No.668138

真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~第四十一話 声 後篇

YTAさん

どうも皆様、YTAでございます。
毎度毎度お待たせしてしまい、申し訳ありません。
少し長めになってしまいましたが、無事、投稿する事が出来ました。
では、どうぞ!

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2014-03-05 04:26:29 投稿 / 全25ページ    総閲覧数:2970   閲覧ユーザー数:2466

                                     真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~

 

                                        第四十一話 声 後篇

 

 

 

 

 

 

「“どうして”とか“何で”とかよォ。そんな質問は意味無ェって分かってんだろ、北郷一刀?だって俺様たち“罵苦”はよォ――正真正銘、バケモノなんだからよ」

 窮奇(キュウキ)は獰猛にそう言って嗤うと、青い鳥人、畢方(ヒッポウ)の腕を胴に巻き付けられ、抱え込まれる様にして立たされている意識のない及川(たすく)の額を、鋭い猛禽の爪でデコピンでもするかのようにコツンと叩いた。及川は僅かに身じろぎをすると、薄っすらと目を開け、焦点の合わない瞳で薄緑(ライトグリーン)の鎧を纏った男――青龍王――北郷一刀を見詰めた。

 

「…………お前、もしかして一刀か?」

 及川が最後に顔を合わせた時と同じ台詞を呟くと、青龍王は、小さく頷いた。

「……よく分かったな……“あの時”とは、姿が違うのに」

 一刀も、最後の時と同じ答えを口にしながらゆっくりと着地して、赤く変色した龍王千里鏡が弾き出す“及川祐らしき人物”の解析結果に神経を集中する。幸運な事に、初めて皇龍王へと姿を変えた時に及川と接触していた時のデータを元にしての照合が可能だったからだ。

 

 今迄のところ、自分の目の前で怪物に人質に取られている男は、及川祐本人である可能性が極めて高かった。尤も、罵苦が寸分たがわぬ“模造品”を作り出す技術を持っていたとすれば、その限りでもあるまいが。

 複製人間(クローン)人造人間(レプリカント)は確かに科学の成果物だが、魔術にも人工生命体(ホルムンクルス)という古式ゆかしい成果物が存在するからだ。まったく、『高度に発達した科学は魔法と見分けが付かない』とは、()のクラーク御大もよく言ってくれたものである。

 

「いや……何となく、全体的なコンセプトデザインが似てるなぁ……と」

 及川は、どこか場違いな、呑気さの滲み出る様な声でそう言うと、頭を掻こうとして右手を上げ、そこで初めて、自分が何者かに――より正確に表現するのなら、“青い羽毛で覆われた腕を持つ何者か”――に胴を抱きかかえられ、拘束されている事に気が付いた。

 

 

次いで、自分を愉快そうな光を湛えて見詰めている、“二足歩行の”、“羽の生えた”、“巨大な虎”を視界に認め、壊れたブリキ人形さながらのぎこちなさで青龍王を見遣る。最早ここまで来ると、自分がビル5・6階に相当する高さにぶら下げられているという事など、些事と言うのも憚られる程の些事に思えた。

「あのさ、一刀」

「おう」

 

「もしかして俺……今、大ピンチだったりする?」

「そうだな。まぁ、もっと的確に表現すると、“俺とお前が大ピンチ”なわけだが」

「で、ですよねー。ははは……はは……なして?」

「俺が訊きたいわヴォケ」

 

 青龍王が溜息混じりにそう吐き捨てて胸の辺りの鎧をボリボリと掻くと、二人の遣り取りを興味深げな様子で眺めていた窮奇が、吠える様な声で笑い声を上げた。

「お前等、仲良しだなァ、オイ!状況を分かってんのか分かってねェのか、イマイチ判断し辛ぇけど」

「いやぁ、分かってるような分かってないような……としか、答えられないんですけれどもね」

 

 及川が遣る瀬無さそうにそう呟くと、窮奇は尚も興味深そうに及川を見返した。

「ヘェ。あんちゃん、中々に肝が据わってるじゃねェの。正史なんかより、よっぽどバケモノに慣れてる外史のニンゲンでも、俺様たちを見るとビビる奴が大半なのによォ」

「そりゃまぁ、何だかんだで二回目ですし――ぶっちゃけ、二足歩行の魚だの蜘蛛だのよりかは大分マシ、と申しますか……」

 

「はは、“マシ”ときたか!コイツぁ、良い!!後で檮杌(トウコツ)渾沌(コントン)にも言ってやろ。渾沌の野郎は兎も角、檮杌のヤツ、歯軋りして悔しがんぜ、きっとよォ!!」

 窮奇は、腹を抱えてゲラゲラと愉快そうに笑ってから、鷹の爪で涙を拭う仕草をする(実際に涙を流していたかどうかは、及川には解らなかった)と、青龍王へと向き直った。

 

「あァ、腹痛ェ……んじゃまぁ、北郷一刀。お名残惜しいけどよ、俺様、今日はこれで帰るわ」

「なに?」

 青龍王が、仮面の中で怪訝そうな眼差しを向けると、窮奇はそれを察したかの様に肩を竦めた。

「俺様はさ、美味そうな獲物はたっぷりと“太らせてから”喰うタイプなんよ。ニンゲンの食い物に例えると――ほら、アレだ。レバ刺しよりフォアグラ……的な?」

 

 窮奇は、右手の人差指を振りながら(とぼ)けた口調でそう言うと、青龍王の答えなど待つ気もないのか、自分の血でドス黒く染め上げられた翼をはためかせ、周囲に旋風を巻き起こして上空に舞い上がる。

「あァ、チクショウ。羽が重いったらありゃしねェ――畢方、後は任せた。んじゃあな、北郷一刀。楽しかったわ。また会おうぜ!」

 牙を剥き出しにして嗤いながら、気障ったらしく手を振ると、窮奇は虚空へとその姿を消した。

 

 

「猫科め……どうせ帰るなら、残りも連れて帰れってんだよ」

 青龍王は、窮奇の消えた上空を未だに舞っている魔鳥“アンズー”を眺めながらそう呟き、僅かに首を振ってから、畢方と、鳥人に抱えられて困惑の表情を浮かべる及川に視線を移した。

「で、鳥さんさ。もしかしなくても、そいつは人質だったりするわけ?」

 

 顎をしゃくって及川を指し示しながら青龍王が尋ねると、畢方は小さく頷いた。

「然リ。我ガ主、窮奇様カラハ、ソノ様ニセヨ、ト仰セツカッテイル」

「そりゃ、御丁寧に教えて下さってどうも――だ、そうだぞ、及川。良かったな、差し当たって、いきなり取って食われる様な事はなさそうだ」

 

「く、クソッ!!一刀、俺に構わず――ぎゃあ!!?」

 及川はそこまで言うと、自分の頬のすぐ横を掠めて行った閃光に、思わず悲鳴を上げた。実際に触れた訳でもないのに、頬は静電気のチクチクとした刺激で僅かに痙攣している。

 実際のところ、畢方が素早く身を捩って(かわ)さなければ、閃光は自分の顔――頭――への直撃コースだった。

 

「何してくれやがりますかいコンチクショー!!?」

「いや、だって今、お前が『構うな』って――」

「日本人には、“本音と建前”ってのがあるだろーがよ!!お前は生粋のジャパニーズだろうが!!察しろよ!!そこは察して悩もうよ!!」

「相変わらず、面倒臭い奴だな……俺、イーストウッドのファンだって言った事なかったっけか?」

 

