No.666926

真恋姫無双~年老いて萌将伝~ 始

始まりとかいっても不定期です。
思いついたら書いていこう的な。

2014-02-28 23:04:35 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:5940   閲覧ユーザー数:4194

 

「はぁ?勝負しろだぁ?」

 

宴を終えてすぐに発生した北郷争奪戦に勝ったのは凪であった。

立っている床を焦がし、一帯の気温を5度は上昇させたのではないかというほどの圧倒的な情熱と執念で、ジャンケン大会の優勝を物にした姿はおそらく新たな英雄譚として魏の歴史に刻まれるだろう。

そんな、出す手をすべてグーで勝ち抜いた一本気な凪とけだるい朝を迎え、その足で朝議の前に一仕事。

早番の警邏へと向かう北郷のことを待ち構えていたのは、二人の娘だった。

 

「そうだ!貴様とは一度決着をつけなければならん!」

「ごめんなさい、蒲公英はこんな朝早くからはやめろって止めたんだけど…」

 

何やら憤慨した様子で息巻く闇医者メッシュの女の子と、それをいかにも迷惑そうにたしなめる少し小柄なポニーテールの子。

大体の理由は北郷にもわかるのだが、それでも急にそんなことを言われ詰め寄られては面食らうというものだ。

 

「いや、まぁ全く理由がわからんわけでもないけどさ、なんでまた急に俺なんかと…」

 

極めてめんどくさいことをできるだけ隠して便宜上、聞いておかなければならないことを聞かないと。

だから、せっかくの同伴出勤を邪魔されたからといってそんな目で見ないでくれよ凪と心のなかで唱えながら北郷は猪のような勢いの女の子に聞いた。

 

「盗賊をとらえた、それはわかる。貴様が愛紗の話していた天の遣いだということは魏の連中の態度から信じられる。

 だが、貴様が本当にあの警邏仮面の中身だったというのが聞き捨てならん!

 桃香様の憧れだった男がこんなくたびれた、小賢しい手を使う男だとは信じられん!」

「あ、こら馬鹿焔耶!それはやばいって…!」

「…!貴様ぁ…!」

「はいはい、凪ちゃん、事実なんだから怒んない怒んない大丈夫だって。

 イマイチわっかんねぇけど、なんだ。要するにあんたはいろいろ納得いってないわけだ。

 そりゃいきなり『こいつが噂の御遣いでござい』って言われて信じられんってのはそうだろうけど、まぁ、なんだ。

 そっちの話の分かりそうな子、これ乗っからないととまんない感じだよね?」

「うん、まぁそうですけど…。」

「ったく、場所と時間を考えろってんだよ…わかった、わかったよ、やってやる。」

「ふん、臆して逃げ出すなどと、やはり貴様…え?」

「だからやってやるっつってんだよ。これから事あるごとに突っかかってこられたら敵わんからな。

 だが、いま、ここで、すぐに、でいいんだよな?」

「ふん!その意気込みだけはかってやろう。」

「確認するぞ。いいんだな?」

「よくなければこんな朝から来ない!」

「いいんだな。後悔すんなよ。変えてもいいんだぞ?」

「くどいぞ貴様!それとも怖気づいたのか!?」

「わかった。ほら、じゃあさっさと支度しろ、文字通り朝飯前に世の中の道理ってもんを叩き込んでくれる。」

「隊長!?今からやるのですか?」

「ん?ほれ、そっちの子はやる気満々じゃないか。」

「ふん、朝だからと私の動きが悪いと思ったら大間違いだからな!」

「だ、そうだ。大した自信だが、ここは俺の街。俺の家だ。

 あとで言い訳するなよ姉ちゃん。お前がやるといったんだからな。」

 

それに、大丈夫だよ凪、考えがあるから盛大に人を集めてくれ、と小声で伝え、北郷は木剣を片手に通りへ出て行った。

その表情に気づかずに意気揚々と応じる魏延。

まさか、それがあんなことになろうとは…。

朝議で、それは問題となった。

昨晩の話では今朝の朝議で同盟国の皆に、改めて北郷を紹介する手はずであった。

しかし、待てど暮らせどその北郷が来ない。

来ないのならばしょうがない、凪が一緒のはずだから朝議をすっぽかしはしないだろうと高をくくっていた華琳であったが、こうまで遅いと嫌な予感がしてくる。

まさか、また消えてしまったのではないか?

