No.663022

本編補足

根曲さん

・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。

2014-02-14 00:15:46 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:285   閲覧ユーザー数:285

大切な物

C1 急報

C2 別れ

C3 セレノイア王任命

C4 セレノイア王就任

C5 当てつけ

C6 派閥

C7 勝負

C8 変化

C9 義兄弟

C10 暗雲

C11 背中

C1 急報

 

ゼムド王国シンエ谷。シンエの里にあるシンエ館の書斎。椅子に座るミソン。ミソンの従者クランケンシュタインが紅茶を運んでくる。

 

クランケンシュタイン『はぁ、今年も何も起きなかったですね。』

 

クランケンシュタインの方を向くミソン。

 

ミソン『そんなことはないさ。今年もこの館の大掃除で大変な目にあったしね。』

 

机の上に紅茶を置くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…そういうことではありません。戦場にでて大活躍とか、主様の大出世が舞い込んで来るとか。王族なんですから!』

 

苦笑いを浮かべるミソン。

 

ミソン『平穏な場所でくらせて無事に平和な一日を過ごし、一生を終える。こんなすばらしいことはないよ。特に俺みたいな祖先のすねっかじりの役立たずで能無しはね。』

 

口に手を当て後ずさりするクランケンシュタイン。彼はミソンに深々と頭を下げる。

 

クランケンシュタイン『も、申し訳ありません。』

 

顔を上げ、ミソンを見つめるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『でも…主様はこの里の者達に慕われてますよ。』

 

微笑むミソン。

 

ミソン『ま、長いからね。君とも…何年になるっけ。』

 

紅茶を飲むゼムド王国王族のミソン。

 

クランケンシュタイン『…かれこれ十年位になりますかね。あの頃の私は無愛想で可愛げのない奴でした。』

 

笑うミソン。

 

ミソン『はは、そういえば初対面でこの館の使用人と間違えられたな。』

 

眉を顰めるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『そ、それは…。』

ミソン『それに君の為に折角作ったメモも投げ捨てるし…。』

クランケンシュタイン『あれは、主様の呼び方がにぃにぃとか先生たまとか、語尾ににゃをつけるとかあきらかにおかしいメモだったからでしょうが!』

 

大笑いするミソン。

 

ミソン『あまりにも勉強熱心だったから、からかうつもりで子作りの勉強と称してエロ本を何冊か勉強中の君の机の上に置いたこともあったっけ。顔を真っ赤にした君は卑猥です!って僕を追い出して、数時間後、ヤオイ本を一番上にして持ってきてこの一冊、男同士で子作り関係ないじゃないですか!って、ちゃっかり読んでるんだもん。』

 

顔を真っ赤にするクランケンシュタイン。

 

機械音。窓の方を向くミソンとクランケンシュタイン。ゼムド王国のパラディンヴェルクーク級人型機構が止まり、コックピットのハッチが開き、黒馬に乗ったゼムド王国の将ウカツが飛び出る。

 

ウカツ『ミソン殿ー!ミソン殿はおられるか!!』

 

立ち上がり、窓から外を見るミソンとクランケンシュタイン。

 

ミソン『…あれはウカツさんか。』

 

中庭を騎乗しながら回るウカツ。

 

ウカツ『急報である!急報である!!』

クランケンシュタイン『何かあったのですかね。』

 

首を横に振るミソン。

 

ミソン『さあ、しかし、あの大音声で叫ばれても近所迷惑になるしな~。』

 

執務室から出るミソンに続くクランケンシュタイン。

 

 

シンエ館の扉が開き、外に出るミソンとクランケンシュタインの方を向くウカツ。ウカツは馬から飛び降り、ミソンの前に跪く。

 

ミソン『これはこれはウカツ殿。険道はるばるこのシンエ館までご苦労様です。』

 

顔を上げるウカツ。

 

ウカツ『ミソン殿!急報でございます!』

 

ミソンはクランケンシュタインと顔を見合わせた後、ウカツの方を向く。

 

ミソン『急報とは?』

 

頷くウカツ。

 

ウカツ『セレノイア王就任の儀でございます。』

 

眼を見開くミソンとクランケンシュタイン。

 

C1 急報 END

C2 別れ

 

シンエの里。満月がムライトの山にかかる。草木茂る広場の中央では火が焚かれ、丸太に座るミソン。周りにはシンエの里の者達及び子供たち。

 

シンエの里の民A『そうか…ミソン様はセレノイアへ行かれるのか。』

 

頷くミソン。

 

シンエの里の民女A『セレノイアって獣人や亜人がたくさんいるっていう…あの。』

 

頷くミソン。

 

ミソン『まあ、叔父殿がそこまで勢力を拡大しているとは思わなかったがね。』

 

ミソンに駆け寄るシンエの里の女児A。

 

シンエの里の女児A『獣人、亜人っておっかないんでしょ。』

シンエの里の子供A『そんな怖いところ行かないで。』

 

子供達を見つめるミソン。

 

シンエの里の女児B『ねえ、断って。』

シンエの里の子供A『そうだよ。ずっとここに居て。』

 

首を横に振るミソン。

 

ミソン『いや~。無理無理、ただでさえごく潰しなんだから。』

 

俯く子供達。ミソンは微笑む。

 

ミソン『大丈夫大丈夫。後任のウカツ殿は真面目な方だから。ああ、こちらからあんまり生真面目で堅苦しくならないように伝えておくからね。』

 

泣きだす子供達。シンエの里の民Aが子供達の方を向く。

 

シンエの里の民A『致し方のない事じゃ。国の決定じゃからな。それに…。』

 

シンエの里の民Aはミソンの方を向く。

 

シンエの里の民A『…断れば、王はミソン様に対する全ての援助を打ち切って、全財産を没収したのち…国外追放されるんじゃろ。』

 

苦笑いを浮かべ頷くミソン。

 

ミソン『…いや~聞かれていましたか。』

 

頷くシンエの里の民A。

 

ミソンの方を向く子供達。

 

シンエの里の女児B『ミソン様。あれやって。』

 

首を傾げるミソン。

 

ミソン『あれ?』

シンエの里の子供B『ほら~お月様、お月様~。』

 

頷くミソン。

 

ミソン『ああ。』

 

ミソンの手拍子。

 

ミソン『ムライトの山に 登~るお月様を見上げて ほい!』

 

手を叩くミソン。

 

ミソン『タンタンタン。』

 

手拍子。

 

子供達『タンタンタン。』

ミソン『真ん丸お月様に 見とれてしまって 腹鼓 よ~お!』

 

腹を叩くミソン。

 

ミソン『ポンポコポン。』

 

手拍子。

 

子供達『ポンポコポン。』

ミソン『ゼムドの酔っ払いは 三日月の欠けに 手を伸ばす。』

 

ミソンに抱き付く子供達。

 

ミソン『お、おい。こら…。』

子供達『きゃははははは。』

 

ミソンを見つめるクランケンシュタイン。

 

C2 別れ END

C3 セレノイア王任命

 

ゼムド王国ムライト城。玉座に座るゼムド王と妃のルーイン、両隣にはゼムドの名将レンゲンとゼットフ及び王位継承者のヴィートリフ。彼らの両脇にはウカツとヴァリアージュ・イオリンを筆頭としたゼムドの将達が並び、カルデハイフン及びセレノイア王国の人間議員たちが跪いている。周りには黒い頭巾を被った闇部衆の護衛が配置されている。ゼムド王の前に跪くミソンとクランケンシュタイン。

 

ゼムド王『ミソン。久しいな。』

ミソン『はっ!』

 

ゼムド王は顎に手を当て、セレノイア王国の人間議員たちを見る。

 

ゼムド王『この度、セレノイアよりゼムドから王を迎えたいと…。』

 

ミソンの方を向くゼムド王。

 

ゼムド王『…あったのでな。よろしく頼むぞ。』

ミソン『はは!』

 

頭を下げるミソン。立ち上がるカルデハイフンを筆頭とするセレノイア王国の人間議員達。

 

セレノイア王国の人間議員一同『セレノイア王万歳!ミソン王万歳!!』

 

 

セレノイア王国ブラブラ級起動城塞王族カスタムの廊下。カルデハイフンに続くミソンとクランケンシュタイン。カルデハイフンはブラブラ級起動城塞王族カスタムの国王寝室の扉の前で止まり、ミソンとクランケンシュタインの方を向き、一礼する。

 

カルデハイフン『それでは王。セレノイアへの旅をごゆるりと。』

 

ミソンは頷き、クランケンシュタインと共に国王寝室に入っていく。扉の閉まる音。壮麗に飾られた寝室を見回すクランケンシュタイン。ミソンはベットに座り、舌を出す。

 

ミソン『何が王を迎えたいだ。セレノイアに工作したのが見え見えだ。まったく叔父上は。』

 

ため息をつくミソン。感嘆の声を上げるクランケンシュタイン。ミソンはクランケンシュタインの方を向いた後、ベットに仰向けになる。

 

ミソン『おっ…。』

 

ミソンはベットを何回かつついて頷く。壁を触り、美しい絵画に見つめるクランケンシュタインの方を見るミソン。

 

ミソン『お~い。』

 

瞬きして、ミソンの方を向くクランケンシュタイン。

 

ミソン『あ、は、はい!』

 

ミソンに駆け寄るクランケンシュタイン。

 

ミソン『このベット、寝心地がいいぞ。触ってごらん。』

 

軽くベットを叩くミソン。クランケンシュタインは頷いて、ベットを触る。

 

クランケンシュタイン『あ…シンエ館のものとは全然違いますね。』

 

ミソンはベットの片側を開け、2、3回軽く叩く。

 

ミソン『おいで。』

 

クランケンシュタインはミソンを見つめる。再びベットを軽く叩くミソン。

 

ミソン『いいからおいで。』

 

クランケンシュタインは目を瞑り、首を横に振る。

 

クランケンシュタイン『…何を考えているんですか!』

 

ため息をつくミソン。目を開けるクランケンシュタイン。

 

ミソン『向こうへ行けば、僕は国王。君は議員だ。』

 

眼を見開くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『わ、私が議員…。』

 

頷くミソン。

 

ミソン『カルデハイフン氏に聞いたよ。政務のことも色々とね。』

クランケンシュタイン『夢でも見てるんじゃないかしら…。』

 

ミソンはクランケンシュタインの方を向いた後、俯く。

 

