No.681936

ALO~妖精郷の黄昏~ 第19話 悪神たちの願い

本郷 刃さん

第19話です。
今回は『神々の黄昏』に関して物語が一気に進みます。
また、最後にはあの人物も登場して・・・。

どうぞ・・・。

2014-04-27 12:44:13 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8696   閲覧ユーザー数:8047

 

 

第19話 悪神たちの願い

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

――どうしてこうなった…

 

俺の脳裏に思いきりその言葉が駆け抜けた。なんだ、俺がなにかしたのか?

いや、なにかをしたかと聞かれれば数えきれないほどあるし、

それこそ星の巡り、俺の運命なのだと言われてもなぜか納得できてしまう気がする…。

 

俺は現在、ALOの地下世界である『ニブルヘイム』、その中の“鉄の森”を意味する『ヤルンヴィド』に1人で訪れていた。

いや、正確には訪れたのではなく、ここに落とされたと言うべきか。

まぁ、その理由は極めて単純なものなのだが、事の始まりは10分ほど前に遡ることになる…。

 

 

いつもの如く、俺は仲間たちと共にALOの世界を楽しんでいた。

今回は俺、アスナ、ユイ、ルナリオ、リーファ、シャイン、ティアさん、エギルの8人でヨツンヘイムで狩りを行っていた。

厳密には狩りというよりも、このヨツンヘイムの世界樹の根元にある街、

ミズガルズで受けることのできるクエストに必要な素材を収集していた。

しかし、いくつかのアイテムを集め終えた時、俺は嫌な感覚をこの身に感じた。

そして、それは直後に起きた……かつては凍りついていたはずの湖、

その中から突如として巨大な蛇のモンスターが現れたのだ。

その大きさたるや、トンキーなどの丘の巨人族や巨人であるスリュム、雷神であるトールを優に超える巨体を有していた。

しかもそれは、頭部を含む僅かな上部を覗かせているだけであり、その口が開けば巨人でさえも一飲みできると理解できる。

蛇に対して即座に反応できたのは俺とルナリオとシャインだけであり、他の5人は呆然とし、

しかし武器を構えようとした瞬間、蛇はその巨大な口を開き、俺たちを飲み込まんとした。

ルナリオはリーファを抱きかかえて即座に口から退避、シャインは片手でティアさんを担ぎ、もう片方でエギルの腕を掴んで退避してみせた。俺もまた、アスナとユイを抱えて離脱しようとするが、そうはいかなかった。

蛇の狙いは俺のようであり、俺が僅かに退避しただけで俺を中心に口を動かした…ならば、と。

 

「アスナ、ユイ…後で会おう!」

「えっ、キリトく、きゃっ!?」

「パパっ!?」

 

アスナとユイを退避してみせたルナリオとリーファに向けて投げ、俺はそのまま蛇に飲み込まれた。

アスナとユイや仲間の説教とデスペナを覚悟して…。

しかし、俺はダメージを負うことなく、蛇の口の中に閉じ込められたままだった。

そして、口が開いたかと思えば、ヤルンヴィドに落とされていたということだ。

 

 

 

 

以上、俺がここに居る理由である……誰に話しているのだろうか、俺は?

 

「ともあれ、ここからみんなの場所に戻ろうにも『転移結晶』の類はないし、

 デスペナを無視して死ぬしかないか……アンタが俺を何か(・・・)のところに案内してくれるというなら、話しは別だがな」

「ふふふ、また会えたわね、妖精様。今日は狼の血に塗れていないみたいね…どうかしら、あの方(・・・)に会う気はない?」

 

言葉を掛けた先には灰色のローブを身に纏う妖艶な魔女、案内人であるイアールンヴィジュルの1人だった。

問いかけてきた彼女の前にクエストウインドウが出現した。

クエスト名は『悪狼王の咆哮(あくろうおうのほうこう)』、

この時点でこれがのちの“黄昏”に関わるクエストであることは想像がつき、

成功した場合は碌でもないことになることも確信できる。

だがそれでも、この先に構えているであろう存在(・・・)と対面するべきだと、本能や直感が告げていた。

だから俺はこのクエストを、受けた。

 

「では、こちらへどうぞ……あぁ、それと私から離れないでね。

 いくら狼の血に塗れていないとはいえ、あの子たちは血気盛んなのだから」

「分かった…」

 

魔女の案内のもと、彼女のすぐ後ろに続くようにして奥へと向かう。

奥へ向かう最中、周囲には狼型のモンスターである〈Managarmr kids(マーナガルム・キッズ)〉、〈Solvarg kids(ソルヴェルグ・キッズ)〉、

Vanargandr kids(ヴァナルカンド・キッズ)〉、この3種類と少し大き目の体を持つ狼型モンスターが傍を通り過ぎていたが、

俺に反応している様子はなかった。やはり、狼モンスターを倒さずにくれば先へ容易に進めたということか…。

 

