No.670659

ゆりんゆりんびより

初音軍さん

ブログに載せたお話を。アニメでれんげと駄菓子屋が初日の出を見にいったときの健気さと、れんげを世話してたときの駄菓子屋を見ていて妄想高まりました。早くイチャイチャしてくれんかなぁって思ったりw

2014-03-14 14:57:55 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:686   閲覧ユーザー数:686

 

【楓】

 

 くそ寒い冬を乗り切って少しずつ陽気が暖かくなってきて、

店番をしながらウトウトしていると年中無休に騒がしく店に

やってくる小さなお客さんが訪れた。

 

「だがしやー!」

「だから私には名前あるっていってるだろ。名前で呼べ、名前で」

 

「だってこっちの方がしっくりくるのん」

「あっそ」  

 

 小学生になりたての小さな客こと、れんげがいつものように

駄菓子を買いに来ていた。だが最近は駄菓子よりも

ここに来ることが目当てのような気がしなくもない。

 

 店の中は商品の駄菓子以外にこれといった

魅力的なものはないはずなのだが。

 

「だがしや」

「何だよ」

 

「だがしやはうちの嫁なのん」

「・・・は?」

 

 何かのテレビやマンガの影響か?

私は特に意味はないと思い適当に受け流すが。

れんげは何度か訴えるうちに、ちょっと落ち込むような

表情をしながら私の座っているとこの膝の上にちょこんと座った。

 

「おい、れんげ。重いって」

「! うち重くないん!」

 

 ムキになって振り返るとれんげの顔がやけに近く見えて少しドキッとした。

春風に乗ってれんげの子供らしい匂いが鼻についた。

 

「わかんないん?」

「何がだよ」

 

 適当に聞いていると、どんどんれんげの声に

力がなくなっていくことに気付く。

どれだけがっかりしてるんだよ、何が言いたいのかわからないし。

 

 れんげにどんな意図があるのか聞こうとすると、

再び耳に足音や声が聞こえてきてひとまず聞くのをやめた。

 

 そうしてわずかな後、店の中にいつものガキんちょたちが

駄菓子を求めてやってきた。

「よー、駄菓子屋。儲かってる?」

「私これにしよーっと」

「私も先輩のと同じにしようかな」

 

 夏海、小鞠、蛍がそれぞれ思い思いのものを

手に取り雑談をしていた。これもいつもの風景。

 

 まったりと時間をかけながら話に華を咲かせていた。

夏海はいつも通り私のことをからかいに来ただけのようだが、

最終的にはちゃんと買いにいってくれるから無下にはできない。

 

「お、れんちょん。駄菓子屋の上に乗ってるー」

「駄菓子屋の上やわらかくて気持ちいいん!」

「アホなこと言うな・・・」

 

「よかったな、れんちょん。幸せそうだぞ~」

「うち、だがしやと一緒なら幸せなん!」

 

「お、駄菓子屋とイチャイチャですか~、いいですな~」

「お前らあんまりしつこいとつまみ出すぞ」

 

 つまみだされてはたまらんとばかりに、

買うものを買ってからそそくさを去る4人。

 

 だが途中でれんげだけこちらに振り向くと手を振りながら一言。

 

「また来るのん」

「おー」

 

 私もだるい感じで手を軽く振ると満足したようにれんげは走っていった。

 

 かわいいな・・・。

 

 赤ん坊の頃から見ていたから尚更そう感じるのだろうか・・・。

 

 それともれんげだからそう感じるのだろうか・・・。

 

 我に返ると私は頭を横に振って否定した。

だって、相手はまだ子供で女だぞ。

そうやって必死に自分の胸の内に秘める想いを拒んでいく。

 

 常識が思考を振り払おうと躍起になり、もやもやがひどく溜まった私は

本当にだるくなってレジ台に頭を押し付けて目を閉じた。

 

 

「駄菓子屋・・・」

 

 ふわふわした感覚で名前を呼ばれた私は声をしたほうに振り向いた。

いや、名前ではないけど。

ずっとそう呼ばれるとそんな気がして不思議な気持ちになる。

視線を向けた先にはれんげがいた。

 

 

 れんげにしては思ったより大きくてどうしたのかと思ったが、

れんげが切なそうに言った言葉で思い出す。

 

「うち、もう卒業するの・・・。これから別の学校いかなくちゃいけない」

「もうそんな時期か」

 

「うち駄菓子屋と離れるの寂しいの」

「・・・そんなこといっても仕方ないだろう」

 

「それは・・・そうだけど」

 

 そうだ、時が経つのは早くてれんげももうこの地域から離れて

大きな学校通ってしっかり勉強する時期になったのか。

 

 れんげがいなくなると途端に寂しい気持ちが込み上げてくる。

だけど、そんなことで彼女の足を引っ張ってはいけない気がして。

 

 本音よりも建て前を優先してしまう。

 

「駄菓子屋はうちがいなくなってもいいん?」

「・・・。」

 

「駄菓子屋!」

「あぁ、もううるさいな!そうだよ、れんげがいなくても平気だ。

むしろ静かに暮らせて良いくらいに思ってるよ」

 

 言い過ぎなくらいでちょうどいい。

どうせ、向こうに言ったら私のことを構うよりも楽しいことが

彼女には待っているのだ。

 

 だから今は少しさみしくても私のことを忘れるくらいがれんげに

とっては幸せに違いない。

 

「駄菓子屋の馬鹿!」

 

 れんげは怒って店の前から走っていってしまった。

視界から消える瞬間、れんげの目に涙のようなものが見えた。

誰もいなくなって力が抜けたように私は突っ伏すように

顔を伏せると少しずつ震えがきていた。

 

「寂しいに決まってるだろ」

 

 傍にいなくなって初めて本音が私の口から漏れていた。

頭の中ではずっとれんげのことでいっぱいだったよ。

だけど、これは異常なことだろう?

