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ALO~妖精郷の黄昏~ 第29話 鞭と弓を討て

本郷 刃さん

第29話です。
セントラル・カセドラルに連行されたキリトとユージオ。
2人の前に2人の騎士が現れる・・・。

どうぞ・・・。

2014-07-06 09:52:21 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10098   閲覧ユーザー数:9291

 

 

第29話 鞭と弓を討て

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

整合騎士、アリス・シンセシス・サーティ。

彼女によって飛竜に繋がれて公理教会『セントラル・カセドラル』へと連行された俺とユージオ。

お互いに手錠は鎖で繋がれたまま、それぞれのベッドで一晩を過ごした。

 

ユージオに話した真実。

それは公理教会の最高司祭であるアドミニストレータが力を揮い、

剣術大会で優勝した者や禁忌目録を破った犯罪者を己に忠実な傀儡にしているということだ。

同時に俺が別の世界の人間であることも話しており、最初はかなり困惑していたようだが俺のことを信じてくれた。

勿論、この世界を創った人間の1人であることは話していない、

こればかりはまだ『A.L.I.C.E』へと至っていないユージオには話せないからな。

 

また、公理教会と禁忌目録を作ったのがアドミニストレータであることも伝えており、

奴が自分に反する者を生み出さないために作ったものであることも話した。

禁忌目録を打ち破った影響なのか、負の感情が以前にもかなり増して表に出るようになったユージオはかなり憤っていた。

 

ちなみに、一昨日にライオスとウンベールを殺した俺は落ち着いている。

元々SAOにて“狩人”としてオレンジ狩りをしていたこともあってか、

それとも今まで溜まっていたストレスが発散されたからなのか、どちらにせよ怒りとかの類が治まったようだ。

 

そう言えば、と俺はあることを考える。

アリスが禁忌目録を破った日、現実世界の時間で1ヶ月以上前の話なのだが、

あの日に禁忌目録が破られたことで本来ならば俺たちの目的であるアリシゼーション計画は完遂したはずだった。

しかし、俺が作った防衛プログラムにイレギュラーが検知され、

しばらくの後にアンダーワールドそのものを一時凍結させる事になった。

結局は原因が判明しなかったまま、今回の俺のフルダイブということに至ったわけだが、

俺はそれに対策するためにあるプログラムを開発し、そのディスクをダイブ前に菊岡に渡し、インストールさせた。

まぁそのプログラムが発動しないことを願おう、何せ開発した俺自身でも随分エグイものを作ったと思ったからな…。

 

 

さて、現在の時刻はおそらくだが午前3時頃、そろそろ動き出すべきだな。

 

「ユージオ、起きてるか?」

「あぁ、起きてるよキリト……ま、起きたのはついさっきだけどね」

「眠れたみたいだな。十分休憩も出来たし、そろそろここから出るぞ」

「了解。それじゃあこの鎖を壊そうか」

 

俺とユージオがすぐさま脱出をせずに牢で睡眠を取った理由、それは脱獄後の戦闘に備えるためだ。

この上にいるはずの最高司祭アドミニストレータ、

奴に辿り着くまでには当然のことだがアリスを含む数十人の整合騎士が待ち構えている。

奴らを突破するのに戦闘は必至であるはず、だからこそ体調は万全の方がいい。

 

ここで問題になるのが脱獄の方法。

この牢では神聖術が使えないこともあり、分類として剣召喚を行う俺の術も無効化されてしまう。

ならばどうするのか、それは俺とユージオの腕に嵌められている枷から繋がっている鎖を使う。

これをお互いに交差させ引っ張り合うことで鎖の天命を削るというものだ。

既に実験済みであるため問題は無い。俺とユージオは鎖を交差させるとそれを一定の力で引っ張り合う。

ステイシアの窓で鎖の耐久値を見てみるともう少しで壊れそうだとわかる。

そして鎖が壊れ、俺たちは込めていた力で転倒するも上手く受け身を取った。

 

「目的はアリスの救出とアドミニストレータの討伐、ついでに整合騎士たちも救っちまうか」

「ついでなんだね、整合騎士たちは…。まぁ、僕もアリスを救う為ならなんだってするさ」

「覚悟は十分みたいだな。よし、行くぞ」

「了解」

 

