第36話 決戦、アドミニストレータ
キリトSide
元老長であるチェデルキンとの戦闘を整合騎士団のみんなに任せ、俺は96階に向けて階段を駆け上がった。
途中で爆音などが聞こえ、戦闘の気配も伝わってきたが彼らを信じて進む。
そして階段を登りきったところに薄暗い通路があり、気配を周囲に馴染ませながら通路を進んでいると黒い扉があった。
扉の前に見慣れた小柄な人影を見つけ、声を掛ける。
「カーディナル」
「おぉキリト。すまぬな、苦労を掛けさせた……ユージオはどうした?」
「生きてはいるが途中で重傷を負った。薬がもう無くなったから騎士たちに任せて俺だけ先行してきたんだ」
「そうか…いや、お主の強さならば問題はないじゃろう。
ここから先には真実があり、最上階にはこれまでの元凶がおる。行くぞ」
元老院に真実がある、という言葉に重いものを感じた。
真実というのがこの世界における事象に関してだとは思うが、正直この世界自体のことを俺は詳しいわけではないからな。
カーディナルが扉のドアノブに手を掛けて扉を開き、彼女の後に続いて俺も足を踏み入れた。
狭い通路が続き、奥に見える広間に近づくにつれて呪詛のような声が聞こえてきた、どうやら神聖術のようだ。
さらに食べ物が饐えたような匂いもして、僅かに顔を顰める。
そして『元老院』と呼ばれる薄暗い広間に入り込み、その光景に戦慄した。
直径にして約20mもある円形、恐らくカセドラルの3層分はあるだろう。
ランプの類は存在せず、壁のあちこちで瞬く仄かな紫の光だけが広間を照らしている。
その紫の光はと言うと『ステイシアの窓』であり、その奥にある球体の正体は人間の頭であった。
壁越しに生えているようにも見えるが、実際には壁に据え付けられている四角い箱に体が収納されていることがわかる。
顔は生白く、頭髪も髭も眉毛といった毛の1本もないうえに、眼球は硝子玉のようである。
それらは全て、術式を唱えながらウインドウを見つめている。
「コイツは俺とユージオが禁忌目録を破った時の……コイツらが、元老なのか…」
「その通りじゃ。人界の各地より神聖術に秀でた者達が拉致され、
感情や思考、記憶などを全て封じ奪われ、元老という名の監視装置に作り変えられた…」
「助けることは、出来ないのか…?」
「管理者権限を取り戻すことができれば可能かもしれぬが、既にフラクトライトが壊れているやもしれぬ、
助けだせたとしても罪の意識に耐え切れず精神が崩壊するやもしれぬ」
さすがの俺も動揺を隠しきれず、同時に隠しきれない怒りが湧き上がるが、そんな俺に気付いたカーディナルが言葉を続ける。
「全てが終わった時、わしが責任を持って対応する。じゃからいまは先に進むぞ」
「あぁ…」
俺を気遣ってくれたんだろう。
そう思いながら、俺は二度とこんなことを起こさせてはならないと判断し、カーディナルと共に移動を再開することにした。
広間の奥には入り口と同じような通路があり、俺はカーディナルの後に続いていく。
狭い通路の先には大きな部屋があり、中は趣味が悪いというほどに奇怪な部屋だった。
なにせありとあらゆる家具が下品なまでの金色に輝き、どぎつい原色のぬいぐるみが多数あり、
その他にも積み木や木馬や楽器など、まるでセントリアのおもちゃ屋のようだ。
「ここは元老長のチェデルキンとかいう奴の部屋らしいぞ。そこの金の箪笥の奥に上へと続く隠し通路があるらしい」
「あ~、あの丸い肉団子の…。通りで趣味が悪いと思った」
説明されたものの誰の部屋か知ってしまったので悪態を吐く。
戦闘はまだ続いているのだろうか?ユージオは、アリスは、
騎士たちは無事なのかと気になりつつも彼らならば大丈夫だろうと信じる。
カーディナルが金の箪笥をスライドさせたことで小さな隠し通路が現れ、今度は俺が前で彼女が後に続く。
警戒は緩めないで通路を進んでいくと上り階段が見え、周囲を確認してから階段へと足を踏み入れた。
先程の元老院が96階から98階の三層を占めていたため、長い階段を上った先は99階なのだろう。
俺たちは急ぎ階段を駆け上り、一気に99階と思われる部屋に辿り着いた。
「ここが99階か……上に行く方法があるんだろう?」
「察しが良いな、こうするのだ」
カーディナルは『光素』を1個生成し、それを壁際のある箇所に投げつけた。
すると光素が当たった場所に直径1mほどの円が浮かび上がった。
光の円が薄れ、少し待っていると円形に大理石が滑らかに突出し、厚さ50cmほどの石盤となって降りてきた。
「なるほど、こういう仕組みだったわけか」
