No.703663

「真・恋姫無双  君の隣に」 第29話

小次郎さん

公演を終えた天和たちにありえない付き人がつく。
彼女たちの歌はどう変わるのか。

2014-07-25 19:11:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:15940   閲覧ユーザー数:10781

「「「みんなーー、ありがとうーーー」」」

「「「「ほわあぁあぁぁぁぁあぁっっ、ほわあぁあぁぁ、ほおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

最後の曲が終わって控え室に戻った途端、疲れが一気に来て座り込んじゃう。

「疲れた~。もう動けないよ~」

「お疲れ様、はい、どうぞ」

濡れて冷えた手拭いが渡されて、顔に当てて汗を拭く。

うわあ、気持ちいい。

「へえ、気が利くじゃない。これからもお願いね」

「ふう、すっきりするわね。」

さっぱりした私に、今度は飲み物をくれる。

「うわあ、お~いし~。甘くてちょっと酸っぱくて、でもすごく飲みやすい」

「それに冷えてるから、体中の熱が下がっていく感じ」

「蜂蜜と柚子が入ってるのね。何か疲れも少し軽くなった気がするわ」

あと一曲ぐらい歌えそう。

もう一杯貰おうかな。

「ここから馬車で一刻位のところに露天風呂があるから、そこで汗を流して、その後に一報亭の点心を用意してるから沢山食べてくれ」

「きゃ~、すご~い」

「やるじゃない、あんたなら専属の付き人にしてやってもいいわよ」

「ありがたいけど、貴方、予算を超え・・・てえええええ」

どうしたの、人和ちゃ・・・って、一刀お!

私達に手拭いや飲み物をくれてたのは、一刀だった。

「な、何で一刀が此処にいるのよっ。襄陽に居るんじゃなかったの!」

ちいちゃんの質問に一刀は笑顔で、

「今日から一週間、天和達の付き人なんで、よろしく♪」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第29話

 

 

食材を切る包丁の音と一緒に、不穏な言葉が聴こえてきます。

「兄様の馬鹿、兄様の馬鹿、兄様の馬鹿・・・・・」

おお、流琉ちゃんが病んでますねー。

まあ、当然ですね、風も立腹中なのですから。

劉表が遂に観念して降伏してから、お兄さんは鬼気迫るほどに仕事に没頭して、風達が休むように言っても聞く耳持ちませんでした。

お陰で風達もつられて仕事三昧の日々でした。

数日前にようやく一段落して、お兄さんが自分も含めて皆に十日間の休暇をとるように言って、そこまでは良かったんですが、

「それじゃ、俺は先に江陵に行ってるから」

と、言い残して出て行きました。

確かに休暇後に江陵に向かう予定でしたが、どうして一人でお忍びで行くんですか。

目立たない護衛をつけてますが。

真桜ちゃんが理由を聞いてて、予想通り女性絡みでした。

お兄さん、風は放置されるのが好きなわけじゃありませんよ、以前にも言ったではないですかー。

・・あれ?

以前って、何時のことですか?

そんな覚えは無いのですよ。

お兄さんの事だと時々こんな感覚に襲われます、一体何なのでしょうか?

「おう、程昱殿。何を考え込んでおるのじゃ」

「黄蓋さんですかー、風はどうやらお兄さんに妖術をかけられてしまったようなのですよー」

「妖術?一刀はそんなもの使えるのか?」

「冗談なのです。もっと質が悪いかもしれません」

「成程、恋の悩みか。相変わらず罪な奴じゃのお」

当たらずとも遠からずでしょうか。

「何を二人して、こんなとこで話しこんでんねん?」

真桜ちゃんも登場で居残り組みが集まってしまいました。

とりあえず流琉ちゃんの料理を皆さんで頂く事にしまして、そのままお兄さんに対する愚痴の言い合いとなりました。

結構黒くなりましたので省略しましょう、世の男性は知らないほうがいい事があるのです。

「女は怖えよ、俺も聴くんじゃなかったぜ」

宝譿、後悔先に立たずですよ。

「それはそうと、一刀は今後どう動く気じゃ?李典、聞いとらんか?」

「ウチも詳しくは知らん。もうバレとるやろから言うけど、月、董卓軍と合流する事しか聞いとらん」

「やっぱりそうなんですか。風さん、私達どうするんですか?」

「そうですねー、どうしましょう」

お兄さんが劉表を討つまでに、他の諸侯も当然動いてますから。

 

