No.69892

真・恋姫無双 蒼天の御遣い2

0157さん

あんまり待ってないかもしれませんが、お待たせしました。

第二話を投下させていただきます。

一話のコメントを見させてもらいましたけど、すいません。しばらくは正体を明かせません。

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2009-04-22 00:24:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:56218   閲覧ユーザー数:37818

一刀:「・・・・・・」

 

目を開けたらそこは荒野だった。

 

嘘でも冗談でも無い。遠くには山が、近くには森が見えるけど目の前に広がっているのは、ただ、ただ、荒野のみ。

 

思わず動悸が激しくなる。

 

「・・・落ち着け・・・落ち着くんだ俺。」

 

あえて声に出して言うことで自分に暗示をかける。

 

目を閉じて・・・深呼吸して・・・・・・スー・・・ハー・・・スー・・・ハー・・・・・・1・・2・・3

 

心の中で合図を出すと同時に目を開ける。やっぱり景色は変わってないが、それでも心はだいぶ落ち着いていた。

 

とりあえず今の自分の状態を確認しておこう。

 

俺の名前は、北郷一刀。

 

特技は剣術(剣道ではない)、趣味は読書(特に歴史、軍事など)。

 

性格はいたって冷静だと思うが困っている人を見捨てて置けない(及川が言うには重度のお人好し)。

 

剣術の腕にいたっては、師範である祖父から免許皆伝をもらっている。やっているのはあくまで剣術であるため公式戦には出ていないが。ここ数年は負けなしだ。

 

ちまたでは、「平成の沖田総司」と呼ばれてたりする。(沖田~の部分が宮本武蔵や斎藤一だったりすることもある)

 

ここまで確認してみて一刀は自分の足元に落ちているものに気がついた。

 

「これは・・・・・・なんでこんなところに?」

 

一刀が拾ったもの、それは細長い白木の木の棒だった。握りの部分に包帯の様に布を巻きつけておりただの杖にしか見えない。

 

「これは実家の蔵に厳重に保管されているはずだが?」

 

思わず物思いに耽りそうになったとき、

 

「きゃあああああああぁぁぁ!!」

 

女性の悲鳴が聞こえた。

 

「っくそ!!どうなってるんだよ!?」

 

突然、響き渡った悲鳴に悪態を吐くが、一刀は悲鳴の聞こえた方向、森の中へと駆け出した。

 

 

「来ないでー!!こっちに来ないでー!!」

 

一人の少女が今まさに追い詰められていた。

 

追い詰めているのは、賊でも、ましてや兵士でもない。野生の虎だ。

 

「お、お願い・・・こっちに来ないで・・・・・・」

 

地面にへたりこんでいる少女の華美でどこか清楚な感じのする服は所々破けており、いつもはおっとりとしているであろう顔は恐怖で引きつっていた。

 

対して虎は、久しぶりの獲物だからだろうか、その少女を逃す気配は微塵も感じない。

 

(うう・・・ごめんなさい詠ちゃん。)

 

少女はここにはいない親友に謝罪した。

 

何故、少女がここにいるのか?それは少女が政務の合間に散歩をしていたとき、突然空から流星が降ってきたからだ。

 

少女ももちろん占いのことは知っていた。それが突然自分の目の前に、城のすぐそばに落ちてきたのだ。

 

そのあまりのことに少女は興奮し、護衛も付けずにそのまま森のほうにいってしまった。

 

もちろん少女にも言い分があった。自分の治めているこの土地、それもこの城の周辺に限って言えば賊の類など全く出てこなかったし、辺りに住んでいる人も顔見知りが多い。自分に危害を加える人など皆無といってもよかった。

 

そう確かに少女の見解は正しかった。こと人に関して言えば。

 

少女は助けを呼ぼうにも、虎から逃げる際にかなり森の奥深くまで来てしまったらしい。人気など全くなかった。

 

突然、虎が姿勢を低くした。一気に仕留めるつもりなのだろう、今にも飛び掛りそうだ。

 

少女は再び逃げようと足を動かそうとするが、今までの疲れと恐怖で足が動かなかった。

 

虎が一気に跳躍した。押し倒して喉元を食いちぎるつもりなのだろう。

 

「ひぅ!」

 

少女は首をすくめ、瞳を硬く閉じ、身を硬くした。これから訪れる未来を直視しないために。

 

ドンッ!!