 青龍王は、また胸の辺りをゴリゴリと掻いて溜息を吐いた。

「聞いた事ねぇし!!つか、もっと早く言って欲しかったな!そうね、五年ぐらい前に言って欲しかった!!命懸かってんだぞ、俺の!お・れ・の!!」

「いや、だってさぁ……お前、映画に誘っても総スカンだったし、俺が負けたら、この世界滅んじゃうし。お前一人の命と、天秤に掛ける訳にいかないじゃん?」

「俺はハッピーエンドのラブコメが好きなんだよ!!つか『じゃん?』じゃねーよ!!軽る過ぎんだろーよ!!せめてイーストウッドっぽく、もちっとシリアスな感じで伝えようよ!それが十五年来の友達への態度か!?この鬼畜!人でなしぃ!!」

 

 

「エェイ、喧シイ!!」

 畢方は、あまりにも自分の予想と斜め前に進みつつある状況をどうにか修正しようと、困惑気味に怒鳴って大きく息を吸い込み、一拍の間を置いて、一気に吐き出した。すると、吐き出された息は、雷雲でも明るく見える程の黒雲となって、瞬く間に畢方と及川と包み込む。

 

黒雲は、あれよあれよ言う間に広がり続け、都の中空に数百メートル四方にもなろうかという、黒い入道雲を作り出した。

「あらら……やっぱ、都合良く放してくれたりはしないのね」

 青龍王は、明らかに罠であろう事を知りつつも、再び両腕に電磁波の竜巻を纏い、ふわりと宙に浮いて、一基になった背中のバーニア・スラスターを起動させ、一気に高度を上げる。

 

 青龍王は、黒雲の中に突っ込むと、それがどちらかと言うと、雲というよりは煙に近いという感覚を覚えた。雲は元々が水蒸気であるので、中に入ってしまえば霧と同様、纏わり付く水分を感じる筈なのだが、黒雲には全くそれが感じられなかったからだ。

「なんじゃこりゃ……理氣脈(りきみゃく)が滅茶苦茶じゃないか。しかも、天氣まで完全に遮ぎるとは……」

 

 本来、どんな空間にもある筈の“氣の理”、龍王千里鏡に常に正確に映し出される筈のそれが、全て見た事も無い程に歪められている。分かり易く言うと、1+1=15だとか、3×4=28だとか、そんな出鱈目な数式の羅列を見せられている様な気分だった。

しかも、普段は空に満ち満ちている筈の天から降り注ぐ陽の氣、即ち天氣すら、砂粒ほども感じる事が出来ない。

 

「及川の氣も視えないな――サーモグラフも効果なし、と。魔術的にも物理的にも視界を奪う霧……これが畢方の能力か……む?」

 青龍王は、独りごちながら違和感を感じて、広視界化された視線を、背中のバーニアに向けた。バーニアからは、今も氣の奔流が問題なく放出されているものの、そんな心算(つもり)もないのに、明らかに出力が弱まっている。どうやら、両腕の電磁波も同様であったが、しかしこちらは、背中ほどの出力低下には見舞われてはいないようだった。

 

「フッ!!」

 青龍王が、訝しがりながらも背中と両腕への氣の供給を強めると、違和感は益々、強くなった。例えるならば、穴の空いたホースに水道を全開にして水を送り込んでいるかの様な手応えの無さ、とでも言おうか。

 しかも、両腕の方は小さな針で穿たれた程度のものであるのに対し、背中は穴どころか、ナイフで大きく切り裂かれたかの様な有り様だ。

 

 

「氣を……拡散させて無効化してるのか!?」

 以前、戦った渾沌の“八魔”、化け蟹の夾人(キョウジン)も、自身を包む甲羅に氣を拡散させる能力を有していた。ならば、同じく窮奇の“八魔”である畢方も、同様の能力を有していても何ら不思議はない。

 要は、それが身体的特徴としてか、或いは周囲に力場(フィールド)を張り巡らせるという能力としてか、という“発現の仕方の違い”でしかないのだ。

 

「(もしかしたら、より強力な肯定者や剪定者と戦う事を求められる優れた中級種にとっては、極めて有効な能力だったのかも知れないな……)」

 青龍王がそんな事を考えていると、不意に背中に衝撃が走った。青龍王が漆黒に染められた空を錐揉みしてはね飛ばされながらも、どうにか態勢を立て直して周囲を見渡すと、既に自分を背後から蹴り上げた筈の――そう、間違いなく“蹴り上げた”のだ。そういう感覚があった――敵の姿は掻き消えており、どこからともなく、片言で喋る鳥人の声が周囲に響いた。

 

「ククク、ドウダ北郷。如何ナ貴様ノ能力ヲ以ッテシテモ、氣ト魔術ヲ無効化スル、コノ漆黒ノ伽藍(がらん)ノ中デハ何モ出来マイ……」

「くそ、一刀っ!!」

 無念の響きが籠った朋友の声が自分の名を呼ぶのを聞いて、青龍王は大きく息を吸い、思考を纏める事に全力を尽くした。考えなければ。

思考と想像力こそが、生まれながらに爪も牙も持たぬ人類を、数多の猛獣達をも退けて、生態系の頂点へと押し上げた原動力なのだから。

 

「(腕よりも背中の方が氣の消費量が圧倒的に多いのは、腕の方では一度、体内で電気に変えて放出しているのに対し、バーニアは直接、氣を噴射しているからだ。つまり電気は、氣よりも遥かにこの伽藍で分解され難いって事。そして、周囲のアンズーが攻撃して来ないのは、アンズーどもに取っても、この霧が妨げになるから――なら、この中に居る間は、少なくとも横槍の心配はしなくて良い。畢方は兎も角、及川の声が聴こえて来たのも、音は“通る”――及川とコミュニケーションが取れるって事だ。なら、奴の居場所さえ分かれば、そして及川を引き剥がす事さえ出来れば、勝機は十分にある筈……!)」

 

 瞬間、再び衝撃が青龍王を襲った。今度も背中から……しかし、一度では終わらなかった。態勢を崩して空中を跳ね飛ばされた青龍王は、不可視のボードに落とされたピンボールさながらに、不規則な軌道を描いて空中を不格好に踊っていた。

 ピンボールとの違いと言えば、不可視の杭で軌道が変わる度に、身体の何処かしらから火花を上げている事くらいだろう。

 

 

 背中のバーニアが不安定で頼りにならない今、頼みの綱は両腕の電磁波が作っている浮力だけ。両腕をそれ以外の方法に使おうと、一瞬でも電磁波と止めれば、畢方は更なるスピードで連打を放って来るだろう。そうなれば、自分は兎も角、今以上の凄まじいGに及川の意識と身体が耐えられまい。

 青龍王はそう考えて、敢えて攻撃を受けるに任せ、姿勢制御に集中する。

 

「(一度だけ――一度だけでも――!)」

 自分と朋友とを繋ぐ、『長い付き合い』というか細い絆に、手が届けば。届きさえすれば。

 青龍王は、その考えを極寒の海に唯一浮かぶ板きれの様にしっかと掴んで、黒い伽藍に溶け出しそうになる意識を叱咤するのだった――。

 

 

 

 

 

 

