No.683122

真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第二十話

kikkomanさん

どうも、お久しぶりです。作者のkikkomanです。

前回の投稿から一ヶ月開いてしまって本当に申し訳ないです。

4月というのは物事の初めの年になりやすいもので、私も色々と忙しい毎日を過ごしておりました…。

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2014-05-01 21:24:57 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1421   閲覧ユーザー数:1316

 

~聖side~

 

 

洛陽の街は賑わいを見せている。

 

この光景だけを見ていると、まるで平和な世の中になったのかと錯覚してしまいそうだ。

 

しかし、その片隅では忙しなく警備兵が辺りを警戒している。

 

その光景が、今はまだ戦乱の世の中でこの街が戦いの舞台になり得ることを顕著に俺に伝えていた。

 

この戦いの元凶である十常侍の長、張譲が牢屋から脱走してこの街のどこかに、あるいは城の中のどこかに潜伏しているということ、この戦いにも関与しているという于吉の存在…。

 

こうして列挙すると、平和に見えるこの街も、危険との隣あわせに成り立っていることがよくわかる。

 

市民にこのことが漏れて不安を与える前に、一刻も早くこの問題を解決せねばならない…。

 

 

「お疲れ様です、お兄ちゃん。」

 

「出迎えご苦労様、麗紗。」

 

 

城に着くと、門前で麗紗が待っていた。

 

連れてきた護衛の兵を兵舎へと向かわせると、俺は麗紗とともに月と詠がいる場所を目指す。

 

 

「それにしても…援軍要請にまさかお兄ちゃんが来てくれるなんて思ってもいませんでした。」

 

「向こうはだいぶ落ち着いたから俺がいなくても大丈夫だろうと思ったんだよ。それに、怪我もしてしまったしね。」

 

「あの…大丈夫ですか??」

 

「あぁ、動かすと少し痛むが問題はない。」

 

「後で包帯をお替えしますね。」

 

「頼むよ。ありがとな。」

 

「いえ…。今はこんなことぐらいしか私には出来ませんから…。」

 

 

そう言う麗紗の声色はどこか悲しそうな色合いを示している。

 

しかし、それも当然のことなのかもしれない。

 

麗紗は頭は悪くない。

 

文字を書く事もできるし、策を練ったり、立案することも出来る。

 

また、他者との交渉術にかけては我が軍で右に出る者はいない。

 

しかし、軍師という立場には彼女はなれない。

 

相手の手を読み、時に苛烈な、時に温和な策を提示することは彼女には荷が重い。

 

文官としては優秀な彼女は、今のような戦乱時に前線でやれることというのが少ないのである。

 

 

「麗紗、君には君に適している場所がある。それは今のような戦乱の世ではなく、後に迎える治世においてだ。今はただやれることだけをやっていてくれればいい。」

 

「私は…それで良いんでしょうか…。他の人は、あんなに忙しそうに働いているのに……!!」

 

「……今後忙しくなるさ。それとも、俺のそばにいるのが嫌か?」

 

「そ……そんなことは………!!」

 

「だったら今は俺を信じて待っていてくれ。大丈夫、直ぐにそんなこと言っていられないほど忙しい世界に俺がしてやるからな……。」

 

「………はい。」

 

 

その表情は完全には納得していないけどある程度わかったという表情だった。

 

今回の麗紗のように、このような不安を感じている娘が増えるのはまずいと思える。

 

どうにかしたいが解決できない問題も多くある。

 

そんな時、同様にして俺が支えになれるのか……。

 

今はまだ先の見えない問題であった。

 

 

 

「お兄ちゃん、こちらです。」

 

 

麗紗に連れられて行った先は洛陽の執務室。

 

玉座の間かと思っていただけに少し不思議であった。

 

 

「玉座の間じゃないのか??」

 

「はい…。それに関しては…。」

 

「それに関してはボクから説明するわ。」

 

 

