No.714132

「真・恋姫無双  君の隣に」 第32話

小次郎さん

華琳、桂花、季衣に危機が迫る。
罠を承知で一刀は彼女たちの元へ。

2014-09-06 22:58:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:15303   閲覧ユーザー数:10375

駄目、追いつかれる。

こちらは徒歩で向こうは騎馬、とても逃げられない。

一刻も早く陳留に戻らないといけないのに。

濮陽に向かう途中で張邈の軍に襲われて、護衛達のお陰で何とか逃げられたけど、道を封鎖されて華琳様の下へ戻れないし援軍も呼びにいけない。

潜伏してる間に幾つかの情報は手に入ったけど、既に五日が経ってる。

彼我の兵力差を考えたら、いくら華琳様でも限界よ。

手段を選んでいられなくて無理に検問を突破したけど、追っ手に護衛達が次々に倒されていく。

遂に私一人。

襲い掛かる敵兵の剣を何とか短刀で受け止めたけど、身体ごと弾き飛ばされた。

くっ、全身に痛みが走る、短刀も失って力が入らないわ。

醜悪な笑みを浮かべながら敵兵が近づいてくる。

冗談じゃないわ、こんな所で死ねないのよ。

華琳様の下へ、そして私を護って倒れた護衛達の為にも。

それなのに、力が入らない、私に出来る事は睨みつける事だけ。

剣が振り下ろされる。

「申し訳ありません、華琳様!」

目を閉じて、私は死を待つ。

・・でも、その時はいつまで経っても訪れない。

目を開けると、胸から矢を生やした敵兵が私に倒れかけていた。

危うく受け止めそうになって、慌てて避ける。

他の敵兵も次々と矢で射抜かれて、恐怖のあまり残兵は逃げていった。

矢を放ったらしき騎馬兵が近づいてくる、もしかして、秋蘭?

違うわ、あれは、黄蓋将軍!?

そして後ろにいるのは、一刀!

「桂花っ、大丈夫かっ!」

馬から下りて駆け寄ってきたのは、見間違いではなくて本当に一刀だった。

どうして此処に?

でも凄く嬉しくて、お礼を言おうとしたのに私の発する言葉は、

「遅いのよ!何をグズグズしてたのよ!あんた以外の男が私を穢したらどうするつもりなのよ!」

な、何を言ってるのよ、私。

恩知らずにも程があるし、そもそも言ってる内容が分からない。

一刀が当然驚いているけど、嬉しそうな表情に変わった。

「ごめん、桂花、遅くなって。貞操は無事?」

「当たり前よ!華琳様とあんた以外に触れさせるわけ無いでしょ!」

だから、何を言ってるのよ、私。

「よし、それじゃ急いで華琳の下へ向かおう。桂花、その状態じゃ一人で馬は無理だろ、俺と一緒に乗ってくれ」

「分かったわ。死ぬほど嫌だけど華琳様の為よ」

手を貸してもらって、何とか馬に乗って一刀にしがみつく。

身体の痛みもあって速度を出してる馬上は正直きついわ、意識を保つのが辛くなってきた。

私は半分意識を失いながら必死に一刀にしがみつく。

華琳様、直ぐに・参り・ます。

ですが、・もう・大丈夫・です。

だって、・北郷が来て・く・れまし・た・から・・・。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第32話

 

 

どうしよう、みんな疲れてきてる。

いくら親衛隊でも向こうと数が違いすぎるよ、・・せめて流琉がいてくれたら。

春蘭様たちが戻ってくるまで、最低でも後二日って華琳様が言ってた。

絶対に守らないと、皆の帰る場所が無くなっちゃう。

あっ、敵が退いていく。

どうして?まだ日暮れまで時間があるのに?

敵の弓隊が前列に並び始めて、後ろから何か来る。

でっかい、あれって衝車ってやつだ!

門を破る気だ。

拙いよ、門が破られたら数で押し切られる。

勢いをつけて門に向かってくる衝車を見て、僕は考える前に城壁から飛び降りた。

「でええええええいっ!」

勢いのままに岩打武反魔を衝車に叩きつけて、前進は止まった。

衝車は壊せたけど、替わりに一斉に矢が僕に向かって飛んでくる。

僕は岩打武反魔で矢を防ぎながら、門を開けると言って来る味方に止めるように大声で伝える。

絶対に門は開けたら駄目、でも、どうしよう。

城壁から弓で援護してくれてるけど数が違いすぎる、もう、これ以上防ぎ切れない。

流琉、華琳様、春蘭様、・・兄ちゃん。

諦めかけて大事な人達が頭によぎっていたら、矢が飛んでこなくなった?