ユージオの瞳に映る覚悟の意志を見届け、俺は耐久値が回復した鎖を構える。

この鎖、長さが1.2mほどあり、リーナ先輩から教わった鞭の使い方を発揮する絶好の機会である。

先輩の教え通りに鎖を鞭替わりに振るい、格子にぶつけた。

格子の優先度(プライオリティ)は20だが、鎖は38であるためかなり高い。よって、格子の扉は大音響と共に吹き飛んだ。

いまの音で獄吏が駆けつけるだろうが待っているつもりはない。

俺たちは素早く駆け出し、この地下牢から脱出するべく向かったのだが、

地上部への階段付近である獄吏の詰所の前で立ち止まった時、ある音が聞こえてきた。

 

「なぁ、ユージオ君や」

「なんだい、キリト君や」

「この音はイビキというやつじゃないかな?」

「奇遇だね、僕もそう聞こえるよ。空耳かな?」

 

獄吏の詰所を覗き込んでみると、まさしく獄吏が1人で眠っていた。俺とユージオは視線を合わせてから…、

 

「行くか…」

「だね…」

 

さっさと螺旋階段を上に進んだ。

 

 

地下から脱出した俺たちは一息吐き、談笑を交わしながら僅かな休憩を取る。

 

「それにしても、まさかこのカセドラルがたった1人の私利私欲を満たすために生まれたと思うと、

 なんだか遣り切れない気分だなぁ…」

「何時だってそういうものだよ。俺の世界でも似たようなものだからな」

 

幼い頃から信じてきた公理教会の法、そのせいで奪われた幼馴染、そういった事があったからか憂鬱そうだ。

 

「まぁ思うことは色々とあると思うが、いまはアリスを取り戻すことが最優先だ。だろ?」

「はは、その通りだね」

 

そろそろ向かおうと思ったところで俺は大切なことを思い出す。

 

「システム・コール、オブジェクト・ソード、『ハテン』。ユージオ、枷を破壊するぞ」

「あ、そういえば忘れていたね。頼むよ」

 

部屋から出たことで神聖術を実行できるようになったため、

愛刀の1つである『ハテン』をシステムウインドウから召喚する。

ユージオの右手にある枷を破壊し、次いで自分の腕にある枷を破壊した。

これで完全に自由になれたな。

 

「この刀はユージオが使え、銘は『ハテン』だ。お前でもなんとか使えるはずだし」

「う、うん……うわ、こんなに細いのにそれなりの重さだな。それに、天命も凄く高い…」

「お前の剣術は基本的に剣を主体に置いているが、刀でもなんとかなるはずだ。使えそうか?」

「大丈夫。いけるよ」

「よし。それじゃあ俺も……システム・コール、オブジェクト・ソード、『エリュシデータ』」

 

蒼穹の色を持つハテンを数度振り、感触を確かめてから腰に据えたことから問題は無いようだ。

自分用にエリュシデータを召喚し、背中に据える。ふむ、やはりこれがあると落ち着くな。

俺たちは互いに頷き合い、この先にある広場へと向かった。

 

 

 

 

広場に入る為の西のゲートに付くと柵に無数の薔薇が蕾のままだが蔓を巻いていた。

開花していないとはいえ薔薇から放出される神聖力は多いうえに、

この柵全体に薔薇がある事から空間神聖力は満たされているだろう。

俺たちはこの神聖力を利用して式句を唱え、

没収されている『青薔薇の剣』と『黒剣』を回収するべく神聖術を発動した。

どうやら剣のある場所は3階地点と思われる。

俺はともかくユージオは青薔薇の剣が愛用なので、なるべく早くに回収するべきだろう。

 

剣の大凡の位置は把握したので俺たちは青銅でできたゲートを潜り、正面広場へと向かう。

少し進むと次のゲートが姿を現し、その先に広場が見えた。だが俺はゲート潜らずに立ち止まる。

 

「誰かいるみたいだ…」

「見回り、とかじゃなさそうだよね…。整合騎士かな?」

「おそらく。それに待ち伏せだろうな。ま、相手がなんだろうが倒すだけだ、行こう」

 

俺が前を行き、ユージオも後に続いて広場に入る。

そこには噴水とベンチがあり、ベンチには1人の若い男が座り、ワイングラスを片手に優雅にワインを飲んでいる。

素人から見れば隙だらけに見えるが俺たちに気付いているのが丸解りである。

 

