その教会に、二人の甲冑の兵士によって一人の男が連れてこられた。
その男はここから西にある小さな村の長だった。
男と言うよりかは老人で、既に満身創痍だ。
殴られた後の青アザが痛々しい。
「あなたは神によって生かされているのです。さあ、あなたの罪を悔い改めなさい。」
牧師はロザリオを片手で持ち、神妙な顔をして言った。後ろには相変わらず、十字架にかけられたキリストのうなだれた像だ。
「けっ、何が生かされているだ。人間は案外簡単に、自分の手によって死ねる。」
老人は吐き捨てるように言った。言葉は牧師に比べると、ひどく訛っている。
「嘘だと思ったら、ほれ、わしの後ろにいる物騒な奴らの剣を抜いて、自分の喉にさしてみぃ。自分は自分によって生きて行くもんじゃ。この狂信者どもが。」
両手を兵士に押さえつけられながらも、顎で後ろを示す。鈍く光っていて、十字軍のシンボルマークが描かれている剣だ。
「何を言われているのかわかりませんかね。権力者であるあなたさえ従えば、西の村の民はすべて、わが神の下にかしずくのです。既に村の半分は信者なのです。何を恐れる必要がありましょうや。これはあなたにとっても、我々にとってもいい話なのです。」
牧師は荘厳な笑みを浮かべて言った。人間らしさは微塵も感じられない。
「ふざけるな。どうせ金が欲しいだけじゃろうが。あんたらの神様は笑わせるな。わしらには神様なんておらん。あえて言えば、わしらの牛、羊、馬、すべての動物たちじゃ。人を神様として祭るなんて馬鹿げている。世界を支配したつもりか?」
老人は一気に話しかけた。目の前にいるそいつらが、自分の話なんて一言も聞いていないことも知っている。
段の上に立つ牧師は残念そうに首をふった。
「ならば仕方がないですね。神の名において裁かれなさい。」
彼は左手の親指を下に向けた。
そして老人の横に立っている兵士は、無表情に剣を老人に振りおろした。
西の村は人の神に統治され、平和になった。
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世界観を共通させた短編連作「死者物語」です。 この世界を、未だ数匹の亀と象が支えていた時代。 霧は濃く、森は暗く、神秘と信仰と迷信は絶えず、ただ空だけはどこまでも高かった頃。 忘れられた、彼らの物?
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死者物語にこっそり参加してみます。ドキドキ。