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ALO~妖精郷の黄昏~ 第16話 死銃事件、真の解決

本郷 刃さん

第16話です。
交戦の果て、金本に止めを刺そうとする和人。
果たしてどうなるのか・・・どうぞ。

2014-04-06 12:49:08 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:12873   閲覧ユーザー数:12106

 

 

 

 

第16話 死銃事件、真の解決

 

 

 

 

 

 

 

明日奈Side

 

和人くんの指示を受けて一瞬迷ったけど、すぐさまわたしはこの場から離れるように駆け出す。

後ろから男の声が聞こえた気がしたけど、それも分からないままわたしは彼の携帯端末を操作しながら走る。

番号のリストを探して、名前の欄に菊岡さんの名前と“緊急用”の文字が書いてあるのを確認してそれを押す。

数コールのあと、彼の声が聞こえた。

 

『キリトくん、なにか緊急の案件かい?』

 

菊岡さんの声を聞いて不覚にも安心してから、わたしは応答する。

 

「あの、菊岡さん、わたし、明日奈です」

『アスナ君? どうしてキミが…いや、というかキリトくんは?』

「緊急事態、なんです」

『なにがあったんだい?』

 

わたしが和人くんの端末を使って連絡を入れたことを怪訝に思ったみたいだけど、

わたしが切羽詰っていることを察してくれたのか、真剣な声で訊ねてきた。

 

「手短に、言いますね……ジョニー・ブラック、いえ金本敦に襲われてるんです! すぐに、応援を…!」

『なんだってっ!? 分かった、部下と共にすぐに向かうから場所を教えてくれ!』

「は、はい、場所はわたしの家の近くの公園で、住所は……」

 

公園の住所を伝えて、『すぐに行くから、キミも身の安全を確保してくれ』という注意を受けて通話が終わる。

一度足を止めて呼吸を整えて一安心と思いながらも、胸のモヤモヤが消えなくて、嫌な予感がしてる。

そして和人くんの指示で雫さんにも連絡を入れなければいけないことを思い出して、

同じく緊急用と書いてる雫さんの番号を押して、通話状態になる。

 

『はい、朝霧でございます。桐ヶ谷様、緊急のご用件でしょうか?』

「あ、あの、わたし、結城と言いますが…」

『結城……失礼ですが、桐ヶ谷様の御婚約者であらせられる、結城明日奈様でしょうか?』

「は、はい、そうです」

『これは大変失礼いたしました。わたくし、朝霧家SP部隊所属管制統括官の遠野と申します。

 ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?』

 

どうやら女性のSPの人みたいだけど、なんだか凄い肩書きを聞いたような……って、そんな場合じゃない。

 

「えっと、金本敦という男に襲われて、和人くんから応援を呼んで欲しいと…!」

『っ、標的が姿を現しましたか! 察するに桐ヶ谷様が標的と応戦し、

 結城様は応援を要請するために一時離脱したと愚考いたしますが』

「はい、そうしています。場所はわたしの家の近くの公園で…」

『良い判断です。では、これより標的捕獲のため、朝霧SP部隊を『遠野さん、どったの?』こ、公輝様!?』

 

聞き覚えのある声が聞こえてみれば、公輝さんが来たみたい。

 

『報告お願いします』

『はっ! 結城明日奈様より緊急連絡! 標的・金本敦の襲撃を受け、現在結城家付近の公園にて、

 桐ヶ谷和人様が標的と交戦中、至急応援を! とのことです!』

『ちょっ、明日奈ちゃん無事か!?』

「わ、わたしは大丈夫です。でも、和人くんが残って…! 菊岡さんの方にも連絡は入れたんですけど…!」

 

遠野さんの報告を聞いた公輝さんが焦った様子で聞いてきて、わたしはそれにしっかり答える。

 

『こっちへの連絡は和人の指示か? それとも菊岡の?』

「和人くんですけど…」

『っくそ、そういうことかよ! 俺のバイクも用意、俺も出る!』

『なっ、危険です公輝様!』

『俺も行かなきゃ不味いかもしれないんですよ』

「それって、どういう…?」

 

公輝さんが聞いてきた言葉の意味が理解できないまま、その意味を聞いてみる。

 

『明日奈ちゃん、何か武器になるものはあるか? あと、護身術も覚えてる?』

「傘ならあります。護身術も、なんとか…」

『よし、ならよく聞くんだ……いますぐ和人のところへ向かってくれ』

『公輝様!? 彼女の身を危険に晒すおつもりですか!』

『最悪の可能性を考えるなら、そうしないといけない』

 

答えたあと、彼の言葉にわたしと通信先の遠野さん、それにその周囲に居ると思われる人たちの息を呑む音が聞こえた。

最悪の可能性って、もしかして…。

 

