No.713708

涼宮ハルヒの製作 第七章

ユウジさん

とうとうガンプラバトル回が始まりました
ハルヒの相手はいったいどんなMSなのか―――――

2014-09-05 00:08:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:646   閲覧ユーザー数:641

以前ハルヒが壮大な口喧嘩を起こしてから一週間弱、再びこの電気店に赴くことになろうとは誰が思っていただろうか。

幸いにもあの女性も、あの時奇妙な目でこっちを見ていた店員もいないようだし、とっとと手続きを済ませてしまおう。

実はこの電気店、この地区では一番の電気店である。

にもかかわらずおもちゃやプラモデル……特にガンプラの販売に力を入れ、ガンプラバトルの機械を二台導入してしまったから驚きである。

その料金システムは単純明快で、時間で借りるか、それとも一戦交えるかの二パターンである。

今日はハルヒが操縦方法などを覚えるためにこの機械を操作するのでバトルは必要なく、30分コースで一台借りるのであった。

ブースの中は意外にそっけない作りをしているが、その理由は後述しよう。

今は初めてガンプラを動かすというハルヒのために、GPベースを購入、そしてガンプラとそのファイターとしての登録が先だ。

 

「うー、なんだかドキドキしてきたわー!!

ねぇねぇキョン、どうやって動くの!?光線銃は?バズーカは!?」

 

光線銃じゃない、ビームライフルだ、と突っ込む暇もなく当の本人はテンションが上がりっぱなしで、まるで恋する乙女のようではあった。

はて、ハルヒは乙女座だっただろうか?

それはともかく、さっさと登録しないことには話が始まらない。ハルヒを落ち着かせ、必要情報を入力させるのであった。

 

『Please set your GP Base』

 

「えーと、名前入力するところが二つあるんだけど、これってなんなの?」

 

「そうだな、これは簡単に言うと『ビルダー』と『ファイター』に別れるんだ。

ガンプラを作った奴がビルダー、ガンプラバトルする奴がファイターってな。

今回は二つともハルヒがやったから、二つとも同じ名前でいい。」

 

「へぇー、じゃあこの名前が二つとも同じ名前じゃないってこともあるんだ?」

 

「うむ、そうだな。お前が知っているところだと、お前が初めてガンプラを買ったイオリ模型のイオリ君なんかがいい例だな。

いい相方を見つけたのか、彼はビルダーとして持ち前の製作能力を十二分に発揮している。」

 

「そんなに上手に作れるの?」

 

「ハッキリ言うともはやあの若さにしてプロ並みだとは思う。

あの店に飾ってあるプラモを見たか?あれは全て彼の手によるものだ。」

 

いつぞやかに、彼の店のショーケースに飾ってある歴代ガンダムを見てみたが、まるで説明書に載っている見本並にクオリティが高い。

どうやったらあのようなレベルの高さになるのか教えてもらいたいね……。

 

「そうねぇ、有希や古泉くんも上手いと思ったけど、あの子もそんなにすごくうまく作れるなんて、世の中レベルが高い人たくさんいるみたいね」

 

「いやいや、お褒めにあずかり光栄です。

しかし、時間がもったいないですし練習を始めましょう。見てください、プラフスキー粒子が散布されますよ?」

 

そういうが早いか、機械から青く光る眩い光がブースを包み、あれよあれよという間大小の木々が集まる森林地帯が形成された。

 

『STAGE3:Folest』

 

そのアナウンスと同時にハルヒの周りの青い光がいろいろな機器の形に形成されて、まるでコックピットにいるかのような臨場感を与えてくれる。

そう、ブースの中がシンプルな作りなのはこの風景を邪魔しないが為なのである。

余計な飾りがつくとそれだけで、雰囲気を損なってしまうからな。

 

「うわぁ……」

 

ハルヒにはよほど刺激が強かったのか、ただ感嘆の息を漏らすだけであった。

その気持ちは俺もよくわかる、この自分がリアルに操縦できるような錯覚を覚えさせてくれるだけで、そのテのマニアには心涎ものである。

 

『Please set your GUNPLA』

 

「さっ、涼宮さん、ガンプラをセットしちゃってください♪」

 

「こ、こうかしら?」

 

