No.667368

赤花咲いた黒鳥は

瑜月ゆりさん

タイトル適当…
雨梨好きすぎてこうなった。フォロワー様の呟きからむくむくと膨らんでこうなりましたー。ツイッターじゃ収まらないのでここへw
視点がころころ変わります。読みづらくてごめんなさい。

登場するここのつ者

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2014-03-02 13:37:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:450   閲覧ユーザー数:390

本日の買い出し当番…雨合鶏、金烏梨

 

ということで二人で市場へ買い物に行くことになった。あみだくじには逆らえない。

隣で歩く雨合はまだブツブツと文句を呟いている。俺、この前も行った気がするなぁ。気のせいだろ、と諭す。

 

泊まっている空家から市場は少し遠くて。文句を言うのもわからなくもない。私だって読みかけの本があるのだ。早く済ませて帰りたい。

 

取り留めのない世間話をしているとあっという間に市場に着いた。言われたものをひょいひょいと買う。酷い人混みだ。危うくはぐれそうになって、離れていく雨合さんの背中を追おうとして何かにぶつかった。

振り向くと梨より頭一つ分ぐらい大きい男が立っていた。ぎろり、とこちらを睨んでくるので即座に詫びる。しばらく梨の顔を見つめて、舌打ちして去っていった。人相の悪い男だった。人混みの中男の背は目立っていた。

 

やな奴だな、まあぶつかったのは私だからしょうがないか。特に気にも留めずに、雨合さんの背中を引き続き探した。が。

 

「…あれ?」

これ、はぐれたんじゃないか?どこを見渡してもいない。というか周りの人の背が高くて見えない。参ったなこりゃ…

 

とにかくこのまま人混みにいると気分が悪くなりそうなので、抜けることに専念した。入ってきた所で待っていればいいだろう。

ようやく人がまばらになってきたところで、梨は肩を回した。久々の人混みだ。押されたり足を踏まれたり、これだから嫌なんだ。体のあちこちが痛い。

 

首を回してる時に、背後から殺気とまではいかないが嫌な空気が辺りを支配していることに気が付いた。とてもこのように賑やかな場には似つかわしくない、嫌な雰囲気だ。

振り向くと、梨の予想は大当たり。ひい、ふう、みい…数えんのも面倒だけど、およそ7人か?怖い人相をした兄ちゃんがぞろぞろと。その中には見覚えのある顔もあった。

 

「あん時の…おっちゃん。」

 

指をさすとにやりと笑った。歯が何本かなくなっている。職業って顔に出んのかな、と思った。

何か用ですか、と尋ねると何やらぎゃーぎゃーと雑魚がわめきたてる。言うことにはさっき肩をぶつけた奴がこいつらの頭で、ぶつかったことを根に持っているらしい。

ついでに言うと肩だけじゃなくて足も踏まれたとか。知らんがな、大の男がそんなことでみっともない。

更に言うことには、慰謝料として刀を寄こせと。高く売れるぜ、と頭と名乗る男は下衆な笑みを浮かべる。愛刀の価値を見抜く審美眼だけは褒めてやろう。

 

こいつらの暇つぶしに付き合うのもなぁ、とため息を吐く。しかもこいつらは盗賊らしい。だっせぇ名前だ。自分から名乗るなんて、やっぱりこいつら。

 

「「馬鹿だろ。」」

あ、と思って横を見たら雨合が立っていた。

「おもしろそーなことやってんな、嬢ちゃん。」買ったものをどかり、と地面に下ろす。

雨合に事のあらましを話す。へーと頷いたあと、面白そうににやりと笑った。

あー関節ばきばきと鳴らしちゃって。やる気満々じゃないか。

 

「せっかくだから遊んで帰ろうぜ。」

 

「でもこいつら盗賊とか名乗ってるし。恨み買うと後々面倒くさそう。」

 

「んなの、恨みもてねぇぐらいに痛めつけりゃいい話じゃねぇか。」

 

…おっさん同士の暇つぶしに付きあわにゃいけないのか。がくり。梨は肩を落とした。

 

 

意外にちょっと手強かった。自ら名乗ったのは腕に自信があったからか。こいつらのために刀を抜くなんて、と思っていたけど当てが外れた。

多勢に無勢。でもこいつらは運が悪かった。人数なんて関係ないのだ、私たちに。

おおかた片付いた、か。後は同心を呼んで来れば報奨金も貰えて、ラッキーってとこかな。

 

さすがの人数の多さに梨は息が切れていた。額の汗を拭って隣をちらりと見ると雨合は全く息が乱れていない。まだまだ敵わないな、と自分の未熟さを実感する。

頭にぽん、と手が置かれて言われる。強くなったな、って。何よりの褒め言葉だ。思わず頬が緩む。

 