盾にしてた岩打武反魔の陰から覗いたら、敵が後ろに気を取られて慌ててる。

何があったのかと壊した衝車の上に乗って見てみたら、敵に騎馬軍が後ろから襲い掛かってた。

凄い、敵を真っ二つにしてコッチに来てる。

「季衣ーーーーーっ!!」

流琉っ、先頭にいるのは流琉だ。

「流琉ーーーーーっ!!」

「季衣、城門を開いてっ、入城するからーーーーーっ!!」

僕は急いで城壁の兵士さん達にお願いする。

「皆、流琉が来てくれたよ。急いで門を開いてっ!」

流琉達が敵陣を突破したところで門が開いて、そのままの勢いで入城した。

全員が入ったところで急いで門を閉める。

敵は攻めてこないで下がったって、物見の人から報告が来た。

「季衣、良かった、無事で」

「ありがとう、流琉。助けに戻って来てくれたんだね」

「うん、兄様と一緒にね」

「兄ちゃんも来たの?」

「うん、だから、もう大丈夫だよ」

 

予定通りです。

「左慈、北郷一刀が来ましたよ」

「フン、来るルートは分かっていたのに入城させやがって」

「そう言わないで下さい。野戦では逃げられる可能性があるのですから。城に閉じ込めてしまえば逃げ場は無いでしょう?」

まあ、張邈には伝えてませんがね。

今頃慌ててるでしょうが、御遣いと曹操をまとめて討てる絶好の機と言えば納得するでしょう。

大きな武勲の機会が転がり込んで来たのですから。

増えた兵数は精々二千、戦局への影響が低いのも説得の材料になります。

「明日の夜明けと同時に総攻撃をかけます。蟻一匹逃げ出せない包囲陣を築いた後にですが」

「チッ、まだ待たせる気か」

「仕方ありません。確実に北郷を討ち取るには、向こうが全軍で出陣してきましても破れない包囲陣が必要です。ですが明日中に陥とさなければいけません。曹操の主力も明後日には到着するでしょうから」

 

一刀が援軍に来てくれたお陰で、城内の士気が大きく上がったわ。

「礼を言うわ。桂花と季衣の危機を救ってくれて」

感謝の言葉を述べるけど、内心では一刀の顔を見たくなかった。

曹孟徳ともあろうものが、こんな無様なところを見せるなんて、よりによって最も見せたくない相手に。

「礼には及ばないよ。派遣してくれた風と流琉は多大な功績を上げてくれたから。それより敵の攻勢も止んだようだし、兵に休みを取らせてあげないか?」

「そうね、貴方達も休んで。急いで部屋と食事を用意するわ」

「すまない、馬も頼めるかい。かなり無理をさせたから」

「分かったわ、用意させる」

一刀達が休むのと入れ替わりに、気を失っていた桂花が起きてきた。

「桂花、大丈夫なの?」

「華琳様、ご無事で何よりです。申し訳ありません、此度の不始末、全て私の責任です」

桂花が床に額をつけて私に謝る。

「よしなさい!責は全て私にある。貴女の行いは私への侮辱よ」

「も、申し訳ありません、華琳様」

「そのような事をしている暇があるなら仕事に戻りなさい。すべき事は山程あるわ」

「はっ、潜伏時に私が得ました情報をご報告します」

 

