No.676791

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

望まぬ再会・望まぬ宣告

2014-04-06 17:09:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2395   閲覧ユーザー数:890

五月雨(さみだれ)

 

「ぬぁ、うぉ!? ちょ、この…!!」

 

王騎が連続で突き出すナイトガッシャー・ランスモードの刃を、葛城は驚きつつも足技だけで上手く攻撃を捌いていく。しかし彼女の相手は王騎だけではない。

 

『私を忘れて貰っては困る』

 

「おわっちゃ!?」

 

王騎の攻撃で気を取られていた葛城に、ジンバが真横から剣を振るって来た。相手が二人になった事で形勢が不利になりつつも、葛城は二人分の攻撃をどうにか凌ぎ、ジンバの振るった剣を白刃取りする。

 

「ッ…なかなか、やってくれるじゃないかい…!! 流石はOTAKU旅団のナンバーズだよ…!!」

 

『言っておくが、私はナンバーズメンバーではない。それに所属しているのはレイだけだ』

 

「どっちだって良いさね……アタイはアンタ等が強けりゃそれで良いんだからねぇ!!」

 

『む…!!』

 

ジンバの腹部を蹴り、素早く後方に退避する葛城。そんな彼女に…

 

「ん…うわわわわわっ!?」

 

王騎のナイトガッシャー・ショットガンモードによる銃撃が襲い掛かる。葛城が回避するたび、彼女の周囲にある岩は砕かれ、大木は圧し折られていく。

 

「チッ、無駄に素早いな……ジンバ!!」

 

『あぁ!!』

 

≪Full Charge≫

 

「ぬぉ、く…!?」

 

ジンバは葛城に放った両足蹴りの勢いを利用して王騎の下まで跳躍し、瞬時にスヴォルへと変化。パスでエネルギーのフルチャージを完了した王騎がスヴォルをキャッチし、右手に持っていたナイトガッシャー・ショットガンモードの銃口を葛城に向ける。

 

「悪いが、こっちも忙しいんでな。相手はまた今度にして貰おうか」

 

「あ、コラ、逃げる気かい!?」

 

「始めからそのつもりだ…よっ!!」

 

「ッ!?」

 

ナイトガッシャー・ショットガンモードの銃口から放たれる無数のフリーエネルギー弾が、葛城の周囲を次々と爆砕。思わず防御魔法を張る葛城だったが…

 

「…あ」

 

爆風が晴れる頃には、既に王騎達はその場から姿を消してしまっていた。

 

「あ~あ、逃げられちゃった……ちぇ、つまんないの」

 

葛城はおもちゃを取られた子供のように、つまらなさそうに足元の石コロを蹴り転がすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴市、廃工場跡地では…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ハヤ、テ…!?」

 

「く…!!」

 

黒騎士との戦闘でかなり傷付いていた二百式とげんぶ。そして黒騎士に反撃するべく暴走しようとしていた二百式だったが、突如この場に駆け付けて来た人物―――八神はやての存在により、状況は混乱し始める。

 

「な…何、で……何で、二人が…ここにおるんや…?」

 

「ッ…!!」

 

「ね、ねぇ、答えてや……耕也さん……一哉さん!!」

 

「……」

 

はやての問いに、思わず目線を逸らしてしまう二百式。先程までの暴走も少しずつ収まっていき、次第に冷静さも取り戻していく。

 

『八神はやて……面倒なのが来たな…』

 

しかし、黒騎士にとっては知った事ではない。黒騎士は剣を構え直し、その刃を赤く発光させる。

 

『戦いに来たのか、そうでないのか…………後者であるならば、むしろ邪魔なだけだ!!』

 

「ッ…ハヤテ!!」

 

「!? あ…」

 

はやてに向かって放たれた赤い斬撃を、二百式が魔法陣を張って防御。しかしすぐに粉砕され、少なからず二百式にダメージを与えてしまう。

 

「ぐぅ…!!」

 

「一哉さん!!」

 

「…ッ!?」

 

自身を守ろうとして傷付いてしまった二百式に、はやてが思わず駆け寄って彼の身体を支える。そんな彼女の行動に、二百式は気まずさに視線を合わせようとしない。

 