朝比奈さんに促され、ハルヒはたどたどしくぎこちなく台にガンプラをセットする。

台に置くと同時に粒子はハルヒのガンダムMk-Ⅱをスキャンし、まるで命を吹き込まれたかのようにガンダム特有のデュアル・アイを光らせ、動き始める。

そして、ハルヒの目の前に丸い二つの操縦桿……、名付けるならコントロール・ボールというべき機器と、ナビゲーションが表示されるディスプレイが出現する。

 

「早く両手を操縦桿へ」

 

「う、うん」

 

長門に促され、ぎこちなくボールを掴み……

 

『Practice start』

 

のナビゲーションとともにガンダムMk-Ⅱはカタパルトにセットされる。

 

「ほれ、ハルヒ。なんかカッコよく言って出撃してみろ。」

 

「な、何かってなによ、わかんないわよ!?」

 

我ながらかなり無茶な振りの台詞だったな、ここはひとつ時間もないし簡単に進言してやるか。

 

「一度は聞いたことあるだろ?アムロ、いきまーすとか、ガンダム出ますー、とかそんな感じのセリフだよ」

 

「うぅー……、す、涼宮ハルヒ!ガンダムMk-Ⅱで行きます!!

……こんな感じ?」

 

そういうが早いかカタパルトにセットされたガンダムMk-Ⅱは、火花を散らしながら進み射出機の勢いとともにフィールドに射出され、無事に着地した。

 

「ふわぁ……びっくりしたぁ……、で、でもなんか興奮するわこういうの」

 

ハルヒの眼は輝き、まるで新しいおもちゃを買い与えられた子供のように破顔した表情になっている。

まぁ実際言葉通りではあるが。

 

「で、これどうやって動くの?どうやって撃つの?」

 

ハルヒは待ちきれないと言わんばかりに体をうずうずさせ、こっちを見ている。

俺はやれやれ、と息を吐きハルヒの後ろに回りその両手首をつかみながら動かし方をレクチャー……するつもりだった。

まずは前進の仕方を教えようとしたところで、目の前にあったハルヒの頭が俺の顔面に突っ込んできたのだ。

 

「なにす「ちょ、ちょっと何すんのよ!!いきなりつかむ奴があるかばかぁ!!」

 

こちらが抗議したかったのに、まさかのハルヒから抗議の声が上がったのである。

顔を真っ赤にして抗議する勢いに負け、俺は矛を収める形になってしまった。

 

「あー、いや、言葉であれこれ言うより、直接体に覚えさせた方が早いと思ってな……」

 

「それならそうと、一言言えばいいでしょ、この馬鹿キョン!!」

 

今思うと確かにそういう気がしたが、俺の悪戯心が勝ってしまったのだ。

許せハルヒ。

 

「そ、そういうやり方でいいから、さ、さっさと教えなさいよ、時間の無駄でしょ!」

 

まさか却下されると思っていた提案だったがハルヒはすんなり許諾し、俺はハルヒの後ろについて動かし方を逐一教えることになった。

まずは前進や後退などの基本的な動き、そしてしゃがんだりジャンプしたり、それらの動きにブースターを併用するということ。そのあとにハルヒ1人で、攻撃の方法とそれらを複合した練習を行わせて、一通りやったところで時間が来た。

 

「ふはー、難しいけどやりがいがあるわねー、これ。

早くバトルしてみたいわ、もう動かせるだけ感動モノよ、そう思わない?」

 

目を輝かせて熱く語るハルヒに、こっちまでテンションが上がってきた。

いますぐにバトルしたいくらいであるが、いくらやりたくとも順番というものがあるので、俺達は定刻通りにブースを出た。

 

「いやぁ、涼宮さんがこんな風にはしゃぐ姿を見るのはどれくらいぶりでしょうか?

涼宮さんも年頃の女性という感じがして実に微笑ましいです。」

 

あまりテンション上げ過ぎてもどうかとは思うがな……。

まぁしかし、ああいうハルヒが微笑ましいという気持ちはなんとなくわかる。

今まであんなテンションのハルヒは、またろくでもないこと考えてやがるなと思っていたのに、趣味が同じこととなると途端に微笑ましく思えてしまうのが不思議である。

こういう感じなんだよ、俺が求めている高校生活というのは。

何かに所属し、そこのメンバーと一緒に何かに向かって一心不乱に打ち込む!

