No.71047

とある4月のとあるお花見

華詩さん

暖かな陽気に誘われて各地でお花見が行われるこの季節。
彼女達もどうやらお花見に出かけたみたいです。
さて彼女達はどんなお花見を過ごしたんでしょうか。
それでは少しばかり遅い彼女達のお花見を覗いてみましょう。

2009-04-29 20:25:35 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:655   閲覧ユーザー数:599

「おやすみ。今日は楽しかったかな。」

 

 私はそう言って寝入った二人に声をかけて部屋をでる。あの子達にとって今日という日はどんな風に残っていくんだろうか。そんな事を思いながらリビングに降りていく。リビングではお風呂上がりのお母さんが雑誌を読んでいた。その横に私はちょこんと座り、一息を付く。

 

「あの子達はもう寝ちゃった?。」

「うん、ぐっすりと眠ってる。疲れたんだと思う。」

「そう、今日はありがとうね。それでどうだったの?」

「色々あって楽しかった。ちょっぴり疲れたかな。」

 

 そう言って私はソファに背を預ける。延ばした背筋が気持ちがいい。今日は彼と親友と親友の彼氏と弟妹と私の六人でお花見に出かけた。

 

 桜はすっかりと葉桜だったけど、つつじが満開でとっても綺麗だった。

まぁ、やっている事は普段とあまり変わりはなかったかな。でも桜の木の下はとっても気持ちがよかった。あの子達もとっても楽しそうだった。

 

 そして私と彼は外と言う開放感も手伝い、今思うと恥ずかしい事をしていたような気もする。でも彼の温もりを感じる事が出来た。

 ただ、その心地よい温もりに浸り話し来んいたおかげで私は焦り不安なり自己嫌悪した。

 でも、彼が一緒にいてくれたから、焦りと不安は取り除かれていった。彼がいてくれなかったら私はどんだけ心細く不安に包まれていたんだろう。

 つき合いはじめてから私の心は彼の優しさに浸食されているのかな。違うな、つき合う前からかな。そんな事を思っていたらお母さんが変な事言って来た。

 

「なに、ニヤニヤしてるの。良い事があったんでしょう。」

「ニヤニヤなんてしてないよ。」

「ばっちりしてた。ねぇ何があったの。」

「いつもと一緒だよ。」

 

 私はそう言ってクッションを強く握りしめる顔を埋める。そんなに顔に出てたのかな。恥ずかしい。

 もしかして彼の前でもそうなのかな。そんな事を思っているとお母さんが思いしたように話しを進める。

 

「あっ、そうそうお弁当はどうだったの。」

「うん、美味しいっていってくれたよ。」

 

 朝早起きして作ったお弁当。彼はとっても美味しそうに食べていた。たまにつくってあげる学校のお弁当を食べている時よりもしあわせそうだった。頑張ってよかった。

 

「ほら、あるじゃない。そう言う事を全部聞きたいんだけどな。お礼にキスしてくれた?」

 

さて、どうしてそこでキスが出てくるんだろうか。確かに今日されたけど。

 

「もう、そこではされてない。」

 

 つき合いはじめて以来、とっても積極的に接しくれるけど、そんな日常ででされた事はない。ただ何かあった時は思いがけないタイミングでされる。されるのは嫌じゃない、むしろ嬉しいけど場所は考えて欲しいな。ヘタレも困るけど積極的過ぎるのも考えものかも。

 

「ふ〜ん、どこでされたの。」

 

 お母さんの顔がとても生き生きとしてきた。そう言えばまだ今朝のお礼を言っていなかった事を思い出した。というよりもこの恥ずかしさから逃げたい。何とか誤魔化せるかな。

 

「あのさ、朝なんだけどさ」

 

 私が今朝、慣れない人数のお弁当の準備に追われ。アタフタしている所を、仕事前のお母さんが手伝てくれた。

 みんながどれぐらい食べるのかよくわからないのでちょっと多めにと思って作っていたが、二人分以上となると一人では難しかった。本当は全部一人でやりたかったんだけど。 

 私も子どもが出来て母親になったらお母さんみたいになりたいそう思た。

 

「時間がなかったのに手伝ってくれてありがとう。」

「どういたしまして。さてそれでどんな状況でされたのかな。」

 

ダメか誤魔化せる分けないよな。

 

「ほら、素直に話して楽になりなさい。」

 

しかたない、何となく話しにくい事や、恥ずかし事もあるけど。

私はその日のあった事を話しはじめた。

 

 