ミソン『互いに忙しくなるね。』

 

C3 セレノイア王任命 END

C4 セレノイア王就任

 

セレノイア王国メタファ城に止まるブラブラ級起動城塞王族カスタム。国王寝室から外を見るミソンとクランケンシュタイン。赤い絨毯が敷くセレノイア王国の獣人兵士達多数。セレノイア王国の議員たちが談笑しあう。

 

ミソン『これがセレノイアか…。』

 

靴音。

 

カルデハイフンの声『おい、徒手組はどうした。何処にも見当たらないが…。』

クーマン・ベアードの声『徒手組?さあ、知らんよ。』

 

扉の方を向くミソンとクランケンシュタイン。

 

カルデハイフンの声『ボイコットか!相も変わらず身勝手な奴らめ!!貴殿も闘技場出身者であろう。何とかならんのか?』

クーマン・ベアードの声『まあ、いいのでは。下手に彼らを無理やりこの場に出して流血事件を起こされた方が問題だろう。』

 

咳払い。

 

国王寝室の扉が開き、一礼するカルデハイフン。

 

カルデハイフン『セレノイア王国メタファ城に到着いたしました。議員一同心より歓迎いたします!』

 

頷くミソン。カルデハイフンの横から出、一礼する筋骨隆々で剛毛で覆われた熊獣人でセレノイア王国議員のクーマン・ベアード。カルデハイフンがクーマン・ベアードを叩く。

 

カルデハイフン『お、おい。クーマン!』

クーマン・ベアード『失礼します。私、セレノイア王国議員のクーマン・ベアードと申します。以後、お見知りおきを。』

 

ミソンはクーマン・ベアードを見つめる。

 

ミソン『…熊だ。』

 

顔を上げるクーマン・ベアード。ミソンは頭に手を当てる。

 

ミソン『いや、失礼。ゼムド王国の片田舎にずっといたもので、獣人や亜人はこのかた見たことがなくて。』

 

顎に手を当て頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『そう…ですか。』

 

カルデハイフンはクーマン・ベアードの腕を小突く。クーマン・ベアードはカルデハイフンを見た後、ミソンの方を向く。

 

クーマン・ベアード『セレノイアでは獣人、亜人を嫌でも目にしますよ。』

ミソン『それは楽しみだ。』

クーマン・ベアード『では、これにて…。』

 

国王寝室から出ていくクーマン・ベアード。カルデハイフンはクーマン・ベアードの方を向いた後、ミソンの方を向く。

 

カルデハイフン『失礼いたしました。では、こちらへ。』

 

カルデハイフンに続くミソンとクランケンシュタイン。

 

 

セレノイア王国メタファ城に止まるブラブラ級起動城塞王族カスタムから降り立つカルデハイフン続くミソンとクランケンシュタイン。メタファ城には赤絨毯が敷かれ、両脇にはセレノイア王国の議員たちが並ぶ。

 

セレノイア王国議員一同『セレノイア王万歳!ミソン王万歳!!』

 

セレノイア王国の議員たちを見回しながら、進むミソン。絨毯の先にはオープントップに改造されたパレード用のリムジンが止まっている。カルデハイフンに続き、パレード用のリムジンに乗るミソンとクランケンシュタイン。深々と頭を下げるセレノイア王国の議員一同。動き出すパレード用のリムジン。

 

 

セレノイア王国王都セレノイア。ラッパの音と共に城門が開き、市街へ入っていくパレード用のリムジン。紙吹雪が舞い、歓声を上げるセレノイア王国の民達。クランケンシュタインが微笑んでミソンの方を向く。

 

ミソン『すごい歓声ですね。』

 

頷くミソン。

 

ミソン『ま、どこもお祭りは好きだからね。』

 

卵とトマトをパレード車に向かって卵とトマトを振りかぶるセレノイア王国の獣人。セレノイア王国の兵士達が取り押さえる。蟀谷に血管を浮き出させるカルデハイフン。

 

カルデハイフン『何をやっとるか!あの者は!!』

 

ミソンはカルデハイフンの方を向く。

 

ミソン『まあまあ、カルデハイフン殿。祭りにはこういうことはよくあることですしね。』

 

眉を顰めるカルデハイフン。

 

カルデハイフン『そうは言いましても…。』

ミソン『ま、ここは無礼講ということで。』

カルデハイフン『…面目ない。』

 

ため息をつくミソン。

 

ミソン『歓迎されてないね~。やっぱり…。』

 

ミソンの方を向くクランケンシュタイン。

 

 

セレノイア城玉座の間。赤絨毯の両脇に並ぶセレノイア王国の議員達。周りを見ながら赤絨毯の上を進むカルデハイフン。

 

カルデハイフン『…ち、徒手組の奴らめ。』

 

続くミソンとクランケンシュタイン。カルデハイフンはミソンの手を取る。

 

カルデハイフン『どうぞこちらへ。それと従者は…。』

 

カルデハイフンはクーマン・ベアードの横を指さす。

 

カルデハイフン『そこへ。』

 

頷き、クーマン・ベアードの傍らに行くクランケンシュタイン。玉座の前に立つミソン。ミソンの前に跪くカルデハイフン。跪くクランケンシュタインとセレノイア王国の議員達。

 

カルデハイフン『新しきセレノイアの王に栄光あれ!』

セレノイア王国の議員一同『セレノイア王万歳!!ミソン王万歳!!』

 

C4 セレノイア王就任 END

C5 当てつけ

 

セレノイア王国の高級キャバクラ、ソプラウンドー。目隠しをしてキャバ嬢たちを追い回すカルデハイフン。大笑いしながら酒を飲むセレノイア王国の人間議員達。しかめっ面のクランケンシュタイン。キャバ嬢の一人ドクガがクランケンシュタインの盃に酒をつぐ。ドクガに手を向けるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『結構!』

 

クランケンシュタインを見上げるドクガ。立ち上がるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『帰らせていただきます。三日三晩、政治談議もなければ議論も無い!あるのは女性の尻を追いかけることと酒だけだ!』

 

扉を開けて去るクランケンシュタイン。クランケンシュタインを睨み付けるセレノイア王国の人間議員達。

 

セレノイア王国人間議員C『あ、何だ?あいつ…。』

セレノイア王国人間議員A『ち、国王の七光りが偉そうに!』

セレノイア王国人間議員B『だれが議員にしてやったと思っているんだ!』

 

扉の外で眉を顰めるクランケンシュタイン。彼の髪に粉雪が舞い落ちる。扉が開き、現れるドクガ。

 

ドクガ『外は冷えますよ。』

 

ドクガの方を向くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『あなたは先ほどの。申し訳ない。折角のお酌を…。』

 

首を横に振るドクガ。

 

ドクガ『いいえ。そんなことはどうでもいいんです。』

 

ドクガはクランケンシュタインを見つめる。

 

ドクガ『あなたは他の方々と違ってとても気骨のあるお方。』

クランケンシュタイン『は、はぁ。』

 

頭に手を当てるクランケンシュタイン。

 

ドクガはマフラーを取りだし、クランケンシュタインの首に巻く。

 

クランケンシュタイン『こんなことまで…。』

ドクガ『これはこのドクガの気持ちです。』

 

ドクガは一礼して扉を開けて去って行く。ドクガの方に手を伸ばすクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『あの…。』

 

扉の閉まる音。クランケンシュタインは白い息を吐き、夜空を見上げる。

 

 

セレノイア城国王執務室。扉を開けるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『失礼します。』

 

一礼して椅子に座るミソンの前に立つクランケンシュタイン。ミソンはクランケンシュタインを見つめる。

 

ミソン『昨日、何をしたの?』

クランケンシュタイン『はっ?』

ミソン『カルデハイフン殿がカンカンだったよ。』

 

クランケンシュタインは一歩前に出る。

 

クランケンシュタイン『政治談議もなければ、論議もない!あるのは下世話な話ばかり!…頭にきて出ていきました。』

 

笑うミソン。

 

ミソン『ははは、君らしいや。』

 

立ち上がるミソン。

 

ミソン『君が真面目なのは分かっている。凄く長い付き合いだからね。』

 

机を叩くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『では、王!あんな腐敗した政治家たちにこの国家を任せてもいいのですか!』

 

クランケンシュタインに背を向けるミソン。

 

ミソン『それは違うよ。我々が彼らの元々の領域に入ったんだ。』

クランケンシュタイン『で、ですが、王には権力があります!それを行使すれば!』

ミソン『下手に行使すれば、恨みをかわれるよ。』

 

クランケンシュタインの方を向くミソン。

 

ミソン『それに強権的なことは好きじゃないな。できれば皆と和気あいあいと居たいじゃない。』

 

微笑むミソン。ミソンを見つめるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『も、申し訳ございません。以後気を付けます。』

ミソン『あんまり無理はしなくていいよ。君のそういう気骨のある所は短所でもあり長所でもあるんだ。』

まあ、何かあったら僕が彼らの愚痴を受け止めてあげるからね。』

 

クランケンシュタインはミソンに深々と頭を下げる。

 

クランケンシュタイン『…はっ!』

 

C5 当てつけ END

C6 派閥

 

セレノイア王国王都セレノイア。セレノイア城屋上からセレノイアの街を眺めるクーマン・ベアード。クーマンに近づくクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『ここにおいででしたか。クーマン様。』

 

クランケンシュタインの方を向くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『…おお、確か貴公は。』

 

クーマン・ベアードに一礼するクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『国王の従者で議員のクランケンシュタインであります。』

クーマン・ベアード『そうか。ではクランケンシュタイン君。新議員生活はどうかな?』

 

ため息をつくクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『毎夜、酒盛りと女性の尻ばかり追いかけて…。まったく参考になりません。』

 

笑い出すクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『まあ、そんなもんだろうね。』

 

眉を顰めるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『そ、そんなものとは!』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『何年も続いていたことだから致し方ない。』

クランケンシュタイン『致し方なくはありません!』

クーマン・ベアード『何か嫌なことでもあったのか?』

 

頬を膨らませ、クーマン・ベアードの傍らに寄るクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『人間議員を批判したら、国王に報告されました…。』

クーマン・ベアード『ま、よくあることだな。』

 

ため息をつくクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『国王ってなんなんですか。あんな奴らに気を配って。』

クーマン・ベアード『基盤が脆弱だからな。実際問題、国王はゼムドから軍を持ってこなかった。来た配下は貴公のみ。味方は貴公だけなんだよ。』

 