「慎重に入ってくるかと思ったのだが、随分と堂々としているものだ」

「脱走だからと言ってコソコソしないといけないわけじゃないからな、整合騎士さん」

 

こちらを見ながら話しかけてきたのは白銀の鎧と十字の紋章が刺繍されているマントに身を包み、

左腰にやや反りのある長剣を据えている若い男の整合騎士であった。

 

「我が師アリス様は慧眼であるよ。僅かな可能性ながらも囚人の脱走を予期なされた」

「アリスが師、ねぇ…」

 

男の言葉に俺は呟きながらチラリとユージオを見てみれば、彼の表情がイラついている事に気が付く。

大方、アリスが師という奴に嫉妬でもしたのだろう。本当に、禁忌目録を破ってからのユージオは面白い。

 

「正直私はまさかと思っていたのだが、こうして本当に現れるとは。

 それに南帝国の火山で鍛えられた『霊鉄の鎖』をどうやって外したのやら……それに、剣まであるじゃないか。

 まぁ君たちが大逆人であるということは最早疑いようもないね。

 地下牢へ戻ってもらう前に厳しいお仕置きが必要なようだ。勿論、覚悟は出来ているだろうね?」

 

ワイングラスをベンチに置いて立ち上がり、右手で長髪を掻き上げ、薄い笑みを浮かべたまま語気を強めて言った。

つい先日に殺したライオスやウンベールとは比べ物にならないほどの正常な闘気を放ってくる。

久しぶりの良い獲物に俺は自分の表情が笑みに代わっていることに気が付く。

 

「生憎、こっちは大人しくお仕置きなんてされないけどな」

「はは、威勢がいいね。まだ学院を卒業していないヒヨコとはいえ、主席と次席なだけはあるみたいだ。

 その威勢に敬意を表して、名乗らせてもらうよ。私は整合騎士、エルドリエ・シンセシス・サーティワン。

 一月前に召喚されたばかりで未だに統括地もない若輩者だが、相手をしようじゃないか」

 

その名を聞き、俺は驚くと同時に納得する。

奴の名前と一月前という時期、そして召喚されたという言葉、間違いなくこの男を俺たちは知っている。

 

「キリト。彼の名前は…」

「俺もお前と同じ考えだ。悪いがコイツの相手は俺がさせてもらう」

「その心は?」

「先輩の無念を晴らす」

「そうだと思った。それじゃあ僕は見学させてもらうよ」

 

奴の正体に俺と同じ考えに至ったであろうユージオ。

彼の言葉に甘えさせてもらい、ここは俺がやるとしよう。

ユージオが後ろに下がり、俺は前に出て背中からエリュシデータを抜き放つ。

 

「おや? 2人同時じゃなくていいのかな?」

「あぁ。アンタがどれほど強くとも、俺1人で十分だ。帝立修剣学院、主席上級修剣士キリト、行かせてもらう」

「ふっ、舐められたものだね。公理教会と禁忌目録に背いた挙句、牢破りまでしたその覚悟に敬意を表して、

 剣ではなくこちらを使うとするよ。最初から全力で相手をする為にね」

 

エルドリエは右手で剣帯の後ろ側に留められていたと思われる2つ目の武器を取り出した。

それは純銀の輝きを帯びる細身の鞭、全長は4m以上、銀の細線を編み上げた美麗な作りとなっており、

薔薇の茎の如く鋭い棘が螺旋状に生え、星の光を宿して剣呑に輝いている。

随分と物騒な鞭だことで……俺がALOで(アスナに)使うのはもっと可愛いものだぞ…。

 

だが、お互いに武器を抜いたいまこそ、開戦の合図だ。

 

 

 

 

「システム・コール!…………………、エンハンス・アーマメント!」

 

開始の式句の後に30ワード以上の詠唱を高速詠唱で終わらせ、最後に放たれた言葉に俺は内心で舌を打つ。

いきなり《武装完全支配術》かよ、と心の中でツッコミながら俺は一気に距離を縮める。

それに反応したかのようにエルドリエは即座に鞭を振るう。

すると、4m以上のはずの鞭が伸縮性のある素材であるかの如くその身を伸ばし、

宙に銀色の軌跡を描いて俺に襲い掛かってきたが、襲い来る鞭を僅かなステップで躱しそのまま奴に向けて肉薄する。

 