ふう、流石に今回の強行軍はきつかったな。

敵が退いてくれたのは有り難いけど、やっぱり七乃と風の読み通りか。

確実に俺を倒す為に入城させてから総攻撃をかける。

張邈は利用されてるだけで黒幕がいて、おそらくは麗羽の手の者だと。

俺が目当てで餌にされたなんて華琳には言えないよな、そんな事を知ったら想像するのも恐ろしい。

でも、華琳だからな、絶対気付くよな。

「一刀、入ってもいいかしら」

「華琳?いいよ」

部屋に入ってきた華琳を見て、一発で分かった、もう気付いてる。

こんな怖い笑顔、初めて見た。

「貴方も大馬鹿ね。わ・た・し・を餌にして貴方を誘き寄せる罠だと分かっているのに来るのだから。主たるもの身の安全は何より優先すべき事よ」

華琳が言う台詞じゃないだろ、何てとても言えない。

「そうだね、肝に銘じとくよ。ハハッ」

冷や汗が止まらない。

「フフッ、でも来てくれた事には感謝してるわよ。貴方には是非とも見せたいものがあるから」

「そ、そう、何を見せてくれるんだい。華琳が言う事だと期待が膨らむよ」

本当は遠慮したい、絶対碌でもないものだ。

「ええ、期待して頂戴。なにしろ、わ・た・し・を餌にして貴方を討とうとした、左慈と于吉とやらの首を見せてあげたいから、ねっっっっ!!!」

華琳にビビリながら、どうやら黒幕らしき奴の名を頭の中で復唱する。

左慈、于吉、確か三国志演義に出る仙人の名だったか?会った事は無いよな。

俺をピンポイントで狙ってくる理由が気になるけど、出会う事は無いかもしれない。

華琳を敵に回して尚且つ怒らせるなんて、自殺行為だろ。

華琳の怒りが嫌って程に伝わってくる。

・・でも、このままは拙いよな。

「華琳」

俺は華琳に近づいて、両頬に手を添える。

「あら、私に手を出す気?流石は評判の種馬ね」

華琳が軽蔑する目で俺を見据える。

俺は笑顔をつくって、華琳の頬を思いっきり引っ張る。

「いたたたたたたたたーーーーーっ!!」

おお、こんなリアクションをとる華琳は初めて見た。

なんか可愛い。

引っ張る指を離した瞬間、

「何するのよーーーーーーーーーーーっ!!!」

「*+>*!#$%&<*+#%&$#!!!」

股間をおもいっきり蹴り上げられた俺は、床に倒れてあまりの痛みに声も出ない。

そんな俺に桂花も顔負けの罵声を浴びせ続ける華琳。

暫くして、どうにか声が出せる位まで回復した俺は、怒鳴り疲れた様子の華琳に話しかける。

「ちょっとは落ち着いた?」

「黙りなさい!私の頬を引っ張るなんて、千回処刑しても飽き足らないわ!」

「まあ、確かに女の子の頬を引っ張ったのは悪かったよ、痛かった?」

「当たり前よっ、・・お陰で頭は冷えたけどね」

「それは何より」

「フン、そろそろ食事の用意も出来てる頃よ、とっとと立ちなさい」

拗ねながらも手を差し伸べてくる華琳に嬉しく思う。

でも、もうちょっと待って、この痛みは女性の想像を遥かに超えてるんだ。

 

城内を見回っているけど、皆の顔に力があるわ。

食事を終えてから軍議を行ったけど、既に一刀が打開策を講じていたから、籠城の人員配置だけで済んだわ。

策は風が考えた事らしいけど、それを成せるのも一刀の力よね。

疲労の極にあった兵も士気を取り戻してる。

癪だけど私も同じ、心に余裕があるわ。

明日は総攻撃を掛けてくるでしょうけど、全く問題ないわね。

あら?厨房の方から賑やかな声が聞こえるわね。

声からして季衣と流琉かしら、久しぶりの再会だものね。

いい匂いがするし、覗いてみましょう。

「美味しいね、これ。いいなあ、流琉、こんな美味しい物を食べてたんだ」

「あんなに食べたのにまだ食べるなんて。お腹壊すよ、季衣」

そう言いつつ作ってあげる流琉に、美味しそうに食べてる季衣。

楽しそうで何よりだわ、でも、おかしいところがあるわね。

「一刀、どうして季衣が貴方の膝の上に座ってるのかしら」

「あ、華琳様。流流がして貰った事があるって言ってたんで、僕もしてるんです」

「季衣、言っちゃ駄目!」

へえ、そうなの。

「一刀、話したい事があるから来てくれる?」

「あ、ああ」

私は踵を返して無言で歩を進める。

慌ててついてくる一刀が声を掛けてくるけど、黙殺して目的地に向かう。

玉座の間に着いて、そのまま玉座の前まで来たところで振り返る。

「一刀、そこに座りなさい」

玉座を指差し、無茶な事を言う。

一刀は当然断るはずね、でも私は何としても座らせて膝の上に座るつもりよ。

・・一体、私は何をしているの?

私を駆り立てるものは何なのかしら?

季衣や流琉に対する焼きもち?

この私が?

大陸の覇王たらんとする、この私が?

ありえない、でも他に何があるの?

自分の行動が、思考が、心が理解できない。

「分かった、座らせて貰うよ」

私は更に困惑する、まさか断らないなんて。

「でもその為にっ、と」

一刀が両腕で私を抱えあげて、そのまま玉座に座る。

私は顔が急速に熱を持つことを自覚しながらも、必死に心を落ち着けて問い質す。

「一刀、何の真似かしら」

「俺は敷物みたいなものだよ。この座に相応しいのは、華琳だけだ」

「詭弁じゃないかしら」

「無茶を言ったのは華琳だろ。だったらこっちも無茶を言うさ」

「フフッ」

「ハハッ」

二人して笑う、馬鹿よね、私も、貴方も。

「それで、覇王様、無理難題に応えた男に褒美はないのかい?」

「いいわ、特別なものをあげる。ありがたく受け取りなさい」

私は一刀の首に腕を回して唇を重ねる。

・・誰にも渡さない。

必ず貴方を私のものにしてみせるわ。

私は曹孟徳、欲しいものは絶対に手に入れる。

貴方の全てを。

 

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あとがき

小次郎です。読んで頂いてありがとうございます。

前話のコメントで「!」を使わないのかとの御言葉をいただき、自分では気にした事が無かったので、目から鱗です。

それに蜂蜜酒、使えそうだけどどうやって作るんだろなど、色々なコメントをいただいて作品を投稿して良かったと思ってます。

ネタバレしてしまいそうなのでコメ返しは遠慮させていただいているのですが、本当にありがとうございます。

勿論、読んでいただけてるだけでも充分に嬉しいです。

では次回もよろしくお願いします。

 


 
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