 まさか、長時間ではなかった筈だ。それどころか、10分――いや、実際には、5分経っているかも怪しいが、青龍王の身体は、既に限界を迎えようとしていた。無防備な背中や胴を包む鎧には、鳥人による無数の強襲の跡が痛々しく刻まれいて、身体のそこかしこが、無反動ハンマーででも殴られた様な鈍痛を覚えていた。

 おそらく、生き残れても数週間の間は寝返りを打つ度に目を覚まして、呻き声を上げねばならないだろう。ジリジリと焦げ付く様な思考の波の狭間で青龍王がそんな事を考えていると、唐突に衝撃が止んだ。

 

「ヤハリ、貴様ラ人間ハ脆弱ダ。先程、自分デ、『一個体ト世界ヲ天秤ニナド掛ケラレヌ』ト言ッテオキナガラ、実際ハコノ(ザマ)ナノダカラナ。我ガ主、窮奇様ナラバ、問答無用デ囚ワレノ味方ゴト、私ヲ葬ッテイルダロウ。一体ドウシテ、窮奇様ガ、オ前如キニ傾倒ナサレルノカ、我ニハ皆目ワカラヌワ」

 畢方は、失望も露わに闇の伽藍の中でそう言った。と、なると、どうやら次で、止めを刺す心算であるらしい。

 

「ふん……大きなお世話だ、アホ鳥が。――及川」

「お、おう、一刀!もういい!本当に、もういいから!俺ごと、コイツを丸焼きにしちまえ!!こんな胸糞悪いのを見せられるくらいなら、その方がマシだって!」

「そりゃ……上等だ……なら、遺言くらいは書いとけよな。親父さんの形見、まだ持ってるんだろ?」

 

 

「そりゃ……ッ!?」

 及川は、畢方に気付かれない様に細心の注意を払いながら、自分の左のポケットに入っている父の形見――モンブランの最高級モデル、“マイスターシュテック”の万年筆――を、ポケットの外から握り締めた。胸ポケットにではなく、ズボンのポケットにそれが入っていたのは、及川祐にとって、この万年筆が筆記用具ではなく、お守りの様な物だったからに他ならない。

 

 メモを取りたければ速乾性のあるボールペンの方が良いし、インダヴューならICレコーダーのスイッチを入れれば書き取りなどする必要もないからだ。原稿だって、原稿用紙に手書きなどという時代でもない――いや、時代“だった”というべきか。

一刀もそれは知っていたし、だから、インク漏れが無いようにとインクは全て抜いてある事も、当然ながら一刀は知っていた。『使い物にならない筈の万年筆で遺書を書け』、それは一刀が先程、送って来た合図が示す事柄が今、始まったのだという事に他ならない。

 

及川は、自分の命を救う最後のチャンス――自分の為に傷付く朋友を救う、最後のチャンスを取りこぼすまいと、全身全霊で姿の見えぬ一刀の声に耳を傾けていた。

「お前を捕まえてる鳥目野郎にも見える所にでもピンか何かで刺しておきゃ、武士の情けで元の世界に届けてくれるかも知れんぜ?ほれ、“清水の舞台から飛び降りる”って、よく言うだろ?」

 

青龍王は、朦朧とした口調で見当違いの諺を引用し、面白くもなさそうに笑った。及川は、ポケットの中で左手のみを使い、万年筆の蓋を慎重に外しながら、朋友の言葉を口に出さずに何度も何度も反芻する。

すると不意に、身体が張り付けにされたかの様な感覚に陥り、畢方が朋友を強襲せんと、攻撃態勢に移った事が分かる。及川はポケットの中の万年筆を握り締め、北郷一刀がこの一撃を耐え凌いでくれる事を、必死に願った――。

 

 

 

 

 

 

「あ……落ちて来る……」

 呂布こと恋は、すっかり静かになった都の戦場に佇みながら、手で(ひさし)作って眺めていた黒雲から目を逸らさずに、そう呟いた。

「落ちて来るって……」

 

 

全身を泥だらけにしながら、恋の隣で槍に寄り掛っていた馬謖こと智堯(ちぎょう)が、不思議そうに恋に問い掛ける。

「だいじょうぶ。ここは……危なく……ないから……」

恋は、尚も視線を逸らさずにそれだけ言うと、スタスタと歩き出した。

 

「あ、あの、恋様!?」

智堯と共に休んでいた王平こと恭歌(きょうか)が、突然、歩き出した恋の背中に慌てて声を掛けるものの、飛将軍は振り返りもせずに歩を進めるばかりである。彼女の眼差しは、黒雲を突き破って地面に一直線に落下してくる浅緑(ライト・グリーン)の魔人に注がれていた。

 

 

 

 

 

 

「こ・な・く・そぉぉぉぉ!!」

 青龍王は、地面の僅か数メートル上空でバーニアを再点火し、両腕の電磁波が生み出す浮力を最大にまで開放した。落下のスピードは見る見る内に相殺され、砂埃を激しく巻き上げて、魔人を中空に静止させる。

 一瞬の後、魔人は地面に着地して、危うく折れそうになる膝を、気力で何とか立て直した。

 

「必殺、竜鳥飛び……なんつって。アニメほど上手くは出来ねぇな、やっぱり」

 青龍王のやった事は、事実、某ロボットアニメの主人公と全く同じだった。畢方の攻撃と同時にバーニアも電磁波も停止させ、衝撃に抗う事なく、風に煽られる枯れ葉の様に身を任せたのである。

 流石に強烈な蹴りだったが、食らったのが隔てる物も受け止める物もない空中だったお陰で、最小限のダメージで戦線を離脱する事が出来たというわけだった。

 

「おかえり、ご主人様……」

「おぉ、恋か。ただいま。ま、またすぐに出掛けなきゃいけないんだけどさ」

 青龍王は、仮面の中で僅かに微笑み、自分に近づいて来た紅蓮の髪の少女を見遣った。

「……勝てそう……?」

 

「勝つさ。細工は読めたからな。後は……恋」

「……なに?」

「もう少ししたら、俺の友達が落っこちて来るからさ。そいつの事、拾ってくれないか?」

「……ご主人様の、ともだち……」

 

 

「あぁ。友達だ」

「……いいよ……」

 恋は、さして考える風でもなくそう言うと、青龍王と共に、再び黒雲に視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 及川祐は、油断をすると直ぐに上がりそうになる息を必死で整え、タイミングを計っていた。三十余年の人生で、これ程までに緊張した事など無い。もしもあるとすれば、それは、今は亡き母の子宮から乾坤一擲、世界に向かって飛び出そうとした瞬間ではないか、などという考えが頭の隅を過ったが、無論、その時の事など、一片も記憶になかった。

 

「マサカ、逃ゲルトハナ。大層ナ友人デハナイカ?」

 畢方は、呆れとも侮蔑とも着かぬ、いや、その両方を含んだ口調で及川にそう問い掛けると、視線を青龍王が落下していった方へと向けた。どの道、決着を着けるには、魔人はこの空間に戻って来ざるを得ないのだ。

「(こんな事なら、毎日ちゃんと線香上げとくんだった……頼むぜ、親父……)」

 

 及川は、頭の右上に感じる畢方の顔の位置を出来るだけ正確に見当を付けると、出来うる限り身を捩って、渾身の力で畢方の目に、父の形見の万年筆を突き刺した。

「(外れた!?)」

 一瞬、自分の中の最もナーバスな部分がそう叫んだが、心配は杞憂だった。万年筆のペン先は、鳥人の唯一露出している柔らかい粘膜部分――眼球を正確に捉え、全体の三分の二ほどをめり込ませていた。