目を見開くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『あっ…。』

クーマン・ベアード『しかし、今まで色んな王を見てきたが、あのミソン王は特殊だな。王族特有の傲慢さが無い。』

 

クーマン・ベアードを見つめるクランケンシュタイン。

 

羽ばたきの音。

 

空を見上げるクランケンシュタイン。セレノイア王国の議員で男ハーピーのイナフォがクーマン・ベアードの肩に座る。

 

イナフォ『お、クーマン。昼間っから仕事サボッて何イチャついてんだ。俺をほっぽってよ!』

 

イナフォの方を向くクランケンシュタイン。イナフォはクーマン・ベアードの肩から降り、クランケンシュタインに詰め寄る。

 

イナフォ『うっほ~。いい男じゃねえの。』

 

クーマン・ベアードの方を向くイナフォ。

 

イナフォ『なになに、新しい恋人?そっかそっか、ついに人間様にまで手が出せたのかうらやましいねぇ。で、いくら積んだの?』

 

腕組みするクーマン・ベアード。クランケンシュタインを見つめるイナフォ。

 

イナフォ『な、ちょっと味見してもいいだろ。人間なんて滅多にお目にかかれないからさ~。』

 

イナフォはクランケンシュタインの頭に翼を伸ばす。イナフォを睨み付け、勢いよくイナフォの翼をはたくクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『止めろ!触るな!!』

イナフォ『わっ。』

 

後ずさりするイナフォ。

 

クランケンシュタイン『なんですか?この調子のいい鳥は。』

 

咳払いをするクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『まあ、私が目をかけている…うん。まあ、目をかけている議員のイナフォだ。』

 

イナフォは自分の胸に翼を当てる。

 

イナフォ『そ、このクーマン・ベアード様の一の子分イナフォ様だ。』

クーマン・ベアード『で、その方は王の従者で議員のクランケンシュタイン殿だ。』

 

目を見開くイナフォ。

 

イナフォ『えっ、う、うそーーーーーーーーー!!』

 

イナフォはクランケンシュタインを見つめて土下座する。

 

イナフォ『うわ~ん。許して!!』

 

顔を上げ両翼を重ならせ、潤んだ瞳でクランケンシュタインを見つめるイナフォ。

 

イナフォ『ねぇ、何でもしますからさっきのこと王に言うのは許して。じゃないと打ち首になっちゃう…。』

クランケンシュタイン『…いや、な、何もそこまでは。』

 

クランケンシュタインに近寄るイナフォ。

 

イナフォ『本当。ね、ね。』

 

眉を顰めて頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『うん。大丈夫。大丈夫だから。』

 

クランケンシュタインに飛びつくイナフォ。

 

イナフォ『やった!兄貴大好き!!』

 

クランケンシュタインの頬を舐めるイナフォ。

 

クランケンシュタイン『あ、こ、こら!』

イナフォ『あ、これが人間の味か。ちょっとしょっぱいかな。』

 

イナフォの頭を殴るクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『すまない。』

 

目をまわすイナフォ。首を横に振るクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…いえ。』

 

クランケンシュタインはクーマン・ベアードを見つめる。

 

クランケンシュタイン『…新しい派閥が必要だと思います!…王の派閥が!』

 

クーマン・ベアードは目を細め、クランケンシュタインを見つめる。

 

クーマン・ベアード『それは王の為か?それとも自分の為か?』

 

喉を鳴らした後、クーマン・ベアードを見つめるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『それは…我が主の為。』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『そうか。ま、いいだろう。今、この国は貴族連合にコネがある人間達、闘技場、賭博場を牛耳り、戦の際には屈強な戦士と莫大な戦費を提供する徒手組といった大派閥と穏健な保守派と我らみたいな無所属が居るというのが現状。』

クランケンシュタイン『…徒手組はそんなに力を持っているのですか。ならば、徒手組を王派に…。』

 

クーマン・ベアードはクランケンシュタインを見つめる。

 

クーマン・ベアード『貴公らが来てから徒手組の議員を一人でも見たか?』

クランケンシュタイン『いえ。』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『徒手組は総裁のケレンケン人アイコニノニイ・ジャアクを筆頭とした大半が大の人間議員嫌いだ。だから王の護衛の提案を却下されたときに怒り狂い、あらゆる集会をボイコットしている。そして、貴公は人間議員だ。協力などあり得ない。』

 

眉を顰めるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『では、穏健な保守派と…。』

クーマン・ベアード『それも駄目だな。彼らは衝突を好まない。』

クランケンシュタイン『それでは無所属の人間を一人一人懐柔して行くより他にありませんね。』

クーマン・ベアード『その通りだな。私には後ろ盾がなかったが貴公には国王という後ろ盾があるからな。』

 

目を見開き、クーマン・ベアードの方を向くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『えっ!』

 

口角を上げるクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『長年、セレノイアのこの現状に嘆くしかなかったからな。そこへ貴公が舞い込んできた。』

クランケンシュタイン『それでは。』

クーマン・ベアード『策はある。セレノイア水軍三家の世襲議員、ハイデイル、スプリヴァ、ジャトをまず懐柔することだ。平議員の私では無理だが、王の従者である貴公なら彼らも門戸を開くだろう。』

 

クランケンシュタインとクーマン・ベアードの肩に翼を当てるイナフォ。

 

イナフォ『何悪巧みしてんだ。俺も混ぜろよな!』

クランケンシュタイン『悪巧みではない。王の…。』

 

イナフォは座る。

 

イナフォ『あ、そうそうハイデイルならよく知ってるぜ。』

 

イナフォの方を向くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『何。それは本当か!』

イナフォ『う、うん。だってあいつ寂しがりやだし。ちょくちょく遊びにいってやってるよ。あの容姿なのに友達いないんだよね~。』

 

片手で頭を抱えるクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『何でそれをもっと早く言わない。』

イナフォ『え、だ、だってただの遊びだし。』

 

クーマン・ベアードはイナフォの背中を叩く。

 

クーマン・ベアード『それならとっとと、ハイデイルの下へクランケンシュタイン殿を運べ!』

 

立ち上がるイナフォ。

 

イナフォ『痛い、痛いって、分かったよ。もぅ。』

 

 

セレノイア王国ハイデイルの館。野外に置かれたテーブルを取り囲んで座るクランケンシュタインとイナフォ。風が草木を揺らし、館からセレノイア王国議員で女性の容姿をしたヴォジャノーイのハイデイルが現れる。ハイデイルの方を向いた後、周りを見渡すクランケンシュタイン。イナフォがハイデイルに向かって手を振る。

 

イナフォ『よ、ハイデイル。久しぶり。』

 

手を振り、駆けてくるハイデイル。目を見開くクランケンシュタイン。

 

ハイデイル『イナフォさん。久しぶりですね。』

 

ハイデイルはクランケンシュタインを見つめる。

 

ハイデイル『あ、あなたは!』

 

ハイデイルはクランケンシュタインの周りをまわる。

 

ハイデイル『わーわー。あのゼムドの殿方の従者様だ。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『え、ええ。今日はセレノイア水軍三家のハイデイル様と好を結ぼうと思いまして。』

 

顔を赤らめるハイデイル。

 

ハイデイル『好だなんてそんな。』

 

微笑むハイデイル。

 

ハイデイル『嬉しい!』

 

椅子に座るハイデイル。

 

ハイデイル『ところで王様とクランケンシュタイン様のご関係は?』

クランケンシュタイン『主従の関係ですよ。』

 

C6 派閥 END

C7 勝負

 

セレノイア王国王都セレノイア。セレノイア王国の高級キャバクラ、ソプランウンドー。受付の前に立つマフラーを入れた袋を持つクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『すみません。』

 

ソプラウンドーのボーイがクランケンシュタインを見上げる。

 

ソプラウンドーのボーイ『あ、いらっしゃいませ。』

クランケンシュタイン『ドクガさんはいらっしゃいますか?』

ソプラウンドーのボーイ『ドクガちゃんね。ドクガ…ドクガ…。ああ!』

 

ソプラウンドーのボーイは手を叩く。

 

ソプラウンドーのボーイ『議員様を殴っちゃって辞めさせられた子ね。』

 

目を見開くクランケンシュタイン。

 

ソプラウンドーのボーイ『残念ですが、ここにはいませんよ。』

 

カウンターに手をかけるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『何処へ行けば会えますか?』

ソプラウンドーのボーイ『さあ。辞めた後のことは分かりませんね。』

 

ため息をつき、袋の中にあるマフラーを見つめるクランケンシュタイン。

 

 

セレノイア王国セレノイア城下町からセレノイア城へ向かって歩くクランケンシュタイン。セレノイア城城門から出てくるドクガ。クランケンシュタインは顔を上げ、ドクガを見て目を見開く。

 

クランケンシュタイン『ドクガさん!』

 

クランケンシュタインの方を見た後、一礼するドクガ。ドクガに近寄るクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…なぜ、セレノイア城に?』

ドクガ『…議員様を殴ってしまって。謝罪と…これまで好にして頂いた方にお礼回りを。』

クランケンシュタイン『…議員を殴ったことは聞きました。でも、何でそんなことを。』

ドクガ『意地でしょうか。』

 

微笑むドクガ。

 

ドクガ『ふふ、馬鹿なことをしたものです。』

 

ドクガは俯く。

 

ドクガ『…これで、私の夢だったお店を持つことも。』

 

首を横に振るドクガ。

 

ドクガ『もう、この地では…五日後の朝ここを発ちます。』

クランケンシュタイン『…そう、ですか。』

 

ドクガはクランケンシュタインが持つマフラーの入った袋を覗き込む。

 

ドクガ『まあ、嬉しい。大事にしていて下さったんですね。』

 

目を丸くするクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『え、ええ。これをあなたに返さなければと思い…。』

 

クランケンシュタインはを見つめるドクガ。

 

ドクガ『あ、そ、そんなこといいんですよ。それはあなた様に差し上げます。』

 

目を見開くクランケンシュタイン。

 

ドクガ『では、失礼します。』

 

一礼して去って行くドクガ。クランケンシュタインはドクガの方を見た後、袋の中に入ったマフラーを見つめる。

 

 

セレノイア王国スプ・リヴァの館。正門の前に立つクーマン・ベアードにクランケンシュタイン、ハイデイルにイナフォ。ため息をつくイナフォ。

 