「和人くんが、やられてるって、ことですか…?」

『あぁ、それも可能性の1つだ……けど、俺が考えてるのはもう1つの方だ』

「あの、それはいったい…?」

 

和人くんの身の危険、それと同じくらいの最悪ってどんな…。

 

『いいか、明日奈ちゃん……相手はジョニー・ブラック、SAOの時からの因縁のあるやつだ。

 んで、快楽で人を殺すような野郎のことだ、確実に和人を刺激するようなことを言うはず……でだ、

 殺人をゲーム感覚でやってるやつが言うことといえば、いままで自分がやってきたことや、

 印象に残った殺人をべらべらぬかすに決まってる。となると、だ……和人がブチキレて理性がなくなりゃ…』

 

それを聞いて、なんとなく、ううん…ほとんど予想が出来た。

だけど、信じられないし、信じたくない……でも、和人くんは冷静沈着な面が多い人だけど、本当は仲間内きっての激情家。

それでも、公輝さんの言葉は続く…。

 

 

 

『アイツ、金本を殺しちまうぞ』

 

 

 

 

 

「はっ、はっ…はぁっ、はっ…!」

 

走る、走る、駆ける、駆ける……彼の元へ…。

 

「んっ、はっ、はっ……はぁっ、はぁっ…!」

 

呼吸が上手くできないけど、駆け抜ける……彼の元へ…。

家の近くまで来ていたから、公園からはそれなりに離れてる。

公輝さんの言葉を聞いてからというもの、嫌な感じがずっと強くなって、一刻も早く和人くんの場所へ行きたい。

もしかしたら、わたしが行くことでもっと悪いことになるかもしれない。

だって、SAOの時も、ALOの時も、それで彼は苦しんだから…。でも、今度は、きっと、今度こそ…。

 

「はっ、見え、た…!」

 

息が途切れながらも公園が見えて、わたしはその入り口まで辿り着いた。

そこには仰向けで地面に倒れる金本と、警戒しているのか右手に傘を持つ和人くんがいた。

金本の体を見てみれば、腕が変な方に曲がっているのが分かる。骨折しているんだ…。

とりあえず、2つの最悪の可能性はなくなったみたい…そう思って、公園の中に足を踏み入れた時。

 

「っ、うっ…」

 

圧倒的な威圧感と殺意に圧されて、呼吸がし難くなった。

この感じは、和人くんの…彼を見てみると、そこに居たのはいつもの和人くんじゃなくて…。

このままじゃ、金本は…そして、彼は動いた。

 

「あっ、ぎゃあっ!?」

「ひっ…!?」

 

和人くんは怒りの表情のまま、自分の左脚を上げてから金本の右脚を踏み折って、

あまりの光景にわたしは小さな悲鳴が漏れた。

これよりも酷い光景はSAOやALOで体験してきたはずなのに、比べ物にならないほどの凄惨さに思える。

ダメ、これじゃあ本当に、和人くんは金本を殺しちゃう……そう考えが到れば、わたしは体を動かして彼の元へ駆け出す。

 

「ダメっ…」

 

傘を持つ和人くんの右手が上がり、傘の先端が金本のお腹に向けられる。

そのあとの光景が頭の中でイメージされて、そのおぞましさに怯みそうになるけど、脚は止めない。

怒りのままに傘を金本に突き刺そうとしたその瞬間…、

 

 

 

「シネ!」

 

 

 

「ダメだよっ、和人くん!」

 

わたしは彼の体に抱きついた。

 

明日奈Side Out

 

 

 

 

和人Side

 

「がふっ…」

 

俺が振り下ろした傘は、金本の体に突き刺さることはなかった。

しかし、寸止めとはいえその衝撃は伝わったのか、ダメージを負って意識を失ったようだ。

そして、なぜ寸止めとなったのか…それは俺の体を明日奈が抱き締めているからだ。

 

「明日、奈…」

「ダメっ、それは……絶対に、ダメなんだから…!」

 

涙声で、だけどしっかりと言葉を伝えてくる明日奈。

 

「殺しちゃ、ダメ…! SAOの時とは、世界が違う……ALOや、GGOみたいなゲームでもない…。

 現実で殺したら、和人くん、戻れなくなっちゃう……お願い、だから…」

 

右腕の力が抜け、持っていた傘が手から落ちる。

スッと、憑き物が落ちたかのように、俺の中に渦巻いていた怒りは形を潜め、いつものように意識がハッキリとしている。

そして眼にするのは、四肢の骨が折れ、ダメージと痛みで意識を失っている金本。

俺を背中から抱き締め、震えている明日奈。

 

