1.江戸より甲斐(かい)へ通いたる　甲州道(こうしゅうどう)の宿場町

　四谷内藤新宿(よつやないとうしんじゅく)に　今はひらけし新都心

2.御苑(みその)のさくら眺めつつ　新宿駅より発(た)つ電車

　小田原(おだわら)箱根(はこね)に至りたる　小田急(おだきゅう)線路の道ぞかし

3.つぎは神宮(じんぐう)西参道(にしさんどう)　参宮橋(さんぐうばし)を歩きなば

　代々木(よよぎ)の里は静かにて　八幡宮(はちまんぐう)も程近し

4.上原(うえはら)駅にて迎うるは　高速電車の千代田線(ちよだせん)

　つづく世田谷(せたがや)北沢(きたざわ)は　商店街の賑(にぎ)わしや

5.代田(だいた)すぎれば梅ヶ丘(うめがおか)　次は名刹(めいさつ)豪徳寺(ごうとくじ)

　吉良(きら)の構えし世田谷(せたがや)の　その山城(やましろ)はあともなし

6.経堂駅(きょうどうえき)のいわれなる　御堂(みどう)が跡は何方(いずかた)ぞ

　すぎて祖師ヶ谷大蔵(そしがやおおくら)に　御魂(みたま)まつりし神明社(しんめいしゃ)

7.ここにうつりし成城(せいじょう)の　学園前をうちすぎて

　喜多見(きたみ)の城は何処(いずこ)やと　問えども知らぬ風のなか

8.狛江(こまえ)におわす泉竜(せんりゅう)の　弁財天(べんざいてん)のたもとより

　汲めどもつきぬ和泉(にぎいずみ)　その名ぞここにのこりたり

9.多摩川わたり登戸(のぼりと)を　南武線路(なんぶせんろ)に乗り行かば

　武蔵国府(こくふ)も程ちかし　小杉(こすぎ)川崎(かわさき)行くもよし

10.向ヶ丘(むこうがおか)の遊園も　いまや昔になりにけり

　 生田(いくた)を過ぎて百合ヶ丘(ゆりがおか)　団地の造成盛んなり

11.唐木田(からきだ)ゆきは乗り換えと　よばれておるる新百合(しんゆり)の

　 山を開きし新都市の　栄えなるこそおもしろや

12.黒川炭(くろかわすみ)に名を得たる　黒川すぎて永山(ながやま)を

　 ゆけば落合(おちあい)多摩(たま)センター　新都市いちの商業地

13.また本線にたちかえり　柿生(かきお)は柿の産地なり

　 枝もたわわに実りしは　世に名も高き禅寺丸(ぜんじまる)

14.流れもはやき鶴川(つるかわ)も　いつしか後に過ぎさりて

　 絹の生糸(きいと)も通いたる　町田(まちだ)の駅はここぞかし

15.小田急第二とうたわれし　町田をすぎて境川(さかいがわ)

　 わたればはやも大野駅(おおのえき)　片瀬(かたせ)へ行くは乗り換えよ

16.林間都市(りんかんとし)をうちすぎて　おりる鶴間(つるま)の宿場より

　 西へ歩けば泉あり　流れ絶えせぬ引地川(ひきじがわ)

17.和合(わごう)をもちて大(だい)となす　望み込めたる大和(やまと)駅

　 引地を左に眺めつつ　電車はなおも進みゆく

18.相模高座(こうざ)の渋谷村　庄司(しょうじ)は重国(しげくに)長後坊(ちょうごぼう)

　 その名ぞのこる駅すぎて　ゆけば湘南住宅地

19.六村ともに睦(む)つ会いて　生まれし村の六会(むつあい)を

　 すぎて善行(ぜんぎょう)訊ねしも　ゆかりの寺はかたもなし

20.いよいよ近き藤沢(ふじさわ)の　市街も見えて停車場

　 岩屋名高き江ノ島へ　江ノ電乗りて行くもよし

21.鵠沼神明(くげぬましんめい)烏森(からすもり)　白波すずしき海岸も

　 眺めてゆけば時のまに　終点駅の片瀬なり

22.右は江ノ島景勝地　左へゆけば龍口寺(りゅうこうじ)

