No.714275

ALO~妖精郷の黄昏~ 第38話 帰還と報告書

本郷 刃さん

第38話です。
ついに現実世界に帰還する和人、しかしそこは騒動の中央となる・・・UW編終了です。

どうぞ・・・。

2014-09-07 12:27:08 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:12499   閲覧ユーザー数:11528

第38話 帰還と報告書

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

俺の《二刀流》における最強の三十二連撃技である《スーパー・ノヴァ》によって、アドミニストレータは倒れ伏した。

左腕と右脚を斬り落とし、胸元と腹部には大きな裂傷、体中には大小様々な切り傷があり、出血は凄まじいものだ。

 

「かはっ、ごふっ…」

 

アドミニストレータは吐血しながらも残った右腕と左脚を動かし、体勢を仰向けに変えた。

 

「無茶苦茶、ね……この空間のリソースでも、再生ができないなんて…。まぁ、神聖力そのものが、枯渇寸前のよう、だけれど…」

「その様で、随分としぶといな…」

「ふふ……お前のせいで、色々と滅茶苦茶になったわ…。

 予定より……随分早いけれど、一足先に…行かせて、もらうことに……するわ…」

「なに…?」

 

最早移動も儘ならないはずのアドミニストレータの位置はこの『神界の間』の北側であり、昇降盤以外は何処に逃げるも不可能なはずだ。

負け惜しみかと思ったが奴の言動と態度に引っ掛かりを覚え、何を思ったのか奴は残っている左脚で床を踏んだ。

神聖術などにより焼かれた絨毯からは円形の模様があり、どうやらそれを狙って踏んだらしい。

すると模様が紫色に、見慣れたシステム・カラーに発光した。

輝くサークルの中から白い大理石がせり上がり、その上には1台のノート型コンピュータが載っている。

かつてアインクラッドの第1層における地下迷宮にあったシステム・コンソールに似ている。

ならあれが、『外部世界との連絡装置』ということか。奴はそのコンソールに手を伸ばしていく……が…、

 

「えっ……あ、あぁぁぁぁっ!?」

 

俺はそれをさせるよりも早く、腰元に据えていた『黒剣』で『心意(インカーネイト)システム』を使用し、

心意の刃を作り出して斬撃を飛ばすことで残っていた右腕も斬り飛ばした。

痛みか、それともキーボードを叩けなくなったことへのショックか、はたまた逃げ遂せることが出来なくなったことへの絶望か。

なんにせよ、これ以上は本当に何も出来なくしてやった。

警戒心を解かずに近づき、カーディナルも傍に歩み寄ってきた。

 

「ほんにわしの出番はなかったの……こやつを相手によくもまぁ圧倒してみせおったな」

「慢心油断が満載、且つ強敵との戦闘経験が少なくて助かったよ。あとは現実世界(向こう)やこっちで手助けしてくれた人達のお陰だな」

 

こちらの世界に来るにあたって俺のSAO、ALO、GGOのデータをプログラミングしてくれた凜子さんやタケル、ラースのスタッフたち。

俺に任せて環境を整えてくれた菊岡と防衛省の人員たち、元老長を相手取ってくれた整合騎士たちにアリスとユージオ。

俺が奴と相手取る間に『ソード・ゴーレム』を抑えていてくれたカーディナル。

そしてなにより、俺の帰りを信じて待ってくれている明日奈への想い……みんなへの思いが俺を勝利へと突き動かした。

 

カーディナルはアドミニストレータの目前に立ち、口を開いた。

 

「さて、アドミニストレータよ……最後になにか言い残すことはあるか?」

「ぐぅっ……ふ、ふふ…。そうね、あるとしたら……あの時、おチビさんを始末できなかったことが、いまの敗因でしょう、ね…」

「そうじゃな。あの時、わしがお主を殺そうと反旗を翻した時、

 わしが逃げのびていなければ、お主はもっと的確な方法でキリトを始末できたじゃろう。

 言い残したことはそれだけか?」

「それなら、もう1つ…」

 

今度こそ負け惜しみなのはその諦めの様子から理解できたが、またも何かが引っ掛かる。

先程の次とはいえ、こうも諦めが良すぎるというのは…。

 

「折角だから………道連れにしてあげる!」

「「なっ!?」」

 

その瞬間、奴の心臓があると思われる部分が光を放ち出し、すぐさまその発光が大きくなる、自爆する気か!