 

目の前には水に浸かってる城がある。

「詠、霞、私は陳留に戻るから、後は任せるわ」

「そない言うてもな。下邳はもう水に浸かってて、ウチの出番あるんかいな」

亀みたいに閉じこもっとった陶謙軍を水攻めするとはなあ。

おそらく兵糧も大半は駄目になっとるやろうし、水が引く頃には弱りきっとるで。

「あら、何も下邳に張り付けとは言ってないわよ」

ん?どういうこっちゃ。

こんな状況で出陣してくるわけ、って、そういう事かいな!

「下邳は餌っちゅう事か」

他の城に篭ってる連中が助けに来たら、それを叩けって事やな。

「僕は助けに来させるように策を講じるのが役目ね」

華琳は楽しそうに笑うとる。

「察しが良くて助かるわ。一ヶ月後には徐州制圧の段取りをつけているように」

「「御意」」

華琳が陳留に帰るのを見送って、詠と今後の事を相談してたんやが、何時の間にか一刀と華琳の話になる。

「詠。一刀と華琳、どっちが強いやろな」

「難しいわね。才なら歴然としてるけど、一刀には説明しがたい強さがあるわ」

「ウチの印象やと、一刀は切れ味はそうでもないけど絶対に折れない剣。華琳は切れ味抜群やけど諸刃って感じかな」

「言いえて妙ね。でもそれだと最終的には一刀が勝つんじゃないかしら」

「このままやったらな」

華琳は今迄に負けた事が無いんやろ。

誇り高いのはええけど、それも過ぎれば足枷になる。

この陣営には華琳に諫言出来るのがおらん。

その事が致命傷にならんかったらええけどな。

「一刀が傍におったら華琳は無敵やろうな」

「言いたい事は分かるけど、詮無き事よ。天に二日無く、地に二王無しよ」

 

 