執務室のドアが開いたと思えば、中から知った顔の女の子、詠が顔を覗かせた。

 

 

「おぉ、詠。元気にしてたか?」

 

「そんなのは後でいいから早く入って。」

 

 

挨拶もなしに急かすように部屋へと招き入れる詠。

 

俺と麗紗が中に入ると、今一度廊下をキョロキョロと見回してから、詠はゆっくりと扉を閉めた。

 

部屋の中には月と偉空と蛍が並んで立っていた。

 

が、何故かみんな緊張したような面持ちだ。

 

一体どうしたと思っていると。

 

 

「聖お兄様~!!!!!!!!」

 

「ごふっ!?」

 

 

視界の端から飛び込んできた物体が鳩尾に強烈な衝撃を与え、危うく意識が飛びそうになる。

 

一体何がと思ったところで、ぶつかってきたのが物ではなく人だということが理解できた。

 

今なお腰に抱きついている見たことのあるここに居るはずのない人物…。

 

 

「聖お兄様、お久しゅうございます。」

 

「菖蒲…?? なんでここに…??」

 

「はい。今日は月さんと詠さんとお茶をすることになっていたのですが、その時に聖お兄様がこちらに来るということをお聞きしまして、無理を言ってこの場に立ち会わせて頂きました。」

 

「えっと…そうなの……??」

 

「………菖蒲様の頼みを断ることなんて出来るわけないじゃない……。」

 

 

突然のことに状況が読み込めず、助け舟を求めて目を詠に向けると、何故かひどく不機嫌な口調で返された。

 

なにか怒らせるようなことをしたか??

 

今はその理由がさっぱり分からないので、とりあえず菖蒲との会話を続ける。

 

 

「でもいいのか?? 現皇帝がこんな所に居て…。お茶が終わったらその後もやることがあったんだろ??」

 

「それは…勿論ですが…。聖お兄様に会う機会などほとんど無いのですし、それに私が居なくても爺やが何とかしてくれます。」

 

「………王允殿の苦労がいつか報われる日を望むよ…。」

 

 

苦笑を浮かべたまま、この場にはいない人物のことを思って合唱する。

 

きっと今王允殿は、一つ大きなくしゃみをしたことであろう…。

 

 

「まぁ、聖お兄様!! お怪我をなされているではありませんか!? 今すぐに処置を!!」

 

「大丈夫だから、そんなに大事にすることじゃない。」

 

「そうですか? 痛かったら直ぐに言ってくださいね。我慢しては駄目ですよ。聖お兄様まで居なくなってしまったら、私生きていけそうにありませんから…。」

 

「………。」

 

 

俺の体に回された手に微かに力が籠ったのを感じた。

 

その瞬間、あの日の出来事が脳内にフラッシュバックして襲ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女、現皇帝劉協こと菖蒲は、その兄劉弁を殺されている。

 

しかも、世間一般には、皇帝の政治に不満を持ち蜂起した者たちによる犯行だと公布されていた。

 

しかし実際には自分たちの傀儡にならない劉弁を、十常侍たちが毒を用いて殺したのであるが、その事は暗黙の了解で宮中に出入りするものなら誰でも知っている事実となっていた。

 

俺は蓮音様に連れられて、宮中にて劉協に挨拶をする機会があり、その時にこの話を聞いたのであるが、その時は劉協も共犯者なのではと思った。

 

自分の実の兄を殺されたのに、その殺したであろう人たちを取り巻きにしながら自分が兄に代わって皇帝をやっているのである。

 

そんな疑いがかかってもおかしくはないであろう。

 

 

しかしある日、

 

皆が寝静まった夜中にふと目が覚めた俺は、宛てもなくぶらぶらと散歩をしていた所、劉弁の墓の前に誰かがいるのを発見した。

 

物陰に隠れながら、それでも何をやっているのかわかる程度近くで観察をしていると、どうもその人物は墓の前で何かをぼそぼそと喋っているようだ。

 