そう思った矢先に、大広間の入り口が勢い良く開き、北郷と凪が駆け込んできた。

やはり二人一緒だったか。どうせ昨晩は盛り上がったのだろう。

語りあえぬ日々の埋め合わせが理由とあっては叱るのも野暮というものだろうと、しかし示しをつけるという意味で小言の一つでも言ってその場を収め本来の進行に…と思った華琳の眼に飛び込んできたのは、いつもの白く輝く服をホコリまみれにし、その背に焔耶をおぶった北郷と、それを見て嬉しさ半分心配半分といった顔の凪と、妙に目を輝かせて北郷を見つめる蒲公英の姿だった。

 

「あなたたち、なにをしていたの…?」

 

そのあまりに意外な組み合わせについそんな言葉が口をつく。

 

「あぁ、遅れてしまって申し訳ない。ちょっとあってね。」

 

まったく状況がわかっていないといった会議の雰囲気などどこ吹く風と言わんばかりに、焔耶をおぶったまま北郷はツカツカと桃香の下へ向かっていく。

 

「たしか、この娘、君のところの子だよね。ちょっと気を失ってるだけだから、すぐに良くなるはずだよ。」

「あ、あの、すみません…ありがとうございます…?」

「いや、なに。お礼なんて言って貰う必要は全くないよ。なにせ…」

 

焔耶を背中から下し、北郷は先程の華琳の言葉に答えるように、大げさに、まるで芝居でも演じているかのようにその場の全員に向かって言葉を紡いだ。

 

「俺は今朝、国賓を私怨で絞め落としたんだからね。」

 

そう言われてしまっては、彼を部下として皆に紹介しようとしていた華琳としては、どうしたって罰せざるを得ないこととなる。

 

「…。なるほど。ではあなたを皆に紹介するのはまた今度にせざるをえないわけね。

 状況を精査して処分を言い渡します。それまであなたは自室で謹慎していなさい。」

 

「あいよ。それじゃあとよろしくね。」

 

北郷は華琳の言葉にいやに素直に従ったかと思えば、蒲公英と凪にそう言い残し、まっすぐと広間を出て行く。

大げさに音を立てて扉を閉めて、北郷が出て行った後、やっと呆気にとられていたその場の全員が我に返った。

 

「な、何だったの今のは…」

蓮華が驚くのも無理は無い。

国賓とは北郷が言った言葉であるが、その国賓との顔合わせに堂々と遅刻したばかりか、あろうことかそのうちの一人を絞め落としたという。

彼を知らぬ者からすれば、その行動のあまりの非常識っぷりに呆気にとられるのは当然であった。

 

では、彼をよく知っているものからしたらどうか。

それはそれで、呆気にとられているというのだから質が悪い。

だが、この場合、彼のとった行動に、と言うより彼のとった行動の結果に、という方がしっくり来る。

なにせ、彼はあの魏延を絞め落としたというのだから。

以前の彼を知っていればすぐに分かる違和感だ。

彼が焔耶と対峙して五体満足で生きていられるはずはない。

それをやってのけたというのならば、気になるのはむしろ絶対になにかやったであろうその策だ。

彼は弱いが頭は回る。

その機転だけで幾度の死線をくぐり抜けたかしれないのだから、自ずとそういう方向に考えが向かう。

そして、それを確かめるために行動を起こす。

つまり、華琳が調査に乗りださんとする前に、こういうこととなる。

 

「おい、凪!お前全部見ていたのだろう!?

