No.70627

SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガールACT:38

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その38。

2009-04-26 23:44:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:772   閲覧ユーザー数:735

「やる…とは言ってないかもしれないけど、夕美ちゃんの顔には頑張るって書いてあるよ」

「あるかいな!だいたいなんやその、恥ずかしい台詞は!?」

 そう言われてさすがにほづみも照れくささを感じた。「な、なんでもいいから、さあ。」

 あっ、と夕美が声を出すが早いか、ほづみは夕美の手を取ってスイと自分の方へ引き寄せた。

「気を楽にして、目を閉じて」

 気を楽にして、なんてよく言えたものだ。まるでアルゼンチン・タンゴの決めポーズよろしく、夕美のきゃしゃな身体はあれよという間にほづみの腕の中にあった。

 「なっっっっっっっ」突然のことに夕美は絶句するばかり。

 

 

「い、いやー!やめてぇ、な、何すんねんな」

 もがきながら抵抗したが、柔道の押さえ込みではないが、ポーズというものはあまり見事に決まってしまうと身動きできなくなる。

 しかも、天然のほづみに悪意があってのことではないのは解っていたし、あくまで夕美の恥ずかしさだけの抵抗感だったためにイマイチあらがう力にもゆるみがでてしまって逃れることができない。

 

 もともと夕美はスキンシップに馴染みがない。

 父親である耕介は真逆で何かというと抱きついてきたりするのだが、ああいう父親なのでもちろん夕美は許可しない。小学生の頃からそうだった。相手が同性の場合でもそうで、割とキャピキャピ風な麻樹や異星人系の鈴といつも三人娘的につるんではいるが、三人とも不必要にベタベタしない、さっぱりタイプだったからお互い居心地のいい関係がつづいているのかも知れない。

 

 そもそも、ほづみは夕美がまだ異性に対する意識の薄い頃から、あまりに自然なノリで身近にいた存在だったから、夕美の中ではいわば耕介の同類、へたすれば付属品扱いなのだ。

 せいぜい、先日の朝風呂の件ではじめていくぶん意識が変わった程度である。

 だが付属品といえども、それが自分の頭をがっちり捉まえてドアップで迫ってくるとなれば話は別だ。

「大丈夫だよ。すぐ終わるから。リラックスして。何も考えないようにして」

「この状況でなにアホ言うてんねん!」

 突然の展開にある意味アタマは真っ白になりかけているが、人間あまりにもありえない事態に遭遇してしまうと、現実の流れについてゆけず、妙なところで開き直ってしまうのか、奇妙な冷静さが生まれてくるものらしい。

 夕美は必死にほづみを引き離そうともがきながらも、無意識にほづみの顔を細かく検分していた。

 途中ブランクはあったにせよ、数年の同居でもこんな至近距離、しかも固定状態でほづみの顔を見たことなどなかったのである。

 なるほど、ベースはそれなりにオトコマエなのだ。ただ、どうにも見映えが悪い。いわば素材は良いのに仕上げが雑で弛みやガタの出た家具、味は良いが使い捨て容器に乱暴に盛りつけられた料理みたいなものだ。

 

 だが、スイッチ薬を飲みでもしない限り、パワーでは勝てない。

 しかも夕美は見た。ぐっ、と接近したほづみの黒い瞳の中に映った、恥ずかしさと苦悩の混じった自分の奇妙な表情を。

 途端に顔から火の出るような恥ずかしさが襲ってきた。冷静さもぶっ飛んで、いつしかわあわあわめきながら必死でもがいていた。

 

「あ、あばれちゃダメだってば。夕美ちゃんが落ち着いてくれないとうまくいかない。さあ、とにかく目を閉じてくれ」

 

 いったい、ほづみは何をしようというのか。たとえ悪気が無くてもそもそもこの体制、このシチュエーションであばれるな、意識するななどとよくぞ言えたものだ。いまやタンゴから転じて、まるでレスリングかPRIDEの固め技みたいな体制のまま夕美は必死で叫んだ。

 

「ほっ、ほっづっ、みっ、くんっっっっ!今あんたがしてることは完全にセクハラや、こんなんゴーカンやっっっっちゅうねん!!」

「えっっ。」この言葉には、大抵のことに動じずほづみも度を失って手を放した。「えええええええええっ」さらに数歩飛びさがる。「そ、そんなっ」

「な、なにがそんな、や。こっちが言いたいわ。何考えてんねん、あほ!!」ぜえぜえ息を切らしながら夕美はほづみを責めた。

「あんたが世間からズレまくってるのはイヤんなるくらい知っとるけどなあ、いくらなんでもホドがあるわっっ!ちゃんと説明せえ、ちゃんと!どー考えても今のは娘を手込めにしよーとする悪代官の構図やないかっっっっっ」

「わ、悪かった。そんなこと考えてもいなかったから」

 

「かっ、考えてもいなかったぁ?」それはそれで失礼な話だが、ようするにほづみは“おでこ”をくっつけたかっただけだ、と必死に説明した。

「簡単なやり方だけど確実なんだ」とほづみ。この方法でなら、あっと言う間に多くの知識や経験を相手に伝えることができるのだという。

「ぢょ…ちょ。…っと待って。」カラカラのノドに夕美はなけなしのつばを呑み込んだ。「そ、そんなら、ほづみ君もテレパシーとか使えるんか?薬───」

「僕は薬は飲んだことはないよ。これは永年の研究と練習の成果さ」

「それ…お父ちゃんは」

「もちろん知ってる。ずっと前からね。───さあ。だから大丈夫。怖くないよ」

「い、いや別に怖いわけとちゃうがな。」

「え、なら何で」

「何でやないがな。あ、あんたなあ、モテへんやろ。絶対。無神経、てか、デリカシーなさすぎや。そんなんやったら一生彼女なんかでけへんで」

 あはは、とほづみは微笑んだ。「たしかに。でも、それならどうしたら夕美ちゃんはおでこをくっつけさせてくれるのか教えてくれよ」

「え、や、あの。も、もうちゃんと説明してくれたから分ったがな。」

 まだ頬の紅さもさめやらないままギュッと目を閉じた夕美は、ソレとばかりにほづみに向かってぐぐっと頭を突き出したものだから、あやうくほづみに頭突きするところだった。

「あ。じゃ。いいね。」ほづみが夕美の前髪をかき分けた時、さっきあばれたせいで緩んだのだろう。髪を結んでいたリボンがほどけ、一瞬そちらに気が行った時。

「あっ」

 こつん、とおでこをつけた瞬間はなにもなかった。だがその直後だ。まるで太陽に顔を向けたのかと思ったほど、まぶたの裏が真っ白になった。

 それは眼球で感じた光だったが、次の瞬間からの感覚は奇妙なものだった。脳裏、とはまさにこのことだったろう。

 

〈ACT:39へ続く〉

 

 

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 (作者:羽場秋都 拝)

 

 

 


 
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