No.698881

ビヨンド ア スフィア ~宙神~

ざわ姐さん

続きです。スターウォーズ風に言うと「エピソード0」的なものなので正確には続きとは言わないですが、今回は箸休めのような完結した短編です。話しは以前から考えていた物なので難なく一気に書けました。
やっとメルセデスの出番が回ってきましたwここまで長かったなーwアンビとか何時になったら出るんだよーw(次の予定)
前回、長々と説明を入れたブルーアンジェが使う高出力レーザーの件は、今回の話を書く為の布石と言ってもいいでしょう。実物とはかけ離れた兵器なのでこの物語の中では肝の部分なのです。

2014-07-06 13:45:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:569

 御使い達はロトをせき立てるようにこう言った。「立って、あなたの妻とここにいるあなたの二人の娘とを連れて行きなさい! この都市の咎のゆえにあなたが拭い去られてはいけない」

 

-創世記 19章15節-

 

 「ファーストアロー」作戦から遡る事9ヶ月ほど前、NASA、アメリカ航空宇宙局はその存在を一切公開していない第6のスペースシャトルの3回目の打ち上げを極秘裏に行った。仮説上の大陸「メガラニカ」の名前を冠したオービタ(軌道船)は、順調に上昇し、高度340kmに到達した。目標高度に到達したオービタは第一目標である米戦術宇宙プラットベース「トライスター」へのドッキングの為自転速度を同期、貨物搭載室を展開した。オービタに積載されていたペイロードは、ノースロップがグリュクスブルク財団の支援の元、極秘に開発、32機のみ製造を進めていたMQI-15「トライアルスター」と命名された最新鋭機であった。トライアルスターは、大量生産を目的に同時に開発されていたMQI-16「アンヘリート」の同系姉妹機で、外観的差異は頭部のカメラ部分の気密仕様のみ、本体部分はほぼ同じ仕様で製造されている。しかし、一つだけ大きく異なる標準装備兵装があった。それは背部に搭載されたマルチ・アーム・コンテナ・プラットフォームと呼ばれる、十字架の形状をした武装が追加装備されていた事だ。MACPは米軍の中でもステルス戦闘機など比にならない程の最高軍事機密扱いになっていて、メガラニカのクルー全員もそれが何なのかさえ知らされていない、まさにブラックボックスの塊と言える兵器だった。「何なんだ、この背中に付いてる馬鹿でかいクロスは・・・・・」宇宙空間で搬入作業をしていた「リカルド・ルトワック」中尉は呟いた。

 メガラニカから一時的に宇宙に搬出された12機のトライアルスターは次々に人工衛星トライスターに積み替えられていく。6機目が搬入され、衛星内のマウントに固定が終わった時、地上からの通信がキャッチされた。「中国からロケットの発射が確認された。このままの進路が維持されればそちらの衛星の軌道付近を通過する。注意されたし。」メガラニカ船長「エドワード・ケリー」大佐は貨物室の中に設置されている気密ブロックにいる作業員に対して警告する「やはり打ち上げてきた。試算では15分後に最大接近、恐らく数分以内に何かしらのアクションを起こしてくる筈だ。」次に宇宙空間で作業をしているクルーを船内に退避するよう無線で促す。気密ブロック内で作業をしていたクルーたちは作業を中断し、外にいるクルーを船内に帰還させるための準備を始める。

 

 同時刻、高度7万メートル、20万フィートの成層圏で、米空軍の作戦機が空中待機から戦闘準備へアラートを移行させていた。MSAC-2、スケールド・コンポジッツ社のバート・ルータンが設計を手がけ、ノースロップが製造を担当した成層圏滞空航空機「ストラトスター」。三つの胴体と二つの主翼を持つトライ・ブーム・タンデム・ウイング・エアクラフトとして設計された本機は、B-52の全幅の1.5倍の規模を有し中央部に最大のペイロードを持つ多目的成層圏プラットホームとして製造され、米政府が提唱する「ビヨンド・スフィア計画」の一つとして米空軍に配備されていた。