イナフォ『…あんまり格式の高い家は行きたくないなぁ。軍人家系だったっけ、堅苦しいとか厳しいのは俺苦手なのよね。』

 

呼び鈴を押すハイデイル。イナフォはハイデイルに詰め寄る。

 

イナフォ『お、おいおい!何をしてるんだお前ーーーーーーーー!!!』

ハイデイル『えっ、いいじゃないですか。だって用事があるんでしょ。』

 

微笑むハイデイル。

 

イナフォ『だって用事があるんでしょ。じゃねえよ!!あああああ、まだ心の準備が!準備がぁあああああ!!』

 

蹄の音が響き、正門が砂煙で覆われる。

 

スプ・リヴァの声『何用か!』

 

顔を見合わせるクランケンシュタイン達。砂煙がおさまり、現れる半身半場のネックでセレノイア王国の議員の一人スプ・リヴァと配下の者達が整列して現れる。唖然とするイナフォ。クランケンシュタインは一歩前に出て、頭を下げる。クランケンシュタインを見つめるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『ほう。貴殿は確か王の…。』

クランケンシュタイン『王の従者のクランケンシュタインでございます。』

 

スプ・リヴァはクランケンシュタインを見つめた後、手を振るハイデイルの方を向く。

 

スプ・リヴァ『…ハイデイルか。』

 

スプ・リヴァは腕を組んでクランケンシュタインの方を見つめる。

 

スプ・リヴァ『我々は訓練の最中だが、よければ見ていくか?』

クランケンシュタイン『是非とも。』

 

 

セレノイア王国スプ・リヴァの館中庭。訓練用の人型機構を足場として、トレニーングソードで打ち合う者達、設置された的に向かって弓を射る者達。周りを見回すイナフォ。イナフォは弓を射るスプ・リヴァの妹エプシロン・リヴァを見る。

 

イナフォ『へぇ~、ごっつい奴らばっかかと思ったら可愛いネエちゃんもいるじゃない。』

 

イナフォを睨み付けるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『あれは私の妹だ。手を出したら今夜のディナーにするぞ。』

 

身震いするイナフォ。

 

クランケンシュタイン『流石はセレノイア水軍三家随一の武闘派でいらっしゃる。』

 

クランケンシュタインを見下ろすスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『お世辞は結構、この程度の訓練なら何処の軍隊でもしている。』

 

クーマン・ベアードがクランケンシュタインの方を見つめる。

 

クランケンシュタイン『しかし、幾ら精強といえど罠や奇策にかかれば脆いものでしょう。』

 

クランケンシュタインを睨むスプ・リヴァ。クランケンシュタインはスプ・リヴァに軽く頭を下げる。

 

クランケンシュタイン『失礼しました。罠や奇策等卑怯者のすることですね。その様な小細工はスプ・リヴァ殿の精強な兵にかかれば、通用しませんよね。』

 

眼を閉じ口角を上げるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『いや。戦争で、隙をつかれて敗北した事例は幾多もある。奢りは禁物。油断はするなということだな。』

 

2、3回頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『ところでスプ・リヴァ殿はクレール砂漠はご存知ですか?』

 

クランケンシュタインの方を向き、首を傾げるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『クレール砂漠…。地名は聞いたことがあるが…。』

クランケンシュタイン『私は色々な方にお仕えしたことがあるので数回行ったことがあるのですが…。』

 

スプ・リヴァはクランケンシュタインを見つめる。

 

スプ・リヴァ『ほう。それでそこに何があるのだね。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『まあ、あまり知られてはいないのですが、彼ら部族は戦士の儀式をしております。』

スプ・リヴァ『戦士の儀式!それは興味深い。いったいどんなことを?』

クランケンシュタイン『はい。まず、各部族で競い、勝者が本儀へと進めます。』

 

頷くスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『ほう。』

クランケンシュタイン『そして本儀で競い合い、最終勝者には栄誉が与えられます。』

スプ・リヴァ『具体的にはどんな儀式なのだ?』

クランケンシュタイン『ルールはいたって簡単。儀式の祭壇から相手を落とせばいいだけです。落ちても砂漠がクッションとなりますが…。』

スプ・リヴァ『相手がノック・ダウンしたとき等は?』

クランケンシュタイン『倒れても、祭壇から落とさなければ勝ちにはなりません。そう、正式には地面についた方が負けとなります。武器は禁止されております。』

 

笑みを浮かべるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『なるほど。是非、やってみたいものだ。』

 

一歩前に出るクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『私でよろしければ、お相手致しましょう。興味があったので何回か稽古をつけてもらったことがあります。まあ、役不足かもしれませんが。』

 

クランケンシュタインを見つめるスプ・リヴァ。歓声が上がる。

 

スプ・リヴァ『ふっ、面白い。』

 

スプ・リヴァの前にかけてくるエプシロン・リヴァ。

 

エプシロン・リヴァ『兄様見た見た!』

 

エプシロン・リヴァの方を向くスプ・リヴァ。エプシロン・リヴァは立ち止まりクランケンシュタイン達の方を向く。

 

エプシロン・リヴァ『あれ、この方たちは…。』

スプ・リヴァ『客人だ。それより準備をしてもらいたいものがある。』

 

 

セレノイア王国スプ・リヴァの館入り江に浮上するカラカラ級潜水艦の上に作られた特設リングの上に立つスプ・リヴァ。周りを取り囲むスプ・リヴァの艦隊。上着を脱いで腕に持つクランケンシュタイン。

 

スプ・リヴァ『こんな感じか?ここには砂はないが、代わりに水だ。』

 

クランケンシュタインはリングを見回し、顎に人差し指を当てる。

 

クランケンシュタイン『…ええ、そうですね。もっと高さがありますが。』

スプ・リヴァ『そうか。なら、今からこの船をもっと浮上させよう。いいところになったら言ってくれ。』

 

スプ・リヴァはスプ・リヴァの配下Aに目くばせをする。頷くクランケンシュタイン。浮上するカラ級潜水艦。揺れる特設リング。バランスを少し崩すクランケンシュタインを見つめるクーマン・ベアードにハイデイル、イナフォ。クランケンシュタインは特設リングの高さを見た後、頷いてスプ・リヴァの方を向く。

 

クランケンシュタイン『この位でいいでしょう。』

 

腕組みをするスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『では、王の従者といえど手加減無しで行かせてもらう!汽笛の音が始めの合図だ。』

 

頷くクランケンシュタイン。特設リングの両脇に進むスプ・リヴァとクランケンシュタイン。クランケンシュタインは周りを見回し、上着を投げる。

向かい合う両者。

 

クランケンシュタイン『お手柔らかにお願いしますよ。』

 

汽笛の音が鳴る。互いに距離を取るスプ・リヴァと距離を取るスプ・リヴァとクランケンシュタイン。スプ・リヴァ艦隊、旗艦のリヴァの甲板から特設リングの方を向いて手を振るエプシロン・リヴァ。

 

エプシロン・リヴァ『兄様ー!頑張ってーー!!』

 

クーマン・ベアード、ハイデイルにイナフォは特設リングを見つめる。

 

スプ・リヴァがクランケンシュタインに向けて突進する。避けるクランケンシュタイン。

 

イナフォ『わわわ。』

 

イナフォはクーマン・ベアードの方を向く。

 

イナフォ『体格差がありすぎだぜ。』

 

腕組みをしながら頷くクーマン・ベアード。スプ・リヴァの数回の突進を避けるクランケンシュタイン。

口の横に手を当てるエプシロン・リヴァ。

 

エプシロン・リヴァ『こらー、逃げてばかりないで戦え!!』

 

スプ・リヴァはクランケンシュタインに突進する。避けるクランケンシュタイン。スプ・リヴァはターンしてクランケンシュタインと衝突する。飛ばされるクランケンシュタイン。クランケンシュタインは特設リングを見回し、上着を見つめる。クランケンシュタインの正面に迫るスプ・リヴァ。クランケンシュタインは特設リングの端に沿って走り出す。詰め寄るスプ・リヴァ。砂煙が巻き起こる。上着の前で止まり、突進してくるスプ・リヴァが踏んだ上着を引くクランケンシュタイン。バランスを崩し、特設リングからはみ出るスプ・リヴァはステップし、元の位置に戻る。

 

手すりを握りしめるエプシロン・リヴァ。

 

エプシロン・リヴァ『な、卑怯だぞ!』

 

目を細めエプシロン・リヴァの方を見るスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『考えたな衣装は武器ではない。』

 

舌打ちしながら特設リングの端を一瞬見るクランケンシュタイン。クランケンシュタインに突進するスプ・リヴァ。後ずさりするクランケンシュタイン。口に手を当てるハイデイル。クランケンシュタインを見つめるイナフォ。眉を顰めるクーマン・ベアード。クランケンシュタインはバランスを崩して特設リングの外に出る。特設リングの端で止まるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『なんと!』

 

笑い出すスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『策士策に溺れるとはこのことだな。ふん、造作も…。』

エプシロン・リヴァ『お兄様!気を付けて!!』

スプ・リヴァ『えっ…。』

 

特設リングの側面に張り付いたクランケンシュタインがスプ・リヴァの足を掴んで引っ張り、特設リングの外へ投げ飛ばす。水面に落ちるスプ・リヴァ。

 

クランケンシュタイン『言ったはずですよ。場外ではなく、地面に落ちたら負けと。あ、今は水面でしたね。』

 

水しぶきが上がり、特設リング上に立つクランケンシュタイン。エプシロン・リヴァは顔を真っ赤にして、駆け、旗艦のリヴァの舵を取る。

 

スプ・リヴァの配下A『あ、エ、エプシロン様!』

エプシロン・リヴァ『ええい、どけ!』

 

旗艦のリヴァが勢いよく進み、バランスを崩すスプ・リヴァの配下たちとクーマン・ベアード達。特設リングの横に旗艦のリヴァが付き、特設リング上に立つエプシロン・リヴァ。

 

エプシロン・リヴァ『卑怯だぞお前ーーーー!』

 

エプシロン・リヴァは顔を真っ赤にしてクランケンシュタインを指さし、砂煙を上げて突進する。横に勢いよく飛び上がり避けるクランケンシュタイン。水面から顔を出すスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『止めろ!』

 

スプ・リヴァの方を向くエプシロン・リヴァ。

 