最後まで俺たちの思い通りになる気はないということか…! これは、こうするしかないよな…!

 

「(ドスッ!)……えっ……ごはっ!?」

「ここまでだ……カーディナル! 管理者権限を奪え!」

「わ、わかった!」

 

俺は黒剣でアドミニストレータの心臓部を突き刺し、それによって奴は多量の血を吐いた。

それによって光は終息していき、カーディナルに指示を出し、彼女は奴の頭を掌で掴んだ。

するとシステム・ウインドウが出現し、様々なデータが流れていく。

 

「あ…ぁ、あぁ……わたし、の……わたしの、ちから、が…」

「お主の力ではない、最初から人が持つには大きすぎた力なのだ…。さらばじゃ、クィネラよ」

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

アドミニストレータ側にあったデータが空になり、全てのデータがカーディナル側のウインドウに納まった。

彼女が告げた別れの言葉と同時に俺は黒剣で斬り裂くように抜き、

カーディナルが強くアドミニストレータの、クィネラの顔を掴んだ。

奴は断末魔の絶叫を上げたのち、その姿は光となって消え去り、ライオスたちと同様にライトキューブだけが残った。

そのライトキューブも僅かの間だけ輝くと、初期化されたのか消滅していった…。

 

「すまぬ。結局、止めの大半はお主に刺させてしまったな」

「構わない。大元を辿れば、この世界が生まれるようにした俺にも責任の一端はある。

 それにアンタだけに背負わせるのも癪だったしな」

「よく言う……じゃが、礼を言わねばな」

「礼を言うのは全部が終わってからだ。まだ全部片付いていないだろう?」

「そうじゃったな。ゴーレムにされた者たち、それに『記憶の欠片』を抜かれた者たちも元に戻してやらねばならない。

 公理教会の在り方も変え、民たちを導く手助けをするのがわしの役目じゃからな…。

 本来ならばリセットするつもりじゃったが、お主と居たからか、その考えも必要無いと思わされたわ…」

 

そう、彼女は最悪でもこの世界をリセットすることを考えていたが、どうやらその考えは撤回してくれたようだ。

そもそも、俺たちは精々見るだけであり、この世界の成り行き自体は元々傍観するつもりだ。

ただ、今回はイレギュラーが起きてこの世界の在り方に異常を察知したからこそ、介入したに過ぎない。

 

「キリトは元の世界に帰るのじゃろう? なるべく早く会うことが出来ればよいが…」

「フラクトライト加速倍率は1.0倍にさせておくから、早くに再会できると思うぞ」

「そうか……では、あちらと連絡をつけるとしよう」

「頼む」

 

カーディナルがキーボードを素早く叩いていき、『外部監視者呼出(エクスターナル・オブザーバー・コール)』と書かれているタブが現れ、それをタッチした。

すると警告音と共に日本語のダイアログが表示された。

 

【この操作を実行するとフラクトライト加速倍率が1.0倍に固定されます。よろしいですかか?】

 

彼女がこちらに訊ねるような視線を向けたので頷いて応える。

カーディナルがOKボタンを押すと、あらゆる感覚が引き伸ばされるのを感じたがそれもすぐに収まった。

さらに1つの黒いウインドウが開き、音声レベルメーターと『SOUND ONLY』の文字が点滅しだした。

 