 ストラトスターの窓からはダークブルーに染まった外の景色が見える。パラボリック・フライトによる弱重力のペイロード内に、オプティマイザー専用のオレンジ色のCWU-X94/Pカバーオールと与圧用のGスーツを組み合わせ、フルフェイスに改造されヘルメット左右から酸素供給ができる様に設計されたJHMCSⅣヘルメットを装着した少女、その付近にいくつかの飴玉が宙を漂っている。そこにNORTHCOM発令所からプロテウスを中継して通信が届く「目標、中国人民解放軍所属弾道弾、およびその搭載物。迎撃し破壊せよ。」指示と同時にヘルメット内のヘッドアップディスプレイにアラスカ寄りの太平洋を中心とした地図が表示される「作戦可能時間は飛行物が指定の位置を通過する推定約4分27秒間のみ。迎撃には落下物を極力押さえるためレーザーのみ使用されたし。中国およびロシア領空内に入ったら攻撃は控えるように。フェイハイストス少尉、成功を祈る。」そう指令を受けた「メルセデス・フェイハイストス」は与圧ヘルメットの無線PTTを切り替えると「ラジャー」と一言だけ応答し「・・・ナインとアナベルが来た・・・」と自分以外誰もいない貨物機内で呟いた。

 メルセデスの無線応答に答えるかのように、メガラニカの中から黒いカバーオールにその身を包んだ完全武装されたトライアルスターが3機、宇宙に放出された。その直後、先ほど宇宙に搬出したトライアルスターの中の一つが、強烈な火花を散らしながら上半身を蒸発させ、背部のMACPを宙に弾き飛ばした。「攻撃を受けた!こちらの反撃はまだか?」地上に向けて通信を送るケリー船長。その言葉を合図に3機のトライアルスターは引力に引き寄せられるように音も無く散開し、宇宙に散って行った。直後、再びメガラニカ付近に漂流していたトライアルスターの一つが衝撃波と共に火花を上げた。閃光の後、左半身を失ったトライアルスターが衛星軌道上から弾かれるように急速に離脱していく。攻撃を受けた閃光の方向からある程度の方位は特定できるのだが、外赤外線レーザーと思われる不可視の攻撃だったため、正確に攻撃している位置は特定できなかった。しかし、メルセデスの操るトライアルスターはその位置を正確に把握しているかの様に、一点の方向に向かって加速していた。「現在、応戦している。トライスターと分離後速やかに退避せよ」地上からの指示が来るが、その警告を待たずにクルーたちは既にメガラニカを衛星から分離している最中だった。衛星を分離し10m程の距離を置くと再び宇宙に残してきたトライアルスターが火を噴いた。次の瞬間、爆発で飛び散った破片がメガラニカを襲ったが、幸い深刻なダメージは受けていなかった。「攻撃されている。頼む、早く迎撃してくれ」懇願するように地上に無線を入れるケリー大佐。その無線通信を横から聞いていたメルセデスは「まだ攻撃可能領空外・・・・・・」と無線を封鎖した状態で独り言を呟く。次の瞬間、ヘッドアップディスプレイ内の攻撃目標表示が緑から赤に切り替わる。それと同時にメルセデスは右手に持つJUWCS(ジョイント・アンマンネッド・ウォーリヤー・コントロール・システム)の人差し指のセフティートリガーをグイっと絞るように力強く引いた。

 

 中国から発射されたICBM(大陸間弾道誘導弾)は米国の発射したシャトルとはほぼ正反対の軌道をマッハ20の速度で接近、シャトルの速度を加算するとマッハ42で軌道上をニアミスしてすれ違う計算になる。弾道ミサイルには「神箭」という名称が付けられ弾頭部分には核の替わりに宇宙船と2つの貨物が搭載されていた。その貨物は中国が極秘裏に開発した「姬妭(チーバァ)」と呼称されるUCSW(アンマンネッド・コンバット・スペース・ウォーリャー)で、米国のUCSWを破壊する任務を与えられて打ち上げられた。1体は攻撃作戦機として攻撃時に最接近軌道に載せられ攻撃後はそのまま破棄、もう1体は宇宙船の護衛と不具合時の予備機として搭載されている。そして宇宙船には半身の中国人オプティマイザー「星 蘭華(シュン ランファ)」が、生命維持装置と供に搭乗していた。作戦計画では生命維持装置の稼働時間や、宇宙船の回収を鑑みて2時間程が作戦可能時間と試算されていたが、共産党の軍、人民解放軍は熱圏上を一周周回しての宇宙船の回収は困難と判断、また寿命が短命と医師から予想されている蘭華であった為、回収行動には積極的な姿勢をみせなかった。その為宇宙船回収班は極限られた人員しか配置されず、蘭華は党から使い捨て同然で宇宙に打ち上げられていた。しかし、彼女は死を覚悟の上で作戦参加を承諾していた。それは宇宙船回収班にも参加している自身の上官である「李 維山 」連長の存在がそうさせていた。蘭華は李に全幅の信頼を寄せ、李もまた彼女のことを自身の娘の様に慕っていた。「死んでもすべてのUCSWを破壊する」蘭華は出発前に自身で発言したその言葉を心に刻み宇宙(そら)へと出撃していた。