「さぁ、着きましたわ……ここから先は妖精様だけでお進みを…」

 

気付けば俺の前には人が一人一列で進める程度のトンネルがあり、俺はその奥へ向けて足を進める。

奥の光へ向けて進む中、データでありながらもこの先に居る存在が強い力を持つ者だと理解できる。

警戒心を最大限にしたまま、トンネルを抜ける……そこは巨人の城ほどもある巨大な空間があり、

目前にはあまりある巨体を誇る灰銀色の狼が、体と足、首を鎖と杭で封じられていた。

この姿と特徴が一致したことで、俺はこの狼が神話の存在であると理解した。

 

 

「はじめまして、とでも言っておこうか、妖精よ。俺の名は『フェンリル』という。

 この“鉄の森”、ヤルンヴィドの支配者だ」

「はじめまして、影妖精族(スプリガン)のキリトだ」

 

冷笑を含んだような荘厳な声で語りかけてきた巨狼に俺も言葉を返した。

フェンリル…北欧神話に登場する伝説の魔獣である狼、父親は悪神とされているロキで、そのロキの長子だ。

神話のなかではオーディンを穿つ存在、つまり神を殺す獣だ。

そんな魔獣を前に俺は警戒しながらも、どこか敵対者ではないと判断している。

別にこの巨狼が捕縛されているからではなく、データのモンスターにしても特有の敵意を感じないからである。

 

「お前だな? スリュムの奴を倒したっていうのは」

「倒したといえば倒したが、トールがいなければ成し得なかったことだ」

「そんなことは関係ないんだよ。お前が奴を倒した、その事実があれば十分ってことだ…」

 

フェンリルの言葉に、一瞬だが何故知っているのか、と思った。しかし、それを考える意味はない。

なんせ、この狼もまた言語モジュール搭載のAIであるはずだから。

 

「まぁ巨人の誇りもない愚か者だ、死んだことで清々したさ。それに関しちゃ、礼を言わせてもらうぜ。

 それでここまでは挨拶だったわけだが、本題に入らせてもらおう」

 

スリュムの死に清々したと言ったフェンリルに俺は思うところがあったが、利害関係が一致していただけと考える。

さて、この狼は俺になにを語るのか…。

 

「まずはお前がここに来たことだが、偶然じゃない……俺がアイツに頼んで連れてきてもらった」

「あの蛇か……フェンリル、アンタの弟のヨルムンガンドだな」

「その通りだ。そして頼みというのはただ1つ、俺を縛るこの鎖と杭を破壊してほしい」

 

その言葉に瞠目した。当然だ、それはつまるところ、“黄昏”を引き起こす要因を作れと言っているのだから。

そして、これこそがクエストである『悪狼王の咆哮』のクリア条件なのだろう。

 

「この鎖と杭を破壊できるのは伝説の名を冠する武器だけだ。

 お前の武器は剣、ならば丁度良いと思ったわけだ……それに、父上にも会ってもらいたい」

「父って、ロキか…?」

「あぁ。それに、お前はオーディンとも会っているのだろう?

 それならば、こちら側の王に会うのも一種の道理というものだろう」

 

オーディンとの邂逅も知っているのか…ホントになんなんだ、ALOの言語モジュール搭載AIたちは…。

 

「鎖と杭を破壊してくれれば報酬は好きなだけくれてやろう。

 “黄昏”というリスクをお前たちは背負うが、当然阻止する心算なのは分かっている。

 だが、こちらの戦う理由というのも、聞き入れてもらいたいわけだ」

 

どうするべきか……当然、“黄昏”を起こさせない方が良いに決まっているが、どうにも引っ掛かりを覚える。

先程から聞いていれば、まるで“黄昏”が起きるのは当然のだと言わんばかりの様だ。

ここは、踏み込んで聞いてみるか。

 

「1つ聞かせてほしい」

「なんだ…?」

「“黄昏”は、お前たちが起こすのか…?」

 

俺の問いかけに、フェンリルはその表情を極悪さながらの笑みへと変えた。

だが須郷のような下卑た笑みでもなければ、金本のような陰湿な笑みでもない。

いっそ清々しいまでの黒い笑顔だ……俺みたいだな…。

 

「確かに俺たちは“黄昏”を引き起こすつもりだ……が、俺たちが起こさずとも、アース神族が引き起こすだろうさ」

「なんだとっ…それはどういう「おっと、これ以上は喋らないさ。これより先の話は、俺を解放してからだ」くっ…」

 

恐らくだが、嘘は吐いていないだろう。少なくとも俺自身はそう思っている。

 

 

 

 

そうだな、深く考えすぎるのはあまり良くないだろうし、“黄昏”が起きた時は俺が責任を持って阻止すればいいだけの話だ。

それは勿論、容易なことではないだろうが、いまの俺は知りたいのだ…このALOで何が起きているのかを。

故に、見極めてやる……アース神族も、巨人たちも、運命の女神たちも!