エプシロン・リヴァ『へ、え、に、兄様。』

スプ・リヴァ『ははは、私の負けだ。完全に油断した、彼は水面にはついていない。』

 

特設リングの端でエプシロン・リヴァは止まろうとするが、前のめりになりながら、両手を不規則に動かして水面に落ちる。水しぶきが上がり、エプシロン・リヴァを抱き留めるスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『…まったくお前はおっちょこちょいだな。』

 

スプ・リヴァを暫く見つめ、顔を赤くするエプシロン・リヴァ。特設リングの上に上がるスプ・リヴァとエプシロン・リヴァ。スプ・リヴァはクランケンシュタインに向けて一礼する。

 

スプ・リヴァ『いや、今日は非常に面白い日だった。これからもよろしく頼む。』

 

クランケンシュタインの前に手を出すスプ・リヴァ。

 

クランケンシュタイン『是非ともこれを機会に仲良くしていきたいものです。』

スプ・リヴァ『こちらこそ。』

 

特設リングの上にで握手するスプ・リヴァとクランケンシュタイン。歓声が上がる。

 

スプ・リヴァの館に背を向けるクランケンシュタイン達。ハイデイルがクランケンシュタインの方を向く。

 

ハイデイル『あのスプ・リヴァを倒すなんて素敵です。ますます好きになっちゃいそう。』

 

苦笑いするクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…まあ、次の手合せでは警戒してくるからこうはうまくいかないだろうが。』

 

クランケンシュタインを見つめるイナフォ。

 

イナフォ『…あんたのことがだんだん恐ろしくなってきたよ。』

 

クーマン・ベアードがクランケンシュタインの方を向く。

 

クーマン・ベアード『…貴公はクレール砂漠に行ったことがあったと言ったが…あそこは交易路でもない何もないただの小石の様な土地。』

クランケンシュタイン『…まあ、世の中には物好きな商人もおりましてね。特にサボテン酒は美味しいですよ。』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『しかし、その割には随分と戦いなれていたようにも見受けられたが。』

 

暫し間。

 

クランケンシュタイン『……まあ、指導者が良かったんですかね。』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

C7 勝負 END

C8 変化

 

セレノイア王国王都セレノイアのセレノイア城玉座の間。玉座に座るミソン。左側に立つ人間議員達と右側に立つ獣人・亜人の議員達。人間議員の一番端に立つクランケンシュタイン。赤絨毯の上を左目を閉じながら歩くセレノイア王国徒手組副総裁で栄養剤の販売人組合の元締め赤マムシ人のソーロウ。彼はミソンの前に立ち、両眼を閉じて跪き、頭を下げて舌を出す。

 

ソーロウ『私、徒手組副総裁ソーロウと申します。我ら徒手組、シラクーザ獣人領、モングの不穏な動きがありまして今のところ、総裁アイコニノニイ・ジャアクを始めとした主だった徒手組の者達は国境上で身動きをとることができません。』

カルデハイフン『嘘を言え、どうせ地下で女相手に酒でも飲んでいるんだろうが!』

人間議員達『そうだそうだ!』

 

ミソンは人間議員達の方に掌を向ける。

 

ミソン『…私は王として新参者だが、セレノイアが捨て地であり、我々の為に幾多の血が流されたのは知っている。私は戦の素人だ。君たちが居て助かる。国境を守る激務に王が謝意を示していたと伝えてくれ。』

ソーロウ『はは。』

 

両目を瞑り、立ち上がり、ミソンに一礼するソーロウ。

 

ソーロウ『では、務めあがあるのでこれにて。』

 

ソーロウは王に背を向け、右目を閉じて去って行く。ソーロウを睨み付ける人間議員達。カルデハイフンが一歩前に出る。

 

カルデハイフン『身動きが取れない?徒手組の人出は居るはず、それを一人か二人でもこの場にだせばいいことではありませんか!それを出さぬとは謀反も同然!即刻処罰を!』

人間議員達『処罰を!』

 

ミソンはため息をつく。

 

ミソン『彼らにも彼らなりの考えがあるのだよ。』

 

舌打ちするカルデハイフン。

 

 

セレノイア王国セレノイア城廊下を歩くクランケンシュタインの横に人間議員のリオンフレッシュが寄る。リオンフレッシュの方を向くクランケンシュタイン。

 

リオンフレッシュ『クランケンシュタイン君。君は最近なにやら亜人・獣人議員と付き合っているそうじゃないか。』

 

眉を顰めるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『それが?』

リオンフレッシュ『…カルデハイフン殿に睨まれるぞ。』

クランケンシュタイン『結構、どう動こうと私の勝手です。』

 

眉を顰めるリオンフレッシュ。彼ははクランケンシュタインの肩に手を回し、引き寄せると耳打ちする。目を開くクランケンシュタイン。

 

リオンフレッシュ『あまり剛直な態度は良くないな。』

 

クランケンシュタインを離すリオンフレッシュ。リオンフレッシュはクランケンシュタインに背を向けて去って行く。

 

 

セレノイア王国王都セレノイア。クディル湖へ向かうクーマン・ベアード、スプ・リヴァにハイデイル、イナフォ。イナフォはスプ・リヴァの方を向く。

 

イナフォ『…まあ、うん。何であんたがいるの?』

スプ・リヴァ『いて悪いのか?』

 

イナフォは両手を前に出して首を横に振る。

 

イナフォ『いえいえ、そんなことち~っとも感じてませんよ。』

 

クランケンシュタインはクーマン・ベアードの方を向く。

 

クランケンシュタイン『…人間議員も捨てたものではありませんね。上層部が腐っているということは分かっている。』

クーマン・ベアード『ほう、それは初耳だな。』

 

クランケンシュタインは空を見上げる。

 

クランケンシュタイン『いえ、人間議員のリオンフレッシュという男が私に、策を弄するなら目立たぬようにやれと耳打ちを。』

 

クーマン・ベアードはクランケンシュタインを見つめる。

 

クーマン・ベアード『貴公の動きを見て接触してきたに違いない。』

イナフォ『人間様が?なんか罠じゃねえの?』

クーマン・ベアード『そうかもしれない。』

クランケンシュタイン『し、しかし、私を突き放して悪態をついたようにしか周からは見えなかったと思います。』

 

頷くクーマン・ベアード

 

クーマン・ベアード『ともかく警戒するにはこしたことはない。油断大敵だからな。なあ、スプ・リヴァ殿。』

 

頷くスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『ああ。』

 

クーマン・ベアードはクランケンシュタインを見つめる。

 

クーマン・ベアード『ともかく、いまはできることをやるまでだ。』

 

クランケンシュタインは頷き、クディル湖を見つめる。

 

クランケンシュタイン『…水軍三家のジャト。いったいどんな男なのか。』

 

クーマン・ベアード『見た目はガキだ。』

イナフォ『そうそう短パンが似合いそうなな。』

ハイデイル『ただのクッソ生意気なガキですよ~。』

スプ・リヴァ『まあ、確かに見た目は子供だが…。』

 

ハイデイルとスプ・リヴァを見つめるクランケンシュタイン。イナフォがクディル湖に近づく。

 

イナフォ『しっかし、ジャトはどこに住んでるんだ?さっきから館がまったく見えないが。』

ハイデイル『あ、それはそうです。』

 

ハイデイルはイナフォの背中を押す。バランスを崩すイナフォ。

 

イナフォ『な、何すんだお前!』

ハイデイル『え、だってジャトの館は湖の中なんですもん。』

 

眉を顰めるイナフォ。

 

イナフォ『お前、こうだから友達いないんだよ。』

 

水面に波紋が広がる。水面の方を向くクランケンシュタイン達。

 

声『おいてけ~、おいて…。』

 

機械音。

 

ジャトの声『あっ、間違えた。えっと、このボタンだったっけか?』

声『お前が落としたのはこの金…。』

ジャトの声『ああ、これでもない。ああ、もうめんどくさい!』

 

機械音。波紋が止み、顔を見合わせるクランケンシュタイン達。水面から顔を出し、緑色の八重歯を光らせる童顔のニクスでセレノイア王国の議員ジャト。

 

ジャト『あ、騒がしいと思えば何だ、王の従者に熊さんにスプ・リヴァ様と手羽先に変態か。』

 

苦笑いしてイナフォの方を向くハイデイル。

 

ハイデイル『相変わらず酷いなあ。ぷんぷん。ねえ、イナフォさんのことを手羽先の上に変態なんて。』

 

イナフォはハイデイルの方を睨む。

 

イナフォ『手羽先は俺だが変態はおめえだよ!』

ジャト『人ん家の敷地で手羽先と変態が乳くりあって騒ぐのやめてくんない。やかましくて寝れやしないよ。青少年に健全じゃな~い!』

 

ジャトを睨み付けるイナフォ。顔を赤らめて頬に両手をあてるハイデイル。イナフォはハイデイルを指さす。

 

イナフォ『乳くりなんかやってねえよ!あの変態と一緒にするな!!』

 

ジャトはクランケンシュタインの方を向く。

 

ジャト『ところで、何の用?』

クランケンシュタイン『私、王の従者のクランケンシュタインと申します。』

ジャト『知ってるよ。それで、何なの。』

クランケンシュタイン『実は、ジャト様と好を結びたいと思いまして…。』

 

目を見開くジャト。

 

ジャト『王の従者が、僕と好を。』

 

クディル湖から出るジャト。

 

ジャト『やった、じゃ、頼みたいことがあるんだ。』

クランケンシュタイン『えっ?』

 

ジャトはクディル湖の方を向く。

 

ジャト『ま、話は中で。』

 

指を鳴らすジャト。水面が揺れ、現れるジャトの館。

 

ジャト『来て来て。』

 

ジャトに付いていくクランケンシュタイン達。

 

 

ジャトの館。応接間。椅子に座るクランケンシュタイン達とジャト。ジャトはクランケンシュタインを見つめる。

 

ジャト『ねえねえ、王と近しい間柄なんでしょ。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『それで、ジャト様が私に頼みたいことというのは。』

 

深く頷くジャト。

 

ジャト『うん。酒場を作ってよ。』

 

首を傾げるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『酒場?酒場ならセレノイア王国の至る所にあるではありませんか?』

 

首を横に振るジャト。

 

ジャト『違う違う。』

 

机を叩くジャト。

 

ジャト『あんなんただのぼったくりバーが横行してるだけだよ!』

 

頷くクーマン・ベアードの方を向くクランケンシュタイン。

 