 マッハ42というスピードで戦闘可能な兵器は、エレメントコアを搭載し、EDエフェクトを干渉でき、長射程レーザー兵器を使用可能なアンマンネッド・コンバット・ウォーリャーしか存在しない。衛星に核ミサイル攻撃をすれば米国との全面戦争となる。党の要求に苦渋の決断をした「王 漣軍」は祈るような気持ちで「宙神作戦」の終わりを駐香港部隊ビルで待っていた。そこにはSAMT(西園寺・アルカディア・マシン・アンド・ツール)の技術開発員である「野中 仁」の姿もあった。中国製UCSWに使われている部品の大部分はSAMTから供給されていたものだった。元々は蘭華の身体補助器官や行動可能な高機能補助身体の提供が主目的で接触していたSAMTだったのだが、応用技術でもあるUCLSの部品も極秘で提供していたのだ。「こんな形で蘭華さんの体が使われたのは残念です」と王に遺憾を漏らす。それに対して王は返す言葉も無かったが「党はなぜこんな無慈悲な命令を出したのか。あの子には残酷すぎる運命だ」と呟いた。

 

 すべての推進剤を使い切り、最後の補助ロケットを切り離した神箭は、慣性飛行で米国の戦術衛星に近づいていた。その速度に意識が朦朧となりながらも、蘭華はヘッドアップディスプレイに映し出される攻撃目標を鋭い眼光で睨み続ける。蘭華はペイロード内のチーバァ2号機を切り離し、米戦術衛星への最接近軌道に投射、折りたたまれた酸化ヨウ素科学レーザーの攻撃展開を開始する。その距離およそ150km。現在、実在するの兵器の攻撃レンジとしては巡航ミサイルのような慣性航法ミサイルでの攻撃が主流であるが、その攻撃レンジをカバーできるもう一つの兵器が高出力で照射可能なレーザーである。大気が薄いのも条件として好ましい、ターボファンエンジンは高度を上げると酸素不足で燃焼できなくなってしまう。

 程無く目標を捕らえたチーバァは射撃管制レーダーを照射し、目標をロック、そのまま科学レーザーを点射し、衛星付近の宇宙に漂うトライアルスターを次々に破壊していった。4機目に科学レーザーを照射した瞬間、突如、蘭華の操縦するチーバァは3箇所から火花を撒き散らし、攻撃を受けた。メルセデスの操る3機のトライアルスターに迎撃されたのだ。チーバァは両足と左腕を大きく欠損し火を噴くが、辛うじてまだ動く。弾道飛行しながらメルセデスの操作するトライアルスター3機の迎撃と、宇宙に漂うUCSWへの攻撃を再開する。

 

 この時、蘭華のチーバァから照射されていた4回目のレーザー攻撃は、メルセデスの迎撃により射軸が逸れてシャトル右主翼に直撃し爆発、炎上していた。この攻撃により搭乗員全員が死亡し、メガラニカ内に残っていたUCSWすべてが失われた。宙神作戦は半ば成功したのだ。

 

 米軍指令所内では、その事実に落胆しながら、激怒し、NORTHCOM司令部はメルセデスに指示を出す「絶対に逃がすな。撃墜せよ」メルセデスはそれに応答せずに、黙々と二つの目標を追尾していた。一つは弾道飛行する宇宙船本体、もう一つは宇宙に離脱していく半壊したチーバァ2号機。迎撃可能時間は後1分程しか残っていないが、メルセデスにとっては十分な残り時間であった。先に2機のトライアルスターで壊れかけのチーバァにレーザーを照射、反撃を受けながらも火達磨に変えた。次に眼下を飛行する宇宙船を照準の中に入れ、攻撃可能な状態にする。しかし、メルセデスは管制レーダーを照準したまま数秒間、レーザーを照射せずに目標をロックして眺めている。ヘッドアップディスプレイに映し出される攻撃可能時間と照準した宇宙船。それらを交互に見つめるメルセデスは、宇宙船が中国領空に到達するのを待っているかの様にも見える。

 

「ふふふっ・・・・・バーン!」

 