そう必死に自分に言い聞かせてきたけど・・・。

 

 今思えばそれは弱い自分への言い訳にしか聞こえなくて。

虚しさだけが私の胸の中いっぱいに広がっていく。

 

「私はれんげとずっと一緒にいたかったよ!」

 

 伏せながら私は泣くようにして叫んだ。

聞こえないことがわかってるからこそ、本当の言葉を漏らした。

ずっと・・・、ずっと・・・。

 

 

「だがしや」

「ん・・・」

 

 寝ていたのか、気付くと辺りは夕焼け色に染まっていて、

顔を上げると目の前にはれんげの姿があった。

まだ小さいままで、さっき見たのが夢だと気付いた。

 

「どうしたんだ、れんげ」

「お金払うの忘れてたん」

 

「お、おお。そうだったっけ」

 

 おそらく追い出した際に、れんげの頭からお金を払うことが

すぽんと抜けてしまったのだろう。

申し訳なさそうな顔をしてお金を出してきた。

「だがしや・・・」

「ん、なんだ?」

 

 そのあと、妙な間ができて。れんげはおもむろに私の膝の上に

乗って振り返ってくる。昼間同じことがあったような。

 

 そんな既視感を覚えながら、その時とは違う表情で私に

強く言葉をかけてきた。

 

「うち、だがしやから離れたりしないのん!」

「は?」

 

「だがしやとずっと一緒にいるのん!」

「もしかして・・・お前・・・」

 

 夢を見ていた時、その場にいたのか?

 

 私はあのことを口に出していたのか?

 

 色々なものを込み上げてきて恥ずかしい

気持ちになりながらもれんげは続けて言葉を紡いできた。

 

「うち!だがしやのこと!だいすきなのん!!」

「れんげ・・・」

 

 意味がわからないとか、影響うけてるとかそういうのは

関係なくて本人の中ではそういう気持ちで、

隠すことなく伝えてきているのだ。

 

私はそれを受け入れる覚悟がなかった。

 

 れんげはまだ小さいから、すぐに忘れるかもしれないって思っていたから。

そんな時期が来たら私は置いていかれるのが本心では

怖くて認めたくなかったことが・・・今わかった。

 

「本気にしていいのか?」

「いいのん」

 

「もし本当にその気だったら、私達すごい年の差カップルになるぞ」

「いいのん!」

 

「一度その気にさせたらもう取り消せないぞ、それでもいいのか?」

「いいのん~!」

 

「そっか・・・」

 

 れんげのまっすぐな目を見て肩の力が抜けた気分になって

椅子の背もたれに寄りかかる。もっと気楽にしてればよかったかな。

 

 私は膝の上に乗る小さな彼女に抱き着いて引き寄せた。

 

「おお!」

「れんげ・・・。」

 

「何なん?」

「ありがとうな」  

 

 自分の気持ちに気付かせてくれて・・・。

この言葉だけは飲み込んで私はれんげの頭頂部に鼻を当てて息を吸う。

れんげの匂いとその辺の草、花などの自然のが混じった。

 

なんともれんげらしい匂いが私を落ち着かせてくれた。

 

 

「わるいね、れんげがまたお邪魔して」

「いえ、私も楽しかったんで」

 

「おやおや、珍しく楓が素直になって」

「え、私そんなに普段素直じゃないですか?」

 

 暗くなってバイクの後ろに乗せて歩いて送りにいくと先輩と話をしていたら

れんげは少し眠そうに、バイクの後ろから降りて家の中に入ると。

 

「だがしや、また明日なん~」

 

 振り返って、普段と変わらないけど笑っているような感じで手を振ってから

いそいそと階段へいって上っていった。

 

「れんちょんも嬉しそうだし。これからも仲良くしてやってな」

「先輩もそれでいいんですか?」

 

「うん、楓がいてくれたら私も安心だ。迷惑じゃなければだけどね」

「迷惑なんかじゃないですよ」

 

 むしろ私にとっては天使か何かに近い。

とてつもなくやんちゃで手のかかる天使だけど。

 

「じゃ、私帰ります」

「あ、気をつけて帰りなよ」

 

「はい、じゃあまた」

 

 先輩と話を終わらせると私は外に置いたバイクに跨って

ヘルメットを被りライトをつけながらゆっくりと走りだす。

 

 途中、送る直前に見せた珍しく微笑んだれんげの顔を

思い出しながら私はその時に感じた愛おしい気持ちに浸って帰っていった。

 

 これからはちょっとだけ違った気分で一日一日を過ごすことになりそうだ。

あの夢から味わった寂しさだけ繰り返さないように、

これからはれんげに少しだけ優しくしようかと思ったのだった。

 

お終い


 
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