 何をやったのか詳しく聞かせろ!」

 

いの一番に席から飛び上がり、春蘭は事情をすべて知るであろう凪と蒲公英を捕まえて、大声でそんなことを聞いていた。

「私が話していいものかわかりませんが…」

 

そんな前置きとともに、今朝方何が起こったのか、全員の前で詳らかになっていく。

 

曰く、決闘を申し込まれて程なく、大通りのど真ん中でそれは執り行われることとなった。

人を集めろという言いつけ通り、凪は「民の安全を図るための人員」を集めた。

屈伸をしたり伸脚をしたり木刀を振り振り準備ができるのを待つ北郷と、鈍砕骨を地面に突き立て時を待つ焔耶。

道路の封鎖が着々と進み、いよいよ準備ができようとなった頃には、一定の空間を確保するために配備した警邏兵の何倍もの数の野次馬が集まってきていた。

 

「それじゃあ、そろそろやってやろうじゃないか。」

 

表情こそいつもどおりであるが、若干語気を荒らげ、クイクイと手を煽り、焔耶に語りかける北郷。

その挑発の効果は、推して知るべし。

 

「後悔するなといったな?それはこちらの言葉だぁ!!!」

 

あっという間に沸点に達した焔耶は、鈍砕骨に手をかけたかと思うと一足のもとに北郷に詰め寄っていた。

 

駆け寄る勢いをそのまま利用し、無骨な鈍器を振り上げる。

すんでのところで躱したものの、北郷は蹌踉めく。

 

「はっ!大口叩いてもう終わりかぁ!」

 

そんな大きな隙を見逃すはずもなく、一気にかたを付けんと踏み込む焔耶であったが、その先は続かなかった。

 

体勢を崩した北郷は、崩れるままに、それに逆らわず地面へと倒れていく。

そして、そのままその勢いを使って木刀を水平に振るって、焔耶の足を刈り取らんとする。

無理な体勢であることなどお構いなしで振るわれた剣であるがゆえに、焔耶はそれを躱すことで精一杯だった。

 

「ちぃ!悪あがきを…」

 

一旦距離を取らざるを得なくなった焔耶。

最初の勢いは、そのたった一振りで止められていた。

 

「いまのがあたってくれれば楽だったんだけどな…」

そんな焔耶を見て余裕が出てきたのか、立ち上がった北郷はそんな軽口を叩き始める。

 

「ま、お客さん達もそんなに早くの決着は望んでないさ。ほら、どうしたかかってこいよ。」

 

劣勢だというのに何たる余裕か。

たった今ギリギリで攻撃を躱したくせにいっちょまえに挑発を続ける男に、だんだんむかっ腹が立つ。

焔耶の顔が赤くなり、手に込める力が一層強くなっていくのは、凪の目から見ても手に取るように分かった。

「でもさ、なんかそのこらへんからわかっちゃんだよね。あ、焔耶じゃ勝てないって。」

 

そう続けるのは蒲公英だ。

彼女は彼女で数限りなく焔耶と剣を合わせている。そんな彼女であればこそ、今の焔耶では勝ち目がないことが見抜けてしまった。

 

「何合も打ち合わさないうちからあの鈍砕骨が交わされるなんてありえないよ。ましてや、あのおじさん、お世辞にも強くないのわかっちゃったし。」

 

最初こそ、彼をすんでのところで取り逃がすほどに、『追い込み』はしたが、それ以降、まともに彼を追い込むことすら出来なかった。

大ぶりに振るわれる無骨な鈍器は、華奢な木剣によってそらされ、すかされ、空を切る。

「そりゃ最初はなんで手を抜いてるんだろうって思ったけど、違ったんだよね。

 焔耶ってさ、ああ見えて戦いの時には冷静なところがあるからさ、すぐに焔耶の顔つきが変わって。

 んでわかっちゃった。これは勝ち目がないなって。」

 

卑怯だぞ、と。

堂々と勝負したらどうだ、と。

がなりたてる焔耶の顔には明らかに焦りが見えている。

いや、焦りというよりも、苦悶の表情かもしれない。

手が出せない。

焔耶はそのことに気がついてしまった。

目の前の男の立ち振る舞い。

野次馬を煽り、その声援を一身に浴びて彼女を挑発するその男。

観客との間ギリギリに立ち、彼に攻撃を当てようが躱そうがいずれにしても背後の民が傷ついてしまいかねない距離を保っている。

なんとか開いた空間に引きずりだそうにも、初撃を躱されたことがちらつく。

もっと速く撃たなければ。

もっと強く撃たなければ。

しかし、それをしてしまって民が傷ついてしまったら…

相反する二つの考えが、焔耶の動きを硬くする。

その隙を活かさない北郷ではない。

焔耶の当初の勢いは鳴りを潜め、徐々に徐々に、攻撃の手が緩く、硬くなっていく。

「おじさんのあの様子だったら、おそらく最初っから狙ってたんだろうって思ったら感動しちゃったよ。

 手際が良すぎるんだもん。

 最初に、戦う前に念を押したのはこのためだったんだって。

 言い訳させないようにだったんだって思ったらね。」

 