「むっ、はぁっ!」

 

伸ばした鞭を自在に操り、近づく俺に対し薙ぎ払いを仕掛けてくる。

それを奴ごと抜かすように飛び上がって回避し、奴の背後に着地すると同時に振り向きながら斬り払う。

エルドリエは振り向きながら回避しつつ、再び鞭で払ってきた。剣で鞭を払い、互いに距離を取る。

 

「へぇ、中々やるじゃないか…」

「これは、驚かせてくれるね…。まさか我が神器『蒼鱗鞭』を初見で躱しただけでなく、私と渡り合ってくれるとは」

「渡り合う? 押されているの間違いだろ…自分のマントを良く見てみろよ」

「なに……なっ!?」

 

俺の言葉に自分のマントを見たエルドリエが驚く、奴のマントが半ばより上から斬り落ちたからだ。

どうやら奴は俺の剣を避けきったと思っていたようだが、生憎と間違いである。

あと少し回避が遅れていれば奴の鎧が斬り裂かれ、反応出来ていなければ鎧ごと体を斬り裂かれていただろう。

 

「バカな…整合騎士であるこの私に、一介の学院生如きが…」

元の場所(現実世界)ここ(UW)に来て、剣を握って剣術を学んで12年だ。

 実戦も経験したことのないお前とは年季が違うんだよ」

 

命懸けの実戦はSAOで2年間、命懸けではないといえALOでも2年間だ。

命懸けの戦いをしたことのない整合騎士(コイツら)とは戦いも、殺しのキャリアも違う。

 

「そんな、ことは……だが私とて誇り高き整合騎士! 大罪人である者たちに後れを取っていられないのだよ!」

「いいぜ、来いよ!」

 

闘気を放ち、右手の蒼鱗鞭だけでなく左手に剣を持ち構えるエルドリエ。ならば、俺も本気を出そう。

 

「おおおぉぉぉぉぉっ!」

「ぐっ、これは…!」

 

雄叫びと共に覇気と闘気を解放し、俺本来のスタイルである自然体へと移り変わる。

俺の覇気と闘気に圧されていたエルドリエだが、即座に対応できるようにしている。

瞬間、俺は足に溜めた力を一気に解放し、一瞬で奴に接近した。

《神霆流歩法術・零間(れいげん)》である。そのまま奴に斬り掛かる。

 

「うっ、おぉぉぉ!」

 

驚愕しながらもエルドリエは即座に鞭を振るい俺に攻撃を仕掛ける。

俺は即座に足捌きを変え、奴の体と振るう鞭の間のギリギリを掻い潜り、剣を振るう。

《神霆流歩法術・雪調(ゆきしらべ)》だ。奴は剣で対応するも防ぎきれずに鎧の一部が砕ける。

そのまま剣で打ち合うが俺の剣撃にエルドリエが追いつけず、幾度となく一点を攻撃したことで奴の剣までも砕ける。

 

「はぁっ!」

「ぐぅっ!?」

 

剣が無くなったことで守りが薄くなり、隙が多くなったこともあり一気に攻勢にでる。

斬り下げ、斬り上げ、右斬り払い、左斬り払い、斜め斬り下ろし、

斜め斬り下げ、突き、薙ぎ払い、様々な連撃を行い斬り続ける。

エルドリエの鎧は各所が砕け、装甲の薄い部分は服が破けて血が流れている。

 

「これ、ならばっ!」

 

声を上げたエルドリエ。直後、奴の持つ鞭が2つに分裂し、俺に襲い掛かってきた。

だが俺は冷静にそれらを対処、襲い来る2つの鞭を剣で斬り防ぐ。

奴は驚きながらも再び表情を厳しくし、さらに鞭を7つに分裂させた。

 

「ま、だ…まだぁぁぁっ!」

 

俺を囲むように襲い来る7つの銀鞭。全方位からの強襲に対し、普通ならば対処は出来ないだろう。

だが俺はそれさえも凌ぎ切る。瞬時に剣を逆手に持ち、全力で以てその場で一回転する。

剣から発せられる斬撃と衝撃波により、鞭を全て弾く。《神霆流闘技・霧裂(きりさき)》である。

その様に絶句するエルドリエ、隙が生まれたことで俺は鞭の間を飛び上がって奴に接近する。

奴はすぐさま鞭を振るい空中から向かってくる俺に迎撃を行うが、俺はそれを空中で迎撃しきる。

そして奴の目前に着地し、

 