「全部、俺が…やったん、だな…」

 

怒りに身を任せ、明日奈が止めなければ人を殺していたという現状を受け入れて、俺は初めて……自分が怖いと思った…。

SAOでPKKをした時でも自分に恐怖は抱かなかったし、それで誰かに恐れられようとも、仲間がいればそれでいいと思っている。

だけど、感情に任せて、人を…。

 

「大丈夫…大怪我をさせちゃったけど、彼も生きてる…。ちゃんと、生きて罪を償わせられるから…」

「っ、なんで、俺の…」

「分かるよ、わたしは和人くんの奥さんだもの///

 それに、キミが怒ったのは亡くなった人が侮辱されたからだね…それも、和人くんの優しさだよ。

 それだけでその人たちは幸せだと思うし、キミが守れた人たちも分かってくれるよ。わたしがそうだからね…」

 

考えが分かるのか、そう聞こうとして答えた彼女の言葉が心に残った。

 

「それに、言ったでしょ? わたしも和人くんを守るんだから……頼ってくれて嬉しいの」

 

まったく、明日奈には敵わないな…。

 

「ははっ、つっ…」

「ど、どうしたの…って、和人くん怪我してる!? 血、血が、どど、どうしよう!?」

「大丈夫だって……わるいけど、ハンカチ巻いてくれるか?」

「うん!」

 

右手でズボンのポケットからハンカチを取り出し、明日奈に渡して貫通した左手に巻いてもらう。

ゲームのように確実性を重視してやってしまったが、他にもやりようがあったと思い、今更に後悔。

その時、数台のバイクと数台の黒塗りの車が公園右側の入り口に到着し、

少々遅れるようなタイミングで左側の入り口にまたもや黒塗りの車と2台の作業用の車が来た。

 

「和人、無事か!」

「キリト君!」

 

右側からは公輝と朝霧のSP部隊が、左側からは菊岡と彼の部下と思われる者たちが近づく。

両者共に驚いた様子を見せたが、いまはそれどころではないと判断したのか俺と明日奈のそばにきた。

とりあえず、現状を説明するか…。

 

「見て解ると思うが、制圧はした。金本は四肢の骨折と腹部の強打によるダメージで重傷、警察病院に運んだほうがいい。

 『サクシニルコリン』入りの注射器はそっちの鉄棒のとこに転がってるはずで、ナイフはそこに落ちてる。

 んで、俺が左手に負傷、ナイフが貫通した」

「わかったよ。金本を車に、犯罪者とはいえ重傷者だから気を付けて運んでくれ。

 注射器とナイフも回収だ。キリト君とアスナ君は…」

「失礼、少しよろしいだろうか?」

 

俺の報告を聞くと菊岡は部下に指示を出し、金本を車に運ばせ、デス・ガンとナイフを回収させた。

俺たちにも何かを言おうとしたところで、朝霧SP部隊の1人の男性が前に出た。

 

「貴方は?」

「自分は朝霧家SP部隊現場総指揮官の遠野と言います。

 僭越ながら、桐ヶ谷様と結城様には朝霧家SP部隊の医療施設で治療に当たることを提案させていただきたいのですが…」

「菊岡、俺もそれに賛成してぇんだが…」

 

そう、前に会ったことがあった。朝霧家のSP、その実動部隊の総指揮官で、確か奥さんが管制官たちの統括だったはず。

彼の提案に公輝も同意している…やはり信用ならないか。

 

「キリト君、アスナ君。キミたちが良ければそれでもいいけど、明日の午後から事情聴取を行ってもいいかな?」

「俺は構わない。明日奈は?」

「わたしも構いません」

 

俺たちが同意すると菊岡は部下たちを車へと退かせた。

 

「キリト君、アスナ君…怪我があったとはいえ、キミたちが無事で本当に良かったよ…。それじゃ、僕は行くね」

 

最後に自然な笑みを浮かべて言葉を残して去っていた菊岡の様子に、明日奈と公輝は呆然としていた。

だから言っただろ、もう信用はできるって。

 

「っと、それじゃ俺たちも急いで移動しようぜ。和人の怪我もあるけど、人がいない内に退散するのがいいってもんだ」

「だな。お世話になります、遠野さん」

「お任せください」

 

そういうわけで俺と明日奈は朝霧家SPの車に乗り、朝霧財閥本社へと移動した。

そこで治療を行ったのだが、そのあとで無茶をやらかしたことなどを公輝と雫さんに散々に注意されたのは言うまでもない。

明日奈? 彼女は無茶もしてないし、むしろ俺を止めた功労者だからお咎めなしだよ。

ついでに言うなら、明日奈は苦笑しながらも俺のことを優しい表情で見ていた。

 

