合ったのだと教えてくれる。

 ……命を救えたのだと教えてくれる。

 

「ぁ…ぁ…ぁ…」

 

 腕の中を見下ろせば、まだ状況がつかめていないのか、それとも放心しているのか、御姫様抱っこ状態の雛里は呆然としたまま。 いつもは帽子のつば深くに隠している可愛い顔も、今は陽の光に当たってよく見る事が出来る。

 

 ふわっ。

 

 そんな俺達に、遅れて落ちてきた雛里の帽子が、まるで主を求めるかのように此方に落ちてきたので、俺は塞がっている両腕の代わりに軽く頭を振って頭でそれをキャッチ。うわぁ、思っていたよりつばが大きく感じるな。

 そのまま、俺は少しだけ落ち着く事が出来ただろう雛里に顔を向ける。

 俺のせいで恐い目に遭わせてしまった。

 ただでさえ恐がりなこの娘を、戦みたいに覚悟していた訳でもなく、俺の不注意でいきなりな目に遭わせてしまった。

 正直に申し訳ないと思う。

 でも助けれて良かったと不謹慎ながらも嬉しく感じてしまう。

 だから、せめて少しでもこの娘が安心できるように。

 恐さが少しでも和らぐように、俺は笑ってみせる。

 もう大丈夫だと。安心しても良いのだと。

 落下の恐怖を思い出して緊張してしまわないように、軽口を交えて…。

 

「あんまり軽いから、天女が降りてきたかと思ったよ」

 

 今できる最高の笑顔でもって。

 

「あわわ~…わわ…………、きゅぅ~…」

 

 あれ?………どうやらあまり効果が無かったみたいだ。

 次の謝罪の言葉を言う前に、雛里は何故か顔を真っ赤にさせて俺の顔を呆然と見つめたと思ったら、いきなり気絶してしまった。

 やっぱり屋根から落ちたのが、よっぽど怖かったのだろうな。

 可哀相に興奮のためか、鼻から血が静かに垂れてきている。

 女の娘のそんな顔をあまり見るのも失礼だし可愛そうなので、何とか雛里の体勢を崩さないようにして片手でポケットからハンカチを取り出して彼女の鼻元を拭いてあげてから、頭を振って彼女の帽子をそっと彼女の顔に掛けてあげたところで、俺は周りの冷たい視線に気が付く。

 

「えーと…愛紗さん、それに詠もいったいなんで此処に?」

「詠と警備の計画を立てる為に街を視察に来ていたら、遠目に雛里と智羽が屋根から落ちるのを見かけたのでな。慌てて駆けてきた所だ」

「で、来てみたら、ちょうどアンタがニヤケタ顔で臭い台詞をほざいていたってわけ」

「……えーとこれは、その」

「北郷殿。雛里を助けてくれた事には深く感謝いたします。

 ですが、早く雛里を降ろしていただけないでしょうか。そ、その雛里の腰巻が捲れて、その…」

 

 愛紗の言葉に、俺はあらためて腕の中の雛里を見てしまい。愛紗の言っている意味に気が付く。

 スカートが捲れあがり、眩しいほど白い太腿が露わになっているだけでは無く。危うい三角の布どころかお臍近くまで見えてしまっている事に。

 ……うわぁ、さっきは遠目で分からなかったけど、黒のレースだったとは意外過ぎる……。あっピンクの刺繍が施してある辺りは女の子らしいと言えばらしいよな。おかげで変な淫靡さは無く可愛らしい印象が。って、違う違うっ! 俺は目にしてしまった光景と、頭の中の考えを振り払うように頭を思いっきり横に何度も振ってから、慌てて雛里を塀にもたれ掛けさせるようにして地面に腰掛けさせる。

 むろんなるべく捲れてしまっている部分を見ないようにしてだ。これ以上要らない誤解を招く訳にはいかないからな。一応その過程で、捲れていた部分は元に戻ったのか、その事を横目で確認すると俺は大きく息を吸い込んで深呼吸をする。