彼は、最初からちゃんと「自分の盾にするための人」を凪に集めさせていた。

最初こそ、一撃目こそそんな素振りは見せなかったが、時間を置くに連れて、露骨に後ろの民を人質にとるような素振りを見せていた。

そうなったら、もう勝敗は時間の問題であった。

劣勢にまわった焔耶。

しかし、それに対しても、迂闊な飛び込みは一切見せない北郷。

そんななかでも躱しても被害がない攻撃はかわし、何らかの被害が出そうな攻撃はすべてしっかり受けていたと語るのは凪だ。

 

「隊長の名誉のために断っておきますが、目に見えて危険なものは、隊長はしっかり選んで受けていました。

 ですが、相手も我慢の限界も近かったようで…」

「いい加減にしろ!ここまで愚弄するからには覚悟ができているのだろうな!」

 

怒号とともに、思い切り鈍砕骨を地面に叩きつけ、大見得を切ったのは焔耶だった。

度重なる挑発と、卑怯者の誹りを受けた上でのこの北郷の態度に、怒り爆発状態だった彼女は、周りの民でも目に見えてわかるほどに気力を貯めこみ、それこそ周り一帯を吹き飛ばさんが如くの気迫を見せ始めた。

 

その様子を見て、ぼそっと、男がつぶやいた言葉は、蒲公英には聞こえていたらしい。

「あ、やべっ。やり過ぎた。って。

 そう言うと同時に、あれもまたすごい技術だったね。」

 

ここにきて初めて、男のほうから仕掛けたそうだ。

北郷はちょっと踏み込むような素振りを見せかと思ったら、木剣の柄頭を膝で押すように蹴りだした。

「あれ、多分真正面に立ってた焔耶からは突きが来たように見えただろうね。」

 

「突き」を躱して、やっと直進してきた、つまり民から離れた北郷を捉えようと、その「突き」を払いのけ渾身の一撃を繰り出した焔耶。

 

焔耶の一撃が、地面に大きな穴をあけ、土煙を巻き上げる。

「ですが、隊長は踏み込んでなどいなかった。」

 

誰もが、決まったと思ったその一撃。

しかし、土煙をがおさまってみれば、そこにあったのはその場にいた皆が想像したであろう光景とは全く違っていた。

「こう、正面から、隊長が組み伏せていました。

 袖を掴むようにして。もがいてはいましたが、腕を外せなかったようです。」

 

観客たちは、その様子を見ているしかなかった。

やがて、組み伏せられた焔耶の抵抗が弱くなり…

 

「絞め落としたのがわかったからね。

 そんで、あのおじさん、立ち上がってこう叫んで、それで試合終了。

 いや~、嫌々ついてったけど良い物見れたよ。」

「これでわかったか、小娘!この試合、俺の勝ちだ!!!」

やはり、といえばやはり。

派手な策でやらかしていた北郷の様子を聞き、春蘭を始め魏の皆は妙に満足そうだった。

 

そんな中、その話を聞いていた桔梗は、何を思ったか桃香に面倒を見られている、未だ気を失ったままの焔耶に向かって、語りかけた。

 

「それで、焔耶よ。なにかわかったか。」

「…。」

「気がついているのだろう焔耶。なんで試合ったかはこの際聞かん。だが大方の予想はできよう。

 お前のせいで一人、いらん処罰を受ける羽目になっている。

 起きてなにかいわんか、焔耶!」

「…はい、桔梗様。」

 

バツが悪そうな顔をして、焔耶は起き上がった。

今度は、彼女が、皆の視線の中心となった。

場の空気に緊張が走る。

 