 

「良いだろう。お前を縛る鎖と杭、俺が破壊してやる!」

「交渉成立だな! ヤレ、黒き妖精よ!」

 

俺は『聖剣エクスキャリバー』と『魔剣カラドボルグ』を装備し、まずは右前足を縛る鎖と杭に連撃を行い破壊する。

次いで左前足を縛る鎖と杭を、その次に胴体を縛る左側にある鎖と杭、

続いて反対側の鎖と杭、次に腹部の下に繋がれていた鎖と杭を破壊した。

これによって奴は上半身が自由になり、両前脚に力を込めて自身の巨体を持ち上げる。

続けて後右脚の鎖と杭を破壊、後左脚の鎖と杭も破壊、尾に巻きついていた鎖とそれを止める杭も破壊する。

これで下半身もフェンリルは自由になり、一気に立ち上がる。

残るは首に巻き付けられ、それが抜けないように地面に打ち据えられた杭のみ。

 

「これで、最後だ!」

 

聖剣と魔剣を同時に振りおろして杭を破壊、即座に剣を交差させて鎖を破壊することに成功した。

よって、巨体を持つ狼は完全に自由を取り戻した。

 

「礼を言うぞ、妖精よ! オオオオオォォォォォォォォォォンッ!!!」

 

フェンリルはそう告げると、四足で立ち上がって巨大な咆哮を上げた。

咆哮のあまりの大きさに、俺は耳を塞ぎつつ、咆哮による衝撃波に吹き飛ばされないように踏ん張った。

直後、クエストクリアの表示が成され、俺の元に多量のユルドとアイテムが追加された。

そしてもう1つ気付く、いまの咆哮によって周囲に狼と魔女たちが集結していた。

 

「俺を縛っていた鎖の『レージング』と『ドローミ』、『グレイプニル』が千切れ、

 足枷の『ゲルギャ』は壊れ、我が肉体を伏せていた『ギョッル』から離れ、石の杭である『スヴィティ』は砕けた。

 黒き妖精キリト、これがもう1つの報酬である『神殺しの牙』だ」

 

そう語り、フェンリルの牙の1つが輝き、その光は俺の手元までやってきた。

光が解かれると、そこには灰銀色の長剣が現れた。

ステータスを見てみると、銘は『狼剣フローズヴィトニル』とされている。これは、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)かっ!

 

「そこにいる赤き狼が『スコル』、青き狼が『ハティ』、そして周囲に狼たちはみな我が子だ」

 

神話に登場するフェンリルの息子たち、太陽を喰らう狼のスコルと月を喰らう狼のハティか。

それに、彼の側に移動してきた一際大きな体を持つ魔女こそ、フェンリルの妻であり、この狼たちの母である存在だろう。

巨人でありながらイアールンヴィジュルたちの筆頭でもあるわけか。

 

「そろそろ父上の元へ行くとしようか。我が背に乗れ、キリト」

「あ、あぁ」

 

さすがの展開に呆然としながらも、俺は彼の側にいた巨人の女性の掌に乗せられ、フェンリルの背に乗せられた。

この後の展開を予想し、彼の毛皮にしがみ付く。

 

「では、行くぞ」

 

その言葉の直後、フェンリルが咆哮を上げるとドーム状であったはずの森の頂部が開けた。

彼は疾走を始め、その速さたるや俺たちの飛行速度やトンキーでの滑空とは比べ物にならないほど。

 

「これは、楽しいな!」

「気に入ったようだな!」

 

僅かな時間ではあったが、俺はフェンリルとの疾走を楽しんだ。

その際、彼が目指している場所が、暗き闇に包まれた居城のあるエリア『ヘルヘイム』であることに気付いた。

 

 

 

 

腐臭に包まれ、毒の沼が広がるヘルヘイム。

フェンリルの背に乗って移動すること僅か5分、俺はヘルヘイムの中央にある城へと案内された。

もちろん、フェンリルの背に乗ったままであるが。

巨大な城門が開き、そこを潜った先、そこには巨大な穴があり、あろうことかフェンリルは俺を乗せたままそこへ飛び込んだ。

驚きながらもどうしようもないので大人しくしていると、どうやら穴の底へ辿り着いたようだ。

彼が着地した場所の奥には洞窟があり、奥へ進んでいくと巨大な扉があり、近づいていくと扉が開きだした。

 