 ええ、分かってます。例え不可抗力で、驚いて固まっていただけとはいえ、気絶している女の娘の下着を見てしまった事には違いない訳で。 それは雛里を助けた事とそれは別問題だと言う事は。

 ええ、分かってますとも。こういう時、男に人権が無い事は、悪友(オー)を見てたからよく理解はしているつもりだ。

 それでも、声をあげて言いたい。

 例え、それが無駄な努力でしかないと判ってはいても。

 

「誤解だぁーーーーっ!」

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

 遠目に見えるのは街を囲むように築かれた城壁。

 そしてその城壁の上に高らかに掲げられているのは、まるで血の色を表すような色で染め上げられた布に、まるで闇夜を照らす炎のように刺繍を施された【呂】の一文字。虎牢関で見た物とまったく同じもの。

 深紅の呂旗。飛将軍、呂奉先を表すそれは、この大陸で知らないものは無いと言う程までに名を轟かしている。天下無双の最強の武人として…。

 

 陽に焼けた肌に、焔の様な赤髪のあの娘。

 俺の世界に伝わる呂布のイメージとはかけ離れた小柄な姿は、この世界に慣れてきたとはいえ驚嘆する。

 あの関羽と張飛に加え、更に趙雲と言う伝説の武人を同時に(・・・)三人を相手にして悠然と佇んだと言う強さは、俺からしたらある意味当たり前の強さだと納得できる。

 

『・・・・・・何のつもり?』

『・・・・・・わかった。 通らせてもらう』

『・・・・・・名前』

『・・・・・・覚えとく、・・・・・・・・・・それと、・・・・・・ありがとう』

 

 脳裏に駆け巡るのは虎牢関の時に交わした僅かな会話と時間。

 そして呑み込まれるような錯覚に捉われる瞳。

 物心つく前から知っている瞳。俺を可愛がり、そして厳しく育ててくれたんだ。忘れる訳が無い。

 共に育ってきたからこそ、知っている瞳。共に野原を駆け巡ったり、舞いを磨いたんだ。忘れられる訳がない。

 例え、似て非なる物だと分かっていたとしてもだ。

 

「最低だな。俺は」

 

 (いくさ)を起こそうとする人間は【極悪人】。

 ああ、分かっている。俺が雪蓮に言わせたんだ。そんな事は誰より自覚している。

 それでも戦わなければいけない時がある。護りたいモノを守るたに、力と言う名の暴力を相手に叩きつけなければならない時がある。

 ……だが、自分の我儘のための戦いを起こす極悪人以下の者をなんて呼ぶのか俺は知らない。

 ……それでも知っている言葉に当て嵌めて言うのならば、おそらくこう言うんだろうな、【下衆】と。

 ああ、確かに俺に相応しい言葉だ。

 

 

 

【数日前】

 

 

「反乱分子の中に呂布が?」

「ああ、そうだ。以前に北郷に話したのとは別に、北郷達が蜀に行っている間に蜂起した奴等でな。

 幸いな事に、準備が整う前に周りを包囲する事が出来た」

 

 王の部屋である蓮華の執務室の中で、冥琳がまるで教室で生徒に問題を出す教師みたいな口調で告げてきた言葉に、思わず下を俯き思考を巡らす。ほんの僅かな情報で、何処までたどり着くかを楽しんでいるのだろうが、本当の所は、俺の精神状態の確認といった所だろうな。

 まだ女の助けが必要か? とね。もっとも直接そう尋ねられてきたとしても、俺の答えは決まっている。

 必要だ。助けとかそう言うのは関係ない。俺にとって明命も翡翠は大切な家族。必要か必要ないかの問題じゃない。

 

「穏も亞莎も俺が帰って来てから一度も見ていない所を観ると、その任に二人は就いているんだろ?