「うむ……さて、キリト。おそらく、この昇降盤を動かしたことでアドミニストレータはわしらの存在に気付いたじゃろう。
ここに来るまでは疑似管理者権限で騙していたが、上に行けば戦いになる……準備は良いか?」
カーディナルの言葉に俺はようやく終わりがすぐ側まで来ていることを実感した。
この先にいるアドミニストレータを倒せば、長かった俺の旅が終わる……ようには思えないのが俺の勘なのだが…。
ともかく、奴を倒して一段落することが重要だな。
「システム・コール、オブジェクト・ソード、『エリュシデータ』。
システム・コール、オブジェクト・ソード、『ダークリパルサー』」
SAO時代に俺が表向きで愛用していた2本の剣を召喚する。
それを背中に交差させる形で背負い、左腰に据えていた『黒剣』は横向きにして腰に据える。
さすがに少し重いが問題は無いだろう。
「それがお主の本来のバトルスタイルか……では、いいな?」
「あぁ、行こう」
俺たちは赤い絨毯の敷かれた昇降盤に乗り、最上階である100階の『神界の間』を目指す。
昇降盤が浮き上がり、俺たちは警戒を最大限に高めながら到達を待った。
昇降盤が最上部へ到着し、俺たちはついに100階の神界の間へ到達した。
使用した昇降盤は南側の物らしく、広間の端に浮上してきた。
広間の全体が昇降盤の物と同じ赤い絨毯が使用されており、
広間を囲んでいるのはいままでの大理石ではなく約40mもの柱と硝子窓、
天蓋には創世記の神話を絵物語にしていると思われるものが描かれており、
その絵の中の人には小さな水晶が散りばめられている。
そして広間の中央には天蓋付きの丸いベッドが置かれており、僅かにだが人影が見える。
そのベッドに向けてカーディナルは掌を向けると巨大な火球を出現させてそれを放った。
相手が相手なだけに先制攻撃というのも分かるがなんとも凄まじい一撃なことで…。
なにせ放たれた火球はベッドを一瞬で飲み込み、広間の中央を焼き尽くしたわけだ。
しかし、何かに払われる形で炎が振り払われ、ソイツが姿を現した。
「あらあら、随分な挨拶の仕方ね……お久しぶり、リセリスちゃん」
「わしをその名で呼ぶな! そのまま消え失せてくれれば良かったものを、クィネラよ」
カーディナルがリセリスと呼ばれた、おそらくその名が“いまの”カーディナルの姿をしている少女の本来の名なのだろう。
そのカーディナルは全裸の痴じy…もとい、美女をクィネラと言った。
「私はアドミニストレータ、全てのプログラムを管理する者よ」
「わしの名はカーディナル、貴様を消し去るために存在するプログラムじゃ」
互いに訂正と牽制をするために今の名を名乗り合う。
アドミニストレータ、奴こそがこの世界における事象の元凶。
民を、整合騎士を、元老を、それにアリスを利用し、己が欲望の為に思いのままにしたという…。
「イレギュラーの坊や。
詳細プロパティを参照できないのは非正規婚姻から発生した未登録ユニットだからかと思ったのだけれど、違うわね。
あなた、あっちから来た“向こう側”の人間、そうでしょう?」
「その通りだよ。それにしても下品なモノを見せるな、この痴女。不快だ」
「なっ!?」
「キ、キリト? ど、どうしたのだ、お主…」
アドミニストレータの問いかけに答えると同時に俺は奴に毒を吐き、奴は愕然としている。
全裸でしかも隠そうともせずに堂々として見せつけている、これを痴女と言わずしてなんと言うか。
俺が明日奈以外の奴の裸で興奮するなど有りえない。
「痴女が嫌なら淫乱か? 淫乱が嫌なら変態か? どれもお似合いだな」
「こ、この、私に…なんという、口を…!」
「黙れ、不快だと言ったのが聞こえなかったのか淫乱変態痴女」
「きさ、まぁ…!」
怒り心頭か?お生憎と怖くもなんともない。むしろ怒り心頭なのはこっちだ。
現実世界の肉体的時間にすれば1日と少し程度かもしれない。
だが俺自身の精神は2年間以上もこの『アンダー・ワールド』で過ごして良い出会いもあったが、
イゴームやらライオスやらウンベールやらチェデルキンやら碌でなしと会った挙句、
嫌がらせに加えて親友や後輩を傷つけられたこともある。
元を正せばこの世界で止められたはずの事象を止めなかったのはコイツで、つまりこの世界の元凶はコイツだ。
明日奈にもユイにも、家族にも他の親友にも仲間にも会えず、ストレスが溜まる速さはかなりのモノだ。
だがそれも、今日、いま此処でコイツを倒せば帰れる。
目的が果たせるだけあって気分が良くなり、上がり始めているのが自分でも理解できる。
「事前に長ったらしいこの術式を組み上げておいて良かったわ……さぁ目覚めなさい!