『やはり庇うか。その守ろうとする精神だけは認めよう、榊一哉。いや……OTAKU旅団No.5、二百式』

 

「!?」

 

黒騎士の告げた言葉に、はやては思わず二百式を見据える。

 

「一哉さん、が……OTAKU旅団…」

 

「ッ…」

 

「な、なぁ……嘘やろ、一哉さん……あなたが、OTAKU旅団の、一員やなんて…」

 

「……」

 

「嘘や…………嘘やと言ってぇな!! 一哉さん!!」

 

信じたくなかった。自分がずっと探し続けていた大事な人が、犯罪組織の一員だという事が。何でも良い、とにかく何か否定の言葉さえ言ってくれれば。今の彼女にとっては、それ以外に何も考えが浮かばなかった。

 

しかし…

 

「…すまない」

 

「…え?」

 

二百式の告げた一言は、はやての思いを打ち砕いた。

 

『その男だけではない。本郷耕也……OTAKU旅団No.16、げんぶ。貴様も彼女に何か、告げるべき事があるのではないか?』

 

「…痛いところを突いてくれるな」

 

黒騎士に指差されたげんぶは血反吐を吐き捨てつつ…………はやてに見えるように、瞬時にアルケーガンダムの姿へと変化する。

 

「!?」

 

「こういうこった……分かったろ? 俺が悪鬼なんだよ」

 

「…嘘、やろ」

 

げんぶの変化したアルケーにはやては更に衝撃を受け、その場に膝を突いてしまう。このあまりに混乱し過ぎている状況に、ルカは気まずそうに朱音に小声で語りかける。

 

(あ、朱音さん…)

 

(…本当に何かしらね、この気まずい空気は)

 

朱音は居心地悪そうに髪を掻いてから、左手に持っていた鞘から刀を抜き取る。

 

「まぁひとまずは……この場から撤退するのが一番かしらね!!」

 

「「ッ!?」」

 

朱音が一閃すると同時に……後方から攻撃しようとしていたシグナムとヴィータが、僅かながらも傷を負う事となった。

 

「な、いつの間に…!?」

 

「だいぶ前から気配は感じ取れてたわ。全く、気配を隠すのが下手糞ね」

 

「ッ…貴様!!」

 

シグナムが怒りのあまりレヴァンテインを力強く振るうも、朱音は刀一本で軽々と防ぎ鍔迫り合いとなる。

 

「あら、シグナムちゃんじゃない。久しぶりね♪」

 

「何故だ……何故貴様までもが一緒にいる…!! 貴様も旅団の一員なのか!!」

 

「だとしたら……何だって言うのかしら?」

 

「!? 貴様ァッ!!!」

 

「ただ斬れば良いって訳じゃないわよ?」

 

「な…ぐぁっ!?」

 

シグナムの腹部を蹴りつけ、軽めに刀を素振りする朱音。二人はそのまま戦闘に突入する。

 

『ほう、彼女達も来たか…』

 

-ドシュンッ!!-

 

『む?』

 

「おい鉄屑野郎……テメェは俺が潰してやるよ…!!」

 

『…蛮勇という言葉を知らんのか? お前という男は』

 

「んなもん知るかよ……行けよファングゥッ!!」

 

『ふん…』

 

アルケーの放った複数のファングに、黒騎士は呆れた様子で剣とボウガンを構え出す。

 

「うわぁ、またおかしな事になってきた…」

 

こんがらがってきた今の戦況を、ルカは離れた位置で冷静に見定めようとする。

 

しかし…

 

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「え…うぉわっと!?」

 

グラーフアイゼンを振るって来たヴィータが、それをさせない。

 

「おいアキヤ!! 何でテメェまでこんな所にいやがるんだ!!」

 

「それは…」

 

「お前もなのかよアキヤ…………お前も、あのキリヤと一緒だってのかよ!!」

 

「ッ…」

 

「答えろアキヤ!!」

 

「僕は…」

 

その時…

 

 

 

 

 

 