「こちらキリト。菊岡、聞こえるか?」

『(ざっ)………え? ひ、比嘉主任! アンダー・ワールドより呼出! き、桐ヶ谷君です!』

『うえっ!? マジッスか!? キリト君、聞こえるッスか!?』

「タケルか、聞こえてるぞ。菊岡と明日奈、凜子さんは居るか?」

『キリト君! 良かった、大事ないかい?』

 

ウインドウに向けて呼びかけてみると僅かなノイズと間のあとに顔見知りにオペレーターの声が聞こえ、

その報告に慌てたようにタケルが応答したことでなんだかホッとした俺は苦笑しながら訊ね、菊岡が応じてきた。

 

「色々とあったが五体満足だ」

『そうかい、本当に良かった…。キミがそちらにダイブしてから、こちら側からの操作を受け付けなくなってね。

 ダイブカットどころか連絡も取れなくて、申し訳ない…。あ、比嘉君。アスナ君と神代博士に連絡を…』

『了解ッス!』

「発生していた問題を解決したから連絡が取れた。報告は戻ってから行うから、準備が整い次第そっちに戻る」

『分かった、アスナ君たちにもそう伝えておくよ』

 

そこで一度連絡を終了し、俺は改めてカーディナルに向き直った。なにやら話したそうな雰囲気だからな。

 

「キリト……ユージオ達が階下まで来ておる、挨拶くらいしておけ」

 

彼女は作り出した『光素』を南側の昇降盤に当て、昇降盤は降りて行った。

少しすると昇降盤が戻り、ユージオとアリス、ベルクーリとファナティオが乗ってきた。

広間の様子を見て驚いた表情を浮かべていたが、俺たちに気付くと駆け寄ってきた。

 

「キリト! カーディナルさん!」

「2人とも、無事のようで何よりです」

「こりゃたまげたな……あの最高司祭殿を2人だけで仕留めるたぁ…」

「ええ、本当に驚きました…」

 

ユージオは俺の傍に来たのでハイタッチを交わし、アリスは安心したようにしており、ベルクーリとファナティオは驚きの表情になっている。

 

「色々と説明するべきなんだろうけど、そこはカーディナルに任せる。俺はまず元の世界に帰らなくちゃいけないからな」

「「「っ!?」」」

 

俺の言葉に整合騎士の3人は驚愕の表情を、ユージオは納得の表情を浮かべている。

だが少なくとも、騎士の3人も別れの時ということは察したみたいだ。

 

「そっか……アドミニストレータを倒したから、キリトの役目は終わったんだよな…。あのさ、また会えるよな?」

「当たり前だ。まぁ頻繁にというわけにはいかなくなるが、会える時には会いにくる。

 勿論、今度は明日奈も連れてくるし、俺の力も見合ったモノでな」

「ああ、楽しみにしてるよ。キリト……キミのお陰で僕はアリスと再会できて、一緒に居られるようになった。本当にありがとう」

「友達だからな。俺こそ、色々と世話になった。ありがとう、ユージオ」

 

ユージオと言葉と握手を交わし、再会を約束する。次に彼の隣に居たアリスが前に出た。

 

「私としては長い時間を貴方と過ごしたわけではないので多くは語れませんが、

 ユージオと一緒に私を助けてくれて、ありがとう……キリト」

「どういたしまして、でも俺はユージオの手伝いをしただけさ。

 明日奈を連れてきたら必ず紹介する、2人なら絶対に良い友達になれると思うから」

 

アリスとも言葉を交わす。アリスは明日奈と似通うところがあるから、2人を合わせることが楽しみに思う。

今度はファナティオが歩み出てきた。

 

「私も多く話せることはないが、戦った時の答えを出そうと思っている。

 貴殿に言われた言葉を思い返してみて……少し、少しずつだけど、素直になってみるわ…。ありがとう」

「あんた、そっちの方が女性らしくてずっと良いって…。頑張れよ、応援している」

 

ファナティオはベルクーリへの想いを出し、女性としてもきちんと歩んでいくことを決めたらしい。

そんな彼女を見てみたいとも思うが、そこはアリスたちに任せるか。そして最後にベルクーリが歩み出てきた。

 