クーマン・ベアード『確かに、人間議員の後ろ盾がある酒場は高く、そして、徒手組傘下の酒場もやはり高い。』

 

目を見開くクランケンシュタイン。

 

クーマン・ベアード『人間議員も徒手組も法外なみかじめ料をとっているからな。』

 

クーマン・ベアードの方を向き、頷くジャト。

 

ジャト『で、取るもん取る割には、衛生管理もなってないだろ。誰が開けたか分からないボトルとか出すし。で、良心的な値段の健全な酒場が欲しいんだよね。そこで、国王直轄の酒場作ってくれないかな~。』

 

ジャトはクランケンシュタインに向けて手を合わせる。

 

ジャト『ね、お願いお願い。』

 

腕組みをするクーマン・ベアード。

 

ジャト『それに、僕らの会合の場所にもなれるしさ。折角、好を結ぶんだし、欲しいでしょそういった場所。』

 

口角を上げるジャト。

 

ジャト『ね、ね。』

クランケンシュタイン『…国王直轄の酒場を作るにも、国王の許可と場所、運営する人物、資金が必要です。』

クーマン・ベアード『場所は俺が提供しよう。』

 

クーマン・ベアードの方を向く一同。

 

クーマン・ベアード『セレノイア王国にサーカス熊館という別荘がある。そこをやろう。我々には密談の場所が必要だ。』

ジャト『よし!…もっといいネーミングなかったの?』

 

ジャトはスプ・リヴァとハイデイルの方をそれぞれ向く。

 

ジャト『お金は…。』

ハイデイル『出しますよ。』

 

頷くスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『のった。ただ、できれば風呂が欲しい。』

ハイデイル『まあ、それはなんとかなるのでは?』

 

頷くジャト。

 

ジャト『我々、水軍三家がお金は用意するよ。』

クーマン・ベアード『あとは運営する者か…。』

 

イナフォの方を向く一同。瞬きしながら立ち上がるイナフォ。

 

イナフォ『お、おいおい。俺に人を探せってのかい!』

 

机を叩くイナフォ。

 

イナフォ『冗談じゃない!俺に人探せって!あんたら、いくら国王の後ろ盾があるとはいえ、人間にも徒手組にも逆らいながら酒場運営する物好きなんてこのセレノイアにいると思うのか!!?』

 

顔を見合わせる一同。立ち上がるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…ある。一人だけ心当たりが。』

クーマン・ベアード『本当か?』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『ただ…あと二日でこのセレノイアから居なくなる。』

ハイデイル『なっ。』

ジャト『じゃ、その人に任せればいいんだね。』

 

周りを見回すクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『しかし、あと二日でそいつを見つけなければならないぞ。無論、住所は知っているんだろうな。』

 

首を横に振るクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…いえ。』

 

頭を抱えるジャト。

 

クランケンシュタイン『名前はドクガ、ソプランドー酒場の元ホステスです。』

クーマン・ベアード『…ならばしらみつぶしに探すしかないな。』

 

C8 変化 END

C9 義兄弟

 

セレノイア王国王都セレノイア、セレノイア城国王執務室。扉が開き、一礼するクランケンシュタイン。窓は黒く染まり、椅子に座るミソンはクランケンシュタインの方を向く。

 

ミソン『随分と遅かったね。』

クランケンシュタイン『は、はい。申し訳ありません。こんな夜更けまで…。』

ミソン『はは、たいしたことはないよ。カルデハイフン殿からは君の悪口をしょっちゅう聞かされてるがね、右から左へポイだ。』

 

クランケンシュタインはミソンに向けて深く頭を下がる。クランケンシュタインの方を向くミソン。

 

ミソン『そんなに改まらなくてもいいよ。顔を上げて。』

 

顔を上げ、微笑むミソンの顔を見つめるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…何か嬉しい事でもあったので?』

 

頷くミソン。

 

ミソン『分かる。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

ミソン『実は叔父殿にご子息が生まれた。』

クランケンシュタイン『なんと!』

 

跪くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『おめでたい事でございます!』

ミソン『相変わらず固いな~。君は。そこで明日、ゼムド王国へ行くことにした。無論君も連れてね。』

 

目を見開くクランケンシュタイン。暫し、沈黙。クランケンシュタインを見つめるミソン。

 

クランケンシュタイン『はっ!喜んでお伴させていただきます!』

 

 

ゼムド王国ムライト城へ向かう、セレノイア王国国王専用巨大リムジン。リアガラスの方を何回か向くクランケンシュタイン。ミソンはクランケンシュタインを見つめる。

 

ミソン『はは、そんなにセレノイアが気に入ったかい?』

 

クランケンシュタインは目を見開いてミソンの方を向く。

 

クランケンシュタイン『い、いえ、そうではなくて…。』

ミソン『カルデハイフン殿から聞いたよ。随分と愉快な友人を作っているとか。』

 

クランケンシュタインは下を向いて頷く。

 

クランケンシュタイン『あ、は、はい。』

 

セレノイア王国国王専用巨大リムジンがムライト城の城門前に止まる。降り立つミソンとクランケンシュタイン。

伸びをするミソン。

 

ミソン『久しぶりだな~。』

 

ムライト山に立つムライト城を見上げるミソンとクランケンシュタイン。

 

 

ムライト城玉座の間。玉座の間に座るゼムド王、その横に座るゼムド王の息子で乳飲み子ヴィクトリーを抱くルーイン。跪くミソンとクランケンシュタイン。

 

ミソン『ご子息誕生、誠嬉しい事でございます!』

 

頬杖をついて頷くゼムド王。顔を上げるミソン。

 

ミソン『では、ヴィクトリー王子の顔を拝見。』

 

ルーインの傍らに寄り、ヴィクトリーを見つめるミソン。ミソンは両手で顔を覆い、手を離して舌を出す。

 

ミソン『どおら、それべろべろばー。』

 

笑うヴィクトリー。顔を上げミソンを見て微笑むクランケンシュタイン。目を細めミソンを見つめるゼムド王。

 

ムライト城を背にして去るセレノイア王国国王専用巨大リムジン。クランケンシュタインはムライト城の方を見つめる。ため息をつくミソン。ミソンの方を向くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『どうかされたので?』

 

ミソンは頬杖をつく。

 

ミソン『ヴィートリフのことが心配だな。あいつはあれで粗野なところがある。王に子供が生まれたことで、王位継承権をはく奪されたことで怒り狂っているんじゃないかとね。あいつは僕なんかと違って優秀だからね。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

 

セレノイア王国王都セレノイア、サーカス熊館の扉を開けるクランケンシュタイン。集まるクーマン・ベアード、スプ・リヴァにジャト、ハイデイルにイナフォ。クーマン・ベアードはクランケンシュタインの方を向く。

 

クーマン・ベアード『明日、その娘が発つというのに間が悪い事だ。』

 

イナフォが首を横に振る。

 

イナフォ『こんな短期間じゃ無理無理。何処に泊まったかまではわかりゃしねえぜ。ただ、そのドクガって娘が居たアパートまでは突き止めたんだけどね。どうやらロメン帝国方面へ向かうらしい。』

クランケンシュタイン『ロメン帝国…。』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『ロメン帝国も広いからな、陸、海、空…何処を使うか分からん。』

イナフォ『金が無ければ、列車を使うんじゃねえか。』

クーマン・ベアード『まあ、我々が主だった港、空港、駅で待ち伏せするしかあるまい。』

 

イナフォはドクガの映った写真を数枚取り出す。

 

イナフォ『ああ、それでこれがドクガちゃんね。』

 

イナフォから写真を受け取る一同は暫し、写真を見つめる。

 

イナフォ『それにしても美人だよな~。』

 

クランケンシュタインの方を向くイナフォ。

 

イナフォ『こんな娘と知り合いになるなんて、クランケンシュタインの旦那は手が早いんだから。』

 

顔を真っ赤にするクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『ち、違う!』

 

笑い出す一同。

 

 

早朝。セレノイア王国セレノイア駅。プラットフォームに立つクランケンシュタイン。彼は時計とプラットフォーム内を何回か見る。キャリーバッグを持って現れるドクガ。目を見開いてドクガの方を向いて駆け寄るクランケンシュタイン。目を見開くドクガ。

 

ドクガ『あなた様は…。』

クランケンシュタイン『お話があります!』

 

クランケンシュタインはドクガの手を引っ張り、階段の下まで連れていく。ドクガはクランケンシュタインの手を振り払う。

 

ドクガ『いきなり失礼でしょう!』

 

ドクガはクランケンシュタインの方を見つめ、口に手を当てる。

 

ドクガ『あっ…。』

 

クランケンシュタインに頭を下げるドクガ。

 

ドクガ『も、申し訳ありません!』

 

ドクガの方を見つめ、頭を下げるクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『こちらの方こそ申し訳ありません。貴女を強引に…。』

 

首を横に振るドクガ。

 

ドクガ『いいえ。』

 

暫し、見つめあう二人。ドクガが口を開く。

 

ドクガ『それで話というのは?』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『実は貴女にお願いがあるのです。』

 

首を傾げるドクガ。

 

ドクガ『私なぞに…。』

 

 

セレノイア王国王都セレノイア、サーカス熊館。集まるクーマン・ベアード、スプ・リヴァにジャト、ハイデイルにイナフォ。クランケンシュタインの隣にはドクガ。ドクガは一同を見回す。

 

ドクガ『私を、国王直轄の酒場の店主に抜擢なさるということは本当ですか?』

 

頷くクーマン・ベアード。

 

クーマン・ベアード『ただ、残念なことは確定ではないということだ。』

 

喉を鳴らすドクガ。

 

ジャト『後は、王との交渉次第。』

 

ハイデイルが一歩前に出る。

 

ハイデイル『成功しても、失敗しても私達はずっとこの関係をつづけていきましょうよ。その証として義兄弟の契りを今、この場で結びましょう。』

 

頷くクランケンシュタイン、スプ・リヴァ、ジャトにイナフォ。

 

クーマン・ベアード『俺はいい。もう義兄弟という歳ではないからね。』

ドクガ『…私も。義兄弟になってしまったら…。』

 

顔を赤らめて下を向くドクガ。窓から月明かりが、盃を前に座るクランケンシュタイン、ハイデイル、スプ・リヴァにジャトを照らす。彼らを見つめるクーマン・ベアードとドクガ。

 