 経験を積ますためにね」

「経験か。確かにあの二人には足りなかったものと言えよう。だが籠城する相手に積むだけの経験を得れるとは思えぬが」

「確かに籠城するだけの相手ならね。でも呂布が相手なら話は別のだ。打って出る事も、包囲を突き破る事も出来るだろうし、籠城戦にしたって一筋縄ではいかない相手。違う?」

「そうだとしたら、大陸最強の二つ名があるとはいえ、所詮は一介の武人にすぎない相手に、随分と高い評価になるな」

「言葉遊びはいいかげんやめろ。あんたが本当にそう思ってたら、俺なんかに話を振らずに、とっくに相手を潰しているはずだ。相手は【最強の武人】では無く【飛将軍、呂奉先】だからこそ二人を就かせたんだろうし、僅かとはいえ接触した事のある俺の話を聞きたかったんだろ」

 

 まったく冥琳の悪い癖だ。これがただの政治の話ならまだ付き合えるけど。胸糞悪い戦の話にまでそんな物に付き合っていられない。もっとも冥琳達にとっては、逆に戦だからこそ状況と先を読んで動ける状態にあるかを確認する必要があるんだろうな。

 そうだとは理解はしているからこそ、俺なりの現況の解釈を短い言葉で突きつけてやる。

 【将】と言うのは軍を率いる者を示し、大抵の場合は血統か武勇知略に秀でた者が選ばれる。そして【飛将軍】とは、本来はその中でも特に行動力が優れ武勇にも秀でた者を差すが、【飛将軍、呂奉先】だけは違う。大陸の歴史の中で【帝】自らがそう名乗るよう許した唯一人の相手。言わば歴代の【飛将軍】と呼ばれる中でも特別な存在。

 そしてそんな特別な存在に、幾ら大陸最強の武を持とうとも成れる事は無い。其処まで押し上げる存在があって初めて成り得るんだ。 そう、軍師と武威五将と呼ばれる呂布を支える将兵達の存在が在ってこそ成り立つ。 軍でありながら一つの群を成し、群を成しながら軍とし将兵は一つへと成る。其処までに至っている相手だからこそ、冥琳は利用したいのだろうし。利用価値がまだあるのかの判断材料が一つでも欲したんだ。

 ……つまりそれは…。

 

「お前に覚悟があるのは分かった。

 ならば単刀直入に聞こう。北郷は呂布をどう見た?」

「一言二言しか話した事が無い相手を、討つべきか生かすべきかを判断しろと?」

「ふん、天の国では知らんが、この世界ではそんな事は珍しくない」

「天の世界と言うより俺の周りではだろうな。 ちなみに蓮華はどう見たんだ?」

 

 我ながら狡いと思う。

 自分の答えを保留して、先に他人の答えを聞くなんて褒められた事では無い。

 だけど答えがすでに胸の中にあるならば、その限りではないし。蓮華の答えが分かっているからこそ、その答えの中に含まれた意図を察して動きたいんだ。

 

「私の考えは討つべきだと感じている」

「何故?」

「反乱とは裏切りだ。ましてや交易拠点の一つを巻き込んでとなれば、裏切りを赦す訳にはいかない」

「それは街を任された領主の話だろ。呂布はそれに当てはまらない。力を貸したのか、騙されたのか、それとも逆に利用しているのかは知らないけどね」

「同じ事だ」

「違うよ。蓮華のその考えで行くなら、街に住む人間や強力させられた周りの村の人間も、皆殺しの対象になってしまう」

「なっ!」

 

 俺の言葉に、蓮華は殺意の籠った目で俺を睨みつけてくる。

 重心を僅かに落とすと共に爪先へと移し、左手は腰から下がる物へと自然に掛かる。

 当たり前だ。俺は今蓮華に喧嘩を売ったんだ。 そんな王など俺は認めないとね。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 深い息と共に怒りを吐き出すかのように、蓮華は目を瞑り心を鎮める努力をする。

 会ったばかりの蓮華なら腰に在る剣。南海覇王を既に抜いていただろうな。けど抜かずに今一度、怒りを鎮めた。いや止めたのだろう。 俺の言葉の意図を理解するまでの僅かな間。