「おら死ねモブがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

突如、ルカとヴィータの間に神崎が剣を振るいながら割って入って来たのだ。神崎の振るった剣をルカはスレスレで回避し、素早く後退する。

 

「な、神崎!?」

 

「ようヴィータ、助けに来たぜ!!」

 

「馬鹿!! 何でこんな面倒な時に来やがるんだよ!!」

 

「ははは、ヴィータは本当にツンデレだなぁ。大丈夫だ、そこのモブは俺が沈めてや―――」

 

「アンタは邪魔せんで良いっての!!」

 

「あぱぁーっ!?」

 

直後、光速で駆けつけたミナキが神崎を蹴り飛ばした。そのまま壁を突き破り、神崎はだいぶ遠くまで吹っ飛んでしまった。

 

「ごめんヴィータ!! あの馬鹿、私が言っても聞かなくて…」

 

「いや、すまん。それよりアキヤの方だ」

 

「ッ…!!」

 

ヴィータは改めてルカと対峙する。

 

「おい、いい加減ちゃんと答えろ!! お前は何でそっち側(・・・・)にいるんだ!!」

 

「僕は…」

 

 

 

 

「悪いけどそこまでだ」

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

ヴィータとミナキの周囲に、無数の爆撃が飛来。二人の視界が爆風で遮られる。

 

「え、FalSigさん…!?」

 

「ようルカ♪ 話してるところ悪いが、ちゃっちゃと逃げる用意しときなよ」

 

「な、けど…」

 

「良いから早く!! 黒騎士や六課の妨害がある以上、態勢立て直すしか無いだろうがよ!!」

 

「あ、ちょ、待って―――」

 

ルカの意見を聞かず、FalSigはすぐさま彼を連れて一緒に転移してしまう。

 

「なっ!? おい待てアキヤ、アキヤァッ!!!」

 

「ッ…何なのよ、この状況…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛竜一閃!!」

 

「ほっと」

 

レヴァンテイン・シュベルトフォルムの連結刃を刀で受け流し、左手にナイフを持つ朱音。すぐさまシグナムの足元にナイフを投擲し、指をパチンと鳴らす。

 

「はい、ドッカーン♪」

 

「な…ぐぁっ!?」

 

シグナムの足元が爆発すると同時に、朱音は素早く転移魔法陣を自身の足元に展開する。

 

「それじゃシグナムちゃん。また会う事があったら、その時は楽しく踊りましょう♪」

 

「ま、待て―――」

 

シグナムの制止も振り切る形で、朱音はその場から転移してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふむ、やはりまだこの程度か…』

 

「ぐ、がは…!?」

 

ファングも全て撃墜され、すっかりボロボロの状態になってしまったアルケー。そんな彼を見据えつつ、黒騎士は余裕そうな口調で剣の刃を撫でている。

 

「くそ……二百式、撤退するぞ!! 今の俺達じゃ、奴には勝てない…!!」

 

「ッ…アァッ!!」

 

げんぶはすぐさま転移し、それに続いて二百式も転移魔法陣を出現させるが…

 

「待って!!」

 

「ッ!?」

 

転移しようとした二百式の手を、はやてが掴んで離そうとしない。

 

「待って……行かないで…お願いやから…」

 

「…ッ!!」

 

しかし、そんな彼女の手を…

 

「…すまない」

 

「ッ!?」

 

二百式は、力ずくで振り払う。

 

「一哉さん…一哉さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

転移していく二百式に、はやては手を伸ばしながら彼の名を叫ぶ事しか出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これ以上、ここにいる理由は無さそうだな…』

 

旅団メンバー達が撤退していったのを見て、黒騎士もその場から立ち去ろうとする。

 

『…む!』

 

黒騎士は素早く振り返り、飛んで来たレーザーを剣で弾き飛ばす。

 

『…お前たちか』

 

「貴様にも、少し話を聞かせて貰おうか」

 

立ち去ろうとした黒騎士に、シグナムやヴィータ、ミナキが立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってろ皆、俺が今から助け…ウボァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