 

「・・・・・・っ!」〈ビクッ〉

 

少女はいきなりの衝突音にさらに身を縮こまらせるが、自分に異変がないのを不思議に思い恐る恐る目を開けた。

 

「・・・・・・・・・・・・はわぁ・・・」

 

少女は驚きのあまりに目を見開いた。

 

自分の目の前には一人の少年が背を向けて立っていた。

 

しかもそれだけではない。自分をかばって虎の前に立ちはばかるその少年の服は日の光を受けてキラキラと輝いている。

 

森の木漏れ日から来る光を浴びたその少年の姿は少女に一枚の絵画を連想させた。

 

「君、怪我はない?」

 

背中越しからかけられた声に、

 

「・・・・・・あっ、は、はいっ!」

 

自分に話しかけられたことに気づいてあわてて返事をする。

 

「そうか」

 

少年の返事はそれだけだが、その背中からは安堵をする気配が伝わった。

 

(あっ・・・・・・なんか優しい感じがする。)

 

少女はそんな少年の気持ちが感じ取れたことをうれしく思った。

 

「・・・・・・さて・・・」

 

少年=一刀がいまだ警戒してかかってこない虎の獰猛な瞳を見て一人話し始めた。

 

「虎を相手にするのは初めてなんだけどな。」

 

熊なら何度かあるんだが。

 

「お前が腹を減らしているのは分かっているが、俺もこの子も食われるわけにはいかないからな」

 

ザシュッ!

 

突如、虎が突進してきた。百数十キロを超える巨体の一撃を食らったら、たとえ勇猛な猛者であろうともただではすまない・・・・・・だが。

 

ドゴォッ!

 

一刀は素早く虎の側面に回りその無防備なわき腹を手に持っている杖のような棒で先ほどの一撃目と同じ要領で突いた。

 

たったそれだけの動作で百数十キロを超える虎を吹っ飛ばしたのだ。流石にこれは側にいた少女も驚きを禁じえない。

 

しかしそれでも、せっかく見つけた獲物を不意にしたくないのか、虎はしつこく起き上がり再び飛び掛る体制をとった。

 

「・・・・・・仕方ない」

 

一刀がため息と共にそうつぶやくと同時に、辺りの気温が一気に下がったように少女は感じた。

 

今まで、少年の背中で感じ取っていていた温かみが一切消え、代わりに底冷えするような不可思議な感覚が背筋に伝わる。

 

ここに武人が一人でもいたらこの感覚の正体が分かっただろう。

 

すなわち殺気だと、ただ、ただ鋭く、研ぎ澄まされた殺意の塊だと。

 

離れて見ていた少女でさえ感じ取れたのだ。こんなものを直接ぶつけられた虎はすでに戦意を喪失させうなだれていた。

 

「・・・俺は無益な殺生は好かん。」

 

しゃべり方が変わっている。しかし少女はこの少年から発する声が先ほどの少年の声と同じだとは思えなかった。

 

「消えうせろっ!!」

 

一刀が一喝すると同時に虎が彼方へと走り去って行った。

 

あたりに静寂が包み込むと同時に、底冷えする感覚が消え去っていった。

 

少女は話をかけようかかけまいか悩んでいた、すると。

 

「あの・・・」

 

と一刀が話しかけた。

 

「へぅ!?」

 

突然かけられた声に少女は自分でも驚くくらいの声が上がってしまった。

 

その反応を見た一刀は苦笑をもらし、

 

「怖い思いをさせてしまってすまなかったな。お詫びといっては何だが安全な場所まで送らさせてくれないか?」

 

せめてもの心遣いを示した。

 

そのとき少女は自分を恥じた。こういう場合はこちらが真っ先に礼を言わなければいけないのに、相手を怖がってしまい逆に相手に気を使わせてしまった。

 

これではいけないと、少女は奮い立つ。

 

「あ、あのっ!」

 

「ん?」

 

「ありがとうございました。それと、ごめんなさい・・・・・・今はもう大丈夫です。」

 

「・・・・・・そうか。」

 

少女の顔を見て分かったのだろう、一刀もそれ以上は何も言わなかった。

 

ふと、一刀は今の自分の状況を思い出し、

 

「あ、俺の名前は北郷一刀ってゆうんだ・・・・・・それでさっき『送らせて』って自分で言っといてこう聞くのも何だが・・・・・・」

 

一刀が言いにくそうに口を濁すのを見て、少女はうなずいて先を促した。

 

「・・・・・・ここはどこだ?」

 

「・・・はい?」

 

少女も予想外のことを聞かれたからか、思わず聞き返してしまった。

 

「え~と、信じてもらえないかも知れないが、さっきまで俺はここじゃない別の場所にいたんだ。そしたら突然目の前が光って・・・・・・気づいたらここの近くの荒野に立っていたんだ。――――」

 

だから、と一刀が続けようとしたところに、

 

「では!」

 

突然、少女が興奮したように口を開いた。

 

「あなたが天の御遣い様なのですね!?」

 

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 

少女のあまりに唐突で脈絡も無い話に、一刀も思わず聞き返してしまった。

 

少女もそのことに気がついたのだろう、はっ、と顔を赤くしながらも説明してくれた。

 

 