クランケンシュタイン『どんな艱難辛苦があろうとも我らの絆は綻ばぬ!証としてこれより義兄弟の契りを結ばん!』

一同『おー!!』

 

 

セレノイア王国国王執務室の扉を開けるクランケンシュタイン、後ろに立つドレスを着たドクガ。背後にはクーマン・ベアード、ハイデイル、スプ・リヴァ、ジャト、イナフォが立つ。

 

クランケンシュタイン『失礼します!』

 

セレノイア国王執務室に入るクランケンシュタイン達。ミソンは瞬きして、クランケンシュタイン達の方を見た後、ドクガの方を向いて立ち上がり、クランケンシュタインの傍らに寄る。

 

ミソン『…いつの間にこんなカワイ子ちゃんを落としたんだい?』

 

目を見開くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『え、あ、いや、これは…。』

 

微笑むミソン。

 

ミソン『君も大人になったものだ。それでけ…。』

 

咳払いをするクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『いえ、今日は王に提案があって参りました!』

 

ミソンはクランケンシュタインを見つめる。

 

ミソン『提案?君が珍しい。』

クランケンシュタイン『はい、実は…国王直轄の酒場を作りたいのです。』

 

目を見開いてクランケンシュタインを見つめた後、笑い出すミソン。

 

ミソン『…えっ、ぷっ!ははははははは!あっははははははは!!!』

 

腹を抱えて笑い転げるミソン。クランケンシュタインはミソンの傍らに寄る。

 

クランケンシュタイン『お、王…。』

ミソン『あはははは。いや~まさか、真面目な君からね。真面目な君が酒場を作りたいと言い出すなんて!あはは、ぷぷっ!!』

 

眉を顰め頬を膨らますクランケンシュタイン。立ち上がり、クーマン・ベアード達に手を振るミソン。

 

ミソン『いや~すまないね。もうちゃんちゃら可笑しくて。分かった分かった。認可状と契約書を出そう。国王直轄の大衆酒場、中々面白いじゃないの。』

 

顔を見合わせ、笑顔になる一同。

 

C9 義兄弟 END

C10 暗雲

 

セレノイア王国王都セレノイア、セレノイア国王直轄ドクガの酒場。テラスから外を見るクランケンシュタインとイナフォ。イナフォは頬杖をついてクランケンシュタインの方を向く。

 

イナフォ『やっぱり、客は集まんないなあ。デビュー日だっていうのに。』

クランケンシュタイン『仕方ないさ。ここを作る代わりに、王は宣伝行為は一切しないとカルデハイフン達に譲歩したんだから。』

イナフォ『そうか。でも、王の宣伝が無いのはいたいなぁ。折角の国王直轄なのに…。』

 

イナフォはため息をついて、ドクガの酒場の内部を見る。

 

イナフォ『人間や徒手組との衝突を恐れて働き手はあんまり集まらないし、このまま赤字なら…。』

 

靴音。ドクガの酒場に向かう人間の剣闘士集団達。眉を顰めるイナフォ。

 

イナフォ『うわあ、あれはやばいんじゃないか。』

クランケンシュタイン『カルデハイフンの手のものかもしれないな。』

 

歯ぎしりするクランケンシュタイン。彼らはテラスから内部へ入っていく。

 

人間の剣闘士A『ここは国王直轄の安い酒場らしいぜ。』

人間の剣闘士B『そうか、あっちで酒を飲んじまったら干からびちまうよ。』

 

ドクガの酒場の扉を開ける剣闘士達。二階から一階を見つめるクーマン・ベアード、クランケンシュタインにハイデイル、スプ・リヴァとジャト、イナフォ。ドクガがカウンターから出て頭を下げる。

 

ドクガ『いらっしゃいませ。』

 

人間の剣闘士達は周りを見回す。

 

人間の剣闘士C『ほう、随分と洒落たところじゃねえか。』

人間の剣闘士D『ちょっと、格式が高くないか?俺らが行ったことのある酒場なんぞより洒落てるぜ。』

 

人間の剣闘士Aはドクガを見つめ、顎に人差し指を当てる。

 

人間の剣闘士A『中々、美人じゃないか。』

 

ドクガは人間の剣闘士Aを見つめる。人間の剣闘士Aは周りを見回す。

 

人間の剣闘士A『随分と空いてるな。好きな席に座っていいぞ。』

 

ドクガは一歩前に出て人間の剣闘士Aを見上げる。

 

ドクガ『…こちらが指定した席にお願いします。』

 

ドクガを見下ろす人間の剣闘士A。

 

人間の剣闘士A『ほう…。こんなに空いているのにか?』

ドクガ『後々、お客様が来るかもしれませんので。』

 

大笑いする人間の剣闘士達。

 

人間の剣闘士A『分かった。初回だし、お嬢さんに従おう。』

 

一礼するドクガ。では、こちらへ。ドクガに指定された席に座る人間の剣闘士達。黒地に青いストライプの入ったフードを被り、顔を覆った男が入ってくる。ドクガは彼に駆け寄り、一礼して誘導する。

 

メニューを開く人間の剣闘士達。暫し、沈黙。ざわめきが巻き起こる。

 

人間の剣闘士B『おいおい、これ三分の一だぜ。』

 

口角を上げてクランケンシュタインを見つめるジャト。

 

ジャト『ロメン帝国、シェプスト国、ゼムド王国では適正価格ですよ~だ。』

 

頷くクランケンシュタイン。笑顔になる人間の剣闘士達。

 

人間の剣闘士A『よし!じゃんじゃん頼むぞ!!』

 

歓声を上げる人間の剣闘士達。

 

 

剣闘士達『

 

俺たちゃ 剣闘士 剣闘士 剣闘士

 

俺たちゃ 剣闘士 剣闘士 剣闘士

 

剣闘士

 

朝から晩まで 打ち合って 

 

猛獣 魔物もなんでも来い

 

鍛えた体で低賃金… 』

イナフォ『結構、盛り上がってるじゃない。』

ジャト『まあ、今のところ…人間の剣闘士しか来ていないけどね。』

 

人間の剣闘士Dの胸ぐらを掴む人間の剣闘士C。

 

人間の剣闘士C『何だと!お前!!』

 

暫し沈黙。階段から駆け降りるクランケンシュタイン達。黒地に青いストライプの入ったフードを被り、顔を覆った男が人間の剣闘士Cの腕を掴む。

 

人間の剣闘士C『あ、なんだテメェ。』

黒地に青いストライプの入ったフードを被り、顔を覆った男『君がもしここで暴動を起こせば、この酒場は閉鎖され、適正価格で酒が飲めなくなるぞ。それでもいいならどうぞ。』

 

顔を見合わせる剣闘士達。

 

人間の剣闘士A『そりゃ、困るぜ。人間議員の意気に入りは別にいいかもしれないが、俺らみたいな場末の剣闘士は金欠のままだ。せめて酒くらいはなあ。』

 

人間の剣闘士Aは人間の剣闘士Cを見つめる。人間の剣闘士Dから手を離す人間の剣闘士C。

 

人間の剣闘士C『あ、ああ、すまねえすまねえ。酒に酔うとついこれだ。つい頭に血が上っちまってよ。これからは気を付けるよ。』

 

人間の剣闘士Cはドクガの方を向く。

 

人間の剣闘士C『な、女神さん。』

 

顔を赤らめるドクガ。人間の剣闘士Cの肩に腕をかける人間の剣闘士D。

 

人間の剣闘士D『おいおい、なにどさくさに紛れて口説いてるんだ。』

 

頭を掻く人間の剣闘士C。笑い声。

 

剣闘士達『

 

俺たちゃ 剣闘士 剣闘士 剣闘士

 

俺たちゃ 剣闘士 剣闘士 剣闘士

 

剣闘士… 』

 

クランケンシュタイン達の傍らに寄る黒地に青いストライプの入ったフードを被り、顔を覆った男。クランケンシュタインは頭を下げる。

 

クランケンシュタイン『申し訳ない。』

 

黒地に青いストライプの入ったフードを被りった男はマスクをずらす、現れるリオンフレッシュの顔。

 

クランケンシュタイン『あなたは…。』

リオンフレッシュ『本当にめちゃくちゃやるな君は。』

 

微笑むリオンフレッシュ。

 

リオンフレッシュ『二階でも飲めるんだろ。僕がここにきてることがばれたらどやされるからさ。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

ドクガの酒場二階。椅子に座るクランケンシュタイン達とリオンフレッシュ。リオンフレッシュはメニューを見る。

 

リオンフレッシュ『じゃ、カシスオレンジで。』

クランケンシュタイン『ビールがありますよ。』

リオンフレッシュ『僕は甘党なんだよ。』

 

クーマン・ベアードが腕組みする。

 

クーマン・ベアード『…偵察か?』

 

クーマン・ベアードの方を向くクランケンシュタイン。リオンフレッシュは目を閉じる。

 

リオンフレッシュ『警戒するのも無理はない。私は人間、あなた方は亜人・獣人。長い間、反目してきた仲だ。』

クーマン・ベアード『カルデハイフンの策なのでは?』

 

笑い出すリオンフレッシュ。

 

リオンフレッシュ『あなた方は勘違いしておられる。カルデハイフンとその取り巻きたち大の亜人・獣人嫌い。いくら策といえど亜人・獣人と触れ合うのを嫌悪する。』

 

ドクガがリオンフレッシュにカシスオレンジを持って来る。会釈して受け取るリオンフレッシュ。彼はストローでそれを飲んだ後、クランケンシュタインの方を見つめる。

 

リオンフレッシュ『そうそうクランケンシュタイン君。気を付けた方がいい。今回の酒場の件…カルデハイフンは君を人間議員達だけで問い詰めるつもりだ。場所は…そうソプランドーの酒場。日にちは明後日。気を付け給えよ。僕は表立っては君をかばえないから。』

 

顔を見合わせるクランケンシュタイン達。

 

 

セレノイア王国ソプラウンドー酒場。クランケンシュタインを取り囲むカルデハイフンを筆頭とする人間議員達。

 

カルデハイフン『クランケンシュタイン!貴様、新参者の分際で何をしたか分かっているのか?』

 

クランケンシュタインはカルデハイフンを見つめる。

 

クランケンシュタイン『はて、何の事でございましょう。』

カルデハイフン『…貴様は亜人・獣人議員と好を結んだ。』

クランケンシュタイン『友好を結ぶことに何の咎がございましょう?』

 