 お弁当を包み終わり弟妹の出かける準備をしていると、玄関のチャイムがなった。

誰だろうと思い、手を止める。

 

「ぼく、みてくる。」

「お願いするね。」

 

私がそう言うと弟が部屋から走って出ていく。

 

「よう君、危ないから走らないの。」

「は〜い」

 

そう答えつつも足音が響いていく。もうしょうがないな。

しばらくすると弟が戻ってきた。そして隣には彼が一緒にいた。

 

「おはよう。どうしたの、集合場所は駅だったよね。」

「あっ、うん、向かえにきた。二人を連れて行くの一人だと大変だろ。」

 

 彼は下を向きながらそう答えた。こうやって照れる所は変わらない。

 通り道でもなんでもなく、集合場所を通り過ぎて反対方向にある家まで向かえにきてくれた。この優しさも、私が彼を好きになっていった理由の一つ。

 

「ありがとう。二人の準備がもう少しで終わるから、リビングでまっていて。」

 

私は妹の着替えを進めていく。広い公園との事だったので動きやすい服を着せる。

 

「はい、りょうちゃんは終わり。次はよう君だよ。」

「おねえちゃん、ぼくあかいのがいい。」

 

二人の準備を終えてリビングに行く。妹はソファーに座っている彼に駆け寄り抱きつく。

 

「おにいちゃん、おはよう。」

「おはよう。今日は早起きできた。」

「できたよ。すぐめがさめた。」

「そっか、偉いな。」

 

 彼はそういって頭を撫でる。それを見ていた弟も同じように彼に抱きつき頭を撫でられている。彼が来ると二人はとっても嬉しそうにする。

 ときどきちょっぴりそんな彼に妬ける事もある。そう言ったら彼も同じようなことを言っていた。彼は私にでなく二人に妬く事があるといっていた。

 彼のことも意識しているけど二人がいると無意識にそっちが気になっているのかもしれない。

 

彼に二人をまかせておいて私は、戸締まりを確認しいく。

火の元や小さな窓等の鍵を確認してリビングに戻り、四人で玄関を出る。

四人で歩きながら駅まで歩く。そういえばこうやって前も四人であるいたっけな。

 

 

「それにしても、桜がないなら、つつじがあるし葉桜もオツなもんよって。優子らしいといえばらしいけど。」

「俺たちがしていた事も影響してると思うけどな。」

「だってあの二人がしてないなんて思わないもん。」

「まぁな、普段だと俺たちがしてない事にあれこれ文句を言うぐらいだしな。」

 

私達は一昨日の昼休みの事を思い出し話しながら駅へと向かう。

 

 お昼休み私は鞄をもって三人がいる教室へと向かう。窓の外はピンクが退き、緑に覆われていた。

 この時期特有の若々しい黄緑で彩られた景色はピンクの絨毯みたいな桜にも劣らないぐらいキレイだった。窓を開ければ気持ちの良い風が入ってくるんだろうか。

 そんな事を思いつつ足取りも軽く目的の教室へとたどりつ。

 

 去年は四人とも同じクラスだったが進路の関係で今年からは別々だ。私は文系、彼と親友と親友の彼氏は理系。親友は一緒のクラスに絶対なれるからおいでよと言っていたけど、私はしなかった。クラスが一緒じゃないのはちょっぴり寂しいけど会えないわけじゃない。

 

 私が教室を覗くと三人はいつものように集まっていた。自分のクラス以外に入るのはやっぱりなれないな。そんな事を思いつつもお邪魔する。

そしていつものように彼の隣に座る。正面では親友がうなだれている。

 

「ねぇ、どうしたの。」

 

とりあえず、二人に聞いてみる。

 

「花見にいきそびれたんだって。」

 

彼がそう言った。

 

「なぁ、別にいいだろう。元気出せよ。部活もあったんだしさ。」

 

親友の彼氏がなだめる。

 

「よくない。私たちがしてないのに、ちゃっかり亜由美達はお花見デートしたんだよ。」

「まぁそうだけど。」

 

再び親友は机にうなだれる。

 

 そう、私たちのお花見は新学期が始まり実力テストも一段落した穏やかな春のに日にした。その日は午前中で終わりだったので、私が彼のお弁当を作り、学校の裏で二人でお花見をした。彼と約束した二人だけのお花見。

 

「もう、桜は散っちゃったしね。藤が咲くのはもう少し後だし。」

「それよ。」

 

何やら親友が元気になった。

 