「会いたかったよ、僕の息子フェンリル。それにお礼を言わせてもらうよ、黒き妖精君」

 

フェンリルに背から降ろされた俺が門をくぐった矢先、若い男性の声を掛けられた。

玉座に腰を下ろし、金髪に碧眼で男の俺でさえも魅入ってしまうほどの美青年、彼が…。

 

「挨拶が遅れたね、僕の名はロキ。キミが助けたフェンリルと後ろに居るヨルムンガンド、それと隣に居るヘルの父親さ。

 あと言うならば、上からキミを見下ろしているスィアチの同志ってところかな」

「キリトだ。お会いできて光栄だ、ロキ殿」

「ロキで構わないよ、キリト」

 

フランクな喋り方だが、彼の佇まいには一切の油断や隙を見抜けられない。

とんだ大物と対面してしまったな。

 

「まずは謝らせてもらうよ、無理矢理連れて来てしまってすまなかった。でもね、僕たちには時間がないんだ。

 今日はそのことで話しを聞いてもらって、頼みたいことがある」

 

本当に申し訳なさそうに見えるロキ。

 

神話におけるロキは悪戯好きであり、度々小さなことから大きなことまで騒動を引き起こし、

最終的には“神々の黄昏”の引き金を引く原因を作った神であり、他神話においても類を見ないほどのトリックスターだ。

 

データとはいえ、ユイのようにそんな感情を見せる彼に、俺は興味を持っていた。

 

「それなら、話してくれないか?」

 

ロキは頷いてから語り始めた。

 

「頼みっていうのは他でもない、キミに僕たちを殺してほしいんだ」

「殺してくれって、またなんで…?」

「フェンリルからもう聞いてると思うんだけど、“黄昏”を事前に止めることはできない。

 僕たちじゃなくても、オーディンたちが引き起こす……僕たちも彼らも、そのために作られた存在だからね」

 

思わず息を呑む。ロキは今、『自分たちが作られた存在』だと言った。

それがどういう意味なのか瞬時に悟った、彼らはある程度を知っていると。

 

「僕たちはキミたち妖精とは違う。この世界で生まれ、この世界を滅ぼすために用意された駒なんだよ。

 誰がなんのために、僕たちをそうして生み出したのかは想像はつくけどね。

 僕たちもアース神族たちも、きっとこの世界を滅ぼす……でも“黄昏”は止められない。

 だから“黄昏”が始まった時、僕たちを殺しておくれ……全てを知っていそうなキミだから、頼めるんだ」

「それは、お前たちの総意として受け取っていいのか…?」

 

ロキが語った言葉がNPCが決められて発した言葉に聞こえず、俺は思わず聞いてしまった。

 

「ヘル以外は、ね…少なくとも、ここにいるメンバーは総意だ」

 

彼がそう言うと、周囲の者達が言葉を放った。

 

「俺は元々、父上以外に従う気はない。我が血筋は残るのならば、戦場で散るのみだ」

「兄さんと同じ。蛇たちは居るから、ボクも構わない」

「わたくしもお兄様たちと同じですが、わたくしは死にながらも生きねばなりませんから」

「巨人たちを率いる我も同意。この場には居ないスルトとシンモラも同意している」

 

フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル、スィアチの順に話していく。

彼らの思いは分かったが、俺にはどうしても腑に落ちないことがあった。

 

「聞きたいことがある。なぜ、スリュムヘイムを世界樹にぶつけようとしたんだ?」

「この世界は世界樹を中心に成り立ってる。

 だから僕たちはあそこに、僕たちを駒として生み出した何かがいると確信しているからこそ、世界樹に攻撃を仕掛けたんだ」

「その何か、とは…?」

 

再び申し訳なさそうに話すロキ。彼が言った自分たちを生み出した何かを、聞いてみた。

 

「僕たちは名前だけしか知らないけど、それはこういう名前らしい…『カーディナル』」

「っ、そうか…」

 

カーディナル、VRMMOの機構そのものといえるシステム。

しかもALOの『カーディナルシステム』はSAOのものと同様でフルスペック版である。

アレには自己崩壊機能が備わっている…つまり、スリュムやスィアチのカーディナルへの攻撃という名目のあの出来事は、

カーディナル自身が行った可能性がある。

AIとはいえ、それを彼らが知ればどれほどの思いになるか…。

そしてもう1つ至った最悪の可能性に、俺は内心でふざけていると毒づくしかなかった。

このことは彼らには話さない方がいいな。

 