「姉様、本当に許貢の臣従を受け入れるのですかっ!あの者の領地における非道な行いは広く知れ渡っているのですよ」

勿論知ってるわ、だから何、別に珍しい話でも何でもないわ。

人物と力は別物よ。

「蓮華様、許貢の持つ力は近隣の豪族に大きな影響を及ぼしており、受け入れねば全面衝突になります。我々は一刻も早く力を強くしなければならないのです」

冥琳が私の代わりに答えるけど、当然蓮華は納得しない。

「あんな獅子身中の虫にしかならぬ者を受け入れる方が問題だわ。表層的な力が何の役に立つというの」

「数は力です。今は形だけの臣従でも、いずれ逆らう事の出来ない力を持てば大人しくなるでしょう」

「ではそれまで好きにさせると言うのか!大きな力を持つ前に民の心は孫家から離れている!」

痛いところを突いてくれるわね、でもこれは決定事項なの。

庇ってくれる冥琳には悪いけど、

「蓮華、王である私が決定した事よ。異議は認めないわ」

「姉様っ!」

「言っとくけど私は本気よ。貴女の考え方は甘いわ、王たるもの清濁併せて飲み込むものよ」

「詭弁です。今回の話は安易な力を持とうとしているだけです!」

「異議は認めないと言った筈よ!」

私を睨みつけて蓮華が退出する。

椅子に座りなおし、背もたれに身体を預ける。

「雪蓮、憎まれ役は私の役目だぞ」

苦笑しつつ優しい声で私を慰めてくれる冥琳に感謝しながら、

「いいのよ。でも、このままだと拙いかしら」

蓮華には一刀の影響が強すぎる。

一刀のやり方は、権力者に対して不満を溜めていた者達に、抵抗する意志を持たせるわ。

私達のような民に余計な知識や力を持たせないやり方とは正反対。

「蓮華様の仰る事は正道だろうな。実際、増えてきた豪族の恭順も、お前を御遣いに対する矢面にする為だ」

「蓮華の下には、その豪族達に対して不満を持っている者が集まってきているわ」

当然だけど、蓮華に対して豪族達は不愉快に思ってる。

最悪、国が二分するわね。

「御遣いに対抗出来る力を早急に持つには豪族達を取り込むしかない。お前は間違っていないよ」

「ごめんね、冥琳。何もしないで一刀に屈したくはないの」

勝ち目が薄いのは分かってる。

民の事を考えれば無用な戦は避けるべきかもしれない。

でも、私は今迄孫家の為に戦ってきてくれた者達の思いを背負っている。

蓮華、貴女の成長を嬉しく思う。

それでも、譲れないものがあるの。

「私はお前に付いて行くだけさ。どこまでもな」

 

 

数日前に関羽軍が降伏すると使者を送って来たので、姫様は御機嫌です。

本格的に平原攻略に乗り出すところでしたから、此方としても有り難い話でした。

「姫様、関羽軍の劉備さんが来ました」

「あら、また来ましたの。まめですわね。連れていらっしゃい」

もう三度目なので、使者である劉備さんはすんなり本陣に通されます。

それに劉備さんの人柄でしょうか、警戒心もあまり湧きません。

「袁紹さん、こんにちは~」

「相変わらずですわね、使者の言葉遣いではありませんわよ」

その通りですけど、姫様は仕様がないという感じで笑って受け止めてます。

私も慣れたので、もう気にしません。

「それで、今日は何の御用ですの。わたくしを迎え入れる準備が出来ましたの?」

最初に来た時は、降伏を伝える為に平原の相の証である印璽を差し出して、内部の人達を説得する時間が欲しいと言って来ました。

二度目は姫様を迎え入れる為に、清掃や整理が出来るまで待って欲しいとの事でした。

「それが、困った事が起きたんです。冀州の刺史である韓馥さんが圧力をかけてきて、繋がりのある重臣が反抗しはじめたんです。折角お迎えする為に綺麗にしてたのに」

「何ですって~!斗詩さん、本当ですの!」

えっ、いきなり聞かれても。

「そうですね、可能性は高いと思います。刺史の韓馥さんにとって平原は抑えて置きたいでしょうから」

「許せませんわ、直ちに討ちに行きますわよ」

「ま、待ってください、姫様。手持ちの食料が足りません。ここは平原に入って、反抗する重臣を討ち取ってからにした方がいいかと。あと本国に連絡して文ちゃんにも来て貰いましょう」

兵の数は充分だけど、ここは確実にいこう。

それに兵も休ませてあげたいし。

「それでしたら食料は私達がお出しします。それにこんな不始末を袁紹さんにさせる訳にはいきません。韓馥さんを袁紹さんが討ってくれるなら、私達でも対応できます。今度こそ平原全てで歓待の準備をしておきます!」

劉備さんが凄い気合で言ってますけど、こちらにも都合があるんです。

姫様、先ずは平原にと言おうとしたけど、あっ、駄目だ。

「お~ほっほっほっほっほっほっ。よろしくってよ、劉備さん。斗詩さん、全軍転進ですわ、韓馥を直ちに討ち取りに行きますわよ」

 

 

以前から思わないでもなかったけど、この人、馬鹿なんじゃないかしら。

どうして宰相なんて雲の上の人が、楽しそうに旅芸人の付き人なんてしてるの。

仕事はどうしたのかと聞いたら、

「大事な事は全部やってきたから」

それでも上役がいなかったら困るでしょうと説いたら、

「俺の政は、俺がいなくても各自が責任もって仕事するようにする事なんだ」

更に言おうとしたら、

「人和達が大事だから来たんだ。俺にとってはどちらも大事、比べる事も片方しか選ばないのも論外だよ」

やっぱり馬鹿です、大馬鹿です。

嬉しく思ってる私も大馬鹿です。

・・それにしても、随分と手馴れてますね。

公演に必要な準備や私達の世話が完璧です、まるで以前に経験してるかのように。

ですから不満は一つもありません、夜以外は。

姉さん達が寝る時間になると、一刀さんのところに押しかけて添い寝しようとする事以外は。

一刀さんも一刀さんです、何をあっさりと了承してるんですか、だから魏の種馬って言われるんですよ!