教えてもらったことが生かせて褒められるならこいつらに感謝しなくちゃな。そう思ってしまった。

 

早く帰ろうぜ。そう言われて、顔を上げた時だった。

 

ーそっからのことは一瞬だった。互いに油断していたのだと思う。笑いあうなんてことしてたから。まだ息がある雑魚に気が付かなかった。

それでも運が味方してくれた。だって、私が先に気づくことができたのだから。

 

彼の背後に襲い掛かる影に。

 

 

突然のことだ。何が起きたかわからない。

 

急に強い力で引っ張られて。後ろへ突き飛ばされた。何すんだ、って文句を言おうとして振り返る。

 

頬に飛び散る血しぶき。揺れる黒髪。ゆっくりと、どしゃり。血だまりに黒鳥が崩れ落ちる。

 

烏の羽をもぎとった男は震えていた。女を切ったことに動揺しているのか。構えからしてまだ刀を持ったばかりの新米か。

逃げようとする男に体が先に反応した。後頭部を掴み、地面に叩きつける。

 

許してくれ、そんな類のことを叫んでいた。

でも俺はそんなことお構いなしにただひたすら痛めつけた。梨が呻いて、俺の名を呼ぶまで。どうかしていた、あん時の俺は。

 

傷は酷いもんだった。ざっくりと肉が抉られて、傷口からとめどなく溢れる血。心臓が避けられていたことが幸いだ、なんて言っていられない。みるみる着物が赤黒く染まっていく。

呼びかけるとうっすらと目が開いた。

 

雨合さん、殺してないだろうなそいつ。殺したら捕まっちゃうよ。

どうしたんだよ、おい。何で泣くんだよ。大丈夫だよこんな傷、大したこと、ないから。

死にゃしないって大丈夫だよ。ちょっと胸のあたりが風通しがいい気がするけど、ね、大丈夫だから。

泣いてる暇あったら同心呼んで来いよ…

 

ぼそぼそと力なく開く口から紡がれる言葉。俺はどうやら泣いているらしい。

記憶が遡る。かつて似たような光景を見た。

 

自分は傭兵だった。日々血の雨が降る戦場。燃え盛る炎の中、泣き叫ぶ人々。家族、恋人、友人を抱きかかえていた。逃げることもしないで、どうして、どうしてと、逃げろと言っても命のない、ただの抜け殻となった肉体を離そうとしなかった。

 

さらに時は遡る。戦だった。倒れている妻と娘。もう息は無くて、でも抱きしめたらまだ温かかった。腕の中で徐々に冷えていくあの感触。どうすることもできない無力感。一生忘れられない。

あの時の蒼白な二人の顔が梨の姿に重なる。

 

辺りは騒がしくなっていた。事を見ていた野次馬共が同心を呼んできたらしい…。

 

 

「驚きましたよ、本当に。」

 

包帯を交換してくれた時に涼さんがその後にあったことを色々と教えてくれた。どうやら私は丸二日間、熱で寝こんでいたらしい。

 

慌ただしい同心を見て、胸騒ぎがして追ってきたら、騒ぎの中心に二人がいて、しかも血まみれなんですから。雨合さんは泣いて手がつけられないし。

 

「大変だったんですよ、雨合さん、梨さんが死んだんじゃないかって。」

 

治療しようとしても離れようとしないから困りましたよ。気絶しただけなのにな、と梨は笑う。

正直あの時のことはあまり覚えていない。ああ痛いなって思って、気が付いたら地面がやけに近くて。

切られたという自覚はあまりなかった。痛みより雨合さんが心配だった。

 

あんなにぼろぼろ泣く男、初めて見た。泣かせてるのは私だから、どうにか泣き止んでもらおうと思ったのだ。慰めても逆効果だった気がするが。

…あの時の雨合の目は梨を見ていなかった。…多分、奥さんと娘さんを自分に重ねていたのだろう。馬鹿な男だよ、勝手に決めて。私はまだ死んでないのに。

 

くらくらする、と言うと顔が真っ青ですよと慌てて布団に戻された。大分血を失ったらしい。なるほど、通りで。

お腹空いてませんか、と尋ねられたが食欲はまるでなかったので薬草茶だけ頂いた。けど、胃が受け付けてくれなくて吐いてしまった。しばらく食事がとれないことを嘆く。

 

酷い眠気に襲われたので寝る、と告げた。眠りに落ちる前に涼さんに雨合さんへ伝言を頼んだ。

 

 

「あまり気に病むな、自分が勝手にやったことなのだから、だそうです。」

 