 

 

 

注意という名の説教も終わり、俺と明日奈は自宅に連絡を入れた。

俺が襲撃を受けて怪我をしたということで少し遅くなるということを伝えた。

もちろん両家から心配の声があがり、ここまで迎えに行こうかと聞かれたが、落ち着いたら自分たちで帰ると言った。

そして現在はというと…、

 

「明日奈、そろそろ離れ「まだダメ」、そうですか…」

 

俺に抱きついたまま、さきほどからこの調子である。

いまの状況を簡潔に整理するならば、休憩にと当てられた一室で俺と明日奈は休ませてもらっている。

テレビが1台に雑誌や新聞紙が幾つか、備え付けられている小型冷蔵庫には数種類のジュースとお茶が入っている。

ソファもあるのだがシングルベッドも備えられており、俺と明日奈はベッドの上で並んで寝転がっている状態にある。

しかも彼女は俺に抱きついている…まぁ、心配を掛け、甘えられているというわけだ。

 

「心配だったんだから…それに、もし間に合わなかったらって、不安にもなった…」

「あぁ…それでも、間に合った。明日奈が来てくれなかったらと思うと、ゾッとする…」

 

そうだ…もしもあの時、明日奈が来なかったり、間に合わなかったりしたら、

俺はきっとこの手で金本の命を奪っていただろう。

それも、怒りという感情と本能に身を任せるという最悪の形でだ…。

その場合、もしかしたら俺は堕ちていたかもしれない。

 

「ありがとう、明日奈。俺を止めてくれて、助けてくれて…本当にありがとう」

「いいの。わたしが止めたいと思って、助けたいって思ったから……でも和人くんが、元のキミのままでよかった」

 

改めて安心したように穏やかな表情で俺の腕枕を堪能している明日奈。

しかし、さすがに遅くなりすぎるのもどうかと思い、彼女に声を掛けようとしたところで…。

 

「ねぇねぇ、和人くん」

「ん、どうした?」

「ここって、シャワーもあるよね?」

「あるな。それがどうし……」

 

明日奈の頭に猫耳が、腰には猫尻尾が見えた気がして、同時に彼女の言葉の意味を察する。

 

「いや、待て明日奈。さすがに俺は手を怪我しているわけでだな、んむっ!?」

「ん~ちゅっ///」

 

いつもと状況が異なる為、なんとか止めようと思ったのだが、キスをされたことで無駄に終わった。

いや、これはこれで中々…。

 

「ふぅ……いいでしょ///? 不安を消しておきたいの///」

「少しだけだぞ?」

「はい///」

 

その言葉を発端に、俺たちは1時間ほどだが事をいたした。

 

 

情事の後、シャワーを浴び(俺は左手が濡れないようにして)、

送ると申し出てくれた公輝と雫さんに甘えて車でそれぞれの自宅へと送ってもらった。

自宅へと着いた俺を母さんとスグが出迎え、俺は怪我のことを説明した。

事故ではなく襲われたと言った時には2人とも激しく動揺していたが、犯人が逮捕され、

明日に事情聴取を受けることを伝え、とりあえず今日はこれで話しが終わった。

なお、その際に俺の首元に明日奈が残したキスマークがあったことを指摘され、2人にからかわれた。

 

 

翌日、明日奈とともに学校を休み、俺たちは菊岡から事情聴取を受けた。

警察ではなく、なぜ彼が行ったかと言うのは配慮してくれたことだと思う。

それほど長い時間は行われず、早々に話しは終わった。

それから凜子さんやタケルからも安否を問うメールが届き、しっかりと返信しておいた。

 

その日の夜のALOでも、誰にも話さないことを条件にみんなにも話すこととなった。

かなり心配され、特に景一と詩乃は直前まで一緒だったこともあり、余計に気にしていた。

景一の場合は詩乃の守りがあったから仕方がないのだが、詩乃はその気配に気付きながらも、

念を押さなかったことを気にしているようだったので、その辺のフォローはしておく。

 

 

けれど、これにて『死銃事件』が表向きだけでなく、真の意味で解決したことになった。

まだ奴らのリーダーの行方は誰も知らないが、その決着はいずれ訪れるはず…。

 

和人Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

金本がどうなったか、正解は『寸止めになったものの、傘先端部の衝撃波のダメージで意識を失った』でした。

 

まぁそういうわけで、明日奈が間に合ったことで和人は金本を殺すことなく、無事に逮捕へと至りました。

 

和人が掌を負傷したもののなんとか無事でした・・・ま、最後は甘くしましたがw

 

次回とその次は日常&甘々でいきますのでコーヒーの用意を!

 

それではまた~・・・。

 

 

 

 


 
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