 と呟くとそのまま宇宙船を中国領空に到達するまで見送り、何もせずに見逃した。メルセデスは射撃管制レーダーの照射を解除すると、通信機のPTTをオンにして「宇宙船の攻撃に失敗、作戦機をトライスターに格納して作戦を終了する」と報告してヘルメットを取る。外したヘルメットからは、地上からの文句らしき通信が受信され微かに聞こえるがヘルメットを手から投げ放つと、いくつか浮遊していたロリポップの内の一つを指で摘み、包み紙を開き、口に含んでから、「な~んにも聞こえな~い」と独り言を呟き、両手で耳を塞いで目を閉じた。

 無重量状態の貨物機内でヘルメットとロリポップとメルセデスが虚しく宙を漂っていた。

 

 「こんなに予定通りに事が運ぶのも、あの娘のお蔭なのかな。強引に空軍にねじ込んだ甲斐があったわ。」大きくバンクを取るMAL-03の窓の外を眺めながら誰に言うでもなく独り言を呟く「レオナ・マルグレーテ・リュクスボー」は操作する訳でもないTVのリモコンを手の中で弄んでいた。

 

 およそ5分弱の戦闘を終えた蘭華だったが、15歳の少女にはその時間は数時間にも感じられた。宇宙船はマッハ15まで減速し成層圏に突入を開始している。戦闘を優先した為、再突入時の入射角度の取り方に失敗していた宇宙船は、厚い大気に高角度で突入し分解寸前だった。ディスプレイに表示されているアラートが、すでに対処不可能な警告を発している。それを見つめる蘭華の精神・肉体的疲労は最高潮に達していた。その時、蘭華の気力の糸は切れた。宇宙船が発する激しい振動の中で蘭華は出撃時の李との会話を思い出しながら死を覚悟していた。「李連長・・・・母の元へ逝きます・・・約束、守れなくてごめんなさい・・・」そう呟くと真っ赤に燃える窓の外の青く輝く地球に目を向ける「綺麗・・・最後にこんな綺麗な景色を与えてくれた神さまに感謝します・・・」そう呟いて目を閉じた蘭華の瞼に一粒の涙が浮かぶ。

 突如、宇宙船から何かが剥離して脱落する音が聞こえ、宇宙船の振動が激しさを増していく。中にいる蘭華には何が起こっているのか全くわからず、轟音と振動が死への恐怖を煽り増大させていた。しかし、理由は解らないがなぜか宇宙船は速度を落としていった。減速する宇宙船の速度を残された胸部から上で感じていた蘭華は涙目で船内を不安げに見渡す。真っ赤に燃える窓の外は恐ろしくて、すでに見る気分にはならなかった。ほんの2分ほどの時間だったが蘭華には数時間にも感じられた。

 振動が消えて窓の外からはなぜか青い空が映し出される。再突入の自動シークエンスを終えてドラッグシュートが開く音が聞こえる。蘭華には何故かは解らなかったが無事に大気圏内への再突入が成功していたのだ。5分程して再び大きな振動が船体を襲う。地上に到達した合図だった。無事に地上に降りたようだったが、蘭華にはもう一つの懸念があった。船内に設置されていた生命維持装置のバッテリーランプがかなり前から点滅していたのだ。それは電地残量が残り少ない事の警告「死」を意味していた。体力の限界に達していた蘭華はその明滅をただ静かに見守り瞼を閉じる。

 それから20分程経った後、外から車両の音がして船体の扉が開かれる。そこにいたのは李連長だった。「よく戻ってきた!」そう叫んで李は気絶しそうな蘭華を抱き起こすと停止寸前の船内の生命維持装置を外し、船外へと連れ出す。船外に連れ出された蘭華が朦朧とした意識の中で目にしたものは、宇宙船の下敷きになって真っ黒に燃え尽きた、予備に搭載していたチーバァ初号機だった。蘭華はそれを確認すると、眠るように目を閉じ、再び一粒の涙が頬をつたう。心の中で神さまとチーバァ初号機に「ありがとう」と感謝し深い眠りについた。

 

 2007年9月10日午前4時32分、北緯46度26分52秒、東経117度48分00秒、内蒙古自治区・伊和夏巴爾湖畔にて当初の予定通りの座標に神箭に搭載されていた宇宙船は着陸し、搭乗員・星蘭華は無事に保護、「宙神作戦」は成功裏に終了したのだった。

 

スカイ・アンカー へ続く

 


 
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