 そして、理解してなおも俺の方に非があるならば、その留めた怒りを、留めた勢いのまま放つだけの事。

 蓮華は短い間に、王として大きく成長した。もともと激情家ではあったけど、その激情を利用する事を覚えてきている。王としての自覚が、蓮華の王としての資質を目覚めさせようとしている。

 だから再び瞼を開けた蓮華の瞳には、怒りでは無く強い意志が籠っていた。怒りを王としての意志へと昇華させて。

 違いは明らか。

 チリチリとしていた部屋の空気は、まるで数倍の重力を得たかのように重くなり。

 部屋にある全てへと、その重みはミシミシと音が聞こえてきそうなほど圧し掛かる。

 

「一刀の言いたい事は分かったわ。

 確かに私の言葉が足らなかった事は認めよう。

 だからと言って、私が…いいえ、孫呉の王がそのような下衆と同列扱いするのは言い過ぎだ。

 次は幾ら【天の御遣い】である一刀でも許す訳にはいかない。覚えておくがよい」

「ああ、俺が悪かった」

 

 蓮華の言葉に俺は両手をあげて降参を示してやると、蓮華は"氣"を静める共に部屋を包んでいた重い空気は四散してゆく。

 

「まったく、一刀も冥琳の事を言えないわ」

「冥琳ほど、趣味に走ってはいないつもりだよ」

「やられる方からしたら、どっちもどっちよ」

「ごもっとも」

 

 放った言葉は本気。

 それでも次の瞬間に笑みを浮べあう事が出来るのは、信頼の証と言えばいいのだろうか分からないけど。少なくても蓮華なら、きっとそう言ってくれると信じていた。

 蓮華ならそれが出来る王だと。

 

「確かに一刀の言うとおり、裏切り者の領主とは別に考えるべきかもしれないわ。

 ………でも、それでも私の意見は変わらないわ。 呂布は討つべき相手よ」

「何故?」

 

 あらたまって交わされる言葉に、俺が返したのは先程とまったく同じ言葉。

 でも其処に含まれた意味はまるで違う。それはまた言葉を受け取る側も同じ事。

 

「アレは他人に従う人間じゃないわ。たとえ従ったとしても、それは仮初の物にすぎない。

 むろん此方が信じて見せて、初めて相手の信頼を得られる事が出来ると言う事は忘れてはいないわ。

 でも、全ての人間に対してそれをして見せる必要はないし。少なくても私には彼女にはそれを必要とは感じなかったもの」

 

 なるほど、蓮華はそう受け取ったか。

 ある意味、蓮華は呂布の強さに捉われずに【飛将軍、呂奉先】と言うものを正しく捉えたと言える。

 蓮華の捉え方で見るならば、蓮華の意見にも納得できるし、王としての判断も間違いでは無い。

 

「そうだね。軍と言う意味では蓮華の意見は正しい」

「どう言う事かしら?」

「半分はと言う事だよ。【飛将軍、呂奉先】は軍と群の二つの性質を持っている」

 

 だから俺は虎牢関の時に感じた事の一つを蓮華に説明する。

 群を纏め、群を守り、群を率いるのが呂布。

 軍を率い、軍を操り、軍を導いているのが陳宮。

 呂奉先と言うのは、二人が揃って始めて【飛将軍、呂奉先】に成り得るのだと。

 蓮華が感じたのは軍の方、つまり陳宮の方なんだと。

 

「つまり一刀は、陳宮はともかく呂布は引き入れれると思っているの?」

 

 でも呂布は違う。あの娘はそんな事は出来やしない。

 そんな余分なものは、残されていないはず。

 