たまたま俺達の場合それがガンプラで、一緒にバトルで切磋琢磨し、無理のない目標を越えて、その経験はいつか宝物になり、その思い出を心に秘めたまま社会に進出していくのだ。

などと物思いに耽っていると何やら少し騒がしい。

一体何ごとかと思いその声がする方へ向くと、ハルヒが何やら固まっていた。

そしてその向こうにいたのは、以前ハルヒと三国時代もかくやという舌戦を繰り広げたちょっと地味目だがスタイルのいいピンクの帽子をかぶっているお姉さんだった。

 

「あ……アンタはこの前の……」

「この前の、生意気な高校生じゃない……」

 

どうやら二人揃って前回の遺恨を思い出してしまったらしい。

そして二人とも目力で牽制し合っているという有様である。そして最初に口を開いたのは……

 

「あら~、この前はどうも悪いことしちゃったわね~?

でも結局彼氏に懐柔されてガンプラすることになったのね~、やっぱり愛には勝てないのかしら~?」

意外なことにお姉さんのほうだった。

しかも明らかにハルヒを挑発しているではないか……もっと理知的だと思ったのになんで!?

おいおいおい……なんだか揉める雰囲気だぞこれ……。

神様ー、揉め事が起きないようにお願いしたじゃないですかー!!

 

「こっ……うっさいわね!

確かにアンタのガンプラ馬鹿にしたのは謝るけど、何もそこまでケンカ売られる謂れはないわよ!!」

 

煽り耐性/Zeroのハルヒは当然のごとくお姉さんの方に食って掛かるのであった。

あぁ、これはまた舌戦の予感が……いや待てよ……もしかしてこの展開は……?

 

「え?あれアタシが作ったんじゃないわよ?」

 

な、なんだってー!?じゃあなんで怒ったの?

自分のじゃないならあそこまで怒ることないじゃないですかー!!

 

「あれってさー、私のために作られたガンプラなのよね。

ある事情で一回壊れちゃったんだけど、記念にってことで直したのよ(私じゃないけど)。

だから馬鹿にされたら当然怒らざるを得ないじゃない?」

 

「はぁ!?じゃあ何、自分で作れもしないくせにあそこまで粋がったの?

いい大人が高校生相手にムキになって恥ずかしい!!」

 

今回ばかりは珍しくハルヒの方が正論である。

いくら思い出の品だって言っても、自分の実力以外で作ったものにあそこまで怒るというのはちょっとありえんな。

……とはいっても、女性の舌戦というものには古来より男性が口を挟みづらい状況の一つである。

事態を理解していない古泉は何やら思案し、長門は沈黙を貫き、朝比奈さんに至っては二人の顔を見合せておろおろしている。

やはり、ここは状況を理解している俺が行くしかないのか……。俺は意を決し、女たちの戦場へとダイブすることにした。

 

「誰が自分で作れないですって!?

これでもね、アンタなんかよりも何倍も作ってるわよ!!

アンタが作ったガンプラなんかよりも十分出来もいいんだから!!」

 

「ぐ……っ、いちいち言うことが腹立つわねぇ!!

そんなに出来がいいって言うなら見せてみなさい、証拠出しなさいよ証拠!!」

 

ハルヒの切り返しで火が付いたのか、お姉さんはカバンからガンプラの箱を取り出して、これでもかと自分のガンプラをハルヒに見せつけるのであった。

ふむ……ピンクに塗られたゲルググJ(イェーガー)か……

色のセンスはさておき、なかなかいい感じの出来栄えではある。これまでの経験が生かされた機体というべきだな……。

やれやれ、これで予想した展開への御膳立てが揃っちまったな……、古泉に至ってはチラチラこっちを見て目配せしてやがる。

わかったよ、もう覚悟を決めた身だ……このまま突っ込んでやるさ!!

 

「二人とも、そこまでだ!!」

 

二人の間に∀張りの手刀を突き入れ、二人の舌戦を中断させる。

当然二人の非難の眼は俺に集中するわけだが、それは覚悟の上だ……。

このまま店中の注目を浴び続けるわけにはいかん、ちょっとギャラリーまでできているじゃないか。

 

「どうやら二人はガンプラを所持している様子……ならばここは遺恨を立つべく、ガンプラバトルで決着を付けるっていうのはどうかね!!」

 

……。

一瞬の静寂が店内を包む。これは……もしかして俺はやらかしたのではないのだろうか?