「俺や騎士を助けてもらったり、最高司祭殿を倒してくれたりと、お前さんには世話になりっぱなしだな。

 なんかあったら遠慮なく言ってくれ、その時には全力で手を貸すぜ」

「ああ。勿論、そっちで大変なことがあっても俺も手を貸すからな」

 

彼ともがっちり握手を交わす。また一段落したらこっちでもゆっくりしてみたいからな。

 

全員との挨拶を済ませ、カーディナルに目配せする。

彼女がキーボードを叩いて現実世界(むこう)に帰還する合図のメッセージを送り、ログアウトボタンを押した。

 

【未登録ユニット『キリト』をアンダー・ワールドよりダイブアウトさせますか?】

 

表示されたダイアログを確認し、俺は感慨深く思いながらOKボタンにタッチした。

俺は体が光に包まれるのと同時に自身の意識が薄れていくのを感じた、ALOでログアウトする時と似た感覚だ。

消えていくのを自覚しながらも見送ってくれた5人の顔はしっかりと確認できた。

 

カーディナルは涙を流しながらも笑顔であり、ユージオも寂しげな表情を浮かべているものの笑みは絶やさない。

アリスは消えていく様を見ているからか心配そうであるが気丈に笑顔を浮かべようとしていて、

ベルクーリとファナティオも心配げではあるが笑みを浮かべている。

なら俺はみんなを安心させるのが一番かもな。

 

「それじゃあまたな、みんな!」

 

その言葉を残し、俺の意識は途絶えた。

 

キリトSide Out

 

 

 

 

和人Side

 

――……と…ん!…ずと……!か……くん!

 

声が聞こえる……懐かしく、嬉しく、なにより愛おしいと思う声が聞こえる…。

 

――かず……ん!……とくん!か…とく…!

 

声に応えたいと思い、ゆっくりと瞼を開けていくとそこは薄暗く、下腹部辺りから光が入り込んできている。

あぁそうだ、俺は『ソウル・トランスレーター(STL)』でUWに行っていたんだったな…。

肉体的には1日と半日ほどだろうが、精神的には2年以上もあちらに居たから可笑しな感覚だ。

今度はベッドがゆっくりと動きだし、少しずつ光が大きくなっていき、STLの部屋に出てきた。

 

「和人くん!」

「明日、奈…?」

「うん、わたしだよ。良かった、無事みたいで…」

 

目に映ったのは会いたくて会いたくて仕方の無かった、愛する大好きな明日奈。

 

「明日奈……明日奈、明日奈…明日奈」

「和人くん……大丈夫、わたしはここに居るよ」

 

会えたことが嬉しくて、自然と彼女の名前を何度も呼んで、俺は涙を流した。

いつでも傍に居てくれた彼女が目の前に居て、俺を抱き締めてくれることが、当たり前になっていたことがこんなにも嬉しい。

 

「2年、だ……キミと2年も離れることは覚悟していたのに、辛かったんだ…。

 助けてくれる人達も居たけど、やっぱり明日奈に代えられない…」

「うん、菊岡さん達から話しは聴いてる。

 わたしやみんなはたった1日なのに、和人くんは2年間も向こうで頑張って、こうして戻ってきてくれた。

 本当にお疲れ様……それに、おかえりなさい、和人くん」

「っ……ただいま、明日奈…!」

 

“おかえり”と“ただいま”、この挨拶を交わしただけでまた涙が溢れ、

明日奈に強く抱き締められながら、彼女の温もりを感じながらしばしの時を過ごした。

 

 

 

どれだけそうしていたのか、おそらくは2~3分程度だと思う。

俺は自分が落ち着いたので明日奈にみんなを呼んできてもらうことにしたが、

彼女が入り口の扉を開くとそこには菊岡と凜子さんとタケル、3人が揃っていた。

 

