No.694673

東方百合事記3~早苗v諏訪子~

初音軍さん

ブログに書いてたお話で、早苗好きなのにまだほとんど登場してないじゃん!
ということで迷った挙句相手を諏訪子さまにして好き放題書きました。
過去一族を見守ってきた諏訪子の複雑な気持ちを早苗がまるっと
包み込んでいくお話。

2014-06-17 13:52:20 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1205   閲覧ユーザー数:1204

早苗v諏訪子

 

 早苗を見ているとつくづく大昔の巫女を思い出す。

人の言うことを素直に受け入れ体を張って守り通す。

神だから私たちのことを盲目的に信じ込む。

ある意味、呪われているようであまりに哀れ。

自らの人生のすべてを捧げ儚く散っていく様は美しくも苦しくなる。

 

「早苗」

「何ですか、諏訪子さま」

 

 神社の内側、住居スペースにて後ろ姿を見た私はつい声をかけてしまう。

私の呼び声に反応してあどけない笑顔を向けて私に近づく早苗。

ほどよい風が二人の髪をなびかせていた。

 

「どこかへいくのかい?」

「えぇ、文さんから誘いのお話がありまして」

 文…あぁ、あのブンヤのことか。

チャラチャラした雰囲気で記事も大方想像ばかりだから

あまり良い印象を抱いていない。

 

 そんな烏天狗と私の大事な早苗が一緒にいることは

喜ばしいことではないが…。

 

 私たちの勝手で現実の世界からこっち側に来てしまったのだし

私が早苗を束縛する言える立場ではないのだ。

それに時代も時代だ、早苗には自由にいてほしい気持ちはある。

 

 だけど…少し妬けてしまうではないか…。

 

 少し前まで幼子だった子がみるみるうちに美しく育って

大昔に恋した我が子孫を思い出す。

外見はあまり似てないけれど雰囲気が中身が似ているといった

感じだろうか。そんなだから、私は素直に送り出せずにいるんだ。

 

 嫉妬とはなんと醜いことだろうか。

 

「諏訪子さま?」

 

 考えているうちにいつの間にか俯いていた私の顔を覗き込むように

見てきた早苗。顔を上げるとちょっと気まずそうに微笑む。

 

「いつもと様子違いますね」

「そんなことは…」

 

「いつもはケロケロ騒がしいくらいですのに」

「失礼だな!」

 

 似てるけど違う、違うけど似てる。神様と人間という距離があるのに

それをいとも容易く近づいてきてそんなの関係ないって一緒にしてしまう

強引さ。あの子にもそういうのあったような気がする。

 

「ふふ、じゃあ行ってきますね」

「…うん」

 

 私の甘酸っぱい気持ちなど早苗に押し付けてはいけない。

そういう気持ちで自分の言いたいことを抑えながら早苗を見送った。

姿が見えなくなるまで手を振って。帽子が顔を覆うくらいに深く被せた。

 

 これまで早苗にはこんな感情より沢山、沢山我慢させていたんだ。

今度は私が我慢する番である。

 

 帽子からぽたっと落ちる一滴の涙。

確かに今日は変だ。昔のことを思いだしてばかりだ。

だから神奈子でもからかって気分転換でもしようか。

そう思って私は神社に向かって歩き出した。

 

 周りから慰めてくれる蛙の鳴き声と一緒に

私も呟くように歌い始めた。

 

 ケロケロケロ…

 

「え、今日も行くの!?」

「はい、思ったより話が弾んで収集つかなかったもので」

 

 翌日、早苗の言葉に呆気にとられる私の顔を見て

早苗はぷっと笑いを堪えるようにしていた。

 

 早苗は気楽に話しているのだろうけど私はそれどころではなかった。

もしや天狗は早苗に気があって近づいているのではないか。

ただ見守っているだけだったら攫われてしまうかもしれない。

 

「だめよ!」

「諏訪子さま?」

 

「早苗をあの天狗なんかにはやらないんだから!」

「ちょっ、どうしたのですか。あ…」

 

 早苗が言い終わる前に私はごちゃごちゃした気持ちを抱えたまま

早苗の前から逃げ出していった。

 

 あぁ、醜いよ。人間も神も恋をすると聡明さを失い 感情に走ってしまう。

少しでも心を抑えるために私は近くの小さな池で鳴いている蛙たちの元へ

愚痴を言いにいった。

 

 早苗はこれっぽっちも悪くはないんだけど捌け口がないから

このままだともっと理に合わない言葉をぶつけてしまいそうで怖かったから。

 

私は神様なんだから。

 

もっとしゃんとしないと。

 

「へー、そんなことで悩んでいたんですか?」

「え!? 早苗!?」

 

 すっかり出かけたものかとばかり思い込んでいたから

完全に意表を突かれてしまった私はへんてこな声を出してしまう。

早苗は優しい笑顔で私の目を見つめてきた。

 

「変な諏訪子さま」

「どうせ変よ…」

 

「そういうことじゃなくて」

 

 私が座り込んでいる場所の隣に同じように早苗がしゃがんで

視線を合わせる。

 

「いつものように私に色々と思ったことを

仰ってくれればいいのに」

「ぐぬっ…」

 

 私が言葉に詰まると慌てて言い直してくる早苗。

言葉を頭の中で探すような仕草が愛らしい。

 

「ともかく諏訪子さまが心を病ませる必要はないのですよ。

私は諏訪子さまの仰る通りにするだけです」

「それが理に合わないことだから言わなかっただけよ」

 