「ふっ!」

「ばっ、ぐあぁっ!?」

 

剣を振るう。エリュシデータはエルドリエの左肩を斬り裂き、大きな傷を作った。

これで終わりか……そう思った瞬間、奴は痛みを堪える表情のままに言葉を放った。

 

「リリース・リコレクション!」

 

直後、蒼鱗鞭がルビーのような赤い眼と凶悪な咢を持つ蛇へと変化した。

生命を得たかのように動き、口を大きく開いて俺に噛みつこうとしてきた。

それを蹴りで払うが、鞭…いや蛇は7匹に別れて襲い来る。

噛みつき、巻きつこうとする蛇たちを踏み潰し、蹴り払う。

 

「それが《記憶解放(リリース・リコレクション)》か、面白い…だがここまでだ」

 

既に満身創痍であるエルドリエを一度見据えてから、俺は1匹ずつ斬り捨てた。

1匹は首を飛ばし、1匹は口から裂いて開きにし、1匹は頭から縦に斬り裂き、

1匹は同じ長さに斬り、1匹は頭を刺し、1匹は口の中に剣を刺すことで終わった…。

どうやら最後の蛇こそが鞭本体だったようで元の鞭に戻ったが、その先は無残にもボロボロになっていた。

 

「この、私、が……罪人に、敗れる…など…」

「アンタは確かに強いよ。ただ、相手が悪かっただけさ」

 

エルドリエは各所の傷口と左肩の裂傷から血を流しながら倒れ伏した。まずは1人目だ…。

 

 

 

 

意識を持ちながらも血を流し過ぎたからか倒れているエルドリエを仰向けにし、

俺とユージオは神聖術で最も重傷である左肩の裂傷を少しだけ治癒する。

 

「なんの、真似、だね…?」

「別に俺たちはアンタを殺すつもりなんてないからな。

 それに、アンタは思い出さないといけないこと事があるはずだ、そうだろ?

 エルドリエ・シンセシス・サーティワン、いや……1ヶ月前に行われた今年の四帝国統一大会の優勝者、

 ノーランガルス北帝国第一代表剣士にして帝国騎士団代表、エルドリエ・ウールスブルーグ」

「なん、だと…? 私が、北帝国の、代表剣士……エルドリエ、ウールスブルーグ…?」

 

裂傷がある程度は癒え、その傷口にハンカチを巻き付けて止血をしながら俺は話した。

エルドリエは顔を青褪めさせ、灰色の瞳を見開き、唇を震えさせている。

 

「その通りです。紫の髪の美丈夫、流麗極まる剣術で全ての試合で圧勝した」

「知ら、ん……私は、そんなことは、知らない…! 私は、整合騎士…エルドリエ・シンセシス・サーティワン、だ…!

 最高司祭、アドミニストレータ様の、招きを受け……天界より、召喚され……ぐ、うぅっ…」

 

ユージオも呼びかけたがそれを否定するように続けるエルドリエ。

しかし、最後の方で彼に変化が現れた。呻いた彼の額に小さな逆三角形の紋章が浮かび上がっている。

1cm、2cm……そして5cmとまで浮かんできた。おそらく、これこそ記憶を改変された影響だ。

このチャンスを逃すわけにはいかない、そう思いユージオに目配せをし、エルドリエに声を掛ける。

 

「エルドリエ! エルドリエ・ウールスブルーグ!

 四帝国統一大会でアンタは学院から参加した2人の代表と戦ったはずだ!

 2人の名はソルティリーナ・セルルトとウォロ・リーバンテイン、1回戦と2回戦で戦い勝利しただろう!」

「学院、代表……主席と、次席の…。セルルト、流……ハイ・ノルキア、流…」

 

そうだ、その通りだ。相槌を打ち彼の記憶に正解を出す。俺の意図を理解したユージオはさらに言葉にした。

 

「貴方は帝国騎士団将軍エシュドル・ウールスブルーグの息子だ!