え、そんな、まってくれ、せっかく意を決した俺の心意気をそんな……こう……変な空気にしないでくれ。

 

「しょうがないわね~、私は別にそれでいいけど……そっちの彼女が逃げなければの話ね?」

 

「誰が逃げるっていうのよ!上等じゃない、ガンプラバトルやってやるわ!!」

 

ホッ……よかった、もしかしたらやらかしたんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ……。

まぁ、上手く誘導できたみたいだしこのまま夕焼け河原のガキ大将の喧嘩よろしく、バトル後ろに友情を結んでくれるならそれに越したことはない。

まぁ、そううまくはいかんだろうが、まずはこの流れに乗ってさっさとバトルを始めておくか。

 

「あー、それで提案なんだが……、何しろこいつは今日ガンプラを動かしたばかりだ。

出来れば俺がセコンドにつきたいんだがいいか?」

 

「あら、そうだったの?別にかまわないわよそれくらい。

精々あの初心者の彼女をうまくコントロールしてあげてね?」

 

ここでも煽っていくスタイルか……。

だが俺まで相手のペースに乗るわけにはいかん、ここは毅然とした態度でバトルに臨まねばなるまい!

 

「さぁ、じゃあ始めましょう」

 

と、再びこのブースにこんなにも早く戻ってくるとは思いもよらなかったが、バトルを始めるべくハルヒに準備を促すとともにいろいろ作戦を練らなければならない。

正々堂々と策を弄して勝つのが真の勝利というものだ、とりあえず事前にハルヒに色々と教えておかなければな。

 

「おい、ハルヒ。

ちょっとこっちに来てくれ、いろいろと相談がある」

 

「なによ、まさか分が悪いからやめろとかいうんじゃないでしょうね?

敵前逃亡なんて進言したら死刑だからね!!」

 

おいおい進言しただけで死刑かよ、どんな第六天魔王様だよおっかねぇな。

 

「んなわけあるか、今更ここまでお膳立てしておいてやっぱやめますなんて通用するわけがないだろう。

これからおおざっぱだが作戦立てるんだよ」

 

「作戦?」

 

「そうだ、どうせお前のことだから自分の感性に任せて行って、本能の赴くままに戦うつもりだろう?

それも悪くはないんだが、ちょっと勝率を底上げするためにな。」

 

「どれどれ、聞かせてもらおうじゃない。」

 

少し上から目線なのが気になったが、いつものことなので置いておく。

まずはハルヒに事前知識を植え付けておかねばな。

 

「まず相手の機体だがゲルググJと言って、簡単に言ってしまえば狙撃型の機体だ。

そしてあのガンプラの出来栄えからいって、遠距離戦では勝ち目がないと思っていたほうがいい」

 

「そんなになの?」

 

「それに加え、各部スラスターによる姿勢が安定していることもポイントだ。

遠距離でこっちがまぐれ当たりしたところで簡単には姿勢を崩さないだろう。

よって遠距離戦は捨てて中距離から近距離に持ち込み、とにかく一気呵成に責め立てるしかあるまいよ」

 

自分で言っててどこの悪役参謀だろうと思ってしまったが、とりあえず伝えられることは伝えた。

後はハルヒの奮闘に期待するしかあるまい。

 

「まぁ、なんとなく言いたいことはわかったわ、近づいてブッ倒せってことなのね!」

 

噛み砕いていえばそうなのだが、そこまで単純に解されると不安で仕方がない。

本当に大丈夫なんだろうな……?

