No.700904

恋姫OROCHI(仮) 一章・参ノ伍 ~一葉~

DTKさん

DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、20本目です。
ここまで続いているのも、読んでくれる方々のおかげです。
応援・支援・コメントなどなど、ありがとうございますm(_ _)m

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2014-07-15 00:48:23 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4692   閲覧ユーザー数:4119

 

 

 

「ちいっ!!」

 

一葉は群がる鬼を一閃し、消滅させる。

が、その拍子に手にしていた剣が折れてしまった。

アロンダイトという異世界の名剣だったが、さすがに鬼の百も続けて切れば剣も折れる。

 

次に地面から引き抜いたのは、その昔、中国で使われていた戟という武具だ。

それは戟の中でも、かの三国志の猛将・呂奉先が使用していた、方天画戟だった。

頭上で二、三回転させ、ブゥンと一振り。

 

「うむ…なかなか丈夫そうじゃの」

 

これまでに刀・剣・槍・斧・戟、さすがに弓は使わなかったが、古今東西ありとあらゆる武具を使い、鬼を屠ってきた。

その武具は全て、三千世界から呼び出したものである。

一度放つだけでも消耗する三千世界を、この日だけで既に四発。

しかもこの四発目は未だに三千世界と接続を続けている。

接続を保ち続けながら、その呼び出した武器を手に闘うという行為は、想像を超越した負担が身体にかかる。

少しでも集中を切らせば、その瞬間に意識が飛んでいきかねない。

 

それでも戦い続ける。

少しでも長く敵を引き付け、少しでも多く敵を屠れば、それだけ双葉たちの生存確率が上がるということになる。

それに…

 

最早、お家流を解いたとて、逃げる力は残っておらんからの…

 

人柱となる覚悟など、とうに決めている。

そんな一葉に、この日何度目かの総攻撃が敢行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

「うわっ!これは酷いな…」

 

隘路を抜け、京が見える場所まで来た剣丞は思わず口に出した。

右手側、上京とされる地域はほとんど焼失しており、パチパチと音を立ててまだ火が燻っている所もある。

 

「松永弾正が禁裏に火を放ちまして……上京のほとんどに燃え移ったようですな……」

「白百合がっ!?なんだってそんなこと……」

 

反骨の精神を持ってはいたが、無体をするような人間には見えなかったのだが……

 

「そんなことより二条は!?まだ無事なのか!?」

「――っ!今、鬼の総攻撃が始まりました!」

 

湖衣が金神千里で見たことを実況する。

 

「マズい!早くしないと!!」

「こちらです!剣丞さま!!」

 

雫の先導で、剣丞たちは二条館へと直走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

 

 

 

「ヒゅーーー………ヒゅーー……」

 

呼吸音がおかしくなってきた。

喉の奥に異常をきたしているのかもしれない。

総身に小さな傷を負っているものの、致命傷を負っていないのは、一葉の力量のおかげだろう。

しかし、それも限界を迎えようとしていた。

 

三千世界との接続が途切れてしまったのだ。

地面に突き刺さっていた武器は全て消え、徒手空拳となった一葉は地に膝をつき、天を仰いでいた。

体力・氣力ともに、文字通り、尽き果てた。

 

 

良くやった方じゃろう……

 

 

心の中で、一葉は少し笑った。

時間の感覚など、とうに無くなっていたが、双葉たちを逃がすには充分な時間だったはず。

仮に三好の手が禁裏にも及んでいようとも、どこか遠くへ逃げおおせているはずだ。

異界であるとて、ここには主様がいる。

幽たちならば、双葉を主様の元へ導いてくれるに違いない。

心残りは、ない…

 

「化け物共、良く聞――がはっ…」

 

やおら大声を上げるが喉が焼けるように痛む。

二度三度咳払いをして、再び声を上げる。

 

「余は第十三代征夷大将軍、足利義輝なるぞ!!例え剣折れ、骨身が折れようとも、我が心、我が魂までは折れはしない!!

 さあ!!我が血肉、喰らいたくば喰らうが良い!!!」

 

 

 

 

 

 

「――――らうが良い!!!」

 

剣丞たちが視界に二条を捕らえたとき、風に乗って一葉の声が剣丞たちの耳に届いた。

 

「お姉様の声です!」

「あぁ!まだ無事みたいだ。けどヤバイ!捨て鉢になってるっぽいぞ!!」

「もう道案内はいらねぇ!」

「剣丞、先行くで!」

「お願いっ!!」

 