「キリト君、まずはご苦労様。こちらのバックアップも無い状況でやり遂げてくれて、感謝しているよ。

 ありがとう、お陰でなんとかなりそうだ」

「そう思うなら今回のバイト代は盛大にしてもらうぞ? なんせ2年間だからな」

「それは勿論、2年分以上の報酬を用意させてもらうよ」

 

え、マジで? 冗談で言ったつもりだったんだが、菊岡の顔を見るにどうやら本気らしい。

まぁそれほどの成果だということは俺でも分かるし、これは期待してもいいかもな…。

 

「お疲れッス、キリト君! 色々とアンダー・ワールドのことで聞きたいこともあるけど、

 報告は今度にして今日のところはゆっくり休んで欲しいッス」

「そうさせてもらうよ。肉体的には寝ていただけでも、精神的には大分疲れたからな」

 

タケルのお言葉に甘えさせてもらい、報告は明日以降にゆっくりと丁寧にさせてもらうとしよう。

話せることと話せないことが多いから、そこら辺も判別していかないとな。

 

「キリト君、本当にお疲れ様でした。明日奈さんと会えなかった以外にも精神的に大変だったと思うけど、よく頑張ったわね」

「辛かったこともありましたけど、明日奈は勿論、みんなにも会いたいと思いましたからね。お陰でやり遂げられました」

 

凜子さんの労いの言葉には素直な言葉で返す、実際に明日奈やユイ、みんなに会いたいと強く思っていたのは本当だからな。

けれどこうした労わりの篭った言葉というのは本当に嬉しく、心に響く。

 

「みなさん、桐ヶ谷君との無事の再会が嬉しいのは解りますけど、メディカルチェックを済ませないといけませんから。

 あ、それにカウンセリングもですね……そういうわけで、色々とご苦労様でした、桐ヶ谷君」

「1日だけとはいえ、お手数をおかけしまして…ありがとうございました、安岐さん」

「いえいえ、これも任務だからね」

 

フルダイブ中の俺の体調管理をしてくれていた安岐さんはみんなに話し掛けてから、俺に声を掛けてくれた。

思うに俺の心拍数などは何度も上昇したことはずだ、STLとフラクトライトによるダイブは仮想世界と現実世界の同調率を高めるし。

きっと彼女は気を許せる時が無かったと思うので、今度改めて明日奈とお礼をしよう。

 

そして俺のメディカルチェックとカウンセリングを始めようとした…その時、

 

―――ドガァァァァァン…!

 

この第二STLルームを、いやオーシャン・タートル全体を衝撃が襲った。

 

「「「きゃあっ!?」」」

「うわぁっ!?」

「くっ…!」

「っ、サブコントロールルーム! いまの衝撃は、何が起こっている!」

 

女性3人が身を竦ませ、タケルは驚き、俺もベッドの上で体勢が崩れる。

菊岡はすぐさま連絡用の端末を取り出して声を荒げながら近くにあるサブコントロールルームに通信を始めた。

 

『しょ、衝撃を受けた場所は船底ドッグです! お、おそらく、外部からの侵入、襲撃と思われます!』

「なっ…そんな、馬鹿な……一体何処の奴らが…! ともかく、全エリアに緊急事態警報を知らせろ!

 戦闘員はただちに現場へ急行、迎撃を行い、救援信号も送れ! 敵は待ってくれないぞ!」

『了解!』

 

会話の直後、警報が響き渡り襲撃者についてのアナウンスが流れた。

自衛隊戦闘員は即座に動き出したようで船底ドッグに向かったようだ。

 

「キリト君、アスナ君。こんなことになってすまないが僕は現場で指揮を取りに行く。キミ達は神代博士と共にヘリで脱出してくれ」

「断る」

「か、和人くん!?」

「なにを言っているんだ、キミは!」

 

真剣な表情のままに菊岡は俺たちに脱出を促してきたが俺はそれを即座に却下する。

明日奈は困惑し、菊岡が怒鳴りつけるが知ったことじゃない。

 