 

 瞬間、実に鳥らしい鳴き声じみた絶叫を上げた畢方の腕の力が、僅かに弛んだ。反射的に、刺された眼球と同じ側の手――及川を抱えている右手で、顔を覆おうとしたからだった。

 及川はその隙を見逃さず、膝を曲げて畢方の太腿辺りに靴底を当てがうと、水泳選手がターンする時の要領で、思い切り膝を伸ばした。束縛が外れる。

 

 及川は、漸く物理の法則に従って猛スピードで自然落下を始めるに至った。空気が目から水分を奪い、頬と衣服をガレオン船のマスト宜しく強烈に煽っているのを感じながら、「(これで合ってるんだよな……?)」と自問する。

 自分が、北郷一刀の意図を読み違えていたならば、数十秒の後に自分を待っているのは、水風船のように臓物を地面にぶちまけた、惨たらしい死の筈だからだ。だが、まぁ――。

 

 

「(きっと、バケモンの餌になるよりは、なんぼかマシさ……多分……)」

 及川は内心でそう言って、込み上げて来る狂気じみた嗤いと落ちて行く感覚に、全てを委ねた――。

 

 

 

 

 

 

「――来た!!」

 青龍王はそう叫ぶと、力を振り絞って跳躍し、電磁波とバーニアで空高く舞い上がった。その姿を認めた及川が、ニヤリと笑って見せる。あまりに多くの事があり過ぎて、もう恐怖は品切れになったのかも知れない。

「合ってたろ!」

 

「上出来だ!」

 以前、扱った事件で、及川が人質に取られ、間一髪の所で助かったという事があった。それ以降、二人の間で密かに幾つかの“合図”が作られ、有事の際には互いの意思を知らせる為に使おう、と決めてあったのである。

 “胸を掻く”のは、『敵の気を逸らして隙を作る。機を見て逃げろ』だった。そして、“万年筆”“鳥”、“目”、“刺す”、“清水の舞台から飛び降りる”。これが、一刀が及川に伝えた、『協力して隙を作る』為のキーワードだったのである。

 

「いよっし!!――って、あれ?」

 友人が迎えに来てくれたのだと思った及川が、大きく手を広げて待っていると(正直、この瞬間だけは、自由落下を楽しみすらしていた)、派手な鎧兜を纏った当の友人は、その横を、僅かにスピードを緩める事すらせずに通り過ぎ、一直線に黒雲の中へと突っ込んで行った。

 

「うそぉん……」

 及川は、乾いた笑顔を張り着かせたまま、ぐんぐんと近づいて来る地面を、ただ見詰める事しか出来なかった。

「一刀ぉぉ!この、薄情者ぉぉぉぉぉ!!」

 無論、友人への怨嗟の念をはっきりと口にする事だけは忘れなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 畢方の絶叫も今は止み、黒雲の中は静寂に包まれていた。青龍王は迷わない。折角、及川が残した“パン屑”を、ヘンゼルとグレーテル宜しく鳥が食べてしまう前に、王手を掛ける心算だったからだ。

「“そこ”だぁぁぁぁ!!」

 エンストを起こしそうになるバーニアを叱咤し、電磁波の渦を荒ぶらせて、青龍王は暗雲の中を天駆ける。速度は緩めない。細工は流々、“空飛ぶ虎さんの猛獣ショー”の時間は、もう終わりだ。

 

「ナ――!!?」

 驚愕に見開かれる、今や隻眼となった畢方の目。青龍王は、その一瞬の隙を利用して、視界の潰れた右側へと回り込んで背後を取ると、電磁波を解除して、畢方の両の翼の翼を引っ掴んだ。次いで素早く膝を折り、両脛の刃を、翼の音元へと宛がう様に押し付ける。

 

「雲は龍の棲みかだぞ。鳥ふぜいが調子に乗って、何時までも主面(あるじづら)してるんじゃあ――ねぇッ!!」

 青龍王がそう言って両腕に力を込めると、骨の砕ける音と共に再び畢方の絶叫が響き渡り、泥の血飛沫が舞った。青龍王の両手には、臑の刃で骨ごと切断された畢方の青い胃翼が、手旗の如く握り締められている。

 

 青龍王は、事も無げに巨大な翼を投げ捨て、脾肉で挟むように固定していた畢方の胴を離すと、両腕に電磁波を発生させるのと同時に、全力で地面へ向かって蹴り抜いた。爆発的な脚力で背中を蹴られた畢方は、声を上げる間もない程の速度で地表へと落下して行く。

 すると、まるで元から存在しなかったかの様に、黒雲が綺麗さっぱりと消失した。青龍王は、その時には既にバーニアと電磁波を止め、“賢者の石”から供給された膨大な量の氣を、両腕で電流へと変換し終わっていた。雑魚を掃討するだけなら、落下しながらの一秒か二秒があれば十分だった。

 

「青龍・雷電掌覇(らいでんしょうは)ッッ!!」

 言霊と共に、龍王の両腕から無数の稲妻が一斉に解き放たれた。不規則に空を奔っているかに思えたそれはしかし、一筋一筋が意志を持つが如く正確に、都の上空を舞っていたアンズーに悉く直撃して、轟音で魔鳥の悲鳴を掻き消しながら、一瞬で蒸発させる。

 一瞬の後、都の空は、まるで魔性の存在など初めから知らぬかの様に、静かに何処までも続く蒼を湛えていた。眼下に広がる街の守護者たる、魔人の姿一つを残して――。

 

 

 

 

 

 

 

「……後退。ご主人様の邪魔しちゃ……だめ。兵を下がらせながら、恋たちも、ここを離れる……」

「し、しかし……!!」

 紅蓮の戦神の意外な言葉に、智業は『北郷様の援護を』と、思わず異を唱えそうになってから、慌てて口籠った。だが、比類なき武の象徴とまで謳われる美しき戦神の目は、ちらりとも智堯に向けられる事はない。新たに地面に穿たれたクレーターの中心を、静かに見詰めるばかりだ。

 

 鋭く、深く。そこには先程まで、『ご主人様のともだち……地面に落ちてから拾うか、落ちる前に拾うか、訊くの忘れた……』などと不穏な事を呟きながら、茫洋とした光を湛えていた少女の目はどこにも存在していなかった。

「近づいたら、危ない……恋達じゃ、“消えちゃう”から……。後は、ご主人様に……任せる……」

 

 恋は、智堯の返事を待つ事もなく、棒切れの様に軽々と肩に担いでいた及川祐の身体を僅かに揺らして担ぎ直し(一応、言及しておくが、恋はちゃんと、及川が地面に落ちる前に受け止めていた)、クレーターに背を向けて歩き出した。決して急いでいる様には見えないのに、その姿はあっと言う間に小さくなって行く。

「ねぇ。ちーちゃん……」

 

「あぁ、分かってるさ」

 智堯は、一人残って心配そうに自分に声を掛けて来た恭歌の言葉にそう答えて、もう一度クレーターの中央を一瞥してから、恋の背中を目指して足を踏み出した。蜀漢が誇る五虎大将の内、同時に三人を相手にしてすら一歩も引かなかったと伝え聞く三国最強の武人をして、『近づくと危ない』と言わしめる怪物の事を考え、全身が総毛立つのを感じながら。