何を喋っているのか気になった俺は、大きな墓石の裏側に回り込み、独白している内容に聞き耳を立てた。

 

 

「………弁兄様。私は一体何時まであの者たちの言うことを聞き続けなければいけないのでしょうか…。兄様の最期の言葉がなければ、私は直ぐにでもあの者たちを処断いたしますのに……。何故兄様は、最後に私に笑いかけたのでしょう……。あの笑顔を思い出すたびに……私は胸が裂けるような痛みに襲われるのです……。」

 

 

独白をしていたのは、俺が共犯者だと思っていた劉協だった。

 

その後もしばらく続いた独白を簡潔に纏めると、どうやら劉協は仕方なく十常侍に従いながら皇帝をやっているらしい。

 

と言うのも、死ぬ間際に発した劉弁の「仇討ちはしては駄目だよ。」と言う言葉を受けてのものらしい。

 

劉協はその言葉を兄の最期の言葉としてしっかりと言いつけを守っているのだが、それもそろそろ限界のようだ…。

 

 

「弁兄様。私は……菖蒲は……後どれだけこの胸が傷つくのを感じれば良いのでしょうか……。何も出来ない私が……弁兄様の代わりになれないこの私が……。」

 

 

少女はそこまで言い終えると、墓石にしがみつくように泣き崩れた。

 

夜半の静寂を引き裂くように木霊する少女の慟哭に、俺はただただ聴き続けるしかないと思っていた。

 

しかし、何故今でもそうしたのかは分からない。

 

もしかしたら、劉弁の気持ちが分かっていたからこその言葉だったのかもしれない。

 

仇討ちによる負の連鎖に妹を巻き込みたくないという劉弁の思いが分かっていたからなのかもしれない。

 

俺は泣き崩れる少女に、努めて丁寧な口調で声をかけたのだった。

 

 

「…………君のお兄さんは優しい人だ…。そんな人を君は裏切るのかい??」

 

 

声をかけられた少女は体をビクッと震わせると、恐る恐るといった様子でこちらを見上げる。

 

 

「……誰じゃ!?」

 

「………以前拝謁させていただきましたが、改めまして私は徳種聖と申します。」

 

「あぁ……蓮音が連れてきた…。」

 

「はい……。以後お見知りおきを……。」

 

「………それで……貴様はここで何をしている……。」

 

「…………その前に、陛下に伝えておくべきことがあります。」

 

「何じゃ?」

 

「私は噂の天の御使いです。言わば、私とあなたは同じ天に選ばれた者ということになる。こちらが丁寧な対応をしているのに、この中華の皇帝ともあろう人が礼儀を尽くさないのは義に反すると私は思いますが……。」

 

「なっ……。ぐぅ……。も……申し訳なかった……。確かにそなたの言うとおりだ…。朕も礼儀を尽くした対応をさせていただきます。」

 

「いやっ、俺も礼儀を尽くすのは肩肘がはって嫌だからな…。今この場には俺と君の二人しかいない。それなら、今はどう対応しようと良いってことにしないか??」

 

「…………分かりました。」

 

「よし。さて、さっきの質問に関してだが、たまたま散歩中に君の姿が見えたから様子を伺っていただけさ。」

 

「なっ!? では、さっきのを全て…!?」

 

「あぁ、聞かせてもらった。」

 

「っ!? 他言は無用ですよ…。」

 

「特にいう気もないさ…。ただ、君は一つ勘違いしてることがある。」

 

「勘違い??」

 

「あぁ。何故前皇帝劉弁は、笑って死んでいったのだと思う?」

 

「それは………その………。」

 

 

答えが見つからず、遂には閉口してしまう劉協。

 

その瞳には、答えのわからない自分への不満の色が見て取れた。

 

 

「良いかい。君のお兄さんは、仇討ちによる負の連鎖に君を巻き込みたくなかったんだよ…。」

 