「陳宮と呂布は別に考えちゃ駄目だ。

 二人は別の存在でありながら、一つとして考えるんだ」

「ただの将と軍師の関係と見ては見誤ると言うことね。

 ……だとしても、やっぱり討つしかないと言う事になるわ。

 一刀、もう少しわかりやすく説明してちょうだい」

「そうだね。でも答えはもう場に出てるんだ。そしてその答えのうち半分は蓮華が自ら導き出したものだよ」

「……もしかして、……そう、そう言う事」

「そうだ。 蓮華もあの時感じたはずだよ。二人の関係をね」

「陳宮は呂布を生涯の主としているが、呂布はそうではない。一刀はそう言いたいのね」

 

 自ら導き出した蓮華の答えに俺は小さく頷いて見せる。

 限りなく正解に近い答え。テストで言えば九十九点をあげれる答え。……でもたった一点だけど、九十九点と百点は大きく違う。似て非なる物だ。それでも蓮華が出す事の出来る答えとしては…、いいや、蓮華達が出す事の出来る答えとしては限りなく百点だろう。

 蓮華や冥琳達では絶対に得られない情報。それが俺を悩ませている原因でもあるんだけどね。

 ……さてと、此処までは冥琳の狙い通りと言った所だろうな。それは冥琳が一度も口を挟んでこなかった事もあるが、壁に凭れ掛かりながら腕を組んで、面白げに笑みを浮かべせて見せているのが何よりの証拠だ。自分達とは違う価値観や思考を、俺を通して蓮華に触れさせるためにね。

 冥琳の事だ。甘い俺の事だから、呂布達を反乱を起こした領主共々、問答無用に切り捨てるはずが無いと見抜いている筈。そして俺が逆の選択をしたならば、俺がそう選択せざる得ない相手なのだと納得して見せただけ。

 どちらもある意味、俺を信じて見守ってくれた結果だと思えば嬉しくはあるけど。冥琳の場合、それだけの筈が無いと分かるから油断ならないんだよな。

 つまり、俺がどう動いて見せるかを待っているんだ。

 今回の反乱、領主とその一族に関しては、もう蓮華も冥琳も答えが出ているのだろう。少なくても俺が何を言っても変える気などない答えがね。そうでなければ、いきなり領主の話をすっ飛ばして呂布の話を振る訳がない。 気の毒だけど、結束力を重んずる孫呉に対して反乱を企てた時点で、幾ら交渉の手札を持っていようとも、意味が無い事だと気が付かなければならなかったんだ。結束力を重んずると言うことは、それだけ裏切りを赦さないと言う事だと言うことをね。

 

「で、冥琳はどう考えてるんだ?」

「ふん、お前が考えた通りだよ。今後の事を考えたならば、呂布を上手く取り込めるに越した事はない。

 だが、すでにそれなりに兵達に被害が出ている以上、更に多大な犠牲を出して呂布を取り込む事に不満を持つ者も増えよう。 正直、此処で大量の兵を失うぐらいならば、私としては呂布を得る事に無理をすべきではないと考えている」

 

 やっぱりね。

 俺に何とかする策を出せ。と言っているわけじゃない。

 呂布と陳宮だけを捕らえるだけなら、冥琳なら幾らでも手段を思いつくはずだ。

 だから冥琳が聞いて来ているのは、それなりの被害で抑えれる策と、不満を持つ人達(・・・・・・・)を納得させる材料付きで出せと言ってきているんだ。

 兵達の犠牲を気にしても、何の縁も無い呂布達を領主共々討つ事に、冥琳が躊躇う事は無い。

 そして、その兵達の犠牲も犠牲を出すだけの価値があるのだと判断したのならば、蓮華や冥琳はそれを選ぶだろう。 ただ凡百の王達と違うのは、その価値が民を守る事に必要か否かだと言う事。私欲では無く公益のためだと言う事。

 どちらにしろ偽善だ。小悪党だと言っても良い。だが、王と言うのはそれで良いんだと思う。必要なのはその偽善を成す事の出来る力と、偽善を偽善で終わらせない魂の持ち主だと言う事なんだ。

 

「つまり冥琳は俺の応え次第で、どちらにも動くと言う事だな」

「その価値があるならばな。

 言っとくが私は雪蓮ほど甘くは無いぞ。連合軍の時の様な独断を許す気はない」

「分かってるよ」

 