顔を真っ赤にするカルデハイフン。

 

カルデハイフン『挙句の果てには、国王直轄の酒場など作りおった!貴様が酒場を作ったせいで、既存の酒場は迷惑をしているのだぞ!』

クランケンシュタイン『…あなたがたが法外なみかじめ料を取るのが悪いのではないですか!おかげで、適正価格を逸脱し、剣闘士連中は泣いている!』

 

蟀谷に血管を浮き出させるカルデハイフン。

 

カルデハイフン『む、む、む貴様…。』

クランケンシュタイン『それにこれは懲罰委員会で、全議員の前で行うこと。人間議員達の一存では決められない筈では?』

カルデハイフン『むむむ。生意気なガキが!貴様、我々を敵に回してただで済むと思うのか!貴様なぞ、どのようにでも切り刻めるわ!たかが王の従者が生意気に!!』

 

扉の勢いよく開く音。扉の方を向く一同。扉からはセレノイア王国の議員でライオン獣人のオラオンが現れる。

 

オラオン『先ほどから何をしている!』

 

隣の部屋からカルデハイフンの顔を見るクーマン・ベアード。

 

カルデハイフン『オ、オラオンにクーマン・ベアード…ぎ、議員。なぜここに…。ここは獣や亜人等は御法度の…。』

オラオン『メルミン王国のスカートー将軍とトーサツ副将、及びルソタソ王国のハンザイサ将軍のご所望いただいた接待だ!その席の隣でなんと見苦しい事を行っている!こちらまで丸聞こえだぞ!』

 

隣の部屋からクランケンシュタインとカルデハイフン達の方を向くメルミン王国の女将軍でセーラー服アーマーを装備したスカートーとカメラを眼に装着した副将のトーサツ、そしてルソタソ王国の将軍でボンテージアーマーを着たエントのハンザイサ。

 

カルデハイフンは目を見開く。隣の部屋に駆けていくカルデハイフン。

 

カルデハイフン『こ、これは見苦しいところを。じ、実は、新人議員が少し、ミスを致しまして…。』

 

クランケンシュタインの方を睨み付けるカルデハイフン。

 

カルデハイフン『分かったか。もう、するんじゃないぞ!分かったらさっさと行け、行け!』

 

カルデハイフンはスカートにトーサツ、ハンザイサに首を垂れる。

 

カルデハイフン『申し訳ありません。しかし、こちらに行って下さればよかったのに。』

スカートー『私はどこでもよかったのだがな。』

 

スカートーはハンザイサの方を向く。

 

スカートー『この変態がどうしてもここへと。』

ハンザイサ『いや~、以前忍んで来たときは全く入れてくれなかったので、今回はどうなるものかと。ははははは。』

 

酒をすすり、クランケンシュタインの方に瞳を向けるリオンフレッシュ。クランケンシュタインは一礼する。

 

クランケンシュタイン『それではこれにて。』

 

去って行くクランケンシュタイン。

 

 

セレノイア王国、セレノイア城。城門を潜り、廊下を渡るクランケンシュタインは転ぶ。足元を見るクランケンシュタイン。月明かりに照らされる、赤黒い染み。クランケンシュタインは飛び上がり、照明をつける。周りに散らばる、セレノイア王国兵士たちの死体。血糊が付いた、壁と床。

 

クランケンシュタイン『く、曲者だ!曲者だーーーーー!!』

 

駆け出すクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『曲者だ!曲者だーーーーー!!』

 

クランケンシュタインはセレノイア王国国王執務室の扉を蹴る。扉の割れる音。

 

クランケンシュタイン『主様!!!』

 

照明をつけるクランケンシュタイン。黒い頭巾を被った者達が窓から飛び去って行く。血に染まる執務室。腹部から大量の血を流し、倒れているミソン。クランケンシュタインはミソンに駆け寄る。

 

クランケンシュタイン『主様!主様!!』

 

ミソンを揺するクランケンシュタイン。目を開けるミソン。クランケンシュタインは呪文を唱え、光る手をミソンの腹部に当てる。

 

ミソンは目を開け、クランケンシュタインの方を向いた後、クランケンシュタインの頭に触る。

 

ミソン『初めて…触らせてくれたね。』

 

目を見開くクランケンシュタイン。

 

ミソン『君は…こんな痛い思いまでして…。それなのに僕は…今まで僕の為にありがとう。』

 

ミソンを見下ろすクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『俺は…あんたを利用してのし上がってやろうとしたんだ。』

 

笑みを浮かべるミソン。

 

ミソン『そっか、じゃあ、こんな役立たずで能無しな僕でも少しは君の役に立てたんだ…。』

クランケンシュタイン『えっ…。』

ミソン『なら、良かった…。』

 

眼を閉じるミソンの顔を見つめるクランケンシュタイン。彼の両目からは涙があふれ出る。

 

クランケンシュタイン『主様!主様!!』

 

クランケンシュタインは涙を流しながら呪文を唱え続ける。国王執務室に駆けこんで来るセレノイア王国兵士達。

 

C10 暗雲

C11 背中

 

セレノイア王国王都セレノイア、セレノイア城議事堂。演壇に立ち、俯くクランケンシュタイン。カルデハイフンが立ち上がり、クランケンシュタインを見て鼻で笑う。

 

カルデハイフン『この度、遺憾ながら国王が暗殺された。犯人は現在調査中である。そして、今、講壇に立つこの者は、王の従者にも関わらず、現場でただ泣くだけで犯人を追いかけなかった。』

 

項垂れるクランケンシュタイン。

 

カルデハイフン『王の従者でありながら、主を救えないとはまこと遺憾。セレノイア王国にしても大きな痛手だ。』

 

舌打ちするスプ・リヴァ。

 

スプ・リヴァ『兄上、すまん。こちらからは何も言うことはできぬ。』

 

歯ぎしりするハイデイル。眉を顰めるジャト、腕組みをするクーマン・ベアードに頭を抱えるイナフォ。

 

カルデハイフン『王の後を追い、生き恥をさらさず殉死するのが定めである。』

人間議員達『そうだ!殉死しろ!!』

 

顔を見合わせる亜人・獣人の議員達。

 

人間議員達『殉死!殉死!殉死!』

 

笑みを浮かべるカルデハイフン。扉が勢いよく開き、マントを靡かせて現れるケレンケン人で徒手組総裁のアイコニノニイ・ジャアクと副総裁のソーロウ。背後には徒手組の議員達が並ぶ。眼を見開くカルデハイフンと人間議員達。

 

アイコニノニイ・ジャアク『国王が暗殺されたと聞いて、急いではせ参じたが…。王が死んだにも関わらず、葬儀もせずに一議員の殉死を求めるとはいったいどういう道理か!』

ソーロウ『まっこと、非人道。人間議員が聞いてあきれますなぁ。』

 

徒手組の議員達の笑い声。眉を顰めるカルデハイフン。

 

カルデハイフン『黙れ!今まで、色々な集会に顔を出さず!どこをほっつき歩いておったのだ!肝心な時には居ずに!!』

 

首を振り、音を鳴らすアイコニノニイ・ジャアク。

 

アイコニノニイ・ジャアク『新王を迎えるとき、従者を議員にすると提案したのはどいつだ?ああ、それに我ら徒手組から護衛を出すという提案を却下したのは誰だったか!!?』

 

ソーロウが懐からテープレコーダーを取り出す。

 

ソーロウ『あのやりとりは録音してありますのでなぁ。』

 

青ざめるカルデハイフン。

 

アイコニノニイ・ジャアク『だいたい、人間議員がしゃしゃり出てこねば王は死ぬことも、この従者が咎に責められることもなかったのだろう?ああ?我が徒手組の精鋭兵士なら暗殺者どもなど一網打尽…。』

 

アイコニノニイ・ジャアクは亜人・獣人議員達の方を向く。

 

アイコニノニイ・ジャアク『そうであろう。我らの実力は貴公らが知る通り。だが、人間議員は却下した。さて、誰に咎があるのか?』

 

カルデハイフンは椅子に崩れ落ちる。

 

アイコニノニイ・ジャアク『それに、王が死んだとしても、またゼムドから来るのであろう。それならば、この男ほど適任の者はおるまい!殉死する必要がどこにあるのか!』

 

下を向き歯を食いしばるカルデハイフン。

 

アイコニノニイ・ジャアク『くっくっく、客層を取られた腹いせか?話は聞いているぞ。生憎、我ら徒手組の酒場は日々サービスの向上に努めておるのでな、リピーターが多くて多くて、客は減らぬは!ははははは。』

 

頭を抱えるカルデハイフン。

 

獣人議員A『そうだ!ジャアク氏の言うとおりだ!クランケンシュタイン議員に何の咎があろうか!』

獣人議員B『殉死反対!』

亜人議員A『ゼムドから王をまた迎えるなら彼は必要だ!』

亜人議員B『殉死反対!』

獣人議員C『徒手組の提案を却下した人間議員達にも責務はある!』

 

拳を振り上げる獣人・亜人議員達。

 

獣人・亜人議員達『殉死反対!』

 

顔を上げ、アイコニノニイ・ジャアクを見つめるクランケンシュタイン。

 

 

セレノイア王国議事堂から出ていく人間議員達。アイコニノニイ・ジャアクは議事堂に背を向け、マントをはためかせて出ていく。続く徒手組の議員達。アイコニノニイ・ジャアクに向けて頭を下げるクランケンシュタイン。アイコニノニイ・ジャアクはクランケンシュタインに背を向けたまま鼻で笑い、去って行く。席を外す亜人・獣人議員達。講壇の上に立ち尽くすクランケンシュタインの周りに集まるクーマン・ベアードにハイデイル、スプ・リヴァにジャトにイナフォ。

 

クーマン・ベアード『大丈夫だったか。』

ハイデイル『兄様!』

スプ・リヴァ『兄上、気をしっかり持って。』

ジャト『お兄ちゃんってば!』

イナフォ『兄貴、しっかりしろよ!助かったんだぜ。』

 

頷くクランケンシュタイン。

 

クランケンシュタイン『…主様は…死んだ。あんなに…あんなに大切な方だったのに私は私は!なんで…なんで…あんな。』

 

泣き崩れるクランケンシュタイン。俯くクーマン・ベアードにハイデイル、スプ・リヴァにジャトとイナフォ。

 

C11 背中 END

 

END


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択