 

 次の瞬間、走り出した智堯と恭歌の背後で雷鳴が轟き、蒼穹を刹那の間、稲妻が蹂躙した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 都の地面に穿たれた巨大なクレーターの中心が俄かに盛り上がり、鉤爪を有した鳥の肌を持つ手が天高く突き出されたのと同時に、薄緑の魔人がふわりと地面に着地した。

「“どうして霧の中で自分の姿が視えたのか”――お前は今、そう考えてるんだろ?」

 突き出した手を軸にして自分の身体を地中から引き上げ、喘ぎながら立ち上がった鳥人に、青龍王は声を掛けた。鳥人は、敵意に満ちた隻眼を青龍王に向け、それでも答えを待っているかの様に沈黙を守りながら、息を整えて身体を起こす。

 

「これが、手品の“タネ”さ」

 青龍王はそう言って、右手の人差指を畢方に突き付ける様にして翳す。すると、指先から放たれた細い紫電の糸が空中を走って、畢方の右目に突き刺さったままだった及川祐の万年筆に引き寄せられるように吸い付いた。

 

「これ位の電流なら、電磁波を発生させながらでも使えるからな――俺は、あの霧の中だろうと、お前の身体に向かって続いてる“パン屑”を辿って行くだけで良かったってわけさ。痛みで、この程度の電気の刺激なんかには気付きもしなかったろ?」

「オ、オノレェェェェ!!」

 

 畢方は、万年筆を乱暴に引き抜くと、青龍王に敵意を漲らせた視線を向けつつ、再び嘴から黒い霧を吐き出し始める――が。

「まぁ――もう遅いんだけどね」

 その言葉を残して、青龍王の姿が消失する。畢方は、その事象すら認識する間もなく身体を“くの字”に曲げ、大きく後方に吹き飛ばされた。

 

 畢方が立っていた筈の場所には、右脚を突き出した姿の青龍王が、忽然と現れている。真・青龍之臑当(せいりゅうのすねあて)に集約された稲妻の力で、超高速で畢方に肉薄したのである。

 青龍王は、瓦礫の中から立ち上がろうとする畢方に再び一瞬の内に近づくと、両手で嘴の両脇に垂れさがっている禍々しい赤色の頬袋を掴み、片足を畢方の鳩尾(みぞおち)辺りに押し付けて、力の限りに引っ張り上げた。

 

 

 翼を引き千切った時とはまた違った不気味な音と、頬袋から糸を引く黒い泥の血、そして畢方の絶叫。

 全てが終わった時には、青龍王は畢方の身体から完全に切り離された頬袋を両手に握り締めていた。

「ふん。これで、頼みの霧も作れまい……!!」

 青龍王は、苦し紛れに振りまわされた鉤爪を交わしつつ、畢方の“こめかみ”と思しき辺りを狙って、回し蹴りを叩き込む。またも遥か数百メートル先まで吹き飛ばされた畢方を見遣りながら、頬袋を投げ捨てて掌を合わせ、氣と電流を高速で練り、凝縮する。

 

「破ッ!!」

 開かれた掌から放たれた巨大な電気の球体が空中を高速で駆けながら五つに分かれ、それぞれを点として、畢方の周りで正四角錐の力場を作り出す。出現した電子のピラミッド―青龍電磁獄―は、瞬きの間に畢方の身体の水分を振動させ始め、内側から地獄の業火で畢方を煽り苛む。

 

「ま・だ・ま・だぁ!!」

 青龍王の叫びと共に、背部のバーニアが一際、明るく光を放ち、青龍王を空押し上げた。

天空――この時代、そこは鳥と神仙と神代の生物達しか知る事を許されぬ、人界に最も近しい秘境。そして、千の獣の王たる、龍の玉座。

 

 玉座の本来の主たる龍の王は、今、その身を己が(いかずち)の熱で赤く紅く燃やしながら、不遜にもその座を簒奪せんと画策した醜悪な怪鳥を睥睨していた。

「奥義――龍王・電光雷鳴崩しィィッ!」

 言霊と共に更なる光を発した“賢者の石”から、青龍王の左脚へと途方もない量の氣が注ぎこまれ、身体に纏った雷の熱すらも、吸い込む様に収束していく。多くの者に取って、怒りの稲妻を纏った龍の姿は、流れ星程度にしか視認する事が出来なかった。

バーニアの逆噴射を用い、光の尾を曳きながら超高速で電子のピラミッドへと急降下する青龍王の姿をはっきりと見る事が出来たのは、都でもごく僅かな、超人的な反射神経を持つ人々だけでしかなかったのだ。

 

だが、目に見えようと見えまいと、龍の牙は電子の檻を噛み砕き、怪鳥の身体を真っ二つに両断して尚、都に三つめの巨大なクレーターを穿っていた。漸く音が龍に“追い付いた”頃には、既に全ては終わっていたのである。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ――窮奇様ァァァァ!!!!」

 

 肺に残った最後の空気を使って、己が主の名を叫んだ畢方が飲み込まれた爆発を背に、満身創痍の青龍の身体は、ゆっくりと黄金へと戻っていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。ご主人様」

「あぁ、ただいま。恋」

 恋が皇龍王に戻った一刀を迎え、一刀がそれに応えて恋の頭を優しく撫でつける様子を見ながら、地面にへたり込んでいた及川祐は、何とも怪訝な声を出した。

「“ご主人様”だぁ?」

 

「うっせ!こっちはこっちで、色々と事情があるんだよ!」

 至極客観的に意見を述べるならば、この場合、及川の方が明らかに正しい反応である。なにせ、そもそもからして、日本の二千年近い歴史の中でナチュラルに『ご主人様』などと大層な二人称で呼ばれた事のある人物が(メイド喫茶の客を除けば)、果たしてどれだけ居たろうか、というレベルの話なのだ。

 

「で、怪我は?」

「あ~、特になさそうだ。しいて言うなら、散々ぱら空を振り回されたせいで気持ち悪いのと、気圧のアレで耳鳴りがしてる程度かな――あと、五滴くらいチビった。主に、つか100%お前のせいで」

 及川は座り込んだまま、黄金の魔人の問いに恨めしそうにそう答えて、胸の内ポケットからMEVIUSスーパーライトのロングBOXを取り出し、100円ライターを擦って火を点けた。

 

「命の恩人に対して、それだけ憎まれ口が叩けりゃ、当面は大丈夫そうだな。少し休んだら、その娘――呂布に、邪魔にならない所に連れて行ってもらえ」

「呂布ぅ?いや、それより、今、お前は、れ――」

「ストップ!」

 

 皇龍王は、素早く掌を及川に突き付けるようにして制すると、恋の握った方天画戟の刃がゆったりと地面の近くに向かって下げられたままでいる事を確かめ、密かに胸を撫で下ろした。とは言え、相手は天下無双の呂奉先である。

如何な皇龍王となった一刀といえど、本気で放たれた初太刀を途中で止められる自信など、これっぽっちもなかった。ともあれ皇龍王は、改めて恋の方へと顔を向けた。

 

 

「恋。こいつは俺の世界から来たばっかりで、何にも分からないんだ。華琳の所に連れて行って、『一刀がこいつに真名の事を教えて欲しいと言ってた』と伝えてくれないか?華琳なら、俺の時で慣れてると思うから」