私の忠実なる
《武装完全支配術》の神髄である《記憶解放》、それを発動させたアドミニストレータ。
直後、広大な広間を取り囲む何本もの柱から、きん、きん、というような金属音が聞こえた。
柱には黄金色に輝く大小様々な模造剣が取り付けられており、金属音はその剣たちが小刻みに震えることで発せられている。
その総数にして約30本。
「まさか、この剣全てが…!」
悟った瞬間、巨大な剣たちが柱から離れ、続けて他の大小にも及ぶ剣たちも柱を離れた。
全ての剣たちが最高司祭の上空に寄り集まり、金属音を放ちながら接触して組み合わさり、巨大な塊となっていく。
その形は人のようであり、中心を貫く太い大剣は背骨、左右に伸びる長い剣は腕、下側には4つの脚、
胴体部分は幾つもの剣が肋骨を成しているようにも見え、身の丈にして約5mと言ったところだ。剣の怪物かよ…!
そしてアドミニストレータは『
それを剣の巨人の背骨を構成する3本の剣に向けて投げた。
「させぬ!」
カーディナルが右手に持つ杖を翳すと轟雷が発生し、それをアドミニストレータに向けて放った。
しかし、奴も轟雷を発生させてぶつけ、相殺させた。どっちも凄まじい威力だな。
結果、『敬神モジュール』はそのまま剣の巨人に吸収され、人間でいうところの心臓部に到達した。
すると、模造剣であったはずの剣たちの刃が鋭利な刃に変化し、正真正銘の剣と化した。
剣巨人は4本の脚を広げると地響きを轟かせて床に着地した。
「うふふふふ…。これぞ私の求めた力、永遠に戦い続ける純粋な攻撃力。
名前は『ソード・ゴーレム』、剣の1本1本が神器級の優先度を持つ最強の兵器よ」
満足そうな笑みを浮かべるアドミニストレータ。
それに対し、カーディナルが憤怒を明らかにした表情を浮かべ、話し始める。
「貴様は、なんと…なんという非道な真似を! 統治者である貴様が、守るべき民を剣人形に変えるなど!」
「なん、だと…」
カーディナルが告げた事に俺は元老院の時以上の戦慄を感じた。
この『ソード・ゴーレム』と呼ばれた剣の巨人が民……
「2人とも良い表情だわ。ええ、折角なのだから死ぬ際のお土産に教えてあげる」
カーディナルの怒りと俺の絶句の表情に対し、アドミニストレータは愉快そうな笑みを浮かべて話し始めた。
300個のヒューマン・ユニットを、つまり300人の人間を物質変換したという。
さらに、これが完成するまでにも幾人ものフラクトライトが崩壊し、あくまでもプロトタイプだと言った。
加えて完成型を量産するには負荷実験も含めて人界の民の総人口の半数である約4万人もの人間を剣人形に変えると言う。
それらを以てすれば、『ダークテリトリー』に攻め入り打ち勝てると。
そして天蓋に描かれた絵に埋められている水晶、アレらは整合騎士たちから奪われた『記憶の欠片』だと言う。
フラクトライトの共通パターンを利用した、それは整合騎士たちの記憶に刻まれた最愛の人間自身をリソースに剣を作った、と。
それが誰かを俺が把握しているのは、エルドリエの母親と死んだと思われているデュソルバートの妻だ。
そしてフラクトライトがリンクし合う強い想い、それは人々の願い。
“触れ合いたい”、“抱き締めたい”、“愛し合いたい”という人の想いを欲望と奴は言い放った。
それをカーディナルが“純粋な愛”だと言い、俺も同感だと思う。
だが、その強い想いを贄として生み出したのが、『ソード・ゴーレム』だと…。
俺は自分の心が怒りと共に何かと調和したことを感じ取り、いまならば
エリュシデータとダークリパルサーを抜き放ちながら奴に向けて斬り放った。
「一体なに、あぐっ!?」
距離のある場所で剣を振った俺にアドミニストレータが怪訝な表情を浮かべたのも束の間、奴の両頬が斬り裂かれて傷が出来た。
