No.711473

ソードアート・オンライン アクチュアル・ファンタジー STORY23 主役交代 

やぎすけさん

囚われた主役たちに代わり、Mrチートの男が動き出す。

2014-08-26 19:31:48 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1008   閲覧ユーザー数:986

STORY XXIII 主役交代

 

 

 

ベリル視点

キリトたちを吸収し終えたクリスタルが、1回だけ点滅した直後にその姿を変え始める。

手足や体が完成し、瞬く間に全長100m以上はある人の姿になった。

すると、青く半透明だった表面が徐々に色を変え、クリスタルから大理石のようになっていく。

全身を変質させたそれはゆっくりと目を開けると、轟音を上げながら上空へと舞い上がった。

そして建物の上空に浮遊した巨人の背中に淡い金色の光を発する翼が生え、右手には剣が形成する。

その様子を真下で見物していた俺は、自分のイメージとは違っている教団の“神さま”の姿に顔をしかめていた。

 

ベリル「あれが神様?悪趣味なデザインだな。センスの欠片もありゃしねえ」

 

クリスタルの状態では得体が知れなかったが、こうなって見るとすぐに理解出来る。

巨大な人型の兵器。

別に警戒も期待もしていなかったが、正体がわかってしまうと拍子抜けしてしまう。

 

シュヴァル「がはっ・・・」

 

教団の秘密兵器を眼で追っていると、背後でくぐもった呻き声聞こえた。

振り返ると、シュヴァルが風穴の空いた腹から大量の血を流し、むせ返りながらも立ち上がろうともがいている。

すでにHPは消滅していて、もう助けることは出来ない。

あとはこの男の気力が尽きれば、その命は無に還るだけ。

彼の顔は青ざめてきていて、もう気力もほとんど無いのだろう。

 

ベリル「あれは何処に向かった?完成したんだろ?」

 

俺はシュヴァルの元に歩み寄り、飛翔する神(笑)を親指で指す。

シュヴァルは傷口を押さえながら、瓦礫を支えにして震える身体を立ち上がらせ、視線を俺に向けると荒い呼吸のまま答えた。

 

ガリス「奴らは“ゲート”を開くつもりだ」

 

ベリル「ゲート?」

 

シュヴァル「破壊神を封印する鍵だという柱“フォースゲート”だ。その1つがあの街にある」

 

ベリル「ふ~ん・・・で、それを開いてどうするつもりなんだ?」

 

シュヴァル「奴らは“夜空の剣”でゲートを開き、そこから溢れ出る力を神に与えて無敵化する」

 

ベリル「つまりはそのゲートってのは、それ封じるまであのデカブツをぶっ壊れなくする延命措置ってわけか。面倒なことだな」

 

あの巨大さで、内部にもろもろのエネルギー源があるなら攻撃力は十分なはず。

その上で破壊不能(イモータル)オブジェクトとなれば、確かにほとんど無敵に近い。

そんなものをあの小物が欲しがる理由と来れば、

 

シュヴァル「教団の目的は・・・心正しき者だけが生きられる理想郷の創造だ・・・」

 

そんなことだろう。

 

ベリル「要するに、救済とかいう建前に包んだだけの、体の良い世界征服ってわけか。ふん、いかにも小悪党のやりそうなことだな」

 

俺は鼻で笑って、肩を竦める。

そんな俺を見ていたシュヴァルが、何故か小さく微笑んだ。

 

シュヴァル「今、奴らを止められるのはおそらくお前だけだ・・・ベリル・・・」

 

ベリル「敵のはず俺に期待するってのは、どうなんだ?」

 

シュヴァル「ふっ・・・我ながら、情けなく思うよ・・・」

 

ニヤリと笑って返してやる俺に、シュヴァルは小さく笑った。

何度も咳き込み血を吐くシュヴァルは、もはや立っていることすら危うい状態になっている。

 

シュヴァル「こんなこと言えた義理ではないことは、理解している。だが、それでも、頼む・・・アスナと、彼女を助けるようとした2人を・・・救ってやって欲しい・・・」

 

俺の肩に手を掛け、息も絶え絶えに懇願した。

 

シュヴァル「それと・・・アスナに・・・伝えてくれ・・・」

 

ベリル「?」

 

シュヴァル「たとえ偽りの兄妹としてでも、君と過ごせて楽しかったと・・・」

 

そこまで言い終えて力無く倒れ込んでくるシュヴァルの眼には、涙が溜まっていた。

俺は倒れてきたシュヴァルをそっと支え、次いで外した仮面を彼の顔に着ける。

驚いた様子でゆっくりとこちらを見るシュヴァルに、再びニヤリと笑いかけ、

 

ベリル「誇り高い騎士様に、涙は似合わねえよ」

 

と言った。

シュヴァルは力無く笑うとすぐに力が抜け、そのまま永久(とわ)の眠りについた。

彼の亡骸は無音のまま仄かな白い光に包まれ、無数の光となって消滅していく。

それはまるで天使の最期を思わせるような、美しくも儚い死に様だった。

風に吹かれて消えていく光の粒を、俺はただ黙って見送る。

やがてそれらが完全に消えた後、彼がいた場所には彼の剣と俺が着けた仮面が転がった。

ゆっくりと立ち上がった俺は静かにそれらを拾い上げ、剣をその場の床に突き立て、その鍔の上に仮面を置く。

一歩下がって数秒間の黙祷を捧げ、眼を開いてから頷いてから静かに言った。

 