「救助は……?」

「俺がこのまま、陣頭指揮を執る。補佐に、ねねを貸してくれるか?」

 

「うん……恋は?」

「恋と呂布隊の皆は、もう十分に頑張ってくれたから、このまま撤収して小休止に入ってくれ。そっちは高順――誠心(せいしん)に任せて、恋はこいつの方を優先して欲しい。うっかり誰かの真名を呼んじまって、折角、繋がったままで助けた首と胴を真っ二つにされたんじゃ、目も当てられん」

 

「本人を前にして、なんか物騒だな、おい」

 及川が、こめかみをピクピクと痙攣させながら不安そうに呟くと、皇龍王は肩を竦ませた。

「この程度で物騒だと思ってるならな、及川――お前、“物騒”の定義を少しばかり修正する事になると思うぞ。ある意味じゃ、二足歩行で空飛んで喋る虎モドキなんか可愛く思えるような連中が、アホほど居るからな」

 

「マジで?」

「マジで。だから、暫くは大人しくして、お利口さんに口を閉じてろよ」

 皇龍王はそう言って歩き出すと、ふと足を止めて振り返り、及川に人差し指を突き付けた。

「あと、ポイ捨てはするな」

 

「わ~ってるよ。俺はマナーを守る大人だぞ!」

「ブン屋がそんな言って、信頼されるとでも?」

「ですよね~」

 及川は、きっと仮面の中で微笑んでいるであろう友人に手を振って送り出すと、先程から自分を見詰めていたらしい恋に気不味(きまず)そうな微笑みを返しながら指を弾いて灰を落とし、街頭で配っていた携帯灰皿が何処かに入っていた筈だと思い付いて、自分の身体をまさぐり出すのだった。

 

「北郷様!」

 皇龍王が、要救助者は居ないかと龍王千里鏡を起動させようとした時、横から声が掛る。振り向くと、呂布隊の本隊が集合していた場所から、智堯と恭歌が駆けて来るのが見えた。

「おう、二人とも。あっちは、もう良いのか?」

 

 

「はい。戦時特例で指揮下に加えて頂いた高順様より、点呼も済んだので北郷様の元へ還り、指示を仰ぐようにと仰せつかりました」

「そうか、大義だったな。なら、お前達も呂布隊と一緒に撤収して、小休止に入って良いぞ。俺は音々音と救助隊が来るまでの間、優先順位の高そうな要救助者を探して救助を始めておくから」

 

「でも――」

 恭歌が尚も言い募ろうとすると、皇龍王はそれを制する様に再び口を開いた。

「やる事やったら、きっちり休む。それも、将の仕事だ。将が何時までもウロウロしてたら、兵達も休めないんだからな」

 

「ですが、北郷様。我等は未だ、防衛戦後の事後処理や救助活動などを経験しておりません。後学の為――と言うのは語弊があるかも知れませんが、今後の有事に備え、是非とも現場を経験させて頂きたく!」

「まぁ、それも一理あるが……」

 皇龍王は、握り拳を顎に当てて逡巡すると、ゆっくりと頷いた。

 

「良いだろう。なら智堯、少し早いが、お前は魏延隊に合流し、焔耶の指示に従え――お前の働きには個人的に感謝するが、今の時期、これ以上目立つのは避けた方が良い……分かるな?」

「……御意に」

「なに、心配せずとも、焔耶なら存分にコキ使ってくれるさ」

 

 僅かに口惜しそうにしている智堯の肩に手を置いてそう言った皇龍王は、恭歌の方を見遣る。

「恭歌は、呂布隊が撤収を開始するまでは一緒に待機。ねねが来るのを待って、誠心に引き継ぎをしてもらった後に、ねねの指揮下に入れ」

「はっ!」

 皇龍王は、勢い良く一礼して駆け出して征く二人の背中を眩しそうに眺めながら、気合を入れ直す様に深呼吸を一つして、崩壊した多くの民家に首を巡らせ、龍王千里鏡を起動させた。

 

 

 

十一

 

 

 

 三国の軍師陣と華琳が対策本部を設置し、華陀に要請して緊急治療所を用意してくれていたお陰で、救助活動は思いの外、捗って、真夜中を回る頃には、取り合えず救助活動の方には一段落が付いた。死傷者が百人に満たぬ数で済んだのも、奇襲を受けた末の、しかも市街地に於ける防衛戦の結果としては、ほぼ完璧な出来と言える。

 

 

個人の主観はどうあれ、一度、戦場と化したとなれば、どれ程の有能な将や軍勢を以ってしても、一人の死人も出さぬという訳にはいかないのだから。しかし、だ。

 どれほど割り切った心算であろうと、主観を完全に排する事など出来はしない。

『助けた人数なんか覚えてない。だが、助けられなかった人数は覚えてる』

湾岸警備隊をモチーフとした映画で、ヴェテラン潜水士に扮したケビン・コスナーが、アシュトン・カッチャー演じる自信家の若き見習い潜水士に言った台詞だったと、一刀は記憶している。その台詞が完全なる脚本家の閃きの賜物なのか、それとも取材によってもたらされた、本当の潜水士の意見なのかは分からない。

 

 だが、共感は出来た。痛い程に。

凱旋パレードなどで自分に向かって喝采を送る人々の顔を思い出そうとすると何時もぼやけているのに、自分が直接、手に掛けた敵の兵士や、力及ばず最後を見取る事になった人々の最後の顔は、こびり付いた泥や、血の滴に至るまで、鮮明に思い出せる。一刀が、蝋燭の灯りに照らされた自分の掌を見詰めながら、握ったり開いたりをぼんやりと繰り返していると、寝台に横たわっていた旧友が僅かに身じろぎをして、小さな呻き声を上げながら、薄っすらと目を開いた。

 

「よう」

「……んぁ……一刀か……って事は、アレは夢じゃなかったんだな」

「あぁ――ほれ」

 一刀が、むっくりと起き上がって伸びをする及川に何かを放り投げると、及川は反射的にそれをキャッチしてから繁々と眺め、僅かに微笑んだ。

 

「なんだ。わざわざ拾って来てくれたのか?」

「馬鹿言え。何で俺が、そんな事しなきゃならん。ついでだ、ついで」

「そうかいそいかい。そう言う事にしといてやるよ――サンキュな」

 及川は、ボリボリと頭を掻いてから煙草を取り出す一刀を面白そうに眺めながら、手の中の物体――父の形見の万年筆――に、再び目を落とした。

 

「少し……焦げちまった。親父さんの形見なのに、すまん」

「いや……」

 及川は、一刀の指摘した焦げ目を指でなぞりながら首を振った。

「上手く言えないけどさ……これで漸く、こいつが“親父の遺品”じゃなくて、“俺の持ち物”になった気がする。息子の命を救えたんだ。親父も、まさか怒りゃしないだろ」

 

 

「うわ、なんか殊勝な事言ったよ。お前、明日あたり死ぬの?」

「引っ叩くぞ、この野郎」

  二人は、同時にくつくつと笑い合い、呼吸を整える。

「んで、何で俺は寝てたんだっけ?」

 

 及川が、思い出したようにそう尋ねると、一刀は首を竦めた。

「華琳――曹操から真名の説明を受けた後、気が抜けて倒れたんだよ。んで、さっき俺が疲れ果てて帰って来た時には、殺意を覚えるくらい気持ち良さそうに、ぐっすりと寝てたってわけだ」