その光景にはカーディナルだけでなく、斬り裂かれたアドミニストレータ自身も動揺している。
「なにを、したというの…!」
「『
「
俺の回答にカーディナルはそう呟いた。どうやら似た技法があり、俺の技法はその応用に見えるらしい。
「なんなの、あなた……訳が分からない…」
「なんだ? 詳細プロパティが見られないことがそんなに不安か?
そう言えば名乗ってなかったな、俺はキリト。
【黒の剣士】、【漆黒の聖魔剣士】、【漆黒の覇王】とか呼ばれるが、個人的には【
あとは流派から与えられたもので【
ついでに言わせてもらうが、俺は“向こう側”からお前を始末するために来た殺し屋、ともいえるかもな」
最後の言葉に動揺するアドミニストレータ。
当然だろう、まさか自由にやれて居たところを始末されるために干渉されるとは思わなかったはずだ。
そんな奴だが、さすがに怒りがあるのだろう。表情を憤怒のものに変えている。
「ふざけないでちょうだい…! 都合が悪くなったからと始末する…? 私は箱庭の人形で居るつもりはないわ!」
「前者に関しては確かにこっちの都合だが、
強いて言うなら、お前はやり過ぎた……いまならまだ止まれる、カーディナルに管理者権限を返せ」
「そんなもの、お前たちを消せば問題無いわ!」
拒否を示したアドミニストレータは細剣を出現させて臨戦態勢に入り、ソード・ゴーレムも戦闘態勢になる。
「そうか……カーディナル、お前はソード・ゴーレムを抑えてくれ。
「それは可能じゃが、奴との決着は…」
「ソード・ゴーレムの心臓である敬神モジュール、アレは俺ではどうにもできない。
だがカーディナル……キミの疑似管理者権限なら
「っ、確かにわしにしか出来ぬことじゃな…。良かろう……
「おう」
小さく言葉を交わしたあと、俺は再びエリュシデータとダークリパルサーを構え、カーディナルも臨戦態勢に入る。
同時に俺は自身の枷を外して全力と本気を出し…、
「行くぞ!」
「来なさい! 消し飛ばしてあげるわ!」
カーディナルと共にアドミニストレータとソード・ゴーレムとの決戦を始めた。
キリトSide Out
No Side
駆け出したキリトは瞬時にソード・ゴーレムの足元に到達した。
そこでエリュシデータとダークリパルサーを振りかぶり、《二刀流》ソードスキルである《エンド・リボルバー》を放った。
ソード・ゴーレムの4本脚に大きな衝撃が奔りバランスが崩れ、
倒れ掛かった瞬間にカーディナルが神聖術の白い雷を放ち、ゴーレムを焼いた。
ゴーレムの動きが止まったことでキリトは再び駆け出し、宙に浮くアドミニストレータに向けて飛び上がって斬りつけた。
「くっ…無茶苦茶ね、お前!」
「そいつはどうも……らぁっ!」
アドミニストレータは細剣で受け、鍔迫り合う2人だがキリトは自身の体が落下する勢いを利用して力を加え、そのまま押し切った。
彼女は思わず後退しながら床に着地し、続けてキリトも降り立つ。
キリトは降り立った時の屈んだ姿勢を利用し、脚に力を込めると爆発させるように一気に前進した。
一瞬でアドミニストレータの目前に迫ると右手で握るエリュシデータで斬り掛かり、彼女はそれを細剣で受け止めた。
だがキリトは即座に左手で握るダークリパルサーで斬りつけ、
黒剣を弾いたアドミニストレータはすぐに白剣を細剣で受け止める。
直後、キリトの表情が獰猛な笑みへと変貌し、膨大な威圧感が発せられた。
その威圧感にアドミニストレータは一瞬だけ身を竦ませてしまい、そこからキリトが猛攻を始めた。
弾かれた黒剣を振るい斬りつけ、今度は白剣が弾かれるも振るい斬りつけ、2本の剣を用いて数多の攻撃を行う。
斬り下ろし、斬り上げ、右水平斬り、左水平斬り、斜め斬り下ろし、