梨らしいと言えば梨らしい伝言だ。でもはっきり言って逆効果だ。雨合はため息を吐いた。

意識を取り戻したのなら、と立ち上がるが寝てますよ、と涼の言葉に諭される。具合がどうだと聞くと顔が真っ青で、食事もしばらくとれそうにない、と。

苺はしくしくと部屋の隅で泣いている。傍では入れ代わり立ち代わり色々な人に慰められている。

死んじゃったらどうしよう、死んじゃったら。そんなことを繰り返している。

 

そっと障子を開ける。静かに寝息だけが響いていた。音を立てない様に枕元に座る。

安らかな寝顔。涼が言っていた通り顔が青白かった。ほどかれた黒髪がそれをより一層際立たせている。

梨が少し呻く。傷が痛むのか。

 

あの時、俺が気づいていたら。引っ張られた腕の感触が未だに忘れられない。

少女の力とは思えなかった。どこにあんな力があったのか。この白く細い体のどこに。

 

あの瞬間を思い出すとまたこみあげてきた。また、失うところだった。包帯が巻かれた拳を見つめる。

梨が寝込んでいる間、何度この拳を打ち付けたか。

俺の手は何のためにある。昔、何度も詫びて、誓ったではないか。何のために強くなった。

悔しさと怒りで止まらなくなって何度も何度も叩きつけて。血が噴き出しても。骨が悲鳴を上げても。

何度も仲間に叱られた。

 

情けない。

 

「…か。」

 

思わず肩がびくりと跳ねた。寝言か?

 

「また泣いてんのか、おっさん。」

 

「おっ起きてたのか?」慌てて目元をこするが別に濡れていなかった。泣き顔を二度も見られたくなかった。

 

「んーまあ…夢を見たんだ。」

 

雨合さんがな、女の人を二人抱きかかえて泣いているんだ。どうしたんだって聞いたら妻と娘が、って。戦ってのは酷いもんだな。周りは死体だらけで、その上をずかずかと踏んでいく兵士たち。人の命って何なんだろうって思った

 

まあ、夢だから。ははっと笑う梨。

 

いててて、と起き上がる。寝てろ、と言うが起きていたいと言う。

 

「何か、すごいことになったよな。買い物帰りにあんなことになるなんて。あのバカな奴らはどうなった?」

 

「傷害の罪で…一人は殺害未遂で捕まったよ。報奨金貰えたぜ。ここら辺では有名な奴らでな、しょっちゅうあちらこちらにちょっかいを出していたらしい。」

「ははっそれはざまーみろだ。」

 

この私を傷つけたのだから、当然だな。髪をかき上げる。

 

「この体じゃあ、当分刀は持てないな。腕がなまるなー。また鍛えなおしだ。」

「それにしてもあの時の雨合さんの泣き顔は傑作だったぞ。いい年して何泣いてんだって笑いを堪えるの大変だった。」

「苺はどうしてる?しくしくと泣いてたら甘い物でも食べさせてやってくれ。糖分をとれば落ち着くはずだから…」

「あーしばらくご飯が食べれないのが残念だ。そうだ、読みかけの本があったんだ取って来てくれ」

 

にこやかに、寡黙な彼女にしてはよく喋って、だけど。

彼女の顔は青白くてこの世のものではないみたいで。空気に溶け込んでどこかへいなくなってしまうのではないか、そう思えて。強い衝動に駆られた。

 

腕をぐいと引き寄せるとあっさりと体は腕の中におさまった。軽くて、冷たい。傷が痛まないように腕に力を込めた。

 

力加減わきまえろ、と小さく呟く。悪い、と詫びる。

駄目か、と尋ねると別に、と答える。

しばらくこのままで、と言うとそうしたいならどうぞ、と抵抗はしない。正確には抵抗できないのかもしれないが。

寒いから丁度いい。そう言って笑う。

 

長い黒髪は触り心地がよかった。女性の髪なんて触るのはいつ以来だろう。

 

考えないようにしてきた。自分より一回り以上も離れている女の子。

物静かで、でも女にしては気が強くて、まっすぐに見据える黒い眼差しからは彼女の芯の強さが伺えた。

向こう見ずで命知らず。戦い方にもそれは表れていて、打ち合いをしていてたまにぞっとするぐらいだ。

こんな男のどこが気に入ったのか知らないがよく懐いてきて、俺も娘が生きていたら同じぐらいであろうと梨を可愛がった。

別の感情を感じても無視した。だってありえないだろう。こんなに年が離れているのに。

 

いつだったか鬼月に稽古中にからかわれたことがある。馬鹿野郎、と怒鳴ってそれでもからかってくるから追いかけまわしたっけか。あの時、冷静な様子だったが、梨の耳が赤かったのが妙に印象的だった…。

 

 