「お前、あの後ずっと救助とかしてのか?」

 

「色々あるって、言ったろ?」

「あぁ、そうだったな」

 ほんの少しの間、沈黙が降りた。

「飲むか?」

 

 一刀が、椅子の脚の傍に置いておいた大振りの酒瓶を掲げてそう言うと、及川はニヤリと笑った。

「寝起きの三十路男に、何て言い草だよ……飲むに決まってんだろ」

「だと思ってた」

 一刀は笑い返し、瑠璃の杯を二つ懐から取り出して、卓の上に置き、並々と酒を注いだ。寝台から足を降ろして起き上がった及川に片方を渡し、軽く掲げてからぐいと飲み干す。

 

 それに倣った及川は、思わず顔をしかめた。

「うへ。キッツいな、おい」

「最初はな。なに、酔えば酔うほど、甘く滑らかになって来る。何せ、本場、楊州――浙江省の黄酒だ。しかも、献上品の極上物だぞ」

「ふぉあんちゅう?確かそれって――」

 

「紹興酒だよ。これは、長期熟成の老酒(ラオチュウ)ってやつだ」

「あぁ……それならそうと、最初から言えよな」

「ったく、口が減らないな。良いから、飲め」

 一刀が苦笑を浮かべて酒瓶を傾けると、及川は黙って杯を差し出し、杯が満たされるに任せた。

 

「――卑弥呼……この世界を見守ってる精霊みたいな奴の話では、お前が連れて来られた詳細の調査が終わり次第、元の世界に帰れるそうだ」

「何か、またツッコみたい名前が出て来たな、おい」

 及川が酒を飲み干してそう言うと、一刀は酌をしながら苦笑した。

 

 

「深く考えるな……“そういうもんだ”と思って、そのまま受け入れろ。でないと、寝れなくなる。経験者の話は信じた方が良いぞ」

「左様で……つかさ、そんなに気軽に行ったり来たり出来るなら、お前もそうすりゃ良いじゃないか。巴ちゃん、会いたがってたぞ……親父さんとお袋さんも……その、お前のお爺さん、亡くなってさ。新盆の墓参りにも来ないし、連絡も取れないからって、流石に怪しみ出したみたいだ」

「……そうか。爺様、死んだか」

 

「あぁ。今の柱に、腰紐で身体を結わえつけてさ。胡坐かいたまま、亡くなってたって」

一刀は、僅かに望郷の想いを瞳に浮かべると、緩々と首を振った。

「あの人は、昔ながらの剣客気質だったからな。世界大戦で、大勢の戦友達が泥に塗れて死んでいったのに、自分だけ布団の上で死ねないって、酔っぱらった時にポツっと漏らした事があったから……しかし、本当にやるとはね。まったく、敵わなねぇなぁ」

 

 一刀は、自分の杯に注いだ酒を一回ししてから、軽くそれを掲げると、ぐいと一息に飲み干した。

「で、どうなんだよ。その……お前が、“こっち”と“あっち”、行き来できるのかって話だけど」

「まぁ、無理だろうな。俺の前の時も、今のお前も、例外中の例外なんだ。俺の時の話は込み入ってるから省くが、お前の場合は、この“外史”を存続させる為に選ばれた駒じゃない」

 

「駒って、お前……」

「一切の装飾を除いたら、まぁそう言う事なんだよ。どんな理由かは知らないが、俺は、この世界を成立させる為に選ばれた駒なんだ。でも、お前は違う。お前は、“外史の意思”とは無関係に連れて来られただけだからな。帰れるよ」

 

「そうか……」

 及川は、なんと言って良いのか分からなくなり、手酌で自分の杯を満たすと、乱暴に呷った。

「あ、ホントだ」

「ん?」

 

「段々、キツくなくなってきた」

「だろう?」

 驚いた様な顔の友人を見て、一刀は笑い、言葉を継いだ。訊きたい事は、話したい事は幾らもあるが、時間は無限ではない。そう、二人が出会ったばかりの――あの頃と同じでは、もうないのだ。

「親父とお袋、元気にしてるか?巴も」

 

「あぁ。親父さんとお袋さんに会ったのは、半年前が最後だけど、お元気そうだったぞ。巴ちゃんとは、こっちに来るほんの十分前にも会ってたよ。あの娘、半月に一辺くらいは俺の所に、お前から連絡ないかって、訊きに来るんだ」

「そうか……あいつ、俺がフランチェスカの寮に入る時も、大泣きしてさぁ。『巴もお兄ちゃんと行く~!!』って、大変だったんだぜ」

 

 

「嬉しそうにノロけやがって、シスコンが」

「ほっとけ。うちは両親とも忙しかったからな。子守りは俺の仕事だったし、そりゃ可愛いさ」

「ふふん。だが、それも長くは続かんかもな」

 及川は、意味あり気にそう言って笑い、訝しそうな表情の一刀を見遣った。

 

「巴ちゃん、彼氏できたってよ」

「はぁ!?アレに!?」

「アレってお前」

「いや、だって、あんなお転婆に惚れる男なんて居るのかよ……そりゃ、蓼喰う虫も何とやらとは言うけどさぁ」

 

 一刀が、自分の事を棚に上げて茫然とそう言い放つと、及川は尚も愉快そうに喉を鳴らした。

「まぁ、実の兄のお前からしたら、そんなもんかも知れないけどな。他人からみりゃ、かなりの“上玉”だぞ、巴ちゃんは。大学の学祭のミスコンでも、優勝したらしいし」

「優勝!アレが!?……日本は間違った方向へ向かってるぜ、絶対。俺のプラモコレクションを、二度に渡ってホロコーストの憂き目に合わせた様なヤツだぞ……」

 

「随分と昔の事を根に持ってんのな、お前……でもまぁ、喜べ。お袋さんの話じゃ、その彼氏、お前に少し似てるってよ」

「馬鹿言え、俺ほどの超絶色男が、そうそう居るわけないだろ」

「どの口が言うのか……いや、顔っつうか、雰囲気が似てるんだってよ。“ぽやっ”としてる所とか、抜けてる所とか」

 

「よし。表に出ろコノヤロウ」

「言ったの俺じゃねぇし。お前のお袋さんだし。つか、実の母親が言うんだから、お前がどんなに認めたくなくたって事実だろ。ちな、俺もそう思うぜ」

「むぅ……」

 

「最近のニュースだと、そうだな……あぁ、高校一年の最初の頃、お前がちょっと付き合ってた女子、居たじゃん。ナオちゃん」

 その瞬間、僅かに天井の板が鳴って、数粒の埃が落ちて来た。

「ん?なんだぁ?」

 

 

「あー、鼠だろ。気にすんな……ハハ……ハ……」

 敵は思春か明命か。いずれにせよ、時すでに遅し。今の今まで天井裏の気配に気付かなかった、己の不明を(なじ)るより他にあるまい。

「で、宮田がどうしたって?」

 

 及川の言うところの“ナオちゃん”の苗字を口にしながら、一刀は震える手で煙草に火を点けた。聴き耳を立てているのが思春でなく明命ならまだ良いし、報告先が雪蓮や小蓮なら尚のこと望ましい。

 が、往々にして、追い詰められた時の希望的観測ほど当てにならないものは無い。自分が希望的観測を働かせた段階で、天井裏に居るのは恐らく思春であろうし、思春が脇目も振らずに報告に走るとなれば、相手は蓮華に決まっている。