「ここは日本の機密施設だ、そこに襲撃を仕掛けるということは襲撃者たちは表の部隊の可能性は低い。

 裏の特殊部隊か最悪は傭兵とか殺しを専門にした奴らのはず、当然だが情報機器を扱えるスペシャリストも居るはずだ」

「そうだね、キリト君の言う通りだよ…でもこちらには比嘉君も居る。確かにキミの力は有効だし、戦闘能力も高いだろう。

 だが相手はプロだ、命懸けになるのは間違いない。

 そしてキミもアスナ君も一般人だ、僕たちにはキミ達を無事に送り届ける義務がある。聞き分けてくれ」

「内通者が居るとしても、か?」

 

 

 

 

その言葉で菊岡は勿論、俺を除く全員の表情が驚愕の物に変化した。

当然だ、これはUWに居たからこそ手に入れることが出来た情報なのだから。

 

「UW内には特別濃い負の感情を持つ奴らが居る……傲慢だったり、欲望に忠実だったり、快楽殺人を行う奴も居た。

 俺たちの実験と研究過程ではありえないはずだが、確かにそう言った奴らが居る……原因は最初の4人の内の1人だ」

「なる、ほど…それならキミの言うことにも辻褄が合う」

「そしてそれはここでの目的が『A.L.I.C.E』であることを物語っている。

 奴らの狙いは完成した『A.L.I.C.E』、UWの俺の幼馴染にして親友の恋人である“アリス”だ!」

 

俺は溢れてくる怒りに声を荒げてしまい、内容にみながみな驚いている。

これがもし、ただの感情の無いAIだったのなら俺はきっとそれを切り捨てて明日奈の安全と、

みんなの元へ帰る意思の為に撤退を受け入れただろう。

 

「キリト君、キミは…」

「狙われているのは幼馴染で、親友であるユージオの恋人で、大切な仲間だ。

 俺の大切な者に手を出す以上、奴らには地獄をみせてやらないと気が済まない」

 

俺の友に、俺と友が愛する世界を穢そうとする者に、容赦はしない。

 

「俺に協力を求めてくれ。俺が持てる力の全てで以て奴らを撃退できる力を用意する」

「……条件がある…キミとアスナ君は何があっても奴らと直接対峙することは許さない。

 キミ達の命に危機が訪れると判断した際には力ずつで脱出させる…いいね?」

「ああ……明日奈、俺と居てくれるな?」

「もちろんだよ。私の立つ場所は和人くんの隣だもの」

「ありがとう」

 

菊岡はいまの俺を止めることはできないと判断したらしく、条件付きで許可してくれた。

本来ならこんな危険な場所に明日奈を残すべきじゃないだろうが、俺は彼女と共に進むと決め、彼女も受け入れてくれた。

 

「菊岡、タケル。あのディスクのプログラムの読み込みは済ませたのか?」

「済ませたよ。キミも中々にえげつないことを考えるものだね」

「なんていうか、ハックする奴が悪いとはいえ、人権無視もいいところッスよね……って、

 ともかく僕たちもサブコントロールルームに急ぐッス!」

 

タケルの言葉に我に返り、俺たちは急ぎサブコントロールルームに向かった。その道中、俺は明日奈に訊ねられた。

 

「さっき話してたプログラムってなんの話?」

「一種の防御プログラムなんだが、カウンタープログラムでもあるんだ。

 不適切な方法でのアクセスなどを感知し、攻撃を仕掛けるっていうね」

「それがどうしてえげつなかったり、人権無視なの?」

「簡単に言うとだな……片っ端からエロ動画やらにアクセスし続け、ありとあらゆる課金を行い、

 最終的にはコンピュータの持ち主の個人情報を流出させるというものだ」

「え、なにそれ、惨い…」

「仕掛けてくる奴が悪い」

 

かなり引き気味な明日奈、ちなみに俺も作ったものの自分でもかなり引いた。

だが反省も後悔もしていない、現在進行形で役に立っているからな。

一応だが普通の防御プログラムもインプットしているし。

 

駆け足で移動しているうちにサブコントロールルームに到達した。

 

「状況はどうなっている!」

「メインコントロールルーム、並びに第一STLルーム前で交戦中! 占拠されるのも時間の問題です!」

「ライトキューブクラスターをやらせるわけにはいかない。耐圧扉を完全閉鎖!