 

「それでは、そろそろ始めましょう」

 

いつの間にかブースに入ってきた古泉が場を仕切り、俺達はそれぞれポジションについた。

 

『Please set your GP Base』

 

そのナビ音が示す通り、ハルヒたちは機械にGPベースをはめ込む。

その直後にブースをプラフスキー粒子の青い光が包み、フィールドを形成していく。

 

『STAGE:Space』

 

と、発表されたステージに少し顔を歪める。

暗礁宙域や艦艇の残骸があるとはいえ、基本的にはだだっ広い宇宙だ。

遠距離から狙い撃ちされ続けたらいずれは摩耗して負けてしまう……これは些か不利な展開になってきた。

 

『Please set your GUNPLA』

 

そのことをハルヒは知る由もなく台座にガンダムMk-Ⅱをセットする。

粒子にスキャンされデュアルアイが光るが、その光には少々不安を覚えてしまう……。

はっきり言ってこのままでは勝算は低いのではないかと思えるほどだ。

だがもう始まってしまう……ハルヒももうボールを掴んでしるし、えぇいままよ!!

 

『Battle start』

 

「涼宮ハルヒ!!」

 

「ガンダムMk-Ⅱ!!」

 

「いくわよ!!」

 

俺の不安とは裏腹な元気な声を上げた後、カタパルトで勢いよく射出されるガンダムMk-Ⅱ……

さて……、この不利な状況、どう戦い抜くかな……。

辺りは漆黒に染まった宇宙空間、当然相手がいたらすぐわかるはずなのだが一向に見当たらない。

ハルヒは警戒しながらゆっくりとフィールドを周り、相手の機体を探し回っている。

と、その時、ハルヒのディスプレイに『CATION』警告文が現れ、ハルヒに危険を知らせているのだが、当のハルヒは慌てふためき、パニックを起こしている。

えぇい……ここは俺が何とかしてやらなきゃならんか。

 

「ハルヒ!ロックオンされているぞ!!とにかく避けろ!」

 

「えぇ……と、こう!?」

 

急な判断とは言えハルヒの機体は大きく上の方へ動いた。

その直後、それまでハルヒのいた空間をビームマシンガンが引き裂いていく。

流石狙撃型と呼ばれる機体だ、そのリーチは伊達じゃないな……。

こうやっている間にも、相手のゲルググJはどこからか俺達を狙って二撃、三撃とこちらを攻めてくる。

 

「うわったった……、ちょっとこのままじゃやばいじゃないの!!」

 

「落ち着けハルヒ……、幸いにもこの近くに戦艦の残骸がある、ひとまずそこに身を隠そう。

上手くいけば相手のロックオンが外れるはずだ」

 

「そ、そうなの?」

 

「あぁ、今までの攻撃を見ると大体の方向が解ってきた。

もしロックオンが外れなかったとしても相手の位置が大体わかる、その時はこっちも打って出よう。

なぁに、こっちにはシールドもあるし、多少強引に攻め込んだとしても問題はないだろう」

 

「うん、じゃあその作戦でやってみる」

 

そういうとハルヒはガンダムMk-Ⅱを、敵の攻撃をかいくぐりながら残骸の陰に隠れるように動かしていった。

残骸の陰に入ったところで目論見通りにロックオンが外れ、ひとまずは作戦を練るくらいの時間は稼げたというわけだ。

この残骸、元は戦艦というだけあって装甲は厚いし、エンジンでもやられない限りは爆散することはない。

 

「ここはひとつ待ち伏せでいってみよう」

 

「待ち伏せ?」

 

「あぁ、敵は急にロックオンがはずれてびっくりしているだろう、再度俺達を遠距離からチクチクいたぶるために何が何でもロックオンしようとするはずだ。

だが俺たちは、この狙いの定め辛い暗礁宙域へ身を隠し、相手が近づいてきたところをビームサーベルで斬りつける、というわけだ」

 

「う、うん、わかったわ……」

 

そう言ってハルヒはガンダムMk-Ⅱを慎重に慎重に動かして、相手の射程距離内に入らないように暗礁空域へと身を隠した。

 

「ちょっと~、これじゃ盛り上がらないんじゃないの~?」

 

相手の言い分もあるだろうがこちらにも事情というものがある。

ここはひとつ黙殺して、作戦を実行に移そう。

 

(ふむ、涼宮さんたちは暗礁空域へ行きましたか……、どうやら待ち伏せを選んだようですね。

確かに盛り上がりに欠け見栄えが悪い作戦というところに目をつぶれば、なかなかいい作戦といえるでしょう、また玄人好みの展開といもいえます。

ですが、その目論見は相手にもわかっているはず、あの女性はどう出ますか……)

 

「しかたないわね~、ちょっとだけ付き合ってあげるわ」

 

と相手のゲルググJも暗礁宙域へと徐々に、警戒しながら潜り込んでいった。

ハッキリ言ってこの待ち伏せ作戦、結構精神に来るものだとわかった。

息をひそめてなきゃ見つかるし、見つかって隙を見せれば終わりのこの作戦だ……。

あぁ……なんていう圧迫祭よッ!!精神が圧迫されるッ!!