 

 更に付け加えるなら、女に知られた秘密は、もはや秘密たりえない。冬の山火事もかくやという勢いで、瞬きの間に他の人間の耳に広がるのだ。そんな確信めいた思考を隅に追い遣り、一刀は紫煙を吐き出した。

「来年、結婚だってさ。なんでも、自分の部署の五つも年下のエリート部長、捕まえたらしいぜ」

「上昇思考だったからな、あいつ」

 

 一刀は、どうか及川がこの話題をここで切り上げてはくれまいかと願ったが、当の本人は知らぬ顔で話を広げる心算らしい。

「へぇ、そうだったん?見た目、清楚で控え目な感じだったのに」

「あぁ。何か、コクられて付き合ったのに、一学期の成績発表の次の日には別れ話されたからな。しかも、俺が部活で全国行ったり成績上がり出したら、『やり直そう』とか言って来たし。まぁ、そんな気もなかったから断ったけど」

 

「お前、三年の頃なんて凄ぇモテてたもんな。隠れファンクラブとかあったし」

「マジか……知らんかったわ。忙しくて、恋愛とか興味なかったからな……」

「なはは!周りの男子全員で、お前には絶対その存在を気取られんようにガードしてたからな、悔しくて。剣道部の主将で全国優勝、その上、成績バツグン顔もまぁまぁとくりゃ、そりゃ女子は騒ぐって」

 

「知らぬは本人ばかり哉、か」

 一刀は、明日の夜は簀巻(すま)きで城壁に吊るされるのを覚悟して、そう答えた。今頃、さっさと屋根裏から出て呉の屋敷に向かっていてくれれば良いのだが、まぁ、十中八九、まだ屋根裏に居るだろう。

「いやぁ、あの当時は、俺も随分と儲けさせてもらったんだぜ。お前の生着替え写真とか、良い値段で売れたかんなぁ」

 

 

「は!?……あぁ、それで納得したわ。お前、やけに俺が部室で着替えてる時に限って、遊びに誘いに来てたもんな」

「一番の売れ筋はさ。袴履いたお前が、上の道着の袖だけ脱いで腰に垂らして汗拭いてるやつな。あれは凄かったぞ。ちょっとしたバイト代くらいは売れた」

 

「犯罪やないですか……」

「良いじゃんよ。だから、お前によくメシ奢ったったろ?」

「焼そばパンをメシと形容していいのならな」

「ふん。写メのデータでバラ撒かず、ちゃんとフィルムで撮ってやった事を善意と思えよな」

 

「そりゃ、お前が既得権益を守りたかっただけだろうが」

「そうとも言う!」

「威張んなよ……」

「まぁ、悪かったよマジで。もう時効って事で、勘弁してくれ」

 

 及川が、ケラケラと笑いなが両手を合わせて一刀を拝む仕草をすると、一刀も思わず苦笑して喉を鳴らした。この旧友が人の心にするりと入り込めてしまうのは、何故か憎めない、こう言った部分にあるからなのだろう。

「まったく……呑め、タコ」

 

「おぉ!もう、幾らでもイケちまうな、この酒!!」

「調子に乗ると、明日が酷いぞ」

「今日の昼間より酷い明日なんて、そうあって堪るかよ。細けぇ事は気にすんな!さ、ご返杯ご返杯♪」

「そうかもな」

 

 自分のものとは違う香りの紫煙と、懐かしい笑い声。それが、何時まで続いたのか。一刀が不意に降りた沈黙に気付いて顔を上げると、向かい合って座っていた及川は、こくりこくりと船を漕いでいた。

「本当に、しょうがない奴だよ、お前は」

 一刀はまたも苦笑を浮かべると、何やら言葉の体をなしていない何かを呟く及川の腕を自分の肩に掛けて立たせ、寝台に横たえて布団を被せてやった。

 

「……俺は、もう寝るぞ。お前も帰れよ」

 天井に向けて小さな声でそう言うと、一刀は静かに卓の上の杯と酒瓶を手に取って静かに扉を開け、外に出た。白みがかった空と冷やされた夜気が、酒で火照った肺と肌を心地良く撫でる。

 数時間後には、目を吊り上げた女性達に針の(むしろ)にされる運命かも知れない。が、古い友人に『おはよう』と声を掛ける事が出来る一日でもある。

 

 

それはまぁ、“良い一日”と形容して構わないだろう。孔子も言っているではないか。

『朋、遠方より来る、また楽しからずや』と。こんなに豊かな想いは、世界が狭くなり、ネットで何時でも遥か遠く暮らす友人の顔を見て話す事が出来る現代では、なかなか味わえないものの筈なのだから。

 例えそれが、もう一度、朋と永遠の別れをしなければならない事と同意義だったとしても。

 一刀は、柄にもなく感傷的になっている己を自嘲しながら、もう少し酒が呑みたくなって、自室に向かっていた足を返し、厨房へと歩き出した――。

 

 

 

                           あとがき

 

 はい、今回のお話、如何だったでしょうか?

 また随分と期間が空いてしまいましたが、その分、長めにしたつもりですので、ご容赦頂ければと……(汗)

 今回は、なんと言いますか、一刀と及川の間に流れる、男同士にしか分からない何かを書きたくて、こんな感じにしました。私の中で、男同士の相互理解のようなものを書きたいというのは、もの凄く願望としてありまして。

 

 随分前に読んだ、敬愛するルポライターの方のエッセイの一節で、こんなものがあったんです。

 『女性に取っての永遠の御伽噺が“白馬に乗った王子様”が迎えに来てくれる事であるならば、男に取っての永遠の御伽噺は“出会った瞬間に互いの全てを理解できてしまうような友人”と出会う事なのではないだろうか』と。

 

 その方は、レイモンド・チャンドラーの“長いお別れ”に登場するフィリップ・マーロウとテリー・レノックスの出会いの場面を引用していらっしゃいましたが、実に深く納得させられたものでした。

後半の一刀と及川の遣り取りなどは、恋姫たちとは出来ない様な、久し振りに会った男の友人同士の会話を考えながら、自分の同窓会の時はどうだったかとか思い出し、色々と練り直しました。

 

 実は一刀君には彼女が居た!と言うのは、これまた昔から妄想として昔から温めていたネタでした。一刀君は、どの勢力のどのヒロインからにゃんにゃんしても、ある程度は慣れてる感じでロストチェリー感がなかったので、『こいつ、初めてじゃねぇな……』とw

 まぁ、ゲームの性質上、そういうネタを入れられなかっただけなんでしょうけれどもw

 

 次回は、日常エピソードにするつもりなので、今回よりはもう少し早く投稿できるかな、と自分では考えていますが、あまり期待はしないでお待ち頂ければと思います(汗)

 さて、ここで朗報です。今現在、私の作品でキャラクターイラストを描いて頂いているabaus様が、なんと、本編のエピソードの劇中イメージイラストと、オリジナルヒロインも描いて下さる事が決定いたしました!

 

 第一弾は、恋と音々音メインの第三話~五話のシーンの中からのイラストと、費偉こと聳孤(しょうこ)ちゃんのどちらかになる予定です。どうぞお楽しみに!

 

 何時もの様に、お気に入り登録、コメント、支援ボタンクリック、応援メッセージなど、大変、励みになりますので、お気軽に頂ければと思います。

 では、また次回、お会いしましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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