　 鯵(あじ)に白子(しらす)の水揚げは　漁港もありし片瀬浜(かたせはま)

23.また立ちかえる大野より　ゆけば座間駅(ざまえき)海老名駅(えびなえき)

　 相模国分(さがみこくぶん)ほど近く　大山(おおやま)いたる道もあり

24.鮎(あゆ)に名を得し鮎川(あゆかわ)を　わたれば次は本厚木(ほんあつぎ)

　 ここは昔の毛利庄(もりのしょう)　相模の水運栄えたり

25.青銅(あおがね)打ちて大鐘(おおがね)を　造りし話も昔にて

　 今やこの地に集(つど)えるは　鉄鋼機械(てっこうきかい)の工業地

26.石田(いしだ)の次の伊勢原(いせはら)は　大山詣(もうで)の拠点なり

　 百名山(ひゃくめいざん)のひとつにて　相州平(そうしゅうだいら)もただ一目

27.鶴巻(つるまき)大根(おおね)秦野駅(はだのえき)　あたりははやも山なりて

　 渋沢(しぶさわ)過ぎて眺むるは　四十八瀬(しじゅうはっせ)の流れなり

28.御殿場線は松田駅(まつだえき)　山北(やまきた)小山(おやま)遠からず

　 酒匂(さかわ)の水を左にて　ゆけば開成(かいせい)栢山駅(かやまえき)

29.はやも電車の着きにける　富水(とみず)はその地の名のごとく

　 酒匂狩川(かりがわ) 湧く水の　豊かなるとはここかとよ

30.狩川わたりて足柄(あしがら)を　すぎて城山のぞみつつ

　 電車ははやも小田原(おだわら)の　城下の町へ入りたり

31.あれぞ北條(ほうじょう)早雲(そううん)の　築きし城の石垣よ

　 江戸の時世(ときよ)に置かれたる　宿場は人の溢(あふ)るらん

32.五百羅漢(ごひゃくらかん)に大雄山(だいゆうざん)　根府川(ねぶかわ)真鶴(まなづる)湯河原(ゆがわら)も

　 行くに列車も便りあり　おりて市街を行くもよし

33.天下の険(けん)とうたわれし　箱根八里(はこねはちり)の山道を

　 すすむ線路は登山道　移りて我もいざ行かん

34.流れも清き早川(はやかわ)も　左に見えて板橋(いたばし)を

　 すぎればはやも蒲鉾(かまぼこ)の　産地はここよ風祭(かざまつり)

35.入生田(いりうだ)駅をあとにして　行けば湯本(ゆもと)の温泉地(おんせんち)

　 挑みし山は箱根山　登山電車の線路なり

36.夏紫陽花(あじさい)の塔ノ沢(とうのさわ)　出でて沢行く鉄橋を

　 渡れば出山(でやま)の信号所　急勾配の切り返し

37.蛙ノ滝(かわづのたき)のたもとなる　大平台(おおひらだい)をうちすぎて

　 ゆけば底倉(そこくら)宮ノ下(みやのした)　いで湯の煙そこかしこ

38.行幸(ぎょうこう)ありし小涌谷(こわくだに)　美術も多き強羅(ごうら)より

　 鋼索線(こうさくせん)にのりかえて　登りてゆかば早雲山(そううんざん)

39.ここより出でし索道(さくどう)は　険しき山もひとまたぎ

　 山に煙のたちのぼる　大涌谷(おおわくだに)も眼下にて

40.姥子(うばこ)を過ぎて芦ノ湖(あしのこ)の　湖水も近く見(まみ)えたり

　 桃源台(とうげんだい)の港より　発(た)つは箱根の巡り船

41.観光船に乗り継がば　青き湖水は波すずし

　 お玉ヶ池(たまがいけ)に芦ノ湯も　近き港は元箱根(もとはこね)

42.箱根町(はこねまち)にておりたてば　ここぞ関所の跡なりて

　 むかし手形を携えて　歩きし話も夢のあと

43.港はなれて新道を　バスより望む須雲川(すくもがわ)

　 くだりてはやも立ち戻る　箱根湯本の停車場

44.今日半日の時のまに　箱根の山を巡りしも

　 当(まさ)に電車のありがたさ　いざや戻らん新宿に