「ねぇ今度の休みに、花見に行こう。確かつつじが綺麗に咲いてる公園があった。」

「ああ、あの公園ね。」

「ねぇ、亜由美達も一緒に行こうよ。葉桜もたぶん生き生きしていて綺麗だよ。」

「俺はいいけど。」

 

 彼は私を見る。もう少し早めに話しがあれば行けたんだろうけど。明後日ではちょっと無理だな。

 

「ごめん、私は行けない。」

「なんで、行こうよ。真一とはいって私とは行ってくれないの。」

 

 親友は顔を膨らませてこっちを見る。そう言うわけじゃないんだけどな。何だか拗ねている彼女もめずらしい。

「弟妹たちを二人だけにするわけにはいかないから。」

「亜由美ちゃん。弟妹と一緒でもダメかな。」

 

 私が親友にそう答えると、親友の彼氏が付け加える。

 それなら行けないこともないけど、人が多い所に連れて行くと迷子になる可能背が高い。それにあの子達が一緒だとたぶんあの子達に係っきりで親友達に申し訳ない。

 でもあの子達もお花見をしたがってたっけな。そんなことを思っていると親友も同じことを言う。

 

「そうそう、洋一君も稜子ちゃんも一緒にね。大勢だと楽しそう。」

「たぶん迷惑かけるよ。それでもいいの。」

「亜由美、俺もいるし何とかなるだろう。それにあいつらも花見行きたいって言ってたよな。」

 

 覚えていたんだ。二人でお花見して家に一緒に帰ってきた私の鞄についた花びらを見つけていいないいなといって彼にもおねだりしてたっけな。

 

「はい、じゃ決定。明後日の休みね。」

「ありがとう。二人とも喜ぶと思うよ。」

「じゃ、決まりね。そうだ亜由美お弁当つくろう。」

「いいよ。さてそろそろお昼にしよう。時間なくなっちゃうよ。」

 

 元気になった親友とお弁当を分担して作る約束をしてその日のお昼はいつも通り過ぎていった。

 

 そんなわけで今日は桜が散った後のに咲くつつじで花見になった。場所は桜の名所でここら辺では有名な公園。ただつつじも有名で桜がおわっても花見ができる公園だ。

 

駅が見えてきた。改札口前には親友達が待っていた。

 

「あれ、真一も一緒だ。もしかして昨日から泊まってた。やるね。」

「バカ、違うって。向かえにいっただけ。」

「何だ残念。真一が男になったかと思った。」

 

 何が残念なんだろう。そう思って彼を見ると彼は何故か顔を真っ赤にしていた。

彼の表情を見ていると何となく意味が分かってきた。あまり深く聞かない方がいいみたいだ。弟妹もいるしここはこのままにしておこう。

 

「亜由美。おはよう。」

「おはよう。ほらよく君、りょうちゃん。」

「「おはようございます。」」

「おはよう。今日はいっぱい遊ぼうね。」

 

親友はしゃがんで弟と妹をみる。二人とも大きく頷いていた。

 

「じゃ、切符をかって電車に乗ろうか。」

 

 二人が券売機の方に走っていく。二人を追いかけ切符を買い改札を抜ける。

 

—電車に揺られ目的地の公園につく。そこには鮮やかな緑が芽吹いている葉桜と赤、ピンク、白の花を咲かせたつつじ達あり、私たちを満開で出迎えてくれた。葉桜の生き生きとした姿に私は目を奪われた。—

 

 

 公園内はお花見の時期も過ぎているためそれほど多くの人はいなかった。それでも私たちと同じようにつつじを見にきている人はそれなりいるみたいだ。その人たち目当ての屋台も数が少ないがそれなりに出ていた。

そんなことを思いながら弟の手を引いて歩く。妹は彼が手を引いていてくれている。妹はあちらこちらをキョロキョロと見回しながら歩いていた。同じく隣にいる弟もキョロキョロしていた。

 

「ほら、二人ともキョロキョロしているとつまずくよ。」

「亜由美は心配性だね。大丈夫だよね。」

 

前を歩いていた親友が振り返り二人に声をかける。

すると二人はそろってそれに答える。

 

「「だいじょうぶ」」

 

そう言いつつ妹はこけそうになり、彼に支えられる。彼はそのまま妹を抱き上げ。肩車をする。

 

「ほら、危ないだろう。ここならいくらよそ見してもいいからな。」

 

 肩車された妹はさっき以上にキョロキョロしている。たぶん彼の話しは聞いていない。

仕方ないな。そんな風に思っていると袖を引っ張られる。

 

「どうしたの。」

「おねえちゃん、ぼくも」

 