「なんだ、いつから起きてたの?」

「蒲公英、今は茶化すでない。

 それで。刃を交えてなにがわかったかいうてみよ。」

「……ました。」

「なんじゃ。聞こえん。」

「私は、…けました。」

「聞こえん!」

「私は、負けました。最初はわからなかった。

 あいつ、民を盾にするなんてどこまで卑怯なんだって。

 でも、途中でわかったんです。私のことをどれだけ信頼しているのか。

 あいつは馬鹿だ。なんであそこまで自分を罵った人間を信頼できるんだろうか。

 試すつもりで、民を何度か狙いました。

 ですが、その攻撃に限って、あいつは手を出してこなかった。

 あいつが捌いたのは自分を狙ったものだけで…

 私が、この国の民を傷つけるなんて、これっぽっちも考えてなかった。

 絶対に、私が絶対にそんなことをしないって、最初から信頼して、あんな策をたてたんです。

 そこまでわかってて、この戦いを始めたんです。

 私は、最初から、負けていたんです。」

 

一言一言、絞りだすように言葉を紡ぐ焔耶の姿に、彼女をよく知るすべてのものが、これもまた、驚くこととなった。

あの、負けず嫌いの焔耶が、負けを認めている。

素直に負けを認めている。

そしてその、負けた理由、策を弄することを極端に嫌う焔耶が、その策を認めている。

 

「そうまでいうならば、お主にはいまからやることがあろう、焔耶。

 いやに素直だから、今回はゲンコツはやめてやる。さっさといってすませてこい!」

 

「は、はい!いますぐに!」

 

焔耶は桔梗に怒鳴り散らされ、慌てて部屋を飛び出していった。

 

関係した者達以外ほぼ全員を置いてけぼりにした朝議は、結局。

 

「はぁ、どうやら、解決したようなので、これで終わりにするとしましょうか。」

 

華琳の一言によって、終わりを告げることとなった。

 

 

最終的に、焔耶の謝罪という飛び道具の効果もあって、北郷は遅刻の罰だけ負わされて、後日改めて全員に紹介と謝罪をさせられる運びとなった。

 

「まったく、事情が事情だし、みな、もう親しい仲なのだからああいう言い方でなければ庇えたものを。」

 

その日の夜の権利を意地と根性と読みと冴えで圧倒的に勝ち取った華琳は、プリプリとむくれながら抗議した。

 

「そりゃぁ、事情がわかってる華琳たちにしてみりゃそうだろうけどさ。俺にはそれはわからないし。

 それに結局怒られちゃったらしいけど、俺がああでも言わなかったらあの子、もっと怒られてただろ?」

「それはまぁたしかにそうだけれど。じゃあなに?

 あなたは私達よりあの子をかばいたかったってわけ?」

「ばっかお前、もしそうだったら…いや、まぁいいよ。」

「なによ。続けなさい。」

「…。あ~もう。なんでこういうときに口を滑らすかなぁ。

 もしそうだったら袖車なんて使わずに最初っから殴り倒してるし。それに…」

「それに?」

「あいつとそもそも戦ってないよ。」

「あぁ、そういえば。

 凪はそのへん何もいってなかったわね。そもそもにおいて、あなた、今日はずいぶんらしくなかったじゃない?」

「…と申しますと?」

「そもそも簡単に挑発には乗らない。

 不用意な挑発はそもそもしない。

 そして心底めんどくさがり屋のあなたがなぜ、焔耶と試合をしたのか。

 ってことよ。」

「…いいたくない。」

「…まだわからないようね?」

「いてぇ!噛むな!いてぇってやめ…やめてください!いいます!いうからやめて!」

「よろしい。」

「…。もちろん、あれだ。もちろんお前の前でもっていうか、誰の前でも同じことをやったってことは前置きさせてもらってだな。

 惚れた女の前で馬鹿にされて、頭にこない男なんていないってんだよ。」

「…な~んか、嬉しいような、悔しいような、ね。

 まぁいいわ。春蘭の髪が伸びてしまうような期間私を放っておいた穴埋めと、今日のそれも含めて。

 簡単に寝れると思わないことね。」

かくして、何事もない大忙しな波瀾万丈の平穏な日々の始まり始まり。


 
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