 母親の名前はアルメラ、アルメラ・ウールスブルーグ!」

「ア……ル、メラ………かあ、さ…ん…」

 

ユージオが放った彼の母親の名、それを聞いたエルドリエは見開いた両の瞳から大粒の涙を流している。

彼にとって、母親であるアルメラこそが鍵であるようだ。

 

「思い出せ、エルドリエ! お前は誇り高い将軍の息子だろう!

 整合騎士の姿を見せると、アルメラさんに誓ったんじゃないのか!」

「かあ、さん…の、ゆめ……きしの、すがた…を……………あ、あぁぁぁぁぁっ!?」

 

大会に優勝したエルドリエは質問にそう答え、

それを突きつけると徐々に浮かびあがってきていた三角柱が一気に抜け落ちた。

額から血を流しながら意識を失ったことで俺たちは思わず死なせてしまったかと思ったが、

息をしていることからどうやら無事であるらしい。

人工フラクトライトであるために負荷で死んだのではないかと考えてしまったが、

整合騎士にされただけはあるようで負荷にも耐えきったようだ。

そして彼の表情には何処か憑き物が落ちたかのような綺麗さがある。

 

彼が無事であることをユージオに伝えたその時、俺は殺気を感じたので剣を抜き放ち、飛来してきたものを斬り裂いた。

どうやら矢を射ってきたようだが、飛んできた場所を考えるに敵は上空のようだ。

そして上を見れば案の定、飛竜に乗った整合騎士が弓で俺たちに狙いを定めている。

旋回する飛竜に乗ったまま狙い撃ってくる辺り、景一や詩乃を思い起こさせる。

 

「鞭の次は弓か……本当に、整合騎士は俺を愉しませてくれる…!」

「楽しそうなところ悪いんだけどさぁ…どうするんだい、アレ?」

「エルドリエの治癒も大まかには終わった事だし、あの三角柱が抜けたってことは記憶が戻る可能性がある。

 彼を引き渡すわけにもいかないから、ここで退くわけにはいかない」

「言うと思った。だけど、空に居る相手にどうやって対抗するんだい?弓だよ?」

「俺は矢を叩き落とせるが?」

「僕は無理だから避けるしかないね……神聖術で落とそうか?」

「それが良さそうだな」

 

話し合っていると再び矢が飛来してきた。俺は剣で叩き落とし、ユージオは鏃が煌いた瞬間に回避した。

奴を落とすならばやはり神聖術が妥当なところだろう、そう考えていた時だった。

突如として飛竜を旋回させながら降下してきた。

 

「罪人よ、騎士サーティワンから離れろ!光輝ある整合騎士に堕落の誘いを行った罪、許すことなど出来ぬ!

 四肢を射抜き、牢に叩き返してくれる!」

「見事なまでの勘違いだな」

「聞く耳持たないだろうなぁ…」

 

赤い鎧を身に纏い、身の丈ほどもある赤銅の長弓を手に携えながら言った整合騎士。

あの長弓こそが『蒼鱗鞭』と同じ神器の武器なのだろう、果たしてどんな力なのやら…。

 

「俺たちはあくまでも戦いで傷ついたエルドリエを治療しただけだよ。まぁこの状況をどう捉えるかはアンタ次第だけどな」

「ぬっ……確かに、騎士サーティワンの姿を見るに治療に当たったのは事実のようだな…。

 しかし、脱獄し、騎士サーティワンに穢れた闇の術を掛けたことも事実!

 なれば咎人共よ、殺すことは許されていないがその身に矢を生え渡らせてくれる!」

 

戦闘の回避はやはり無理か……まぁ逃げるという選択肢は最初から選ばないからな。

赤い鎧の整合騎士は矢筒から4本の矢をつがえた、来るか!

 

「俺は飛竜の相手からする。飛竜を抑えたらすぐに援護するから、それまで頼む」

「了解。でもさ、倒しちゃっても構わないよな?」

「当たり前だ」

 

その言葉を合図に俺たちは同時に奴に向かった。

 

キリトSide Out

 

 

 

 

No Side

 

前を駆けるキリトが飛び上がり、飛竜に乗る整合騎士に肉薄し、斬り掛かる。

 

「せぇいっ!」

「くっ!」

 

騎士は4本の矢を放ってきたが、キリトはそれを全て叩き落として騎士に剣撃を加える。

迎撃は不可能だと判断したのか、飛竜から飛び降りた騎士にユージオがハテンで斬り払う。

キリトは飛竜を、ユージオは整合騎士を相手取るべく別れ、それぞれ戦闘を開始した。

 