 弟はそう言って彼と妹を見る。肩車をして欲しいってことなんだろうけど。

いくら弟が小さいとはいえ私には無理だ。

 

「後じゃダメかな。」

 

 弟は首を横に降る。そうだよね今してもらいたいんだよね。今妹に変わってあげてと言うと絶対にダメだろうな。

どうしよう。

そう思っていると優子が彼氏に声をかけていた。

 

「圭司、ちょっと。」

 

親友の彼氏は振り返りこちらを見る。

 

「ほら、おいで。」

 

弟は嬉しそうに親友の彼氏に駆け寄っていく。

駆け寄ってきた弟を抱き上げると、軽々と肩に乗せる。

男の子ってやっぱりすごいな。

 

「ありがとう。」

「どういたしまして。ほら行くぞ。」

 

そう言って走り出す。それを見た妹が彼に走るように催促して彼も走っていく。

 

「もう、子どもなんだから。」

 

親友はそう言いながらニコニコしていた。

 

「ありがとう。抱っこやおんぶならしてあげれるんだけどね。」

「私たちもいるし、何かあったら遠慮なく言ってよ。亜由美も楽しまないと。」

「そうだね。」

 

 私たちは顔を見合わして笑い、四人の後を追いかけた。六人で公園の中をゆっくりと散策していく。これでもかというぐらいにつつじの花が満開に咲いている。

 ふと立ち止まり、彼が一つのつつじの前まで行く。何をするのかなと見ていると、彼はつつじの花を一つちぎり口にくわえる。

 

「ほら、洋一、稜子もやってみな。蜜が吸えるから。」

 

そういって彼は一つずつつつじを渡す。

 

「昔よくやったな。白いのが一番甘いんだっけ。」

「そういえば、二人で白か赤で喧嘩してたよな。」

 

 彼と親友の彼氏が懐かしそうにつつじを吸いながら話をしている。その隣では弟妹が一生懸命につつじを吸っている。隣にあの子達がいなかったら怪しい人で間違いないだろうな。

 

「懐かしいね。結局ピンクが一番で落ち着いたんだっけ。」

 

親友がそう言いながら笑っている。どれも同じだったような気がしたけどな。

 

「亜由美はしなかった?」

「私もしたよ。みんな一緒なんだね。二人ともどう。」

 

私は蜜を必死に吸う二人に聞いてみる。

 

「「あまい。」」

 

二人ともニコニコしながらつつじの花を吸っている。

吸い足りなかったのか、妹は手を伸ばしつつじを採ろうとしていた。

 

「ダメだよ。りょうちゃん、一個だけ。つつじも生きてるんだから。」

 

 そういって妹がつつじを採るのを止めさせる。ちょっぴり残念そうな顔をしていたが何となくわかってくれたみたいだった。

 そんな事をしながら公園の中に咲いているつつじを見てまわる。バランスよく赤、白、ピンクが植えられている。

 

 しばらく歩くと遊具等が設置されている広場につく。弟妹は広場に向かって一直線に駆けていった。その後を彼と親友の彼氏が遊ぶ道具を持って追いかける。二人の事は彼らに任せておこう。

 

 私たちは広場の中央にある大きな桜の木の下にシートを引き荷物を置く。他の人たちはつつじの木の近くでシートを広げているのでそこは広々としていた。

 

 シートに座り広場を見ると、弟と妹は彼と親友の彼氏と遊んでいた。ボールを投げたり振り回されたり。

 普段は公園に遊びにいっても体育系の遊びは私ではしてあげれない。彼がいる時は彼がしてくれる。ここ最近は彼とあの子達が遊ぶのも久しぶりなので本当に楽しそうだ。

 

「圭司、なんだか楽しいそう。私とデートしてる時よりもいい顔してる。」

 

親友が拗ねるような口調で言いつつも顔は笑っていた。

 

「今日はありがとうね。」

「こちらこそ、遅いお花見につき合わせて。無理させちゃったかな。」

「そんなことないよ。あの子達も喜んでいるし。久々に外に遊びにこれた。」

 

 こうやって彼と出かける事はほとんどない。私が休みの日に出かける事が中々出来ないため、デートはほとんど私の家でとなっている。

 

「真一から何か聞いてる。」

「何かあった?」

「亜由美にさ頼みたい事があるんだ。」

 

 親友は遊んでいる彼達を一度見て、私を見る。何だろう私に頼みたい事って。お菓子やら、お弁当やらをシートに並べながら親友が話しを進めていく。親友から聞いた話しは私は全然知らなかった。

 