こうして一秒が数分に長さが感じられるような緊張の中、ついにとうとう目の前にピンク色のゲルググJが現れた。

よし、この距離なら……。

 

「いまだハルヒ、いけッ!!」

「うん!」

 

阿吽の呼吸、とは言わないまでもそれなりにつるんできた俺達だ、何を意味するかは分かっていると思う。

ゲルググJの前に躍り出て、サーベルを振り下ろす……ハズだった。

何とハルヒは武器をビームライフルにしたままで、相手の前で躍り出たのだ。

いや、撃つなら撃つで構わないんだが、ハルヒも間違えたことを自覚してしまい混乱し、ようやくサーベルを引き抜いて攻撃を仕掛けた。

一撃目、上段からの打ち下ろし、二撃目、胴体を横薙ぎ、三撃目、コックピットへの突きを相手に見舞うはずだったのだが、ハルヒがパニックを起こした一瞬の隙を突かれて、わずかばかり相手に攻撃が届かなかった。

 

「せっかく待ち伏せしてたのに、残念だったわね~!」

 

というセリフと腕部からビーム・スポットガンと頭部からバルカンがこちらへ向けて放たれた。

しまった……こういう落とし穴があったなんて……。

機体にいくらかダメージを受けながらも、ハルヒはいつの間にかハイパーバズーカで応戦しようとするがここで戦うにはミスチョイスだ、すぐに弾丸は破裂して拡散弾となりゲルググJの脚部に傷を与えただけだった。

 

「あー、どうしよう、逃しちゃったわよ!!」

 

「そうだよなぁー操作慣れてないもんなー……

まぁいい、やっちゃったもんはしょうがない!気を入れ替えていくぞハルヒ!!」

「わかってるわよ!このまま逃がさなきゃいいんでしょ!!」

 

かといって大丈夫なものかなと、少し不安に思う。

待ち伏せがばれた以上、同じ作戦を取るのもアレだしこのまま暗礁空域内で機体を落とす!!

何とかゲルググJの機体をロックすることに成功し、武器をライフルに変えて狙撃。

フフフ……隕石を避けながら、こちらから逃げるのは辛かろう。

しかし三つの光線はゲルググJに掠ることはなく、その後ろにあった隕石を焼いてだけで終わってしまった。

 

「このぉ、ちょこまかと、逃げんじゃないわよ!!」

 

「さっきまで陰気な作戦取ってた人間に言われたくはないわねぇ!!」

 

「あれはアタシじゃないわよ!考えたのはキョン!!」

 

「だから、彼氏のせいにするのが情けないっていうのよ~、少しは自分でやりなさいよ、いくら初心者だって」

あぁ、今度はそういう精神行動できたかー、正直それやられるとハルヒにとって、いや、このチームにとって一番やられたくないことが……

 

「わかったわよ、やってやろうじゃないの!

キョン!しばらく何も言うんじゃないわよ!!」

 

くそぅ、やっぱりこうなるのか……、いかんいかんこのまま何もしないわけにはいかんし……

 

一足先に暗礁宙域を抜けたゲルググJ、その手には大型ビームマシンガンを装備しハルヒが出てくるのを今か今かと待っている。

一方それに気が付かないハルヒは見事に敵の目の前にその身を晒し、ビームマシンガンの餌食となってしまった。

 

「きゃああああああ!!」

 

ビームマシンガンの雨霰を受け、這う這うの体で暗礁空域へ逃げ帰るハルヒとガンダムMk-Ⅱ。

 

「ハルヒ!!

これで分かったろう、相手はお前の精神を煽っていくスタイルだ。

このまま頭に血を上らせて勝てる相手じゃない、まずはおちつけ、な!」

 

「うぅ……、で、でも……」

 

「いいから!

ここでストレス爆発させても仕方がないだろう!」

 

爆発……あれ、なんかさっきもその単語聞いたぞ……?