先手必勝、キリトは飛竜に幾度もの剣撃を加えた。

 

「ぎゅぅおぉぉぉぉぉっ!?」

 

飛竜は自身が傷ついた事がないのだろうか、剣によって幾つもの傷をつけられては鳴き声を上げる。

しかしいつまでもやられてばかりではおらず、キリトに標的を定めて火球を放つ。

周囲にある薔薇に被害を与えまいと考えているのか、その火力は大きくなく、キリトは剣によって火球を斬り裂く。

飛竜は翼や尻尾を使い薙ぎ払いを行うものの、大振りともいえる行動は全て回避される。

 

その時、キリトが頭目掛けて接近を仕掛けた。

飛竜は火球ではなく火のブレスを吐きかけるが、それは飛び上がられる事で避けられ、

接近に成功したキリトは飛竜の頭部に強烈な蹴りを叩き込んだ。

飛竜の体はぐらつき、追撃といわんばかりに踵落としを決める。

 

それが脳震盪を起こしたのか、飛竜はふらふらとしてから地に倒れ伏した。

キリトはその眼前に立ち、闘気をむき出しにして言葉が通じるはずのない飛竜に語りかける。

 

「おいトカゲ、勝者は俺だ。お前は戦いが終わるまでそこで寝ていろ。

 安心しろ、お前の主は殺さない……ちゃんと助けてやる」

 

闘気を晒しながらも最後に優しく語りかけたからなのか、飛竜は傷ついた体を休めるように瞳を閉じ、眠り出した。

キリトはすぐさま相棒の戦闘に目を向けるが、彼はその戦いに眼を見開くも即座に介入するべく移動した。

 

 

整合騎士は弓に矢を複数つがえ、同時にユージオに向けて放ってきた。

彼は高速で迫る矢を見切り、キリトに教わった通り大袈裟に避けず、小さなステップでそれを躱す。

恐怖はある、しかし心は落ち着いている。

 

彼の初めての実戦は2年以上も前のゴブリンとの戦い、次は村で戦ったジンクとの決闘、

その次はザッカリアの剣術大会、そして学院に入学してからの試験や決闘、だがどれも格下との戦いであり、

ユージオを危機的状況に追い詰めるには至らなかった。

だがキリトとの稽古は違った。常に本気の殺意を飛ばし、実戦の空気を教えたキリト。

彼のお陰か、自分より格上の相手である整合騎士にも落ち着いて対処が出来ている。

 

連射に速射を繰り返す騎士、ユージオは飛来する矢を冷静に見極め、

直撃するものは叩き斬り、躱せるものは回避し、掠りそうなものは無視する。

中途半端に避けるよりも掠り傷程度ならば無視するのが一番とのことだからだ。

 

そして矢をつがえるタイミングで徐々に近づいていき、

キリトから学んだ歩法を用いて一気に接近し、そのまま斬り掛かる。

 

「うおぉっ!」

「ぐぬぅっ、うぐっ…!」

 

ユージオの刀による斬撃、予想以上に早い少年の連撃に弓を主とする騎士は防戦となる。

幾度かの斬撃が鎧やマントを掠め、傷が入り、マントが切れる。そんな中で騎士は長弓を振るい、

ユージオは刀で防ぐも力の差が出て後退を余儀なくされる。

距離が開いた瞬間、騎士は矢筒に余っていた30本もの矢を同時につがえてきた。

その光景に絶句するも危険を悟るユージオ、そして騎士は30本もの矢を放射状に放ってきた。

 

「はあぁっ!」

「うわぁっ!?」

 

裂孔の声と共に放たれた無数の矢だが、ユージオは放射状だからこそ当たらない前へと飛び込むことで難を逃れた。

整合騎士にもう矢はない、ユージオはこれで攻勢に出ることが出来ると考えた。

しかし、それは甘い考えだと思いしらされる。

騎士が何事かを呟いているようで、それは先程キリトが戦ったエルドリエが唱えたものと酷似していたからだ。

 

「……………、エンハンス・アーマメント!」

 

《武装完全支配術》、騎士の持つ真紅の長弓が火焔を纏った。

離れていても判るほどに熱波を感じ、騎士自身が焔を纏っているようにも見える。

 