翠・霞・蒲公英・明命、そして鞠の五人は二条館へと速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

既に武器は無く、膝立ちしているのがやっととはいえ、今まで散々に同胞を斬りまくった一葉に対し、鬼たちは襲いかかれずにいた。

十重二十重という包囲陣の後方には、上級と思しき大きな鬼が三匹見える。

そのうちの一匹に、一葉は見覚えがあった。

恐らくあれらが、三好三人衆のなれの果てなのだろう。

 

畜生めが…

 

心の中で毒づく一葉。

そんな一葉を嘲るかのように、釣竿斎は高々と右腕を掲げ、最後の総攻撃の下知を下した。

一葉の視界を埋めるは、迫りくる鬼、鬼、鬼。

 

無粋じゃな…

 

最期の景色が畜生であることを厭い、一葉は静かに目を閉じる。

浮かんでくるは、自分の一生。

 

 

 

応仁の乱以来の、先祖の負の遺産を受け継ぎ始まった、自らの生。

好き勝手に振舞う細川・三好を始めとする諸侯に、度重なる戦で疲弊しきった京の都。

僅かな権威で命脈を保つだけの将軍家。

それらを齢十一にして親から譲り受けた。

幼なながらに、京を、二条を取り巻く権謀術数、そして誰もが他を省みぬ利己的な行いを目の当たりにし、絶望しかなかった。

 

しかし、それでも忠を尽くしてくれる、幽を始めとした数少ない幕臣。

彼女らの支えもあり、少しでも世のため人のためにと、牛歩ではあったかもしれないが、権威を高めるため、各地の合戦への介入や偏諱や叙任により有力者と誼を通じるなど、将軍家としての責務を果たした。

 

自己の研鑽や危機管理にも万全を尽くした。

自らに何があってもいいようにと、卜伝師匠に教えを請い、剣の腕を磨いた。

自らに何があってもいいようにと、僧籍にあった妹・双葉を還俗させ、側に置いた。

あらゆる人夜叉、魑魅魍魎が跋扈する京にて、いつ死んでも良いと思っていた半生。

 

余の人生も華が無かったの…

 

 

 

いや、新田剣丞。

あの男が、余の人生を変えた。

 

出会いは奇妙な偶然だった。

暴漢から逃げるときに偶々ぶつかり、彼の刀を借りた。

するとその日、二条館に奇妙な輩、久遠が現れ、その連れ合いの一人が剣丞だった。

余を公方として扱わず、それでいて無礼というわけではない、不思議な空気を持った男だった。

双葉とは違い、純粋に好意、というよりは興味が先に立っていた。

それが徐々に惹かれていき、久遠の提案で剣丞と夫婦になった。

政争の道具として婚姻が使われる中、好いた(おのこ)と一緒になれたことは望外の幸せだった。

金ヶ崎・越後・甲斐・京攻めと、ゆっくりとした時間はあまり取れなかったが、生涯で最も『生きた』時間だった。

今ここで死するとも、悔いなど……

 

 

 

 

 

 

 

ある――――

 

 

 

無いわけがない!

ようやく…ようやく『生きる』ことが出来たのだ!

 

主様と四季を感じながら茶を交わしたい。

主様と日本各地を旅して回りたい!

主様にもっともっと愛してもらいたい!!

 

まだ死にたくない――――!!

 

 

 

 

 

「主様ぁぁぁーーーー!!!」

 

「一葉ーーー!!!」

「えっ?」

 

幻聴か。聞こえてくるはずのない声が一葉の耳に届く。

その刹那、四つの影と無数の光が一葉の周りで瞬き、迫り来る鬼を霧散させた。

 

「一葉ちゃん!大丈夫なの!?」

「ま、鞠…か?お主、どうして……」

「一葉ーー!!」

「お姉様っ!」

 

鞠の登場に驚く間もなく、その後ろから剣丞と双葉が現れる。

 

「お姉様!良かったっ……ご無事で、本当に良かった……」

 

一葉に縋りつき、泣き出す双葉。

 

「双葉…」

「良かった。間に合ったみたいだね」

「主様……」

 

呆ける一葉の頭に、ポンと手を乗せる。

 

「遅くなってゴメン。迎えに来たよ、一葉」

「主様……主様あぁああぁーーー!!」

 

立ち上がる力も無いのか、膝立ちから倒れ込むように剣丞に縋りつく一葉。

更に後方から、幽や雫たちが現れる。

 

「やれやれ、遅れてくる者の身も考えて頂きたいものですな、雫殿」

「いえ、私は気持ちが痛く分かりますので……」

 

と言い添え、

 

「姫路衆は公方様を中心に円陣を展開!」

「「「はっ!」」」

 

一葉と双葉を護るように円陣が布かれる。

 

「よし、それじゃ二人ともここで待ってて。三好をやっつけてくるよ」

 