斜め斬り上げ、袈裟斬り、薙ぎ払い、突き、などの様々な一撃を繰り出す。
アドミニストレータはそれを辛うじて防いでいく。
彼女自身の筋力はキリトに到底及ばないものの剣速では彼に僅かに勝り、
何百年もの間に積み重ねてきた経験によりなんとかキリトの連撃を防いでいた。
しかし、一切の反撃が許されない状況である。
幾ら防いでも、幾ら弾いても、続けざまにもう1本の剣が襲い掛かってくる。
時折、キリトは2本同時に斬りつけることもするが、
それはアドミニストレータが避け切れない時のみであり、防御に徹するしかない。
さらに回避できたところで続けざまの剣撃が迫るために反撃に移れる隙すらできないのだ。
(なんなの、コイツ…! 『向こう側』から来たのは間違いないわ…けど、本当に人間なの!?)
最高の戦闘力、最高の神聖術、最高の美貌、あらゆる才能を誇るアドミニストレータ。
そんな彼女だが、徐々に、徐々に、その精神を恐怖に覆われていく。
詳細プロパティが見られないだけでなく、己をも圧倒しているかと思われる戦闘能力、
自身の肉体に施した金属オブジェクト用の防御システムが防げない斬撃で傷を付け、
訳も分からない威圧感を放出し、反撃することも出来ずに防戦一方となる、そんな現状が彼女を追い詰めていく。
アドミニストレータ自身にも恐怖は元々あった。
だが、彼女自身がそれを感じたことはこの数百年間において永遠の若さを手に入れて以来一度もない。
その時の恐怖も“死”に対するものではなく、美貌を失う原因である“老い”に対するものだった。
しかし、いまの彼女に襲い掛かる恐怖は“老い”に対するものとは桁違いであり、初めて“死”への恐怖というものを感じていた。
そしてそれを与えているのは彼女からしてみればひどく恐ろしい相手なのだ。
「っ、私を助けなさい! ソード・ゴーレム!」
そのため、アドミニストレータは距離をあけてからソード・ゴーレムに救援を求めた。
キリトたちが戦闘を行う反対側ではカーディナルがソード・ゴーレムと戦闘を繰り広げていた。
本来は守るべき民であるために彼女ではゴーレムを破壊することは出来ないが、
疑似管理者権限ならば、『敬神モジュール』を取り除いて行動不能にすることは出来る。
ゆえにカーディナルは発動する神聖術の威力を相手の行動に支障が出る程度に抑えて行使し、ダメージを与えていた。
ゴーレムは轟雷や爆発を受けても瞬時に再生するがカーディナルにとっては足止めをし、隙を作ることができればいいのだ。
だがそこで、アドミニストレータがソード・ゴーレムに救援を求めた。
彼女の言葉を聞き、ゴーレムがそちらに向かおうとする。
自身への注意が逸れた、それを悟ったカーディナルはすぐさま新たな神聖術を発動する。
「させると思うたか!」
カーディナルの持つ杖が輝いて発動した神聖術は鋼の鎖が幾重にも伸びる物だった。
無数の鎖はアドミニストレータの元へ移動しようとするソード・ゴーレムの体に絡みついていく。
次々と絡む鎖は小さな剣に引っ掛かり、突き出た刃に嵌まるなどしてゴーレムの動きを止めてみせた。
だがそれだけでは神器級の剣が30本も集まった剣の巨人を止められるはずもない……ゆえに、彼女は策に出た。
「キリト! 短剣を寄こせ!」
カーディナルの言葉に疑問を浮かべることなくキリトは巧みに片手の剣を放すと、
懐から短剣を取り出して本来の持ち主である彼女に投げ渡した。
受け取ったカーディナルは動きを制限されているゴーレムの背後に回り込み、背骨を構成する大剣に向けて突き刺した。
すると、突如としてソード・ゴーレムの動きが完全に停止したのである。
「そんなっ…!?」
「やはりか…!」
自身に忠実なはずの剣の巨人が己の命令も無しに動きを止めたことに驚愕するアドミニストレータ、