 各員は負傷した者達を優先して上部へ退避させろ! 持ち堪えられるだけ持ち堪えて、最悪は撤退して構わない!」

「所属不明部隊、爆発物まで使用しています! 隔壁も幾つかを突破されました!」

「撤退が完了次第隔壁を全展開! 怪我人の状況は!」

「重軽傷者少数! 死者は無し!」

 

メインコントロールルームが乗っ取られるとかなり不味い。

仕方が無い……あの娘(・・・)を人前にデビューさせるのは現段階では避けたかったが、躊躇していられない。

明日奈に小さく声を掛け、彼女とも同意を得てから端末を用意し、ケーブルを繋げる。

 

「ユイ、手を貸してくれ」

「頑張って、ユイちゃん」

「了解です、パパ! 頑張ります、ママ!」

 

俺たちの愛娘、ユイのデビュー戦はプロか。俺とのタッグになるが地獄を見てもらおう。

その時、俺が操るコンソールとは別の左右のコンソールに比嘉と凜子さんが着席した。

 

「その子について色々と聞いてみたいことはあるッスけど、まずはチーム戦で片づけるのが得策ッス」

「茅場くんほどじゃないけど、少なくとも私達を相手にするのは茅場君以上が相手でないと勝てないということを証明しましょう」

 

俺とユイ、凜子さんとタケル、後者2人は現日本において双璧を為すと言ってもいい実力者だろう。

ユイもVR世界やネットを熟知している以上、最強ともいえる……俺、足手纏いじゃね?

 

「ユイ、俺の端末のデータを通してある2人に救援信号を送ってほしい。内容は現状をそのまま伝えてな」

「分かりました。どなたに送ればいいですか?」

 

背後に控えていた菊岡が送信相手を聞こうとしてきたが、俺はそれを手で制止させて笑みを浮かべながら口にする。

 

「内閣府特殊護衛部隊副隊長、不動善十郎(ふゆるぎ ぜんじゅうろう)。並び同部隊隊長、時井八雲の両名だ」

 

俺のとっておきの切り札、ここで使わせてもらうぞ。さぁ、戦争の始まりだ。

 

和人Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 

ここからの出来事については以下の報告書より抜粋する

 

 

 

 

 

オーシャン・タートル襲撃事件報告書

 

『アンダー・ワールド』より帰還直後、所属不明部隊による襲撃を受ける。

同部隊はアメリカ合衆国国防総省ペンタゴンより派遣された傭兵部隊であり、

『オーシャン・タートル』にて研究されていた『フラクトライト』、

並びに『A.L.I.C.E』の奪取、もしくは破壊を命令されていたとされる。

正体が明かされたのは同部隊を迎撃し、捕獲した後に明かされたことである。

 

自分は襲撃により民間協力を申し出、比嘉健博士、並びに神代凜子博士、保有AI『ユイ』と共に情報戦と電子戦を行う。

これによりサブコントロールルームに在りながらメインコントロールルームの操作の防衛に成功。

しかし、『ソウル・トランスレーター』の1号機、並び2号機によるフルダイブを許してしまう。

これに伴い、桐ヶ谷和人は同行者である結城明日奈と共に同機器の3号機、4号機を使用してフルダイブを行い、

VR世界にて同部隊の人物の迎撃を決行する。

 

『アンダー・ワールド』にて管理者と現地人民の協力を得て、

同部隊フルダイバーの主導による魔物の軍勢約5万の侵攻の阻止に成功、半数の約2万5000の戦力を削る。

桐ヶ谷和人ことキリト、アカウント『ステイシア神』でダイブした結城明日奈ことアスナ、管理者であるカーディナル、

現地協力者である登録ユニットのユージオ、同世界の守護騎士である整合騎士団、民衆の力を借りて第一次迎撃戦を成功。

 