あれ?魏って何のことかしら?

とにかく、姉さん達が両脇を固めるから私の場所が、じゃなくて醜聞が広がって公演に影響が出たらどうする気なの。

償いは始まったばかりなのよ、今晩しっかり言い聞かせないと。

そんな私を尻目に、少し目を離したら添い寝状態になってる。

もう我慢できない、一刀さんを追い出そう。

私が声を張り上げようとする前に、一刀さんが寝床から出て座りました。

「人和、ちょっと話がしたいんだ。天和も地和も」

気勢が削がれて一刀さんの正面に座ります、姉さん達も起き上がって私に並びます。

「ここ三日間、三人の歌を舞台裏から聴いてたけど、はっきり言って良くなかった」

「え~」

「な、何よ、その感想は」

「そんなっ!」

思いもかけない酷評を受けて、私達は落胆を隠せません。

「どこが悪いって言うのよ、観客は喜んでたじゃない」

「雰囲気に酔ってた人達はね。冷静に見渡せば、仕方なく周りに合わせてた人が結構いたよ」

・・その通りです、本当は私も気付いてました。

「一刀、私達じゃ駄目なのかな?」

「今のままではね。出会った時の天和達なら、俺は大陸一の歌手になれると確信してるけど」

どういう事ですか、以前の方が良かったなんて。

「私達はあれからずっと練習と公演を重ねてます。上手くなりこそすれ下手になるなんておかしいです」

私の言葉に姉さん達も同意します。

言ってる意味が分かりません!

「一生懸命に唄う事ばかり考えて、唄う事を楽しんでないからだと思う」

一刀さんの言葉が、私達を貫きます。

それは、その通りです、楽しんでなんていられません。

「一つ言っておくよ。償うのは大事な事だけど、俺は幸せになったらいけないなんて思わないから」

謎懸けのような言葉に、私達は困惑します。

「一刀、どういう事?」

「あの乱は天和達が中心ではあるけど、そもそも乱が起こる土壌が出来てたからなんだ。身も蓋も無いけど、たまたま天和達がそうだっただけだよ」

「・・それじゃ、ちい達は悪くないの?」

「悪い事は悪いよ。でも全責任を背負うのは違う、極論を言えば関わった人の全員が悪い」

「でも、私達が元凶です」

「違う。元凶は土壌を作ってた漢帝国の腐敗した政。人和達は加害者でもあり被害者でもある」

でも、でも!

「天和、地和、人和、歌には人を幸せにする力がある。その歌を唄う人が不幸せじゃ心に届かないよ。以前の君達は歌を聴いてもらえるのが幸せだった。事の善悪はともかく、黄巾の人達を幸せにしてたんだよ」

・・一刀さんの心が、伝わってきます。

堰を切った様に私も姉さん達も涙が止まりません。

「償っているなら幸せになっていいんだよ。俺はこれからも、三人の姿を観ているから。唄って輝いてる、三人が好きだから」

感極まって、私達は一刀さんに抱きつきます。

競うように口付けします。

ずっと、ずっと我慢してました。

一刀さんに惹かれて、優しさに甘えたくて、愛したくて、愛されたくて、必死に駄目だと自分に言い聞かせてました。

でも、もう無理です、こんなに好きな人が受け止めてくれるのだから。

ただただ求めて、一刀さんは私達を夜が明けるまで愛してくれました。

翌日の公演は、今迄に無い大歓声に包まれてます。

大陸一の歌手に、幸せな時間を作る歌手に、必ず成って見せます。

だから、ずっと観ていて下さい。


 
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