そう言い、剣丞は円陣の外へ。

刀や槍を構え鬼を牽制するは、先ほど一葉を救った四人の武士(もののふ)と鞠。

 

「さすがの俺もちょっと怒ってるんだ。……蹴散らすぞ!!」

「「「応っ!!!」」」

 

五人の武士による蹂躙が始まる。

歴史に名を残す武人が揃うと、鬼の雑兵など物の数にもならない。

あっという間に上級と思しき三匹の鬼をも呆気なく切り伏せてしまった。

中級以上とはいえ、翠たちと戦っていた鬼とは比べ物にならないほど弱かったようだ。

 

 

 

 

 

 

「なんか歯応え無かったよね~」

「そういうデカイ口は一人で倒してから言えよな、タンポポ!」

「まぁまぁ、やいやい言ぃなや」

「そうなの。一段落、でいいの!」

「ですね」

 

口々に帰ってくる五人。

出迎える剣丞。

 

「みんな、お疲れさ――――」

 

 

 

ドーーーーーーーンッッ!!!

 

 

 

突如として、どこからか轟音が鳴り響いた。

 

「敵かっ!?」

 

瞬時に警戒体勢をとる五人。

そんな中、何故か剣丞の頭は冴え渡り、状況を冷静に分析する。

この時代にアレだけの音を鳴らせるのは火薬だけ。

なのに八咫烏隊の一斉射撃よりも御煮虎呂死(おにごろし)の発射音よりも遥かに大きかった。

まさか……

 

剣丞の脳裏に一つの考えが浮かんだ。

 

「白百合が…自殺したのかもしれないな」

「どうして分かるの、剣丞?」

「俺がいた未来の歴史では松永久秀は最期、お城の天守閣で爆死するんだ。白百合の行方も知れないし、もしかしたら……」

「そっか……」

 

ただの推測に過ぎない。考えても詮無きこと。

ただ、なんとなく暗い空気が流れた。

と、

 

「剣丞殿ーー!!」

 

後方で一葉たちの元にいた幽が走ってくる。

かなり慌てているようだ。

 

「どうかしたの!?」

「か、一葉さまが……」

「えっ――――」

 

 

――――

 

 

「一葉っ!!」

 

姫路衆の輪を抜けると、頭を双葉の膝枕に乗せ、苦しそうな表情を浮かべながら臥せっている一葉の姿があった。

 

「旦那様……」

 

涙の跡を残したまま、青ざめた顔をしている双葉。

そして一葉はその双葉よりも青く、白い顔色をしている。

 

「どうしたの?いったい何があったんだ?」

 

剣丞が一葉と合流したとき、ついさっきまでは、確かに消耗はしていたが、ここまで死人(しびと)のようではなかった。

 

「恐らくですが、氣が完全に底を突いたのでありましょうな…」

「どういうこと?」

「三好を相手に一葉さまは、恐らくお家流を四、五回お放ちになられたものと推察します」

「そ、そんなに…」

 

確か前に、一日に二発が限界だ、と言っていた気がする。

 

「さらに、一葉さまの折れた愛刀と、この一帯に無数に穿たれた穴から見るに、三千世界で呼び出した武具を使い、鬼たちと切り結んだのかと…」

「そんなことって出来るの?」

 

鞠が不思議そうに尋ねる。

 

「さぁ、それがしには何とも……ただ状況から推察すると、そうなのではないかと……」

 

そして、と言葉を繋いで、

 

「三千世界で呼び出しが武具を武器として使用するためには、三千世界と繋がりを持ち続けなくてはなりません。常に三千世界を放つだけの氣を使いながら、敵と切り結ぶ。その無茶を押し通せば……」

 

氣が底を突く、ということか……

 

「それで氣が底を突くと、どうなるんだ?」

「これも恐らく、ですが…そもそも体内で氣を作るのにも氣が要ります。氣が底を突いたということは、新たに氣を生成できないと言うことになりまする。また氣というのは、体調にも影響を及ぼすもの。氣が充実していれば体温高く活力に溢れ、疫病などにかかりにくくなりますが、今の一葉さまはその逆、ですので……」

「……かなりヤバイ状況ってことか」

 

一葉を見れば、心なしか先ほどより息が荒くなり、汗も多く掻いているように見える。

 

「分かった。とりあえず戻ろう。管輅さん!」

「はい」

 

突然、中空から少女が現れる。

 

「病人がいるんだ!すぐに俺たちを陣地へ戻してくれる?」

「承知致しました。それではここにいる皆さんを陣へとお戻しいたします」

 

二条館全体を眩い光が包み込む。

光が消えた後には、誰も残っていなかった。

残ったのは、焼失した上京と三好の襲撃でボロボロになった下京だけだった。

 

 

 

 

 


 
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