ちなみに弾かれたレーザーが、戻って来た神崎に命中したのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わざわざ、俺から何を聞こうというのだ?』

 

「貴様は何者なのか、貴様は彼等について何を知っているのか、それら全てを洗いざらい吐いて貰う」

 

『…そういう事か』

 

黒騎士は剣を鞘に納め、シグナム達と向き合う。

 

『俺の名は黒騎士。それ以外の、何者でもありはしない』

 

「ふざけるな。本名を明かせ」

 

『本名なら捨てた』

 

「「「!?」」」

 

『故に、俺にはもう黒騎士以外の名前は無い……そして、旅団についてだが』

 

「ッ…お願いや、教えて!!」

 

「!? はやて!?」

 

先程まで顔を伏せていたはやてが、黒騎士に縋るかのようにしがみ付きながら問い詰める。

 

「あの二人は何で旅団におるんや!? 何であの二人は…」

 

『彼等はお前達と会う前から既に、戦場に立って戦う戦士だった』

 

「!?」

 

しがみ付いてくるはやてを優しく離しながら、黒騎士は真実を告げる。

 

『彼等は管理局のある真実を知っていた……それ故に、彼等は管理局と戦う道を選んだ』

 

「!? どういう事よ!!」

 

『いずれ、お前達も知る事になる……管理局の“闇”を』

 

そう告げた直後、黒騎士の足元に魔法陣が出現し始める。

 

「待て、まだ話は終わっていない!!」

 

『お前達に一つ、忠告をしておこう……ある少女が、この海鳴市で命を狙われている』

 

「!?」

 

『言える事は、それだけだ…』

 

「おい、待ちやがれ!!」

 

ヴィータが止めようとするも、黒騎士はあっという間に姿を消してしまうのだった。その場にはシグナムとヴィータ、ミナキにはやてが残る。

 

「管理局の……ある真実…?」

 

(…まさか)

 

「ッ…耕也さん……一哉、さん…」

 

黒騎士の告げた言葉に疑問を抱くシグナムやヴィータだったが、ミナキは何となくだが黒騎士が告げた言葉の真意に気付く。そしてはやては黒騎士が立っていた場所に座り込んだまま、げんぶと二百式の名前を呟く事しか出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、げふ……俺、が…助け、て…や……ガクッ」

 

 

 

 

 

もちろん、神崎の心配をする者が誰もいなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、本郷家にて…

 

 

 

 

 

 

「「耕也(さん)!!」」

 

「お父さぁん!!」

 

傷だらけのまま、遂に意識を失ってしまったげんぶと二百式。特に白蓮やアザミ、娘の蓮はげんぶの傷付いた姿を見て悲しそうな表情で看病しており、二百式は楽園(エデン)から派遣されてきた医療スタッフによって治療されている。

 

「本当、黒騎士ちゃんには困らされるわね。まさか旅団のナンバーズメンバーが、これで二人もやられる事になっちゃうなんて…」

 

「そういえば、FalSigさんは大丈夫なんですか? あなたも攻撃されたと聞いたんですが…」

 

「あぁ。俺の方は少し攻撃されたくらいで、あの二人ほど酷い傷じゃないよ。何とかこのまま、任務は続行出来そうだ」

 

「それなら良かったわ……ひとまず、二百式さんとげんぶさんの二人は楽園(エデン)まで帰還させた方が良さそうね。後は楽園(エデン)の方から、何人か増援を呼べれば良いんだけど…」

 

「そればっかりは、連絡取って確認するしかないでしょう。他のメンバーも今頃、自分の任務で忙しそうだったし」

 

朱音とfalSigが今後の任務遂行について確認を取り合っている中、ルカは海鳴市に潜んでいるという不正転生者のリストを眺めていた。

 

(二百式さん凄いな、もうこんなにターゲットを始末出来てるなんて。後は一人だけ…ッ!?)

 

リストに載っている不正転生者、最期の一人を見て驚愕する。

 

(う、嘘だ……そんな…!?)