ここでゲルググJの位置と俺たちの位置を確認する。

さっきの教訓を生かしているのか、ゲルググJは残骸を背に、ちょうど暗礁空域からちょっと出て行ったところを陣取っている。

これは……再びチャンス到来かもしれん……。

 

「ハルヒ、機体を立て直せ、大丈夫か?」

 

「あんまり調子の方はよくないわね、このままじゃ嬲り殺しよ」

 

「じゃあ最後の博打に乗らないか?

なぁに簡単だ、目標はあの残骸のエンジンだからな」

 

「爆発させて体勢の崩した所を斬ったり撃ったりするんでしょ、ずるいんだから……」

 

「まぁそれが出来ればお慰みだ、頼んだぞ」

 

そうするとハルヒは、まるで某ガンアクションゲームのように身を隠してはゲルググJにちょこちょことライフルやバズーカで狙撃していった。

 

「どこ狙ってるの~?

こんな弾道見え見えよ~!」

 

などと向こうもこちらを更に挑発しながら、身軽に回避して安定性の高さを生かし、すぐさまビームマシンガンをお返しとばかりに見舞ってきた。

狙われる度に隠れる隕石を変え、ゲルググJに当たったらラッキー、そうでなくとも残骸の炉心に当たって爆発してくれればいいのさ!!

 

「まずいわね、いくらなんでも消耗し過ぎよ……」

 

ハルヒの言うとおり数度のアタックを繰り返したが、ゲルググJにまともに当たらければ一向に爆発する様子はない……。

こっちの場合はアタックのたびに受ける反撃で機体が少々まずいことになっていた。

 

「お願いっ!!」

 

何回も繰り返したこの行動、これが最後になってくれ、と祈りながらハルヒはありったけのビームライフルをゲルググJに撃ち込んだ。

相手には苦し紛れに見えたであろうこの攻撃も、すんなり躱され、後ろの戦艦の方へと吸い込まれていった、その時だった!

何回も何回もハルヒのライフルやバズーカを食らった船体のエンジンが、ついに臨界に達したのだ。

 

「え、え、なに?」

なんて答えを聞く前にその戦艦は爆発し、近くにいるゲルググJはその時生まれた爆風に吹き飛ばされ、大きく機体が焼け、体勢を崩していた。

 

「今だ、ハルヒ!」

「おうよ!」

 

なんて勇ましい掛け声をあげながらブーストし、ビームサーベルを引き抜いた。

相手は現状把握がまだできてないようで無防備な横腹をハルヒにさらしている。

 

「もらったぁーっ!!」

「ひいっ!?」

 

ガンダムMk-Ⅱが掛け声とともに無防備な腹をビームサーベルで刺そうとする、それはなんとしても避けようとするゲルググJ。

両者の間にどのような逡巡があったのかはわからない……だが、事実は……ゲルググJにサーベルが突き立てられているという結果に終わった。

刺さったサーベルはゲルググJの横腹から肩へと貫き刺さっており、見るからにコックピット部分を破損させていた。

それを確認するかのようにサーベルを抜き、一定距離を取った後、ゲルググJは爆散した。

それと同時に

 

『Battle END』

 

というナビゲーションが流れ、充満していたプラフスキー粒子も晴れて元のブースへと戻って行った。

 

「う、嘘よ……初心者に負けた……?」

 

まるで生気がない状態でぶつぶつと何かを言い始めているおねーさん。いかん、このままでは危険だ。

 

「ちょっと何よそんなにガチで凹んで、別に負けたってどうってことないじゃない……」

 

「いや、そういうわけでもないんだハルヒ、台を見てみろ」

 

台にはちょうどビームサーベルを持ったMk-Ⅱと脇腹を傷つけられたゲルググJがあった。

「うそ、これって……」

 

「あぁ、見たとおり戦いの結果さ。知らなかったのか?