「こうして『熾焔弓』の炎を浴びるのは2年ぶりだ。騎士サーティワンを倒しただけの実力はあるようだな。

 ならば、全力で以て相手をさせてもらおう!」

 

騎士が長弓を構えて弦を握るとそこに炎でできた矢が形成された。

アレを斬るのは至難の業だとユージオは確信し、けれどそれでも退くことはできない。

ハテンを構え、再び前へと駆け抜ける。

 

「燃え尽きろ!」

「させるかっ! フォームエレメント・シールドシェイプ! ディスチャージ!」

 

突如、ユージオに放たれた紅蓮の矢の前にキリトが躍り出、神聖術によって5枚の盾を出現させた。

炎の槍ともとれる紅蓮の矢の前に盾は脆くも崩れ去り蒸発する。

1枚、2枚、3枚と…あっさりと崩れていく中で4枚目はほんの一瞬だけ耐え、砕け散る。

5枚目の盾に到達した瞬間、ついに勢いを緩めたが紅蓮の矢は猛禽類のような炎の鳥へと姿を変える。

盾はついに蒸発し、キリトに襲い掛かろうとする……が、キリトはエリュシデータを回転させ、炎の鳥を受けきった。

そのあまりの力による回転によって衝撃波が発生し、爆発が起こりながらも炎の鳥が爆散した。

 

「なぁっ!?」

 

驚愕する整合騎士。ユージオはキリトを飛び越え、爆発の煙の中を突き進んで騎士の前に躍り出た。

騎士はすぐさま己の拳に焔を纏わせ、ユージオに殴り掛かる。

力強い一撃、しかしそれはキリトを相手に稽古を重ねてきたユージオの前には力が足りず、速さもない。

故に、ユージオはその一撃を掻い潜り、キリトより伝授されたアインクラッド流二連撃技《バーチカル・アーク》を放ち、

騎士の胸元をV字に斬り刻んだ。

 

「ぐぅっ!?」

 

鎧を斬り裂いて鮮血が舞うも、それはまだ浅い。

ユージオは決定打が足りないと即座に認識し、キリトより学んだ技術である『秘奥義連携』を用い、《スラント》を放った。

その一撃は騎士の右肩を直撃し、鎧を砕いてエルドリエに似た大きな裂傷を与えた。

 

「ごはっ!」

 

騎士は息を吐きだし、右肩の裂傷と胸元の傷口から多くの血を流している。

そのまま長弓を取り落とし、両膝を地面につけてしまう。

これにより、2人目の整合騎士との戦いにも決着がついた。

 

No Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

ついにカセドラル内部へと至ったわけですが、早速騎士2人を叩きのめしたキリト&ユージオです。

 

キリトが武器召喚を行えるうえでユージオに刀を貸した事で2人とも闘えますからね。

 

しかもエルドリエはキリト1人に惨敗、デュソルバートはユージオと接戦するも介入したキリトに攻撃を防がれ、

その隙を突いたユージオの攻撃により敗北しました。

 

デュソルバート(赤い騎士)の名前は敢えてだしませんでしたが、次回でちゃんと出しますので。

 

なお、今回の話を見て解ったと思いますが、原作ブレイクで2人とももう倒しちゃいましたし、

さらに三角柱(敬神モジュール)も取り除かれちゃいましたw

 

次回では予想できると思いますが驚きの展開になりますので楽しみにしていてください。

 

またアニメGGO編も始まりましたね・・・序盤でイチャつくキリアスが可愛すぎて悶えましたw

 

それでは次回で・・・。

 

 

 

追伸

 

他小説サイトである「ハーメルン」においてここでもコメントをくださる「イバ・ヨシアキ」様が、

この『黒戦シリーズ』の最初であるSAO編のR-18小説、キリトとアスナの初夜を書いてくださりました。

時間軸は『黒戦』の「第四十九技 伝えあう想い」のあとで「第四十九.五技」となります。

『黒戦』のキリトとアスナなのでWeb版との差異も楽しめると思います。

正直、自分以上のクオリティだと感じるほど感動しましたのでみなさんも是非見てください!

あ、勿論R-18なので未満の方はご遠慮くださいねw

読みたい方は「イバ・ヨシアキ」様の名前でユーザー検索したのち、

ヨシアキ様のページから作品を選択してください。

 

 

 


 
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