「それでもいいんですよ。話してください」

「はぁ…早苗は本当に強引だよ…」

 

「それはお互い様です」

「違いない」

 

 私が愉快そうに笑うと蛙も早苗も嬉しそうにしていた。

それに合わせるように辺りの蛙たちはダンスを舞うように

リズムよく池の音が耳に届く。

 

 ぽちゃんぽちゃん。

 

「私は大昔自分の娘に恋をした」

 

 しちゃいけないことだし、それをしたことで入っちゃいけない

一線を越えてしまった。辛かったよ、大事な存在を失った時。

自分の一部を失ったあの感覚はたまらないことだった。

 

 自分の存在がなくなってもいいくらいには…。

それも家族としてではなく、恋人としてだから猶更だ。

その感覚がまた早苗に向いてしまったのだよ。

 

「…」

「軽蔑してのいいのだよ、私のことを」

 

「何でですか?」

「え?」

 

「私はいけないこととは思えません」

「早苗?」

 

「恋をしている間は幸せだったのでしょう?

諏訪子さまも、私のご先祖も」

 

「…うん」

「だったらいいじゃないですか。一緒の時間は少なくても

その幸せの時間は本物だった。

辛いでしょうけど否定することはないです」

 

「早苗…」

「私も諏訪子さまのこと好きですよ…」

 

 おそらく私と同じような表情をしているであろう早苗の

表情が魅力的で視線を外せなかった。

 

「でもね、早苗。私たちはすごく遠くても

血は繋がってるんだよ、恋愛をするにはおかしいだろう?」

 

「それは思いませんね」

 

 はっきりと気持ちいいくらいに言い放つ。

きょとんとして早苗を見る私に早苗は胸を張って。

 

「私は常識に囚われない。そりゃ最低限のことはするべきだけど

ここに来て特に恋に関しては考えが変わった気がします」

「ふむ、聞かせておくれ」

 

「はい。実は私も小さい頃から諏訪子さまのこと好きだったんです」

 

 

 しばらくの間、蛙の声しか耳に入らずに固まる私をジッと見つめてくる

早苗にドキドキしていた。

 

 本当に本当なのか、実は私をからかっているだけなのではないかと

考えてしまうけれど、早苗はそんなことをする子ではない。

本当のことだとわかるとそれはそれで顔を直視できなくなる。

 

 

「ほ、本当なのかい?」

「当たり前じゃないですか!」

 

 両手で目を隠しながら言葉をかけると、ふわっとした感触が私の体に触れる。

瞬間、抱きしめられるように柔らかい感覚と良い匂いが私を包み込んでいた。

 

「早苗・・・」

「諏訪子様、かわいい・・・」

 

「目上の者にそういう態度」

「恋にはあまりそういうの関係ないですよね」

 

「早苗・・・」

 

 目を開くと早苗に密着して抱きつかれていた。甘えるようにしている早苗に

私も強く抱きつき返した。

 

 子供の頃と違って大きくなって、魅力的で。私なんかよりもいい相手

いっぱいいるのにね…こんなわがままな私を好きになってくれて

ありがとう、早苗。

 

「私も…愛しているよ、早苗」

 

 チュッ

 

 この先、私と付き合うと困難ばかりあるかもしれないけれど

それでも幸せと思ってもらえるように逃げないで努力しよう。

子供のようで娘のようで恋人のようで。不思議な私たちの関係。

早苗に愛想尽かされるまで楽しもうじゃないか。

 

 チュッ

 

「ん…」

 

 どちらかの漏れた溜息からしばらくの間、キスをやめられなくなり

お互いにそれぞれ攻めあって感覚が少しずつ鈍くなり

頭の中が痺れるように感じて酔いしれていた。

 

 どれくらいぶりか忘れるくらい久しぶりの感情に私は流された。

どこまでも、どこまでも。

 

 

「今日は早苗と激しかったじゃない」

「え、神奈子見てたの!?」

 

「まぁ、気になってたからね。それにしても私というものがありながら」

「あんたとはまた違った感じだし」

 

「別腹?」

「人聞き悪いこと言うな!」

 

 神社に帰ってきてからというもの、神奈子に弄られっぱなしで

まともな反論をできずにいた。本当のことだから痛いからだ。

 

「くそう…」

「あはは、そう拗ねるな。諏訪子」

 

 その後にそうだな…って溜息混じりに呟いてからすごくいい笑顔で

私の顔を見つめてきた。

 

「諏訪子がそういう顔をするのはとても久しぶりだから

いいことじゃないかな」

「うぅ、せめて早苗には全うな人生を歩んで欲しかった」

 

「良いじゃない。二人が幸せならそれで」

 

 まぁいざとなれば神だから子も宿せないことはないし、と

気楽に神奈子は笑っていた。

 

「なるようになるわよ」

「それもそうね」

 

 神奈子の励ましに私は頷いた。

先のことを悩んで今の幸せの時間を無駄にすることほど

愚かしいことはないだろう。

 

「ごはんですよー」

 

 早苗の声が聞こえてきて私と神奈子は立ち上がり、住居の方へ

歩いていく。その間、神奈子はとんでもないことを切り出した。

 

「たまには私も混ぜてね」

「アホか」

 

 切り捨てながらもそれも悪くないなと思っている私がいて

背徳感に酔いながら早苗の元へ向かった。

今日はどんなごはんだろう。

今は身近な楽しみがより楽しめるようになって嬉しくなった。

 

 そんな私の気持ちを代弁するかのように蛙たちは

長く長く鳴いていた。

 


 
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