「お願い。亜由美になら話すと思うんだ。」

「うん、聞いてみるけど。」

 

 ちょうど親友の話しも終わりほとんどの準備が終わった頃、タイミングよく妹がこっちに走ってやってくる。

 

「おねえちゃん、おなかすいた。」

 

 時計を見る。まだお昼には少し早い時間だった。でも動いたからいつも以上に早いのかな。

 

「どうしようか。まだちょっと早い気がする。」

「いいんじゃない。お腹がすいた時に食べるから美味しいんだよ。」

 

まぁ確かしそうかな。そう言う私もお腹が減ってきた。

 

「りょうちゃん、みんなを呼んできてお昼だよって。」

「わかった。」

 

—妹は駆け出し、三人の元に走っていく。みんなでお弁当を囲んで食べはじめる。六人で食べはじめるとあっという間に減っていく。私と彼の膝に座る弟妹を見て親友達にからかわれたりと、いつも以上に賑やかにお昼の時間が過ぎていった。—

 

 

満腹になったお腹に満足しつつくつろぐ。お昼寝しても気持ちがいいかも。

 

「おねえちゃん、あっちにあそびにいっていい?」

 

私の膝に座っている弟がそういう。弟が見ている先では小さな子達が遊具で遊んでいた。ここからよく見えるし、声をかければ聞こえる距離かな。

 

「いいよ。行っておいで。他の子達とも仲良くね。」

「うん。」

「ここが見えなくなるような所に行っちゃダメだよ。」

「わかった。」

 

 弟は膝から立ち上がり、靴を履いて走って遊具の方までかけていった。大丈夫かな、まぁちゃんと見てればいいか。

 あれ、妹の声がしない。いつもなら「わたしも」といって付いていくのに。

 そう思い彼の膝に座っている妹をみる。妹はうつらうつらしながら一生懸命に目を開けているみたいだった。早起きしていっぱい遊んだもんね。寝ちゃうのは時間の問題かな。

 

「りょうちゃん、こっちおいで。ちょっとお昼寝しよう。」

 

 私がそう声をかけると、妹はイヤイヤと首を横にふる。まだ眠いより遊びたいが勝っているのかな。もう少し待ってみよう。

 嫌がるのを無理矢理つれてくると大泣きするしな。そう思いつつどうしようかと考えていたら彼と目があう。彼は私を見ると小さく頷いた。

 

「稜子。」

 

 そういって妹を自分の方に向かせて優しく抱きとめると。背中に手を乗せゆっくりとリズムを取りながら叩いてやる。

 覚えていたんだ。彼が家に遊びにきたときに、私が眠そうな妹をそうやって寝かせ付ける事があった。しばらく彼はそうやって妹を揺すりながらだいている。

 そして抱えるように抱き直すと、妹はぐっすりと眠っていた。

 

「寝ちゃったか。疲れてたんだな。」

 

彼はそう言って妹の頭を軽く撫でる。

 

「真一、ありがとう。」

「あぁ、亜由美が前してたのを真似しただけだよ。」

 

 そんなやりとりをしつつ私はもってきていたちょっと大きめのタオルを二枚取り出し彼の横に行き。シートの上にタオルを敷き。

 

「抱いているとつかれちゃうから。」

 

 彼に抱かれている妹を静かに受け取り、妹をタオルの上に寝せる。

そしてもう一枚のタオルをお腹にかける。暖かくなったて来たけどあった方がいいだろうし。

 

「二人ってさ、やっぱり夫婦みたい。いいな。」

 

 親友はそう言って羨ましそうに私と彼を見て、彼氏の方を向く。ここ最近夫婦と言われる事にあまり抵抗する事はない。何だか慣れてしまったのと、自分達の中でいつかはなると言う自覚が生まれた事が大きい。ただ大勢の人がいるところで言われるのはいつになっても恥ずかしい。

 

「ねぇ、圭司、私はいつなれるのかな。」

 

 親友の彼氏は食べていたものを喉に詰まらせる。親友が飲み物を渡すと勢い良く飲んでいく。

 

「もう、なにやってんのよ。稜子ちゃんが起きちゃうでしょう。」

「あのな、お前が悪いんだろう。」

「期待して待ってるからね。それはいいとしてこれからどうする。塔に行くつもりだったんだけど。」

 

 親友はそう言って彼氏の腕をとりまだ見てない反対側を指差す。その方向には公園を一望できる塔があった。親友は寝ている妹に視線を移して、私たちを見る。

 

「私はここにいるよ。りょうちゃん寝ちゃったし。よう君はあっちで遊んでるし。」

 