ベリル「・・・わかったよ」

 

踵を返して歩き出し、その後はいつものしゃべり方で続けた。

 

ベリル「遺言じゃ仕方ない」

 

そう言い残して、俺はその場を後にした。

シュヴァルの最期を看取った後、神(笑)の行く先を確認するため俺は建物のてっぺんに上がってきた。

屋上に辿り着くと、あのデカブツの姿はすぐ見つかる。

しかし、その下には思いがけない光景が広がっていた。

 

ベリル「なんだありゃ?」

 

街の上空に、巨大な黒い球体が完成している。

球体からは同じく黒い電撃が3本、本部前の森とプラント、そして街の近くの林に向かって伸びていた。

さらに街の外れに建っている高さは約50m、幅は直径8mぐらいの巨大な柱の先からは、青白い光が空に向かって一直線に伸びている。

 

ベリル〈あれがフォースゲートって奴か・・・〉

 

シュヴァルの話が正しいとすれば、あれが解放されている限り、神(笑)は無敵らしい。

だとすれば、あれもその内ぶっ壊すことになるだろう。

と思考を巡らせていたその時、街の上にあった球体から何かが滝の如く溢れ出した。

すぐに懐から双眼鏡を取り出して、流れ出たものを見てみる。

するとそれは、多種多様なモンスターの大群だった。

鎧を着た二足歩行型のトカゲや骸骨、岩石のような鎧甲を持つゴーレム、巨大なハチやアリといったものまで何でもござれ。

 

ベリル「こりゃ凄げぇや・・・モンスターの大移動だな」

 

俺が呑気に呟いている間に、溢れ出たモンスターの波が街に覆い被さり、瞬時に街はモンスターに覆い尽くされた。

それらはやがて暴れ始め、住民たちを蹂躙していく。

だがそこへ、頭上に教皇(イカレジジイ)を乗せた神(笑)が登場した。

神(笑)は握った剣を街に向けて、その切先にエネルギーをチャージする。

次の瞬間、そこからレモンイエローの雷を帯びた強烈な光が放射され、それは住民に襲い掛かるモンスターを焼き払い、一瞬にして白い灰に変えた。

モンスターの一掃を確認した教皇(イカレジジイ)は、満足そうに頷いて街を見渡す。

 

教皇「フォルスの民よ!恐れることはない!皆を救うために私は戻った!偉大なる神と共に!」

 

遠方からでも微かに聞き取れるその言葉に、俺は苦笑しながら拍手していた。

教皇は高らかに叫び続ける。

 

教皇「さあ、賛歌を歌い、そして祈るのだ!世界はまだ終わっておらぬ!」

 

酷い自作自演だ。

自分たちでモンスターを呼び出しておいて、それを殺して英雄を気取る。

あまりにも滑稽なその様子に、俺は思わず吹き出しかけていた。

 

ベリル「ぷっ・・・素晴らしい演技力だなあの老いぼれ。ありゃ、教皇なんて辞めてコメディアン目指した方が良いんじゃねえか?まあ、客は固まるか苦笑するかしかしないだろうがな」

 

これで住民を巻き込んでなかったら、俺は腹を抱えて転げ回っていただろう。

これまでにも、自分こそ絶対の正義だとか自分は真の英雄だとか、そう思い込んでいる勘違い野郎には会ったことがあるが、ここまで露骨な自作自演で英雄ぶって、しかも小悪党丸出しの高笑いをしている(ゴミ)はかなり珍しい。

 

ベリル「まっ、すぐに叩きのめしてやるから、それまでせいぜい頑張って住民守っててくれよ」

 

双眼鏡を仕舞い、剣を背負い直して立ち上がる。

さっき見た限りでは、神(笑)の周りに取り巻いていたあの鎧騎士(ガラクタ)も住民を守るために降下して戦っていた。

奴らが戦ってくれるなら、特に住民を心配する必要はないだろう。

だとすれば、俺がやることは4つ。

1つ目が、アスナとかいう嬢ちゃんの記憶の結晶を回収してテラーメモリー(あの板切れ)をぶっ壊す。

次に2つ目が、教団が持ってっちまったウィアード・アーティファクト“夜空の剣”の奪還。

それから3つ目は、神(笑)を無敵化させてるフォースゲートの封印or解体。

最後に4つ目が、神(笑)と教皇(もうろくジジイ)をブチのめして、坊やたちを叩き起こす。

といったところだろう。

 

ベリル「さて、やることも決まったし行くか・・・」

 

歩み出した俺は、そのまま屋上から飛び下りる。

傍から見れば自殺行為以外の何ものでも無いが、俺にとっては近道程度にすぎない。

俺は飛び下りた状態から体勢を変え、建物の壁を蹴って走る。

半ば重力を無視した動作だが、今の俺のダッシュには落下によるも加速もかかっているため、尋常ではない速度で地面が迫ってくる。

 

ベリル〈そろそろかな?〉

 

地上まであと3mというところで、俺は走っていた壁を強く蹴りつけて反転、今度は逆方向に1度駆け上り、そこから後ろ向きにジャンプ。

空中で1回転しつつ、俺は無傷での着地を成功させる。

 

ベリル「最初は森から順々に当たって行くか」

 

呟いてから、俺は軽い足取りで進路を森へと向けて歩き出した。

 


 
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