 あまり俺を自由勝手にさせると、冥琳達が困る事になると言う事はね。そしてその時は不満を持つ人達から、俺にでは無く俺以外の人間に忠告が行くと言う事も。……事故にしろ盗賊や野党にしろ、科学の未発達なこの世界ならば幾らでも誤魔化しようがある。

 だから目を瞑り考えを落ち着ける。

 冥琳の言う不満を持つ者達の事など、もう俺の頭の中には無い。

 迷い、決意をする度に、すぐさま揺れてしまう。

 何度も何度も……、決意しても不安や良識が俺の考えを否定する。

 

「なら、俺の答えなんて最初から決まっている」

「だろうな」

 

 問題なのはその手段だ。

 手段を選ばなければ、捕らえるだけなら幾つでも策はある。

 捕らえれたならば説得は(・・・)多分できる。

 でも違うんだ。俺は出来る事ならば呂布達を助けたいと思っているが、その意味は冥琳達が思っている物とはまったくの別物なんだ。

 冥琳達の言う他人に対して甘い考えじゃないんだ。これは俺自身への甘さ。

 それが俺の考えを責め苛んでいるんだ。

 ああ、分かっている。幾ら迷ったって、責め苛んでいたってそれ以外の答えなんて選択できない事は…。

 もうとっくに決断している。どんなにみっともなくたって、這いずってだって前に進んでやるって…。

 それでも怖い。多くの涙のために罪を背負うのではなく、俺の我儘のためだけに多くの人間を危険に晒し、死に追いやってしまうのが…。

 ああ……なんて欺瞞だ。答えなんて決まっているくせにこうして悩んで、自分を誤魔化して。

 だから受け入れろ北郷一刀。俺がどうしようもないガキで極悪人以下の下衆だと言う事を。

 

「風上に進む事が出来る帆船の知識」

「風上って、そんな馬鹿なことが出来るわけ……」

「……ふむっ、本当にそんな物があるのならば、たとえ万の兵を失う事になろうとも不満を漏らす者は少ないでしょうな」

 

 提示すべき知識の概要に蓮華が目を見開き、思わず声を出して否定してしまうが、冥琳はと言うと流石に冷静に答えを返してくれる。……もっとも、驚いてはいるだろうね。蓮華とは違った意味でね。

 払った対価の大きさは、それ相応の見返りを要求すると言う事。そして縦帆を用いた帆船技術が無いこの世界において、風上に向かって進む事の出来る舟と言うものは、とても意味が大きい。移動手段や物流手段としての意味が大きく変わる程にね。ましてや、それが多くの川と外海に接している孫呉ならば尚更の事。

 冥琳が言って見せたように、万の兵士達の命を犠牲にしてでも得る価値がある技術なのだろう。その事によって得れる多くの物が、この国に住む民をより良い物へとしてくれるのだと判断して。

 

「……何を企んでいる?」

 

 だが、冥琳達からしたら俺が提示した対価は、あまりにも高すぎる対価。

 それに対して孫呉が支払うのは、もともとどちらでも構わないと思っていた呂布達の命と、その為の自軍への犠牲だ。しかもどちらにしろ避けられない犠牲でしかないもの。

 冥琳からしたら、煩方を黙らせる口実を欲した程度の事なんだ。それを理解していて尚、俺は自ら高すぎる対価を提示したんだ。

 理由は簡単。後付けの理由など幾らでもつけれるが、そんな誤魔化しを受け入れるわけにはいかない。

 何故なら、これは俺が自ら背負う罪だからだ。

 其処には誰かを納得させる大義などなく。

 当然ながら自らを守る自分勝手な正義も無い。

 

「この戦。いいや、呂布達に対しては俺に指揮させてほしい」

 

 ただ、俺個人の我儘のために軍を動かす。

 そんな最低で、……他人からしたら、どうしようも無い程にくだらない理由だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 


 
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