 弟がかけていった遊具場をみると、弟は他の子達とうまく遊んでいるみたいだ。

輪になって何かをやっている。邪魔するのは良くないよね。

 

「俺もここにいるから、二人で行ってこいよ。」

「それではお言葉に甘えて。圭司、行こう。」

 

 彼の腕を引っ張り親友は塔に向かって歩いていった。親友はなんだかとっても嬉しそうだった。私が不思議そうにしていたからだろうか。彼が教えてくれた。

 

「実はさ、あの塔なんだけどさ、あいつらの初デートの場所なんだよ。」

「そっか。ここが初デートした場所なんだ。」

 

 二人を見送り彼と二人っきりになる。すぐ側では妹が寝ているけど、これは二人きりでいいと思う。

 それにしても今日はいい天気だ。空は青いし、ぽかぽかしているし。私も何だか眠くなってきたな。

 ちょっぴり悪戯心が芽生えてきた。隣に座っている彼に少しもたれかかる事にした。

もたれかかると彼の体が少しだけ動く。それにあわせて私も体をずらす。

 

「なぁ……。」

「なに。」

 

 私は何でもないような態度を取る事にした。何だか久しぶりだ、こうやって彼が戸惑うのって。つき合いはじめてからはドキドキさせられてばかりいたからたまにはいいはず。

  

 しばらくそのまま無言ですごしていると手を握られる。お返しのつもりなんだろうか。

私はその手に自分の指を絡める。こうしていると何だか安心できる。

 

 お互いに無言でこの時間を楽しむ。何もしゃべらなくても側にいてくれるだけでいい。

いつからこう思うようになっていたのかは覚えてない。

 

 そうだ、一つ確かめないといけない事があった。彼が部活を止めようとしている。親友達が理由を問いつめても一身上の都合としか言わないらしい。親友が心配して私に聞いてくれないかと言っていた。今なら聞けそうかな。私は彼を見る。彼はどうしたのって感じてこちらを見ている。

 

「ねぇ、部活止めるって本当?」

 

 私がそう言うと彼は表情を曇らせた。もしかして私に知られたくなかった事なのかな。親友に聞くまで私は知らなかったし隠してたんだろうな。

 

「どうして知ってるんだ。」

「優子がさっき教えてくれた。すごく心配してたよ。」

 

 二人でお昼ご飯を並べている時に聞かされた。その話を親友達が聞いた時は何だか思い悩んでいたような感じだったので、理由が知りたいとの事だ。

 

「ねぇ、どうして。理由、教えてもらってもいい。」

 

 彼を見つめる。彼の顔はほんのり赤かった。太陽に照らされているだけじゃないんだろうな。一度目を閉じ何かを考えているような表情して私をしっかりと見て答えてくれた。

 

「ほとんど自分のため。我侭なのはわかってるんだけどさ。」

「どういうこと。」

「ゲームがさ楽しめないんだ、今は……。」

 

 彼は自分が感じている部活へ違和感を部外者である私にもよくわかるように話してくれた。それが変わらない限りそこに所属している意味がない。それなら、もっと自分自身の将来の為に他の事に時間を使いたい。

 彼がどう考えてどうしてそうしようと思ったのかを知ることが出来た。なので私は彼が決めた考えを応援することにした。

 

「そっかそんだけ悩んだんだ。なら真一が思う通りにすればいいと思うよ。」

「ありがとう。後さ、亜由美といれる時間がもっと欲しくなった。」

「えっ。」

 

 私は驚くだけで一杯だった。それはすごく嬉しかったけど、その言葉は出てこなかった。握っている手を強く握る。彼の指がさっきよりも絡みついてくる。そして彼は話しを続けていく。

 

「正直さ、同じクラスじゃないってのが思っていた以上に辛い。亜由美が誰かに盗られそうで怖い。独占欲が強いってのはよく分かってる。」

「大丈夫だよ。そんな人いないよ。真一だけだよ。私のことそう思ってくれてるの。」

「本当に、自覚ないんだな。まだ結構いる、亜由美を狙ってる奴。」

 

 本当かな、何だか実感がないや。仮にそんな人がいたとしても、間違いなく断るし、揺れる事はない。

 

「何の心配してるの。私の将来はもう決まってるんだから。予約入れたの真一でしょう。キャンセルは受け付けないよ。」

 

 私は左手に嵌っているリングを見せる。ホワイトデーに貰ったリング。まさかこの年でプロポーズされるとは思わなかったな。でも彼の気持ちはすごく嬉しかった。私は彼の気持ちに答えられるだけの存在なんだろうか。まだちょっぴり不安な事もあるけど。