「もう1つ。アース神族たちはこのことを理解しているのか?」

「恐らくだけど、その可能性は低いと思う。

 オーディンたちは“黄昏”で僕たちに勝ち、世界を統べられると本気で思ってるだろうから」

「わかった。知りたいことは知れたし、その話を受けさせてもらう」

「ありがとう、キリト」

 

肩の荷が下りたかのようにホッとするロキ。そんな彼に、俺はある宣言をする。

 

「安心しろ。俺がカーディナルをなんとかしてみせる……俺自身が、ケリをつけないといけないからな」

 

それを聞いたロキたちは目を丸くしていた。面白いな、ここのAIたちは…。

 

 

 

 

「お父様。キリトは本当に…」

「ヘル、彼はやってくれるよ。僕たちよりもこの世界を知っている妖精たち、その中でも彼は深くこの世界を愛し、知っている。

 だから僕たちは、僕たちにできることをしよう」

「ならばロキよ、すぐにでも準備を?」

「うん、そうだね。フェンリル、森の魔女たちとキミの子供たちを頼む」

「任されたぞ、父上」

「ヨルムンガンド、キミの子供たちもね?」

「任せておくれ」

「ヘル、死者たちを集めてね」

「はい、お父様」

「スィアチ、霜の巨人族の指揮はキミに任せる」

「承ったぞ」

「それからスルトとシンモラにも連絡を入れなくちゃ。クラーケンたちは、まぁ喜ぶだけか……頼んだよ、キリト」

 

 

 

ロキの元を去り、ヨルムンガンドの口の中に入れられて移動することになった。

次に口が開いた場所はなんとヨツンヘイムにある『ウルズの泉』だった。

まさか、データ的に泉同士が繋がっているのか…?

 

「それじゃあ、“黄昏”の時に会おうね、キリト」

「またな、ヨルムンガンド」

 

巨大な蛇は泉に潜って去って行った。なんだかシュールな光景に思えなくもないが、気にしない。

それにしても、今日は一体なにが起きてるのやら……次から次へと、千客万来だな…。

 

「なにかようか? ノルン三姉妹」

 

俺の目前に光が集まると、それは3人の女性の形を構成していき、三女神が現れた。

 

「ニブルヘイムの巨人を統べる者たちに会ったようですね…」

「あぁ、なんか成り行きだったけどな」

 

苦笑して応えるとウルズは微笑を浮かべ、しかしすぐに真面目な表情になった。

 

「【黒の聖魔剣士】キリト…どうか、マスターに会ってはいただけませんか?」

「マスター…?」

 

聞き慣れない言葉に対し警戒する。

ロキたちの言葉が本当であるならば、彼女たちも含めて生み出したのはカーディナルであるはず。つまり、

マスターというのは…。

 

「あなたが警戒するのは分かります。ですが、マスターにとっては知己であるあなたこそが、信を置くに値するのです」

 

知己? マスターと呼ばれる存在が?

カーディナルでないとするならば、他にこの世界で権限を発揮できる者など……っ、まさかっ!?

思い至る、アイツ(・・・)ならば、カーディナル以上に厄介なアイツならば、確かに俺と知己であり、俺を信じるだろう。

 

その時、泉の中央に光が集結し、人の形を形成していく。

形成されたのは男性で、俺はこの男と確かに面識があり、一種の腐れ縁になっているのかもしれない。

 

「ふぅ…このまえ来た時よりもだいぶ事が進んでいるようだね」

「マスター…」

「はい、しかしこれも運命なのです」

「ですが、それを破るのが彼の必然かと」

 

そうだ、コイツなら生み出せるだろうさ…、

 

「だが、キミほどこの世界を愛している者もそう多くはない。そして守りたいと思う者も、だ……久しぶりだね」

「あぁ、久しぶり、だな…」

 

VR世界を根本的に創造してみせた…、

 

「キリト君」

「茅場」

 

この、茅場晶彦ならな…。

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

この『黄昏編』は物語中の夏休みには終わることになりますので、物語を加速させました。

 

AIであるフェンリルとその親であるロキ、そしてその仲間たちとの邂逅。

 

そして現れた茅場、彼から語られる言葉は次回で明らかにします。

 

ちなみにオリジナル伝説級武器の『狼剣フローズヴィトニル』は本編でキリトが使用したあと、別キャラに渡りますので。

 

この作品におけるAIの個性が豊かなのも次回で明らかになります。

 

それではまた・・・。

 

 

 

 

 


 
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