一方でカーディナルは自身の推測が間違っていなかったと判断した。
ソード・ゴーレムの微弱な思考はフラクトライトの共通パターンであり、本来の姿は人間である。
ならば、この短剣を刺せば強制的に眠らせることも可能なのではないかと考えた。
カーディナルはアドミニストレータに金属オブジェクトが効かないことを既に知っており、
ならば奴に使わない方が良いということにも思い至った。
そして彼女は疑似管理者権限を利用し、短剣の優先度を神器級に跳ね上げて強化し、突き刺した。
結果、その推測は的中し、ゴーレムは完全に沈黙したのだ。
「いま助けてやるぞ…」
カーディナルは沈黙したソード・ゴーレムの背後から『敬神モジュール』の埋め込まれている心臓部に手を入れた。
紫色に発光する三角柱を掴んでそれを引き抜き、破壊した。
ゴーレムは僅かに動いたのち、まるで糸が切れた人形のように動かなくなった。
疑似管理者権限ではアドミニストレータを倒すどころか、管理者権限で施されたプログラムを破壊することはできない。
だがそれ以外の、この世界における術の範疇であれば、疑似管理者権限でも十分に術を解くことは可能なのだ。
「なぜ……なぜお前が、管理者権限を実行できる!?」
「なんの為に俺がこの世界に来たのか、それは言っただろう?」
「お前、お前が……お前が来て、私の全てが狂いだしたぁっ!」
最早、アドミニストレータは冷静ではいられなかった。
自身の最大の剣にして盾でもあるソード・ゴーレムが完全に無力化され、己は圧倒的な力を持つ存在に鎮圧されようとしている。
怒りを露わにし、先程まで感じていた恐怖を誤魔化すことしかできないでいた。
細剣を構えて駆け抜け、キリトに肉薄して斬り掛かるアドミニストレータ。
その剣閃は先程の防戦一方な時とは異なり、洗練された動きを見せる。
同時に凄まじい憤怒や憎悪、様々な負の感情が全身と細剣に乗せられている。
「まだ終わらないわ……
「クィネラよ、それがお主の本性ということか……わしらが引導を渡そう!」
「神に
さぁ、決着を付けさせてもらうぞ、アドミニストレータ!」
負の感情を全身に宿すアドミニストレータ、鎖でソード・ゴーレムを抑えたまま杖を向けるカーディナル、
そしてエリュシデータとダークリパルサーを構えて『覇王』の『覇気』を解放するキリト。
「神霆流師範代【舞撃】のキリト、参る!」
名乗り上げと共に、真なる決戦が再開した。
No Side Out
To be continued……
あとがき
はい、ついにアドミニストレータ戦が始まりました・・・決着は次回ですけどねw
疑似管理者権限を持ったカーディナルによってゴーレムは機能停止になりました。
書いていた自分でもそこそこ納得できた理由だと思っています。
肝心の戦闘は次回でキリトが無双するのでお楽しみに~。
ただ個人的には書いていて楽しかったのはキリトがアドミニストレータに対して痴女やら言ったところですがw
そして今回のアニメのSAOも面白かったですね、特にキリト(ちゃん)の・・・、
キリト「キミ達・・・・・・応援してね♥」
には盛大に爆笑しましたよwww
それではこの辺で~・・・。
追伸
同サイト内において「やぎすけ」様が『黒戦シリーズ』のオリキャラである、
ハジメとヴァルのデフォルメを描いてくださりました。
ちいさくて可愛く、自分のイメージを再現してくださっていますので、よろしければ見てくださいね。
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第36話です。
ついに始まるアドミニストレータとの戦い。
半分ほど説明になっていますけどね。
どうぞ・・・。