「負の……連鎖……??」

 

「そうだ。例えば君が仇討ちを実行したとしよう。相手はあの十常侍だ…仇討ちを行えば、次はどんな手で傀儡とならない君を暗殺しに来るかわかったものではない…。そうなるのは、劉弁としては避けねばならない事態だ。」

 

「…………。」

 

「さらに、君は一生人を殺したという重い枷をはめながら生きていくことになる。それも、劉弁にとっては耐えられなかったんだろう……。」

 

「……うっ……弁…兄様………ぐすっ……。」

 

「君のお兄さんは、死ぬその寸前まで、残される君の心配をしていたんだ。だから、今は仇討ちをしようとするその気持ちを一度鎮めてみないか??」

 

「……ぐすっ……うん……弁兄様の……最期の…優しさだもん……。」

 

 

泣きながら首肯した劉協にほっとする。

 

今ここでむやみに事を起こす必要はないんだ。

 

いずれ、起こるのだから……。

 

 

「そうか…。もし、辛いことがあれば洛陽を統治している董卓を頼るといい…。彼女なら君の味方になってくれるだろう。」

 

「…………そなたも…。」

 

「……うん??」

 

「…………そなたも……私の味方になってくれる……??」

 

 

不安げに問いかける少女に、安心しろと言わんばかりの笑顔を向けながら答える。

 

 

「勿論だ。いつでも頼ってくれて構わない……。」

 

 

 

この日を境に、宮中に出向く日には必ず劉協と話すようになった。

 

ある時から、劉協は自分のことを真名の菖蒲と呼ぶようにと言い、俺のことを「聖お兄様」と言い出した。

 

もしかしたら、亡くなってしまった兄の面影を俺に重ねているのかもしれない…。

 

でも、それで今の彼女が仇討ちを踏みとどめているのならそれでもいいかと、俺は了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ菖蒲…。俺は元気だからな。」

 

 

そう言って頭に手を載せてあげると、体に回されていた手から力が抜ける。

 

安心したのか、それとも満足したのか、菖蒲は笑顔を一つ見せると俺から少し離れて立った。

 

 

「そうですね…。聖お兄様はお強いですから、そう簡単にはやられませんよね……。」

 

「あぁ。だから安心してくれ。それよりも、この場にいる全員に話しておかなければならないことがある。」

 

 

菖蒲から視線を外して月、詠、偉空、蛍の四人の方を見る。

 

少し前まで穏やかだったその場の空気が、一瞬にして緊張感のあるものに変わった。

 

 

「この戦いの真の敵についてだ。」

 

「真の敵って何よ!? 張譲たち十常侍だけじゃないっていうの!?」

 

「あぁ。どうやら、奴らの背後にもう一枚噛んでるやつがいるみたいだ。」

 

「それってまさか。この前と同じ……。」

 

「………于吉の関与がある確率が高い。」

 

「「……っ!?」」

 

 

俺の言葉に言葉を失くす偉空と蛍。

 

于吉を知らない三人には、特徴を含めどれだけ危険なやつであるかをその場で伝えた。

 

俺の話を聞き終わった瞬間の三人の顔は、そんな酷いことをする人がいるのかと言う驚愕の表情で染まっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓史に一生  第九章 第二十話     兄の優しさ  END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

ようやく今話にて、名前だけ今までも出ていた菖蒲さんを出すことができました。

 

作者的にはオリキャラは以上で全部のつもりですが、話の都合でもう少し増えるかもしれません…。

 

 

 

さて、聖と菖蒲の出会いはこういった経緯があったんですが、前話までの流れだと分からないところですね…。

 

この話で菖蒲が登場した理由は…??

 

次話以降を楽しみにしていてください。

 

 

 

さて、その次話ですが二週間後の予定ですがまた長引くこともあるかもしれません…。

 

申し訳ありませんが、気長にお待ち頂けると作者としましても嬉しいです。

 


 
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