ガンプラバトルはガンプラそのものを戦わせるからな、戦いで傷がつくのは当たり前、負けたとなるとかなりのダメージをガンプラに負わせることになる」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「謝るなんてのもナシな。

そうやって勝者の慰めの一言が敗者にとって一番痛いんだ、ここはひとつ普通に去るのが……っておい!?」

 

ハルヒは人の話を無視して、ズカズカとあのおねーさんの方へと歩み寄った。

当の本人は悲しそうにゲルググJを眺めている。

 

「あのさ」

 

「なによ、笑いに来たの?」

 

「違うわよ、お礼を言いに来たの」

 

「お礼?」

 

俺も頭の中の理解が追い付かない……また喧嘩を売りに行くと思ったが、今お礼って言ったか?

 

「そう、出会いとか、そのほかは最低だったけど、今こうして新しい趣味の世界が広がった!

とても楽しかった!そこに行くきっかけをくれたのは紛れもなくアンタなのよ!!

だからお礼を言いに来たの!」

 

「……わざわざこんなむかつく奴にお礼を言にくるなんて、あはは、おかしいの。

変わった子ね、あんた」

 

おねーさんも元気を取り戻しつつあるか……?と更に様子を見る。

 

「まぁ、いいわ、『今回』は私の負けにしてあげる。でも次は負けないわよ?

えーと、ハルヒとか言ってたわね……、今度は一対一で勝負よ!

今回は彼氏の策があっての勝利だって忘れちゃだめだからね?」

 

彼氏でもなんでもないんだが……これは余計な横槍いれないほうがいいのだろうなぁ……なんだか気が重くなってきたぜ。

 

「え、えと、その……」

 

ハルヒが言いよどむとお姉さんがハルヒに近づいていき、なにやらボソボソと一口二口言葉を交わしている様子。

しかし、ここからじゃ聞こえないし一体何の話をしているのか……?

まぁ、女同士の話に入って行くほど野暮じゃないし、聞いたら聞いたで痛い目見るのは火を見るより明らかなんでな……、十分に語り明かさせよう。

その間に俺達は台やブースの片づけをして、外へと出て言った。

 

「それじゃあ、なんか悪かったわね、いろいろ迷惑かけちゃって」

 

「いいですよ、たとえきっかけが悪くたって、また一人この道に来てくれる人がいるんですから。」

 

「あはは、二人しておんなじこと言ってる」

 

ぐぬ、これは失態だ。

まさかハルヒと同じようなことを言うことになろうとは。

 

「まだまだ粗があるけど、キミたち二人、結構いいコンビかもね~。

末永く続くといいわね」

 

なんかその言い方だと結婚するみたいな言い方なんですが!?

第一ハルヒは恋愛に関してあまりいい印象ないみたいだし、間違ってもそうはなりえんと思うが……?

 

「んじゃね、私はそろそろ行くわ

ここにもけっこう顔を出すつもりだから、暇な時にはまた遊びましょ」

 

「は、はい……」

そうして彼女はおもちゃ売り場の一室から姿を消した。

しかし今日は練習のつもりだけだったのに、なんだかんだ言ってガンプラバトルデビューまでしちまうとはな、おまけに白星デビューなんて幸先がいいとでも言っておこうか。

それなのに当のハルヒはというと、うつむいてしまいその表情が読み取れない。

一体何がご不満なのでしょーか、このお嬢様は?

 

「どうしたハルヒ、嬉しくないのか?」

 

「え……そういうわけじゃないんだけど、なんか複雑なのよ」

 

その気持ちはわからんでもない、基本的に相手に勝つ=相手のガンプラをきずつけるだからな。

 

「そーだな、複雑だな。

だがハルヒ、せっかくの愛機を壊されたくないからこそ、ガンプラを作る作業にも身が入るとは思わないか?

前にも言ったとおり、『めんどくさい』、『これでいいか』なんて一言で手を抜いた瞬間に勝利の女神さまはそっぽを向いて、バトルに負けちまうって。

お互い全身全霊で作ったガンプラを使ってバトルするからこそ、そこにはかけがえないものが生まれる。

現にお前は、あの喧嘩したお姉さんにもうわだかまりなんてないだろう?」

 

「……うん、そうね!そうよね!

アンタにしてはまともなことを言うじゃない!」

 

と、俺の背中を思い切り叩き、古泉や朝比奈さん、長門の元へと駆けていくハルヒ。

全く失礼な、俺はいつもまともだっつーの。

と、痛む背中に手を当てつつ、俺もハルヒたちの元へ合流するのであった。

 

 

 

 

 

 

 


 
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