「・・・・・・つまり、君は占いのとおりその流星が落ちてくるのを見てここまで来たのか?」

 

「はい。そしたらその途中で虎と出会ってしまいまして・・・」

 

「今に至るという訳だ。」

 

「はい、それとここは西涼の近くにある天水という場所ですけど・・・・・・ご存知ありませんよね?」

 

俺をもう別世界の人間だと認識したのだろう。少女は遠慮がちにそう尋ねた。

 

「・・・・・・・・・知ってる。」

 

「えっ、知ってるんですか?」

 

少女が不思議そうに俺を見る。確かに西涼という地名も天水という場所も知っている。だがそれは本の中にしかないはずだった。

 

「あっ、申し送れました私は、姓は董、名は卓、字は仲穎(ちゅうえい)と申します。この天水の地を任されています。」

 

混乱している俺に少女はさらに俺を混乱におとしいれる言葉を言った。

 

「・・・董・・・卓?」

 

「はい」

 

確認するように少女――董卓の名をつぶやくと董卓は儚げな笑顔で返事した。

 

ここに至って一刀はある1つの仮定を思いついたがそれでもまだ断定はできない。

 

そこで一刀はこの少女に尋ねてみることにした。

 

「えっと・・・・・・董卓ちゃん?」

 

「何でしょうか?」

 

「いくつか聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

 

「はい、私が知っていることなら」

 

「なら・・・今は漢王朝の時代なのか?」

 

「はい、そうですね」

 

董卓が頷いた。

 

「今の帝は劉宏(りゅうこう)で跡継ぎが二人いる?」

 

「はい、それもそのとおりです。」

 

よくご存知ですね。と董卓が感心しきった目で一刀を見る。そこで一刀は董卓にとって身近な質問をすることにした。

 

「賈駆文和って人は知っているかな?」

 

この質問が董卓にもたらしたものは劇的だった。

 

「詠ちゃんを知ってるんですか!」

 

董卓が驚いたように一刀の知らない名前を出した。

 

「えいちゃん?」

 

「あっ、す、すいません。詠ちゃんって言うのはさっきの賈駆文和の真名です」

 

「真名?」

 

さらに聞きなれない単語が出てきたので思わず聞き返す。

 

「はい、真名っていうのはこの大陸中の人が持っている本当の名。家族や親しい人にしか教えてはいけないし、呼ばせてはいけない神聖なものです・・・・・・ですから御遣い様も安易に真名を呼んだりしないように気をつけてください。」

 

と、董卓は真剣な顔でそう説明し、そして注意した。

 

「・・・わかった。これからは気をつけることにする。」

 

一刀が真剣に受け止めたのが伝わったのか、董卓はこぼれるような笑顔をする。

 

「・・・・・・・・・しかし」

 

一刀の仮定は確信に変わった。ここはやっぱり三国志の時代だったのだ。しかし・・・

 

ふと、董卓を見下ろしてみる。

 

「?」

 

董卓は可愛らしく首を傾げ一刀を見上げている。

 

(こんな可愛らしくて大人しそうな少女が〝あの〟董卓だとは・・・・・二重の意味でビックリだな。)

 

董卓の話しと賈駆の真名で見るに、多分賈駆も女なのだろう。

 

(どうなっているんだ、ここは?もしかして主要な人物は全員女性なのか?そんなの及川の妄想の中でしか存在しないと思っていたが・・・・・・)

 

「あっ、あの」

 

思わず思考の渦にはまりそうだった一刀に董卓が声をかけた。

 

「折角ですからお城に来ませんか?ここにいるのも何ですし、お礼もしたいですから。」

 

「それは助かる。俺は右も左も分からないからな。せめて人のいるところに連れてって欲しかった所だ。」

 

それを聞くと董卓は顔を輝かせながら立とうとして――――

 

「・・・ん?どうした?」

 

いまだに立とうとしない董卓を怪訝に思い一刀は尋ねた。

 

「・・・・・・・・・腰が抜けちゃったみたいです・・・」

 

董卓は顔を真っ赤にしてぼそりとそう呟いた。

 

それを聞いた一刀は笑いが込み上げてくるのを感じ、それをこらえようとして・・・・・・

 

「・・・クッ」

 

失敗した。

 

「へぅぅ」

 

董卓の顔はさらに真っ赤になっていきトマトみたいになっていた。

 

「・・・すまない、悪気は無いんだ。だからそのお詫びといっては何だけど。」

 

そう言って一刀は董卓の近くに寄り、そして背中を向けしゃがみこんだ。

 

「お城まで、背負っていってあげるよ。」

 

この後、董卓が「そ、そんなの悪いですよ。」と顔を赤くしながら断ったり、一刀が「それでは、お城にいけないだろ」と、しばらくの間続くがそこは割愛しておくとしよう。

 


 
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