 

「それに、お父さんにも話したんだから。この事。」

 

 そう言って彼を見ると彼はなんだか固まっている。どうしたんだろう。

 あぁ、そうか。私は彼に耳打ちする。彼は安心したような表情をした。まだ他の人には恥ずかしすぎて話せてない。

 

「ビックリした。心臓が止まるかと思った。」

「でもいつかは、するんだから心の準備しておいてね。迎えにくるの待ってるから。」

 

—それからいつものようにたわいもない話をした。そんな風にのんきに二人で話していた時にそれは起きていた。いつもなら意識して注意しているのだけど場所も違いなんだかお互いの事に意識がいっていたのが原因なんだろうな。—

 

 

 何気なく遊具場に目を向けると、ついさっきと何かが違う。何かが足りない気がした。

 

「あれ」

「どうした。」

 

 私は立ち上がり確認するように遊具とそこで遊んでいる子ども達を一人一人順番に目で追っていく。滑り台、ブランコ、ジャングルジム、砂場。つつじの木。でもやっぱりいない。

 

「なぁ亜由美どうした。顔色が何か悪いぞ。」

「ねぇ、真一。よう君がいないよ。」

 

 どこにいっちゃんたんだろう。いつも遊びにいく公園ならあんまり心配はしないけど。

でも今日来た公園はいつもの三倍ぐらい広い。早く探しにいかないと。どこかで泣いてるかもしれない。どこかで怪我してるかも。そんな迷子ならそれで良い。

 もしかして誰かにつれていかれちゃったのかも。それとも公園から出て事故にでも。次々と嫌な事が頭の中に浮かんでくる。

 そんな風に焦って不安になっていると後ろから抱きしめられた。

 

「亜由美、大丈夫だから。」

 

 彼に優しく抱かれる。彼の暖かさが背中から感じられる。私がすっぽりと包み込まれるぐらい彼は大きく感じた。

 

「俺探してくるから。亜由美はここで待ってろよ。」

 

私は首を振る。私も行かないと。

 

「ダメだって。ここにいな。」

「でも」

「稜子を一人には出来ないだろう。目が覚めて誰もいないと寂しがる。」

「うん、でもさ……。」

 

 振り向いて続きを言うとしたら、唇をふさがれた。あれ、なんで私キスされているんだろう。彼が私からは慣れる。どれぐらいたったのだろうか、そんなに時間は立ってないと思う。

 

「落ち着いたか。俺が探しにいくから。亜由美は稜子の側にいてやって。」

 

 再び彼が私を抱きしめる。妹を寝かしつけたみたいに背中をゆっくりとさすってくれる。背中を撫でられるたびに少しずつ私は落ち着く事が出来た。

 私は彼の胸に顔を押し付ける。自分がとっても情けなくなってきた。目が熱くなる。泣いている場合じゃないのにどうしてだろう。

 

「ほら、自分を責めるなよ。迷子は子どもの特権なんだ。それに大きな子どもの相手もしてくれただろう。」

 

 そう言って彼は私の頬にキスをした。本日二度目のキスは優しい感触がした。彼を見ると彼は笑っていた。

 

「まかせろ。すぐ探してくるから。それとさ怒らないでやってくれな。できれば笑っていてほしい。」

 

 私は頷く、怒るつもりはない。無事でいてくれればそれでいい。でも笑ってられるかな、弟をみたらたぶん泣いちゃうような気がする。

 

 彼は遊具場の方に走っていった。私は寝ている妹を抱き寄せ彼を待つ事にした。

妹はまだスヤスヤと寝ている。そうだよね、この子が起きた時に一人だったら寂しいよね。私だけだったらこの子を置いて探しにいっちゃたんだろうな。もっとしっかりしないとな。

 

彼が弟を捜しにいってから、しばらくすると親友達が戻ってきた。

 

「亜由美、洋一君戻ってきた。」

「ううん、まだ。」

 

 何で知っているんだろうか。私がそんな疑問を浮かべていると親友は携帯を見せて、連絡があったと言った。

 

「よし、俺も探しにいってくるから。優子は亜由美ちゃんを頼むよ。」

「わかった。見つかったら電話頂戴ね。」

「なんで私、目を離しちゃったのかな。」

「もう、亜由美。自分を責めないの。大丈夫だからさ。」

 

 親友と二人で彼達が戻ってくるのを待っていた。そうだ彼のこと伝えとかないと。

 私は優子に彼が止めようとしている理由を伝えた。詳しい事はあえて何も言わなかった。

 