…実際、されるがままになっている自分に梨は驚いていた。男に身を預けるなんざ縁のないことだと思っていたのに。

正直、人に触れられるのは苦手だ。昔からそう。

腕を組まれたり、手を繋いだり、抱きしめられたり。触れ合った時の、肌がざわつく程の嫌悪感。潔癖症という類ではないのだと思う。

相手が苺でも未だにその感覚は拭えない。拒否こそしないがそれは苺だからであって、他人なら振り払うところだ。

多分、怖いのだ。人肌の温もり、触れ合った時に伝わってくる愛という感情。紙上でしか触れたことのない感情。冷たい自分の心にはないもの。受け入れる勇気がないから拒絶する。

私は、臆病だ。

 

だから他人との関わりを避けてきた。冷たい言葉で跳ね除けていれば誰も寄ってこない。自分に触れずに済む。拒絶して相手を傷つけるよりはマシだ。傷つくのは自分だけでいいから。

 

なのになぜ、今私はこの人に抱きしめられているのだろう。嫌だとか気持ち悪いとか、なぜそう思えないんだろう。

 

体が重い。血の足りない頭で思考を働かせたせいか、意識が朦朧とする。

そろそろ離れてくれと、言おうとして慌てて開きかけた口を閉じる。そっと雨合の顔を見上げる。何て顔をしてんだ。離れようにも離れられないじゃないか。

怪我人に気を遣わせて。後で覚えてろよ。そう心の中で悪態を吐いた。

顔が火照っているのはきっと、熱のせいだ。

 

 

…もうどれぐらい経っただろうか。勢いでこんなことになってしまったが離れようにも引っ込みがつかなくなってしまった。これ、誰かに見られたらヤバいよなぁ。

雨合は頭の中で何人かを危険人物として候補を挙げる。後でうるさいのだ、これが。

ふと腕の中を見ると梨がぐったりとしていることに気が付いた。寝ているのかと思い声をかけると返事がか細かった。額に手を当てるとじんわりと熱い。無理をさせてしまったのだろうか。

 

 

「あれ、そこで何をしているんですか?」

 

この声は鶯花だろうか。

 

「しっ!声が大きい!」

 

「そこ、りんのお部屋だよ?」

 

「丁度いい、一緒に見ませんか。今いいところで…」

 

これは鶸か?

 

障子越しにひそひそと声が聞こえる。なるほど、と状況を理解しようにも雨合の頭はそんなに早く動いてくれなかった。そうこうしているうちに、障子が開かれる。慌てて梨を引き離すが、遅かった。

気まずい沈黙が流れる。

 

「…雨合さん、何やってるんです?」と鶯花。

 

「…気持ちはわかりますけど、そういうことは治った後にしたらいかがです?」と鶸。いやいや、覗いてた奴が何しれっと言ってんだ。

 

「う、雨合さっ…梨ちゃんが怪我してるのをいいことに…何てことを…っ!」

朔夜ああああああ言い方ってもんがあるだろおおおお!その嘘っぽい演技やめろお前全部見てただろうが!

 

「ねえ、くーちゃんどうなってるの?」

「いやー俺にもよくわかんねえ。」

ああ…無垢な眼差しが痛い。いいんだ、そのままのお前らでいてくれ。

 

「…」(憐れむようにで鼻で笑う)

よし鬼月、お前は後で殺す。

 

 

「…なんだ、うるさい…騒がしいぞ…。」

ぐらりと梨の頭が揺れる。梨の只ならぬ様子に涼が慌てて駈け寄る。額に触れて、沈痛な面差しで告げる。

 

「熱、ぶり返してますよ…」涼の言葉に苺の顔色が変わる。

 

「りん死んじゃいやあああああああああ!!!」

「わわっ、苺ちゃん乗っかっちゃ駄目ですよ!」

「死なないでー!!!」

「死なない、死なないから…重い…あと…揺らすな…気分が…うっ」

「鶯花さん!桶と冷たい水を持ってきてください!黒犬さん、苺ちゃんを引きはがして!鶸さんはお医者様を、朔夜さんは私の手伝いをお願いします!」

 

はい、と涼の指示に皆がテキパキと動く中、雨合と鬼月だけ指示がなかった。

何をすればいいんだ、と尋ねる二人に涼はくるっと振り返った。

 

「…覗きの主犯は鬼月さんですよね?梨さんがこうなったことには雨合さん、あなたに原因があると思われます。この騒動の発端者として、後ほどじっくりと二人には話を伺いたいので、それまで外へ出ていてください。」

 

逃げちゃ、駄目ですよ?

 

後に二人は語る。あの時の涼の笑顔には地獄の鬼が宿っていた、と。

 

 

 

 

 

(あとがき)

…女の子に説教されるおじさんて何なんでしょうね。

多分覗きは鬼月さんから始まって鶸さんも便乗して、そっから何だ何だと集まった感じかと。

私も混ざりたい。

 

ここまで読んでくださった方に感謝です!

 

 


 
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