 

ルカは動揺を隠せない。何故なら、リストに載せられている不正転生者の名前が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-不正転生者No.186 大川恵里-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身がよく知る、友人である少女の名前だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽園(エデン)、団長室…

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「おやまぁまぁ……団長さんも、案外酷い事をするものですねぇ」

 

「ッ…デルタさん…!?」

 

クライシスが無言のまま椅子に座っている中、竜神丸は面白そうに笑みを浮かべ、ガルムは目の前にある物を見て戦慄していた。

 

今、彼等の目の前には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カプセルの中で、ホルマリン漬けにされているデルタの首(・・・・)があった。首の下はコードで繋げられており、口元はマスクを付けられている状態だ。

 

「しっかし、デルタさんも馬鹿な人ですねぇ。“アレ”の話に関しては、嫌なら別に記憶を消してあげてもよかったんですよ? まぁあなたの場合、単に脳を弄り回されるのが嫌だっただけなんでしょうけれども」

 

『……』

 

竜神丸に言われたい放題のデルタだったが、その目は今もなお竜神丸を睨み続けていた。

 

「おぉ、まだ元気はありそうですね。結構結構♪」

 

「デルタさん……アンタ、何だってこんな…」

 

デルタの鋭い目付きを見て楽しそうにする竜神丸とは対照的に、ガルムは何故デルタがクライシスに歯向かおうとしたのかが分からない状況だった。しかしホルマリン漬けとなっているデルタは、その理由を答えられるような状態ではない。

 

「さて、どうしましょうか団長? ここまでしないと暴走が止まらないような彼には、それ相応の処罰を下した方がよろしいと思われますが」

 

「…その事で、お前を呼ぼうと思っていたんだ」

 

無言だったクライシスが口を開く。

 

「本当なら、こんな形で自由を剥奪するようなマネはしたくなかったのだが……お前の暴走を放置した事で他のメンバーが巻き添えになってしまうようであるのならば、そればかりは私も見逃す訳にはいかない」

 

クライシスは椅子から立ち上がり、そしてある事を告げる。

 

「竜神丸に命じる……デルタの記憶を消去し、徹底的に改竄せよ」

 

「なっ!?」

 

「…ほう♪」

 

『…ッ!?』

 

クライシスの告げた非情な処刑宣告にガルムが驚き、竜神丸はニヤリと笑い、デルタはより一層クライシスを睨む目が鋭くなる。

 

「ま、待ってくれ団長!! いくら何でもそこまでは…」

 

「私の言葉に逆らうか? ガルム」

 

「ッ……それは…」

 

反論しようとしたガルムだったが、クライシスに一睨みされるだけで何も言えなくなってしまった。クライシスの目が「反論は聞かんぞ」とでも言うかのような意志を醸し出していたからだ。

 

「了解しました。団長のお言葉のままに」

 

『!?』

 

竜神丸は楽しそうにヒョイとカプセルを手に持ち、カプセル内のデルタと視線を合わせる。

 

「あなたがいけないんですよ、デルタさん? あの時、素直に断って私に記憶消去されていれば、こんな事にはならなかったものを…」

 

『ッ…!!!』

 

「非常に……残念です」

 

デルタの顔を隠すかのように、竜神丸の左手が翳され…

 

消去(デリート)

 

-パキィィィィィィィィィィィン…-

 

記憶改竄は開始された。

 

『ッ…』

 

デルタは白目を向いたまま、竜神丸によって次々と記憶を改竄されていく。彼がどれだけ苦しもうと、竜神丸にとってはお構いなしだ。

 

「団長!!」

 

「これは、決定事項だ」

 

「ッ…」

 

何かを言いたげなガルムに対し、クライシスはそれだけ告げてから団長室から姿を消す。ガルムが何とも言えないかのような表情をしているその横で、竜神丸はカプセル内のデルタの記憶をどんどん改竄していってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、海鳴市では…

 

 

 

 

 

 

「ほらほら恵里、置いてくよ~?」

 

「ま、待ってよ皆…!」

 

友人達と共に、街中を歩いて回っている恵里の姿があった。

 

そんな彼女を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、あの娘かぁ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶獣―――ZEROの赤い目が、しっかりと見据えていた。

 


 
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