「そっか、別の事に使う時間か。ねぇ、何に使うかは聞いた。」

 

 そう言って親友は私をじっと見つめる。しばらく親友と睨めっこみたいな状況が続く。言ってもいいのか判断できずにどうしようかと思っていると。

 

「やっぱりいい。何となくわかるから。幸せにしてもらいなよ。」

 

 私が何も言わないでいると親友はそう言って笑い。何やら一人で納得をしたみたいだ。親友が思っている事は半分正解。残りは私だけが知っていればいい、そう思った。

 そんな話をしていると親友の携帯が鳴る。

 

「もしもし。どう、そう。わかった。」

「ねぇ、なんて。」

「大丈夫、いたって。」

「よかった。」

 

私は腕の中で眠っている妹を抱きしめる。すると親友が私の頭を撫でる。

 

「よかったね。」

「うん。」

 

 しばらくすると、ニコニコ顔の弟が彼に手を引かれてやってきた。私は妹を親友に預け、弟まで駆け寄り、ギュッと抱きしめる。

 

「よう君、どこいってたの。」

「あのね、ネコさんとぼうけんしてきた。」

 

私は弟の頭を撫でる。とっても嬉しいそうに話しだす。

よかった怖い思いや寂しい思いはしなかったんだ。

彼を見ると彼も優しい表情をしていた。

 

「そっか。面白かった。」

「うん、面白かったよ。」

「洋一、冒険もいいけど。これからはお姉ちゃんにいってからいこうな。」

「うん、わかった。それでね。ネコさんがね。」

 

 彼が私を見る。弟は自分が迷子になっていたと思っていない。遊んでいたらお向かえが来たぐらいかな。うん、でもそれでいいのか。楽しい日は最後まで楽しくなくちゃ意味がない。

 

「優子も圭司君もありがとうね。心配かけた。」

「ううん、よかったよ。無事で。」

 

ーその内に目を覚ました妹も含めて六人で親友達が登りにいった塔に行き、今日一日遊んだ公園を見渡した。帰り際には二人とも疲れて寝てしまった。弟を彼が、親友の彼氏が妹を背をって家まで運んでくれた。その後ろ姿を親友と見て、二人ともいい父親になるよねとお互いに確認した。ー

 

 

「そんな事があったんだ。優子ちゃんの彼氏にも感謝しないと。」

「うん、それと、ごめんなさい。ちゃんと見てなくて。」

 

私がそう言うとお母さんは笑いながら私の頭をなでる。

 

「いいのよ。経験して覚えるんだから。私もアンタを何度、迷子にさせた事か。」

「私、そんなに迷子になってた記憶ないよ。」

「よう君と一緒で、アナタも迷子になった自覚なしだった。泣いてた事なかったから。」

 

 そう言われると小さい時は色んな所に行った気がする。公園の林の中、裏路地、神社の裏側なんかにいくたびにお父さんが向かえにきてくれたっけ。あれは迷子だったか。

 

「よう君の冒険談は明日聞いてみようかな。」

「覚えているといいけど。もし忘れてそうなら私が聞いた範囲でするから。」

「そうする。あと真一君がした予約の中身は、まぁ亜由美の決心がついた時に聞くね。」

「うん、お母さんとお父さんが帰ってきた日にする。そう決めたんだ。」

 

 今度の連休に戻ってくる。ただ一緒にいられるのは一日だけだけど、その時に伝えようと思う。

 

「そっか。あっちから戻ってきた時か。ねぇ、本当に残るの?」

 

 お母さんが申し訳なさそうに聞いてくる。一緒に行っても私の居場所は何だかない。お父さんが色々と気を浸かってくれるのも何だか申し訳がない。弟妹が生まれてからは特にかな。

 

「うん、学校で勉強会もあるし。」

「そっか。でも心配だな。最近は何やら物騒だし。」

「大丈夫だよ。この辺は平和だから。」

 

 何やら考えているようだ。学校と家との往復だけだし。大丈夫だと思うけどな。私がそんな事を思っていると何かをひらめいたらしく嬉しそうな顔をしていた。

 

「この経験も必要ね。間違いはおきないだろうし。」

 

 そういってお母さんは何処かにいってしまった。経験って何だろうか。また変な事を考えてないといいけど。さて、私もそろそろ寝よう。ちょっと早いけど疲れた分丁度いいかな。電話で何やら話をしているお母さんにオヤスミと告げ部屋に戻る事にした。

 

fin


 
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