しかし、フルダイバーの1人による先導によって他国のVRMMOプレイヤーが同世界にフルダイブしてしまう。

アメリカ、中国、韓国などを中心にして総数約3万人。

さらに同世界内における『ダークテリトリー』の残った軍勢約2万5000を含めて、5万5000を超える戦力となる。

これに対し、自分は日本のVRMMOプレイヤーを参戦させることを提案、協力者の力もあり有志を募ることに成功、採用される。

『ソードアート・オンライン』、『アルヴヘイム・オンライン』、『ガンゲイル・オンライン』と言った、

ゲームを中心に集まった有志の総数たるや約5000人、人界軍約3000人と合わせ約8000人の戦力となる。

さらに『ダークテリトリー』の軍勢の大半が『ベクタ神』を裏切り、人界軍と共に戦うことで戦力は2万8000人となる。

 

第二次戦闘はカーディナルを総指揮官とし、前線指揮官にキリト、アスナ、整合騎士団長ベルクーリを抜擢。

各前線指揮官傘下に整合騎士団の戦力を3分割して投入、

日本人プレイヤーの中からトップクラスのプレイヤーと人界民のトップ戦力をさらに投入、

2倍以上の戦力差を個人技能と連携、作戦を実行することで壊滅させることに成功。

加えて『ダークテリトリー』側の穏健派が謀反、内側から切り崩してさらに壊滅させる。

アカウント『ベクタ神』でダイブしたフルダイバーは自分の協力者である日本人プレイヤーによって討たれる。

これによって完全に指揮系統が乱れ、『ダークテリトリー』勢力は降伏した。

 

ダイブ終了後、救援に駆け付けた内閣府特殊護衛部隊によって傭兵部隊が鎮圧され、

1名を除いて捕縛に成功、逃亡した1名の名はSAO時代『PoH』と名乗っていた者と判明するも未だ行方知れず。

『ベクタ神』でダイブした人物は『ガンゲイル・オンライン』において先月行われた大会、

『バレット・オブ・バレッツ』の準優勝者、『サトライザー』であると判明。

彼を『アンダー・ワールド』で倒したのは同大会で彼が倒したプレイヤーと、彼を倒したプレイヤーであったのは奇妙な偶然か。

けれど事件そのものは終息を迎えた。

 

一連の事件によってアメリカ政府は日本政府のみならず、他国と自国の民衆からもバッシングを受け、正式に謝罪を行う。

幸い死者は出なかったものの重軽傷者が出たこともあり、また同施設を勘違い(・・・)で襲撃したことも裏目に出ている。

また、『アンダー・ワールド』にダイブした海外プレイヤーは全員の身元が特定され、

彼らは全てのゲームアカウントの剥奪、罰金、厳重注意という結果となった。

先導されたとはいえあまりにも軽率な行為であり、日本人有志達とは違い、

重要機密VR世界『アンダー・ワールド』へのダイブが不正手段であったこともあり、不法入国扱いともされた。

 

一時の間は国連議会においてもこの事件が議題に上がると思われる。

しかし、今回の事件が日本側の機密でもあった為、それが誤解を招く一因ということもあり、

近々研究成果を発表することを決めているとのこと。

 

 

 

以上を以て報告を終了とする。          報告書作成者:桐ヶ谷 和人

 

 

 

 

 

あとがき(2015.04.19)

 

何かの誤動作により一度、文章が途切れたことを読者の方が報告してくださったので編集し直しました。

 

あとがきも消えてしまったので新しい方で乗せさせていただきます。

 

とはいえ話すことも特に無いので、続きを楽しんでもらえればと思っております。

 

今回のような途切れているところや誤字脱字の報告など、今後もあればお願いします。

 

 

 

 


 
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